鉱石ランプを守りきれ！　陰謀うずまく螺旋忍軍

■リプレイ

●闇に煌く淡い光
　星灯りが煌く山奥に。職人の家は建っていた。
「こんばんは」
　鏑木・郁（傷だらけのヒーロー・e15512）がドアを叩くと、初老の職人さんが顔をのぞかせる。
「なんのようじゃ」
　職人さんの口から、白い息が零れた。郁は人懐っこい笑顔で、今回の事件について説明を始めた。誠実な態度に、まっすぐ前だけを見つめる瞳。暖かさを感じる口調。持ち前の隣人力によって、顔をしかめていた職人さんはすぐに郁を気にいった。
「寒いじゃろ、早く部屋に入るんじゃ」
　手招きする職人さんに応え、家の中に入っていく。ミューシエル・フォード（キュリオシティウィンド・e00331）は、目を輝かせながら職人さんの服をひっぱった。
「こーせきランプ！　はじめてきいたけど、どんなランプなんだろう？　みんなにもひろめたいから、イチからゼンブおしえてくださいなっ！」
　職人さんは微笑むと、自慢の鉱石ランプたちに明かりを灯していった。緑、赤、黄色、青……。鉱石ランプの淡い光。たちまち部屋に星空が出現する。
「綺麗ね……」
「ええ……、流石なのね」
　シル・ウィンディア（蒼風の精霊術士・e00695）は愛用のマントを広げ、うっとりとした表情でヌリア・エフェメラル（白陽・e01442）に語りかけ、ヌリアは銀の瞳に星明かりを映し、静かに呟いた。職人さんは、満足そうにうなづくと、指導を開始することにした。
「一寸、やりましょうか」
　トワ・トガサカ（性悪説スケアクロウ・e30469）は、前髪に隠れていた目を、静かに輝かせる。青薔薇がよく似合うカーム・コンフィデンス（静かなる自信と共に・e00126）は、職人さんに色々な技術を聞き始めた。右手で撫でられているボクスドラゴンの『ユル』は気持ちよさそうだ。八剱・笑（鹵獲術家八剱次代当主・e27128）は、そんな様子を見ながら、白い翼がお揃いのボクスドラゴン『カネレ』の背中をなでた。
「来られなかった兄が悔しがる位、皆で楽しんで素敵な鉱石ランプを作りましょう！」
　イタヅラっぽく笑いかけると、ウィンクをしてみせる。天壌院・カノン（ペンタグラム・e00009）の澄んだ青い瞳は、優しく仲間を見つめていた。
（螺旋忍軍が暗躍しているようですね。蝶の羽ばたきが竜巻と成る前に、その芽を摘み取りましょう）
「おっと、今日はもう遅い。実際に作るのは明日からにするのじゃ！　婆さん自慢の料理を、鉱石ランプの淡い光がどれほど引き立てるか！　まずは、ソレを体験することから始めるのじゃ！」
　職人さんは、得意げに笑った。運ばれてくる郷土料理は、ロマンティックな光に照らされて、いつもの食事とは一味違った風味を持っていた。ケルベロス達はデザートの白玉を楽しみながら、自分が作る鉱石ランプへと思いを馳せるのだった。

●想いをこめて
「あ～、口で説明するのは難しいんじゃよなぁ」
　次の日の朝。職人さんは頭をかきながら告げた。
「ワシがこだわっておるのはな、想いをこめる……ということじゃ。大事な人への想いをこめ、造形を整える。さすれば、不格好でも輝きのこもったランプができる。ワシはそう信じておるのじゃ」
　職人さんは豪快に笑った。どうしたものか、困った空気のケルベロスたちであったが、不意に誰かが笑いだす声が聴こえた。お婆さんである。
「まあ、爺さんはあてにならんわな。こっちでレジンの扱い方からやってみるので、集まりなさい」
　お婆さんは、鉱石ランプの大まかな作り方を説明し始めた。慣れた手つきで水晶の型を取り、レジンに着色し、型の中にそれを流し込んでいく。紫外線の光を照射すると、手際よく『完成品はこちら』と書かれたレジンで出来た水晶を取り出した。それをやすりで削り、ニスを塗り、また『完成品はこちら』を取り出すと、それを電球の仕込まれた台座に乗せ、台座を洞窟風に飾り立てていった。灯りをつけると、あっという間にレジンが淡く輝きだしたのだった。
「爺さん口下手じゃから、『気合だ』みたいに端折りたがるんじゃが、教えてもらえば、すぐ作れるようになるわ」
　こうして、修行の日々は始まった。カームは普段から趣味で作っているだけあって、慣れた手つきで手際よく細工を進めていた。マニキュアフラワーとレジンを組合わせた花弁達で作った花の中央に、蓄光材を散りばめ消灯時にも淡く光る様にしたクラスター状の鉱石レジンと天然の細石を花芯風にしたものを組み立てていく。月下美人のような、素晴らしい鉱石ランプを作り上げ、満足げに息をつく。
　シルは一通りメモを取ると、水の中の光をイメージしたランプ作りにとりかかった。石油入り水晶を、左手に持ったヤスリで丁寧に仕上げていく。完成したランプは、幻想的に光のゆらめきを表現していた。
　カノンは、林檎の木をイメージした、赤と緑の色を使ったランプを器用に作っていった。茶色い幹に光ファイバーを通し、レジンで作った緑色の葉っぱを輝かせ、その光をルビーで作った小さな林檎が反射する。いとおしげに見るカノンの顔を、淡い光が照らしていた。
　郁は、些細なことにも手を抜かずに真剣にランプを作っていった。手先がやや不器用だからこそ、手が抜けない。隣では皆が熱心に作業をしている。それを横目で見た郁も、ひと際やる気がこもっていく。赤い水晶型のレジンを掴むと、大事な人への想いをこめヤスリで丁寧に磨き上げる。
「完成だ、おまえの名前は『Solaris』だな」
　郁は満足気にうなづいた。出来上がったランプは、暖色系の鉱石が柔らかな光を放つシンプルなデザインで、どこに飾っても馴染みそうな、実用性に溢れた出来だった。
　トワは、楕円体のレジンを磨いていた。落ちる涙をイメージした、本物の翡翠と違わぬ鮮やかな緑の光を放つランプ。完成図を頭に描きながら丁寧に磨いていく。思い通りの形を整えると、職人さん特製のニスを二度塗りし、瑞々しいツヤを出した。トワの手の中には、想像した通りの鮮やかな翡翠のランプが握られていた。
「名前をつけるのもいいですね……、決めた。このランプは泡沫翡翠です」
　トワは、緑色の瞳を輝かせ、口元を緩めた。
　ヌリアも職人さんに質問をしながら、メモを片手にランプを作っていく。完成したランプは、深い水底、星煌を映す鉱石ランプ。毀れる悲色は藍を包んで、長夜を淡く、甘く照らす。
「星の儚さ、星の純真……。オフィーリアの雫」
　ヌリアは、星光の宿った鉱石ランプを手に取り目元をゆるめた。
　笑は、八剱をイメージして、細めのレジンの水晶８本を中心に、緑柱石、藍晶石、橄欖石を散りばめたランプを作りあげた。天然鉱石の散りばめ方がわからず、職人さんやカームにレクチャーを受けつつ完成させた鉱石ランプ。
「八剱に光の加護を！　フォン、リヒトシュヴェート！！」
　右手でランプをかかげ、カネレと笑いあう。
「皆さん、名前をつけたのですね。では、私も……」
　郁たちが鉱石ランプに名前をつけているのを見て、カーム、シル、カノン、ミューシエルも名前を考え始める。
「がったいレジン！　こーせきランプ！！」
　叫ぶミューシエルを見ながら、職人さんは満足そうに伸びをした。
「おまえさんたち、よく頑張ったのじゃ。免許皆伝！　とは流石に言わないが、立派な我が弟子たちなのじゃ」
　かくして修行の日々は終わり、螺旋忍軍が現れるのを待つばかりとなった。

●螺旋忍軍あらわる
　夕暮れ時。皆は鉱石ランプを光源に螺旋人軍の襲来に備えていた。
「入会者のかたでしょうか？」
「こ、こんばんは。鉱石ランプを教えて頂きたくお邪魔したのですが、よろしいでしょうか？」
　カノンは、扉の前でモジモジしている怪しい２人組の男に声をかけた。道化師っぽい姿の男が、儚げなカノンを見て顔を赤らめる。
「わぁ、ミューと同じだね！　こっちはシュウくん。いっしょにガンバロー！！」
　生徒役のミューシエルが、シュウくんと一緒に忍者のすそを引っ張り、そつなく作業机へと案内した。
「これは可愛らしい兄弟子さんだ、よろしくお願いしますよ」
　道化師っぽい姿の男は、ミューシエルにニヤリと笑いかけ作業道具を受け取った。
「鉱石ランプなんて綺麗なものを作れば、お姉ちゃんがたにモテモテだと思ったんすよね！」
　一緒にいたサーカス団員のような姿をした男も作業台へと向かい、カームが持ってきた作業道具を、こちらも顔を赤らめながら受け取ると、先生へと居住まいを正した。カノン先生は、２人と生徒役たちを見つめ、切磋琢磨し合うように、志と友の重要性を説いていった。忍者たちはうなづき、生徒役たちを仲間だと信じきった様子である。
「貴方方も鉱石ランプ職人さんを目指すのですか？　一緒に頑張りましょう」
　すかさず、笑はカネレと一緒に微笑み、仲間アピールを強めた。
「所で貴殿方、御名前はなんて？」
「えっ、私の名前に興味があるんですか！？」
「ひょっ、ひょっとして……オイラに気が！？」
　トワの問いかけに、２人は色めき立つ。
「……いやあ、弟子の名前くらい覚えておかねばならないでしょうや、それとも師とあおぐものに対して名無しのまま修行を受ける心積もりか」
　トワは、２人が落ちつくように、ゆったりと語りかけた。
「私の名前は破！」
「オイラの名前は斬！　仲間うちからザンニンと呼ばれるクールな男っす！」
「最近は、残念って呼ばれてるけどな」
「！？　あ、兄貴だって、破忍と呼ばれてたのが、最近はハニャ～ンとか呼ばれてるじゃないっすか……」
「……！？　今ばらすことはないだろ！」
「そっちこそ！！」
　口喧嘩を始める２人。
「続きをしてもいいですか？」
　トワは面白そうに微笑むと、作戦通り話を進めていった。破と斬は照れたようにはにかむと、今度はシル先生の指導を聞き始める。
「イメージを固めるためにはまずデッサン！　そして、石の声をしっかりと聞いてね。おのずと石が答てくれるよ？」
「そちらの道化師さんはどう？　石の声、私は聞こえたわよ」
　シルの指導を生徒に扮したヌリアが補強する。
「い、医師の声か？　最近、酒は控えたほうがいいと言われたが……」
「オイラもっす。２人で飲みすぎたっすね……」
　しかし、２人は照れたように目をふせ。トンチンカンなことを言っていた。
「お医者さんではなくて、鉱石の石ですよ。こうやって聴くんです」
　笑は、静かな動作で髪をかき上げ、石を耳に付けた。忍者たちは、その艶っぽさに笑が男だとも知らずドキマギしている。ミスバタフライ配下の２人は、過激な衣装に耐性はあれど、清楚な女性にめっぽう弱かったようで、目が泳いでいる。そんな２人に、ミューシエルは追い討ちをかけた。
「おにーさんはもうできた？　ミューよりずっとずっとオトナだから、きっとあっという間にすっごくキレーなの作ってくれるよね！」
　輝く瞳でみつめてくる女の子に、２人は脂汗をダラダラと流し慌て始めた。
「っま、調子が悪いときもあるもんだ。これから一緒に頑張るんだな」
　郁は、そんな２人に笑顔で話しかける。２人は感動し、目に涙をためて郁へと席を近づける。
「……落ちつくっすね」
「ああ、そうだな。男だらけの空間は素晴らしい……」
　満足そうにそう言うと、一心地つくのだった。一方、郁は困ったような表情を浮かべている。カーム先生は、破に近づくと、幾何学模様風のパーツを見せ、同じ様なものを作るよう促した。そして、斬には隙間のある封入材を気泡無く埋め込む課題を提案する。
「そんなの無理っすよ……」
「だな……」
　いきなりの無茶ぶりに目をつむり、難しげに顔をふる２人。
「これは難解すぎでは。もう少し優しい課題から与えてはいかがでしょう」
　トワの優しいフォローに、２人は胸をなでおろす。飴と鞭作戦も成功だ。
「できました～！」
　そして、２人がトワに目を奪われていた隙に、ミューシエルは完成品を今作ったかのように差し出し、微笑んだ。目を点にする２人……。
「なるほど、この厳しい修行があってこその輝き……！　すごく勉強になります！」
　笑が、ここぞとばかりに追撃する。破と斬の２人は顔を見合わせうなづくと、自分たちも石の声を聞こうと、耳に石をあて目をつむった。隙だらけである。
　郁が紙兵、カームが守護星座で耐性を、そして、カノンのオウガ粒子がケルベロスたちの命中率を上げる。
「斬想！」
　トワが言霊で自らの威力を向上させ、笑も脳細胞の強化により自らの威力を向上させる。そして、シルの飛び蹴り、ミューシエルの弾丸、ヌリアの鎖が、斬の体を貫き、赤竜ユルの赤い炎と白竜カネレの白い炎がその体を燃やす。不意打ちは、大成功であった。

●想いは星に
「っく、ケルベロスだったのか！」
　破は悔しそうに、斬を倒したシルたちへと憎悪を向けた。
「シル！　危ない！！」
　ヌリアは、破の掌に螺旋がうずまくのを感じ注意を喚起する。
「大丈夫だ！」
　郁が身をていしてシルをかばい、破は苦虫をかみつぶしたような表情を見せた。 郁、カノン、ユルが破の攻撃をはばみ、かたいディフェンダーのおかげで、回復はカームとカネレで問題なく回る。強化のかかったシル、ミューシエル、トワ、ヌリア、笑が、時に連携をまじえつつ、着実にダメージを与えていく。
「このままでは負ける……。ならば、ミスバタフライのために１人でも道連れにしてやる！！」
　負けを悟った破は、思いつめた表情で掌に螺旋をまとった。
「攻撃きます！」
「ヌリアおねーさん、アブナ～イ！」
　カームとミューシエル、歌の上手な２人の美声が、星空に響き渡った。
「させません！」
　カノンが２人の声にこたえ、攻撃を途中で受け、破の動きを止めた。
「火よ、水よ、風よ、大地よ…。混じりて力となり、目の前の障害を撃ち砕けっ！！」
　シルが、火・水・風・土の属性エネルギーを一点に収束させ放つ。
「もう一押し…。いっけーっ！」
　さらに、背中に２対の青白い魔力翼が発現し、膨れ上がったエネルギーが破を包みこむ。こうして螺旋人軍の野望は打ち砕かれたのだった。

「終わったようじゃの……。我が弟子たちは命の恩人じゃ。ありがとうなのじゃ」
　職人さんは、庭に出てくると、感慨深げに空を見上げた。
「そういえば、星々の瞬きは、自分にとって想いの強いものが星座となって見える、と聞いたことがある。わしにとってはすべての星が婆さんに見えるのじゃが、お主たちにはどう見えるのじゃ？」
　そう言うと職人さんは笑った。
　巻き毛に雛菊を飾る座、高みを目指す幼き拳士座、温泉座、じんぞうケルベロス座！　ユル座、強さを望む戦闘狂座、読書好きをこじらせた本の虫座、シショウ座、冬に咲く花座、カネレ座――。
　それぞれ、こめた想いを空に見る。
　眼鏡座、青薔薇座、魔法座、星空座、お爺さん座、幸運すぎた兄座――。
　職人さんとケルベロスたちは、笑いあいながら、新しい星座を語りあうのであった。

作者：ハッピーエンド	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
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