弩級兵装回収作戦~バグトルーパー 黒の憤怒

作者:黒塚婁

●高知県山中
「あははははははは」
 掘削の音が響く室内――剥き出しの岩肌に様々な機械が設置された洞窟を部屋と呼ぶならば、であるが――に、音に負けじと哄笑が響く。声の主はこの部屋の主、リモデ・ラーソンだった。目の前で縦横無尽に動き、精密な作業を行う機械群を誇るように笑った彼女は、突如、その笑みを止め、言葉を紡ぐ。
「見ろヨ。アンバークン。これが『弩級絶対防衛シールド』。ボクらの求めていた弩級兵装だヨ」
 独白のような問いかけに、バグトルーパー・アンバーは鷹揚に頷き、応じる。その様子にリモデは満足げな表情を浮かべた。
「キミにも判るかい? この素晴らしさが。そして、それを発掘・修復できるボクの凄さがネ!」
 そう。今や最重要作戦となった弩級絶対防衛シールドの発掘だが、高度な技術と細心の準備を要するそれを行えるダモクレスは限られていた。リモデもその一員である。彼女の腕無くして発掘の成功はあり得ず、仮に何らかの不都合で発掘に失敗してしまえば、弩級兵装の機能は失われ、完全に取り戻すことは不可能となるだろう。
「でもぉ、リモデ様~♪ 他の無知で無謀なデウスエクスがぁ、ここを嗅ぎつけて来ちゃうとか楽しい事が起こっちゃったらどうするんですかぁ? アハハハ♪」
「いい質問だネ。スマイリィクン。それこそがキミ達を呼んだ理由だヨ。秘密基地周辺は量産型ダモクレスが配置されているけど、それだけじゃ心許ナイ。対処をキミ達にも頼みたいんダ」
 一体でも一騎当千の能力を持つリモデはしかし、己の信頼する三体の配下を呼ぶことで防衛能力を盤石なものへと転じようとしているのだった。
「万が一に備えて転送準備も並行して進めてるヨ。不完全な発掘になったとしても、その時はその時だからネ。だけど、そんなことにならない。そうだろう?」
「……ひっぐ……わ、解ったの……ティアに……任せて、欲しいの……」
「頼もしいね、ティアークン。やはりキミ達はサイコーだヨ!!」
 バグトルーパー・アンバー、バグトルーパー・スマイリィ、バグトルーパー・ティアー。三体のダモクレスを前に、リモデは鬨の声を上げる。
「さぁ。諸君。完璧に弩級兵装を発掘する為に、全力を尽くすのだヨ!」
 その声に弾かれるように、三体のダモクレス達は洞窟の唯一の出入り口へと向かうのだった。

●破壊作戦
「地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したようだ」
 集まったケルベロス達を一瞥してから、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は低く切り出す。
 地球に封印されていた、強力なダモクレスである『弩級兵装』――その名の通り、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装で、『弩級高機動飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の四つの現存が確認されている。
 新たな作戦とは即ち、それらの発掘である。
 全ての弩級兵装が完全な力を発揮すれば、ダモクレスの地球侵攻軍の戦力は現在の数倍から数十倍まで引き上げられると予測されている。
「これを見過ごすわけにはいかぬ――よって、こちらは弩級兵装の破壊することとなった。貴様らは他三班と共に『弩級絶対防衛シールド』の元へ向かってもらう」
 辰砂は資料を手に、続ける。
 シールドは高知県山中の洞窟内に存在しており、リモデ・ラーソン率いるバグトルーパーが発掘に向かっている。
 周辺は量産型ダモクレスによって警護されているが、それらへ別チームが攻撃を仕掛け引きつけている隙に『シールド破壊に向かう四班』は洞窟へ攻め込み、連携し弩級兵装を破壊する。
 目標は弩級兵装の完全破壊であるが、仮にそれが達成できずとも、弩級兵装に損害を与え、その能力が完全に発揮できないようにする必要がある――これが作戦の概要である。
「さて、ここまでは良いな? ――重要なのは、此処からだ」
 洞窟の入口はひとつ。リモデ・ラーソンが発掘を行っている間、三体のバグトルーパーがその唯一の入口を護っており、まず此処を突破せねばならない。
 ゆえに三班がそれぞれを狙い襲撃、一班を先に洞窟内部へ向かわせる作戦をとることになるのだが――。
「問題は、開戦を察したリモデ・ラーソンが転送装置を稼働させることだ。これは十二分で弩級兵装の転送を完了する。それまでに奴を倒さねばならない――それは貴様らの領分ではないやもしれぬが、ひとつ憶えておくことだ」
 更に、仮に転送を阻止できたとしても、完全破壊までの時間が約束されるわけではない。
 シールドの破壊にはかなりの時間が掛かるだろうと予測されており、戦闘開始後暫くすれば、無数の量産型ダモクレスが駆けつけてくることもあるだろう。
 つまり完全破壊には十二分でリモデ・ラーソンを倒した上で、多くのケルベロスでシールド破壊に向かわねばならぬ。それも迅速に。
「状況はわかったか? さて、各班、既に対応する敵は決まっている……貴様らはバグトルーパー・アンバーを引きつけてもらいたい」
 バグトルーパー・アンバー――他二体とは異なり、人型のダモクレスだ。
 ライトニングロッドを得物とし、地上戦を得意としているらしく、守りを固め、長期戦を意識した戦い方をする。
 怒りの感情を設定されているというが、全体的に物静かな印象である。
「言うまでも無いが強敵だ。時間が無いとはいえ、簡単に倒せる相手ではない。その上、その先を見越して戦う必要がある」
 撃破後の状態によって、とるべき行動は多少変わるかもしれない。
 辰砂はそう告げると、再びケルベロス達を一瞥した。
「貴様らの状況判断が試される作戦でもある……最良の結果を得られるように」


参加者
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
一式・要(狂咬突破・e01362)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
ククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
ソル・ログナー(希望双星・e14612)
関・白竜(やる気のないおせっかい・e23008)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)

■リプレイ

●誘導
 ケルベロス達は物陰に身を潜め、その時を待っていた――関・白竜(やる気のないおせっかい・e23008)とククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955)が予め情報を検索して目星をつけた場所だ。
 いざ現地に到着してみれば通信は不安定で、ネット情報からのGPS活用はできないようだったが――この地における一番の難題は、身を隠しつつ周囲を確認できる場所、であったため、最早然程の問題にはならぬだろう。
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)の隠密気流を頼りつつ辿り着いた先、多くのダモクレスが警備する洞窟を見やる。その奥に眠る『弩級絶対防衛シールド』――絶対めんどくさい効果出す兵装だこれ、とはククロイの評――が如何に重要なものであるか、物々しい様子から察せられる。
「よく見つけたモノだな、感心するよ……いけないオモチャは破壊してしまわないとね」
 目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)が不敵に笑う。
「弩級兵装……起動されれば脅威となりますが、逆に言えばこれさえ破壊できればダモクレスとの決着に大きく近づけそうですね」
 彼女の意見に頷き、弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)が囁く。
 決着という一言に、この作戦の重要さを改めて意識する――同時にダモクレスにとっても、かなり重要な作戦であろうと。
「連中は強敵だけど……俺達だって引き下がれない」
 低く紡がれたレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)の言葉に、皆が視線で応える。
 ――ややあって、無数に徘徊する同型のダモクレス達の気配が次第に遠くなっていく。
 洞窟の入口に残されたのは、バグトルーパー三体のみとなったことを一式・要(狂咬突破・e01362)が窺い、確認する。
「――――作戦開始、いけるな?」
 そうソル・ログナー(希望双星・e14612)が低く告げ、息を吐く。
 首肯を返し、前に出たのはいつしか仮面を装着していたククロイ――構えたガトリングガンがリズミカルな轟音で吼える。
「へいへーい! アンバーびびってるー! 悔しかったら直接殴りに来いよ!」
 叫んで挑発するに合わせ、真が見えない爆弾を投擲し、すかさずスイッチを押す。
 目の前で炸裂した爆炎の弾幕と烈風を、バグトルーパー・アンバーは杖をやや前に構えた状態で、受け流す。感情を読ませぬ無機質な頭部は、グラビティの飛んできた方角――ケルベロス達へと向けられていた。
 一瞬、その場で次を待ったようだが――彼はここからでも反撃できる――ケルベロスがこれ以上攻め込んでこないと見るや、自ら動いた。
 トン、と軽く地を蹴る。それだけで地上における戦闘に最適化された彼は一気に距離を詰めたのだった。

●黒の憤怒
 一方は洞窟よりあまり離れぬよう、一方は極力引き離すよう、探り合いながらの交錯が始まった。
「この羽根は示す、踏み出すべき時を」
 まず始めに、悠乃が希望の翼を皆へと捧ぐ。
 白い翼が降り注ぐ中、鮮やかな爆風が、更に背中を押す。
「諸君、いざ参ろうぞ!」
 皆へとそう声を掛けた真は、同時にナノナノの煎兵衛へ指示を出す。
「アンバーの射線を遮りつつ、めろめろハートを撃つだけの簡単なお仕事だ。難しいだろうがオマエだから頼める。煎兵衛、任せたぞ!」
 きりりと表情を改めたかどうかはわからないが、煎兵衛は勇敢に前へと出て行く。
 そちらへとアンバーが視線を向けた一瞬を突いて――左右から、二人飛びかかる。
「ダモクレスキラー! レプリクロウ!!」
 それが己の名だと高々と吼え、仮面を身につけたククロイは腕をそれへと向ける。ブラックスライムは頭部を狙って襲いかかり、対し、中段より薙ぐように繰り出されたソルの足が躰を狙う。
「悪いが、どんな敵だろうと容赦はしない。―――ブッ潰す」
 言葉通り、抉るような角度で振り絞った蹴り――伝わる感覚は、とてつもなく堅かった。その躰が金属であることの証左であるように。
 杖から全身に小さな雷を伝わせて、アンバーは二人を振りほどき距離を取る。しかし逃さぬと、水に似たオーラを拳に集約させながら、少し眉間に皺を寄せた要が躍り出る。
 すれ違い様に放たれた拳は雷の如く。風を斬り裂く音は轟音。
「おっと失礼。苦情は後程こちらまでってね。」
 ――が、それはフェイク。さっと体勢を低く、素早く払った脚技こそが本命――逆鱗剥がし。
 見事に決まったものの、体勢を崩すほどではなかったアンバーの腕を引っ張るように蔓草が食らいつく。
「遅いですよ」
 相手の腕を巻き取り掴んだまま、仁王が揶揄の色を隠さぬ言葉を投げる。入れ替わり、接近した白竜が刀を突き出す。
「この速さ、見切れますか?」
 常人では躱せぬ刺突――我流・神速多段突き。
 肩、背中、と捉えたが、予想以上に堅い手応えに、一度退く――彼の姿を盾に、死角より放たれた凍結光線がアンバーの傷付いた背を捉える。
 静かなレスターのスナイプに、それはひとたび脚を止めた。
 ケルベロスに囲まれ、逃げ場はない。さりとて焦りも激昂するような様子も見せず、アンバーは雷を貯めた杖の先を大地に軽く叩きつけた。
 目にも留まらぬ放電が一筋、要へと伸びる。鋭い痛みを感じるも、オーラで雷を受け流してダメージを殺す。
「こんな程度じゃ全く効かないっての」
 気怠げな、嘲りを多分に含んだ言葉を、それはどう受け止めたか。悠乃はアンバーをじっと見つめたが、解らなかった。

 打てども響かぬ。アンバーの様子はまさにそれだ。
「どうしたウスノロ。怯えて動けないか?」
 試すように放たれた真の言葉にも、反応はない――仮に「怒り」が設定されていようとも、重要な作戦に配属されるダモクレスともなれば安い挑発では動かぬ、ということであろう。
 どちらにせよ、やることは変わらぬと――白竜が空の霊力を帯びた刀で切り払いに距離を詰める。
 がちり、刃をそれは杖で押さえ込んで威力を殺す。ククロイが近距離からガトリングガンを乱射し、爆炎がアンバーを包み込む。立ち上がった炎と土埃の中を吼えながらソルがハンマーを煽る。ドラゴニック・パワーを噴射し加速したそれが、相手の顎を強か捉えた。
 ――と思ったが手応えがない。後方へ跳躍しながら勢いを殺していたようだ。
「ほら、真面目にやんなよ」
 待ち構えていた要が、再び挑発し、足払いで攻撃を誘う。時に仁王が代わりに攻撃を受け止め、互いに激しい消耗を避けていた。
 仮に重い一撃を食らっても、悠乃や仁王の相棒である赤いボクスドラゴンが、瞬く間に治療する。ゆえに、ケルベロス達は――消せない疲労感は残るにせよ――殆ど消耗することもない。
 だというのに、不気味な程に相手は凪いでいる。
「まだまだ。吹き飛べっ!」
 すかさず距離を詰めた真が、流星の煌めきを纏う蹴撃を喰らわせながら、
「足止めが嵩めばチャンスは増えるはずだからな!」
 前向きな発言で皆を励ます。
 寡黙に淡々とケルベロスの攻撃を捌くアンバーの姿は、怒りという感情のイメージからほど遠い――つと、レスターは問いかける。
「黒の憤怒アンバー……キミには心があるのかい? キミの怒りの感情の原動力は?」
 ――尽きせぬ怒りは地獄だ。いつか自らを滅ぼす。
 奴隷時代の記憶の熾火は彼の中でまだ完全に消えてはいない。
 身を以て持て余す怒りの感情を知るレスターは、ゆえに問わずにはいられなかった。
 そのレンズ越しの視線に、いよいよそれは口をきいた。
「我が怒りとは即ち、ダモクレス以外を排除するための動力。由来も何もありはしない」
 これは攻撃を行うための合理的な機能――何せ尽きぬ憤怒で「苦しむ心」は、ダモクレスにはなく。
 ダモクレス以外への怒りがあれど、それが短絡的な攻撃に繋がるわけではない、と。ただそれだけを告げ、また黙す。
「そうか……キミにとって、感情はそういうものか」
 納得したのか、失望したのか。零れた言葉に意志は読めぬまま、レスターはバスターライフルを構え直す。
 その答えにむしろ気をよくしたのは、ククロイだ。怒りが戦いへの原動力だというならば。
「俺に見せてみろ! 怒りの力を!」

●猛攻
 幾度目か、レスターが焔の弾幕をばらまき、戦場は靄に包まれたように揺らぐ――。
「喰らいつけ、アギトォ!」
 正面よりククロイの放った黒いスライムが、敵の頭部を喰らおうと広がる。それをアンバーは杖で断ち切るように捌き、一歩退く先、煎兵衛の放った光線が逃げ場を奪う。
「スナイパーだからと油断したか? 破ッ!」
 アンバーの眼前まで詰めていた真が、強く踏み込み引きながら鮮やかに蹴り上げる。寸で、杖で受け止めたそれの背後で、赤茶の髪が揺れた。
 背中がガラ空きですよ、と涼やかに言い放ち白竜が続けざまに斬り込むと、悠乃からエレキブーストを受けたソルがハンマーを振り下ろす。
 相手の自由を許さぬよう、怒濤の攻撃を仕掛けるも――無駄のない動きでケルベロス達をかいくぐり距離をとったアンバーは、雷撃を己に流し込む。服や躰に走る疵はそのままだが、呪いの枷がいくつか外れ、再び動きやすくなる。
 いつしか、彼は自らの傷を癒やす事を優先していた。
 それが戦闘の引き延ばしを狙っていることは明白である。シールド転送までの時間を稼ぐという任を忠実に守っているのだ。
「追い込んでいることは確かなのですが」
 予測はしていた――だが、用意が巧く噛み合わなかった。仁王は息を整えながら、低く吐き出す。
「ったく、肝心なやつをどれもこれも受け流してくれて」
 構えた要は間合いを計りつつ、忌々しげに目を細めた。彼らの技は悠乃の的確な援助によって充分に高められ、威力も精度も開戦時より向上している。にも関わらず、アンバーはまだ半分ほどの消耗しかしていないのではないか。
 顎を伝う汗を乱暴に拭い、ククロイが時間を確認する――開戦より、間もなく十分。
 設定した目標は超過していることに、彼らは焦燥し、停滞感に心が重く澱む。
 ――丁度、その時だった。
「待たせたのう! ティアーは倒し、スマイリィも後少しじゃ! 最後の一息、加勢するのじゃ!」
 ガナッシュ・ランカースが威勢良く飛び込んできた。挨拶代わりに放った旋刃脚に虚を突かれたのか、アンバーは僅か退こうとするが、バグトルーパー・ティアーと戦っていた者達が次々駆けつけ、翻弄する。
 膠着していた時間が、一気に流れ出す。
「悪ィ、手を借りる――次で決めるぞ!」
 自分たちだけで決着をつけられなかった事に、内心苦いものを覚えつつ、ソルが声を張り上げる。
 全力で当たる、と誰も口にせずとも心を決め。
「今こそ……終わらせましょう」
 アンバーへと向けていた視線を、悠乃はひとたび遮断し、瞑目したまま願うように――希望の翼を皆へと送る。
「躱せるものなら、躱してみなさい」
 幾度か回転させ、勢いを増した大鎌の刃は高い音を立て風を斬る。白竜の放った一撃はアンバーの肩へと深々刺さった。細かい稲光がその躰を走る――次いで、踏み込んだのは真。
「オマエに構っている時間はナイ、倒れろっ!」
 言い放ち頭部へ強烈な蹴りを後頭部へ叩き込む――先程の白竜の一撃の所為だろう、それは巧く躱せず無防備に受け止める――それでも膝をつかなかったのは、流石といえるか。
 それの読めぬ表情に今、憤りが揺れているように見えるのは気のせいだろうか。
 アンバーは怒りは単なる動力と言ったが――怒りを知るからこそ、それを宥め冷静たる事が重要だと。信条を胸に、レスターは最後の一矢を放つ。
「ここがデッドエンドだ」
 顔の半分に紋章が浮かび上がってくる――終止路の死十字。放たれた魔弾は、彼の結界内にある限り自在に操り、敵を追い続ける――それは楔となって、呪いを更に深く叩き込む。
「数多の力、今ここに」
 相棒のボクスドラゴンへ、仁王が魔人降臨を行う――龍化によって解放されたドラゴンを、更に大きく広がった疵へ叩きつける。
 合わせ要の気咬弾が追う。
「砕けろっ!」
 気合いを乗せてぶつければ、アンバーの肩は完全に砕け、機械の断面を表に晒した。
 南から青の信号弾が上がるのを、視界の端に捉える――スマイリィ撃破の徴だ、仁王は事前に聴いていた情報を思い出す。
「スマイリィ撃破のようです」
 報告に、心が哮る――これで残ったのはアンバーのみ。此処を潰せば終わりという希望と、多少の悔しさ。
「希望よ光れ。願いよ輝け。誓いよ導け。我らが世界を見よ、絆に誓え! この身に宿りし想いの全てを使って、俺達は共に未来を拓く!」
 全てをここに籠めるとソルは叫び、魔人の焔と絆の焔を練り上げていく――一撃で討ち取るため、その炎が大きく白く膨らみ、彼の拳は強烈な光に包み込まれていく。
 彼が力を溜めている間、先にククロイが演算を終える。一時的に自分のグラビティをローカストのグラビティと同質化させ、玉虫色のエネルギーを脚へと圧縮し、跳躍で解放する。
「フォーム『ローカスト』! 砕ァけェろォォォッッ!!」
 吼えながら、ほぼ垂直に落ちてきたククロイの蹴撃がアンバーの頭部を破壊する。躱す余裕も与えぬ速度――ほぼ同時、横から強烈なストレートが、ソルより放たれる。
 重い破壊音、拳に走るは芯を貫いた感触――砕け散る機械の破片が彼の頬を浅く斬りつけていった。
 頭を砕かれた姿は、無惨なものであったが、すぐにそれは小さな爆発と共に炎に包まれた。疲弊していた各部位は焼け焦げたことでバラバラに崩れ、砕け散る。
 後には何も、残らなかった。
「……急ぎましょう。量産型も戻ってくるかもしれません」
 それを見届けた悠乃が穏やかに促せば、皆一同に頷き、休む間もなく駆け出した。

●戦果
「そろそろ、十分ですね……」
 サイコフォースを叩きつけた仁王が、僅かに表情を歪めた。
 バグトルーパー撃破を果たした三班で戻ってきた量産型ダモクレスから入口を防衛し始めて、早十分――敵の性質上、多少体力に余裕はあったものの、キリの無い戦いは予想以上に精神を削る。
 そして現実、増え続ける相手を前に、ケルベロス達は少しずつ圧され始めていた。
「この辺りが限界、といった感じですが……」
「無事にシールドを破壊できていればいいのですが」
 白刃を振り下ろし相手を振り払った白竜へ、オーラを放ちながら悠乃が案じる。
 洞窟の内部を窺うことが出来ない以上、こうして待つしか無い。
「ダモクレスの好きにはさせない。地球は俺が生きる星だ!」
 増えていくダモクレスを前に、自らの身を地獄の炎で覆い尽くしながらレスターが言い放った時――。

「お待たせ! 『弩級絶対防衛シールド』は破壊してきたよ!」

 明るい報告が入った――喜びよりも、今は。
「じゃ、皆で帰るよ」
 こつんと両の拳をぶつけ、要が気合いを入れてオーラを練り上げる。
 更なる苛烈な戦いを以て――彼らは凱旋するのだ。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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