●進軍ディザスター軍
青森県青森市。その某都市の市街地は、突如襲来したダモクレス・『スコルピオニ・リンヌンラータ 』の手によって、甚大な被害をもたらされていた。
建築物の破壊により、内部に取り残された人々。或いは、がれきの下敷きとなり、生き埋めになった人々。
警察・消防による懸命の救助活動が行われるも、ダモクレスの襲撃のさなか大規模なそれを行う事は出来ず、体を張って避難誘導を行うことが精一杯であった。
もちろん、スコルピオニ・リンヌンラータの狙いは、ただ建造物の破壊だけではない。
「ああ、逃げないでください」
スコルピオニ・リンヌンラータは、逃げ出そうとした男性の、首根っこを掴んで引きずり倒した。
「ひっ、や、やめて……」
男の言葉を意に介さず、手にしたナイフを男の身体へと突き立てる。
悲鳴すら上げる間もなく、男は絶命した。
「逃げられては困ります。グラビティ・チェインを獲得できませんから……」
淡々と。そう言い放ち、ナイフを引き抜いた。周囲を見渡し、ため息をつく。
「ケルベロスは――まだ来ませんか。でも、来るんでしょうね。まぁ、対処はしてあるんですけれどね」
スコルピオニ・リンヌンラータはそう言うと、頭を振った。ケルベロスが来ようが来るまいが、自分のやる事は変わらない。効率的に獲物を追い立て、効率的に狩っていく。それだけだ。
「さて、次はあちらの建物にしましょうか……」
言って、ライフルを構える。狙いは定めず、適当な位置に発射。
放たれた銃弾は、建物の入り口付近に着弾。瓦礫をまき散らし、人々の逃げ道をふさぐ。獲物は、籠の中に閉じ込められた。
●救出と迎撃と
「……地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達だが、どうやら新たな作戦を開始したようだ」
アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は集まったケルベロス達へ、状況の説明を始めた。
地球に封印されているという、強力なダモクレス『弩級兵装』。指揮官型ダモクレス達の狙いは、その弩級兵装の発掘だ。
「さらに、弩級兵装を動かすための大量のグラビティ・チェインを得るために、『ディザスター・キング』軍団のダモクレスによる市街地襲撃事件も発生する。よって、今回皆には、この市街地を防衛してほしい」
ただし、とアーサーは一言付け加えると、
「敵ダモクレス達も、今までの経験から、市街地を襲撃すればケルベロスが迎撃にやってくることを理解している」
そのため、ケルベロス迎撃のため『踏破王クビアラ』軍団のダモクレスが参加している。戦場にやってきたケルベロスの迎撃はクビアラ軍団のダモクレスが行い、ディザスター軍団のダモクレスは、そのままグラビティ・チェインの収奪を続ける、という作戦のようだ。
「当然ながら、我々だけで人々を守りつつ、2体のダモクレスを撃退することは不可能だ。ならば、我々も手を組み、戦えばいい」
つまり、2班による連携作戦である。
本作戦のチームは、ディザスター軍団のダモクレス、スコルピオニ・リンヌンラータを迎撃する。まず、本作戦のチームは、事前に市街地で待機。スコルピオニ・リンヌンラータの襲来を待つ。
その後、別チームがスコルピオニ・リンヌンラータを攻撃する。すると、それを阻止しようとクビアラ軍団のダモクレスが現れるだろう。別チームにはそのままクビアラ軍団のダモクレスと戦闘を行ってもらう。
「スコルピオニ・リンヌンラータが再び自由になった時が我々の出番だ。全力を以て、スコルピオニ・リンヌンラータを攻撃。撃破してもらいたい」
スコルピオニ・リンヌンラータは、次のような武装をしているという。
まず、小型のセラミックナイフ。これは、ケルベロス達の『ズタズタスラッシュ』と同等の能力を持っていると推察される。
手にした対物ライフルは『コアブラスター』と、背中に背負った背部大型キャノンは『マルチプルミサイル』と、それぞれ同等の性能を持っているだろう。
ケルベロス達で言う所のポジションは『クラッシャー』。戦闘能力を徹底的に追求した機体であるらしい。
「そうそう、スコルピオニ・リンヌンラータの撃退だけが君達の仕事ではない。我々が攻撃を行えるようになるまでは、少々時間がある。その間、目立たない範囲で構わないので、人々の避難誘導を手伝ってほしい」
と言っても、救援活動の主体は、消防や警察の仕事になっている。
ケルベロス達には救援活動を支援する形で、建物のヒールや、逃げ遅れた人々を救助してもらいたい。
「ダモクレスの作戦を防ぐために、そして襲われた人々を救うために、頑張ってほしい。作戦の成功と、君達の無事を祈っている」
そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352) |
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990) |
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033) |
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716) |
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881) |
暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145) |
イ・ド(リヴォルター・e33381) |
鹿坂・エミリ(地球人のウィッチドクター・e35756) |
●襲撃の裏で
現場に到着したケルベロス達は、混沌とした街の状況を見せつけられることとなった。
あちこちに瓦礫が散乱し、人々は逃げ惑う。けが人の姿も多く見て取れた。警察や消防が何とか救助、避難活動を行っているものの、明らかに手が足りていない様子だ。
「……ひどい」
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が思わずつぶやいた。
「ダモクレスと戦う前に、一先ず人命救助優先ですわね」
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)の言葉に、ケルベロス達が頷く。
この状況の元凶たるダモクレスと戦うまで、少々時間がある。その間に、ケルベロス達は避難誘導や、救助の支援を行わなければならない。
イ・ド(リヴォルター・e33381)は最終決戦モードへとチェンジ。目立ちやすい場所へ立つと、
「我々はケルベロスである。落ち着いて避難誘導に従うように。我々が必ずデウスエクスを打倒し、この街を、民間人を守り切る」
と宣言。その姿、その言葉に、人々は目を奪われた。不安と恐怖が支配していた彼らの心に、大小様々ではあったが、確かに安堵と希望が生まれたのである。
ケルベロスが助けに来てくれた。
それは民間人にとって何よりの希望であるのだ。
「無線が通じないようだけれど……情報の伝達をお手伝いしましょうか?」
かぐらが、救助を担当していた男に話しかける。
「被害者が心配だ、少しでも早く助け出そう」
呟きながら、暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)もまた、男へと話しかける。重機の入れない場所などのがれきの撤去を行うため救助隊と連携しなければならない。
男は礼を言うと、2人を本部へとの案内していった。
「俺は、可能な限り高所から、要救助者を見つけるよ。情報の中継役もやるから、何かあったら教えてほしい」
言って、クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)は飛翔。高所から建物のヒールと、周囲の状況把握を開始。
「人助けというのはあまり柄ではありませんが、依頼されたからには完遂しましょう。……それに……見殺しというのも寝覚めが悪いですからね」
鹿坂・エミリ(地球人のウィッチドクター・e35756)が言いながら、周囲を見渡した。
ふと、視界にオイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)の姿が入る。どこか上の空のような様子のオイナスへ、
「……オイナスさん、どうかしましたか?」
エミリが尋ねる。その言葉に、オイナスは慌てたように、
「え? あ、はい、大丈夫なのですよ」
答えた。エミリは問いただそうとして、やめた。今回の相手は、オイナスと浅からぬ因縁のある相手である、とは聞いている。で、あれば、彼にも何か思う所があって当然であろう。
「……わかりました。あまり無理はなさらぬよう」
そうとだけ告げて、エミリもまた、救助活動へと移る。
そんなエミリの姿を、オイナスは視線で追った。
「……ボクも、救助に移らないと、ですね……」
呟いて、駆けだす。
そんなオイナスの後姿を、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)が心配げに見つめていた。
「そこから東に200メートル、北に80メートルの瓦礫の下に人が埋もれてる!」
クーゼが叫び、地上のメンバーへ情報を伝える。怪力を発揮したケルベロス達は、次々と瓦礫を撤去、けが人へヒールを施す。
「お待たせ、もう大丈夫だよ」
守人が優しく声をかけつつ、けが人に手を差し出した。
「合理的判断に基づき、誘導指示に従い退避せよ。大丈夫だ、必ず助ける」
イ・ドも人々を鼓舞しつつ、救助活動と索敵を続ける。
「部隊長さんから伝言よ」
かぐらはドローンを展開しつつ、各救助隊員達への情報伝達に奔走。
「……これで救助車両も移動しやすくなりますわね。念のため、周囲の建物にヒールをかけておきますわ」
「そうですね。また崩れても大変ですし」
レーンやエミリが車両の邪魔になるであろう瓦礫を撤去し、次々と道を作っていく。
襲撃中のダモクレスに気付かれないために、本格的な復旧活動は行えなかったが、急場しのぎには十分といえる活躍であった。
「……大丈夫? 気を付けて逃げるのよ」
ローレライが、そう言葉を向けたのは、瓦礫の中から救助した一匹の野良ネコに対してだった。被害にあったのは人間だけではない。この都市に住むすべての生き物が、等しくダモクレスの襲撃にあっているのだ。
野良ネコを助けたローレライは、近くにいたオイナスの元へ向かった。
「……オイナスさん」
「……ロー」
オイナスが答えた。
「無理しないでね。あなたは、私が守る。絶対に。だから――」
「うん……ありがとう。でも、これはきっと、ボクがやらないといけない事、だと思うのです」
オイナスは少し、自信なさげに笑った。だが、先ほどまでの、何処か浮足立った雰囲気は消えていた。ローレライとの会話で、落ち着きを取り戻したのだろう。表情には、決意の色が見て取れる。
「全員聞いて! 鹿坂が敵を発見したらしい。今別チームと交戦中だよ!」
クーゼの声が響く。
戦いの時は、すぐそこまで迫っていた。
●赤と緑
「スコルピオニ、後は私に任せて、貴方は地球人の虐殺を続けなさい!」
「……ありがとうございます、カトリーナさん。後はよろしくお願いします」
救援に現れた『カトリーナ・ザ・アクセラレータ』へ、『スコルピオニ・リンヌンラータ』は礼の言葉を述べると、別チームのケルベロス達との戦闘をカトリーナに任せ、離脱した。
そのまま数ブロック先まで移動する。スコルピオニは軽く体をチェック。ダメージを受けはしたものの、活動に支障はなし。予定通り、このままグラビティ・チェインの収奪を再開する。作戦は上手くいっている――はずであった。
「あなたの凶行もここまでですわ、ダモクレス」
レーンの声。と、同時に、燃え盛る炎の龍がスコルピオニへと迫る。スコルピオニは燃え盛る炎の龍に巻かれた。すぐさま脱出し、ダメージを最小限に抑えたものの、肉体的なモノより、むしろ精神的なダメージの方が大きい。
「……馬鹿な! ケルベロスですって!?」
声をあげた。スオルピオニの前に立ちはだかったのは、8人のケルベロス達だ。
「これで分かった? わたし達に策は通用しないって事」
かぐらがドローンをとばし、前衛のケルベロス達を援護。
「しっかし、本当に瓜二つだなぁ」
クーゼが言った。
「味方と同じ顔を斬るのは気がひけるが、悪く思うなよ」
言いながら、二つの刃を抜き放つ。
「瞬き、穿てッ! 七の型、瞬華瞬刀ッ!」
それは、九重流双剣術七の型。神速の斬撃を魔力で複製し、乱座標に配置することで華のような斬撃を構成する奥義。
ボクスドラゴン『シュバルツ』もまた、彼の攻撃に応じ、ブレスを放って攻撃を仕掛ける。
2人の攻撃は、スコルピオニの肉体に決して浅くはない傷を作る。
だが、スコルピオニが気にしたのは、傷の深さではなく、クーゼの言葉である。
「瓜二つ……?」
言葉と共に、スコルピオニはケルベロス達へと視線を移す。果たして、その先に彼はいた。
オイナス・リンヌンラータ。先行ロールアウトした同型機。人間風に言うならば、兄、と呼ばれる存在。
「……同型機! オイナス……でしたか? 話には聞いていましたが、心と言う病に侵され、ボクたちの邪魔をするとは……!」
「《反抗》、開始」
イ・ドが呟き、反抗を開始する。高々と腕は斧へと換装されている。それは、スコルピオニの頭頂部めがけて振り下ろされた。とっさに小刀をクロスさせ受け止めるが、衝撃がスコルピオニの身体を駆け巡る。
「ここでキサマの作戦も終わりだ、スコルピオニ」
イ・ドが言った。スコルピオニは小刀を振るい、イ・ドの腕を振り払って距離をとると、対物ライフルを構えた。
「終わり? いいえ、ここであなた達を始末し、ボクは通常任務へと戻ります。それだけの話です」
ライフルを乱射する。その一撃はレーンへと向かう。レーンはとっさに右腕で弾丸を受ける。直撃。
「ダメージキャンセラー起動、損傷軽微。戦闘継続」
オーラにより、全身に青白い輝きをまとったレーンが言う。
「ふぅーん……ここがそうなって、なるほどね、『解析』完了。好きにはさせないよ!!」
守人が言いながら、リボルバー銃、『Fang.357マグナム 【SWORD BREAKER】』を構え、射撃。守人の観察眼により相手の動きを解析、その武器による動きを封じる一撃を放つ『妖精の一撃(トリックスター) 』は、スコルピオニの手にしたライフルに直撃。その攻撃を阻害させる。
「マジで、そっくりなんだな……」
守人の言葉に、
「一緒にしないでほしいですね……スペックは全てボクの方が上ですから」
スコルピオニが手を振るいながら言った。
「シュテルネ!」
自身の能力を底上げしつつ、ローレライは自身のテレビウム、『シュテルネ』へ攻撃の指示を出した。シュテルネの攻撃はスコルピオニに命中。
「兄弟で戦うなんて……!」
ローレライの言葉に、
「辛い、とでも? そうですね、辛いかもしれません。同型機が裏切り者になるとは」
「スコルピオニ!」
日本刀、『揺らがぬ炎』を抜き放ち、オイナスがスコルピオニへと肉薄する。
「オイナス!」
スコルピオニが小刀で迎え撃った。打ち合う二つの刃。
「あなたは、ボクが、とめるのです!」
「所詮偵察用のあなたに、ボクが止められるものですか!」
「ボクが……もしボクが1人だったら、きっと止められなかった。そう思うのです。でも――」
オルトロス『プロイネン』が、口にくわえた剣で戦闘に参加する。其方の攻撃に気を取られたスコルピオニは、オイナスの一撃を貰う事になる。
「――くっ!?」
呻くスコルピオニ。
「でも、ボクはひとりじゃないのです! だから、ボクは――負けない!」
「そんなものは思い込みですよ!」
スコルピオニが叫ぶ。
「いいえ。確かに――オイナスさんは1人ではありません」
と、エミリ。
「回復支援は私の得意分野。ご安心を。決着を、お付けになってください」
光の盾を具現化させ、味方を援護させながら、エミリが言った。
ケルベロス達の戦いは続く。確かにスコルピオニは強かった。ケルベロス達も消耗していく。
だが、それでもケルベロス達には負けられる理由がある。それは各々違っていたが、たとえ傷つき、倒れる寸前となっても、戦い続ける原動力であった。
そして、長く続く戦いにも、終止符が打たれる時が来た。
「喰らいなさい……!」
レーンのクレイジー・サイコボールが、スコルピオニを追い詰める。直撃し、立ち上がるも、スコルピオニもすでに限界であろうことが、ケルベロス達にも見て取れた。
かぐらは特殊機能を持たせたドローン、ヒールドローンCを展開し、味方の回復を図る。
「もう一息だ!」
クーゼがスコルピオニへ切りつけながら叫ぶ。
「弩級には劣るが、キサマらの尖兵より《学習》した力……その身で味わえ」
イ・ドが放つそれは、巨大ロボット型ダモクレスより《学習》したグラビティ。その瞬間持てる限りのグラビティを注ぎ込み、捨て身にて放つ文字通りの『全力攻撃』。
「灰燼と帰せッ!」
イグゾーストアタック。その一撃を、スコルピオニは何とか受け止めようとするが、その威力はすさまじく、想いきり吹き飛ばされる。
「くっ……ケルベロス……まさか、ここまでとは……!」
いいながらも、背部キャノンを構え、放った。散弾がケルベロス達へ、雨あられのように降り注ぐ。
その銃弾を身に受けながらも、守人は日本刀、『黒狼』を構えて飛び掛かった。
「その程度で、止まるものか!」
切りつける。スコルピオニはまともにその一撃を食らい、よろめく。
「オイナスさん!」
ローレライは、祝福された矢をオイナスへと放ち、援護する。オイナスは頷くと、
「グラビティチェインチャージコンプリート! ボクの全力! 行くのです!」
ゾディアックソード、『白羊剣』を抜き放ち、スコルピオニへと突撃。自らのグラビティを注ぎ込んだ白羊剣によって放たれる一撃、『真・白羊斬』は、その膨大なエネルギーの奔流と共に、スコルピオニへと叩き込まれた。
「が……はっ……」
スコルピオニが息を吐く。
「……そんな……ありえない……こんな……」
言いながら、その場にくずおれた。
スコルピオニはそのまま活動を完全に停止。
ケルベロス達の勝利の時は、今訪れたのだ。
●真紅の終わりに
「《反抗》、完了」
イ・ドが呟き、武装を解除する。
「よーし、完全勝利ッ! 皆、お疲れ様だ!」
双剣を軽く一振りして鞘に納めるクーゼ。
「さて……じゃあ、また救助や復興の手伝いをしないとな。時間がかかりそうだ」
守人が言った。
「オイナスさん……」
かぐらが、オイナスを見つめながらつぶやいた。
オイナスは、倒れたスコルピオニの前で、立ち尽くしていた。その手には、スコルピオニがしていた赤いリストバンドが握られている。
「仕方あるまい。オイナスの《反抗》には、必要な事だった……」
イ・ドが言った。
「オイナス様、大丈夫ですの?」
レーンが尋ねる。
「……励ますなら、私達より適任の方が居るでしょう」
エミリが答えた。
オイナスの傍に、ローレライが歩み寄る。
「せめて、安らかな眠りを祈る位は、いいわよね……?」
ローレライが言った。オイナスは頷く。
「スコルピオニにも良い仲間がいれば、もっと違った形で会えたのでしょうか……」
オイナスが言った。でもそれは、もうかなわぬ願いだ。幸せな結末は、訪れなかった。それでも、辛くても、前を向いて歩き続かなければならない。
理屈では分かる。
でも、心は悲鳴をあげていた。
「ねぇ。辛いときは、泣いてもいいの。言ったでしょう? 私が守るって。だから、今は……」
言って、ローレライはオイナスを抱きしめた。
「あなたを守らせて、オイナスさん。あなたを苦しめる悲しみから。今この瞬間だけは……」
その言葉に、オイナスがこらえていたものが決壊した。
オイナスは、とめどなく涙を流しながら、ローレライを強く、強く抱きしめた。
ケルベロス達は戦いに勝利した。
それは、悲しみの残るものではあったけれど。
その悲しみも、いつかは癒えるのだろう。
だが、今は――。
こうして、ダモクレスによる一つの事件は幕を閉じたのだった。
作者:洗井落雲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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