星送る君へ

作者:小鳥遊彩羽

 とある日の、夜も遅い時間。
 暗い山道を、懐中電灯の頼りない明かりを手に、一人の少年が歩いていた。
「星を送る狼かあ……」
 もう片方の手には、眩しい光を放つスマートフォン。そこに映るアプリの地図を覗き込み、少年は目指す方向へと進んでいく。
「多分、こっちで合ってるはずなんだけどな……それにしても、狼だなんて。出会い頭に襲われそうな予感しかないんだけど、生きて帰れるのかな、俺」
 そんなことを呟きながら、一歩ずつ歩みを進めていく少年の視界が、不意に開きかけた――その時。
 少年の視界を遮るように現れた黒衣の人影が、ゆったりと微笑んだ。
「……っ!?」
 瞬く間に、少年の心臓を貫いた『鍵』――それを引き抜き、第五の魔女・アウゲイアスはお決まりの台詞を口にする。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 そうして、倒れた少年の傍らに。空に瞬く星を纏う、蒼色の狼が生まれたのだった――。

●星送る君へ
 不思議な物事に対する強い『興味』を持ち、調査を行おうとしていた人がドリームイーターによって奪われ、その『興味』を元に新たなドリームイーターが誕生してしまう事件。
 そこからさらに新たな事件が起こる前にこのドリームイーターを倒し、興味を奪われた人を救うために力を貸してほしいと、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はいつものように、その場に集ったケルベロス達へ説明を始めた。
 敵のドリームイーターは一体で、蒼色の狼の姿をしているとトキサは言う。
「星を送る狼と言われていて、その体にはきらきらと星のような光が舞っている。その姿はとても綺麗だけれど、ドリームイーターだから、惑わされることなく倒してほしい」
 ドリームイーターが潜伏しているのは、小高い丘へと続く森の中だという。そこで、いっそのこと丘の上まで行き、広い場所でドリームイーターを誘き出してみてはどうかとトキサは続けた。
 ドリームイーターは、存在そのものを信じたり、ドリームイーターの大元となった存在にまつわる噂話などをすることで誘き出すことが可能だ。成功すれば、現れたドリームイーターはすぐにケルベロス達を敵と見定め、襲い掛かって来るだろう。
「今回だと、星を送った狼はどこに行くんだろうとか、何のために星を送るんだろうとか、あるいは、星そのものについてだって構わないだろう。色々想像を巡らせてみても楽しいかもしれないね」
「お星様と一緒に、旅をしているのでしょうか。……そうだとしたら、とても素敵だなって思いますけれど」
 もちろん、敵がドリームイーターである以上は倒します、と、フィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)が微笑んでみせる。
「せっかく少し高い所に行くんだから、狼が送ろうとしていた星を見てくるのも悪くないかもしれないね」
 澄んだ空に瞬く星は、見ているだけで時間を忘れてしまうだろうね――そう、悪戯っぽく笑いながら、トキサは皆をヘリオンへといざなった。


参加者
アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)
雪白・メルル(雪月華・e19180)
咲宮・春乃(星芒・e22063)

■リプレイ

 雲一つない晴れた夜。見晴らしの良い丘へ降り立ったケルベロス達が見上げる先には、まるで吸い込まれてしまいそうなほどの満天の星が瞬いていた。
「綺麗な夜空です、ね。ほらみて、イル!」
 雪白・メルル(雪月華・e19180)は声を弾ませ、イルことウイングキャットのソウェイルに呼び掛ける。
 星を送る狼と呼ばれる噂話。その噂が夢として現れてしまったドリームイーターを倒すことが今回の目的だ。
 そして、彼らは早速狼を招き寄せるための話を始める。
「噂の狼さんも、素敵なお星様……みたかったのかな」
 身を寄せるソウェイルをぎゅっと抱き締め、その頭を優しく撫でてやりながら、メルルは空に灯る無数の星にぽつりと想いを零す。
「こんなにも綺麗な星空だから、魅せられちゃったのかもですね」
 けれど、狼は一人で寂しくないのかとメルルは思う。
「蒼い狼は誰かと交わした約束の為に、夜空の星を送り続けてるのかな?」
 翼猫のルネッタを撫でながら、ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)が何気なく零した言葉に、
「星を送る狼さん、なんて、ロマンチックだよね!」
 こちらも翼猫のみーちゃんを撫でてやりつつ、咲宮・春乃(星芒・e22063)がきらきらと瞳を輝かせながら想いを繋ぐ。
 本当の『彼』が星を送る理由も意味も、想いも何もかもを――聞いて、知ってみたいと春乃は願う。だが、実際に出会うのは悪夢によって作られた夢喰いだ。
(「だから……倒さなきゃ、ね」)
 それでも、春乃は想いを巡らせる。
 星を送るのは、誰かに何かを届けるためなのだろうか。
 それとも――逢いたい人がいるからなのだろうかと。
 星を送る蒼色の狼とは、敵でさえなければ夢のある話だと言うザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)は、青白い一等星のシリウスを思い浮かべていた。もっとも、狼ではなく犬だけれども。
 やがて、肩口に止まる青い目の鴉――ファミリアのドットーレをそっと指先で擽りながら、ザンニは続く言葉を口にした。
「送り狼……夜空の星が迷わないよう先導している、とか?」
「きっと、星達が迷子にならぬよう送るのだろう」
 同意するようにアラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)が頷く。念のためにと『気』を放って殺界を整え、皆の言葉に相槌を挟みつつ、アラドファルも自らの想いを紡いだ。
「惑わす風を呑み込み、手を伸ばす人々に吠えて追い払う……大事な守り手でもあるのかもしれない」
 小さく頷き、ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)が続いた。
「星を送るのは、死者を空へ連れて行くからなのかな」
 死んでしまった魂が星に見えるのかもとティスキィは言う。空を見上げれば、時折流れていく星は命の最後の輝きのようで。
「……そんな星を、無事に空へ送り届けるための番犬だから、狼の姿なんだろうな」
 そうであればいいと願うような響きが、ティスキィの紡ぐ声と言葉には込められていた。
「星を送る狼……か。一体誰に星を捧げているのだろうか。今はいない仲間へかな、と思ったけれど……旅、か」
 サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)はそう言って、傍らに立つフィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)を見やる。
 星と共に旅をしているのではないか――ヘリオンの中で娘が呟いた言葉を思い返し、サフィールは微笑んだ。
「フィエルテさんのお考えは素敵だな、私もそうであって欲しいと思う。……独りの、長い旅路は辛いものだから」
 紡がれた言葉にフィエルテもまた、ありがとうございますとくすぐったそうに微笑んで。
「……そうですね、狼さんは独りでも、星達がいてくれたら。きっと、どこまでも、寂しくはないでしょうから」
「俺はその話、信じるよ。――さて、星と一緒に旅をしているとして、旅の目的はなんだと思う?」
 と、木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)が笑って続く。
「動物は一人では不完全で半身を探すのが人生って話があるよな。つまり、自分の番いを見つけた時が旅の終わりなのさ」
 だから、とケイは傍らに寄り添うボクスドラゴンのポヨンへ手を伸ばしつつ、星空を見上げて穏やかに言った。
 その後は、二匹の狼が寄り添って星を見上げるんだろう――と。
 人によって見え方が違ったり、あるいは同じだったり、星にまつわる一つの物語が形作られていくようで楽しいと、皆の話に耳を傾けながらアラドファルは思う。
 風の流れに変化が生じたのはその時だった。
 ケルベロス達が一斉に振り向いた先。そこに『彼』はいた。
 一人の少年の興味から作られた夢喰い――煌めく星を纏う、蒼色の狼。
 ――ルオオオォン……!
 ケルベロス達の姿を認めた蒼狼が、まるで星を喚ぼうとしているかのような咆吼を響かせる。
 すかさず、鮮やかな炎の軌跡を描いて春乃が踏み込んだ。その間にも素早く散開したケルベロス達が、畳み掛けるように攻撃と守りを重ねてゆく。
 炎の光を得て一層煌めく星の欠片。それを見つめながら春乃は静かに告げた。
「本当に、おほしさまみたいだね。……そのきらきらは、あたしには眩しいよ」

 蒼狼を取り巻く星の煌めきが、ケルベロス達の息を合わせた攻撃により少しずつモザイクの欠片となって散ってゆく。
 手に入れた仮初めの命を奪わせはしないとばかりに襲い掛かってくる狼。繰り返される攻防の中、フィエルテは避雷の杖とウィッチドクターとしての腕を用い、皆の癒しに従事していた。それに力を添えてくれたのが、盾として前衛に立つザンニとサーヴァント達、そして加勢に来てくれた同胞達である。
 狼の剥き出しの牙がサフィールに襲い掛かり――咄嗟に身を挺したザンニが、星の煌めきを足に纏わせて地を蹴った。
「これ以上、誰かを惑わせたりしちゃだめっすよ!」
 まるで本当に夢のような存在。けれど人に害をなす夢ならば、在るべき場所へと還さなければならない。
 ザンニが繰り出した重い蹴撃が、蒼狼の背を強かに打つ。それを見たラウルが、月の彩にも似た花が刻まれた象牙の銃把を握り締めた。
「君の居場所は大地じゃない。――星が燈る空に、お還り」
 ラウルの鍛え抜かれた技量によって放たれた弾丸は、欠けた星が迷わぬようにと導く標のよう。ミモザの花環を飛ばすルネッタと、重箱に似せた封印箱ごと狼にぶつかっていくポヨンに続き、ケイが両の手に構えた斬霊刀を振るった。
「あんたにとっての旅の終わりが、穏やかなものであるように願うよ」
 霊体のみを斬る衝撃波が狼の体をすり抜けた直後、狼がくぐもった呻き声を漏らす。
「狼さん、たくさんのお星様が待ってますよ」
 星狼の行くべき道を示すように避雷の杖から眩い雷光を迸らせ、メルルはイル、と傍らの翼猫を呼んだ。
 メルルの声に応えてにゃあと鳴き、くるりと身を翻したソウェイルが尾を飾る花環を星狼へ手向ける。
「私達は、共に往くことは出来ないけれど」
 自分達の代わりに旅路を辿ってくれるであろう星達に想いを託すように、サフィールは千夜の一族に伝わる物語を紡ぎ上げた。
 戀獄の章、第八節。炎熱の魔神たる少女と一人の青年の、愚かしくも一途な祈りの果てに齎された狂おしくも一途な炎獄譚――熱砂の咎焔(アムード・アル・イフリータ)。
 夜空に踊る鮮やかな炎が送り火のように揺らめいて蒼狼を包み込み、そこに星の煌めきが降り落ちた。
 みーちゃんが飛ばした尾の星環が辿る軌跡を追うように重力を乗せた春乃のそれは本物ではないけれど、最期のおほしさまを見てほしいと思うから。
「もう、おほしさまを送らなくてもいいよ。だから――ゆっくり、おやすみ」
 静かに告げる春乃の横を、アラドファルが駆け抜けた。
「君を本当に星の元へ行かせられるとしたら、倒すことだ。……さて、君はどんな夢を見る?」
 アラドファルの内に在る『闇』が、彼の手から零れ落ちる。闇に侵食され膨張した大地は波濤のように唸りながら、星狼を呑み込んでゆく。
 在るべき場所へ還ろうとしている蒼狼に、祈るようにティスキィは囁いた。
「とても綺麗な存在だから惹かれるのもわかるな。だから……その存在を汚したらダメだよ、ね」
 風は赦しに、花は祈りに。ティスキィの手のひらから、ふわりと緑の風が巻き起こる。
「護り手の足を止めるのは申し訳ないけれど、あなたは本物じゃないから」
 ――ここで、おやすみ。
 まるで神聖な舞のように踊る花びらと清涼なシトラスの香りが、全てを赦すかのように闇を払った。
 消えゆく夢の欠片も星の煌めきも抱いて、風は彼方へと駆けてゆく。
 刹那、瞬き落ちた星の光に、彼らは戦いの終わりを知った。

 星達の歌声が聞こえてきそうな世界の中、ケルベロス達はそれぞれに思い思いの時を過ごしていた。
 腕の中のポヨンに、自身の身の上を語り聞かせるケイ。かつて家を捨てて旅に出た自分が最後に出逢ったのが彼女なのだと言って、そこでふと。
「……待てよ。それだと俺の半身がお前になっちまうじゃないか」
 ケイを真っ直ぐに見る、つぶらな瞳。そこに灯る煌めきを見て、ケイは静かに笑った。
「認めたくはないが事実かねぇ。……だから、いなくなったりすんなよ」
 彼女の正体が何であろうと、ケイにとってはお転婆で悪戯好きで手の掛かる、でも可愛くて頼りになる相棒に変わりはないのだから。
 応えるように、ポヨンは小さな声で啼いた。
「三月の星というとオリオン座とか、シリウス、プロキオン辺りが有名っすよねぇ。線で繋げていくと冬の三角形がまだ見えたりも……」
 見上げた空に灯る星を指先で繋ぎながら次々に星の名を挙げていくザンニに、今にも零れ落ちそうな星空へと手を伸ばしていた揺漓は目を丸くする。
「ぷ、ぷろき……? ……まあ、これだけ数があると、三角形とやらも作りたい放題なんじゃないか?」
 何しろ、揺漓は星に関しては全くと言っていいほどさっぱりであるからして――。
 揺漓の若干ぎこちない声に、そこでようやくザンニは我に返った。
「……って、自分独りではしゃいでるようで何だか申し訳ないっす。ユラさんも楽しめていると良いんですが……」
「そうだな、星を指で辿っていくのはきっと楽しいだろう」
 揺漓は伸ばした指先で星を繋ぎ、空に三角形を描いて――はしゃいでいるのは自分の方かもしれないと思いながら楽しげに笑った。
「ほわー! お星さまとってもキレイに見えるのじゃ! お星さまつなげたら、いろんな形に見えるんだよね?」
 見晴らしが良く、星見には最高の場所。心も声も弾ませる綾に知らず目元を緩ませ、アラドファルは星空のカンバスを指先で辿る。
「あそことあそこを繋げたら猫になるぞ」
「ネコ? どれどれ? ……わかんない!」
 見つけられなかった星空を歩く猫は、きっとまた近い内に。
 狼が送ろうとした星達、その一つ一つに物語が寄り添っていたのだろう。ぼんやりと星を眺めていたら、アラドファルの中にたくさんの想像が浮かんでは、花が綻ぶように物語の欠片が紡がれていく。
「あの狼さんはきっとお星さまがひとりに見えたのかものう。だから少しでも一緒にいてあげようって送ってあげたのかも!」
 綾が無邪気に語る空想の物語に、そうであればいいとアラドファルは笑い、願うように綾をぎゅうっと抱き締めた。
 綻ぶ想い。寄り添う願い。
 幾つもの欠片を繋ぎ、紡いで――物語は、きっとこんな風に生まれていく。
 吸い込まれて落ちそうな夜空は少し怖い。だから陣内は無意識にあかりの手を握り、彼女が、そして自分が居ることを実感する。
「星がこれだけたくさん見えると、却ってどれがどれだかわからないな」
「僕、理科の授業で習ったよ。ほら、あのぴったりと寄り添った連なり」
 あかりの声に見上げれば、陣内の獅子座と亡き姉の乙女座――遠い記憶の中の星と同じ輝きがあった。
 自分はもう逢えない。けれど、あかりは――。
「――くらがり、……彼は、今どこで何をしているんだろう」
 不意に紡がれた名に、あかりの耳がぴくりと動く。
 同じ空の下、どこかで『彼』もこの星を見ているだろうか。
「また逢えたら、僕は……」
 はぐらかすように首を横に振り、あかりは蜜色の瞳に空を映す。
(「くらがりと、僕の星はどれだろう?」)
 ――空に煌めく無数の星は、僅かに滲んだ視界ではよく見えなかった。

 蒼い狼は、大切な存在に星を送っていたのだろうか。
 漆黒の天蓋を彩る数多の輝きを仰ぎながら、ラウルは続く言葉を口にする。
「もし俺も星を送れるなら……その相手はシズネだね」
 寂しくないように、沢山の綺羅星を。
「オレにとっちゃ、おめぇが星みてぇなもんだけどな」
 眩しくてきらきらしているのに、寂しく輝く缺星。照れ隠しのつもりのシズネが向ける真っ直ぐな想いがくすぐったくて、ラウルは笑みを零す。
「それなら、シズネは太陽だね。君が居てくれるから、俺は輝くことができるんだよ。だから……」
 巡る季節の中、隣で見た彩りを燈す星を携えて――『君』に逢いに行くとラウルは言った。
「じゃあ、オレに逢いに来てくれた星が空に還っちまわないように、この手で捕まえとかないとだなあ」
 たった一つの星が傍で輝いてくれるのなら、それは何よりの幸せに違いないから。
 空を翔ける狼と同じように、星と共に送る日々を。重ねた手のぬくもりにただ、願う。
 見上げれば、泣いてしまいそうなほどに綺麗な星空。本物の星狼がいるかもしれないと探すティスキィの指先が星を繋いで、最後に一番近い所にある金色へと辿り着いた。
 それは、満天の星の中からティスキィが見つけた、運命の一番星。
 あたたかな光を灯すゼロアリエの瞳を見つめながらティスキィは微笑み、機械の手は冷たいからと遠慮する彼にねだって膝の間に収まった。
「あなたの傍にいられることが何より幸せなの」
 逞しい腕に擦り寄れば、想いを馳せて苦しくなった心もほどけていくようで、抱き締められたぬくもりがただ愛おしい。
「ゼロ、あのね、私もうゼロの機械怖くないよ。全部ぜんぶ、大切なの。だから……守られてばかりの私にも、ゼロのこと守らせてね」
 確かな決意を灯した紅緋の瞳を見つめながら、ゼロアリエは彼女の若草の髪を優しく梳く。
「キィは優しいから、守らせてって笑うけど。キミがトナリにいてくれるだけで、シアワセなんだよ」
 そう言って笑うゼロアリエにとっても、ティスキィが一番星なのだ。誰よりもきらきら輝いている――この腕の中、一番近い所に在る『キミ』こそが。
 ――ひとりで見るおほしさまは、時々さみしくなることもあるけれど。
 でも、誰かと一緒ならさみしくない。
「……きっと今頃、狼さんは旅をしてるよね? おほしさまを、ひとりで送るんじゃなくて、おほしさまと、一緒に旅をしてるよね!」
 春乃の願いにも似た声に、メルルもフィエルテもしっかりと頷いてみせる。
「それなら、狼さんもきっと寂しくないですものね」
「ええ、私達が今、こうやって一緒にいるように。狼さんにも寄り添ってくださるお星様が……きっと」
 すると、メルルの腕の中のソウェイルと春乃の傍らを飛ぶみーちゃんが、自分達も一緒だと言わんばかりに声を揃えて鳴いた。
 星の煌めきを見上げながら、ふと春乃が二人へ差し伸べた手。それを見たメルルとフィエルテが自分達の手を重ねれば、春乃の顔にぱあっと咲く笑みの花。つられるように、二人も笑みの花を綻ばせる。
「狼さんとお星さまも、今の私達みたいに寂しくないと良いなぁ」
 メルルの言葉に春乃は頷き、フィエルテは笑みを深めて。
「ね、雪白さん、フィエルテさん、また来ようね!」
「はい、ご一緒してください、なのですよ」
「いつでも、文字通り飛んでいきますから。――春乃さん」
 メルルはほんわりと、そして、フィエルテはどことなくくすぐったそうに。
 何度でも星が巡るように、また一緒に。それはいつかの未来に続いていく、確かな約束。

 梵の手を引き、サフィールは星の降る丘を行く。
 見上げた空は零れ落ちそうなほどに綺麗で、まるで天空の宝石箱のよう。
 星が大好きで大嫌いだったとサフィールは言った。もう逢えない人の面影を探し、彼らと一緒に見た景色を思い出してしまうからと。
「でも、久しぶりにね、ただ綺麗だと思えたんだ」
 それは、きっと君がいてくれたから。
 梵もまた、失った世界に対する罪悪感と空虚感に押し潰されそうになる星空が、星が嫌いだったと頷く。
「だが、君と共に見る星は違う」
 まるで一つ一つの煌めきが、出逢ってからの想い出のように燦爛と輝いているようで。
 星達が囁くように歌う中、サフィールは静かに告げた。
「あのね、梵……、――好きだよ」
 芽吹いた想いを自覚したのは、唇を重ねたあの時。
「きっと臆病な私は、君が好きになってくれたら喪う怖さに怯えるだろうけど。それでも、伝えたかったんだ」
「一人にはしない、置いていったりもしない」
 繋いだ手に力を込め、梵は胸の内に灯る想いをはっきりと言葉に変えた。
 唇を重ねたのは――ただ『君』が欲しいという感情を抑えることが出来なかったから。
「だから、君の傍に居させて欲しい。……俺も、サフィールが好きだ」
 通じ合った想いと願い。自然と重なり合う唇。
 二人寄り添って見上げた星空は、溢れんばかりの煌めきに満ちていた。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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