●砲列の防衛
三重県四日市市にあるコンビナートは、すでにダモクレスの制圧下にあった。
内部では何体かのダモクレスが、なにかを探している。
探索している地域を2種のダモクレスが守っていた。2体ではなく、2種である。大量に配備された量産型のダモクレスが護衛についているのだ。
うち一方は、黒い金属で作られた兵士。分厚く頑丈そうな外装の内に機械部品を詰め込んだ彼らはすべて同じ姿をしており、そしてすべて同じ大砲を肩に背負っていた。
発掘がうまくいっているのかどうか、彼らは興味を示さなかった。
量産型ダモクレス――タイタンキャノンたちは、命じられた仕事をこなすだけだ。
彼らはどうやら2体ずつを基本として行動しているらしい。一定の間隔を置いて歩哨に立っている組と、決まったルートをひたすら巡回している組がいる。
もう1タイプの量産型担当地域のようなものがあるのかもしれない。
不意に、羽音がその場に響いた。
何にも興味を示さないかのような量産型ダモクレスたちが、音に即座に反応する。
歩いていた者は立ち止まり、立っていた者と共に音の出所を確認すべく周囲を見回す。
迷い込んできた鳥を見つけた瞬間、彼らは迷わずその大砲を向けていた。
容赦のない砲撃を受けて鳥は一撃で肉塊に変わる。
明らかに死体となった鳥にダモクレスの一組が近づき、確かに死んだことを確かめる。
仲間たちに身振りでそれを伝えると、彼らはまた何事もなかったかのように見張りを再開し始めた。
●ヘリオライダーの依頼
地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレスたちが、新たな作戦を開始した。
「しかも、どうやら今度は共同で作戦を行うようです。目的は弩級兵装と呼ばれる強力なダモクレスの発掘です」
石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はケルベロスたちに告げる。
弩級兵装は、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装だ。
『弩級高機動飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つが存在しているらしい。
「すべての弩級兵装が完全な力を発揮すれば、ダモクレスの戦力は今の数倍から数十倍に引き上げられることが予測されています」
見過ごすことはできない状況だと芹架は言った。
発掘が行われている施設は、指揮官型の1体『マザー・アイリス』の配下である量産型ダモクレスによって護衛されている。
今回の作戦では、まず量産型ダモクレスに攻撃を加えておびきよせ、ひきつけている隙にチームが施設に侵入。連携して弩級兵装の破壊を試みる手はずになっている。
「皆さんには『弩級外燃機関エンジン』の発掘を行っている三重県四日市市のコンビナートに向かい、警護している量産型ダモクレスをひきつけるのを担当していただきます」
まずは量産型ダモクレスたちをおびき寄せる必要がある。
さらに、潜入チームが施設に入った後、量産型をひきつけ続けることも役目となる。そうでないと量産型が施設内の増援として向かってしまうからだ。
「もっとも、量産型は数えきれないほどいますので、いずれは撤退に追い込まれるでしょう。いかに戦いを長引かせて時間を稼ぐかが重要なポイントとなります」
芹架はケルベロスたちを見回した。
各発掘現場ではそれぞれ2種の量産型ダモクレスが警護を行っている。1チームにつき1種類の量産型を担当する形になる。
「皆さんに担当していただくのは、タイタンキャノンという量産型ダモクレスです」
肩に大砲を担いだ、頑丈そうな外見のダモクレスだ。
量産型の戦闘能力は、平均的なケルベロスに比べて低いと考えていいが、数を考えればけっして楽な戦いにはならないはずだ。
「言うまでもなく、最大の脅威は肩の大砲ということになります」
威力が非常に高い上に防具までも破損させてくるが、命中性能は多少劣る。
他に、逆の肩にはミサイルランチャーが装備されている。
範囲をまとめて吹き飛ばすミサイルは、ホーミング性能も高く当たりやすい。
さらに両腕にも小型の砲を装備している。近距離用のこの砲は連射性能が高く、攻撃されれば足を止められてしまうだろう。
「このタイタンキャノンを、最初に10体以上ひきつければ潜入チームが行動する隙ができるでしょう」
もちろん、数が多ければ多いほど潜入チームが行動しやすくなる。
ただし、数分……おそらくは3分ほどたつごとに、最初にひきつけた数の半分くらいが増援として現れることが見込まれる。
ひきつける数を少なめにすれば、戦いを長引かせて時間を稼ぎやすくなるだろう。
「たくさんひきつけて行動しやすくするか、数は抑えて時間を多く稼ぐか、どちらを優先するか考えて、それに見合った作戦を立てていただくといいでしょう」
どうするかはケルベロスたちの判断に任せると芹架は言った。
なお、現場でアイズフォンを含めて通信機器は使えない。ひきつけた数や戦闘状況を潜入チームやもう一方の量産型担当チームに伝えることはできないと考えたほうがいい。
芹架は説明を終えると、あらためてケルベロスたち一人一人に視線を向けた。
「護衛を引き付ける囮役というと地味に感じるかもしれませんが、目的を達成するには量産型への対処が必要にして不可欠です」
まずは皆の活躍がなければ、潜入チームは十分に動くこともできないのだ。
「弩級兵装が敵戦力に加われば、被害ははかりしれません。どうかよろしくお願いいたします」
参加者 | |
---|---|
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451) |
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326) |
長船・影光(英雄惨禍・e14306) |
野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493) |
兎塚・月子(蜘蛛火・e19505) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591) |
川北・ハリ(風穿葛・e31689) |
●コンビナートの敵
離れた場所でヘリオンから降りたケルベロスたちは、ダモクレスに支配されている四日市市のコンビナートへ向かった。
できれば入念な準備をしてから挑みたいところではあるが、残念ながら発掘はすでに進められており、時間の余裕はほとんどない。
「せっかく地図を手に入れてくれたのに悪いけど、建物は作り変えられてるみたいだね」
スーパーGPSで自分の現在位置を確かめながら館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が仲間たちに小さな声で告げる。
「仕方ない。地図は参考にする程度にしておこう」
野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)が淡々と言った。
「施設の外はそのまま使えそうだだぜ。撤退の時は役に立つんじゃねぇの?」
「そうだな。時間の許す限り撤退ルートについては確認しておこう」
ガラの悪い笑みを浮かべる兎塚・月子(蜘蛛火・e19505)の言葉に、長船・影光(英雄惨禍・e14306)が小さな動きで頷く。
「場合によっては戦闘不能者を抱えて撤退することになる。退路の確認は重要だ」
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)も頭部を縦に振る。
敵の姿はすぐに見つけることができた。
「随分と数が多いな……1匹見たら20匹居ると思えってヤツか。とりあえず1ダースほど駆除しようか」
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)が無表情に告げる。
敵の真っ黒な装甲は確かにとある昆虫を思い出させるかもしれない。
「タイタンキャノンっスか……見た目からして黒くて固くて光っていやらしー奴っス」
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)がポケットから手を抜く。
金髪をツインテールにした少女の手にはリボルバーが握られていた。
「気の抜けない時間稼ぎになるでしょうね。退屈なのよりは良い、と思うしかありませんか」
同じく愛用の銃を構えた川北・ハリ(風穿葛・e31689)も無表情に言った。
巡回のダモクレスが通り過ぎる間に、6組の歩哨と接触するルートを手短に選ぶ。
「鬼さんこちら手の鳴る方へっス」
コンスタンツァが引き金を引いた。
「SYSTEM COMBAT MODE」
マークが目を光らせる。
敵が大砲を構え始める間に、ケルベロスたちは一塊となって姿を見せた。
●大砲をかいくぐれ
銃弾が1体の装甲を打つと、狙った一組の他に近くにいたもう一組のタイタンキャノンがケルベロスたちへと大砲を向けてきた。
放たれた砲弾のうち、2発はケルベロスたちの後方で爆発を起こした。残る2発は、マークとウルトレスが仲間をかばって体で受け止める。
歩哨の索敵範囲を密集した状態で通過していくケルベロスたちへと、次々にタイタンキャノンの砲弾が襲いかかる。
もっとも命中性が低いようで、およそ3分の1は地面に穴を開けるばかりだが。
大砲による砲撃で仕留められなかったことを確認し、ダモクレスは距離を詰めてくる。
前方をふさがれる形になったところで、ケルベロスたちは足を止めた。
一糸乱れぬ動きで、ツーマンセルの敵のうち一方は前衛、一方は後衛に位置どっている。
不律は脚部にスピーカーのようなパーツを露出させた。
前衛の1体に向かって彼女は踏み込んでいく。
「痺れるぞ」
奏でる調べとともに、球状の音塊が彼女の周囲に浮かび上がる。
音の塊は敵にぶつかった瞬間破裂し、内部機構を揺さぶった。
打撃を受けた敵にマークの改造アームドフォートからビームが貫く。
別の前衛に向かって影光が接近していった。
「世に満ち充ちる影に立ち。人に仇なす悪を断つ。骨には枯木を、肉には塵を、濁る血潮は溝鼠。擬い物の手にて、散れ。偽・管理者権限実行」
一瞬影光の動きが変わった。
英雄の力を振るい、痛烈な斬撃をタイタンキャノンへ叩き込む。
ケルベロスたちを囲む敵は予定通り12体。
打撃役である不律と影光は休むことなく攻撃をしかけて敵を削らねばならない。それもなるべく無駄のないように。
仲間たちはフォローしてくれるはずだ。特に敵の攻撃から守ってくれるマークとウルトレスは、ネット上のものではあるが不津にとって元からの友人でもある。
少しずつ後退しつつ、不律は次に狙うべき敵が誰か淡々と観察していた。
コンスタンツァの素早い銃撃と、ウルトレスの回転する腕が不律の音塊で傷ついていた敵に止めを刺す。
攻撃を集中しつつもケルベロスたちは徐々に後退していた。
なるべく自然に、敵に圧されて下がらざるを得なくなっている風を装って。
後退しながらも月子が携帯端末を操作すると、仲間たちの背後に派手な爆炎が上がって戦いの始まりを彩る。
ハリが魔眼を光らせたかと思うと、詩月が後衛から一気に前進して影光の傷つけた敵に気を流し込んだ。
ケルベロスたちが下がるのに合わせて、仲間の残骸には目もくれずにダモクレスたちが前進してくる。
ホーミングするミサイルが、あるいは近距離から連射される小型砲がケルベロスたちを狙うが、まだまだ致命打とはならない。
「リメンバーフォーエバー」
コンスタンツァの歌うバラードが、タイタンキャノンの攻撃で弱体化させられたケルベロスたちを支えていた。
包囲網にはもう穴ができているはずだ。そして、それは後退するごとに広がっている。
ウルトレスは戦闘開始からの時間を計測していた。
(「……2分経過。もうすぐ増援が来る」)
再び大砲を構え始めた敵を観察する。前衛が半分が倒れており、残り3体。いずれもダメージを負っており、そのうち1体はあと一撃加えれば倒せるだろう。
だが、最初の増援までに4体では目標に足りていない。
「識別情報入力 攻撃目標設定 支援開始」
マークがレーザードローンを展開して仲間の攻撃を支援する。
(「俺も火力を強化しておくべきか」)
冷静に分析したウルトレスは、ベースギターを抜いた。
バッケンリッカー社製エレキベースのカスタムモデルは、ケルベロスの激しい演奏に耐える堅牢な造りをしている。
「伴奏させてもらいましょう。バラードに合わせるには激しいかもしれませんが」
弦を弾き、共に前衛で戦う仲間たちに呼びかける。
「いいっすよ。バラードの次はあいつらにアタシの想いを伝えてやろうと思ってたっす」
コンスタンツァの弾くバイオレンスギターの音がウルトレスの演奏と重なる。
「任せてもらおう、UCさん。私もミュージックファイターの端くれだ。見事なセッションを奏でるとしよう」
不律も静かに応じた。
レプリカントのウルトレスの曲に合わせて、機械の歌い手が音の塊を生み出す。
「サイレンナイッ フィーバァァァァッ――!!!」
疾走感あふれる演奏に合わせ、ウルトレスはこれまで物静かだったのが嘘のように激しいシャウトを響かせる。
「アンタらにはただの餌場でもアタシにとっちゃ生まれ育った故郷(ホーム)っス!」
そして、コンスタンツァの叫びもまたウルトレスに負けないほど激しかった。
「ふるさとの心がわからないデカブツはアタシの唄を聞けっスー!! アンタらはアウェイっス! ダモクレスゴーホーム!」
ウルトレスの曲によって活性化したコンスタンツァが絶望しない魂を歌い上げる。さらにはマークのドローンが追撃を重ねた。
傷ついていたダモクレスの1体が、歌を聞いて崩れ落ちていく。
「GOOD KILL! GOOD KILL!」
機械的な声ながらもマークが賞賛の言葉を発した。
他の仲間の攻撃も、まるで演奏に合わせて踊っているようだった。
詩月はチラりと演奏する3人へ目をやった。
(「正直に言えば興味がある……けどね」)
向けた目を伏せる。
彼女の表情は変わらないが、それはただ表に現れないだけだ。そして、今はそうすべき時ではないこともわかっている。
足音が聞こえた。
ダモクレスの増援が近づいてきたのだ。
6体のタイタンキャノンが、2列に並んで戦場へと飛び込んでくる。
「気を引き締めなくちゃいけないね」
息を吸い込み、大型弓を構える。ここからは回復重視だ。
増援のタイタンキャノンたちが一斉に大砲を構える。
特に傷ついているのはコンスタンツァとウルトレスの2人。セッションを重ねる2人に再び目を向け、詩月は弦を弾いた。
「――式の早打ちは得意でね」
弾いた弦が涼やかな音を戦場に響かせる。
即席で織り上げた符から御業を召喚し、コンスタンツァを守らせる。
「慎重に、苛烈に攻めていきましょう」
ハリもウルトレスへ桃色の霧を放出していた。
次の増援までに7体のダモクレスが倒れていた。
月子は次なる増援たちに凄みのある笑みを見せる。
「このゲリラライブは先着順やで」
増援が来るタイミングを狙って仕掛けておいた浮遊機雷群を降下させた。
「でも飛び入りも大歓迎だとさ、手熱いね」
爆発が道に炎を呼び寄せる。
うまくすり抜けた前衛の背後で、もとからいた後衛たちも含めて敵が燃え上がった。
敵をかく乱するのは彼女の得意とするところなのだ。少しずつ距離を取りつつも月子はまだ余裕そうな表情を続けていた。
●撤退
徐々に後退を続けながら、ケルベロスたちは戦闘を続ける。
ケルベロスたちに潜入が成功したかどうか知るすべはないが、可能な限り彼らのために時間を稼ぐよりない。
とはいえ、三度目の増援が現れる頃には、もう大半のメンバーが余裕がない状況に追い込まれていた。特に前衛の者たちは一様に厳しい域まで蓄積している。
それでもなんとか6体を倒しきったところで同じだけ増援が現れた。
味方でもっとも多くのダメージを受けているのはコンスタンツァだった。
コンスタンツァは無数の尾を引いて降り注ぐミサイルから不律をかばった。
2人分のダメージを立て続けに2回受けたところで、新たに現れた敵の大砲までもが少女の体を打つ。
自分の意思に反して体が倒れていこうとしているのを彼女は感じた。
ギターを握る手に残った力を込めて、倒れ行く体を武器で支える。
「ダモクレスなんか怖くねっス。ここはアタシたちのホーム、地球っス。アウェイに大群で押し寄せたってかなうわけねっス。こっちは背負った声援と人命の熱量が違うんス!」
叫びを上げると、微かに体に力が戻ってきた。
地面についていたギターを再び腕に抱える。
ダモクレスたちに歌がわかるのだろうか。それでもコンスタンツァは弦を弾く。
「今のアタシの気持ち……故郷を守りたい願い、伝われっス!」
集まってきた敵が逃げないよう、傷だらけのまま彼女は絶望しない魂を歌い上げる。
怒りを感じているのかいないのか、敵は一言の言葉も発さずにただ攻撃を続けてくる。
少なくとも、彼女を狙ってくる攻撃が他の誰よりも多いことは間違いなかった。
とはいえ、頻度の差はあれど他の者たちも攻撃にはさらされ続けている。
ハリは無表情に跳躍すると、自分を狙う砲弾を蹴って攻撃をかわす。
回避しやすい中距離で戦う彼女は、他の仲間たちよりも比較的体力に余裕がある。そして、巫術により精度を向上させた彼女専用の拳銃は確実に敵を捕らえ続けている。
「頑丈そうで撃ち易い敵さんです。私の弾は、そんな大砲にも負けません」
今にも倒れそうな1体に銃口を向ける。先ほど回避した攻撃の主だ。
「撃たれたいなら、仕方ありませんね」
引き金を引く。愛用の拳銃でしか撃てない淡緑色の魔力弾が飛び出した。
高い貫通性能と制度を誇る弾丸は、ダモクレスを貫いて破壊する。
敵の数はまた減って言っている。だが、ケルベロスの限界は徐々に近づいてきていた。
詩月はすでに攻撃に回らず、ひたすら回復だけを続けている。
集中攻撃を受けていたコンスタンツァが倒れていったのは、戦闘の時間が10分を超えた頃だった。
仲間を守っているウルトレスやマークも限界が近かったし、打撃役の不律や影光も傷だらけの体を必死に動かしてダモクレスを削り続けている。
影光は倒れていく仲間に一瞬手を伸ばしそうになった。
けれど今は仲間を気にかけている状況ではない。晦冥之門と名付けられた刀を影光は握り直した。
(「スタン……彼女の歌は、ダモクレスに届いていたのだろうか」)
言葉には出さない。けれども、全力で己の想いを歌い上げていた彼女に、影光は仄かに憧れを感じていた。
敵の数は思うように減っていない。
彼は倒しきるよりも無傷の敵を削るべく動いていたが、戦線を維持するためには弱っている敵を狙わなければならないだろう。
「…………」
地面を蹴り、加速。
突撃しながら前衛の敵を一気に薙ぎ払う。
傷ついていた1体が崩れ落ち、残る敵の黒い装甲にも刀が傷を刻んでいく。
仲間が倒れてもダモクレスたちは何も反応せず、ケルベロスへの攻撃を続ける。
きっと影光も、あの敵たちと同じような存在なのだろう。それでも、焦がれてやまぬ英雄に少しでも近づけると信じて、彼は次なる敵へ刃を向ける。
だが、次に倒れたのは影光だった。
ウルトレスとマークがかばおうとして、しかしかばいきれないほどの攻撃が不律と影光を狙ったのだ。
不律はギリギリのところで耐えきったが、影光は静かに倒れていく。
「ちょーっと多かったか……」
月子が湿っぽい妖気を集めて不律へ飛ばし、回復する。
「限界まで、やれることをしましょう」
詩月も神楽を舞い、回復の符を作り出した。
「すまない、助かる」
回復してくれた2人に礼を述べながら、不律が拳を握った。
魔を喰らう打撃がダメージを与えつつ体力を奪い取る。
マークは改造アームドフォートを不律が傷つけた敵へ向ける。
「ENEMY DESTROY」
レーザーの一閃が敵を打ち倒し、彼は静かに声を発した。
ハリの銃撃もさらに1体撃破して、敵の数は9体に減った。
けれど、反撃と放たれた大砲が今度はウルトレスを打ち倒す。
「UC」
「9さん、12分です。次の敵が来ますよ」
マークにだけ聞こえる程度の声で告げながら、彼は倒れた。
「了解」
事務的な声でマークは応じる。
言葉通り、すぐに増援は現れた。
味方は3人が倒れている。残念だが、撤退すべきタイミングだ。
マークは自分自身の被害状況を確認した。
……ギリギリだが、殿を引き受けることはできそうだ。
「倒れた者を頼む」
「撤退だね。僕はまだ体力は残ってる。一緒に攻撃を引き受けるよ」
詩月が防御を固めながら、マークに並んだ。
マークは頷く。詩月なら問題ないだろう。
「仕方ねぇな。せいぜい威圧しながら帰るとしようぜ」
増加した敵に武器を向けながら、月子が言った。
「時間が十分に稼げているといいのですが」
「そうだな。後は潜入チームを信じるとしよう」
ハリと不律が言葉をかわした。
「GO!」
マークの呼びかけを合図に、負傷した仲間たちを抱えてケルベロスたちは撤退する。
作戦が成功することを祈りながら。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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