色鮮やかなまま散る為に

作者:陸野蛍

●空に虹が飛来する時
 春の日差しが暖かい蒼い空に吸い込まれる様な快晴のお昼過ぎ、その小さな女の子は、空に現れたその長大なモノを見、一瞬『虹』が架かったのだと思った。
 しかし、その長大なモノは優雅に口を開いた。
「……妾は彩華。竜十字島から赴きました。妾は重度の『重グラビティ起因型神性不全症』に侵されています。直に、醜く死を迎える事でしょう。美しさを称賛され続けた妾が何もせず、このまま息絶える事に何故耐えられましょう……。ですから最後に妾は、童の美しき力を同胞の為に使い、あなた達人間の瞳が最後に映すのが美しい童である様に致しましょう……。あなた達は、童を憎悪し拒絶するでしょう……それが、同胞の病の進行を遅らせる。そして、その感情を抱きながらもあなた達は、童の美しさを記憶しながら死んでいく……。童の美しさは常しえ……」
 言葉を紡ぎ終えると七色の輝きを放つ龍『虹龍 彩華』は、極彩色のブレスを街へと放った。

●春の砂浜攻防戦
「定命化、つまり『重グラビティ起因型神性不全症』に重度罹患したドラゴンが、そのまま死を待つのでは無く、最後の力で人々から『憎悪』と『拒絶』を得た上で、人々を惨殺し『グラビティ・チェイ』まで奪おうと、市街地の襲撃をしようとしている。みんなには、何としても、この襲撃を防ぎ街の人々の命を守ってもらいたい」
 真剣な表情で言うと、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、今回の依頼内容の概要を説明始める。
「今回狙われているのは、千葉県岩和田海水浴場砂浜を更に西に向かう市街地になる。そこでみんなには、岩和田海水浴場砂浜で襲来するドラゴンを待ち受けて、その場を戦場としてドラゴンを撃破してもらいたい」
 事前に、市街地から一般人を別の場所に避難させた場合、避難中の一般人がドラゴンに襲われる危険性が高く、逆に危険度が上がる為、ドラゴン襲来に備え、住人は全て街の避難指定場所の一か所に一人残らず集まってもらうとのことだ。
「一般人の避難所への誘導は、県警や自衛隊、救急に連絡を取るので、こっちの事に関して、みんなが心配する必要は無い。但し……全住民に、この避難場所に集まってもらうと言うのは、みんながドラゴンの撃破を成し遂げると言う事が前提になっている。みんなが敗北、もしくは撤退する様な事態になれば、人々にもう逃げ場は無い……この意味は、分かるよな?」
 一段低い雄大の言葉。ケルベロスの敗北は、街の人々全ての命が無くなる事に直結していると、雄大は言っているのだ。
「……撃破対象の説明に移るな。今回、現れるドラゴンは雌……いや、女性体と言うべきだな。個体名『彩華』虹属性の美しく七色に輝く鱗が特徴の、東洋龍タイプのドラゴンになる。重グラビティ起因型神性不全症に罹患しているから、体力は大きく減少しているので、ダメージを与え続ければ撃破は可能というレベルで……戦闘力、主に攻撃力だな……は、最強のデウスエクスである『デウスエクス・ドラゴニア』の力を十分に残している。一筋縄じゃいかない相手……と言うより、間違い無く苦戦を強いられる相手と思って、戦いに臨んでもらった方がいいだろうな……」
 強力な力を持ったドラゴンが、自身の死を悟った上でそれを顧みず攻撃して来るのあれば、それはもう神の力を相手するのと相違無いのかもしれない。
「彩華はドラゴンの中でも美しさを称賛されていたドラゴンらしく、その攻撃方法も見惚れる程美しいものが多い。……威力も、桁違いなんだけどな。まず、七色のブレスは受けた者の攻撃的グラビティ・チェインの流れを乱す効果がある。次に背に生えた七対の七色の羽で起こす風には、ヒール効率を下げるグラビティが練り込まれている。そして、ドラゴンとしては珍しく歌を歌う事での攻撃も可能みたいだ……ドラゴンの歌姫とでも言うべき存在だったのかもな」
 呟きながら、雄大は頭をわしゃわしゃと掻く。
「で、最重要事項なんだけど。彩華は直接の攻撃は美しくないと思っているみたいで、序盤は使って来ないと思うけど、最も威力のある攻撃は、ダイヤモンドの輝きを放つドラゴンクローによる直接攻撃になる。この爪は、ディフェンダーであったとしても易々とその身を引き裂く事が可能な程攻撃力が高い。彩華が本当の意味で死を悟るか、彩華の美しさを汚し怒らせた場合……積極的に使ってくる恐れがある。注意しておいた方がいいだろうな……」
 依頼説明を終え、雄大は一つ息を吐く。
「相手は『重グラビティ起因型神性不全症』に罹患しているとは言え、ドラゴンだ。安易に無傷で戻って来てくれなんて、俺には言えない。……それでも、救わなきゃいけない命が沢山ある以上、必ず勝って来てくれ! 死に物狂いのドラゴンは、勿論強い! だけど、俺はみんなの強さもちゃんと知ってる! だから……頼んだぜ!!」
 言うと雄大は真摯な炎を瞳に湛え、ヘリオン操縦席へと駆けて行った。


参加者
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827)
アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
ヴィオレッタ・スノーベル(冬菫のみる夢・e24276)
十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151)

■リプレイ

●蒼天
 空は一面の青空。
 その蒼を映す、穏やかな海。
 この場が間もなく戦場になるとは思えない程、平穏な波が砂をさらう。
「……今回のドラゴンは、かなりの強敵みたいですね」
 風に流れる美しいウェーブの銀の髪を手で抑えながら、南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)が呟く。
「……それでも、こちらとて大勢の街の人々の命が掛かっています。負ける訳にはいきません……なんとしてでも、ここで食い止めなければいきませんね」
 自身に誓った夢姫の言葉だったが、周囲の仲間達も同じ思いなのか、静かに頷く。
(「ドラゴンの歌って、どんな歌なんだろう……」)
 来たる敵を思い浮かべながら、十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151)が、ぼんやりと考える。
 情報によると、今回のドラゴンは歌に力を込め攻撃してくるらしい。
 勿論脅威ではあるが、それと共に琥珀は興味惹かれるものがあった。
「そら、ドラゴンの歌姫の歌……綺麗なのかな?」
 胸に抱く相棒のウイングキャット『そら』に琥珀が訊ねれば、そらはあまり興味が無いのか、目をこすり『にゃ~ん』と鳴く。
 その時、海が空に広がる七色を水面に映し美しい色彩で輝く。
「いらっしゃったみたいだね」
 メンバーの中で唯一の男性なのだが、美しさは女性陣にも負けない容姿、動きで仲間達に戦う相手の到来を涼やかに呟くのは、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)だ。
 クレーエの言葉通り青空から姿を現した『虹龍 彩華』は、砂浜に近付くとすぐにケルベロス達の存在に気付く。
「……このグラビティ・チェインの量……あなた方はケルベロスですね。あなた方は、童がこの場に赴いた理由も知っているのかもしれませんね」
 眼前に居る8人のケルベロス……死に近づいている身体で、何かに気付いたのかもしれない……だが同胞に伝える術も無い。ならば、やるべき事は変わらない……。
「……妾は彩華。妾は重度の『重グラビティ起因型神性不全症』に侵されています。美しさを称賛され続けた妾……最後にあなた方と美しい戦いを所望します。弱きものはその後で良いですから……。童の美しさは常しえであると知りなさい」
 そう彩華は告げるが、攻撃して来る素振りを見せない。
「……何故、攻撃を繰り出さないのですか? 貴女は私達を……街の人を殺したいんじゃないのですか?」
 初めてのドラゴンとの対峙に緊張が隠せず銀翼を僅かに震わせながら、ヴィオレッタ・スノーベル(冬菫のみる夢・e24276)が彩華に尋ねる。
「言葉を交わす前に強襲する戦いが美しいと思って? 童が童の都合を口にしただけ……。あなた方にも、最後に言っておきたい事があるのならば聞かねばならぬでしょう?」
 当然の事の様に、彩華はヴィオレッタの言葉に答える。
(「……これがドラゴン。力だけを振りかざすドラゴンも多いと聞きますが……それでも、ものすごい威圧感、です。けれど、街一つが掛かっているとあっては、怯む訳にはいきませんね」)
 ヴィオレッタは彩華の優美さに触れ……それでも負ける訳にはいかないと、自身のバスターライフルを持つ手に力を注ぎこむ。
「それでは、私も礼を尽くさせて頂きます」
 言うと、身に付ける衣装を一歩進むごとに華美なものにしながら、礼儀正しき淑女の様に旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)が歩を進め、言葉を発する。
「ごきげんよう、お美しいドラゴン……虹龍、彩華様。私の名前は竜華。貴女と同様、竜の華です♪  ふふ……っ♪ 貴女様の最後の一時……私の炎の華で、その美しさを更に彩って差し上げましょう……♪」
 竜華のその言葉に、彩華は満足気に目を細める。
(「同じ華の字の入ったお名前……そして私と同じ竜蛇の力……共感でしょうか? とても楽しい戦いになりそうですね♪」)
 胸の高揚感を抑えられず、竜華も笑みを零す。
 その竜華と真逆の感情を持ったのは、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)だ。
(「……何の罪も無い人達が殺されるのを見過ごすわけにはいかない……ってのは勿論なんだけど、それ以上にこのドラゴン……嫌いなタイプだね」)
 表情に不快感は出さず、緑の瞳でロベリアは彩華を見る。
(「恥ずかしげもなく、自分を本気で美しいとか言っちゃう奴って……個人的に無理!」)
「お前には、何もさせないよ」
「……童を恐れず猛々しい瞳……嫌いではありませんよ」
 明らかに自分を下に見た彩華の言葉に更に『イラッ』としたロベリアは得物の竜鎚を彩華に向け、重く告げる。
「何も出来ないまま、ここで倒れなよ」
 ロベリアのその様子に赤頭巾のビハインド『イリス』は、やや心配げだ。
「……仲間の為に自分の命を捧げるその姿、私は誇り高く美しいと思います。けれど、私達も退くわけには行かないから……全力で相手をするよ。……彩華さん」
 自身の左腕の高揚を抑えながら、御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827)がハッキリとした意志を彩華に見せる。
「死を前に、矜持を持って戦う、美しい貴女を尊敬します……」
 ライトニングロッドを手に最後衛のアトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)がそう口にする。
「その矜持に私達も応えましょう。私も守る為に戦うことに……身命を賭しましょう」
 言葉と共に雷の障壁が降り注ぐ。
 その雷に続ける様に夢姫は、攻撃的グラビティを底上げする電気ショックをクレーエに放つ。細身のウイングキャット『プリン』も翼を羽ばたかせ清廉な力を分け与えようとするが、前を固める者達の数が多い為、効果が大きいとは言えない。
「では、始めようか……? 本気と本気のぶつかり合いは、綺麗なもの……それが血と汗に飾られていてもね。さぁ、最期に美しく居られるのはどっちかな?」
「どうでしょうね……? 始めましょう、ケルベロス」
 雷の霊力を帯びた、獅子の意匠が施された『Gladius de《Leo》』を手にクレーエが砂浜を駆ければ、琥珀が流星の力を纏って彩華に飛び蹴りを浴びせる。
「わたしが、止めるんだ……!」
 琥珀の言葉を聞くと彩華は『デウスエクス・ドラゴニア』としての表情を見せた。

●策
「旋堂さん、エレキブースト行きます!」
 夢姫の電流が竜華へと奔れば、竜華は悦楽の表情を浮かべ炎を纏わせた巨大剣を縦に振り下ろす。
「戦いの中に生きる私達、何と美しい事でしょう♪」
「絶対に負けられないんです……!」
 バスターライフルの引鉄を引きエネルギー光弾を放ちながらヴィオレッタも言う。
(「可能な限り、彩華の力を弱体させないとね」)
 黒き生命体を捕縛の形に変え、彩華を襲わせる琥珀。
「クレーエ、愛華、竜華、下がるんだよ! あいつの羽ばたきがくるよ!」
 彩華のグラビティ・チェインを奪い取る地獄の炎を撃ち出しながら、仲間達を庇う様にロベリアが前に出れば、指示された3人は半歩下がり、代わりに3体のサーヴァントが前に出て、巻き起こるグラビティを含んだ暴風を受ける。
「癒しの雨よ、この青空の中に希望を見出す恵みとなって降り注いで」
 すぐにアトリが傷ついたロベリアとサーヴァントに薬液の雨を降らす。
(「……今の内に、どれだけ彩華さんの動きを制限出来るか……それが勝負の鍵だね」)
 ケルベロス達の考えた作戦を貫き通すには、序盤にどれだけ結果を残せるかが重要な事をアトリを始め、全員が分かっていた。
 彩華の攻撃は多くを巻き込み、そしてケルベロス達のグラビティ・チェインの流れを乱すものばかりだ。
 威力もけして低くは無い……だが、多くの仲間達が一斉に攻撃を受ければ力は分散され、グラビティ・チェインの乱れも最低限で抑えられる。
 だが、それは……ロベリアと3体のサーヴァント達が残っている事が前提だ。
 アトリと夢姫、2人の回復役がタイミングを計ってヒールグラビティを飛ばすが、一気に大勢を回復するグラビティでは、こちらの威力も落ちてしまう。
 ロベリアは手厚くヒール出来たとしても、3体のサーヴァントが自己回復を使ったとしても、何分耐える事が出来るだろうか……。
 だからこそ、アタッカー達は一撃一撃に力を込める。
「動きを止め、息を止め、生を止め……休んだらいいよ、オヤスミナサイ」
 体内に宿る《悪夢》の残滓……穢れたソレは大罪の一つ《怠惰》を体現するモノ。黒き翼を持つ悪魔の化身の黒き羽根に触れれば無気力に苛まれる事を、術者のクレーエは知っている。
「拘束解除……いくよ、ヒルコ!」
 自身に取り込んだ『獄竜ヒルコ』の力を解放すると、愛華の左腕はドラゴンのモノに変じ、その禍々しい鉤爪で彩華の体表を切り裂く。
「固い、けど……傷つかない訳じゃないです。……貴女が仲間の為に、命を賭けて戦うように……私達も皆の命を守る為に戦っています」
 彩華に言う愛華の左目は、真紅に染まっている。
「だから、決してここで死ぬわけには行かないんだよ!」
「分かっていましてよ、だからこそ童もあなた方も美しい……それでは、そろそろ童の歌も披露しなくてわね。ドラゴンの歌姫……彩華、最後の歌ですわ」
 彩華の周りのグラビティ・チェインが急速に収束していった。

●華
「そら!」
 数度目の彩華の美しい歌声が、旋律が戦場に響いた。
 皮肉にも『彩華の歌声とは、どれだけ美しいのかな?』と想像していた琥珀の相棒のそらが、グラビティ・チェインの枯渇により姿を成せなくなると、霞の様に消えていく。
 彩華との戦闘が開始され10分以上……既にイリスの姿も無い。プリンもヒールを重ねてはいるが、時間の問題だろう。
「ドラゴンとの格の違いは、分かって頂けたかしら?」
「はっ! まだ私がいるんだよ。……誰も仲間は、傷つけさせはしないよ!」
 回復を集中的に受けても、仲間を庇い続けた事で負傷が著しいロベリアだが、彩華の問いに強気に答えると両腕を掲げ、彩華に襲いかかる。
「地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる!」
 叫ぶとロベリアは、両腕を構成する地獄の一部を無数の刃に変え、剣風と同時に彩華へと全ての刃を叩きつける。
「……強く美しい貴女との遊びも終わりと思うと、残念でしてよ」
 ロベリアの地獄で作られた刃は、舞い散る花の様に美しく彩華の瞳に映った……それが、自身の身体を蝕む攻撃だとしても。
「わたしはライトニングウォールを張ります。アトリさんは、ロベリアさんを護って下さい」
 アトリの方を見ず口にすると、夢姫は雷杖を天へと掲げる。
 アトリも一つだけ頷くと、すぐに祈りの詠唱を始める。
「旅人達への守護をあなたに…!」
 翡翠色の鳥に祈りを捧げることで、旅行く者の道が護られる様にと願われた力は、ロベリアを護る様に柔らかな色を与え傷を癒していく。
「貴女の美しい身体の傷を広げるのは、あなたの心を傷つける事……それでも、負けられないんです」
 小さな体には大きなチェーンソー剣、それを彩華の傷に当てがい深く刺し込みながら、ヴィオレッタは小さく呟く。
「氷も炎も……鮮血さえも、語り継がれる戦記を彩るアクセサリー。……纏う貴女は美しいまま。さぁ、一緒に踊り続けようか」
 気品溢れるクレーエの言葉……続く空をも断ずる斬撃は、彩華の堅い鱗を無惨に切り裂く。
「ファミリア、空を駆けて勝利に導いてほしいんだよ!」
(「そら、戦いが終わったらすぐに、わたしの前に戻って来てくれるって分かってる……だから頑張るよ。そして、お兄ちゃん……わたしが頑張れる様に力を貸してっ!」)
 琥珀は大好きな人達の顔を思い浮かべ力の限りファミリアを撃ち出す。
「彩華様、私の一番美しい華をご覧になって! 舞い散れ! 炎の華!」
 真紅の炎を纏った八本の鎖が、それぞれ別方向から彩華に襲い掛かると同時に、竜華は炎を思わせる深紅の瞳を彩華に向け、炎を纏った剣で彩華の顔面を真っ直ぐに断つ。
 ……縦横無尽に走る炎と火の粉が桜の花弁を思わせ美しい。
(「童の身体を傷つけてもなお、童の攻撃を受けてもなお……ケルベロスは美しい……ならば仕方ありませんね。童の美しさも常しえ……」)
 それは一瞬の事だった……。
 攻撃態勢に入っていた愛華の身体を鋭く、堅く、美しいものが一瞬にして引き裂き、愛華の鮮血を宙に舞わせた。ロベリアが反応さえ忘れる程の輝きだった。
「くっ……これが、本物の……死を覚悟したドラゴンの、ちから……!」
 ダイヤモンドの輝きを放つ彩華の爪が朱に染まっているのを見つつ、愛華が立ち上がり自身の左腕に語りかける。
「……龍の爪には竜の爪を……お願い。……力を振り絞って、ヒルコ!」
 竜の腕を宿した少女は、神の力を放った竜へと飛びかかった。

●虹の向こうへ
「ロベリアさん!」
「落ち着いて、夢姫さん! 竜華さんの回復を! わたしはクレーエさんを!」
 3度目のダイヤモンド・ドラゴンクロー……ロベリアとて耐えられるものでは無かった。
 既に、愛華も地に倒れ伏し、プリンも消えた。
 もう、仲間達を庇える者もいない。
 ……回復を支える自分達が取り乱してはならない。
 その想いでアトリは叫び、クレーエに魔術施術を行う。
(「そうです。わたし達が倒れたら大勢の人達が……そんなの駄目です!」)
 涙に滲みそうになる瞳を必死でこらえ、夢姫は快楽エネルギーをグラビティに変換させる。
「さぁ――癒してあげなさい」
 夢姫の胸元から生まれた数多のピンク色の蝶は、竜華の傷口に留まると傷口を塞いでいく。
「絶対に逃げる訳には、いかないんだから! 勝たなきゃいけないんだよ!」
 少しでも、彩華の動きを抑えられればと、叫びと共に琥珀はブラックスライムを放つ。
(「仲間を信じ……勝利を掴む。僕達が勝てば、みんな助けられる……」)
 自身の集中を乱さぬ様に動揺する心を抑え付け、目の前のドラゴンだけを瞳に映し、クレーエは幾度目かの斬撃を彩華の身体に刻み込む。
「……彩の華、……竜の華、……炎の華の共演もそろそろ終わりでしょうか?」
「……その様ですわね」
 虹の色彩を放っていた彩華の鱗はズタズタに傷ついていた。
 ……それでも、竜華は……彩華は美しいままだと想った。
 彩華自身が嫌悪していた爪での攻撃すらも美しかった。
 炎の鎖を放ちながら――この戦場で――それが、竜華の答えだった。
「……おやすみなさい、よい夢を」
 戦場に響く彼女が幼い日に聞いた唄は、今はただ悪夢の記憶を呼び覚ますのみ……祈りを諳じ具現化した悪夢の黒い影は彩華の命を飲み込んだ。
 ……一番緊張していたかもしれない。
 ……一番、恐れていたかもしれない。
 ……一番、脅えていたかもしれない。
 それでも、最後に彩華を眠りにつかせたのは……ヴィオレッタだった。
「……お名前に違わぬ美しき散り様でした。……この一時の逢瀬、私は忘れは致しません。……安らかにお眠りください」
 竜華が呟き空を見やると、蒼い空に大きな虹が架かっていた……。

作者:陸野蛍 重傷:ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329) 御門・愛華(竜喰らい・e03827) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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