咲き初めの夜

作者:犬塚ひなこ

●櫻に攫う
 夜の散歩中。ふと見上げた枝に、ちいさな桜の花が咲いていた。
 未だ枝ばかりの樹にたったひとつ、綻んだ花は春の訪れを感じさせる。手折ろうと思ったわけではないが青年は何となく桜の枝に手を伸ばした。
 しかし、そのとき――。
「何だ、これ!?」
 桜の木だったと思っていたそれが突如として枝葉を揺らし、伸ばされた青年の腕を絡め取った。攻性植物だ、と気付いた時には既に遅い。
 樹に身体を持ち上げられた青年は為す術もなく幹の内部に取り込まれてしまった。
 そして、根を地面から引き摺り出した桜の攻性植物はそれを脚代わりにして立ち上がる。まるでその姿は青年を攫っていくかのようだった。
「う……誰か、助け……」
 辛うじて口にした言葉は途中で途切れ、青年は意識を失った。
 そして、化け物と化した桜の樹は更なるグラビティ・チェインを求めて歩き出す。

●夜の丘にて
「何でも桜に攫われた男の人がいるんだってね、ノワさん」
 傍らのシャーマンズゴーストを見上げ、ブラン・バニ(トリストラム・e33797)は集った仲間達にも大変な事件が起こったのだと話した。
 ヘリオライダーの予知によると、小高い丘の上にあった一本の桜の樹が攻性植物となった。未だ花が咲いていない樹なのでそれまでは気に留めるものはいなかったが、偶然にも近くに青年が通り掛かった。
 そして、不幸にも攻性植物に取り込まれ宿主にされてしまったらしい。
「事件を知っていて放っておくわけにもいかない。皆も一緒に行ってくれるかい?」
 ブランは指先でくるりと白い髪を弄り、薄く笑む。仲間達に向けた視線には断られるはずがないと信じる思いが込められていた。
 そして、ブランは伝え聞いた敵の情報を語っていく。
「攻性植物は一体だけ。今はまだ丘の上で彷徨っているらしい」
 急ぎ現場に向かって戦いを仕掛ければ、敵は逃げることなく応戦してくる。
 普通に戦えば十分に勝てる相手だ。しかし、取り込まれた男性は攻性植物と一体化しており、普通に敵を倒すと一緒に死んでしまう。何とかして青年を救うには敵にヒールをかけながら戦わなければならない。
「ヒールを敵にかけても、ヒール不能ダメージが少しずつだけど溜まっていくんだ。癒しを続けながら粘り強く攻撃していけば彼を助けられるということだね。これで合ってるよね、ノワさん?」
 ブランは説明を続けながらシャーマンズゴーストに問う。
 すると、ノワさんは厳かな態度で静かに頷いた。うん、と微笑んだブランは青年を救うも救わないも自分達の選択次第だと告げた。
 長期戦を覚悟しなければならない為、攻性植物に寄生されてしまった青年を救うのは難しいだろう。だが、罪なき人を救ってこそケルベロスというもの。
「せっかくの素敵な夜だからね。悲しいことはない方が良いよ、きっと」
 何処か大人びた物言いでブランは双眸を細めた。
 その言葉に嘘はなく、少年の裡には戦場に向かう為の確かな決意が宿っていた。


参加者
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)
ブラン・バニ(トリストラム・e33797)
月守・黒花(黒薔薇の君・e35620)

■リプレイ

●花蕾
 小さな丘の上で、桜の枝が夜風に揺れた。
「もう、冬もおわりね」
 肌を撫でた風の冷たさは以前と比べて和らいでいる。翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)は幽かに呟き、向かう先を見つめた。
 風は既に止んでいるというのに樹は揺れ続けている。
 その理由はそれが攻性植物と化してしまっているからだ。桜の幹には其処に埋め込まれるような形で青年が囚われている。レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)は敵の姿を見据え、仲間に目配せを送った。
「取り込まれてしまった青年はきっと、小さな春の証に心を惹かれたのでしょうね」
「……もうすぐ咲けるのに、ね」
 レカの言葉に頷きを返し、アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848)は桜の枝先に瞳を向ける。其処には青年が惹かれたであろう薄い蕾が見えた。
 春の兆しそのものである蕾はとても愛らしい。けれど、と首を振ったアウレリアはぽつりと言の葉を零す。
「人に害を与えるならば――地に還さないと」
「綺麗なものに棘はあっても、命を狩る鎌はいらないわ」
 ええ、と答えたリシティア・ローランド(異界図書館・e00054)が身構えると、桜の攻性植物がケルベロス達の存在を認識した。
「やっときれいに咲けそうなのに君も大変だね」
 ブラン・バニ(トリストラム・e33797)は小さな笑みを浮かべて、おいで、と敵を手招く。するとシャーマンズゴーストのノワさんも戦闘態勢を取った。
 彷徨える桜の木は都市伝説にでもなりそうだ。そう感じたブランの傍ら、月守・黒花(黒薔薇の君・e35620)は闘志を燃やしていた。
「青年の無垢な命、散らすわけにはいきません。必ず助けましょう!」
 必ず、ともう一度紡がれた言葉には黒花の決意が籠っている。その通りだと同意した斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)は戦いの始まりを感じていた。
「蕾が綻び始めたばかりの桜花を刻むのは痛ましい限りですが、人々の血花を咲かせる訳には参りませんね」
 そう語る朝樹に並んだアイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)も近付いてくる桜をしかと捉えた。この桜を倒せば、まだ咲いてすらいない蕾を散らすことになる。けれど、とアイラノレは真剣な眼差しを向ける。
「取り込まれた方を見殺しにするわけにはいかないのです」
 あなたは咲かせてあげられない。
 凛とした声が響いた刹那、悪しき桜と番犬達の戦いの幕があがった。

●真夜中の攻防
 先手を取ったのは桜の樹だった。
 未だ枝ばかりの桜は魔力によって幻想の花を咲かせ、此方を惑わせようと狙う。
 危ない、と黒花が呼びかけた事によって即座にブランが前方に駆け、狙われたアウレリアの代わりに衝撃を受け止めた。
 アウレリアは少年に無理はしないでと告げ、雷杖を掲げる。
「――はじめる、よ」
 薄桃色の滲む白い髪を揺らしたアウレリアは紫の双眸に敵を映す。助けるよ、と付け加えた言の葉は気を失っている青年に向けられていた。
 うつくしく咲く桜のもとには、死体が埋まっている。
 ロビンはよく耳にする怪談を思い、このままでは根元ではなく中心に亡骸が埋もれてしまうと感じた。そんなもの、美しいはずがない。
「命は、奪わせない。それに、怪談はかたちなき闇に、ひそんでこそ」
 軽く地面を蹴りあげたロビンは夜の昏さに潜むようにして駆け、桜の樹との距離をひといきに詰める。視認すら出来ぬ一閃が敵を穿ち、枝を震わせた。
 そのまま敵から身を引いたロビンが射線をあける。其処に続いたリシティアが古代語魔法を紡ぎ、指先を樹に向けた。
「花見も嫌いじゃないわ。でも、今はそれ以前の問題ね」
 小さく呟いたリシティアは表情を変えぬまま、敵へと魔法の光を解き放つ。朝樹も仲間に倣い、紅霞楼の力を揮った。
「木枝を覆う程の薄紅の幻想をお届けしましょう」
 攻性植物に成り代わらなければ桜の樹も斯様に咲き誇れただろう。憐れですね、と素直な思いが零れ落ちたが、容赦はしてやれない。
 朝樹の放った薄紅の霧は逃れえぬ混沌を宿し、敵の動きを制していった。
 しかし、このまま攻撃を続けたのでは青年に被害が及んでしまう。すかさずレカが癒しの力を広げ、攻性植物の傷を塞いだ。
 活力を得た桜は足代わりにした根を動かし、重い音を響かせて近付いてくる。
「樹が人に害をなす姿はあまり見たくはありませんね……」
 桜は遥か昔から人々の心に寄り添っていた花だと聞いていた。だからこそ、誰かが傷付いてしまう前に片付けたいとレカは願う。
 アイラノレはレカの思いを感じ取り、自らも攻勢に出た。
「ハーティ、行きますよ」
 自身のライトニングロッドに付けた愛称を呼び、アイラノレは雷撃を放つ。真鍮の歯車が飾られた杖先から衝撃が弾け飛ぶ。
 その一撃が上手く巡ったと感じたアイラノレは杖を強く握り締めた。
 自分のいる戦場で犠牲は許さない。誓った思いが力に繋がるよう、彼女は青年の姿を確りと見つめた。
 その間にもロビンが攻撃を続け、アウレリアとレカが協力して敵の傷を癒していく。対する桜の枝も激しく振るわれたが、次はノワさんがブランを庇うことでカバーしていた。
「ノワさん、ありがとう。ボクも負けてはいられないな」
 双眸を薄く細めたブランは立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏で、仲間を鼓舞していく。シャーマンズゴーストも祈りを捧げて戦線を支えた。
 黒花も敵の力を削らんとして狙いを定め、精神を集中させる。
「彼の命は桜とともに散らせるわけには、いきません!」
 そして、攻性植物の足元に爆発を巻き起こした黒花は不意にはっとした。
「いえ、けして桜に早く散れと言っているわけでは!」
「大丈夫、分かっているわ」
 ぶんぶんと頭を振った黒花の声を聞き、リシティアはそっと宥めるように告げる。
 言うなれば桜も青年も同じ被害者だ。勿論、と頷いた朝樹も黒花達と同じ思いを持って戦いに挑んでいた。
 桜の開花に、人は喜び歌い、心攫われる。
「其は美しき桜の咎にはありけれど――それは、桜が望んだことには非ず」
 朝樹は穏やかな笑みを湛えたまま、禁縛の呪を解放した。御業が敵に襲い掛かる瞬間に並び、リシティアは鋭い斬撃を見舞う。
 今よ、という言葉と共に寄越されたリシティアの視線を受けたロビンは大鎌を構えて敵の背後に回り込んだ。
「そのひとを取り込まれると、……ちょっと、困っちゃう」
 早く解放するから、とロビンが口にすると同時に刃が夜空に舞う。
 斬撃が攻性植物を深く傷つけたが、行動準備を整えていたレカが何度目かの癒しを施した。青年を助ける為なのだから、長期戦など覚悟の上。
「どんな苦労も厭いませんよ」
 必ずや救助したいと願うレカの思いに同調し、アウレリアは仲間の癒しを担う。
「ええ、せめて手が届くところに居る人は」
 この腕が伸ばせる限りは救っていきたい。アウレリアは月に祈り、両手を重ねた。
 あたたかな白銀と宵藍に耀く月灯り。煌めく月が謳うような彼女の聲を聴き、泪を零すように雫を落とした。
 桜も枝をしならせてケルベロス達を穿たんと襲い掛かる。
 黒花はその一撃をしかと受け止めて衝撃に耐えた。そして、黒花は即座に体勢を立て直す。枝が縮んで戻っていく様を追いかけるようにして、蹴撃が放たれた。
「枝を手折るようで申し訳ありませんが……!」
「平気よ。ちゃんと治すから」
 黒花の鋭い一閃に続き、アウレリアが敵の傷を塞ぐ。癒しの加護を受けた攻性植物からは未だ倒れる気配は見えなかった。だが、確実にダメージは蓄積しているはずだ。
 戦いが長引くにつれ仲間達の傷も増えていく。
 ノワさんが皆の回復を行い続ける姿を見つめながら、ブランも援護にまわった。
「――汝、幻想域の使者。癒しを運ぶ使者」
 ブランが掌を夜空に向けて伸ばすと、其処に光が集う。白い鳥めいた淡い光は宙に羽搏き、仲間達の肩に止まってゆく。
 光の鳥が淡く囀る聲はまるで、春の訪れを謳っているかのようだった。

●散る花の宿命
 深い夜の最中、戦いは続いていく。
 幻想の櫻が舞い乱れ、攻撃の癒しの力が飛び交った。
 ロビンや朝樹、リシティアが敵の力を削るとレカとアイラノレが交互に回復を行う。その間に繰り出される敵からの一撃はブランと黒花達が受け止め、いなすことで衝撃をコントロールしていた。そして、仲間の傷はアウレリアが癒す。
 見事な役割分担と立ち回りによって、戦線はしっかりと保たれていた。
「――必ず助けるよ」
 アウレリアは青年に励ましの言葉を送りながら、気力を仲間に分け与える。時折、青年が苦しげに呻く様は痛々しかったが、それも命がまだ繋がれている証だ。
 朝樹はもう少しだと声をかけ、再び薄紅の霧を発生させてゆく。
「咲き切らぬまま生を閉じるかもしれない憐れな桜へ……せめてもの餞を」
 幻の花弁にて黄泉路を彩ろうと決め、朝樹は霞みの檻を展開させた。途端に桜の樹の動きが止まり、青年から更なる呻き声が零れる。
 このままでは彼まで倒してしまう危険があると察し、黒花は癒しの力を紡いだ。それと同時に桜の反撃が仲間に見舞われそうになる。
「やらせはしません!」
 咄嗟に飛び出した黒花は枝の鞭を受け、何とか耐えた。
 黒花の勇敢さに賞賛を覚え、アイラノレは彼女の身を癒す力を発動させる。
「心配は要りません。誰も倒れさせはしませんから――!」
 アイラノレが凛と叫ぶと、その前方に時計針を模した巨大な十字が出現した。半球の障壁が展開されると同時に時計板が現れる。宣誓文が舞い、時計の針が戻ると共に仲間達に加護が巡っていった。
 其処に敵を穿つ隙を見出し、ブランは身構える。
「ノワさん、ボク達も行こうか」
 呼び掛けた少年が縛霊手の掌を掲げると、シャーマンズゴーストが合わせて神霊の一撃を放った。巨大光弾が戦場を舞う中、レカも妖精弓を構える。
 草花を愛するレカの心情は複雑だった。攻性植物とは言え、確かに桜に違いない。
「少し心が痛みます。……ですが、これこそ私達の大切な務めなのです」
 しかし、レカは意を決して矢を放った。
 青年と桜を助けたいという願いは抱いたまま、レカの一矢は枝を貫く。リシティアも魔法陣を描き、敵を見据えた。
 花は咲いては散るがさだめ。
「……でも、お前は咲かぬまま消えなさい。出でよ、黒鳳蝶」
 そう告げるとともに、煉獄に住まう黒鳳蝶を招聘される。嗾けられた蝶は桜の樹に向けて舞い、その力を吸い取っていった。
 そして、ロビンは其処に戦いの終わりを垣間見た。
 これまで皆で戦って来た今、敵の受けた衝撃はかなりのものだ。このまま敵を倒せば青年を救い出せると確信したロビンは鎌を握り締め、空中に腕を伸ばす。
「咲けずに散るのは、かわいそうね。ごめんなさいね」
 それでも、この鎌を振るうことはやめない。
 淡々とした謝罪は乾いており、ロビンは自分が言葉ほどにも心を寄せていないと悟った。されど敵を倒すと決めた心は本物。
 空中に呼び出した無数の硝子片が宙を翔け、桜の樹に向かっていく。
 宿る魔力の色を映して翠色に煌めくそれらは樹に突き刺さると同時に儚く消える。そして、ロビンが刃を下ろした時――戦いは終幕を迎えた。

●季節の境界
 桜はその場で止まり、丘に静けさが戻ってくる。
 攻性植物と共に消えゆくかと思いきや、桜はまるで最初からそこに生えていたかのように鎮まった。ロビンはふと首を傾げたが、樹が生き残った理由に思い至る。
「普通の樹に戻ったのかしら。あなた、とても強いのね」
 そして、青年が幹から解放された。
 朝樹とアイラノレは地面に倒れそうになる青年の傍に駆け寄り、しっかりとその身体を支えてやる。意識を取り戻した彼は朝樹の肩に捉まりながら顔をあげた。
「今日は災難でしたね、不調はありませんか?」
「ああ、何とか……」
 アイラノレが問いかけると青年は大丈夫だと答える。
 傷ひとつない彼の様子を見たアイラノレは手当は不要だと判断する。
 レカは青年が怖がっていたならば夢だとでも告げて誤魔化そうとも思っていたが、その必要もないと感じていた。そして、レカは青年を安心させるように笑いかける。
「お身体を冷やしてしまう前にどうぞお家にお戻りください、ね」
「どうもありがとう。本当に助かったよ」
「あなたもよく頑張りましたね」
 黒花も礼を告げる青年に明るい笑みを向け、無事でよかったと喜ぶ。ブランも安堵を覚えつつ、彼が桜を傷つける心算ではなかったのかと指摘した。
「桜を手折ろうとするなんて、君はロマンを勉強する方がいいんじゃないかな?」
「違うよ、折ろうとしたんじゃないんだ。ただ少し触れたくて……」
 すると青年はとんでもないと頭を振った。春の兆しを感じてつい手を伸ばしてしまっただけだと弁明をする彼を見遣り、ブランはちいさな溜め息を吐く。
「それなら良いかな。さて、桜の君もお疲れさまだ」
 そうして、ブランが見遣ったのは元の姿に戻った桜の樹。
 綻びはじめていた蕾は落ちてしまったが、樹はそのまま残っている。少し問題があるとすれば最初に桜が立っていた場所から随分と位置がずれてしまったこと。
 丘の上の一本桜は結果的に丘の中腹に移動した。
 近隣の人々は驚くかもしれないが、青年と桜の樹、両方の生が繋がれた今はそれも些細なことに過ぎない。
「いつか満開になるといいわね。花が咲きそろったら、酒でも呑みに来るわ」
 リシティアは桜を一瞥した後、役目は果たしたとして足早にその場を去った。まだ枝ばかりの桜だが、きっと花を咲かせてくれるだろう。
 黒花は帰宅するという青年を見送り、気を付けてください、と手を振った。アウレリアもほっと胸を撫で下ろしながら、頭上の枝を振り仰ぐ。
「どうか、見事な花を、咲かせられるように――」
「春が訪れたらのんびりと夜桜を眺めに来たいですね」
 レカも微笑み、花が咲く夜の光景を思い浮かべる。うん、と頷いたブランは桜の幹を撫で、今度こそきれいな花を咲かせてね、と告げた。
 ロビンも薄く双眸を細め、夜空と街を背にした桜の枝先を見つめる。
「見て。街の光が枝に重なって、花みたい」
「高みから見下ろす街の灯りもまた、盛りを迎えた夜桜のようで美しいですね」
 仲間が指さした景色に目を向け、朝樹は淡い光を瞳に映した。
 今宵、ケルベロス達が繋いだ命はふたつ。
 青年の生と咲き始めた桜の樹。良かった、と改めて微笑んだアイラノレに同意を示し、朝樹はふと宵空を見上げた。
 雪花の名残か桜の咲き報せか。其処に花弁が舞った気がして、手を伸ばす。
 掌には何も掴めなかったが、不思議と確信めいた想いが浮かんだ。
 きっと――春はすぐそこに。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。