弩級兵装回収作戦~ユニット防衛、白銀の衛兵

作者:黄秦

 茨城県つくば市の大学校舎は襲来したダモクレス軍団の手によって、真っ白いドーム状の建物に作り替えられていた。
 学校の敷地内は機械種族で埋め尽くされ、その周囲は量産型ダモクレスの大部隊が防衛している。
 防衛する一種は、鎧兜に身を固めた女騎士のような姿の量産型ダモクレスだった。
 それぞれ白銀のナイトランスと盾を構え、機械の翼は淡い光を帯びて輝き、その足取りはダンスのステップのように軽やかで、優雅でさえある。
 何も知らなければ、美しい戦乙女の行進にも見えただろう。

 歩道の植え込みがほんの僅か、微風にそよいだ程に揺れた。
 『適性反応』
 だが、ダモクレス達は足を止め、三体同時に翼を広げて植え込みへと飛びこむ。
 搔き分ければ、飼い主とはぐれ迷い込んだらしき子犬がぶるぶると震えていた。
 1体から朧なオーラが立ち上り、仲間を包む。
 子犬が逃げ出すよりも速く、2体目がナイトランスを向けた。白銀の光線に撃たれた子犬は、一瞬全身を痙攣させ、絶命する。最後の1体が死体へと容赦ない一撃を与え、跡形残らぬほどに叩き潰した。
 『排除完了』
 何の感情もない音声で終了を告げて、3体はまた巡回へと戻っていった。


 セリカ・リュミエールは危急を告げる。
「地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したようです。
 彼らは、地球に封印されていた、強力なダモクレスである『弩級兵装』の発掘を行おうとしているのです。
 弩級兵装は、その名の通り、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装で、『弩級高機動飛行ウィング『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つの兵装が現存しているようです。
 全ての弩級兵装が完全な力を発揮すれば、ダモクレスの地球侵攻軍の戦力は現在の数倍から数十倍まで引き上げられると予測されており、このまま見過ごすことは出来ません。

 今回の作戦では、弩級兵装の発掘が行われている施設を警護する、量産型ダモクレスに対して別のチームが攻撃を加え、その隙に、複数のチームが施設に潜入し、連携して、弩級兵装の破壊を試みる事になります。
 皆さんには、施設を警護している『量産型ダモクレス』の迎撃を担当していただきます。
 警護の量産型ダモクレスをひきつけ、施設を攻略するチームが、施設に潜入すると同時に、外敵として量産型ダモクレスと戦い続ける事で、施設内に入り込んだチームに量産型ダモクレスの増援が向かわないようにするのが役割となります。
 といっても、敵の数は非常に多いので、いつかは撤退に追い込まれるのは間違いありません。
 いかに戦いを長引かせて撤退までの時間を長くするかが、作戦の成否をわけることになるでしょう」


 大量のダモクレスとの戦闘と聞いて、ケルベロスらに緊張が走る。
「コマンダー・レジーナの部隊は茨城県つくば市の大学校舎を乗っ取り、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』発掘を行っています。
 この施設の周囲を、二種の量産型ダモクレスが防衛しています。
 皆さんが相対するのは『チャリオットメイデン』と言う量産型ダモクレスです。
 彼女――外見から『彼女』と呼びます――たちは、3体づつでチームを組み、一定の間隔を保ちながら、周囲を隈なく巡回しています。
 ほんの微かな動きや気配にも敏感に反応し、侵入者とみなせば、対象が何であれ、完膚なきまでに破壊しつくします。
 まず回復役の1体が攻撃役の2体を月光に似たオーラで包み、次に攻撃役の1体が敵の動きを止め、残りの1体が止めを刺します。そして、損傷の有無にかかわらず、回復役はオーラで全員を癒します。この行動は、どのチームも同様です。
 ただしこれはあくまで基本であり、早急に倒す必要があると判断すれば総攻撃もありえますし、回復を優先する場合もあるでしょう。
 皆さんが最初に10体以上の量産型ダモクレスを引きつける事ができれば、潜入チームは量産型ダモクレスの警護の隙をついて潜入する事が可能になります。
 時間をかければ、さらなる増援がくるでしょう。
 もし最初に引きつける数が少なければ、潜入チームの潜入は難しくなりますが、比較的長く戦い続ける事ができるので、どちらを優先するかを考えて作戦を立てるのがよいかもしれません。

 いずれを取るかは皆さん次第ですが、いずれにしても、潜入チームが無事に目的を果たすためには、量産型ダモクレスをどうにかする必要があります。
 全ての量産型を撃破する事は不可能ですが、この作戦の成功は、皆さんのサポートにかかっていると言っても過言ではありません。
 過酷な戦いですが、どうかご無事で。そして、必ず勝利をと祈っています」
 そう締めくくると、セリカはケルベロスらへと深く頭を垂れるただった。


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
ロゼ・アウランジェ(時謡いの薔薇姫・e00275)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)
流・朱里(陽光の守り手・e13809)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)

■リプレイ

 茨城県つくば市、某大学の校舎は、コマンダー・レジーナが『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を発掘するための施設と化していた。
 その周囲を、量産型ダモクレス『チャリオットメイデン』が警護している。
 白銀に輝く鎧兜を纏い、ナイトランスを構えた女騎士の姿をした衛兵たちは、三位一体で巡回する。
 風に運ばれた桜の花びらが、ひとひら、金色の髪を飾ったが、気に留める者はいなかった。
 一糸乱れぬ同じ動作で角を曲がり、衛兵同士が交差する。ちょうど4つのグループが交差した、その時。
「『陽の深奥を見せてやるよ!』」
 太陽が、地上に落ちた。

 草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)の放つ『超太陽砲』、極大の焼却光線だ。膨大な熱と光が、チャリオットメイデンたちの真ん中で爆裂する。
 膨れ上がる熱球に巻き込まれ、隊列が乱れたところへ、ロゼ・アウランジェ(時謡いの薔薇姫・e00275)の雷が走り、幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)の獄炎がさらなる業火を浴びせた。
 『攻撃あり』
 チャリオットメイデン達の前に、ケルベロスたちが姿を現す。
 流・朱里(陽光の守り手・e13809)の起こす爆発は味方の士気を高めるための物だったが、衛兵たちの注意を引くには充分だった。
 『侵入者』『侵入者』『排除せよ』『排除せよ』
 4組12体のチャリオット・メイデンが、ケルベロスらへと向けて飛んだ。


 先陣を切った4体が、ナイトランスを構えて襲い来る。その機体を淡く白い光が包み込んだ。
 迎え撃つ構えをとるケルベロスへ向けて、待機の4体がそれぞれ光線を放つ。拡散する銀光に打たれれば、感電するような衝撃が走る。
「……っ」
 刹那、痺れて動けなくなる。嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)が庇い、迫る穂先を受け止めた。
 ロゼのテレビウム、『へメラ』は派手にフラッシュを光らせ、敵の注意を引く。
「ぶっ――すり潰れろっ――!」
 折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)音速で踏み込みタックルからの硬化した額による打撃与える。
 鋼鉄の兜をも砕かんばかりの一撃がチャリオットメイデンの神経回路を揺るがした。蹴り飛ばして間合いを離す茜自身も流血夥しかった。
「白銀の騎士ですか……私も騎士として、お相手致しましょう」
 リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)がエネルギーの矢を放ち、チャリオットメイデンを貫いた。
「おお、始まったのじゃ」
 ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)はヒールドローンを飛ばし、前で戦う者の攻守を固める。

 チャリオットメイデンは月光に似た淡い光で最前列を癒した。
 槍を構え、侵入者へと電気を帯びた銀の光を放つ。ほぼ全員を襲うダメージは軽微だが積み重なって来ると侮れない。何より、麻痺させられるのは厄介だった。
 月光の効果で抵抗力を高めた、攻撃役の4体がナイトランスを振るい、容赦ない一撃を与えて来る。
「ちょっとどころの危険じゃねえなぁ、この課外授業はよっ」
 陽治がその肉体で壁となり、ナイトランスの穂先を受け止める。
「わりぃな、センセー!」
 あぽろは痺れる腕に無理矢理力を込めて、ルーンアックス『SUNBURST』を振るった。太陽光の如く光輝く刃で装甲を切り裂く。
 そんなあぽろに苦笑しつつも、陽治は卓越した技量からなる、達人の一撃でチャリオットメイデンを凍てつかせた。
 ロゼのオーラがそんな彼らを包み込み、肉体の異常を消し去った。
 茜は2本のチェーンソー剣を水平に構え、横に薙いだ。回転する刃が大打撃を与え、摩擦熱が焼き焦がす。
 ステラは睡蓮鉢の世界で朱里を援護する。援護に徹するための相互強化だ。
「布石を打っておこう」
 朱里は回復役の4体へ小型の「見えない爆弾」を次々と放ち、爆破した。消えない炎がメイデン達を侵食する。
 メイデンは自らに月光を与え、その炎を打ち消した。損傷に関わらずとは言え、傷があればそちらを優先するようだ。
 それならばそれで、敵の回復が1手でも集中攻撃対象以外に向くならば悪くないと朱里は考える。

 月光の癒し、麻痺の光線、繰り出される槍の一撃。
 鳳琴は如意棒を振るい、ナイトランスと撃ち合った。重い切先を軽やかに捌き、反転させた棒の先を鋭く突き込む。
「『きらり きらり夢幻の泡沫。生と死の揺籠、幾億数多の命抱き。はじまりとおわり、過去と未来と現在繋げ咲き誇る時の華ー導きを』」
 ロゼの玲瓏たる絢爛の歌声にて紡がれる生と死の子守唄。味方には癒し、敵にとっては破魔の雷。鋼の身体へ容赦なく降り注ぐ。
 リビィは立て続けに矢を放ち、回復役のチャリオットメイデンの神経回路を狂わせる。あわよくば、こちらへ援護を向けられるかもしれない。
 朱里は薬液の雨を降らせ、ステラは攻性植物を放って、黄金の果実を実らせる。何度も攻撃が飛ぶなら、何度でも癒すまでだ。
 彼らは震える子犬ではない。ケルベロスなのだ。

「増援が来ます!」
 道の向こうに広がる翼を認め、リビィが叫ぶ。
 長く続く塀の角から、2組、6体の新たなチャリオットメイデンが現れた。
 優雅に歩いてはいなかった。翼を広げ、猛スピードで近づいてくる。


 新たな増援により、その数は6組18体。
 癒しの数も、攻撃の手数も増える一方だ。効果は解除され、その傷は回復されてしまう。
 麻痺を引き起こす光線はますます増え、鋭い槍の一撃がその数を増やす。
「まあ、つまりはガチってことだ」
 あぽろは輝きを纏う魔斧『SUNBURST』を叩きつけた。援護によって抵抗力は上がっている。そちらへ向かう攻撃は、陽治とリディが引き受けていた。
 出来る限りの治癒が欲しい。陽治は一度攻撃の手を休め、薬液の雨を降らせる。
 ヘメラもロゼの指示に従い、応援の動画を流し続けている。
「我らが拳を……受けろっ」
 前が引き付け、後ろが攻撃する。鳳琴が降魔の拳で撃つ。その小さな体からは想像もつかない強力な打撃だ。
 ロゼは、全身を覆うオウガメタルを「鋼の鬼」と化し、拳でメイデンの装甲を砕く。
 茜のオーラが回復させ異常を消し去る。
 リビィのアームドフォートが火を噴き、衝撃でチャリオットメイデンを痺れさせている。
 朱里がスイッチを押すと、カラフルな爆発が起こり、士気を高めた。
(「鎧兜で顔が見えないのは助かる。見えていても気など逸らさないが……こう数が多いとな」)
 あぽろと、よく知った誰かに似ているだろうその顔に、苦い思いを押し殺す。
 後方から支えるのはステラの役目、黄金の果実を実らせる。

 あぽろの古代語の詠唱と共に魔法の光線を放つ。硬化し、一瞬動きが鈍くなるが、施された月の光で解除されてしまう。
 茜のヘッドバットは機械すら脳震盪大越そうな勢いだ。
「『わたしの空中乱舞に見とれないでくださいね?』 」
 リビィは空中から相手に向かって飛ぶと、エアシューズで乱舞を仕掛ける。連続攻撃の圧力にメイデンが怯む。
 今は畳みかけるときと、朱里は小型爆弾を連鎖爆発させた。
 抵抗力を高めたおかげで、敵の攻撃による麻痺は効き目が薄い。とは言え、ダメージは積み重なっていく。
 チャリオットメイデンの放つ撃滅の一撃を、陽治はあえて飛び込み、自分へと無理矢理矛先を向けさせた。肩口を抉られるのも構わず、その拳に気を集め、叩きつける。
「とっておきをくれてやる。――その魂を、穿つ!」
 荒れ狂う風の刃を至近距離から放てば、それは白銀の鎧を貫き魂の繋がりごとに切り刻み、内側から粉砕した。
 ステラが呼べば、黄金の果実が伸びて、その輝きで抉られた箇所を再生し塞ぐ。
「ありがとうな」
「礼などいらぬ。余は護る者を支援するのみじゃ……全力でな!」
 前衛の守護がきつそうに感じ、ロゼは自身も前に出た。
「一緒に頑張りましょうね、ヘメラ」
 動画を流し続けるへメラが嬉しげにクルリと回った。
 茜のチェーンソー剣が唸りを上げて、メイデンの装甲を斬り刻んだ。機械の身体は血を流す代わりに、ショートした回路が火花を散らしている。
「『超太陽砲術識、流用展開』」
 朱里は『陽霊盾ヒルメ』を用い光の盾を構築し、宿敵に相対するあぽろを守護する。
 ちらりと視線を寄越したあぽろの肩越し、相対する敵のさらに向こう、に薄っすらと薄紅色を見た気がした。
 そう、約束をしたのだ。全員、必ず生きて帰ると。

 1体を屠り、体勢を立て直す。
 しかし、僅かにも安堵する暇はなかった。
 飛ぶ勢いで、新たな2組6体が増援に現れたからだ。


 『排除せよ』
 『排除せよ』
 何の感情もなく、ただ淡々とルーチンワークのように、チャリオットメイデンらは攻撃を繰り返す。
 とは言え、数が増える度に、その被害の度合いは深刻さを増す。
 お互いに状態異常は見込めない。徐々に、正面から殴り合う形になって来れば、数の差がモノを言う。
 あぽろの日本刀はゆっくりと円を描いて断ち切り、陽治の気咬弾が敵に喰らいついた。
 鳳琴の降魔真拳で食らいつき、ロゼはオウガメタルで装甲を砕く。
 寡兵のこちらは、攻撃を集中して1体でも多く落とすのだ。
「……誰も死なせない……」
 茜も一歩、前に出た。

 ヘメラがひときわ派手な光を放った。それにつられたか、メイデン達の攻撃が集中する。
 貫かれ穴だらけになったヘメラの画面がブルースクリーンになる。
 串刺しになる間一髪で陽治が躍り込み、ヘメラを拾いあげた。ラグビーよろしく後列にパスし、朱里が受け取ってさらにステラへと渡した。
「ありがとうヘメラ。よく頑張ってくれましたね」
 ロゼは、徐々に画面が暗くなっていくヘメラに語り掛ける。この戦いが終わった後で、たくさん褒めてあげよう。

 茜のスターゲイザーが炸裂する。頭突きを警戒していたメイデンの文字通り斜め上から飛び蹴りを食らわせた。
 続けてリビィは飛翔乱舞を見舞う。
 ヘメラは僅かながら攻撃の余裕を作った。朱里が連続爆破させれば、ステラもまた攻撃に転じ、攻性植物を『埋葬形態』に変化させ、飲み込ませた。
「おるぁ!!」
 あぽろは全身を光らせ、『超太陽砲』をぶつけた。
 陽治の達人の一撃で凍てつかせる隙に、鳳琴は幸家・伏龍で傷を治すと共に、心を鼓舞し立ち上がらせる。
 ロゼはオウガメタルを鋼の鬼と化す。怒りを込めて、拳を振るい、メイデンの横面を強かに殴りつけた。
 ここまでに集中攻撃を受けていたメイデンは、ロゼの渾身の一撃で、ついに破壊されたのだった。
 ようやく、2体目を倒した。
 リビィの矢が後衛に飛べば、朱里の炎分もメイデン達の回復の手は取られる。そして、こちらと同様、癒えない傷は増えていく。

「来たか……」
 分かっていても、戦慄を覚えずにいられなかった。
 殺戮の天使がさらに2組6体、通りの向こうからやって来るのを見ては。


 今や、チャリオットメイデンは10組、28体を相手にしている。
 何度もナイトランスで攻撃を受け、光線を浴び。こちらは拳を振るい、切り付け叩きつけて。
 10分は戦ったという事か。
 疲労の度合いは次第に濃くなり、動くたびに消えない傷が痛む。

 それでも、あと5分は持たせようと死力を尽くす。
 あぽろが魔斧を振るい、その隙を、陽治とロゼが防いで守る。
 互いに護りあい、癒しあう。
 茜は自分の流血も構わず頭蓋殴打撃を繰り出し、リビィはアームドフォートを一斉掃射する。
 鳳琴が降魔真拳を叩き込み、ついに、3体目を撃破した。
「さぁ、次だッ!」
 少女が気を吐いたその時、今まで後列で回復に徹していたメイデンらが、槍を構えた。

 3体が倒された今、早めに殲滅すべしと判断したのだろう。
 白銀の衛兵達は回復を捨てた。
 半数は麻痺の光線を放ち、半数はランスを構えて突撃する。
「くそっ!」
 陽治は前に飛びだす。一斉に突き出される穂先を弾き、蹴り飛ばし、それでも足りない分を身体で受け止めた。
 彼はここまでずっと体を張り続けていたのだ。その猛攻はついに、彼の限界を超えた。
 踏ん張ろうとする膝が崩れて、倒れる。痛みすらよくわからず、ただ意識が消えていくと感じていた。
 それ以上はさせまいと茜と鳳琴が庇い、敵の追撃を防ぐ。その隙に朱里がその体を引きずり、後ろに下げた。
「悪いな……引率が先に倒れて……」
「充分だ、先生。お疲れ様」
 多分笑ったのだろう。陽治は小さく口を歪めて、そのまま意識を失った。
「負けるかよっ!!!」
 あぽろは自分に活を入れて気を奮い立てる。
 しかし、既に均衡は崩れた。
 鳳琴が振るった破砕剣をメイデンのランスがはじいた。がら空きになった胴へ一撃を突き入れようとする。
「鳳琴団長!」
 リビィが飛翔乱舞で割り込んだ。怯ませるほどの鋭い一撃と引き換えに、ナイトランスの一撃をまともに食らい、倒れる。
「リビィさん!?」
 駆け寄り、癒しをかけるが、リビィもまた限界に来ていた。
「……護ると、決めた、のです」
 だから、よいのだと。リビィは微笑んで目を閉じた。


「恐らく、次の増援が来るまで2分足らず。潮時だ」
 朱里の声を背中に聞いて、あぽろは唇を噛んだ。
「……この身がぶっすり潰れるまで、戦うつもりでいたです……」
 悔し気に茜は呟く。だが、これ以上続けても、誰かが犠牲になるだけだ。
「重傷者を出すわけにはいかぬ」
 ステラがきっぱりと言った。自身よりも他者の回復を優先し続けた彼女も、既に満身創痍だった。
「――作戦は……」
 鳳琴は施設を見遣る。合図は来ない。潜入班は今どうしているのか。
「彼らは、きっとやってくれています。今はそれを信じて、撤退しましょう」
 ロゼが促す。その腕に、ヘメラを抱いていた。こうしている間にも、白銀の衛兵たちの猛攻は続いている。
「……わかりました」
 鳳琴はリビィを抱え上げた。誇り高い騎士は、誓いの言葉通り皆を守り戦ったのだ。

 出来る限り敵を惹きつけ、長く戦闘を行う。
 その目的は、これ以上ないほど果された。
 作戦にも、各々が果たす役割にも、戦力にも不足は何一つない。
 消耗戦である以上、いつか崩れるのはどうしようもないことだ。

 ステラと二人がかりで陽治を抱えて朱里は、まだ敵の方を向くあぽろに呼びかける。
「あぽろ」
「わかってるよ!」
 チャリオットメイデンらが光線が放とうとするそこへ、残った力のすべてを込めてあぽろは太陽砲を叩きつけた。
 太陽が爆発したような、凄まじい熱量がチャリオットメイデンたちを襲った。壊れかけていた個体が、耐え切れずに爆砕する。

 熱と光が収まった時、ケルベロスたちは遥か彼方に離れていた。
 チャリオットメイデンたちは追わない。
 全ての機体が全く同じ動作で向きを変え、元の巡回ルートへ戻っていく。
 ただ、その動きは酷く早急だった。

 全てが去って静寂が訪れる。
 桜の花びらがひとひら、誰もいなくなった地面に落ちた。

作者:黄秦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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