弩級兵装回収作戦~バグトルーパー 青の歓喜

作者:陸野蛍

●高知県山中
「あははははははは」
 掘削の音が響く室内――剥き出しの岩肌に様々な機械が設置された洞窟を部屋と呼ぶならば、であるが――に、音に負けじと哄笑が響く。声の主はこの部屋の主、リモデ・ラーソンだった。目の前で縦横無尽に動き、精密な作業を行う機械群を誇るように笑った彼女は、突如、その笑みを止め、言葉を紡ぐ。
「見ろヨ。アンバークン。これが『弩級絶対防衛シールド』。ボクらの求めていた弩級兵装だヨ」
 独白のような問いかけに、バグトルーパー・アンバーは鷹揚に頷き、応じる。その様子にリモデは満足げな表情を浮かべた。
「キミにも判るかい? この素晴らしさが。そして、それを発掘・修復できるボクの凄さがネ!」
 そう。今や最重要作戦となった弩級絶対防衛シールドの発掘だが、高度な技術と細心の準備を要するそれを行えるダモクレスは限られていた。リモデもその一員である。彼女の腕無くして発掘の成功はあり得ず、仮に何らかの不都合で発掘に失敗してしまえば、弩級兵装の機能は失われ、完全に取り戻すことは不可能となるだろう。
「でもぉ、リモデ様~♪ 他の無知で無謀なデウスエクスがぁ、ここを嗅ぎつけて来ちゃうとか楽しい事が起こっちゃったらどうするんですかぁ? アハハハ♪」
「いい質問だネ。スマイリィクン。それこそがキミ達を呼んだ理由だヨ。秘密基地周辺は量産型ダモクレスが配置されているけど、それだけじゃ心許ナイ。対処をキミ達にも頼みたいんダ」
 一体でも一騎当千の能力を持つリモデはしかし、己の信頼する三体の配下を呼ぶことで防衛能力を盤石なものへと転じようとしているのだった。
「万が一に備えて転送準備も並行して進めてるヨ。不完全な発掘になったとしても、その時はその時だからネ。だけど、そんなことにならない。そうだろう?」
「……ひっぐ……わ、解ったの……ティアに……任せて、欲しいの……」
「頼もしいね、ティアークン。やはりキミ達はサイコーだヨ!!」
 バグトルーパー・アンバー、バグトルーパー・スマイリィ、バグトルーパー・ティアー。三体のダモクレスを前に、リモデは鬨の声を上げる。
「さぁ。諸君。完璧に弩級兵装を発掘する為に、全力を尽くすのだヨ!」
 その声に弾かれるように、三体のダモクレス達は洞窟の唯一の出入り口へと向かうのだった。

●弩級兵装破壊大規模作戦『弩級絶対防衛シールド』班
「みんな! 大掛かりな依頼……いや、作戦だ! かなり重要な案件になる。しっかり、俺の話を聞いてくれ!」
 ヘリポートに響く大声でそう言うと、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、資料を開き作戦内容の説明を始める。
「地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達だけど、新たな作戦を開始したみたいなんだ。彼らは、地球に封印されていた、強力なダモクレスである『弩級兵装』の発掘を行おうとしている」
 弩級兵装とは、その名の通り、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装で、『弩級高機動飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つの兵装が現存し、各兵装をそれぞれ有能なダモクレスが指揮を取り発掘作業を行っているとのことだ。
「全ての弩級兵装が完全な力を発揮する事になれば、ダモクレスの地球侵攻軍の戦力は現在の数倍から数十倍まで、引き上げられると予測されている。見過ごすことなんか出来る訳が無いよな!」
 雄大の語気からも、弩級兵装がどれだけの脅威かヒシヒシと伝わって来る。
「今回の作戦は、4か所の兵装発掘エリアにそれぞれ数チームを送り出し、連携を取った上で弩級兵装の破壊を目指す! みんなに担当してもらう『弩級兵装』は、『弩級絶対防衛シールド』!! 弩級兵装の中でも最も破壊が困難な兵装になる。この弩級兵装の発掘を担当しているのは、『リモデ・ラーソン』と言うマッドサイエンティストを筆頭とした『バグトルーパー』と言うダモクレス集団だ」
 バグトルーパーとは、リモデ・ラーソンがローカストの特徴をダモクレスに活かし開発した、戦闘集団のことだ。
「作戦の流れいくぞ。まず、『弩級絶対防衛シールド』の発掘が行われている山奥の洞窟……まあ、秘密基地だな。そこを警護する、量産型ダモクレスに対して攻撃を加え、1つしか無い入口の警護を精鋭である、バグトルーパー3機まで減らす。その後、3機の各バグトルーパーをそれぞれ引き付け、最後の1チームがその隙に洞窟内に潜入、リモデラーソンを撃破の後、『弩級絶対防衛シールド』を修復不可能まで破壊してもらいたい」
 量産型を引き付けるチームが2チーム、バグトルーパーと対峙するチームが3チーム、基地への先行潜入チームが1チーム。
 計6チーム、48人のケルベロスが『弩級絶対防衛シールド』を破壊すると言う一つの目的の為だけに投入されるのだ。大規模作戦と言っていいだろう。
「間違い無く、厳しい戦いとなると思う。だけど、完全な弩級兵装をダモクレスが手に入れることはだけは、なんとしても阻止しなくちゃいけない! 可能なら、弩級兵装の完全破壊! それが出来なかったとしても、『弩級絶対防衛シールド』を可能な限りぶっ壊して、その力を完全解放出来ない様にしてくれ!」
 説明を続ける雄大の言葉もどんどん強いものになっていく。
「作戦の説明を続ける。量産型を基地入り口から引き離すと、東、南、西、それぞれを警戒するバグトルーパーが3機、基地入り口に残る。それぞれが精鋭機、連携なんてされたらたまったものじゃない。だから、3チームが1機ずつ受け持ち、それぞれの方角へ誘導及び挑発をして、入口から遠ざけ、各個撃破を狙って欲しい」
 リモデ・ラーソンは、ダモクレスの強化開発技術に優れているらしく、バグトルーパーは雄大曰く、戦闘兵器としては傑作らしい。
「潜入班は、各バグトルーパーが持ち場を離れたらその隙に、基地に潜入、リモデ・ラーソンを撃破後、『弩級絶対防衛シールド』の破壊に移行してくれ。但し! これにはタイムリミットがある。バグトルーパーにケルベロスが接触すると、リモデ・ラーソンに信号が送られるらしくて、時間にして12分後には、『弩級絶対防衛シールド』を別の場所、おそらく指揮官クラスの元に転送されてしまう。だから、バグトルーパー撃破部隊が動き出してから12分……その間に洞窟を抜け、確実に潜入班はリモデ・ラーソンを倒さなきゃいけない。……これは、先行部隊を信じるしかないな」
 呟くと、雄大は資料を次のページに移す。
「俺のヘリオンに乗るチームに担当してもらいたいのは、洞窟の南側を警戒している『バグトルーパー・スマイリィ』の誘導及び撃破だ。スマイリィは、トンボのローカストの特徴を機械化されていて『喜び』の感情を強く設定されている。そして、その喜びが最大になるのが、戦闘を行っている時……つまり、筋金入りのバトルジャンキーってことだ」
 雄大の話では、常に歓喜の笑みを浮かべた女性体のダモクレスらしい。
「トンボがモデルと言っても、戦闘行為に能力の比重を置いている為、低空飛行しか出来ないから、近接攻撃が届かないって事は無いけど、素早い動きが特徴で攻撃を当てるのも至難だと思う」
 バグトルーパーの中で最もスピード特化の機体……それが、スマイリィとのことだ。
「スマイリィの攻撃手段は、両椀に備わった剣での斬撃、バスターライフルと化した尾での砲撃、空中回転しながらのアクロバテッィクな鋭い足技だな」
 女性体と思って油断すれば、一気に戦場の有利を持って行かれるだろう。
「で、話はまだ続くんだ。スマイリィを倒すだけでも、かなりキツイってことは分かってるんだけど、スマイリィを倒した後は、先行部隊に続いて基地に潜入し、『弩級絶対防衛シールド』の破壊に協力してほしい。『弩級絶対防衛シールド』は、転送されなかったとしても破壊する事がとても困難で、時間をかけてしまうと、戻って来た量産型に物理的に持ち出されてしまう……。量産型の力が強いとか弱いとかは関係なく、もうこれは数の暴力だな。倒してもキリの無い数の量産型に囲まれれば、何か秘策でも思いつかない限り、みんなでも逃げるしかない。……だから、今回の作戦は時間が全てと言ってもいい」
 一段階声のトーンを落として、ハッキリと雄大は言う。
「作戦概要はこれが全てだ」
 資料を閉じると、雄大は真摯な瞳でケルベロス達を見る。
「今回の作戦は、作戦に参加するケルベロス全員が最大限の力を発揮しなければ成功し得ない作戦かもしれない。状況に応じて作戦の最終目標の切り替えも必要になるだろう。それでも、みんななら……それぞれを信じ、それぞれの役割を果たせる筈だ。俺もみんなを信じてる。だから……頑張って行こうぜ! みんな!」
 ケルベロス達の背を推す様に、喝を入れる様に、雄大は力の限り叫ぶと、拳を振り上げた。


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
天谷・砂太郎(修羅に堕ちし白雷・e00661)
キース・クレイノア(送り屋・e01393)
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)
山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)

■リプレイ

●開始
 高知県山中の大きく口を開いた洞窟。
 その場が、ただの山林でない事を示す様に、洞窟の入り口前にはダモクレスの量産型機体『ロス・オブ・ネームズ』が大勢、警備にあたっていた。
「……今回は大規模な作戦ですね。ですが、私達が力を合わせれば大丈夫! なんとかなりますよ」
 身を隠した緑の中で声を潜め、山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)が同じく作戦に参加する仲間達に強く言う。
「……ダモクレスさんの弩級兵装……そんなものがダモクレスさんの手に渡ったら。……なんとしても、破壊しなきゃです……」
 アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が口にした『弩級兵装』……その内の一つ『弩級絶対防衛シールド』それがこの洞窟の奥で、今、正に発掘及び修復されようとしているのだ。
 ダモクレスの力を数倍にも数十倍にも引き上げてしまうと言う『弩級兵装』……けして、ダモクレスの手に無傷で与える訳にはいかない代物だ。
 ケルベロス達の顔にも緊張の色が見える。
 その時、二つのチームが作戦を開始した。
 響くグラビティの炸裂音、先陣を切ったケルベロス達の叫び声、そして……洞窟から離れていく量産機達。
 洞窟の入り口に居るのは、3機の精鋭機のみ。
 ――自分達の番だ。
 入口の南を警備する、青のバグトルーパー『スマイリィ』が笑顔を浮かべながら呟く。
「あれって、ケルベロスだったのかな~? アハハ、たったあれだけで攻めて来ちゃうなんて笑っちゃう♪ 折角なら、もっと沢山で攻めて来て欲しいよね、キャハ♪」
 声を上げ、笑うスマイリィ……その周囲を妙な気が流れ始める。
「……それなら、あなたの要望に、応えられそう、だよ」
 何時、不意を突かれたは分からない。
 だが、スマイリィの首筋をかすめるように、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)の握った『霊刀『鳴月』』が添えられていた。
「キャハ♪ 不意打ちなんてやるじゃない、ケルベロス。でもね、私は強いよ♪」
 満面の笑顔でそう言うと、スマイリィは綺麗に宙を回転すると、リーナの戒めを解く。
 瞬時に距離を取る、リーナ。
「スマイリィさん、はじめまして……私達と、楽しい事、致しませんか?」
 水色のフレアドレスを指先でつまみ、礼をしながらアリスはそう言うと、手に砲撃形態に変えた『宝虹花フノシル』を握り笑う。
「――退屈は、させませんよ?」
「楽しそうだけど―、私もお仕事あるしー♪」
「我々なら……貴方に、これまで感じた事のない程の戦いの喜びを教えてあげる事が出来ますよ」
 指先を口元に当て、迷っている様子を見せるスマイリィに、ビートが流れる星の力を込めた蹴りで牽制する。
「バトルジャンキーとお聞きしていましたが……もしかして、我々と戦うのが恐ろしいですか?」
「弱いくせに生意気ねー」
 蹴りを放った次の瞬間には、距離を大きく開く様に後ろに下がったビートを嘲笑う様にスマイリィは言う。
「ここじゃ、思いっきり暴れられねえよな? 何とか兵装があるんだよな? 広い所で俺達とバトろうぜ!」
 言いつつ、天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)は、スマイリィの軽装甲を打ち破らんばかりの痛烈な衝撃をスマイリィの顔の横にかすめさせる。
「あ、やっぱり♪ 『弩級兵装』の事、嗅ぎつけて来ちゃったんだ。さっすが、地球のわんこちゃん♪ ま、いっか♪ アンバーちゃんとティアーちゃんが居るし~♪ 楽しませてくれるって言ったの、嘘じゃないよね?」
「報復には許しを 裏切りには信頼を 絶望には希望を 闇のものには光を 許しは此処に、受肉した私が誓う “この魂に憐れみを”」
 スマイリィが疑問を口にすると、ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)の声が辺りに響く。
「勿論、嘘では無い。だが、スマイリィ……お前に勝利の喜びは訪れないがな」
「そう言う事だな。勝つのは、俺達って決まってるからな」
 ミスラの言葉を肯定した、白いスーツを纏った天谷・砂太郎(修羅に堕ちし白雷・e00661)が、最後衛から雷の障壁をスマイリィとケルベロス達の間に張る。
「分かった♪ じゃ、それでいいよっ♪ しっかり私を楽しませてね♪」
 狂気を帯びた瞳で笑うと、スマイリィは後ろに後退していくケルベロス達を追った。
 とにかく洞窟から離れようとするケルベロス達の思惑にスマイリィも当然気付いている。
(「洞窟の守りを薄くしたいんでしょ? くだらな~い。全部倒して戻るだけなのに。全然、攻撃当てられないみたいだし。楽しめないかもな~。しゅ~ん」)
 低空を猛スピードで飛び、スマイリィはビートとの距離を一気に詰めると、両椀の剣を十字に閃かせる。
 ……だがその間に、キース・クレイノア(送り屋・e01393)が割って入るとその斬撃を代わりに受け、カウンターを喰らわせる様に、高い位置から真っ直ぐ鉄塊剣を振り下ろし、スマイリィを地面に叩きつける。その攻撃に繋げる様にキースの相棒である、シャーマンズゴーストの『魚さん』も神爪でスマイリィの翅を傷つける。
「攻撃を受けるのは楽しいか? それとも腹立たしいか?」
「楽しいに決まってるじゃない♪」
 キースの言葉に答えると、翅を操りスマイリィは体勢を立て直す。
 光太郎やビートは攻撃を当てられなかった訳ではない……当てなかったのだ。
 スマイリィにダメージが入れば、すぐさま『リモデ・ラーソン』に信号が送られ『弩級絶対防衛シールド』の転送スイッチが入ってしまうだろう。
 その為に……少しでも時間を稼ぐ為に、戦闘域に達するまではスマイリィにダメージを与えなかった。
 言葉の挑発に攻撃を混ぜたのは、スマイリィの戦闘意欲を刺激する為に他ならない。
「なら、こっちでおっさんたちがド派手に遊んでやるよ。ぁ? 文句あんのかよ」
 背に強烈な黒い日輪を浮かべ、熱波を放ちながら、 燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)が言う。
 言葉の間に亞狼は、スマイリィを十分洞窟から遠ざけた事を確認する。
(「あっと、こいつ名前なんだっけな? まあ壊すだけだ、どーでもいいやな」)
 わしゃわしゃと頭を掻きながらも、亞狼は次の一撃を放つ為のグラビティ・チェインを高めていった。

●強敵
「キース! 雷の盾だ! 耐えてくれよな! ま、微々たる支援だが、何もないよりかはマシだろ!」
 叫びと共に砂太郎から放たれた雷は、雷の装甲となってキースを覆う。
「……まだ、倒れはしない……だろ? 魚さん?」
 幾度目かの鉄塊剣の斬撃を横に薙ぎ、キースが呟く。
 魚さんも祈りを捧げながら、仲間達に攻撃が行かない様にスマイリィの注意を引き付けているが、このまま攻撃を受け続ければグラビティ・チェインが枯渇してしまうだろう。……それでも。
(「……ここで朽ちたら、他にも影響が出てしまう。そうならない為に……自分の出来る事をしっかりと。……皆を守る為に、良き知らせを届ける為に。……待つ人の為に、自分の為に……必ず成功させて生きて帰る」)
 キースが決意と共に剣を下段に構え直せば、右腕の赤い布と共に巻いた鈴が『チリリン♪』と鳴る。
 スマイリィとの戦闘開始から、5分程時間が経過していた。
 情報通り、スマイリィの機動性は高く、攻撃を避ける事もダメージを与える事もかなり難しかった。
 だが、その無理を通していると言っても過言では無かったのが、今回のケルベロス達のポジション編成にある。
 前を固める盾役の亞狼とキース、そして魚さんは、当てられる攻撃を可能な限り、スマイリィの思考回路に自身への怒りを埋め込むものに絞った。
 その結果、狂気めいた笑いを浮かべながら攻撃を放つスマイリィの攻撃は、一度を除いて後ろに控える者達には向いていない。
 次に有益だったのは、攻撃役をスナイパーのみに絞った事だろう。
 一撃の攻撃力と言う意味では、クラッシャーに勝てる事はあまり無いが、強い攻撃も当たらなければ全く意味を成さない。
 光太郎の刃の鋭さを持ったキックが決まれば、ビートが『童子切安綱』、そして……リーナが兄から借りて来た兄の愛刀『叢雲』でそれぞれ、月弧を描きながらスマイリィを斬りつける。
 動きが鈍くなったスマイリィに向け『女神のフラワリープリンセスポーチ』のデバイスに『スート・ザ・ワンダーランド』の『ハートのA』をスラッシュし、髪に虹色の花が咲く『フラワリープリンセス』となったアリスが、虹の花を纏わせた強力な攻撃を放った。
 4人が確実に攻撃を当てることで、更に 『CODE≪Ignis≫』『CODE≪Glacies≫』赤と碧、2本の槍を使いこなすミスラの雷を纏った刺撃がスマイリィの動きを制限していく。
「空を駆ける道具は、何も翅だけとは限りませんよ?」
 空中でのダブルジャンプを使いこなし、スマイリィより高い位置を取りながら、ミスラが挑発する様に言っても、スマイリィの視界はどうしても亞狼やキースに向いてしまう。
「あなたも十分ムカつくんだけどね~。でも、仕方ないじゃない♪ こいつ等の方が腹立たしいんだもんっ♪」
 獲物をいたぶる歓喜の表情を浮かべ、スマイリィは亞狼を鋭く尖った爪先で蹴り上げながら回転する。
「ぁ? うるせーよ。んなこと知るかよ」
 鉄塊剣でスマイリィを斬り上げながら普段通りのテキトーぶりで亞狼は言うが、身体は鉛の様に重かった。
(「……クソトンボが。これだけ攻撃力あって、機動性重視とかチートかよ。……ま、知ったこっちゃねぇがな。……勝ちゃなんでもいんだよ」)
 胸の内で悪態を吐く亞狼に魚さんの祈りのグラビティが注ぎ込まれるのだった。

●決着
「亞狼!」
 叫ぶと同時に砂太郎が『雷鳴の木剣』を振り、癒しの電気ショックを飛ばすが、倒れた亞狼は、立ちあがらない。
「これで、2匹目……1匹目? ま、どっちでもいいか♪」
 装甲をズタズタにされながらも、笑顔を絶やさないスマイリィが嬉しそうに言う。
 剣閃で倒れた亞狼……そして既に、魚さんがスマイリィのテイルバスターに巻き込まれた際に戦場から姿を消していた。
 だが、スマイリィにも十分なダメージが与えられている事は事実だ。
 無惨な身体の装甲、ショートし始めた動力部分……攻勢に出続ければ負けは無い。
 光太郎がそう確信した時だった。
「ティアーは倒した。こっちに加勢は必要か?」
 ティアーを倒し平原を駆ける、細身の男性ケルベロスが尋ねて来るが、光太郎はスマイリィから視線を動かさず答える。
「こっちの蚊蜻蛉は、虫の息だ! アンバーと闘ってる方を助けてやってくれ! こっちも地面に叩き落としたらすぐに行く!」
「光太郎さん……。ああ答えたのなら、こちらも手早く終わらせなければいきませんよ?」
「……ああ」
 ビートの言葉に光太郎は口元に笑みを湛え答える。
「ならば、行きます! 私の一撃、そう簡単に受けられると思うなッ! 凍える風を刃に纏え! 霊刀解放! 全てを切り裂け!」
 刃に世の全てを凍らせると言われた魔神の魔力を込め、ビートがスマイリィを袈裟に斬る。
「よしッ、手応えアリです!」
「力を貸して下さい! スノークィーン!」
 アリスが放った時をも凍らす弾丸と並走する様に、光太郎は戦場を駆けると、何処からともなくハリセンを取り出し、神速の一撃をスマイリィの頭目がけて放つ。
「向こうの支援も含めて時間はかけてられねえんでな……落ちろよ、蚊蜻蛉! なんでやねんっっっっっっ!」
 痛烈な音が響くが、スマイリィの瞳は光太郎を捉えていた。
 スマイリィの双剣が光太郎の首を狙って動いた時、キースが寸前で自身の右腕を盾の様に差し出した。
 赤いリボンに滴り落ちる鮮血……。
「キース! 止血はこれで大丈夫だ! やっちまえ!」
 雷のエネルギーをキースに注いだ砂太郎が叫ぶ。
「……さようなら」
 キースの青い地獄の炎が魅せるのは、鱗だらけのお姫様。燃える鱗は灯りを目指し零れ落ちる。『最期に魚に逢いたかった』と姫が伸ばした手が、炎となってスマイリィを差し貫き燃える。
「まだよ……まだ、終わらないよ♪」
「いいえ、終わりだ。スマイリィ……蜻蛉というより、ブンブンと喧しく飛び廻る所は蝿の様だったな」
『CODE≪Gleipnir≫』の名を持つブラックスライムで捕まえることで、ミスラはスマイリィに最後の抵抗すら許さない。
『ピリリリリリリリリリ』
 戦場に光太郎のポケットの中のスマホのアラームが鳴り響く。
「まずい! 戦闘開始から9分経った。リーナ! 決めろ―!!」
 光太郎の叫びに応える様にリーナがスマイリィと対峙する。
「これで、あなたの喜びの日々も……さよなら、だね。……集え力。……わたしの全てを以て討ち滅ぼす……! 討ち滅ぼせ……黒滅の刃!!」
 詠唱と共にリーナは、戦闘域に散らばる全ての魔力そしてグラビティ・チェインを強引に自身へと集束させ、黒く輝く一振りの魔力刃を生成すると、全身全霊を持ってその黒刃をスマイリィへと振り下ろした。
 全てを飲み込む黒は、最後まで笑顔を崩さなかった青い戦士の存在全てを消し去った……。

●帰還
 ミスラが勝利を知らせる青い信号弾を上げるのと同時に、アリスが叫ぶ。
「スマイリィさん、撃破完了です! 私達は先に洞窟に戻ります。皆さんもすぐに来て下さいね」
 アリスの声が届いたのか、アンバーと戦っているケルベロス――誰かまでは分からない――が腕をこちらに上げているのが見える。
 既に砂太郎を中心に仲間達のヒールを終え、目を覚まさない亞狼は、キースが背負っている。
 洞窟へと戻る最中……。
『ピリリリリリリリリリ』
 また、光太郎のスマホのアラームが鳴る。
「……丁度12分だ。リモデ・ラーソンを倒せていればいいんだけどな」
「シールドの破壊を手伝いに行きますか?」
 洞窟入り口まで辿り着き、ビートが仲間達に問う。
「駄目……量産型の増援がそこまで来てる。……ここで迎え撃たないと、シールドの破壊どころじゃないよ……」
 高性能スコープ越しに数多の量産型を確認し、リーナが呟く。
 その数分後には『アンバー班』『ティアー班』とも合流し、シールド破壊は『潜入班』を信じ、自分達は量産型の足止めに努めることで一致した。
 量産型との戦闘……それは、ただひたすらに耐え続けなければならない時間となった。
 1分耐え、3分耐え、5分耐え……『潜入班の帰還はまだか?』皆の脳裏にその言葉が過っていた。
 6……いや、7分後だろうか……その元気な声は、後方から聞こえて来た。
「お待たせ! 『弩級絶対防衛シールド』は破壊してきたよ!」
 銀髪の女性を先頭に、潜入班が帰還したのだ。
 ケルベロス達は、それぞれ笑顔を見合わせると、ありったけのグラビティを前方へと放った。
 ……自分達が帰還する未来へと続く道を切り開く為に。
 …………ただ前へと、真っ直ぐに。

作者:陸野蛍 重傷:燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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