「あははははははは」
掘削の音が響く室内――剥き出しの岩肌に様々な機械が設置された洞窟を部屋と呼ぶならば、であるが――に、音に負けじと哄笑が響く。声の主はこの部屋の主、リモデ・ラーソンだった。目の前で縦横無尽に動き、精密な作業を行う機械群を誇るように笑った彼女は、突如、その笑みを止め、言葉を紡ぐ。
「見ろヨ。アンバークン。これが『弩級絶対防衛シールド』。ボクらの求めていた弩級兵装だヨ」
独白のような問いかけに、バグトルーパー・アンバーは鷹揚に頷き、応じる。その様子にリモデは満足げな表情を浮かべた。
「キミにも判るかい? この素晴らしさが。そして、それを発掘・修復できるボクの凄さがネ!」
そう。今や最重要作戦となった弩級絶対防衛シールドの発掘だが、高度な技術と細心の準備を要するそれを行えるダモクレスは限られていた。リモデもその一員である。彼女の腕無くして発掘の成功はあり得ず、仮に何らかの不都合で発掘に失敗してしまえば、弩級兵装の機能は失われ、完全に取り戻すことは不可能となるだろう。
「でもぉ、リモデ様~♪ 他の無知で無謀なデウスエクスがぁ、ここを嗅ぎつけて来ちゃうとか楽しい事が起こっちゃったらどうするんですかぁ? アハハハ♪」
「いい質問だネ。スマイリィクン。それこそがキミ達を呼んだ理由だヨ。秘密基地周辺は量産型ダモクレスが配置されているけど、それだけじゃ心許ナイ。対処をキミ達にも頼みたいんダ」
一体でも一騎当千の能力を持つリモデはしかし、己の信頼する三体の配下を呼ぶことで防衛能力を盤石なものへと転じようとしているのだった。
「万が一に備えて転送準備も並行して進めてるヨ。不完全な発掘になったとしても、その時はその時だからネ。だけど、そんなことにならない。そうだろう?」
「……ひっぐ……わ、解ったの……ティアに……任せて、欲しいの……」
「頼もしいね、ティアークン。やはりキミ達はサイコーだヨ!!」
バグトルーパー・アンバー、バグトルーパー・スマイリィ、バグトルーパー・ティアー。三体のダモクレスを前に、リモデは鬨の声を上げる。
「さぁ。諸君。完璧に弩級兵装を発掘する為に、全力を尽くすのだヨ!」
その声に弾かれるように、三体のダモクレス達は洞窟の唯一の出入り口へと向かうのだった。
「地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が新たな作戦を開始したようね」
ヘリポートに集ったケルベロス達は、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の言葉に顔を見合わせる。
「私の見た予知は高知県の山中における発掘作業だったけど……まずは、彼らの目的である『弩級兵装』について説明が必要よね」
『弩級兵装』とは、その名の通り、重巡級ダモクレスを越える力を持つダモクレス――兵装である。『弩級高機動飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の計4つの兵装が現存するようだが、今は地球に封印され彼らの手に渡っている訳ではない。つまり、今現在、彼らはその兵装を入手すべく、発掘作業を進めているのだ。
全ての弩級兵装を入手し、それが完全な力を発揮すれば、ダモクレスの地球侵攻軍の戦力は現在の数倍から数十倍に引き上げられるものと予測される。見過ごす事など、出来る筈もなかった。
「高知県に存在する弩級兵装は『弩級絶対防衛シールド』ね」
発掘作業を指揮するダモクレスの名前は『リモデ・ラーソン』。以下、3体のダモクレスと、量産型ダモクレスがその警護についているようだ。
今回の作戦では量産型ダモクレスに対して別のチームが攻撃を加え、その隙に複数チームが施設に潜入、連携して弩級絶対防衛シールドの破壊を試みる事になる。
「厳しい戦いになると思う。だけど、彼らが完全な弩級兵装を入手することだけは阻止しなければならないわ」
可能ならば完全破壊を。それが叶わなくても弩級兵装に損害を与え、その能力を完全に発揮出来ないようにする必要があるのだ。
「そこで、みんなには施設への潜入、並びに『リモデ・ラーソン』の撃破を行って貰うわ」
そこに至るまでの障害は3つ。秘密基地である洞窟を守る量産型ダモクレス、入口を固めるバグトルーパーと呼ばれる3体のダモクレス、そして、洞窟自身だった。
「量産型ダモクレス、並びにバグトルーパーは他のチームに任せる事になるから、みんなはリモデ・ラーソンの撃破に注力して欲しい。……それが一番、大変かもしれないけど」
概要はこうだ。バグトルーパーと戦うチームは連携し入口を強行突破、皆は洞窟内へ侵入する。その後、洞窟を攻略し、発掘作業を続けるリモデ・ラーソンと対峙、その撃破を行う事となる。
「ただし、バグトルーパーとの戦闘が始まって12分経過すれば、『弩級絶対防衛シールド』はダモクレスの基地へと転送されてしまうわ」
また、リモデ・ラーソンの撃破が叶ったとしても、『弩級絶対防衛シールド』は非常に耐久度が高く、破壊に時間を掛け過ぎれば、量産型ダモクレスの増援による奪還の可能性も見込まれる。その対処も考える必要がありそうだった。
「洞窟はみんななら3分ほどで走破できると思う。……もしかしたら、工夫次第で縮められるかもしれないけど」
洞窟は蟻の巣の様に無作為に掘られた構造をしている。ダモクレスの技術で崩落の危険はないものの、思うままに掘り進めたそれは、最深部に辿り着くまでに少々の時間を有するようだ。
「次にリモデ・ラーソンについて、ね。指揮官型ダモクレスには及ばないけど、彼女自身も強力な個体である事は間違いないわ」
蟹をモチーフにしたマニピュレーターに乗った彼女の能力は強力であり油断できるものではない。
「防御に比重を置き過ぎれば時間切れの可能性があって、攻撃に比重を置き過ぎればリモデ・ラーソンからの被害が大きくなる。難しい処よね」
12分と言う時間制限の中でどれだけ立ち回る事が出来るか。それが鍵となりそうだった。
「弩級兵装なんてとんでもないものが出てきちゃったけど、みんななら何とかしてくれるって信じてるわ」
そうして彼女はいつものようにケルベロス達を送り出す。瞳に浮かぶ色は、いつもと同じ信頼の色だった。
「それじゃあ。いってらっしゃい」
参加者 | |
---|---|
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015) |
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485) |
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203) |
アイビー・サオトメ(アグリッピナ・e03636) |
ミュール・リエル(白き銃神・e04689) |
フェイト・テトラ(悪戯好きの悪魔少年・e17946) |
スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453) |
●洞窟突破
響く剣戟の音は、仲間達とバグトルーパー達との戦いの証しだった。それを背景に、デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)を始めとした8人のケルベロス達は洞窟へと飛び込む。
(「あと12分……いや、11分だね」)
それが、ケルベロス達に残された制限時間だと、アイビー・サオトメ(アグリッピナ・e03636)は独りごちた。
潜入の隙を作り出す為、計24人、3組の仲間達はそれぞれが散開してしまった。恐らく次に顔を合わせるのは、弩級兵器の破壊を完遂した後だろう。
(「放置すると絶対、面倒臭い事になるやろうし」)
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)の独白は嘆息と共に紡がれた。『弩級絶対防衛シールド』、そしてその発掘を行っているダモクレス『リモデ・ラーソン』が、此度、彼女達が排すべき障害の名だ。
「ヒビスクムの為にも頑張らないとデス」
スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)が思うのは道を切り開いたメイドの名だった。俺たちに任せろと彼女は言った。だから任せた。後は期待に応えるだけだ。
「それにはどれだけ早く、リモデ・ラーソンの元に辿り着けるかです?」
ミュール・リエル(白き銃神・e04689)は形の良い眉をひそめ、鼻白む。
「ふぇぇ。ごめんなさいですぅ~」
応じたのはフェイト・テトラ(悪戯好きの悪魔少年・e17946)だった。あざといとも取れる呻き声に「仕方ないよ」とメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)がフォローする。
「確かに、ヒッチハイカーが使えれば楽でしたね」
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)の言葉にフェイトの表情がしゅんと曇った。
希望の目的地へ向かう乗り物を偶然発見する防具特徴はしかし、ケルベロス以外の往来がないこの場所では効果を発揮しなかった。駄目元の使用だったとは言え、少しだけ残念に思えるのは致し方ない。
そしてケルベロス達は洞窟を走り抜ける。乱雑に掘られた洞窟は迷宮と大差なかった。走りながらも、メリルディはカラーボールで着色する事で道標を作り出し、瀬理やミュール、スノードロップの三者は反響する掘削音に耳を澄ませ、リモデ・ラーソンの位置を割り出す。
やがて、ケルベロス達は開けた空間に到達した。
「予想よりも早かったネ。地獄の番犬クン?」
出迎えの言葉は盾の様な発掘物を背にした少女からだった。
大仰に両腕――その代わりに蟹爪を思わせるマニピュレータを広げ、得意げに胸を張る。半機半人の表情は、ギラギラとした輝きをケルベロス達に伝えていた。
●リモデ・ラーソン
「どうしてキミ達の到来に気付いたか、と言う顔だネ?」
安楽椅子探偵宜しく、少女――恐らく、リモデ・ラーソンその人は、得意げに頷く。
「バグトルーパー達と私達の交戦を知っていたから?」
「そうだヨ!」
ミュールの疑問混じりの言葉に返ってきたのは歓喜の声だった。
「こんな時にボクらを襲うなんて、他のデウスエクス勢力か、ケルベロスだよネ。そして、多人数で襲ってくるのは螺旋忍軍か地獄の番犬の専売特許。そもそもグラビティ反応を考えれば」
「おしゃべりに付き合う暇は無いのですよ」
熱を帯びていくリモデの言葉を遮り、アイビーが己の得物を構える。柄だけにしか見えなかったそれは、彼の意思の元、地獄の炎を吹き出し、刃を形成した。
「口上は時間稼ぎ?」
濡羽色の刃を構えたメリルディは問うように言葉を口にする。無論、答えは期待していない。そもそも12分と言う制限の中での戦いだ。一分一秒が惜しい。無駄口に付き合うつもりは無かった。
「『戦車』。貴方を倒す。それと、厄介な代物を破壊しに来たわ」
そして、デジルが言葉を引き継ぐ。身体を纏う闘気は、それを為す決意を以て、纏われていた。
「せやせや。シールドを壊させて貰うわ」
笑顔と共に追随するのは瀬理だった。口調こそ軽い物の、身構える彼女はそれを遂行すべしと静かな視線をリモデに向けている。
「おやおや。地獄の番犬クン達は随分せっかちだネ。まぁ、判るヨ。逸る気持ちはボクも同じなんダ」
各々の得物を身構えるケルベロス達を前に、リモデもまた、蟹爪のマニピュレータを構え、応じる。
「地獄の番犬を一度、改造して見たかったんだヨ。その機会を与えてくれたキミ達に感謝しよウ」
その言葉でうつぎは悟った。彼女の目に宿る光の意味を。
(「狂気……!」)
その輝きを知っていた。その瞳を知っていた。そこに宿る物は、自身の欲望の為には如何なる犠牲をも厭わない妄執。恐るべき事に、目の前の少女にはそれを為すべき力があった。
「サア、キルしてアゲマス」
スノードロップの上げた鬨の声が、開戦となった。
蟹爪から光が迸る。破壊の力を孕む光条は無数の流星の如く、ケルベロス達に降り注いだ。仲間を突き飛ばし、まともに受けた瀬理とうつぎ、そしてアイビーから苦痛が零れる。
「光線?!」
ヘリオライダーの助言にその文言はあった。にも関わらず彼が呻いたのは、その馬鹿馬鹿しさ故だろう。その言葉にリモデが笑みを浮かべる。
「蟹に光線は様式美だよネ!」
「『戦車』、貴方の考えは理解できないわ」
言葉の投げ掛けと共に、デジルがハンマーを振り下ろす。紙一重でそれを躱したリモデはしかし。
「避けられた、なんて思った? 魂の残滓、刹那の精霊を作り上げなさい」
回避を許さないとデジルの身体から放たれた光弾がリモデの細い肩を貫く。光魂に灼かれたダモクレスはしかし、呻くまでもなく、更に爛々と瞳を輝かせた。
「素晴らしいネ! 喰らったデウスエクスの魂を武器としているのかイ。これは改造のし甲斐がありそうだヨ!」
「そんなこと、やらせないよ!」
「なのです!」
リモデの歓喜を遮ったのは、流星の煌めきを纏ったメリルディとフェイトの飛び蹴りだった。続け様にフェイトのサーヴァント、アデルの念に依って加速した岩が、リモデに叩き付けられた。
「グゥルァァアアアアッッッ!!!!」
そして、そこに瀬理の咆哮が重なる。血塗れの殺意と怨嗟が入り交じる声量はリモデの耳朶を打ち、顔を顰めさせた。
「輝ケ! 華刃剥命!」
気合いの声はスノードロップから。薔薇の刻印があしらわれた戦斧は光り輝く呪力と共にリモデに振り下ろされる。マニピュレータと刃がぶつかり、派手な金属音を周囲に響かせた。
「やるね、地獄の番犬クン! 素敵だヨ」
「改造基準の褒め言葉はマッド過ぎます……」
それしか思うところはないのだろう。リモデの言葉にうんざりとした表情を浮かべながら、アイビーもまた、流星を纏った蹴りを繰り出す。
「行って『銃神』、皆と一緒に」
そこにミュールの詠唱が重なった。彼女の魔術に紡がれた銃神は洞窟の至る所に姿を具現化する。放たれる弾丸は皆の手助けとなるだろう。
「目標確認。ターゲットの視線を釘付けにします」
一拍遅れたうつぎの砲撃は、リモデの頬を掠め、その灰色の皮膚に亀裂を刻んだ。
「いいネ。ケルベロス諸君」
少女の顔が笑みで歪む。少女の顔が狂気で歪む。少女の頬が恍惚で歪む。
「こんな素体が8つも手に入るなんて、ボクはついているナ!」
「勝手な言い分は相変わらずね、『戦車』!」
触腕を掻い潜りながらのデジルの台詞に、リモデは微笑した。
「それでは改造を始めるとしよウ。どんな姿に改造してあげようカネ?」
マニピュレータの一撃は、盾と構える瀬理に吸い込まれる。破砕音と機械音が響く事数度。身体を蟹爪に蹂躙された彼女の目は、妖しい輝きを湛えていた。
「――瀬理?!」
その拳の襲撃先は、同じディフェンダーのうつぎだった。狂乱にも似た咆哮は、それが彼女の意志では無い事を示していた。
そんな瀬理を月光が覆い、状態異常を解除する。光の消滅と、リモデの舌打ちはほぼ同時だった。
「やはり急場の改造だと、この程度だネ」
「ようも、やってくれたわ!」
瞳に殺意を宿らせ、瀬理が吠える。瞬く間だったが、意識は完全にダモクレスに乗っ取られていた。これがリモデの『改造』と言う奴なのだろうか。
「抵抗しなくていいのニ。ボクの手に掛かれば、数刻と待たず終わらせてあげるヨ」
「おぞましいダモクレスね」
リモデの得意そうな声にメリルディは表情を曇らせ、吐き捨てるように独白した。
●赤の悦楽
やがて時は至る。転機は、デジルの仕掛けたアラーム音だった。
ピピピピと響く電子音は彼女の表情を強ばらせるに充分だった。奏でる音の意味は、セットから8分の経過を告げるもの。
残された時間は僅か。それが経過してしまえば『弩級絶対防衛シールド』は転送されてしまう。その警告音が、空間内に鳴り響いていた。
戦闘開始から数分。視線を向けた先のリモデはケルベロス達の攻撃によって無数の傷が刻まれている。だが、それでも倒れる程では無かった。
「みんな、ごめん。私に命を預けて!」
デジルの言葉にケルベロス達は一様に頷く。それを成す為に来たのだ。覚悟はとっくの昔に決まっていた。
故に、彼らはそれを敢行する。躊躇う理由など、どこにも無かった。
「金平糖だと思った? 残念、これは流れ星!」
メリルディの召喚した流れ星がリデルを穿つ。それが皮切りとなった。
「落ちるように、墜ちるように、堕ちるように、陥るように……さあ、蕩けて」
「首を狙う悪魔の鎌から、あなたは逃げられますか?」
「死ト希望ヲ象徴する我が花ヨ。その名に刻マレシ呪詛を解放セヨ! スノードロップの花言葉、アタシはアナタノシヲノゾミマス」
アイビーとフェイト、スノードロップの詠唱が同時に響く。毒の雨と影撃、死の呪詛に覆われたリデルは、呻きの声を零した。
攻撃はそれを担う者達だけでは無かった。
「うちらもいるんよ!」
「このまま眠って下さい」
防御役を担っていた筈の二人さえも、追撃に加わる。
防御すら考えない拳と絶望の刃の一撃を受けたリモデの表情が変わった。ケルベロス達の意図を察したのだ。
「自分達の安全をベットし、勝利を望むなんテ。そんなにボクの邪魔をしたいか!」
デジルの号令の元、ケルベロス達が行った策は玉砕戦法だった。勝利の為に危険すら顧みない。それを自分だけで無く仲間にすら強いるその戦い方は、まさしく。
「悪魔メ!! そんなこと、ボクですら指示したこと無いゾ!」
「貴方を倒す! そう言った筈よ!」
リモデの叫びにデジルの咆哮が重なる。
分の悪い賭けであることは承知。だが、それを行わなければリモデの撃破――延いては、『弩級絶対防衛シールド』の破壊が叶わないのも事実だった。
先程のアラームは決断の刻限だった。そして、賽は投げられたのだ。
ミュールの援護に支えられたケルベロス達の猛攻がリモデを梳って行く。だが、その代償もまたケルベロス達へ牙を剥いていく。
「――くっ」
攻防の中、最初に膝をついたのはうつぎだった。自身の回復よりも攻撃を優先した彼女は破壊光線に貫かれ、機能を停止する結果となった。
「うつぎ?!」
ミュールの声に、うつぎが形成したのは微笑だった。
「私の事は気にしないで。敵の撃破に……」
言葉は最後まで紡がれなかった。代わりに、少女の身体が地面に崩れ落ちる音が響く。
「ついでにこっちも、いただいていくヨ!」
返す爪の一撃は瀬理に突き立てられた。身体を引き裂くような一撃を受けてなお、それでも瀬理は視線をリモデに注ぐ。戦闘継続が出来ない程の重傷を負いながらも、殺意纏う視線はリモデを射殺さんばかりだった。
(「あかんわ」)
全身が悲鳴を上げている気がした。痛みそのものをペインキラーで誤魔化しているが、効果が消えた瞬間、絶望的、かつ多重に襲ってくるんだろうな、と嘆息してしまう。
「うつぎさん。瀬理さん」
犠牲者の名を呼ぶ声に悔悟と苦渋を滲ませ、アイビーは刃と化した地獄の炎を振るう。2人は犠牲になった。だが、安くない代償を払っただけはあった筈だと、自身を奮い立たせ。
「貰ったですよ!」
重い金属音が周囲に響いた。翻る巨大な鎌はフェイトが編み込んだ魔法。それがリモデの蟹脚を跳ね上げ、粉砕する。
「――っ?!」
悲鳴は零れない。零す暇を与えない。そんな時間は許されていない。
「貴方の征服も此処までよ、『戦車』」
終焉は羽根を広げたサキュバスから告げられる。奇しくも、その姿は先の言葉をなぞるようでもあった。
(――『悪魔』!)
紡ぎ上げた魔力は、デジルが喰らったデウスエクスを模したもの。リンゴを思わせる拳が一閃し、リモデの身体を破壊する。
「言い残すことはあるかしら?」
「――ああ、もっと、改造したかっタ……」
光と消える間際、リモデが残した呟きは、そんな彼女の欲望の具現であった。
●凱旋
破壊、破砕、崩壊。
ケルベロス達によって放たれたグラビティは物言わぬオブジェと化した『弩級絶対防衛シールド』に吸い込まれ、それを破壊していく。ヘリオライダーの予知では高い耐久力を誇る話もあったが、こうなってしまっては崩壊を待つだけだった。
「間一髪だったね」
Quelque chose d'absorbe――ケルスと名付けた攻性植物の殴打を見守りながら、メリルディが吐露する。
リモデの消失と共に動きを止めた転送装置は、恐らくあの間際、転送準備を完了させていた。薄れゆく発掘物が転送を阻害され、再度具現化したのを彼女の眼は見過ごしていなかった。
「結果として、総攻撃が良い方向に転んだ、です?」
ミュールの声は賞賛と、嘆息が入り混じったものだった。あれがなければ制限時間内にリモデ・ラーソンの撃破は叶わなかっただろう。それは判る。だが、目の前に倒れる二人の仲間を必要な犠牲、と割り切る事が出来ないのも事実だった。
「命に別状はありません。……しばらく、大変だと思いますが」
慰めにも似た言葉はアイビーから。だから、悲しむよりも賞賛するべきだとの言葉も当然、理解できるのだ。
「サテ。『弩級絶対防衛シールド』ノ破壊も完了したネ。さっさとオサラバするヨ!」
湿っぽくなりかけた空気を払拭するよう、殊更元気な声をスノードロップが上げる。洞窟の外ではまだ、仲間達が戦っている筈だ。リモデ・ラーソン、並びに『弩級絶対防衛シールド』の破壊を告げに戻らなければならない。
うつぎの体を自身が、瀬理をメリルディに託し、洞窟を進む。一度振り返った先で、『弩級絶対防衛シールド』がゆっくりと光に帰していく姿が目に飛び込んできた。
(「そう言えバ、アレもダモクレスだったネ」)
ケルベロスによって死を迎えた為、何も残さないと言う事だろう。それが少しだけ残念に思う。
やがて、ケルベロス達の足は剣劇の響く方向へと進む。仲間達はまだ戦っている。報を届ける為、デジルは凱旋の声を上げた。
「お待たせ! 『弩級絶対防衛シールド』は破壊してきたよ!」
作者:秋月きり |
重傷:八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) 五継・うつぎ(記憶者・e00485) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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