弩級兵装回収作戦~機械仕掛けの記憶

作者:雷紋寺音弥

●弩級の脳髄
「諸君。此度の『弩級兵装』の発掘は最重要作戦である」
 通信映像より伝えられし、コマンダー・レジーナの命令。その言葉を反芻しながら佇むのは、純白の装甲に身を包んだ機械人形。
「量産機によって周辺警備も万全と言えよう。しかし、不測の事態があってはならない。特に『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の重要性は皆も認識しているな、このコマンダー・レジーナが陣頭に立つ意味も」
 事の重要性を告げるコマンダー・レジーナの言葉にも、機械人形は何の反応も示さなかった。その女性騎士のような外観が示す通り、それは忠誠の証なのか。あるいは、心を持たないダモクレスであるが故に、感情の起伏を見せないだけなのか。
「発掘した『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の転送準備は鋭意進行中だ。万一のときは不完全でも転送させるが、それはあくまで最終手段だ。エキドナ・ジャスティス、製造番号012375640号、記録参謀『マスター』ジェネシス……全てはあなた達の手腕にかかっている。完全体の弩級兵装を入手するためにも全力を尽くせ――総員、奮起せよ!」
 響き渡るコマンダー・レジーナの声。だが、それを聞いてもなお、女性騎士型の機械人形は、何ら表情を変えることもせず。
「最重要項目、確認完了……。量産機による警備状況、更新……。『弩級兵装』の発掘を開始します……」
 記録参謀『マスター』ジェネシス。赤い瞳が光り輝き、色の無い肌をした人型のダモクレスが動き出す。単機で戦況を覆す程の力を持った、弩級の『記憶』を掘り起こすために。

●弩級兵装破壊指令
「召集に応じてくれ、感謝する。地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したようだ」
 ただし、それは今までのように局地的なものではなく、より大規模な侵攻であるとクロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。
「連中は、地球に封印されていた強力なダモクレス……『弩級兵装』の発掘を行おうとしているらしい。弩級兵装は、その名の通り重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装だ。『弩級高軌道飛行ウィング』、『弩級絶対防衛シールド』、『弩級外燃機関エンジン』、そして『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つの兵装が現存している」
 これら、全ての弩級兵装が完全な力を発揮すれば、ダモクレスの地球侵攻軍の戦力は現在の数倍から数十倍まで引き上げられるとの予測もある。このまま黙って見過ごせば、それは確実に後の憂いへと繋がることだろう。
「今回、お前達に担当してもらう『弩級兵装』は『弩級超頭脳神経伝達ユニット』だ。この弩級兵装の発掘には、ダモクレスの司令官、コマンダー・レジーナが直々に指揮をとっている。司令官が陣頭に立っていることから、この兵装が最も重要なものであることは間違いない」
 今回の作戦では、まずは弩級兵装の発掘が行われている施設を警護する量産型ダモクレスに対して別のチームが攻撃を加え、その隙に複数のチームが施設に潜入し、連携して兵装の破壊を試みる。厳しい戦いとなることが予想されるが、完全な弩級兵装をダモクレスが手に入れることだけは、なんとしても阻止しなければならない。
「可能ならば、弩級兵装の完全破壊が望ましいが……それが出来なくても、弩級兵装に損害を与えて、その能力が完全に発揮できないようにする必要があるだろうな」
 クロートの話によれば、レジーナ部隊は茨城県つくば市にある大学の校舎を改造し、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の発掘を行っているとのことである。一般人の避難が完了しているのは幸いだが、それでも油断は禁物だ。
「確認されている発掘施設は、全部で4つだ。白いドーム状の建物で、外から内部の様子までは解らない。おまけに、4つの施設の距離はかなり離れている。各施設毎に攻略を行うことは必須だな」
 『弩級超頭脳神経伝達ユニット』は非常に繊細な兵装であるため、コマンダー・レジーナが直々に担当しなければ、作業を行うこともできないようだ。そのため、コマンダー・レジーナが撃破されると同時に、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の転送が開始されるように設定されている。正しい手順を持ってすれば、いつでも兵装を転送できるようなのだが、少なくとも戦闘中には転送を行うことができないのはありがたい。
「コマンダー・レジーナを素早く撃破した場合、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復は完成しないが、完全破壊することもできなくなる。完全破壊するには、コマンダー・レジーナのチームが戦闘を継続している間に、それ以外のチームが各施設にいるダモクレスを撃破。修復中の『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を攻撃し続けて、大ダメージを与えてやれば破壊することもできるだろうな」
 上手く立ち回れば完全破壊も充分に可能。だが、施設の周囲を警備している量産型ダモクレスを引き付けているケルベロスのチームが敗退すると、量産型ダモクレスが施設側に増援として現れてしまうので、あまり時間を掛け過ぎると作戦が失敗してしまう。
「あまり欲張り過ぎると、レジーナを倒す機会さえ失ってしまい兼ねない。おまけに、敵はレジーナだけではないからな。そちらへの対処も必要だ」
 今回、こちらのチームで対処すべき敵は、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の発掘に参加している女性騎士型のダモクレスである。記録参謀『マスター』ジェネシス。背部に装備したアームドフォートに加え、プリズム状の剣や斧を手にした宝玉で自由にコントロールし、マインドリングのグラビティに似た攻撃を行うこともできる強敵である。
「弩級兵装か……また、とんでもないものが出てきたな。だが、ここで黙って指を咥えて、見ているだけというわけには行かないよな?」
 完全破壊を目指すのはよいが、状況によっては、より大きな損害を与えることを優先せざるを得ない場合もあるだろう。どちらにせよ、状況に応じて適切に対応できるよう心がけ、作戦を成功させて欲しい。
 最後に、そう結んで、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ル・デモリシア(占術機・e02052)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)
ドラーオ・ワシカナ(歌砕龍・e19926)

■リプレイ

●全てを記録する者
 冷え切った空気が漂う機械の牢獄。潜入のために足を踏み入れた施設の中は、そう形容するに相応しい場所だった。
 どちらを向いても、あるのは得体の知れない機械ばかり。外の喧騒とは反対に、何ら血の気の通っていない物体が、辺りをぎっしりと埋め尽くしている。
「敵は、完全に外の陽動に引きつけられているようですね。今の内……でしょうか~?」
 サラキア・カークランド(白鯨・e30019)の言葉に、他の者達が無言で頷いた。現に、この施設を守る量産型ダモクレスは外部からの誘導に引っ掛かり、その分だけこちらは安全に侵入することができていた。
「弩級兵装というと、エインヘリアルが持っていたガイセリウムのような代物だろうか?」
 現状でさえ厳しい戦況。それ故に、敵に強大な戦力を与えるわけにはいかない。そう、カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が口にしたところで、唐突に開けた場所に出た。
「あれは……」
 言葉を切って、正面に立つ存在を見据える一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)。そこにいたのは、純白の鎧に身を包んだ、女騎士のようなダモクレス。
「『マスター』ジェネシス、か……」
 油断なく間合いを測りつつ、富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)もまたエクスカリバールを握り締めた。
 この部屋の入り口はひとつ。周りには身を隠すような場所もなく、恐らくは動物に身を変えても結果は変わらなかっただろう。
 だが、それでも構わない。全ての任務を果たして帰還する際のことを考えれば、逃げ道は大きく開かれていた方が都合が良い。
「記憶参謀……くかかっ! ワシ自慢の歌声も記録してくれるかのぅ?」
 誘うようにドラーオ・ワシカナ(歌砕龍・e19926)が問うが、ジェネシスは答えなかった。ただ、こちらに表情のない顔を向けたまま、何かを探るよう視線を動かし。
「照合……開始……。対象のパターンを解析……」
 感情の起伏を感じさせない冷たい口調で言い放つと、自らの周囲にプリズム状の物体を展開し始めた。
「こうなったら、やるしかないようだな」
「ふむ、そのようじゃな。しかし……」
 ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)の問い掛けに頷きつつも、ル・デモリシア(占術機・e02052)は、しばしジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)へと目をやった。
 漆黒の鎧に身を包んだ騎士。レプリカントの彼にとって、『マスター』ジェネシスのように、時に他のダモクレスを新たに造り出している存在は、産みの親にも等しい相手。
 そんな相手を前にして、果たして彼は戦えるのか。ふと、一抹の不安がよぎるが、しかしそれは直ぐに杞憂だと気付かされた。
「照合……完了……。該当するダモクレス個体、存在せず。侵入者、ケルベロスと判明。抹殺します」
 ジェネシスの口から発せられる非情な言葉。ダモクレスであることを捨て、レプリカントへ生まれ変わったジョルディのことを、既に彼女は同族と見做してはいないようだ。
「どうやら、情けは無用なようだな。ならば、母よ……我が嘴と爪を以て、貴方を破断する!」
 遠慮は不要。今、目の前に立つ者は自身の創造者などではなく、倒すべき敵以外の何者でもない。
 ならば、この瞬間だけは、戦うために創造された無情の戦士へ戻るとしよう。何かを破壊するためではなく、守るべき者達の剣と盾になるために。
 その想いを胸に、ジョルディは白き鎧を纏ったダモクレスへと、敢然と巨斧の刃を振り下ろした。

●猛攻の番犬達
 発掘施設に響き渡る衝撃と金属音。プリズムが弾け、爆風が飛び交い、鋼と鋼がぶつかり合う。
 記録参謀と名乗ってはいるが、その名に反してジェネシスは強かった。彼女は、単なるダモクレスのデータバンク等ではない。繰り出す光を、時に剣に、時に斧に変えて操る彼女の力は、8人のケルベロスを前にしても何ら見劣りしない程。
「戦闘レベル……データ解析……。排除、開始……」
 無機的な機械音声と共に投げ付けられたプリズムが、円盤に姿を変えてケルベロス達に襲い掛かった。すかさず、ムギやカジミェシュが間に割って入ろうとするが、光輪は彼らの間をすり抜けて、後ろに立つ白亜やル達の身体を直撃した。
「戦いながら、こっちの戦闘パターンまで記録してやがるのか? だが……」
 行動を読まれ、一瞬だけ歯噛みするムギだったが、直ぐに気持ちを切り替える。
 敵がこちらのパターンを記録し、上書きして仕掛けてくるというのであれば、こちらはその更に上を行けばいいだけのこと。
 元より、人間は不完全な存在。が、しかし、だからこそ、そこに希望がある。機械にはない、無限の可能性。人間の底力とやらを見せてやると。
「食らい……やがれぇぇぇっ!」
 ハンマーを掲げ、真正面から仕掛けるムギ。殆ど捨て身に近い攻撃だが、それは却ってジェネシスの予測を混乱させることに繋がった。
「母よ……。やはり、貴方は所詮、どこまでも機械でしかないのか……」
 予想外の動きに行動を乱されているジェネシスを前にして、ジョルディは複雑な心境だった。もっとも、それで剣を振るう手から力を抜きはしない。今の自分は、ダモクレス『JD-KLIG Mk-44』ではなく、ケルベロスとしてのジョルディ・クレイグなのだから。
 掲げた大剣に稲妻のような紋様が迸った瞬間、その刀身が地獄の業火に包まれる。かつて、同じくジェネシスより創造されし後継機。自らの弟とも呼べる存在が使っていた、遺品とも呼べる武器を横薙ぎに払い。
「その鎧、砕かせてもらおうか」
 燃え盛る一閃が降り抜かれた瞬間、続けてカジミェシュの一撃が、ジェネシスの纏っていた装甲を粉砕した。
「まだまだじゃ! 次は、その中に纏った衣服まで破り捨ててくれるわ!」
 唸りを上げて、装甲の亀裂に突き刺さるドラーオのチェーンソー剣。執拗過ぎる程の攻めだが、強敵を相手にするのであれば、むしろこのくらいが調度良く。
「とりあえず、これでフォローは十分でしょうか~?」
 サラキアの展開したオーロラの光が、彼女を含んだ後衛の者達の傷を、優しく包み癒して行く。
「データを記録する敵……。ですが、この動きが見切れますか?」
「撹乱か? 妾も参加させてもらうとしよう。小さき意思とて侮ってはならぬぞ」
 跳ね回る瑛華の弾丸に重ねるようにして、続々と発射される、ルを模した機械人形達。怒涛のように押し寄せるそれらは、瞬くまにジェネシスへと取り付いて。
「……ッ!?」
 瞬間、振り払う暇も与えずに大爆発! それでも倒れる素振りを見せないジェネシスだったが、そこへ襲い掛かるのは、駄目押しで放たれた白亜の一撃。
「データだけが、私達の全てじゃない」
 爆発の煙が晴れると同時に、流星の如く真っ直ぐに繰り出された蹴撃が、ジェネシスの頭を真横から鋭く蹴り抜いた。

●決別
 戦いが長引くに連れ、戦況は徐々にだが確実に、ケルベロス達の方へと傾いていった。
 ジェネシスは強い。だが、それはあくまで、彼女を記録媒体として見た場合の話。純粋な戦闘だけに特化すうて考えれば、やはりどうしても、他の場所を守るダモクレス達に劣る面があるのは否めない。
「わたしはあなたを……逃がさない」
 鎖状に具現化したグラビティ・チェインを敵の腕に絡み付かせ、瑛華が自身の腕にも結びつけた。逃げ場を失い、鎖を外そうと抗うジェネシスだったが、続けてルもまたケルベロスチェインを展開し、ジェネシスの身体を締め上げた。
 これでもう、相手は自由に逃げ回ることさえ困難になったはず。ならば、後は一気呵成で攻め続け、早々に弩級兵装までの道を開けてもらうのみ。
「見えてるだけが、全てじゃないな?」
 白金色の炎を纏い、猫の姿となって突撃する白亜。圧倒的なスピードを駆使し、ジェネシスにデータを収集させる暇さえ与えずに。
「強敵とはいえ、所詮は情報端末か」
 ボクスドラゴンのボハテルに回復を任せつつ、カジミェシュの蹴りがジェネシスの頭部飾りを打ち砕く。それでも表情一つ変えないジェネシスだったが、その頬に生じた亀裂の中からは、複雑に入り組んだ不気味な機械の塊が顔を覗かせている。
「損傷、拡大……。敵、ケルベロスの戦闘力、こちらの想定を上回る……」
 完全に押されていることを察して、ジェネシスは必死に情報を上書きし、次なる一手を講じているようだ。が、それを更に上回るのが、生きた人間である者達の可能性。
「そろそろ、終わりにしたいですね~。一気に氷漬けにしてあげましょうか~?」
「白き闇。煌めく死。天穹渡る生者嘆く慟哭。北の端より至るは氷霧の主。天翔ける霜の鳳。その翼下に禊の風吹雪かん。凍結せし墓標を穿て!」
 サラキアの放った弾丸がジェネシスの時さえも凍らせる中、ドラーオの声が北の大地の嵐を呼ぶ。吹き荒ぶ氷雪。無数の雹塊。それら全てが、あらゆる存在を静寂なる沈黙へと至らせる死出の案内者。
「データ以上の力……。解析不能……理解不能……」
 その身を凍結させながらも、ジェネシスは困惑した様子のまま砲塔から多数の焼夷弾を発射する。だが、苦し紛れに放たれた攻撃では、もはや今のケルベロス達には通用せず。
「重騎士の本分は守りにあり!」
「舐めるなよ! こちとら、鍛え方が違うのさ!」
 剣と斧、そして盾の全てを使って衝撃を緩和するジョルディと、むしろ真正面から攻撃を受け、強引に耐え切るムギの二人。
 纏わりつく業火が彼らの身体を焼いていたが、彼らにとっては些細なことだ。元より、速攻での撃破を目的として戦っている。ならば、肉を切らせて骨を断つ戦い方こそ、望むところ。
「我が筋肉に撃ち貫けぬモノなし!」
 地獄化した炎を右腕に溜め込み、それを反動にして放たれるムギの拳。どれだけ強固な鎧を纏おうと関係ない。音速を超えた一撃は、防具諸共に敵の身体を貫通し。
「新たな戦う理由が有る。だから、貴女の最高傑作には戻れない。さようなら……母よ」
 崩れ落ちるジェネシスの身体を抱き留めながらも、ジョルディは自身の身体に宿したコアの力を解放した。
「HADES機関オーバードライブ! 最終形態『インフェルノ・フォーム!』」
 燃え上がる地獄の炎が、彼の全身を包んで行く。炎の魔人と化したジョルディの力は、そのままジェネシスの身体へと注がれて行く。
「オオオ! 滾る心が魂燃やし! 地獄の炎が悪を討つ! 受けよ超必殺!」
 この状態では、僅か10秒に満たない稼働時間。だが、それで十分だ。今こそ、ジェネシスに見せてやろう。最高のダモクレスではなく、それを超える存在となった、ケルベロスとしての強さと力を。
「ソウル……オーバー!」
 己の身体が崩壊する一歩手前。その、ギリギリのタイミングで全エネルギーを注ぎ込み、ジョルディはジェネシスの身体を爆散させる。爆風が晴れ、再び漆黒の騎士としての姿へと戻ったジョルディの手には、ジェネシスの頭部にあった羽飾りだけが、悲しげな輝きを帯びつつ握られていた。

●弩級崩壊
 記録参謀『マスター』ジェネシスは倒れ、後は弩級兵装を破壊するのみ。戦いの余韻も覚めやらぬ内に次なる標的へと攻撃を再開したケルベロス達であったが、それを見逃してくれる程、この地を守るダモクレス達も甘くなかった。
 巨大な銀盾を持つチャリオットメイデンに、ダモクレスであった頃のジョルディを彷彿とさせる、その名もズバリ、量産型ジョルディ。陽動を振り切ったのか、あるいは撃ち漏らされたのか。弩級兵装と守るべく、量産型ダモクレスの群れが続々と湧いて現れたのだ。
「拙いですね……。弩級兵装を破壊できても、このままでは逃げ場が……」
 迫り来る敵の群れを意識しつつも、瑛華は弩級兵装へと攻撃を続けていた。それは、他の者達も同様なのだが、しかしこのまま量産型ダモクレスを放置しては、本当に周囲を完全包囲されてしまう。
「Ego occidam et ego vivere faciam。 percutiam et ego sanabo」
 歌声と共に白い霧を展開し、サラキアは傷ついた仲間達のフォローへと回った。今は、少しでも兵装を破壊する時間を稼ぎたい。その一心で、治癒の呪文を口遊み。
「これで……最後だな」
 無数の釘が生えたエクスカリバールを、白亜が全力で叩き付ける。その衝撃が、凄まじい音と共にドーム全体へ伝わって、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の一部は、ついにその機能を停止した。
「終わったか……。ならば、後は残る雑魚を片付けるのみだな」
「ああ、そうだな。だが、この状況では、ガスや信号弾を使うわけには……」
 敵群と対峙するジョルディに、カジミェシュもまた覚悟を決めた様子で答える。
 この場でガスなど散布すれば、それはガスの場所にこちらがいると敵へ教えているに等しい。同様の理由で、下手に信号弾など放てば、やはり周囲の敵をこちらへ誘き寄せてしまう。
 ここまで来たら、撤退のための小細工は逆効果だ。疲れた身体に鞭打つことになるが、正面から突破する他にない。
「俺の筋肉を舐めるなぁぁあああ!」
 何が相手だろうと関係ない。邪魔をするのなら押し通る。そのために筋肉を鍛えて来たと叫び、ムギは敵陣へと突貫して行く。それを見た他の仲間達も、苦笑しつつ武器を構え直し。
「くかかっ! これだけギャラリーがおれば、歌い手としても本望じゃのぅ」
「さて、今回ばかりは妾もだらだらしては居れぬな? デモリシアの名に相応しい悪魔ぶりを見せてやろう」
 ドラーオの放った竜砲弾と、ルの放った焼夷弾が、それぞれに敵軍を吹き飛ばして行く。
 作戦は、無事に帰還して初めて成功したと言えるものだ。その言葉を胸に刻み込みつつ、8人のケルベロス達は迫り来る量産型ダモクレスを蹴散らしながら、ドーム状の建造物を後にした。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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