獲物を求めて

作者:吉北遥人

 手作りのハンカチやタオル、給食袋にブックカバーにきらきら光るビーズアクセサリー。
 園児の父兄たちや来年に我が子が入園予定のママたち、さらには近所の奥様方も加わって、その幼稚園のバザーは朝からなかなかの賑わいを見せていた。テーブルやレジャーシートに陳列された商品を談笑しながら見やっては、婦人たちが売り場を行き来する。
 園庭の一角に巨大な牙が突き立ったのはそんなたけなわの頃だった。
 巻き起こった風と衝撃に何事かとバザー参加者たちが視線を転じたときには、三本の巨大な牙は、三体の鎧兜を装着した骸骨の異形に形を変えている。
 骸骨人間どもは獲物を見定めると一直線に飛びかかり、骨の腕を殺戮に閃かせた。
 
 ヘリポートに集ったケルベロスの面々を黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が神妙な顔で出迎えた。
「市街地に竜牙兵が送り込まれたっす」
 ダンテが地図を広げる。その指が示すのは神奈川県は三浦半島、その南端だ。
「鎌倉をケルベロスの皆さんが奪還したことにドラゴンたちが驚いたみたいで、連中、城ヶ島を制圧して拠点に定めちまったんすよ」
 そして拠点の防衛力を高めるにあたり、竜牙兵による破壊工作を行っている。それが城ヶ島周辺に住まう市民の殺戮というわけだ。
「残念ながら事前の避難勧告は無理なんすよ。敵の出現場所が変わったりして、被害を食い止められなくなっちまうからっす。だから竜牙兵が現れた直後に、皆さんもヘリオンから現場に降下して、連中をパパッとやっつけてやってほしいっす!」
 戦いが始まれば、先んじて協力を取り付けておいた地元警察が避難誘導を担ってくれる。
 また、竜牙兵はケルベロスを見つけると最優先で狙ってくるようだ。戦闘中、一般人に危害が及ぶ心配はまったくないだろう。
「牙の落下地点は市内の幼稚園、その庭っす。休日にバザーを開催しているんすね。ママさんたちがいっぱいのところに竜牙兵が三体、襲って来るっす。どいつもバトルオーラで武装。こいつら、どんなに不利になっても死ぬまで殴りかかってくるんで注意っす」
 園庭にはテーブルなどバザーの設備があるが、広い敷地のため使われていないスペースの方が多く、戦闘に支障はない。ひょっとすると少々荒らしてしまうかもしれないが、思い切り戦うことができる。
「敵の狙いはグラビティ・チェイン略奪と、人々の不安を煽って城ヶ島近辺から追い出すことっす。そうすりゃ拠点が広がるっすからね。けど」
 一連の説明を終えるとダンテは相好を崩し、尊敬のまなざしをケルベロスたちに向けた。
「逆に言えば、皆さんが派手に敵をぶっ倒せば不安も一緒に吹っ飛ばせるわけっすよ。皆さんの活躍、自分も期待しているっす!」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
千手・明子(天上天下わたくしがあきらちゃ・e02471)
アリス・ドール(機械仕掛けの殴殺姫・e03710)
サクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
弓削・是氏(陰陽師・e09801)
ナディル・アイオライト(告死天・e16891)

■リプレイ

●希望の牙
 閃きが空を裂いた。
 流星のように飛来したそれは竜牙兵の眼前に着弾した。爆心地に突き立つそれが無骨な大剣だと知るより早く、竜牙兵どもはその場を跳び退っている。直後にそこへ足を揃えて着地した千手・明子(天上天下わたくしがあきらちゃ・e02471)が片目を瞑った。
「あら残念。もう少しで頭からごりっと砕いて差し上げられましたのに」
「ま、避けられたもんは仕方ないッス」
 同じく強襲を仕掛けたアリス・ドール(機械仕掛けの殴殺姫・e03710)がロリポップを口の中で転がしながら、気だるげに敵を見やる。
「ふーん、竜牙兵ってこんな風に現れるんスねー。じゃ、腹減る前にサッサと片付けるッスよ」
「うん……。街はやらせない……向かってくるなら、刈り尽くすだけだよ……!」
 簒奪者の鎌で竜牙兵を追いやったシェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)が翼を畳んで隣に降り立つ。
 その後方に音もなく着地したのは二人の忍者だ。
「そこまでだ、と言わせて貰おうか……竜牙兵」
「子どもたちの希望あふれる未来を、家族の絆を、潰えさせてたまるものか」
 銀狼の忍びと、黒装束の忍び。ナディル・アイオライト(告死天・e16891)と樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が進み出る。二人に続いたのは巨大な異形の蠢きだった。突如出現した大百足にバザー参加者がどよめく。どよめきに、大百足の背に乗る召喚者からの反応はない。弓削・是氏(陰陽師・e09801)は無言のまま敵を牽制しているのだ。
 是氏と同じ高度で、ボクスドラゴンを伴うサクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412)が白翼をはためかせた。
「ここはお任せください。皆さまは私たちが守ります」
 柔らかな言葉と戦士たちの頼もしい後ろ姿に、驚愕の連続だった市民の表情が和らいだ。駆け付けた警官隊の誘導の下、混乱もなく戦場を離れていく。
「占領のためにー、小さな事にも手を抜かないのはー、わかりますけれどー、幼稚園のバザーを襲うだなんてー」
 遠ざかる一団から目を離し、武者装束のフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は足場――先ほど投じた鉄塊剣の柄からひょいと飛び降りた。着地したときには、その手には引き抜かれた鉄塊剣が収まっている。
「そんな目論見はー、ご破算にしちゃいますのー」
 ケルベロスと竜牙兵の視線が中空で衝突した。
「ケルベロス……ケルベロス、だ」
 竜牙兵の全身を爆発的な赤光が覆う。バトルオーラよりもなお赤い眼光が獲物を前にして不吉に瞬いた。
「ケルベロスを、コロセ!」
 殺意の咆哮とともに三体が地を蹴り、迫る。敵影を鉄塊剣で指し、フラッタリーは笑みを深めた。
「これより狼藉者のー、対処をしますわぁー」
 その額から、地獄が溢れ出す。

●赤光の竜牙
 突き込まれた骨の拳を、バトルガントレットが正面から受け止めた。
「みんなが楽しんでるトコに出るなんて……空気読めよ」
 鋭く跳ね上がったアリスの足が竜牙兵の顎を捉えた。のけぞったところを胸部へさらに蹴撃。竜牙兵は即座に両腕を掲げて防ぐが、ガラ空きになった真横に大鎌が降り落ちた。
「骨ごと……断ち切ってやる……!」
 横合いからの斬撃に肩鎧を砕かれ、竜牙兵が転がった。さらに踏み込んだシェミアだったが、とっさに身を翻す。直後、シェミアがいた空間を赤い球体が駆け抜けた。オーラの弾丸は軌道を曲げ、バックステップするシェミアを執拗に追う。追尾性能は回避能力を上回っていた。シェミアの一瞬の隙に光弾が喰らいつく。
 迎え撃ったのは雷竜の咆哮だった。
 躍り出たエクレールが雷光を吐き出し、光弾を撃ち落としたのだ。さらに群れのごとく押し寄せた気咬弾を、ボクスドラゴンは封印箱に潜り込み、自らぶつかっていくことで凌ぐ。
 サーヴァントの奮闘を横目に、サクラは戦斧を振りかぶった。起き上がりかけた敵手めがけて振り下ろす。ルーンの一撃は竜牙兵の腕骨に食い込んだ。割断には至らない。だが、敵の動きを封じるには充分だった。
「今です!」
「焔ニテ骨髄迄焦ガShi尽クシマセU」
 応じたのは、人のものとは思えぬような声色だった。前頭葉の地獄活性化により戦闘狂と化したフラッタリーが、業火を帯びた大剣を振り下ろす。鉄塊剣は敵の肩口から侵入し、腹部までをいっきに砕き散らした。骨片が舞っては虚空に消失する。
 竜牙兵が身を捩った。体の大半を失い、地獄の炎に焼かれてなお、その戦意に衰えはない。自ら腕を犠牲にしてサクラの斧から逃れるや、跳ね起きるように腕の尖端をフラッタリーに突き出す――。
「――俺たちの邪魔をするなとは言わない」
 鋭利な骨の棘と化していた腕は、フラッタリーに到達する寸前で硬直している。竜牙兵を縛るのは幾重にも舞う幻影の蝶だ。動けぬ敵手に、ナディルは酷薄に目を細めた。
 罪なき者に手を出すななど、自分が言えたものではない。だがそれでも、名も知らぬ誰かのために戦うと決めたから。
「誰にも省みられることなく……儚く無価値に、夢の中で死ね」
 幻葬・告死蝶。無数の羽ばたきが散ったとき、竜牙兵は不可視の斬撃に全身を切り刻まれている。崩れ落ちた骸骨が完全に消滅するまで、ナディルの瞳は冷たいままだった。 
 その視線が背後に転じた。忍び寄っていた気咬弾を、ナディルが獣化した拳で叩き落とす。光弾が立て続けに放たれたが、それらは明子の斬霊刀が斬り裂き、レンの翡翠が高速回転で障壁を生み出し威力を削ぐ。
「ぬるくってよ!」
「なかなかしぶとい。だがこの忍務、必ずやり遂げる」
 なおも射出される気咬弾に、明子が二刀を振るい、レンが瞬時に九字を切る。

●戦塵の園庭
「では、捕らえさせてもらおう」
 短期決戦にすべく攻撃手を多めに敷いた布陣は、実に効果的だった。数的な優位を集中攻撃による撃破でさらに拡大し、まさに勝つべくして勝つ展開に持ち込んでいる。
 そして搦め手もまた然り。
「!?」
 是氏が召喚した大量の半透明な百足が、あたかも巨大な手で鷲掴みにするかのように竜牙兵の体中を這い回り、鎧を、骨を蝕む。格段に機動力の下がった竜牙兵に、炎の塊が容赦なく叩き込まれた。その身を燃え上がらせながらも竜牙兵の拳が赤光を帯びる。睨みつけた先にいるのは、今しがた炎を浴びせた明子だ。
 風が揺れたと感じたときには、竜牙兵の拳は至近にまで迫っている。後方への跳躍で直撃は免れるも、風圧で和服の袖が裂けた。明子の頬に朱が差す。
「塵も残さず、ぶちのめして差し上げますわ」
 両手の斬霊刀が弧を描いた。無銘の刀身が妖しく輝く。重なった剣閃は衝撃波となって、竜牙兵を吹き飛ばした。
 霊体のみを斬るグラビティに、竜牙兵は外傷こそ少ないものの動きを鈍らせる。その姿を、薄い、しかし巨大な影が覆った。
「竜の傀儡よ。人の命を奪う意味も、定命の魂がグラビティ・チェインを秘める意味も知らず、ただ命じられるまま殺戮を行おうとは哀れなことだ」
 影が、レンの喚び出した御業の蝦蟇のものだと知る暇も、竜牙兵には与えられなかった。蝦蟇が口を開く。口腔から溢れたのは高熱の奔流だ。
「安寧を授けてやる。覚悟!」
 業炎が竜牙兵を呑み込んだ。骨格が溶け落ちながらも、逃れようともがく。その頭蓋を貫通したのはオラトリオの弾丸だ。
「これ以上、人の暮らす場所は奪わせません。楽しかったですよ……さようなら」
 サクラによる時の凍結を受け、竜牙兵は炎の中で消滅を迎えた。
 役目を終えた蝦蟇が消失。その奥では別の召喚生物が、残り最後の竜牙兵を締めつけていた。
「さあさ、回復せねば大百足の毒が回るぞ? それでは我らを倒すどころではあるまい。いやさ、誇り高き竜の牙は毒ごときでは参らぬか?」
 ほれほれと煽る是氏を竜牙兵が見据えた。赤城山の大百足が消えると同時に、オーラを撃つ。是氏へ一直線に向かった気咬弾は、しかし途中で稲妻に撃墜された。エクレールのブレスとまた異なる雷光は、シェミアから生じたものだ。
「怒れる雷神、響き渡る雷霆――」
 蛇群のようにのたうつ稲光が左の掌に収束する。シェミアが大地を強く踏みしめた。
「――爆ぜよ、紫電の暴竜」
 回避が一拍遅ければ、竜牙兵は暴虐とも呼べる嵐に粉微塵にされていたかもしれない。躱したにもかかわらず、ヴォーテックスは鎧をごっそりと抉り取っていたのだ。思わぬダメージに竜牙兵の足取りが乱れるが、その先で待ち構えていたのは地獄の顎門だ。
「Тэи穣天外、$hI方八法、視得ルワタシノ此ノ景色、伽覧ヨ御覧。煩ワシキ孤之世界」
 喰らいついた地獄を介して、竜牙兵のグラビティ・チェインがフラッタリーへと流出。竜牙兵が凶腕を振るい抗うが、殴られてなお狂えるフラッタリーの笑みは小揺るぎもしない。さらに腕を振りかぶったところで、突如、竜牙兵の体が勢いよく園庭を転がる。
「ママさんとチビッ子たちは、お前らの相手してるヒマなんてないッスよ」
 後ろから蹴り倒したアリスが、起きろとばかりに竜牙兵の首根っこを掴む。
「自分もバザーでお菓子買いたいんで……サッサと壊れろ。殴殺刑執行ッスよ」
 ぽいと骸骨を放り投げた直後、白銀と漆黒、アリスの両拳の戦籠手が陽光に煌めいた。次の瞬間、アリスのフックは竜牙兵の胸を鋭く穿っていた。高速の連打が胸郭を破砕する。
 打ち込むほどに加速する拳が背骨に達した。背骨がへし折れて上体がちぎれ飛んだ瞬間、竜牙兵は跡形もなく世界から消え失せた。

●番犬たちの憩い
 無限の破壊を終え、アリスがぴっと拳を振り、収める。そのときアリスの耳に届いたのは女性たちのさざめきだった。
 避難していたバザー参加者たちが、戦いが終わったらしいのを見て、警察とともにおそるおそる戻ってきたのだ。遠巻きにこちらを眺めている。
 シェミアが健在とばかりに武器を高く掲げた。皆も得物を掲げる。勝利のサインに、婦人たちが歓声を上げた。
 そして日がまた少し高くなった頃、バザーは無事に再開された。
 園庭はきれいに整えられ、戦闘の痕跡は一切ない。会場や商品に被害が及ばず、速やかに催しを再開できたのは、ケルベロスたちの配慮と守る意志があったからこそだ。
「こういう生活を守るために戦うのも、良いものだね」
 談笑する婦人たちと、走り回る子どもたち。眩しげにナディルは目を細め、微笑んだ。フラッタリーもゆるゆると首肯し、慈愛に満ちた笑みを会場に向けた。
「千手さん、何か良い品はありましたか?」
「あらサクラさん。これをご覧になって」
 明子が取り上げてみせたのは小振りの巾着だ。可愛らしい絵柄にサクラの顔もほころぶ。
「給食袋ですか。素敵ですね」
「ええ、懐かしいですわ。きっと、子育ての合間を縫って作られたのでしょう。子を思う母の心が詰まっていますわね」
 明子が愛おしそうに給食袋を撫でた。
「お母様、かぁ……」
 その様子を隣から覗き、シェミアがぽつりと呟く。売り場の品々はどれも安価で、上質な出来栄えの物ばかりでもない。けれど何よりも優しく、温かい……。
 シェミアの追憶に、嬌声が混ざった。一部の奥様方が、是氏が話題の占い師であると気付いたのだ。あっという間に是氏を中心に人だかりが出来上がる。その横をすり抜けてアリスが、園児たちにケルベロスカードを配っていたレンのそばまでやって来た。
「アリスか。またずいぶんと買い込んだな」
「ほとんどお礼にってオマケしてもらったものッス。嬉しいスけどさすがに多すぎるんで、チビッ子たちに分けてあげてくださいッス」
 ひと抱えどころか顔が半ば隠れるほどの量の駄菓子を受け取り、レンは園庭を見やった。
 園児たちは、レンが召喚した半透明の忍猫と戯れている。ときおり驚かせるように猫が大きくジャンプしては、子どもたちの笑い声が響く。
 ――ああ、この笑顔のために、俺たちは戦っているのだな。
 ふっと微笑むと、レンは駄菓子を配るため大声で子どもたちを呼んだ。

作者:吉北遥人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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