自称天才様の襲撃

作者:秋津透

「喜びなさい、我が息子。実験は成功です。お前は、ドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得ることができました」
 愛知県岡崎市、某所。仮面で素顔を隠したドラグナーが、手術台の上に横たわった痩せぎすで長髪の男に告げる。
「これからお前がするべきこと、それは与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取ることです。そうすれば、お前は完全なドラグナーとなることができるでしょう」
「ほほう、愚民どもを殺して力を奪えと。なるほど、それは一興」
 起きあがった男は、くくく、と薄気味の悪い嗤いを浮かべる。
「もともと世の愚民どもは、天才たる余に奉仕するためだけに存在を許されているようなもの。余が完全なドラグナーとなるために、その卑しい血肉が役立つとあらば、随喜の涙を流して捧げるが当然」
 まあ、愚民どもが喜ぼうが嘆こうが、余にとってはどうでも良いことだが、と、男は手術台の脇に置かれた長大な銃砲……バスターライフルを手に取る。
「では、行ってくる。余の天才を認めず、ひれ伏して礼を尽くすことをしなかった愚民どもは、ことごとく抹殺されて余のための贄と化すであろう」
「ええ、成功を祈りますよ」
 仮面のドラグナー『竜技師アウル』は、どこか冷やかな微笑を浮かべて応じた。

「自分が天才だと信じ込むのは勝手だけど、だから自分のために他の人が犠牲になっていい、なんで思うのは最低だよな。まして、お前らは俺のために死ぬのが当然、だから殺す、なんて言い出したら放置しちゃおけない。デウスエクスが絡んでいるなら、尚更だ」
 北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が、苦い表情で唸る。そしてヘリオライダーの高御倉・康(たかみくら・こう)が緊張した表情で告げる。
「愛知県岡崎市で、佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)さんの宿敵であるドラグナー『竜技師アウル』が事件を起こす予知が得られました。『竜技師アウル』は人間にドラゴン因子を移植し、新たなドラグナーを生み出す実験をしています。そして、自分は天才で崇められるべきだと根拠なく主張して誰からも相手にされなくなった尊大な男性……たぶん、重度の妄想病患者じゃないかと思うんですが、その人を実験体とし、新たなドラグナーにしてしまったようなのです」
 気の毒ですが、この人はもう助けられません、と、康は深く溜息をつく。
「幸いと言うべきなのかよくわかりませんが、この新たなドラグナーはまだ未完成で、完全なドラグナーとなるためには必要な大量のグラビティ・チェインを得る必要があります。そこで、グラビティ・チェインの入手と、ドラグナー化する前に惨めな思いをさせられた復讐を兼ね、人々を無差別に殺戮しようとしているのです。急ぎ、現場に向かい、未完成のドラグナーを撃破してください」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「未完成ドラグナーが出現すると予知された場所は、岡崎公園の中の岡崎城復元天守の正面で、時刻は正午です。彼がどこから現場に来たかは、現時点ではわかりません。探り出すことはできるかもしれませんが、竜技師アウルは冷静で用心深いドラグナーだそうですので、もたもたと居残っている可能性はほとんどないと思います。また、現場には多くの市民が憩いにきていますが、事前に避難勧告や区域封鎖を行うと未完成ドラグナーが出現しなくなるおそれがあるため、それはできません。敵の出現が確認されてから、急遽避難してもらうことになります」
 苦悩の表情で告げる康に、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が告げる。
「そういう状況なら、私とロコも行きます。少しでも人数がいた方が、避難誘導の手助けになるでしょう」
「よろしくお願いします。自称天才の未完成ドラグナーは、一般人を馬鹿にしきっていますが、その場にいる人たちに直接の恨みがあるわけではないので、皆さんが巧く挑発してくれれば、挑発した人へ攻撃を向けると思います。また、未完成ドラグナーの能力やポジションは不明ですが、バスターライフルを携えていることがわかっています。そして、本当に幸いなことに、一時的にドラゴンを自己憑依させて変身する力はありません」
 まあ、それができてしまうなら、もう完全なドラグナーですよね、と、康は肩をすくめる。
「残念ながら、ドラグナーとなってしまった人を救うことはできません。彼が人々を無差別に殺戮してグラビティ・チェインを蓄えるのを止め、完全なドラグナーとなる前に撃破するよう、よろしくお願いします」
 そう言って、康は頭を下げた。


参加者
英・陽彩(華雫・e00239)
月見里・一太(咬殺・e02692)
不破野・翼(参番・e04393)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
浜咲・アルメリア(楯花・e27886)
フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)
シフ・アリウス(ハートフルハウンド・e32959)
ミスル・トゥ(本体は攻性植物・e34587)

■リプレイ

●自称天才ドラグナーの出現
 その日の正午前、愛知県岡崎市の岡崎公園では、特に普段と変わったことが起きているようには見えなかった。
 岡崎公園は近隣の市民の憩いの場であると同時に、岡崎城復元天守を訪れる観光客も多く、見慣れない若者や外国人、あるいは異種族がちらほら居ても、さほど違和感はない。
 しかし正午ちょうど、復元天守の脇、龍城神社社殿の陰から現れた若い男が天守正面入口前に立ち、携えていたバスターライフルを露わにした瞬間、その場はいきなり戦場と化した。
「デウスエクスの襲撃よ! みんな、落ち着いて逃げて!」
 凛とした風を巻き起こしながら、着物姿の淡紅の髪の美少女、浜咲・アルメリア(楯花・e27886)が若い男の真正面、至近距離と称してもよさそうな位置まで殺到する。
「な、何だ、お前は!?」
「守り手よ」
 敢えてケルベロスとは言わず、アルメリアは凛然と告げる。
「あたしが守る。普通の日々も、あたしの仲間も……必ず、守り抜く。弱い者いじめしかできない偽天才のデウスエクスもどきなんかに、壊させはしない!」
「何をほざくか!」
 小娘が大口を叩く、と、男……自称天才の未完成ドラグナーは、目前の少女にバスターライフルを向け、躊躇なく撃つ。アルメリアのサーヴァント、ウイングキャットの『すあま』が飛び込もうとするが間に合わず、アルメリアは直撃を受ける。
「はっ! 貧弱、貧弱! 天才様が聞いて呆れるわ!」
 決して小さいダメージではなかったが、アルメリアは昂然と言い放ち、重力を籠めた蹴りを男に見舞う。同時に『すあま』は、アルメリアに癒しの風を送る。
「お返しよ!」
「ぐふっ! よ、よくも凡俗の分際で、高貴な天才たる余を足蹴に……!」
 未完成ドラグナーは形相を変え、アルメリアを睨み据える。
「小娘、名を名乗れ! この必殺銃に直撃されて死なぬばかりか反撃してくるとは、貴様、ただの小娘ではあるまい!」
「人に名を聞くときは、まず自分から名乗るものよ。そんな基本的な礼儀も知らないなんて、とんだボケナスで非常識な天才様ね!」
 アルメリアが言い返し、未完成ドラグナーはぎりぎりと奥歯を噛む。
(「キャー! 流石のアルメリア殿がイケメンでござるぅ!」)
 そのまま彼女の背後について応援したい気持ちをぐっとこらえ、ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)は自分も凛とした風を使用、周囲の一般人を落ち着かせて避難誘導する。
「はい、慌てて走らないで、列を崩さないで、整然と迅速に退避するでござるよ! 走ると危険でござる! 立ち止まると危険でござる! まずは、離れて! この場を離れて!」
 拙者が最後尾でござるよ、拙者の前に入るでござるよ、と、ラプチャーは凛とした風にラブフェロモンを併用しながら、群衆がパニックを起こさないように、整理誘導して退避を促す。
 ……どっかの即売会会場で見た手法のような気もするが、有効なのだから気にしてはいけない。なんちゃって侍言葉と岡崎城前というロケーションから、戦国時代にタイムスリップしたような錯覚が起きるかもしれないが、そういうわけでもない。
 一方、月見里・一太(咬殺・e02692)はアルメリアの横に急行し、敵の視線を塞ぎながら挑発する。
「よぅ天才サマ! 番犬様が迎えてやるよ、ようこそ地獄の一丁目へな!」
「むっ!? 番犬? 獣人? ……そうか、貴様ら、ケルベロスか!」
 くわっと目を剥いて、未完成ドラグナーが喚く。一太は意図的に、げらげらと嗤って応じる。
「はっは、さすが天才サマ、大当たりだぜ、って、その程度はバカでもわかるよな。ところで天才サマよ、態々足労頂いて何だがね。天才如きで番犬に叶うたぁ思ってねぇよな?」
「何を抜かすか! 貴様ら犬ころの一人や二人、即座に蹴散らしてくれるわ!」
 喚き散らすドラグナーを、一太は哄笑して挑発する。
「まさかその慣れねぇ豆鉄砲で俺等を射抜けるとか? はは、やってみてくんねぇかねぇ? 指差して笑ってやっからさ」
「もうやったわよ。御覧の通り、射抜けなかったわ」
 アルメリアが告げ、一太は腹を抱えて大仰に嗤う。
「ははは! そりゃ見損なって残念だったわ! だけど天才サマ、チャチい豆鉄砲だろうと番犬に銃向けて無事で済むと思ってんなら……大間違いだぜ!」
 一転して凶猛な殺気を籠めた雄叫びとともに、一太はドラグナーに鉄塊剣を叩きつける。力任せの一撃をまともにくらい、ドラグナーは大きくよろめくが、何とか倒れず踏み止まる。
「お、おのれ、犬ころ、余を打った報い、すぐにでも……」
「やかましい」
 背後に回った英・陽彩(華雫・e00239)が、遠慮会釈の微細片もなく、いきなり必殺のオリジナルグラビティ『焔雷・咢(ホノイカズチ・アギト)』を炸裂させる。
「ぎゃああああああああああああっ!」
「言っとくけれど。手加減なんて一切するつもりなんてないから」
 陽彩が召喚した赤い雷を纏った狼に高速突撃され、全身に雷を受けてのたうつドラグナーに、彼女は冷やかに告げる。
 一方、ライドキャリバーに乗った着物姿の青年が出現。ラプチャーの誘導から漏れた一般人を丁寧に拾い、助け起こして避難誘導する。
 その青年は、この事件を探り出した北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)によく似ているが、なぜヘリポートにいた彼がヘリオンに乗らず、サポートとしてこの場に現れたのか、それは追及してはいけない。
「……ふーむ、もう充分に頭には血が昇っているようね」
 これは、自分が大勢を相手にしていると気がつかれない方がいいのかしら、と、フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)は冷静に呟き、挑発はせずに包囲ポジションを確実に占位、アルメリアをオリジナル治癒技『Airget-lamh(アガートラーム)』で回復する。
「其は勇者スレンによりて奪われしもの。其はディーアン・キェーフトによりて齎されしもの。しろがねの右腕よ、癒やしの力を」
 高らかに宣言したいところをぐっと抑え、静かに、控え目に、フィオナは治癒を行う。ドラグナーは彼女の存在自体に気がつかなかっただろうが、癒されたアルメリアは気付き、微笑を浮かべて小さく礼を返してきた。
 そして彼女のサーヴァント、ウイングキャットの『キアラ』も、主に倣って静かに、控え目に、清浄な風を前衛に送る。
 一方、不破野・翼(参番・e04393)は計都が受け持っている方向とは反対側に走り、ラプチャーの誘導から漏れた一般人を丁寧に拾い、助け起こして避難誘導する。
 サーヴァントのボクスドラゴン『シュタール』は主に従い、翼は彼の存在が子供やお年寄りを元気づけると信じて疑っていないが……客観的に見ると、けっこう怖い姿のようにも思える。しかし幸い、避難誘導される人たちには『シュタール』の姿をまじまじ見ている余裕はなかった。
 一方、包囲陣に加わったミスル・トゥ(本体は攻性植物・e34587)は、攻性植物の蔓を伸ばしてドラグナーに絡みつけるが、同時に少女の姿には似つかわしくない不思議な響きの男声で告げる。
「こ、これは恐ろしい、本物の天才だ。しかもドラグナーの力を加え、凄まじく強力になっている。我々に勝ち目はない。皆、降伏して慈悲を乞おう。天才の前にひれ伏すのだ」
「お!? お前にはわかるのか!? お前は、余を正しく評価できるのか!?」
 ドラグナーが喜声をあげ、顔には笑みが浮かぶ。しかしその笑みは、ケルベロスたちが思わず目を背けたくなるほど、あさましく醜い。
(「……傲然として怒ってる方が、まだしもかっこついてたね」)
(「殴りながらおだてに乗せるか……巧い手たぁ思うが……えぐい真似しやがる」)
 なんとも複雑な表情になるケルベロスたちを尻目に、ドラグナーは醜い笑みを浮かべながらミスルに命じる。
「お前は賢者だ。ひとたび余に刃を向けた罪は、許してつかわす。さあ、すぐにこの蔓を解き、余のために戦うのだ!」
「は、今すぐに……と、これが絡まって……むむむ……」
 蔓を解こうとしているように見せかけながら、ミスルは逆にぎゅうぎゅうと絞めあげる。
「申し訳ありません……少し、こう、動かないでいただけますか……」
「ううう、早くせい!」
 身動きとれずに喚くドラグナーに、白いケルベロスコートを脱ぎ捨て左右非対称の戦装束を露わにしたシフ・アリウス(ハートフルハウンド・e32959)が、容赦なく狙いを定めて轟竜砲を放つ。
「ぐわっ!」
「ドラグナーは全て、殺します……! それが僕に出来る唯一つの償いですから……!」
 日頃の人懐こく穏やかな犬の顔を捨て、シフは憎しみに身をやつした狼の顔になって叫ぶ。
(「このドラグナーの態度は、故郷を滅ぼしたあの男を思い起こさせる。あの日を思い出すと、失った右耳と尻尾が疼く。この疼きと苛立ちを全て眼前の獲物にぶつけよう!」)
「く、くそっ、卑しい犬ころめが……!」
 顔面を直撃され、人間の皮膚が剥げたところに、暗緑色の鱗を露出させてドラグナーが呻く。
 その時、サポートで駆けつけた霧山・和希(駆け出しの鹵獲術士・e34973)と遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が、ドラグナーの背後へ回り込んで復元天守に飛び込み、いったい何が起きているのか確認に出てきた職員の人を天守内に押し込んだが、ドラグナーは気付いていないのか視線も向けない。
 それでも万一を用心して、ディアナのサーヴァント、ウイングキャットの『ロコ』を盾代わりに背後に置き、和希とディアナは復元天守内にいる人たちが迂闊に外へ出てこないよう、その場を封鎖した。

●自称天才ドラグナーの最期
「犬ころ! 死ねい!」
 完全に頭に血が昇った形相で、ドラグナーは一太に向けてバスターライフルを撃ち放つ。そこへ『すあま』が飛び込み、一太を庇って攻撃を受ける。
(「ありがとよ!」)
 身代わりになってくれたウイングキャットに素早く一礼した後、一太はドラグナーを指差して大爆笑する。
「ぎゃはははははは! 番犬どころか、猫一匹射抜けねぇんでやがんの! 笑える、こりゃ笑える! おめぇはお笑いの天才サマかよ!」
「笑いごっちゃないわよ!」
 挑発だってのは重々わかってるけど、と、サーヴァントを撃たれてぶんむくれたアルメリアは、オウガメタルに覆われた容赦ない拳の一撃を、ドラグナーの半剥け顔面に叩き込む。
「ぐがっ!」
 ドラグナーの鼻が潰れ、鼻血が噴き出る。そして『すあま』は、自分自身を含む前衛に清浄な風を送る。
「お、お、おのりぇ……おひ、また蔓はとけないのは! ささと余のためにたたかへ! 犬ころと小娘を殺へ!」
 鼻血を抑えながら、ドラグナーは不明瞭な声で、ミスルに向かって喚く。そしてミスルは、神妙な声を出して応じる。
「申し訳ありません。ただいま、ただいま……今しばらく……」
(「あーあ、完全にダマされてやがる……つーか、どんなに見え透いてても、こいつは味方と盲信してぇんだろうなぁ」)
 俺としたことが、何か哀れになってきたぜ、と、一太は内心肩をすくめる。
(「だけど、情けはかけねぇぜ……もう人間にゃ戻れねぇんだから、とっとと引導渡してやらぁ」)
 呟くと、一太は渾身の重力蹴りをドラグナーの胸板に叩き込む。げぼっ、と、鼻血に加えてドラグナーの口からも血が溢れる。
「い……犬……ころぉ……!」
「はいはい、ぐちゃぐちゃ言ってないで、とっとと死んで」
 ああ、見苦しい聞き苦しい、と首を横に振り、陽彩が捕食形態の攻性植物を放つ。がぶ、と、もろに噛まれたドラグナーの顔から血の気が引く。
 しかしドラグナーは、荒い息をつきながらミスルに命じる。
「つ……蔓……切れた……やれ!」
「はっ、ただちに」
 ミスルは恭しく応じたが、しかしもちろん、仲間に攻撃などしない。
「どう……した……やれ!」
「申し訳ありません。抑制指令が、抑制指令が私の深層に……味方と登録された者を攻撃することができず……あなた様の天才を以て、忌まわしき抑制指令を解除していただければ……」
 もっともらしい口調で、ミスルが応じる。ドラグナーは絶句し、掠れた声で呻く。
「つ、つかえ……ねぇー!」
(「いや、騙されてるだけだって」)
 ドラグナーを包囲するケルベロスの全員ではないが大半が、無言の突っ込みを入れる。
 そしてフィオナは、再び『Airget-lamh(アガートラーム)』を使い『すあま』を癒やす。『キアラ』も再び、前衛に清浄な風を送る。
 続いてミスルは、おそらく意図的だろうが、変な動きからドラグナーに攻撃を仕掛ける。
「おおお、抑制指令が、暗示が、私の行動を縛る……お許しください、これは決して私の意志ではない……偉大な天才を攻撃するなど、何と無謀な……」
「お、おのれ……どうすれば……暗示が解けるのだ?」
 的確に急所を攻撃されながら、ドラグナーは息も絶え絶えに呻く。するとミスルは、しゃあしゃあと答える。
「私ごとき凡俗には何とも……そもそも方法がわかるなら、とっくに自力で解いております。しかし、あなた様の天才を以てすれば……」
「くっ……」
 呻くドラグナーに、シフが憎悪を籠めて重力蹴りを放つ。
「あなたの言う天才って言葉は僕の知る天才と違う意味のようですね……人を無差別に傷付けるような天才があってたまりますか!」
「黙れ、犬ころ……真の天才は……凡俗に配慮などせぬ……貴様の知る天才とやらは……愚にもつかない凡俗の善人……」
 こちらも憎悪を籠めて、ドラグナーが呻く。
 そこへ、避難誘導を無事に終えたラプチャーが駆け戻ってきた。
「おおっ! さすが皆様、絶対優勢でござるね! 敵は逃げられもせず、瀕死でござるね! 頼もしい限りでござった。拙者は決めてくるのでござるよ!」
 今にも歓喜で踊りだしそうな口調で軽く言い放つと、ラプチャーはわざわざ一回アルメリアの陰に入って飛び出す。
「クックッ、ツンデレと猫の両方が居るこの場では拙者は最強なのでござるよ!! くらえ必殺『妄想具現(イメージクリエイト)』!!!」
 人が創り出した文化の結晶、それをその身で体感出来るなんて幸せな事でござるよ? ……なーんて、な、と小さく皮肉げに呟き、ラプチャーは今まで収集してきた知識をフル活用、その時その場に適した攻撃手段を駆使する。
「無駄にプライドの高い敵には、顔面への蹴り! 足蹴! いでよ、巨大足(タイタンフィート)!」
「ぐぶっ!」
 ドラグナーの顔にでっかい足が叩きつけられ、続いて高密度のエネルギーが集中したラプチャー自身の左腕が振るわれる。ドラグナーにエネルギーが接触した瞬間、凄まじい大爆発が起きる。
「……天才を口にするより、馬鹿として振る舞う天才の方がよっぽど面倒なのでござるよ」
 天才性とは振る舞いで示すもの、でござる、フッ、と、ラプチャーは前髪を軽く払って呟く。
 ところが、凄まじい大爆発をまともに受け、どう考えても生きているはずのないドラグナーが、ほとんど黒焦げの消し炭になりながらも倒れず、妙に気迫の籠った声で叫ぶ。
「ありえぬ! 余は天才だ! 天才たる余が、凡俗の手にかかって倒れるなど、ありえぬ! ありえぬことは、起きぬ! 退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ! ……とにかく余は倒れぬ! 絶対に、倒れぬぞぉ!」
「……凌駕?」
 目を点にしてアルメリアが唸り、ラプチャーが溜息をつく。
「いやはや、なんちゅー無駄な……」
「しかし、これも力です。自分を信じる、強い力です」
 ラプチャーと同様、避難誘導を無事に終えて駆け戻ってきた翼が、真顔で言う。
「こういった形でその強さが発露してしまったのは残念ですが……敬意を以て葬りたいと思います」
 そう言うと、翼は妄執だけで立っている消し炭の前に進む。
「俺の姓は不破野、名は翼。凡庸なこの身ではありますが、その名を聞く蛮勇を許していただけますでしょうか」
「貴様ら凡俗に名乗る名など、ない!」
 傲然と言い放つ消し炭に、翼は丁寧な口調で告げる。
「俺は貴方の強さに及びはしませんが、此処で止めます。この血の惨劇を貴方が望んだとしても、貴方の力を得た結末で不幸な人は、決して作らせません。その力に、敬意を表していますから」
「聞いたような口を! 止められるものなら、止めてみよ!」
 咆える消し炭に対し、翼は凌駕を許さぬフィニッシュの効果を持つ必殺オリジナルグラビティ『終の千鳥(ツイノチドリ)』の構えをとる。
「不破野に伝わる終の型をお見せいたします」
 宣告に続き、翼の両腕、両脚が、続けざまに相手へ叩き込まれる。四肢全てを武器と変え相手に止めを刺す凶悪な技をまともに受け、消し炭はひとたまりもなく崩れ去った。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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