弩級兵装回収作戦～空を舞う翼

■リプレイ

●裏口からの潜入
　石川県小松空港。
　予め、平島・時枝（フルメタルサムライハート・e15959）が用意した見取り図、そして、彼女が使うスーパーＧＰＳを活かし、自分達の現在地を確認する。
「……戦うことは嫌いですが……。被害の芽を摘みとる為に頑張りましょうか……」
　この作戦が失敗すれば、さらに多くの無辜の者に被害が及ぶ。御忌・禊（憂月・e33872）はそれを防ぐべく、やむを得ず戦いに身を投じる。
「今回もなかなか厄介な仕事だな」
　アシュヴィン・シュトゥルムフート（月夜に嗤う鬼・e00535）は移動しながら、後方を一瞥する。
　先行したチームが、空港付近に配備された量産型ダモクレスを引き付けてくれていたのだ。敵は確認できる範囲でも１０体余りおり、まともに相手にしていたらキリがなさそうだ。
「今の内に急ごうよ」
　ルリナ・ルーファ（あったかいきもち・e04208）が仲間達に促す。
　仲間が切り開いてくれた道。彼らの為にも、発掘される弩級兵装……『弩級高機動飛行ウィング』に損傷を、できれば破壊を目指したい。
「これは責任重大、だね」
　雨之・いちる（月白一縷・e06146）は小さく笑う。作戦前、別チームに参加している男性が、『死ぬ気で戻って来い』と言ってくれたのを思い出したのだ。
「結果は必ず、出してみせる」
　彼女はすっと、表情を引き締める。

　ケルベロス４チームは、滑走路にある発掘施設へとたどり着く。
　他３チームが東西と北から分かれて突入する中、こちらのメンバーは裏手側南の出入り口を目指していた。
　ヴィンチェンツォ・ドール（ダブルファング・e01128）は銃を構えながらも物音を立てぬように、かつ迅速に移動する。時枝も刀に手を掛けつつ、潜入を優先して進んだ。
　他チームがうまくやってくれているのだろう。一行は敵と遭遇することなく、施設南側までたどり着く。
「ならば、最後の仕上げとして、俺達も仕事を果たすしか無いだろう」
　目の前には、施設裏口の扉。自身の鍛えた愛刀を手に、天目・宗玄（一目連・e18326）は仲間の顔を見た。
「いくよ」
　ルリナが呼びかけると全員が頷く。そして、勢いよく扉を開き、全員で一気に駆け込む。
　アシュヴィンがそこで目にしたのは、僅かながらに体を浮遊させ、不気味な笑いを浮かべてウィングの修復を行う女性型ダモクレスだった。
「キヒヒ……、マサカ、こっちニ来ルなんてネ……」
　こちらを振り返る女性の名は、ギア・マスター。ウィングの発掘を任されたボスだ。
「お人形さん、遊びましょ……ってな。一人じゃ相手できませんって訳じゃなかろうね」
　問いかける時枝に対して、敵はただ不気味に笑うだけだ。
（「ギア・マスター。まさか、こんなところで会うなんて」）
　そして、こいつは村雨・ベル（エルフの錬金術師・e00811）の因縁の相手でもある。
「ちょっと見ない間に組織の歯車に……あっ、元からでした」
　敵の体はたくさんの部品で構成されており、体の所々に歯車が見える。錬金術の行き着く果てに、敵は自ら歯車の一部に成り果ててのだろうとベルは考えた。
「私一人では止めてあげられなかったけれど、皆と一緒なら！」
「ああ。確実に、勝利を掴もうじゃないか」
　女性は尊ぶもの。しかし、今回は任務に従事しようと、ヴィンチェンツォはリボルバー銃を構えた。
「……平島・塵風斎・時枝、推して参る」
　刀を抜く時枝が仲間と共に攻め入る。作戦の障害となるダモクレスを倒す為に。

●ダモクレスと成り果てた女錬金術師
　その体を歯車やバネといった部品に変えたギア・マスター。僅かに浮遊するその体は徐々に崩壊し、部品が地面に転がり、ガラクタへと成り果てる。
　その姿を目にしつつ、ヴィンチェンツォは戦場を駆け、戦闘態勢を整えていた。
「キヒヒヒッ……！」
　ギア・マスターの動きは速い。僅かに浮かぶ敵は不気味な笑いを浮かべ、ドリルに換装した腕を突き出してきた。
　仲間の盾となるべく、飛び出すルリナがその腕を受け止める。体を抉られた彼女はそのままオウガ粒子を撒き、自らと仲間の感覚を研ぎ澄ませていった。
　オウガ粒子を浴びて、跳び上がったいちるはギア・マスターへと蹴りかかる。一撃浴びせて着地した彼女は、敵の挙動を観察していた。
（「何か弱点があれば……」）
「大人しくして貰うぞ」
　その間にも、アシュヴィンもまた、流星の如き蹴りを食らわせ、敵の動きを制しようとする。時枝も緩やかな曲線を描くように、ギア・マスターの体の回路を刀で断ち切らんとした。さらに、禊が数珠を鎖のように飛ばし、敵の体を束縛していく。
　ともかく、自在に戦場を動く敵の機動力は問題だ。宗玄は出来る限り敵の攻撃を抑えつつ、一蹴をギア・マスターの延髄へと見舞う。
　攻めゆく仲間とギア・マスター。ベルはシャーマンズゴースト、イージーエイトに回復と壁役を任せ、自らは仲間に雷の壁を構築して援護しつつ、最後方からじっと敵を注視する。
　ベルにとってこの戦いは、弩級兵装の破壊だけでなく、ギア・マスターの阻止という目的が加わっていたのだ。
（「まあ……、破壊より修理のほうが好きな辺り、似た者同士よね」）
　相手は、発掘したウィングの修復に当たっていた。それに、ベルもかなり興味を惹かれてしまうが……。
「我慢我慢……」
　ここは戦場。しかも、多くの仲間がこの状況を作ってくれている。ベルは疼く知的好奇心を抑え、仲間の回復主体に動くのだった。

　ギア・マスター。
　一見すれば露出の大きいダモクレスだが、肩や背中の武装、そして、全身から見える歯車などの部品がそれを感じさせない。この歯車を埋め込むことで、他チームが戦う配下を操っているという話もある。
「キヒヒヒヒ……」
　当の本人は不気味な笑みを浮かべ、飄々とした態度で戦場を浮遊している。
　こいつの足を止めるべく、近づく禊が螺旋を込めた掌で敵へと触れた。直後、螺旋の力によって歯車が破壊され、異音が起こる。
　続き、ヴィンチェンツォが両手のリボルバー銃から、ばら撒くように弾丸を撃ち出す。足止め、捕縛とケルベロスは動くが、ギア・マスターは意にも介さずに襲い来る。
「来るぞ」
　影の弾丸を敵に放つアシュヴィン。彼は仲間に敵の攻撃に備えるよう促す。
　ギア・マスターはその背に数多くの武装を所持しており、代わる代わるそれらを使って斬りつけ、叩き、貫いてくる。どの一撃も威力は大きく、前衛メンバーは抑えるだけで手一杯だ。
　ベルが目立たぬようにと仲間の前に雷の壁を構築し、また癒しの雨を降らせる中、ギア・マスターは怪しく瞳を光らせる。
「キヒヒッ、食らいナ……！」
　敵は肩の砲塔から、高出力の光線を放つ。後ろの誰かを狙った一発は、宗玄が受け止めた。
　回復が優先と考える宗玄は鉄塊剣に地獄を注ぎ、同時に自らの体も活性化させていく。さらに、宗玄は仲間の為にと気力を溜め、ギア・マスターの攻撃を受けた仲間の回復にも尽力する。
「キヒヒ……」
　笑うギア・マスター。ヴィンチェンツォはそちらに意識を向けはするが、気になるのは敵の増援。ヴィンチェンツォは常にそちらにも一定の注意を払いながらグラビティを込めた弾丸を発射し、敵の右脇を凍りつかせる。
　その時、氷が割れるような音を立て、ギア・マスターが回転させた右腕を突き出すのを、今度はルリナが身を挺する。
　体を穿たれ、内臓をもぎ取られそうになる衝撃。ルリナはなんとか意識を保ち、虚の力を纏わせた大鎌で敵を切りつけて体力の補填を図っていた。
　ルリナも時に回復にも回っていた。この短期での戦いの間にも、ギア・マスターの瞳はケルベロス個々の技を観察し、隙を見てグラビティを叩き込んでくる。
　敵の抑えと回復、そして足止め。ルリナはこれらを織り交ぜ、立ち回っていた。
　そんなディフェンダー陣、そして回復役に癒されつつ、いちるは仲間の攻撃の前後に合わせ、具現化した光の剣でギア・マスターを斬り付けていく。
「……この身、この心……未だ悟りには程遠いけれど……」
　禊もまた敵の心を斬るべく、我見・無明の刃を振るう。しかし……。
「キヒッ……」
　攻撃を何度受けても、ギア・マスターは地面に落ちることなくふわふわと戦場を浮遊し、砲塔から光線を発射してくる。
　前衛のメンバーが光線を受け止める横から時枝は敵へと迫り、レプリカントとしての身体機能を瞬間的に全て開放した。
「そんなに飛びたきゃ、あの世までカッ飛んできなぁ！」
　宙を浮かぶ敵、そして、敵の発掘するウィング。時枝はそれらを総じて敵を挑発しつつ、突き出した咆哮目掛けて神速の突きを繰り出す。
　だが、ギア・マスターも冷静だ。すぐさま砲口を下げ、歯車を散らして直撃を避ける。敵に傷は与えど、時枝は大きな手応えを感じることは出来ない。
「チッ……、やっぱり手強いな」
　アシュヴィンが舌打ちする。
　これだけ攻撃を与えても、ギア・マスターは不敵な笑みを崩さない。弱点もいまいちそれらしきものを掴むことが出来ず、アシュヴィンはただ攻撃を繰り返すこととなる。
　だが、そこで、メンバー達に思わぬ事態が起こることとなる。複数の足音がこちらへと近づいていたのだ。
　最悪の場合は暴走も考えねばならないと、アシュヴィンは考えていた。仲間達のうちにも、最悪の事態を想定する者はいるだろう。
「キヒヒヒッ」
　またも背中から武具を取り出すギア・マスター。笑いながら浮遊して接近する敵に、ケルベロス達は備える。
　そこに近づく足音。メンバー達は敵の攻撃に警戒しながらも、そちらを振り返ると……。

●一点攻勢、そして……
　こちらへと駆けつける複数の足音。
　施設内部側からやってきたのは、ギア・マスターの護衛を相手していたチームメンバー達だ。
「やれやれ……」
　正面、北側からやってくるチームが戦いに加わる。気だるげな雰囲気を纏う男がギア・マスターへと迫り、手にするナイフを力の限り押し込み、突き立てていく。
「ジョージ……！」
　それは、死ぬ気で戻って来いといちるに言ってくれた人だった。
「あ、ありがとうございます」
　大鎌で敵を抑えていたルリナも、思いもしない援護攻撃に驚きながらも丁寧に礼を述べる。
「こっちも受け取ってや！」
　西側からも、別チームが攻撃を開始する。テレビウムを連れたホームレスの男性がバスターライフルから凍結光線を発射し、露出するギア・マスターの歯車を凍らせた。
「…………」
　一気に、戦力は３倍にまで膨れ上がる。圧倒的な戦力で敵を攻めるケルベロス達を目にしながら、禊もまた氷の螺旋を放って敵の体の凍る領域を広げていった。
「手癖が悪いねぇ、おいたは駄目ってな」
　なおも攻撃に動く敵が背の武装を取ろうとしたところを、素早く銃を抜いた時枝が弾丸を撃ち込む。
　そこに、宗玄が空の霊力を纏わせた刃を重ね、仲間のつけた傷を深く抉る。
「そろそろ終わりだ……凍てつけ」
　勝機を感じたアシュヴィンが冷気を帯びた刀を振るうと、ギア・マスターの周囲に氷の花びらが舞う。
「悪いが、此処でお前には終わってもらおうか」
　畳み掛けるケルベロス達。ヴィンチェンツオも敵の頭を正確に狙い……撃ち抜く。だが、敵はなかなか倒れない。
　敵の攻撃を抑える手が増え、回復手も増えたことで、ベルもまた畳み掛ける。
「……状況Ｄ『ワイズマン』発動の承認申請、『敵機の完全沈黙まで』の能力使用送信――限定使用受理を確認」
　詠唱によって、彼女は体中に無数の魔法陣を出現させた。そして、そこから大量の霊鎖が出現し、ギア・マスターの体を捉える。ベルはすかさず、鎖を伝って敵の体へと雷を放出していく。
「キヒッ……」
　呻くギア・マスターへ、いちるがさらに攻め入る。
「掬んで、開いて。てのひらで踊って」
　ベルの鎖に隠れるようにして、いちるの放った魔力の糸もまた敵の体を絡め捕っていた。陽炎の如きその糸は敵の体を締め上げる。
「てのひらで踊ってくるくると、さりとて疾くと鋭きて」
　彼女がさらに言葉を紡ぐと。解かれた糸は無数の氷の刃へと姿を変え、ギア・マスターの体を貫き、寸断してしまう。
「キ、キヒヒッ……」
　最後の最後まで狂気の笑いを上げていたギア・マスター。ついにそいつは乾いた音を立てて地へ落ち、その体をもガラクタへと化す。
「Addio」
　それを見届け、ヴィンチェンツォは交戦相手へと餞の言葉を贈ったのだった。

●ウィングの破壊を！
　ギア・マスターを倒したから終わり……と言うわけにはいかない。
　作戦の目的はあくまで、弩級兵装の破壊だ。
　メンバー達は勢いそのままに、発掘されたウィングの破壊へと乗り出す。真っ先に、時枝がドリルのように回転させた腕を突き入れていく。
　他２チームからもグラビティが飛び交う。皆、全力で攻撃を仕掛けるものの、その兵装は思った以上に硬い。
　いつ、増援が来るとも分からない。ルリナもヴィンチェンツォも突入口に警戒を強めながら、大鎌を、銃弾を浴びせかける。
「おかわりがもうちょっとで来るようですよ！」
　少しして叫んだのは、もう１つのチームの牧羊犬の顔のウェアライダーだ。どうやら、量産型ダモクレスが接近しているらしい。
「増援は私達に任せて！　あなた達にはウィングの破壊をお願いするわ！」
「どでかい破壊音を聞かせてくれることを期待しておるぞ」
　シャドウエルフの魔法少女と鬚っ娘ドワーフがそう告げ、援護に来ていた２チームが増援の対処と退路の確保へと動き出す。
「急ぎましょう」
　それを見たベルが仲間に促し、殺神ウイルスを撃ちこむ。彼らの為にも、こちらは弩級兵装を破壊せねばならない。
「……ええ」
　この僅かな時間を作ってくれたメンバーの為にも。同意する禊は、無音の一撃をウィングに浴びせた。
「一度で無理なら、何度でも」
　諦めるわけにはいかない。いちるは魔力の糸を操り、ウィングを切断しようと締め付ける。
　対象が動くことはない。アシュヴィンもブラックスライムを食らいつかせ、対象の破壊を目指す。
　ウィングの破壊を。宗玄も、仲間がグラビティを叩き付けたところへ、斬霊刀の刃を滑らせる。その一撃で、ウィングに火花が大きく散り始めた。
　直後、巻き起こる轟音。ウィングが中央から砕け散る。一行はその大破に見事成功したのだ。
「はー……、これで終わり、かな？」
　中ほどが粉々になった兵装を目にし、いちるは他の場所の弩級兵装を気にしていたものの。量産型ダモクレスがやってくる。悠長に考える時間はなさそうだ。
「任務完了、撤収だ」
　宗玄がこの場全てのケルベロスに呼びかけた。
　それらが到着してしまう前に、メンバー達はこの場の３チームと合流し、急いで発掘施設から脱出する。
　『弩級高機動飛行ウィング』完全破壊という、大きな土産を持って。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月24日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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