弩級兵装回収作戦~完璧な世界の為に

作者:波多蜜花

 ダモクレスの襲撃により、茨城県つくば市にある大学の校舎はその全てを制圧され、全ての一般人が避難を済ませた広大な敷地内には4つの真っ白いドーム状の建物が建設されていた。
 その施設の一室から全区画に向けて映像が配信される。
「諸君。此度の『弩級兵装』の発掘は最重要作戦である」
 あらゆるモニター映像に、また宙に浮かぶ立体映像として映し出されたのは、自信とカリスマに溢れた司令官、コマンダー・レジーナの姿だった。その場に居たダモクレスの誰もが、言葉を発する事無く次の言葉を待っている。
「量産機によって周辺警備も万全と言えよう。しかし、不測の事態があってはならない。特に『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の重要性は皆も認識しているな、このコマンダー・レジーナが陣頭に立つ意味も」
 コマンダー・レジーナが陣頭に立つ――この作戦がダモクレスにとってどれほど重要な意味を持つのか。それは静かに拝聴している機械種族達の思考回路を刺激する、それほどの言葉だった。
「発掘した『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の転送準備は鋭意進行中だ。万一のときは不完全でも転送させるが、それはあくまで最終手段だ。エキドナ・ジャスティス、製造番号012375640号、記録参謀『マスター』ジェネシス……全てはあなた達の手腕にかかっている」
 名を呼ばれたエキドナ・ジャスティスが、立体映像に向けて静かに頭を下げる。
「完全体の弩級兵装を入手するためにも全力を尽くせ――総員、奮起せよ!」
 地球侵略の大きな足掛かりともなるこの作戦は、ひいてはダモクレスの繁栄にも大きく関わってくるだろう。コマンダー・レジーナの言葉にエキドナ・ジャスティスは電流が奔るような――人の身であれば、歓喜の震えとでもいうのだろうか――に、震えを感じていた。
 上半身が人のような姿、下半身が機械で作られた蛇の姿をした女性体ダモクレス、エキドナ・ジャスティスがその手にした剣を掲げて叫ぶ。
「我ら全てのダモクレスの完璧なる世界の為ならば、コマンダー・レジーナの仰せのままに!」


「集まってくれてありがとうな、皆。早速やけど、指揮官型ダモクレス達が新しい作戦を開始したみたいなんや」
 慌しく挨拶をした信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)が集まったケルベロス達に向かってそう切り出した。
 クリスマスにゴッドサンタが遺した「対地球戦線の停滞により、少なくとも『6基』の指揮官型ダモクレスが、マキナクロスより送り込まれてくる事だろう」という言葉通りに、指揮官型ダモクレスの配下達が事件を起こしていたのは記憶に新しい。
「どうやら目的は地球に封印されとった、強力なダモクレスである『弩級兵装』の発掘を行う事みたいなんよ。弩級兵装っちゅーんは、その名の通り重巡級ダモクレスを越える力を持っとる兵装でな?」
 現在確認されている限りでは、『弩級高軌道飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つの兵器が現存しているのだという。
「この全ての弩級兵装が完全な力を発揮するような事があったら、ダモクレスの地球侵攻軍の戦力は現在の数倍から数十倍まで引き上げられると予測されとるんや。このまま見過ごすなんて事はできへん話やろ?」
 いつもの人懐っこい笑みを潜めた撫子が手帳を睨み、それから顔を上げる。
「こっからが本題や。今回の作戦やと、弩級兵装の発掘が行われている施設を警護しとる量産型ダモクレスに対して別のチームが攻撃を加える。その隙に、複数のチームが施設に潜入してな、連携を取って弩級兵装の破壊を試みる……って事になったんや」
 随分と大掛かりな作戦である。そしてそれは、それだけダモクレス達の発掘しようとしている物がケルベロスにとって、地球にとって不利になるものである事を示していた。
「皆に担当してもらう弩級兵装は『弩級超頭脳神経伝達ユニット』っちゅー奴でな。この弩級兵装の発掘にはダモクレスの司令官、コマンダー・レジーナが直々に指揮をとっとるようなんよ」
 司令官が陣頭に立っている事からも、ダモクレス達にとって最も重要な兵装である事は間違いないだろう。
「かなり厳しい戦いになると思うわ。せやけど、完全な弩級兵装をダモクレスが手に入れるんだけは、なんとしても阻止せなあかん」
 もし完全な弩級兵装をダモクレスが手にしてしまえば、それは考えたくもない結果になってしまうのは、火を見るよりも明らかだ。
「弩級兵装の完全破壊。それが出来へんくても、弩級兵装に損害を与えてその能力が完全に発揮できやんようにする必要があるんよ」
 その為には、と撫子が厳しい表情で手帳を捲った。
「皆には4つある発掘施設の1つ、エキドナ・ジャスティスがおるとこを担当してもらう事になるよってな」
 4つある施設は、それぞれ数百メートルの距離があるのだと撫子が説明する。施設を防衛する量産型ダモクレスもいるが、それは他のケルベロス達が担当する事となる。
「『弩級超頭脳神経伝達ユニット』はめっちゃ繊細な兵装みたいでな、修復作業は難しいらしいんや。せやからこそコマンダー・レジーナが直々に出向いて作業に当たっとるんやけど」
 その為か、コマンダー・レジーナが撃破されると同時に『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の転送が開始されるように設定されているのだという。コマンダー・レジーナは、自分が撃破される以外でも、きちんと準備して手順を踏めば、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を転送する事が可能のようだが、ケルベロスと戦闘中には行えないようだ。
「難しいとこなんやけどな、コマンダー・レジーナが先に撃破された場合、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の修復は完成せーへんけど、完全破壊する事もできんくなるんや」
 つまり、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を完全破壊しようと思うならば、コマンダー・レジーナのチームが戦闘を継続している間に、コマンダー・レジーナ以外のチームが、その場を守っているダモクレスを撃破せねばならない。その後、修復中の『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を攻撃し続けて大ダメージを与えて破壊する事が必要となるのだと撫子がケルベロス達に視線を向けた。
「うまくいけば完全破壊も十分に可能やとウチは思うよ。せやけど、施設の周囲を警備しとる量産型ダモクレスを担当してくれるケルベロス達が敗退すると量産型ダモクレスが施設に増援として現れるんよ」
 時間を掛け過ぎても作戦が失敗してしまう恐れがあるのだ。
「で、皆に倒してもらう事になるエキドナ・ジャスティスの情報なんやけどな。見た目は上半身が翼の生えた人のような姿、下半身が機械で作られた蛇の姿をした女性体ダモクレスや。ギリシャ神話に登場する怪物みたいな姿やねぇ」
 法やルールを重視し、それらが遵守された完璧な世界を理想としているようだと撫子が続ける。
「下半身の蛇の口から小型のユニットを排出したり、手にしとる剣での攻撃を得意としてるようやね」
 ケルベロス達が現れれば、発掘中の『弩級超頭脳神経伝達ユニット』を背にして戦うだろう。また、発掘用のダモクレスが10体程いるがこちらは発掘に特化しており戦闘能力はかなり低いという。
「エキドナ・ジャスティスだけで十分守れるっちゅー事なんやろな」
 ドームの中は広く、戦闘の障害になるものはない。
「あぁ、あと1つ。これは大事なことなんやけど、作戦圏内では、携帯電話、無線機、アイズフォンなどでの通信は行えへんよ。どっかから妨害電波みたいなんが出とるんかもしれへん」
 それがどこにあるかまではわからず、また探している暇もないのだと撫子が眉根を寄せる。連携を取るには手段を考えなければならないだろう。
「今回の作戦は複数のチームで連携して作戦を遂行する必要があるよって、負担も大きいと思うけど――」
 撫子が一瞬の沈黙のあと、集まったケルベロス達の目を見つめて唇を開く。
「皆やったら大丈夫やって、ウチは信じとるよって。皆の持てる力、ぶつけてきたってや!」


参加者
毒島・漆(旅団民ファースト・e01815)
クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
レオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)
響命・司(霞蒼火・e23363)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)
アーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974)
ホルン・ミースィア(鉄壁の聖女・e26914)

■リプレイ

●潜入開始
 大規模且つ重要な作戦に参加するとあって、集まったケルベロス達の表情は真剣そのものだ。
「時計を合わせようか」
 ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)の言葉にエキドナ・ジャスティスに向かう者達が頷き、各々が時計を合わせた。
「ここからは極力音を立てないように行きましょう」
 眼鏡の位置を直しつつ毒島・漆(旅団民ファースト・e01815)が言う。少しでも敵に見付かり難くする為、予め決めていたハンドサインを使用しながらそれぞれのチームが担当するドームへと向かうのだ。暫くして、量産型のダモクレス達が動く気配があった。いつでも動けるように4チームの全員が意識を集中させ、隠密気流を持つ者が特殊な気流を纏わせていく。
 それから少しの間も置かず、遠くで戦闘を開始したような音が聞こえた。チャリオットメイデンと量産型ジョルディを引き付ける囮班の2チームが上手く敵を引き付けたのだと判断し、総勢32名が潜入を開始する。
 進む方向に敵がいない事を確認し、クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)が後続のケルベロス達へ前へ進むように促すと、橙色の髪を揺らしたドワーフの少女が思わず開きかけた口を閉じ、同じ様にハンドサインを仲間へと送る。そこから更に進むと、黒髪のどこか僧のような雰囲気を持った男が止まる様にとハンドサインを出した。
 敵だ、やり過ごすには時間はない。そう判断すれば動きは早かった。セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)が高速演算で叩き出した弱点を突けば、妖刀を操る男が脆くなったその箇所に止めを刺す。他の機体に気付かれた様子が無いことを確認し、ケルベロス達が更に奥へと進んでいく。
 暫く進むと、それぞれのチームが目指す4つの真っ白いドームへの分かれ道が見えた。自分たちはこっちだとホルン・ミースィア(鉄壁の聖女・e26914)が指で示せば、銀髪を靡かせたレプリカントの女が一際大きなドームを指差す。
 武運を、と誰かの唇が動くのが見えた。頷く者、拳を突き出す者、笑みを浮かべる者。それぞれが、それぞれの思いを胸に目的を果たさんと駆け出した。
 エキドナ・ジャスティスが守る発掘施設までの距離は遠くはない。逸る気持ちを抑え、なるべく戦闘を避けるように慎重に遮蔽物などを利用して進む。真っ白なドームの手前まで辿り着くと、先行していたホルンが周囲を素早く確認して入り口付近に敵が1体居る事を指の形を変えて伝えると、速攻で落とすと惨殺ナイフを手にした響命・司(霞蒼火・e23363)が応えて動いた。
 司が鋭い刃で敵を切り裂くと、ウイングキャットのゆずにゃんも鋭い爪を伸ばして引っ掻く。敵が反撃をする前に、レオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)がナイフの刃をジグザグに変形させて突き立てれば、警告音を発することなく敵が崩れ落ちる。それを合図に、アーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974)が2人に続くように発掘場の入り口前へと立った。
 視線だけで全員が全員を見回し、頷くと同時に中へと進入を果たす。彼らの目に飛び込んできたのは、巨大な何かを発掘しようと動く10体の機体とコントロールパネルを操作して発掘を進めるエキドナ・ジャスティスの後姿だった。

●正義の名の下に
「――ケルベロスですか。生憎あなた方の相手をしている暇はありません。彼らとでも遊んでいて下さい」
 振り向きもせず、手元を動かしながらエキドナ・ジャスティスがそう言うと、発掘作業をしていた10体のダモクレスがケルベロス達に向かって襲い掛かった。
 セデルが漆とハンナに向けて手の中に収めたスイッチを押せば、2人の背後に色鮮やかな爆発が起こる。それと同時にビハインドのイヤーサイレントが心霊現象によってダモクレスを縛り付けた。続けざまに、爆風を背に漆が前へ駆ける。
「随分と舐められたものですね」
 暴風を巻き起こすような激しい回し蹴りが迫り来るダモクレスを薙ぎ払うと、ハンナがその後ろから構えたバスターライフルを向けた。
「メンドクセェから纏めて行くぜ」
 雑魚はお呼びじゃないとばかりに唇の端を吊り上げると、追尾型の多弾頭ミサイルを射出する『掃討作戦(ミサイルパーティ)』を反動も気にする事無く撃ち放つ。それによって倒れた2体の機体を避けるように前へと進んでくる壊れ掛けのダモクレスへ、メインシステム【The SoulConductor】起動し、鎧装を纏ったホルンが砲撃形態に姿を変えたドラゴニックハンマーで竜砲弾を撃ち込んで沈め、ウイングキャットのルナが他の機体に金色のリングを飛ばす。
「残り7体、1体はこれで確実に落としてみせます!」
 アーニャの足に輝く『Shootingstar』が星の瞬きのような軌跡を描いてダモクレスを蹴り潰せば、ウイングキャットのティナが尻尾のリングを金縛りにあったままのダモクレスへと放って沈黙させた。
「さてと、それじゃあこれでも喰らってもらおうか」
 こちらに向かってくる複数の機体を狙い、レオンが指先を鳴らすと凍結術式が発動する。
「あらゆる勇猛、あらゆる雄姿、いずれ朽ちる英雄譚。さあ時よ回れ時代を回せ、時代遅れは死に絶えろ! 塵でしかない我が身のように」
 発動した『悪性因子・英雄葬送(マリグナント・バッドエンドエピック)』は喰らいついたダモクレスの熱量、活動エネルギーを奪い取って寝食する蒼い鬼火を射出する。
「死力を尽くすしかねぇか。……やるぞ、ゆずにゃん」
 ゆずにゃんが短く鳴いて肩から降りると、司がミサイルポッドから焼夷弾を敵機に向かってばら撒き、清らかな羽ばたきをゆずにゃんが司とセデルに送った。
「……怖いの、嫌い。でも、頑張る……!」
 今は怖がっている場合ではないのだと、ぬいぐるみを抱き締めたクロエが吹雪の形をした氷河期の精霊を召喚し、ダモクレス達に氷の洗礼を浴びせると、2体がそのまま永遠に動きを止めた。3体の敵が攻撃を仕掛けてくるが、セデルと司、そしてルナがそれらを軽く受け流す。セデルが自身と司の背後に爆発を起こすと、イヤーサイレントが周囲の物に念を籠めダモクレスへと飛ばして2度と動かぬように破壊してみせた。
「残り2体か」
 呟いた漆が銃身が鈍器となるブレイクアクションリボルバー、『搏撃銃』に加速させた威力を載せて1体を叩き潰すせば、ハンナが最後の1体を地獄の炎を纏わせた如意棒で穿った。
「さぁ、これで雑魚は終わりだぜ。残るはあんたと弩級兵装だけだ」
 如意棒を肩に担いだハンナがそう言い放つ。パネルから指を離してエキドナ・ジャスティスが弩級兵装を背にし、こちらを向いた。
「エキドナ・ジャスティス! ボク達がお前を倒すよっ!」
 ドラゴニックハンマーを砲撃形態にさせたままのホルンが叫び、竜砲弾を放つとルナが鋭く伸びた爪で引っ掻いていく。
「あなた達の企みは阻止してみせます……!」
 高く宙を舞ったアーニャが『Shootingstar』に流れる星の力を籠めて飛び蹴りを放てば、ティナが白い尻尾を振って輪を飛ばす。
「ケルベロス風情が大層な口を利くものだな」
 冷たい声が響くと、エキドナ・ジャスティスの腰に付いたユニットから小さな犬の様な小型の治療機が射出され、主を癒し守るように展開された。
「厄介なものを出してきたな」
 防御に徹する小型治療機に阻まれながらも、レオンが並外れた技量を以って達人の域に達した攻撃を放つと、司がエアシューズを装着した足で駆け抜ける。炎の残像を残しながら蹴り付けると、ゆずにゃんが邪気を祓うそよ風を漆とハンナに向けた。白いうさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めたまま、クロエが小型ブースターを内臓した『韋駄天』で加速し、敵の頭上高くから星の輝きと重力を宿した一撃を叩き込むと、セデルがエキドナ・ジャスティスに向き合った。
「久しぶりです、『正義』」
「何者だ? 私をその名で呼ぶのは……貴様、『法王』か?」
 短いやり取りではあったが、それだけで十分だった。セデルがホルンとアーニャ、クロエの背後に鮮やかな爆発を起こすとイヤーサイレントが心霊現象による金縛りをエキドナ・ジャスティスに仕掛ける。漆が閃光の如く駆け抜け鋭い蹴りを放てば、バトルオーラを揺らめかせたハンナの拳が治療機を吹き飛ばしながらエキドナ・ジャスティスに炸裂した。
「《Deployment L.O.T.A.S》ここはキミの舞踏場、《Shall we dance?》踊れっ命果てるまで!」
 ホルンがリング状のビット、瞬く星々を空中へ展開する。それはまるでスポットライトのように全方位から光子力レーザーを発射する『Valkyrie Waltz(ヴァルキュリアワルツ)』をエキドナ・ジャスティスに向けて放つと、ルナがキャットリングを踊るように飛ばす。続け様に、オウガメタルを鋼の鬼のような形にしたアーニャが敵の装甲を砕くような一撃を叩き込み、ルナが主に合わせるように爪を伸ばした。
「『法王』よ、我らを裏切った罪……此処で裁いてやろう!」
 エキドナ・ジャスティスの持つ剣が禍々しい青に輝き、その斬撃を容赦なくセデルに向かって振り下ろす。
「く……っ、それは貴方達にとっては罪だったかもしれません。けれど私にも譲れないものがあるのです!」
 重い一撃だったけれど、耐え抜くだけの防御の準備と持ちえる素養が彼女にはあった。

●歪んだ正義に清き制裁を
 背後にある弩級兵装を守る者とそれを壊滅せんとする者、共に譲れない攻防が繰り広げられる。既にセデルがセットしていたタイマーが小さく鳴って、潜入を開始してから10分の時間が経った事を告げてから、1分が経とうとしていた。
「11分経過まで残り少しです、増援が来ないか注意してください!」
「残り時間は少ないようだな」
 防衛部隊を引き付けているチームが奮闘してくれているのだろう、増援の気配はまだ感じられなかったけれど悠長にしている暇はない。セデルの声に反応したレオンが刃の形状を凶悪なそれに変え、エキドナ・ジャスティスの損傷箇所を抉ると司とゆずにゃんが続く。
「テメェに構ってる時間はねぇ」
 司が惨殺ナイフを構えて走る。刃の先で切り裂き、敵のエネルギーを奪えばゆずにゃんが癒しの風を司へと送る。
「……やっつけて」
 護符を貼り付けた人形に超常的存在を憑依させ、ゴーレムとして使役する『攻撃命令(アタック・オーダー)』をクロエが発動し、従順なるゴーレムが敵へと襲い掛かった。セデルが高速演算の結果導き出された答えをなぞるように痛烈な一撃を繰り出すと、イヤーサイレントがエキドナ・ジャスティスの背後に出現し手にした武器で斬り掛かった。
「破壊手術……γナイフッ!」
 漆がエキドナ・ジャスティスに魔力を纏った無数の連撃『γナイフ(ガンマナイフ)』を叩き込む。一撃一撃は致命打にならずとも、流し込んだ魔力が敵の内部で一点に収束し内側からの破壊を促す。
 敵が苦手とする属性を探っていたハンナが伸ばした如意棒で敵を穿ち、その様子を窺う。表情を面に出さず、盾として立つ相手からそれを見抜くのは至難であった。
「それでもぶち壊すまでだ」
「その通りですっ」
 相手の進化の可能性を奪い、凍結させる一撃をホルンがドラゴニックハンマーから撃ち出し、ルナがセデルと司に清浄の翼を羽ばたかせる。
「ティナ! 攻撃は任せたからね」
 ウイングキャットの名を呼び、アーニャが魔力を込めた光り輝くオーラをセデルに向ける。
「支援だよ♪ いっけー!」
 癒しを施す主に代わり、ティナが攻撃の手を緩めずダメージを与えていく。積み重なるダメージは癒しきれない傷として残るけれど、それは敵も同じ事。エキドナ・ジャスティスのレオンに向かった斬撃を司が庇い、止まりそうになる動きを叱咤するように司が腕に食い込む剣を退けた。
「何故だ、何故お前達は倒れない!」
「倒れられない理由があるからだ!」
 司の叫びは、全てのケルベロス達の想いそのもの。レオンが守護聖句が刻まれたロングコートを翻し、オウガメタルの拳を全力で叩き込むと、司が右腕から蒼炎と烈風を巻き起こす。
「全て壊れろデウスエクス。これがテメェ等の送り火だ」
 右腕から繰り出される『鳳凰爆蒼火(フェニックス・パニッシュメント)』が蒼い鳳凰となり、全てを滅ぼすように飲み込んでも尚エキドナ・ジャスティスは倒れない。ゆずにゃんの癒しを受けながら、司がテメェにも譲れないもんがあるってことかと呟いた。けれど、それは決して許してはいけないもの。クロエが司の後ろから跳躍し、『韋駄天』から放つ蹴りをエキドナ・ジャスティスへと落とし込む。その時点で12分が経過し、13分目を迎えようとしていた。
「志は似ても、人間の意志を無視する貴方の世界は許せない。終わりにしましょう、『正義』!」
 セデルが駆ける。それは流星の如き残像を描きながら、エキド・ジャスティスへ鉄槌を下すように叩き込まれた。重なるダメージに、さしもの相手も崩れ落ちる寸前。それを見逃すような漆とハンナではない。
「最大の火力を以って――」
「お前をぶっ壊すぜ!」
 漆の持つ搏撃銃がエキドナ・ジャスティスを凍結させる程の威力を持つ重い一撃を放てば、ハンナが地獄の炎を纏った如意棒で貫き穿つ。
「ぐ……っ! コマンダー・レジーナ……申し訳……ござ……」
 バチバチとショートするような音が響き、エキドナ・ジャスティスが倒れる。傍らに転がる剣を持ち上げる事はもうなかった。

●不完全な明日でも
「幸い、増援はまだのようだ。今のうちに!」
 守る者がいなくなった発掘中のそれを破壊する為に、レオンの声に促され全員が最大の火力を振り絞る。おおよそ2分の間攻撃の手を緩めず、弩級兵装にもかなりの大打撃を与えたその時だった。クロエの声が響く。
「増援、来た……数、少し多い……!」
 増援を相手にするのは盾役と癒し手と決めてはいたが、激戦を終え積み重なったダメージの回復もままなっていない状況では厳しさを極めた。弩級兵装を攻撃する者を狙って繰り出された攻撃をセデルが庇い、吹き飛ばされる。
「セデルさん!」
 アーニャが叫ぶが、意識を失っているのか反応はない。
「このままじゃ退路が塞がれちゃうよっ!」
 潮時だ。このまま攻撃を続ければ全員の命が危機に晒されてしまうだろう、それは悪手でしかない。司がセデルを担ぎ、漆とハンナが活路を開き全員で脱出する。
 完全に破壊しきることは出来なかったが、かなりのダメージを弩級兵装に与えたのは間違いない。15分間という短い時間の中で死力を尽くしたケルベロス達は、誰一人失う事のない最善を選び抜いたのだ。
 完璧でなくても、不完全であっても、生きてさえいれば明日は来る。
 それは誇るべきことだった。

作者:波多蜜花 重傷:セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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