秋田県横手市――多くの人が行き交う駅前通りでは、人々が今日も変わらぬ日常を営んでいた。
晴れ渡った青空の下、毎日同じような生活を繰り返し、漠然と時間だけが過ぎて行く。
やがて太陽が徐々に西へと傾いて、空の色が移ろい出した頃――黄昏色の光が降り注ぎ、街の景色を赤い世界に染め上げる。
――それは、人々を黄泉路へ誘う破滅の光であった。
突然駅が爆発し、砕け散ったコンクリートの塊が、真下を通る人々目掛けて落下する。
一体何が起きたのか。理解する間もなく一人の男性が、巨大な瓦礫の下敷きとなって圧し潰されてしまい、夥しい量の血が地面に広がっていく。
そうして初めて人々は、今この場所で起きた事態を把握した。
初老の女性が叫び声を上げて立ち竦み、若者達は我先にといち早く逃げ出そうとする。
幼い子供を連れた母親は、我が子の手を取り一緒に逃げようとするが。子供は恐怖に怯えて動けず、ただその場で泣き喚くのみである。
蜘蛛の子を散らすように逃げ出す人々を、しかし『彼女』は決して逃さない。
新たに放たれた閃光が建物を次々に破壊して、逃げ惑う人々の行く手を塞ぐ。
崩壊した建物からは炎が巻き上がり、多くの人の命を飲み込んでいく。
目の前で繰り広げられる凄惨な光景を、『彼女』はその無機質な瞳で傍観し――無慈悲な力を振り撒いて、破壊の限りを尽くすのだった。
地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始した。
ヘリポートに集まったケルベロス達を前にして、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が伝えるのは大規模な事件の予知だった。
「どうやら彼等は、地球に封印されていた強力なダモクレス、『弩級兵装』の発掘を行おうと目論んでいるみたいだよ」
更には発掘した弩級兵装を利用した大作戦を展開しようとするのだが、その為には大量のグラビティ・チェインが必要だ。そこでディザスター・キングが率いるダモクレス軍団が、グラビティ・チェインを得る為の襲撃事件を起こそうとする。
「その企みを阻止する為に、キミ達には襲撃される市街地の防衛を行なってほしいんだ」
しかし対するダモクレスも、今までの戦闘経験からこちらの行動を予測したらしく。市街地を襲撃すれば、ケルベロスが迎撃に来ることも想定した作戦を立てている。
その対応策として、この襲撃事件には踏破王クビアラ軍団のダモクレスも参加している。
迎撃に来たケルベロス達に対し、クビアラ軍団のダモクレスが増援で現れて攻撃をする。その間に、ディザスター軍団のダモクレスがそのまま都市の蹂躙を続けるというのが、敵の作戦のようである。
2体のダモクレスを1つのチームで対応するのは、非常に厳しい状況だと言えよう。
「敵がタッグを組んで挑んでくるなら、こちらもタッグを組んで対抗しようと思うんだ」
それならばと、シュリはそう言いながら今回の作戦内容を説明し始める。
今回このチームが担当するのは、ディザスター軍団のダモクレスである。
最初にクビアラ側の担当チームが、敵の襲撃開始後に、ディザスター軍団のダモクレスに攻撃を仕掛ける。その後、増援に来たクビアラ軍団のダモクレスとの戦闘に、担当チームがそのまま移行する。
そして市街地の攻撃を再開するディザスター軍団のダモクレスを、こちらのチームが迎撃して撃破するというのが、主な作戦の流れとなる。
「今回キミ達が戦う敵の名前は『トパーズ・キャノン』。軍団における部隊の一つ、『ジェムズ・グリッター』の一体で、黄色い戦闘服を着た女性の姿をしているよ」
このダモクレスはビームキャノンを武器として扱い、後方からの砲撃を得意としている。
敵の攻撃方法は、二門の砲台から放たれる高出力のビーム砲。そして拡散ビームによる一斉掃射で、広範囲を纏めて灼き払う。他には妨害電磁波を発生させて、行動を封じようとしてくるようだ。
因みに、こちらはトパーズ・キャノンが再攻撃を始めるまでは、戦闘を行えない。よってクビアラ担当チームが彼女と戦っている間、こちらは目立たない範囲で復旧作業を行なってほしいとシュリは言う。
例えば、市街地のヒールや避難誘導する警察達の支援、逃げ遅れた市民の救援等である。
心を持たないダモクレスにとって、人の命はグラビティ・チェインを搾取するモノとしか認識していない。そのような連中に、市街地を蹂躙させては決してならない。
「敵も色々作戦を考えてるようだけど、思い通りにさせるわけにはいかないからね。キミ達が力を合わせれば、きっと今度も大丈夫だよ」
ここでグラビティ・チェインの略奪を阻止すれば、敵の計画も大きく狂うことだろう。
例え弩級兵装が発掘されたとしても、動かす燃料がなければただの鉄の塊でしかない。
今回の全体作戦は、何れにとっても大局を左右する程の大きな戦いとなる。
戦場に向かうヘリオンの中で、シュリは戦士達の武運を静かに祈った――。
参加者 | |
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レーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565) |
エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649) |
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) |
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244) |
ブリュンヒルト・ビエロフカ(活嘩騒乱の拳・e07817) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730) |
レイン・プラング(解析屋・e23893) |
●惨劇からの救出劇
平穏な日常だった筈の街の光景は、突如として惨憺たる地獄絵図へと変貌していった。
街の中心部にあって、多くの人が行き交う駅に、黄昏色の光芒が天啓の如く降り注ぐ。
それは人々を死へと誘う破壊の光。爆発音と共に崩壊した建物から炎が巻き上がり、薄ら橙色が混ざった青空を、黒煙が覆い尽くさんばかりに広がっていく。
「命を奪い、より多くの命を奪う兵器を動かす……そんな話、見過ごせる筈がありません」
目の前で展開される惨状を前にして、レイン・プラング(解析屋・e23893)がやり場のない怒りを口に出す。
「……今はやるべきことを果たしましょう。これ以上、犠牲者を出すわけにはいきません」
この事件を引き起こした張本人を、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は知っている。だからこそ、その『彼女』と戦うことにココロが擦り切れそうな気持ちだったが。今回が最後だと、自らに言い聞かせてまずは救援活動に当たるのだった。
「私達はケルベロスです。皆さんは私達が守りますから安心して下さい」
ダモクレスの突然の襲撃によって、駅にいた人々は混乱に陥っている。レインとフローネは彼等に言葉を掛けて落ち着かせ、秩序を持って避難するよう促した。
ケルベロスが助けに来てくれた、そのことが人々の心に安心感と勇気を与えて。先程まで喚き怯えていた民衆は冷静さを取り戻し、二人の指示に従うままに安全圏へ退避していく。
「あっちは上手く誘導してくれてるみたいだな。それじゃアタシ達も、気張ってこの邪魔な石コロを片付けようぜ!」
ブリュンヒルト・ビエロフカ(活嘩騒乱の拳・e07817)が拳を叩いて気合を入れる。彼女の前には、崩れ落ちてきた瓦礫が山のように積み重なっている。避難の妨げにならないように、それらを除去するのが彼女達の役割だ。
コンクリートの塊を掴むブリュンヒルトの二の腕が、逞しい程大きく膨らんで。怪力無双の力によって、重い瓦礫も発泡スチロールのように軽く持ち上げ撤去していく。
「これ以上建物が崩れないよう、直しておかないとね」
更なる崩落を防ごうと、峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が建物の崩れた箇所にヒールを掛ける。恵の手により修復される建物は、幻想的な装飾が加わり復元されていく。
瓦礫に埋め尽くされた床の一部が、崩落に巻き込まれた人間の血で染め上げられていた。この一刻を争う事態に、深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)が急いで瓦礫を取り除く。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」
そこには瓦礫に圧し潰されて下敷きになり、全身血塗れになった男性がいた。蒼が小柄な体躯に力を込めて瓦礫を退けて、中から男性を救出して必死に呼び掛ける。すると男性は微かではあるが反応し、朦朧とする意識の中で助けを求めるように呻き声を上げる。
「良かった……まだ息があるみたいだね。僕達はケルベロスだよ。今すぐに治すから……」
瓦礫の下から救出された男性が、まだ命を繋ぎ止めていることにエーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)はほっと胸を撫で下ろし。すぐさまヒールを用いて、懸命の治療を施した。
やがて男性は息を吹き返し、これでどうにか一命は取り留めた。そのことに安堵の笑みを漏らすエーゼットの傍らで、ボクスドラゴンのシンシアやレーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)が、同様に怪我人の救護活動を行なっていた。
「さっ、これで幾分かは良くなるわ。私が手当てするんだからね」
限られた時間の中で、できる限りの治療行為に手を尽くし。レーチカが被害に遭った人々を癒していたその時だった――。
救援活動を続ける仲間とは別に、エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)はミミックのミミちゃんと共に、身を潜めて敵の監視任務に就いていた。
彼女の視界にあるのは、攻撃を仕掛けるクビアラ班の仲間達と、応戦する黄色の戦闘服を纏った少女の姿。おそらく彼女こそが標的である『トパーズ・キャノン』に違いない。
エリースが監視を続けていると、視界の先にあるビルから敵の増援が現れて、クビアラ班を襲撃する光景が目に飛び込んできた。そしてトパーズが、街の破壊活動を再開しようと動き出す。
「……今!」
割り込みヴォイスで声を発して、エリースが仲間に向けて合図を送る。ケルベロス達は耳に届いた彼女の声を聞き、警察官や消防隊に後を頼んでトパーズ追撃へと急ぐのだった。
●黄昏色の砲撃手
駅前にあるロータリーは、戦いの傷跡が生々しく残る。更にその先で、クビアラ班の仲間達が白髪の少年ダモクレスと交戦している最中だ。
そこで戦っている桃色髪の少女には、以前フローネが兄であるダモクレスを討つ際に、助けてもらった過去がある。その彼女が今度は自身の宿敵と立ち向かっている。これも不思議な縁だと感じつつ、互いの武運を祈って戦いへと臨む。
「トパーズ姉さん、そこまでです!」
標的である砲撃手のダモクレスに追いつき、フローネが声を張り上げ彼女を呼び止める。今まさに建物を襲撃する寸前だったトパーズは、声に気付いて振り向くと。そこには新たな八人のケルベロス達が待ち受けていた。
「残念だけど全てお見通し……ってね。今すぐ侵略をやめるなら、フローネさんに免じて許してやらないこともないわ!」
レーチカが黒い残滓を伸ばして敵を抑え込もうとするのだが。危険を察知したトパーズは、咄嗟に身を翻してレーチカの攻撃を躱すのだった。
「そう……こちらの作戦は読まれてたようね。それならそうと、全て纏めて壊すだけ――」
ケルベロスへの対策を織り込んだ作戦すらも通じない。しかしダモクレスの少女はその事実に動じることはなく、街と一緒に吹き飛ばせば良いと番犬達に砲台を向ける。
「ここから先には、行かせない……」
トパーズよりも先んじて、エリースが動く。回り込むように高く飛ぶ、その姿は妖精が宙を舞うかの如く麗しく。愛用している漆黒の石弓を引き、空中から敵の足元狙って射出する。
「撃たれる前に撃っていかないとね。それじゃ、行っくよー」
エリースの後に続いて恵が仕掛ける。杖に魔力を注ぎ込み、先端から輝く光は魔法の矢となって。恵は無邪気に笑って矢を放ち、砲撃手の少女を容赦なく射抜く。
トパーズはクビアラ班との戦闘で、軽微ではあるが損傷を受けている状態だ。その点だけでも、戦いにおける優位性はケルベロス側にある。
更に追い討ちを掛けようとする番犬達だが、彼等を制するように黄玉色の砲撃手がその力を発揮する。二門の砲台に集束されたエネルギーが発射され、拡散された無数の光が全てを灼き払おうとケルベロス達を襲う。
「これ以上余計な血を流さないように……僕の力でみんなを支えるよ」
他人が傷付くことに心を痛める、エーゼットはそんな心根の優しい少年だ。だからこそ、自分が癒し手となって仲間を守る。そうした強い決意を剣に込め、地面に描いた星座が眩く光って黄泉の炎を打ち消していく。
「とにかく襲って来てる奴を全部殴れば、町はこれ以上壊されねーんだよな! 任せろ!」
まだ幼い身であるが、蒼が元気いっぱい闘志を滾らせながらダモクレスに立ち向かう。全力で戦場を駆けて接近し、螺旋を宿した掌で触れた瞬間。力が一気に弾けて、その衝撃は敵の体内にまで打撃を及ぼした。
「ああそうさ、殴り合う方が手っ取り早くていい。本気で行くから、歯ぁ食い縛りなよ!」
血気盛んなブリュンヒルトには、好きに暴れる方が性に合っている。蒼の気概に煽られるかのように、ブリュンヒルトが燃え盛る闘気をその身に纏い、自身の内に眠る闘争心を呼び醒ます。
「グラネットさんの為にも、ここで必ず止めてみせます」
レインが雷を帯びた槍を携え疾走し、紫電の如き突きが砲撃手の少女の脾腹を鋭く穿つ。
相手が例え心を持たない機械の身とはいえ、兄弟達と戦い続けるこの状況はどんな気持ちなのだろう。レインは前の戦いでも一緒になった紫髪の少女を気遣いつつも、眼前の敵を倒すことが彼女の為だと気を引き締め直す。
「目障りな危険因子は、即刻排除する。標的確認――」
ケルベロス達の攻撃を受け続けても尚、トパーズの表情は少しも変わることはなく。黄昏色の無機質な双眸で、レインの姿を捕捉して。抑揚のない声色と共に砲身を向けて、蓄積されたエネルギーの塊が高出力の光線となって放出される。
目も眩むような閃光がレインの命を飲み込もうとする。刹那――白銀色の鎧を纏った少女が間に割り込み、正面からこの砲撃を受け止めたのだ。
「……大切な仲間や、友人達が、弱いココロを支えてくれる。だから、私もココロに誓って彼女達を守り通します!」
戦っているのは自分一人だけではない。破滅を齎す光をその身に浴びようと、フローネは一歩も怯むことなく踏み止まって。姉と呼ぶダモクレスを凝視しながら、心の在り方を力強く説く。
しかし彼女の想いを込めた叫びも、心を持たないダモクレスには一切届かない。凛とした紫色の瞳に映るのは、破壊の限りを尽くすことだけが目的の只の兵器にしか過ぎない。
「僕達は、お互いに支え合って生きているんだ。この状況を痛ましいとも思わない、そんな存在に……僕達は負けたりしない!」
平然と人を傷付け命を奪う。冷酷無比な機械の軍団に対し、エーゼットが憤りを見せる。互いに補い合うことが、人の弱さであり強さであると。エーゼットの祈りが光の盾を具現化させて、仲間を庇い負傷したフローネを癒しの力で包み込む。
「よくもフローネさんを傷付けたわね! こいつはお返しよ!」
親友の身を案じて参戦したレーチカが、彼女の心を代弁するかのように怒りをぶつける。身軽な動作で波刃のナイフを振り翳し、パンをスライスするかの如きナイフ捌きで敵の身体を斬り刻んでいく。
●ココロに秘めた誓い
戦いは中盤戦から終盤戦へと差し掛かり、両陣営の疲労の色が濃さを増していく。
最初はケルベロス側に優位と思われた戦闘も、トパーズが徐々に巻き返して互角の勝負に持ち込でいた。だが手数に勝るケルベロス達の猛攻が、再び勢いを取り戻して押し返す。
「……確実に、仕留める!」
前衛陣を援護すべく、エリースが二つの弓を束ねて高威力の巨大な矢を撃ち、相手の動きを鈍らせる。
「ダモクレスも案外抜け目ないよねー。ま、こっちはこっちで対応するしかないけどね」
恵はダモクレスの用意周到ぶりに感心しつつ、しかし自分達は更に上を行くとでも言いたげに。転がる礫に魔力を込めて、指で弾いて敵の砲台を狙って撃ち抜いていく。
「ったく、しぶとい奴め! だが、こっちも負けてられねえぜ!」
気合一閃。ブリュンヒルトの華麗な体技が繰り出す蹴りは、鞭のように撓ってダモクレスの少女の胸元に叩き込まれる。
「どきゅーへいそうとやらは、お前らには渡さねえ! 全部纏めてぶっ飛ばしてやる!」
蒼が身の丈はあろうかという二枚刃の巨大手裏剣を振り投げる。蒼銀の刃が冷気を纏い、旋回しながら敵の体躯を斬り裂いて。氷の螺旋が侵食し、身体の熱を奪って凍り付かせる。
「――全てはこの作戦の成就の為に。これ以上、余計な邪魔は決してさせない」
トパーズの裂かれた装甲からは、機械の部分が露になって火花が弾け飛ぶ。機動力も格段に低下しており、劣勢極まりない状態だ。それでも与えられた任務を果たすべく、番犬達を排除しようと死力を尽くす。
幾度となく光線の雨が降り注ぎ、炎の海で番犬達を燃やし尽くそうとするのだが。その都度エーゼットが癒し手の力を行使して、被害を最小限に食い止めるのだった。
「こういう時は僕がしっかりしないとね……。後もう少しだけ、頑張って支え続けるよ」
エーゼットが鼓舞するように白い翼をはためかせ、光の粒子を散布させて戦闘感覚を研ぎ澄ます。
「――解析完了、データリンクします」
敵の行動パターンをレインが自己分析後、魔力で意思を通じ合わせて情報共有し、仲間の攻撃精度を上昇させる。
「隙ありだね。ちょっとした油断が命取りだよ」
攻撃から防御に移ろうとする一瞬を恵は見逃さない。ファミリアロッドを掲げると、杖が黒猫の姿に変じてトパーズ目掛けて飛びかかる。
「その隙……逃さ、ない……!」
エリースがボウガンに番えるのはエクトプラズム製の矢だ。僅かな隙を突き、精密機械のように狙い澄まして放たれた一撃は、敵の腹部を抉るように突き刺さる。
「ここは一気に畳み掛けてくぜ! こいつで石の塊にでもなりやがれ!」
人差し指に全ての闘気を込めて、ブリュンヒルトが繰り出した一突きは。敵の動力回路を遮断して、蝕むように内部の機能を崩壊させていく。
「霧幻の壱式……捕らえろ、朧月!」
蒼が深く念じて気を集めると、周囲に霧が立ち込め海月の姿に変容し。朧気に揺らぐ霧の触手を、ダモクレスの機械の身体に絡ませ封じ込む。
「逃がしはしないわ……とっておきを喰らいなさい!」
狙った獲物は必ず倒す。レーチカが独自の手法で学んだ忍術の一つ。彼女の手から投擲される螺旋の弾丸が、敵を撃ち落とすまで追い詰めていく。
――熾烈を極めた戦いも、間もなく終わりが見えてきた。
ケルベロス達の息もつかせぬ怒涛の攻撃に、トパーズは消耗著しく手負いの状態だ。一連の戦いに決着を付けるべく、フローネが蒼く輝く槍を手にして力を注ぐ。
「ココロを持った私にとって姉さんを倒すのは、辛い……でも。それでも、人々を守ると、ココロに誓ったんです!」
紫水晶の盾の力が蒼き槍と融合し、紫蒼の光が穂先に灯る。覚悟を決めて槍を握り締め、渾身の力で放った一閃は――黄昏色の少女の胸を深く刺し貫いていた。
――さようなら、姉さん。
フローネが槍を抜くと同時に、トパーズが崩れ落ちるように撓垂れ掛かる。冷たくなった彼女の身体を、紫髪の少女は悼むように抱き締めて。
直後に淡い光がトパーズの全身を包み込み、霧のように掻き消えていく。最後にそこに遺ったのは、彼女の代名詞といえるキャノン砲だけだった――。
こうして一つの戦いが終結し、この地におけるもう一つの戦いにも幕が下ろされる。
怒号が飛び交い砲声と剣戟が響き渡った戦場も、今は波が引くかのように音が止み。寂寞とした世界で佇みながら、彼等は静かに勝利の味を噛み締める。
自分達の任務は成し遂げた。後は更なる吉報を待つのみである。
「さて……僕はちょっと街の人達の様子を見てくるね」
オラトリオの少年は、そう言って駅の方へ向かおうとする。
――人々の明日を切り拓く剣となり。人々が生きる今日を守る盾となり。
この日見た光景を目に焼き付けて。その時聞こえたココロの声を胸に刻み付け。
戦士達は再び立ち上がり――壊された日常を取り戻そうと歩き始めたのだった。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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