弩級兵装回収作戦~白きサジタリウス

作者:りん


 秋田県秋田市。
 眼下で水しぶきが上がるのを、アレクシア・サジタリウスはただ見つめていた。
「………」
 底が抜けた堀ががらがらと崩れ落ち、真下の地下道が崩壊していく。
 青い人影……拠点防衛型ドール・リンドウはクレーターから出ると早速、行動を開始していた。
 手近にあった自動車を持ち上げると、近くの美術館へと放り投げる。軽々と飛んでいく自動車は美術館の外壁を破壊し、人々の悲鳴が聞こえた。
 彼女は何か言葉をかけたのだろう、周りの人間が我先にと逃げ出していく。
 それらを気にすることなく歩いていくリンドウの後を、アレクシアはつかず離れずついていく。
 やがて目の前に現れた病院は、彼女の標的となったらしい。ドラゴンブレスが病院の一階部分を燃やし、逃げ惑う人々を青い炎が包み込む。
 熱と恐怖と混乱とで逃げ惑う人々は逃げ切れるはずもなく、ただ残忍な殺戮の犠牲となっていくだけ。
 一階が火の海と化した病院から逃げ出すのは至難の業。
 ここまでやれば、きっと彼らは来るだろう。
 そう、ケルベロスたちが。
「………」
 アレクシアはリンドウの虐殺を眺めながら、静かに時を待ったのだった。


 ヘリオライダーの千々和・尚樹(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0132)は集まったケルベロスを前に口を開いた。
「地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したようです」
 指揮官型ダモクレスたちの狙いは『弩級兵装』という強力なダモクレスの発掘だ。
「その弩級兵装を使用するためには、大量のグラビティ・チェインが必要となります。ですので、それの補給も、その作戦に含まれているようです」
 グラビティ・チェインを集めているのはディザスター・キングの軍団のダモクレスで、市街地の襲撃事件が発生しているらしい。
 ここに集まってくれたケルベロスたちが行うのは、この市街地の防衛だ。
「ですが……敵のダモクレスも今までの経験からケルベロスが来ることは想定済みのようで……。踏破王クビアラ軍団のダモクレスが迎撃に来た皆さんの足止めをするようです」
 やってきたケルベロスたちの相手をクビアラのダモクレスが引き受けている間に、ディザスター・キングのダモクレスがグラビティ・チェインを確保する作戦なのだろう。
「ですので、こちらも2チームで対応することとなりました。皆さんに本格的に対応をしてもらうのは踏破王クビアラ軍団のダモクレスです」
 クビアラ軍団のダモクレスは現場に到着した時はどこにいるかわからない。
 だが、ディザスター軍団のダモクレスに戦闘を仕掛けるとそれを守るために出てくるので、まずはディザスター軍団のダモクレスと交戦する必要があるという。
 この後、出てきたクビアラ軍団のダモクレスを相手取ることになるのだが、残ったディザスター軍団のダモクレスは他のチームが迎撃に当たるということだった。
「皆さんはディザスター軍団のダモクレスと少し交戦した後、クビアラ軍団のダモクレスの相手をしていただくということになります」
 ディザスター軍団のダモクレスとの交戦はそこまで長い時間ではないだろうが、2連戦となるのは確定だ。きちんと作戦を立てておくべきだろう。
 先に戦うディザスター軍団のダモクレスは拠点防衛型ドール・リンドウ。
 斧とも剣ともとれる巨大な刃を武器に、遠距離広範囲の蒼い炎のブレス、近距離の突き、回転しながら近距離の敵を斬りつけるなどをしてくるようだ。
「そして皆さんに撃破して欲しいのがアレクシア・サジタリウスです」
 攻撃は三叉槍での三連突きと、背中の翼のような部分から放たれるマルチプルミサイル、そしてコアブラスター。
 攻撃力が高いが体力は普通。しかし普通とは言ってもすぐに倒れるような敵ではない。
「途中で戦う相手が変わるという変則的な戦闘となりますが、皆さんならきっとうまく気持ちを切り替えて対処できると思います」
 では参りましょう、という尚樹の言葉に促され、ケルベロスたちはヘリオンに乗り込んだのだった。


参加者
アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
望月・護国(空に綴られた虚空の原理・e13182)
歯車・巻菜(ラブスパイラル・e15522)
櫻木・乙女(罪咎と膺懲と贖罪の少女・e27488)

■リプレイ


 破壊された街並みを横目に、ケルベロスたちは目的の場所へと走っていた。
 炎の海と化し始めている待ちからは人々が必死に逃げ惑う。
 人波をかき分けるように辿り着いたその場所で、目的の人物……リンドウは彼らを待ち構えていた。
「神宮寺家筆頭戦闘侍女、ユーカリ参ります」
 ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)の名乗りと共に相棒のミミック……トラッシュボックスが具現化させた武器でリンドウに殴りかかっていた。
 それに合わせてユーカリプタスがかちりと手元の爆破スイッチを押し、カラフルな爆発が起こった。
 その爆発に髪を靡かせながら攻撃を仕掛けたのは櫻木・乙女(罪咎と膺懲と贖罪の少女・e27488)。
 呼び出された半透明の「御業」がリンドウの体を掴み、地面に投げつける。
「貴様の蛮行もそこまでだ、ダモクレス! 我らケルベロスが狩りに来たぞ!」
 ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)が、全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し前衛の体に纏わせた。
 爆風を背にリンドウの前に飛び出した蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)の手には光の剣。
 愛用のマインドリング……想誓から作り出されたそれはリンドウの体を確かに薙ぐが、不敵に笑う彼女にどれくらいのダメージを与えられているのか。
 望月・護国(空に綴られた虚空の原理・e13182)が前衛の足元にケルベロスチェインを展開して守りを固めれば、アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051)も地面に守護星座を描いていく。
(「まずは、耐え凌ぐ……!」)
 リンドウとの戦闘はケルベロスたちにとっては前哨戦。
 2戦目が本命の相手なのだから、ここで力尽きることだけは避けたかった。
「行くよ」
 義父と義母の加護を受け、歯車・巻菜(ラブスパイラル・e15522)は小型ドローンを展開していく。
「みんな……お願い!」
 巻菜の声を合図に、ドローンはリンドウ目がけて一斉に砲撃を開始していた。
 煙幕が消えるその前にリンドウに噛みついたのはマリオン・オウィディウス(響拳・e15881)の田吾作。
 リンドウの意識がそちらに向いている間にと、マリオンは霊力を帯びた紙兵を前衛に向かって散布した。
「……ふん」
 全員の行動が終われば向こうのターン。
 リンドウが大きく息を吸い込んだかと思うと、ケルベロスたちに蒼炎が襲い掛かったのだった。

 耐え凌ぐ。
 それを目標としていたリンドウとの戦いは、概ね彼らの作戦通りになっていた。
 自分たちが倒れないように、そして自分たちの身を強化するためにとった行動は、結果として巻菜を救っていた。
 義母の宿敵と、義母と義父と共に戦う。
 それは彼女の心を高揚させてしまったのか、巻菜は彼女自身が思っていた以上に突出してしまっていた。
 現在彼女が立っているのは前衛。
 気付いた時にはすでに遅く、リンドウの持つ特殊な形の刃が彼女の体に突き刺さっていた。
「巻菜!!」
 よろける彼女の体を護国が抱きとめる。
「これぐらい……何とも、無い……!」
 まだ意識はあるが、今すぐに動けるような状態ではない。
 早く回復を施そうとするケルベロスたちを前に、リンドウはつまらなさそうに息を吐く。
「この程度とは、拍子抜けだが……まぁいい。お前達の相手は、私じゃない」
 彼女の言葉と共に大量のミサイルがケルベロスたち目がけて降り注ぐ。
 それが誰の仕業かなど、言うまでもない。
「………」
「アレクシア……」
 アレクシア・サジタリウスの姿を確認し、アシェリーは反応のない姉の名をぽつりと呟いたのだった。


 リンドウが立ち去った後、ケルベロスたちは早速行動を開始していた。
 まずはもう一つの班に連絡をしようとしたマリオンの動きが止まる。
「……、アイズフォンが使えません」
 相手が連携を取って来るならこちらも。
 そう考えて出されたこの作戦。敵はそれだけこちらを脅威と見なしている。
 だからそれなりの手段……連絡手段を封じられることも考慮に入れなければならなかった。
 アイズフォンがダメだと判断した後の行動は早かった。
「任せて。私がやるわ」
 連絡役の手が塞がっていた時の為と用意した信号弾。
 使うことはないかもしれないと思っていたそれを、アシェリーはリンドウが逃走した方角へと発射する。
 向こうのメンバーが気付いてくれたかはわからないが、アイズフォンが使えない今、この信号弾しか連絡手段がないのだ。
「任せたである!」
 娘をマルチプルミサイルから庇った護国は、彼女をアシェリーに託すと2人を守るように前に出た。
 先ほど娘の分までマルチプルミサイルを受けた体は所々に傷が出来ているが、これからが本番だ。倒れてなどいられない。
 そしてリンドウ戦では防御を優先していたため傷は思ったより深くはない。
 家族を守るように前に出た護国を複雑な心境で眺めながらも、乙女はアレクシアへと駆け出した。
(「アシェリーさん……護国さん……私は、私は……」)
「貴女を壊せば、私の気持ちも晴れるかしら―――」
 靄がかかる心とは裏腹に輝きを増すエアシューズは重力を味方につけ、アレクシアの体にダメージを与えていった。
「回復致しますね」
 本来ならポジションを変更するつもりだったユーカリプタスだが、現状を見てその予定を変更していた。
 仲間のフォローするのはメイドたる自分の役目。
 回復をしている主人の穴を埋めるように、トラッシュボックスがアレクシアへと攻撃を仕掛ける。
 アレクシアから視線を外さず、ジドはアシェリーに話しかけていた。
「アシェリー、貴様とアレクシアの間にどのような因縁があるか、仔細は知らぬ。だが、因縁というものは清算せねばならない」
 そうだろう?と問いかけながら、ジドは後衛にオウガ粒子を纏わせて、少しながらも巻菜の傷を癒していく。
 2人の回復で何とか一人で立てるようになった娘から手を離し、姉を見つめる。
 その横を駆け抜けるのは真琴だ。
「確実に倒すぞ」
 流星の煌きを見送り、アシェリーはゾディアックソードを握りしめる。
 崩れた瓦礫、逃げ惑う人々、血に濡れた体……。
 この光景を見ても『姉』は何も感じていないらしい。
 だとすれば、やることは一つだ。
「私は貴女を止めるわ。仲間と共に……!」


 ダモクレスとの2連戦。
 それは予想以上に厳しい戦いとなっていた。
 一度崩れた態勢は立て直すのに時間がかかる。
 アレクシアの攻撃は確実にケルベロスたちを追い詰めて、ミミック2体はすでに姿を消している。
 仲間たちの傷を、マリオンは必死に癒し続けていた。
 メディックである自分はこのチームの命綱。
 その役割分担はアレクシアにもすぐさま分かったのだろう。
 彼女の攻撃は主にマリオンへと向けられていた。その攻撃をディフェンダーの2人が抑え、抑えきれなかった分は何とか耐える。
 攻撃力が高いと事前に聞かされていた通り、アレクシアの攻撃は一撃一撃が重かった。
 ディフェンダーの傷も、後衛の傷も増えていく中、クラッシャーが足りないと判断した真琴はポジションを変更する。
 1ターンは攻撃できなくなるが、ここで変更せずに戦闘を長引かせた方がより仲間を危険にさらしてしまうだろう。
「すまない、耐えてくれ……!」
 動けない彼の横を仲間たちの攻撃が走り抜けた。

「ユーカリにお任せあれ」
 コアブラスターから自分を守り傷を増やしたユーカリプタスへ、マリオンはすぐさまオーラを投げつける。
「大丈夫ですか」
「問題ありません」
 そう受け答えをするが、彼女の服はすでにボロボロだった。
 しかしそれは目の前のアレクシアも同じこと。
 身体にはいくつもの筋が入り、白い部品は黒く煤けている。
 見た目からしてもすでにかなりのダメージが入っているのが見て取れた。
 しかしそれでも、アレクシアの表情は変わらない。
 ただただ目の前の敵を屠るためだけにその槍を振るっていく。
「アレクシアさん……貴女に恨みは無いけれど」
 乙女の口から古代語が紡がれ、それは魔法の光線となりアレクシアの体を撃ち抜いていく。
 それに続くのはユーカリプタスとジド。
「そこ! 脆いですね」
「全てを砕く!」
 ユーカリプタスの指先がアレクシアの弱点を的確に突き、鋼の鬼と化したジドが全力で拳を振るう。
 装甲が砕け、飛び散り、それでもまだ立っているアレクシアに、真琴は符を取り出した。
 腕から流れる血を指に付け、紅に染まった符を空に投げる。
「万象生みし根源たる力、我が血の元に呼応せよっ!」
 びゅうと風が吹きすさびアレクシアの動きを阻害すれば、そこに護国が降魔真拳を、巻菜がフォートレスキャノンを撃ち放つ。
「アシェリー殿、任せたである!」
「ママ今だよっ!」
 2人の声にアシェリーが動く。
 姉と揃いのアームドフォートの六門の砲塔にエネルギーを溜めていく。
 限界までエネルギーはただ一人だけを貫くために。
「……滅びよ」
 力ある言葉と共に放たれたそれは、アレクシアの体を撃ち貫いたのだった。


 しん、と静まり返った戦場に、ケルベロスたちはヒールをかけていた。
 敵とはいえ、身内を自らの手で葬るという行為は、決して後味のいいものではない。
「アシェリーママお疲れ様。その……大丈夫?」
 心配そうにこちらを覗き込む巻菜に、アシェリーは小さく頷いた。
 2人の肩を護国が優しく叩き、ようやく辺りの空気が緩んだ。
 そんな光景を遠巻きに眺めていた乙女は複雑な心境に息を吐いた。
 じゃあ私は先に、そう告げた乙女をマリオンが追いかける。
「何を言ったものか、といった感じですが……何か食べに行きましょうか」
「な、何を……私は……泣いてなんか……」
 そっとハンカチを差し出すマリオンに乙女はフルフルと首を振って俯いた。
 リンドウの方はどうなっただろう。
 仲間たちの無事を祈る彼らの頬を、春の風が撫でていったのだった。

作者:りん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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