弩級兵装回収作戦~ブラスト・アンド・ショック

作者:千咲

●ブラスト・アンド・ショック
 ――岩手県盛岡市。
 駅前、徒歩すぐのシティホテル『M』。
 そのホテルの正面入り口に、その少女はいた。漆黒のレオタードを纏った少女の齢の頃は15歳かそこら。
 ふわっとした長い髪は、南国の海のような綺麗なブルー。瞳は銀色で、いずれも美しい輝きを放っている。
 が、少女の異様さは、その美しさではなく、両手のグローブに装着されたガトリングガンと、その背に付いた複数枚の翼のようなパーツ。その翼のようなパーツは透き通った氷のように薄く、間違えて触れでもすれば刃のように鮮やかに斬れてしまいそう。
 少女は……口元に薄くにやりとした微笑みを浮かべ、ひとり呟いた。
「このホテルね。丸ごと破壊する訳にもいかないし……仕方ない。柄じゃないけど地道に探しましょうか」
 そして……。
 少女は、ロビーに入るやいなや、中を確認もせずに、いきなりガトリングガンを乱射。
 居合わせた人々の血飛沫が舞い、壁や柱を構成する石が、粉砕されて弾け飛ぶ。
 咄嗟にテーブルやソファーの陰に隠れた人もいたはずだが、隠れたはずのテーブルやソファーごと貫通され、無惨な血が床を染めた……。
「ゆっくり探そうにも、動くものがあったんじゃ目障りだし……まして、それが人間じゃ、まったく必要ないものね」
 つまらなそうに告げながら、ひたすらガトリングガンを撃つダモクレス。名を『資源略奪部隊長ソラネ』。
 ダモクレスでありながら、胸に、今も生々しい幻覚痛を引き起こす炎の痕を刻まれた少女。
『現状の作戦に変更必要性皆無。資源略奪部隊長ソラネ、殲滅を続けてください』
 通信機から響く『声』を理解しているのかも疑わしいが、結果に変わりはない。少女の両手の銃は、息つく間もなく、ただひたすらに破壊と殺戮の饗宴を繰り広げていた……。

●弩級兵装回収作戦
「みんな、大変なの。地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレスたちが新たな作戦を開始したみたい」
 赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)は、集まったケルベロスたちに、いきなりこう告げた。
「ダモクレスたちは、地球に封印されていた強力なダモクレス『弩級兵装』を発掘しようとしているみたいなの。そして……発掘した弩級兵装を利用した大作戦を行う為、大量のグラビティ・チェインを得るべくディザスター・キングの軍団のダモクレスによる襲撃も同時に引き起こそうとしているの。だから……みんなはすぐに、襲撃される市街地の防衛に向かって欲しいの」
 ダモクレス軍団の恐ろしい企みを説明する陽乃鳥。
「ただ……敵ダモクレスも、今までの経験から市街地を襲撃すればケルベロスが迎撃に来る、ということは織り込み済みのようなの。そこであちらは、踏破王クビアラ軍団のダモクレスにも協力を要請し、迎撃に来たケルベロスとの戦闘はクビアラ軍団のダモクレスが、都市の蹂躙はディザスター軍団のダモクレスが担当する……という作戦を立てているようなの」
 そこで、皆にお願いしたいことが……と陽乃鳥が告げる。
「ダモクレスたちの作戦に対抗して、こちらもタッグを組んで迎撃に当たることになったの」
 つまりは、クビアラ側のダモクレスとディザスター側のダモクレス、双方にそれぞれケルベロスのチームを当てて対抗するというもの。
「みんなに受け持ってもらいたいのは、ディザスター軍団のダモクレス『資源略奪部隊長ソラネ』。ソラネが盛岡市のホテル襲撃を開始したら、まずはクビアラ側のチームが彼女に攻撃、それを想定しているクビアラ軍団のダモクレスが妨害に入ってくるから、そのまま対象を変えて戦闘に入る作戦なの」
 ただ、建物の中で2体に挟まれての乱戦はあまりに危険なため、向こうのチームには、妨害に入ったダモクレスと一緒にホテルの外に出てもらうことを想定している旨を告げる。
「そうなれば残ったソラネは、ホテル内で破壊と殺戮を再開しようとするはず。そこでみんなには、改めて彼女を撃破して欲しいの」
 お願いできる? と確かめるように尋ねる陽乃鳥。
「ソラネの能力は遠距離戦特化型。ただし翼が光ったら要注意ね。そこから放たれる氷の光線は、一撃必殺に値する破壊力を誇るみたいだから……」
 そう言うと、最後にもう1つ、と付け加える。
「ソラネが再攻撃を始めるまでに、避難誘導に一定の目処を付けてもらいたいの。残った人たちが、速やかに逃げられるように。それと人々が逃げるまで注意を惹く役目も。少なからず危険なのは間違いないけれど……」
 そんな真似が出来るのは、ケルベロスだけだから、と。
「人間を邪魔な存在、もしくはグラビティ・チェインのための材料としか見ていないソラネ。彼女のようなダモクレスを放置する訳にはいかないもの。だから……今回の件、何があっても確実に片を付けてきてね!」
 そう言って陽乃鳥は、ケルベロスたちにお辞儀したのだった。


参加者
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)
霧崎・天音(紅騎兵・e18738)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)
天変・地異(愛よ燃え上れ・e30226)

■リプレイ

●避難経路確保
「……姉さん……これ以上、何もさせないよ……」
 霧崎・天音(紅騎兵・e18738)が、小さな声で呟いた。
 彼女ら8人の担当が、ディザスター軍団のダモクレスで資源略奪部隊長に当たるソラネ。彼女の『姉』である。
「虐殺など、させて堪るか……オレたちの手で止めようぜ」
 そんな彼女の気持ちを察することはできても、天変・地異(愛よ燃え上れ・e30226)が掛けてやれるのは、それくらいしかない。
 その間に他の面々は、まずは被害を少しでも減らすため、1人でも多くを速やかに避難させる算段を整えよう。ソラネの目標がホテルの何処かが分からない以上、全館から脱出を図るべき……などと話す。
 そこで8人は大きく上層階、中層階、下層階に分けて事にあたることに。
「警察と消防は、俺たちがホテルに入ってから裏手に集合し、出てきた人々の回収、誘導に当たって貰いたい」
「少なからず怪我人も出ると思います。場合によっては重傷者が多い可能性も……。ですから救急隊の方々も速やかな配備をお願いします」
 地元の警察や消防の責任者を相手に、日月・降夜(アキレス俊足・e18747)と神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が状況を手際よく説明。
 もう1人、クビアラ班のダモクレス、シーカーのドローン監視網に引っかかる可能性を鑑み、今すぐに集結するのはリスクが大きかった。
「集まる方が多すぎても動きが取れません。手の回り具合を見て随時増援できる体制を組んでおいてもらいたい。何としても、これ以上の被害は抑えないと」
 深刻な面持ちで彼らに告げるラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)。命を救う……という共通の目的の前には、的確な状況予測と、その中でベストを尽くす必要があるのだから。
「そろそろ……ですね。避難用の梯子を掛けてから行きます」
 ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)ら高層階を担当する面々は、梯子車を誘導したり、避難梯子を掛けたりと、準備を終えて高層へ。
 次いで中層階、下層階を担当する面々もホテル内へ。

 それは、ちょうどソラネが正面から、ホテルに入ってきた瞬間だった。

●幕間
 ロビーに入るやいなや、両手のガトリング銃を乱射するソラネ。人が居ようが居まいが、そこには微塵の躊躇も見受けられない。
 しかし、その前に飛んできたのはギターケース。無論、瞬く間に粉々にするも、その間に幾人かが人々の前に立った。
「篁流剣術ッ!」
『「蝕・日喰み」!』
 銃弾が悉く弾き返される。驚いたのも一瞬、そのままケルベロスたちとの戦闘が始まった。

「皆さん、ケルベロスです! ただいま戦闘中なので、今すぐ避難をお願いします!」
「みんな、こっちだよ! ここから上にあがって!
 クビアラ班の呼びかけにより、避難しようとする人々に紛れるように誘導にあたるヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)。
(「どっちかって言うと人と話すのは苦手な方なんだけどな……」)
 同じく淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)も誘導に当たるが、正直あまり気は進まない。とは言え避けようもないのだけれど。
「上に梯子が掛かっています。敵はボクらが抑えるから、そこまで辿りついてください」
「落ち着いてね! 怪我人はあっちへ。少しくらいなら1階からでも……」
 混乱する人々に安心を抱かせるのは、地球人ならではの隣人力。そして、その声を確実に届ける割り込みヴォイス。
 その間、高層、中層階を担当した面々も、梯子を掛けた階からの脱出を誘導。警察や消防を招き入れて残りを委ねると、1階へと集結する。

「我が身に纏うは、神薙ぐ乙女の戦装束……」
 狙撃銃から放たれた真紅の光が、氷のような翼に風穴を穿った。
「鬱陶しいっ……!」
 その時、テッポウウオめいた形のドローンが光芒を放ち、ケルベロスの足元を焼く。
 ソラネが、怒気をはらんだ声で乱入者をにらんだ。
「遅い……何してたのよ、シーカー」
「予定通りです。早く入れば巻き込まれました」
 が、ダモクレス同士の会話を他所に、ケルベロスたちはすぐさま外へと向かう。
「来なければ……その間に、出来る事をするだけですよ?」
「あちらは私が対処します。資源略奪部隊長ソラネ、殲滅を続行してください」
 分かり切ったことを……。小さく毒づき、外へ向かう探索者を見送ると、ソラネは再びロビー内に目を移した。

●姉と妹
 破壊と殺戮の饗宴を再開すべく、両手のガトリングを轟音とともに、ぶち撒く。
 が、あまりに手応えが……ない!?
 すぐに周囲に目を向けると、ロビー奥の階段付近から上がって行こうとする人影を発見し、銃口を向けようとする。
 ……そのとき。
「人殺しの機械を動かすための、グラビティ・チェイン集めだって!? 冗談じゃない、人間の命を何だと思ってるんだ!」
 死狼が怒りを滲ませ、声を上げる。しかしそれは激情に駆られただけじゃなく、笛で外に合図をする冷静さを見失わず。
 狩りの対象、あるいはただの邪魔者としか見ていなかった人の群れからあがった威勢の良い声に、ソラネの視線が注がれる。
 殺気? 闘気? 視線の先で、『気』と『気』が激しく火花を散らし、反応するように両手のチェインが床に広がり魔法陣を紡いだ。
 そのすぐ横合いから、1人の少女が走り出し、人々から離れゆく――それは、右脚に地獄の炎を宿した少女。炎が彼女の感情を写し取るかのように、みるみる強く燃え、色濃く灯る。
「……!! アマネ?」
「ううん。私は霧崎天音……もう『アマネ』じゃない……」
「アマネーーー!!」
 胸の傷が疼き、幻覚の痛みを呼び起こした。
 反射的にガトリング銃を連射。しかし、すかさずヴィヴィアンとラインハルトが立ちはだかり銃弾を受ける。
「ヴィヴィアンさんっ! ラインハルトさんっ!」
「大丈夫。これがあたしたちの役目だから……」
 そのままソラネの元まで一気に駆け寄り、鋼を超える硬度の拳を叩き付ける。同時に、ボクスドラゴンのアネリーが属性を付与して傷を癒す。
「天音ちゃんはやらせない!」
 とは言え天音も守られるばかりではない。彼女もまたケルベロス。ゆえに追いかけるように走って寸前で跳び、頭上を越すほどの高さから流星の如き蹴りを放った。
「姿は似ちゃいるが、こんな真似をするのは天音じゃない!」
 地異の両手で回転させるように構えたルーンアックスに、光り輝く呪力が宿る。そして、声に反応したソラネの視線が自身に向けられるのを確かめ、一気に振り下ろした。
「リューちゃん!」
 名を呼ばれたボクスドラゴンのリュガが、ダモクレスの元へ飛び、ブレスを浴びせた。その間に、主の鈴が皆の目の前の空間に呼びかけた。
「空間に咲く氷の花盾……皆を守って!」
 真白き氷の花があちこちに咲く。花は空間と空間をつなぎ、無数の盾が皆の前で折り重なる。
 さらにラグナシセロの元から、輝くオウガ粒子が周囲に散布。粒子の中を金色のボクスドラゴンが飛び回り、粒子を浴びたケルベロスたちの感覚が研ぎ澄まされてゆく。
「ふむ、確かに天音に似ているかな……!?」
 研ぎ澄まされた感覚を通してみても、確かに似ている。が……目の前にその手で怪我をした者が居る以上、似ても似つかぬ存在であることは明らか。
「……だが、容赦はしない」
 チーターのウェアライダーとしての本領発揮、と言ったところか、降夜の神速のような踏み込みと共に放つ電光石火の蹴撃が彼女の鳩尾に決まる。
 続けてラインハルトが前に出るが、それよりも一歩早く、ソラネが氷のような翼を展開、ブーメランのように放った。
 弧を描くように飛ぶ極薄の刃が、ケルベロスたちの身体を斬り裂いてゆく。
「こんなところで立ち止まってる訳にはいかない」
 そう叫んでなおも前進するラインハルト。すでにその身体はガトリング銃創も相俟って満身創痍。さらにアイスウィングの1本が肩口に突き刺さる。
「何故? なんで前に進める? どうして倒れない?」
 恐怖に似た感情が浮かぶのを察し、この程度で倒れるものか、と返しざまの蹴り。
 が、さすがにダメージの蓄積か、勢いが足りない。
 そこでヴィヴィアンのバイオレンスギター。凄惨な場を洗い流すかのように明るく希望に満ちた交響曲。虹色の光が踊り、仲間たちを包み込んでゆく。
「姉さん……これが今の私なの。許してとは言わない……私はダモクレスも、そして姉さんも裏切ったのだから……でも……それでも人のため、姉さんを倒す!」
 2本の鉄塊剣、激炎と雷火が爆ぜるような勢いで姉を斬り裂く。それはかつての傷を思わせるほどに。
 思わず数歩後ずさるソラネ。そこへ死狼が全身に禍々しい呪紋を浮かび上がらせながら叫んだ。
「僕は……いや、オレは自分を抑えない! この機械野郎、人間がてめぇらの思い通りになると思ったら大間違いだ。この星を舐めるなよ!」
 荒ぶる感情を爆発させる彼に、ソラネはむしろ丁度良いと言わんばかりに銃口を向けると、辺り一帯に向けて撃ちまくる。
「もう、やめろ!」
 地異が頭上高く振り上げたアックスを叩き下ろした。さらに降夜が、まさに冷たく一言。
「凍り付け!」
 途端、周囲の熱が一気に失われ、銃口とソラネの躯とを氷が覆った。

●フリーズゼロ
 しかしソラネはそんな氷をものともせず、渇いた音と共に割ると、再び前に出る。
「まったく、誰もかれも目障りね……これが私? ふざけないで。アマネ……あなた、自分で消してほしいと言ったんでしょう?」
 ラグナシセロが止めに入る。消すなどと言う言葉に、かつての自分が思い起こされ、悔いが蘇る。人は守るものです……と、凍結する光線を放つ。
 ……しかし。
「冷気で私は止められない!」
 効いているはずだが、それを微塵も出さぬソラネ。
 いつの間にか元に戻った翼が光を放つ――凝縮する凍気。
 察した地異がすかさずヒールドローンを恋人の前に飛ばす。
 更に、片膝を付いて日本刀を構えるラインハルトの元から、鍔鳴りの音。
「……次元斬・葬」
 静かに告げた台詞に遅れて、見えぬ刃が空間ごと断つが、それでも歩みは止まらない。
 その胸の裡にある凍り付くような憎しみが、極白の光となって天音に注いだ。
「今ここで、消してあげる!」
 魂までも凍り付きそうな一撃。だが、右脚で燻る地獄の炎が激しく燃え上がり、辛うじて持ち堪えた。
「恨まれても、憎まれても仕方ない……けど今はまだ……消される訳にいかない!」
 地を蹴るように踏み切った勢いで、地獄の炎弾を放つ天音。だが、放った直後に崩れ落ち、膝を付いた。
 一気に畳み掛けるべく詰め寄るソラネの前に、降夜がヌンチャクにした如意棒を叩き付ける。が、片方の銃身を盾にして受け流したところで死狼の命令――捕食モードとなった黒い粘液が覆い被さる。
 それを払いのけたところに、死角とも言える高度からラインハルトの蹴りが突き刺さった。
「天音さんには、わたしみたいな後悔だけはしないで欲しいです。そのために全力でサポートしますから」
 と、オーロラの如き光で仲間たちを優しく包み込む鈴。次いで天音の周りを飛び回るリューちゃんはさらに楽しそうに癒しの力を手向けた。
 ガガガガッ……!!
 ガトリング銃がひときわ高い回転音と共に火を噴いた。
 落ち着いて治療する間もないくらい激しい攻撃に、ヴィヴィアンらも本気で治癒に回らねばならない。
 桃色の霧。そしてアネリーの属性インストール。
「豊穣を司りし神々よ、我らに慈悲を与え給え」
 ラグナシセロの声に応じるように、暖かく澄んだ空気と軽やかな微風が包む。
「もう一度だ……凍り付け!!」
 降夜が再びソラネの周囲から熱を奪い取り、その身をふらつかせた――が、急速に冷え込んだ熱は、そのまま彼女の翼に吸収され、冷気の光となって凝縮された。
「来るぞ! 例の一撃だ!!」「来るっ!」
 感じたのは確かな予兆。狙われているのは、やはり……。
 ただし、幸いこの先のタイミングは一度見た。あとはどれだけ被害を抑えられるか。
「これで終わらせる!!」
 ソラネが言うより早く鈴が前に出た。それを真白き光の帯が包む……。
「時空氷壁全力展開!」
 先に展開していた氷花の盾――だが、悉く光の前に打ち砕かれてゆく。
「そんな……押され……っ、し、熾炎業炎砲!」
 咄嗟に出した御業が爆炎の弾を放ち、光にぶつけた。激しい爆音と共に空間が爆ぜ、巻き起こった熱風が些か各自の肌を灼く――代わりにフリーズゼロの光は消え去っていた。
(「くっ……翼が完全なら打ち勝っていた筈なのに……」)
 ソラネの歯咬みする声が聞こえた気がした。

●さようなら
「大丈夫か!?」
「天音ちゃん! 良かった……」
 もしもまともに喰らっていたらと思うと、地異もヴィヴィアンも背筋が凍る。
 すぐさま快楽の霧、そしてアネリーやヘルが超速で傷口を塞いでいった。
「弩級兵装とか言ったか、それもぶっ壊してやる! 俺はお前たちを破壊する牙、ケルベロスだ!」
 怒りが頂点に達していた死狼が、両腕の鎖でソラネを締め上げる。そこに、ラインハルトの見えない斬撃が決まった。
「覚悟はいいですね」
「ほら。ケリをつけて来い」
「決めるぞ! 天音!!」
 地異がルーンを描いた斧を振り下ろす。勢いに負け、崩れ落ちるように両膝を付くソラネ。そして……。
「姉さん……私を恨んでくれて構わない。でも……姉さんたちの手で亡くなった人々の恨みは、すべて私が晴らす……地獄の……怨嗟の声を聞け!!」
 天音の右脚に憎しみや恨みが炎となって宿る。炎はそこから無数の刃となって爆ぜ、姉の躯を貫く――整った容貌を、かつてないほどの苦悶に歪めるソラネ。
 彼女の裡に響くは道半ばにして死した者たちの怨嗟の声。
「…………アァ……アマネ……っ!」
 自身では決して消せぬ炎が、ダモクレスの躯を余すことなく灼き……時間も掛からず灰燼に帰す。

 その様を――姉の最期を見詰める天音の瞳から、涙が止め処なく溢れ、流れてゆく。
「さようなら……姉さん。大好きだった」
 その足許には、ソラネが着けていた筈のリボン――焼け落ちる前に外して投げたのだろうか。最期の瞬間に、ようやく柵から解き放たれ、姉妹の情が戻ったと見るべきか。
 天音は、そんな姉の想いを感じ、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。

 こうして弩級兵装を巡る戦いの1つは終焉を迎えた。
 ケルベロスたちはホテルの外へと出て行った面々の戦況を確認。速やかに事後処理へと移ってゆく。
 今回は乗り切ったもののダモクレス軍団が壊滅した訳ではない。次なる事件はすぐにまた起きるのだろう――ケルベロスたちの真の休息は、まだずっと先のことであった……。

作者:千咲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 5/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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