弩級兵装回収作戦~逆襲の白髪機

作者:そうすけ


 秋田県横手市――多くの人が行き交う駅前通りでは、人々が今日も変わらぬ日常を営んでいた。
 晴れ渡った青空の下、毎日同じような生活を繰り返し、漠然と時間だけが過ぎて行く。
 やがて太陽が徐々に西へと傾いて、空の色が移ろい出した頃――黄昏色の光が降り注ぎ、街の景色を赤い世界に染め上げる。
 ――それは、人々を黄泉路へ誘う破滅の光であった。
 突然駅が爆発し、砕け散ったコンクリートの塊が、真下を通る人々目掛けて落下する。
 一体何が起きたのか。理解する間もなく一人の男性が、巨大な瓦礫の下敷きとなって圧し潰されてしまい、夥しい量の血が地面に広がっていく。
 そうして初めて人々は、今この場所で起きた事態を把握した。
 初老の女性が叫び声を上げて立ち竦み、若者達は我先にといち早く逃げ出そうとする。
 幼い子供を連れた母親は、我が子の手を取り一緒に逃げようとするが。子供は恐怖に怯えて動けず、ただその場で泣き喚くのみである。
 蜘蛛の子を散らすように逃げ出す人々を、しかし『彼女』は決して逃さない。
 新たに放たれた閃光が建物を次々に破壊して、逃げ惑う人々の行く手を塞ぐ。
 崩壊した建物からは炎が巻き上がり、多くの人の命を飲み込んでいく。
 目の前で繰り広げられる凄惨な光景を、『彼女』はその無機質な瞳で傍観し――無慈悲な力を振り撒いて、破壊の限りを尽くすのだった。

 そしてここにもう一体。
 『彼』は瓦礫と黒煙の中を逃げ惑う血まみれの人間たちと、それを追う『彼女』を見下ろしながら薄く笑った。
 罠が仕掛けられているも知らずに、間もなくケルベロスたちがノコノコと正義漢ずらをしてやって来るであろう。
 何も知らずに『彼女』に襲いかかかったその時、惨劇の真の幕が上がる。
 邪魔はさせない、絶対に。
 この戦いは我々ダモクレスが勝利するのだ。
 ケルベロスの足音を感知したか、システムを蝕む恐怖と怒りが『彼』の体を微かに震わせる。
 素早くバグを解除して、『彼』は両腕――ガトリング砲を駅方面に向けた。


「地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したよ。彼らは、地球に封印されていた強力なダモクレスである『弩級兵装』を発掘して、侵略のために運用しようと企んでいるんだ。そして――」
 『弩級兵装』を発掘の発掘作業と並行して、ダモクレスたちはディザスター・キングの軍団による都市の襲撃事件を起こすのだが、この襲撃には踏破王クビアラ軍団のダモクレスも参加しており、『彼』がディザスター・キング配下のダモクレスを迎撃に来たケルベロスたちに不意打ちを仕掛けて倒すという作戦を立てているらしい。
「でもね、ボクたちケルベケスのほうが一枚上手だよ」
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は腰に手を当てて-、誇らしげに胸を反らせた。
「ダモクレスたちは今までの戦闘経験から、市街地を襲撃すればケルベロスが迎撃に来ることを予測して罠を張っているようだけど、こっちはさらにその上を行く。ディザスター・キング軍団撃破班と踏破王クビアラ軍団撃破班の二つのチームで、敵を撃破するんだ」
 つまりはこういうことだ。
 まず街を破壊しているディザスター・キング軍団のダモクレスを攻撃。罠にかかったと思い込んで現れる、増援の踏破王クビアラ軍団のダモクレスを引きつけて叩く。ディザスター・キング軍団のダモクレスは待機していた別班が撃破――。
「これで敵の作戦を打ち砕くことができるってこと」
 つづいてゼノは実際に戦うクビアラ軍団のダモクレスの戦闘能力と、最初に戦うディザスター・キング軍団のダモクレスの戦闘能力を説明し始めた。
「まず、ディザスター・キング軍団のダモクレスから説明するね」

 個体名は『トパーズ・キャノン』、スナイパーだ。
 ・黄昏の十字砲火:頑健、遠単、破壊+追撃(高出力のビーム砲)
 ・黄泉の殲光:頑健、遠列、魔法+【炎】(ビームを拡散した列攻撃)
 ・黄紗の妨塵:敏捷、遠列、魔法+【パラライズ】(行動阻害の電磁波)

「次は、みんなが倒さなくてはならない踏破王クビアラ軍団のダモクレス」

 個体名は『コード・エリヤ』、やはりスナイパーだ。
 ・ガトリング連射:頑健、遠単、破壊+【追撃】(ガトリングガン連射)
 ・バレットストーム:頑健、遠列、破壊+【プレッシャー】(弾丸を嵐のように撃ち出す)
 ・マルチプルミサイル:理力、遠列、破壊+【パラライズ】(敵群に大量のミサイル)
 ・スパイラルレッグ:頑健、近単、斬撃+【服破り】(膝から先をドリルのように回転させて攻撃)

「エリヤは接近戦もできるようだけど、基本的には遠距離攻撃メインだよ」
 どうやらスパイラルレッグは、敵に接近されてパニックになった時、苦し紛れに繰り出される技らしい。
「あ、大事なことを言い忘れるところだった。市街地全域で敵の通信妨害が行われているんだ。携帯電話、無線機、アイズフォンでの通信はできないよ。ヘリオンから飛び出したら、『トパーズ・キャノン』班とは一切、連絡が取れなくなるから注意してね」
 二班が協力し合って敵を叩くことはできない、ということだ。
「作戦のおさらいをするね。みんなは最初、岩手市駅前を破壊している『トパーズ・キャノン』を攻撃して、『コード・エリヤ』を誘い出して。『コード・エリヤ』が出てきたら、『トパーズ・キャノン』は別班に任せて『コード・エリヤ』の撃破に専念するんだよ」
 グラビティ・チェインの略奪を阻止すれば、敵の計画も大きく狂うだろう。たとえ、弩級兵装とやらが発掘されたとしても、グラビティ・チェインが足りなければ運用は難しい。
「ちょっとしんどいかもだけど、みんなならやってくれると信じてるよ!」


参加者
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
狼森・朔夜(迷犬ラッキー・e06190)
深鷹・夜七(まだまだ新米ケルベロス・e08454)
アリス・リデル(子犬系オトナレディ・e09007)

■リプレイ


 ケルベロスたちは熱で歪んだ線路を走り、瓦磯の斜面を登って崩壊した駅舎の上に立つと、肩を並べて駅前の広場を見下ろして呆然とした。
 夕焼けの中で、岩手市駅前は無惨な姿に変わっていた。
 建物はそのほとんどが倒壊し、ひっくり返ったバスの中で人々が助けを求めて泣いていた。黒煙の切れ目から、いまにも消え失せようとしている数多の命が見えた。
 胸に痛みを感じて、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は思わず顔をしかめた。
(「みんな、ごめんね。必ず助けてあげるから……もう少しだけ頑張って!」)
 夜を降ろし始めた東に向かって、黄金色の光線を放ちながら優雅に歩みを進めるダモクレスへ怒りの目を向ける。
 怒りに震える手に奏氷の薙刀を持ち、仲間たちとともに瓦礫の坂を一気に駆け下った。
『凍てつけ!』
 ニメ—トルを超える長さの薙刀が、いささかの迷いもなく振られた。寒のさなかに花をつける凍烈たる白梅のような、清らかな冷気を刀身のあとに引きながら。
 振り返ったトパーズ・キャノンの左肩から右の脇腹にかけて、氷の華が連なる様にして咲いた。
 ダモクレスの体が僅かに傾ぐ。
「一気に畳みかけるぜ!」
 狼森・朔夜(迷犬ラッキー・e06190)はシャーマンズ・カードの中央に描かれた黒円に意識を集中させた。グラビティ・チェンイで作り上げた魔法の鏡――異界に通じる扉からフロスト・ランスナイトを招き寄せる。
「いけぇ!!」
 トパーズは身を捻って氷の華を散らせながら、フロスト・ランスナイトが繰り出した氷結の一撃をかわした。さほど驚いた様子もなく、突如、襲い掛かって来た猛犬たちからサイドステップで距離を取る。
 レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)は敵の左側面から回り込むと、瓦礫に足を取られて体幹を揺らしたトパーズへアームドフォートの先を向けた。
「これ以上の破壊行為は絶対に許しません、ここでおとなしく死んでください」
 銀河の星々を砕く青龍の咆哮――レベッカの放つ青き閃光が、トパーズのボディを貫いた。
 体をくの字に折り曲げてなお、トパーズは表情を崩さない。静々と持ちあがっていくアームドフォート発射口が、山吹色の光で膨れ上がっていた。
「やはり現れたわね、ケルベロス。でも死んでもらうのは――そっちの方」
 淡々と。平坦な声。そこには感情の欠片もなく。
 トパーズは黄泉の殲光を放った。
 拡散型の熱線ビームが半月の型に展開していたケルベロスたちを焼く。
(「く……二人続けて連戦は大変だけれど、弱音を零しちゃいけないわね」)
 メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は、巨大なルーンアックスを振り上げた。
 ダモクレスたちの作戦を打ち破るべく、ケルベロスたちも二班連動で動いていた。本来ならディフェンダーとして仲間たちの盾となるべきところではあったが――。
 もう一体、どこかに潜んでいるダモクレスをおびき出すまでは、めいいっぱいトパーズにダメージを与えよう。仲間たちのために。
 メアリベルが大上段から力まかせに戦斧を振り下す。切り裂かれた空気が刃の両側で渦を巻き、時間をも凍らせる冷気を作りだした。
「ママ、力を貸して!」
 時を凍らせる弾丸に導かれ、ビハインド『ママ』が飛ぶ。ママは着弾と同時に死神の赤き鎌を振るった。
 たまらず、トパーズがバックステップで逃げる。ケルベロスたちを冷たい目で見つめながら、東へ、東へと逃げていく。
「よし、行けるぞ! 回復は俺とクエレに任せろ、みんなはガンガン攻めて行け!」
 再燃した炎の中で、クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は声をあげた。野性的で力強い声が、生命の煌めきを歌いあげる。戦場にあまねき響く歌声は、仲間たちの傷を癒し、体にまとわりつくトパーズの炎を掻き消した。
 クラムのボクスドラゴンが属性インストールで『歌う竜』を支援する。
「サンキュー、クエレ。ナイスなアシストだぜ!」
 深鷹・夜七(まだまだ新米ケルベロス・e08454)は、すばやく四方に視線を飛ばした。あの時、討ち逃がしたダモクレスの影をビルと瓦礫の間に探す。
(「……まだ出てこない?」)
 気持ちを切り替えて、逃げるトパーズを追う。
 敵は追手とつかず離れずの距離を、しっかりと計算で出しながら移動していた。
(「まるでぼくたちを誘っているようだけど……ああ、そういうこと!」)
 トパーズはどこかで待ち伏せしているコード・エリヤの攻撃範囲まで、自分たちをおびき寄せる気なのだろう――作戦が見抜かれているとも知らずに。
 ならば、こちらも気取られぬように、真に迫った芝居を続けよう。
 夜七はすっと息を吸い込んで腹の底に落とすと、くわっと目を見開いて、神速の突きを繰り出した。
 雷を帯びた不知火の切っ先がぐんと伸びて、オレンジ色の装甲に突き刺さる。
 不本意な足止めを食らったトパーズが初めて苛立ちを見せた。
 ろくに狙いを定めず、ただ、ケルベロスたちから距離を取るためだけに黄金のビームをまき散らす。
「……っち、んにゃろ! ざっけんじゃねーっつーの!」
 きらり、と八重歯を光らせて。アリス・リデル(子犬系オトナレディ・e09007)は竜手の爪でエレキギターをかき鳴らした。
「ステキな黄金のビームのリクエスト演出、ありがとうよ。そんなにあたしたちの演奏が聞きたいのなら聞かせてやろうじゃねぇの? 用意はいいか? 行くぜ、ミミくん!」
 震える弦がドラゴニック・サウンドを生み出し、加速しながら広がる音の波がトパーズの鼓膜を叩く。
 アリスのミミックは尖った歯を楽器よろしくこすりあわせて、眠気を誘う『愚者の黄金』を奏でた。
 黄金の旋律にのって、蒼き竜の翼が薄闇を走る。
「貴様はこの場で仕留める!」
 アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)は魔導書を開いた。風にたなびく頁に竜の活力を注ぎ込み、空に浮かび上がる魔法陣に魔力を滾らせる。
『受け継ぎし魂の炎を今此処に! 竜の火よ、不死なる神をも灼き払え!』
 竜帝が吐く業火がとぐろを巻きながらトパーズに迫り、捕え、飲みこんだ。
 あたり一面に様々なものが焼け焦げた匂いが立ち込める。
「まだまだぁ!!」
 一歩、大きく前へ。陽葉は力強く踏み出して、煤で汚れたトパーズに薙刀を突きだした。
 払い手をかいくぐった刃がボティに突き刺さる。
 稲妻が閃いて、トパーズの中へ神経回路をショートさせる電流が注ぎ込まれようとした瞬間――。
 白髪のガンスリンガーは自ら刃を引き抜いて、飛び下がった。
 仲間を癒しながら辺りを警戒していたクラムが、危険を察知して警告を発したのである。
「そんな、伏兵だって……!?」
 自分で言っておきながら、わざとらしい台詞に陽葉はあやうく吹きだしそうになった。
 幸い、感情のないダモクレス、トパーズはまったく気づかなかったようだ。


 ロケット弾とは、言ってみれば強力な散弾である。
 アスファルトの焼ける匂いが低く這う地上の百メートル上空から、恐るべき破壊の力を発する散弾の雨がケルベロスたちの上に絶え間なく降り注ぐ。
 クラムは被弾しながらも、渾身の演技を見せて仲間に撤退を促す。
「下がれ! 下がるんだ!!」
 この襲撃によって、トパーズとケルベロスたちの間に空白地帯が生まれた。
 間髪を入れず、何者かがビルの屋上から急降下して来た。
 爆煙が薄れていったあとから、真っ白な頭のコード・エリヤが姿を見せる。
「行け、トパーズ! あとはオレが引き受ける」
 エリヤは背後のトパーズを見返ることもなく、両腕のガトリングガンを水平に構えると、銀色の銃弾を連射しながら前進を開始した。
 トパーズもまた、エリヤに背を向けて歩きだす。
 行く先に別のケルベロスたちが待ち受けているとも知らず。
 ここまでは作戦通り。しかし――。
 トパーズは向こうで待ち構えている別のケルベロスに任せるが、その前に気づかれて逃げられでもしたらは台無しだ。
 故に、ケルベロスたちの芝居はまだまだ続く。
「おいおい、冗談じゃない。新手の出現には驚いたが、そう簡単に逃がしてはやらねぇよ!」
 朔夜は夜空へむかって跳ね上がった。薄い月を背負うと、エアシューズで星を砕きながら白髪のダモクレス目がけて蹴り落ちる。
「まだ敵がいたんですか、もしかしてこっちが本命の敵ですか」
 予め考えていた台詞を平坦な声で発しつつ、レベッカはレインボーバスターライフルから七色の魔法光線を発射した。
 流星の蹴りを受けて後ろへ吹っ飛んだエリヤに、砕けた虹の欠片が突き刺さる。
「くっ! 何という……否! 認めない、恐怖など感じないっ!」
 エリヤは立ちあがると、ケルベロスたちに向けて弾丸を嵐のように撃ち出した。
 飛び蹴りを放った朔夜は着地の瞬間で体勢が開いてしまっており、散弾の雨にまともにその身を晒すことになった。
「お前たちを倒す、殺す! グラビティ・チェインを奪って、バクを取り除く!」
 腕を熱で赤く燃え立たせながら、狂ったように連射を続けるエリヤ。
 メアリベルが人狼のガードに走るが間に合わない。ママが赤き鮮血の鎌を振るって威嚇するも、やはり届かなかった。
 仲間のピンチにクラムがシャウトする。クエレが吼える。
「死ね、シネ、何もかも壊れてしまえ!!」
 エリヤの気がふれたような猛攻が続く。
 もう芝居でもなんでもなく、ケルベロスたちは銀色の弾幕に押されて駅前の広場まで後退してきていた。
 これ以上、後退すると被害が拡大する。
 助けられる命をみすみす取りこぼしてしまう。
 そう判じた夜七は、反撃の合図を仲間たちに出した。自ら進んで先陣を切り、エリヤの前に打って出る。
「あの惨劇をもう見たくない。だから強く……そう思っても、ぼくは必死に記憶に蓋をしてた」
「お、お前。もしかして……」
 エリヤの赤い瞳孔が彩度をあげ、散瞳する。
「けど、その臆病さも今日で終わりだ。さぁ、けりをつけようエリヤ。君の『心』と、ぼくの弱さに……!」
 不知火が雷鳴を響かせながら空を滑る。夜七の体ごとまっすぐ、仇敵に向かって切り進む。
「うわあああっ!!」
 恐慌をきたしたエリヤは、腰砕けになりながらも光速で回転する脚を振り上げた。
 ミミ君が横からエリヤの軸足にかぶりつく。
 放ったスパイラルレッグは夜七の体を掠めることなく、急速に回転数を落とした。
 エリヤは突っ込んできた夜七と、脚にかじりついたミミ君ごと横倒れした。
「彼がヨナナンの宿敵……ねぇ」
 なんというか。ダモクレスにしてはやたら定命者くさいというか。
 アリスは半ばあきれながら、団子になって瓦礫の上を転がる三つの影を見つめた。
「んにゃ、大事な友達が決着つけるとこ、しっかり見届けるっしょ……!」
 とりあえす、仕切り直しだ。
『もっと熱く! もっと激しく! 盛り上がってこーぜ!』
 レット・ヒート・イット。
 ギター振り回しながら、荒ぶる恋心で炎を巻き起こし、歌い叫ぶ。
 ジェラシーのような火砕流がエリヤの体だけを押し流し、広場から出した。
 震えながらエリヤが立ちあがる。
「い、嫌だ……違う、チガウ、こんなの、嘘だ! オレは……強く生まれ変わったんだ。負けるはずがない! 恐怖を感じているはずがない!!」
「そいつはどうかな?」
 恐怖に崩れた顔でダモクレスが振り返る。
 いつの間にか、アルディマがエリヤの背後に回り込んでいた。
 ロマノフの血に連なる誇り高き竜は、冷静な目でエリヤの状態を判定、高速演算で構造的弱点を導き出した。
「認めろ。認めて楽になれ。……お前はもう重力に引かれている」
「誰がみと――!!?」
 両腕のガトリング銃よりも細い背に、アルディマは痛烈な掌底突きを見舞った。
「この程度で私が止まるとは思わない事だな!」
 続けてもう一撃。フォートレスキャノンを放つ。
 飛ばされて広場に戻ってきたエリヤを、陽葉と朔夜が迎え撃つ。
『くらえ!』
 投げつけるものはそこら中に、それこそ無尽蔵にある。
 エリヤは皮肉にも、トパーズが破壊した建物の瓦礫を浴びることになった。それもただの瓦礫ではない。朔夜によって、傷つけられし人々の憤怒が込められた、爆ぜる瓦礫だ。
 瓦礫はエリヤの体に当たった瞬間に爆発し、エネルギーの流束が激しい音と閃光を生んだ。左腕のガトリングガンを吹き飛ばす。
 爆発が収まると、エリヤはよろめきながら残った腕で素早く目元をぬぐった。
 それを見たレベッカは、手を広げて仲間を止めた。
「もしかして……いま、泣いていた?」
「デタラメをいうな! オレはダモクレスだぞ! 目から漏れたのはオイルで……お前たちがデタラメを言うから、ポンコツ出来損ないって――ああああ! 苦しい、悔しい! お前たちなんて消えてしまえ!!」
 エリアはわめき散らしながら、右腕を振り回した。まるで嵐。白く熱した弾丸が辺りにばらまかれる。
「残念です。グラビティ・チェインの強奪は絶対阻止しないといけません。そもそもこれ以上被害が出ることは見逃せないですし」
 メアリベルは足を鉄骨に挟まれて身動きが取れない人の前に立つと、卵男のぬいぐるみを腕に抱きつつ、優雅に日傘を広げて銃弾を弾いた。
「メアリの知ってるレプリカントさんは涙を流せる。でもダモクレスは……。ねえ、アナタはケルベロスが憎いの? メアリたちが憎いの?」
「両方だ! もう死ねよ!」
「お生憎様、こちらもあっさり殺されてあげるわけにはいかないの」
 二人のやり取りで攻撃がやんでいるうちに、クラムとクエレは崩壊した建物をヒールで治し、人々を助け出した。
「歌いすぎて喉がひりひりする。おかげでひでぇ声になっちまったぜ」
 アリスとアルディマも救助を手伝い、広場から次々と人々を逃がしていった。
「エリヤ! 聞け!」
 夜七は不知火を鞘に納めると、エリヤに向けて腕を広げた。
「いま君が心の内に抱いているのはバグじゃない。例えそれがどんな色をしていても、君が得たのは紛れもない『感情』だ……! それを力に君が歩み始めたなら、ぼくたちは友達になれる。ぼくたちとともにこの星で――」
 けたたましい、魂を引き裂くような高笑いがエリヤの口から飛び出した。
 白髪頭を後ろにのけ反らせ、さらした喉を、いや、全身を震わせて嗤う。
「……受け入れられずに壊れちまったか。可哀想に」
 アルディマは夜七の落ちた肩にそっと手を置いた。
「せめて、きっかけを作ったお前の手で終わらせてやれ」
 夜七は黙って頷くと、不知火の柄を握った。
 エリヤがゆっくりと頭を起こし、ケルベロスたちに狂気に満ちた目を向ける。
『これが掛け値なしの、ぼくの全力だ――いま、この悲しい物語に決着をつけよう!』
 抜き放たれた刀身が、激しく燃え盛る青い炎を纏う。
 劫火絶刀―――芽生えつつあった命を淡い蛍火に変えて、青藍の炎は夜空へ駆け昇って行った。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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