弩級兵装回収作戦~ユニット防衛、黒の番人

作者:こーや

 茨城県つくば市の大学に作られた白いドーム型の建物。
 その外側半分を人型の黒い金属が3体、並んで歩いている。全く同じ外見が、一糸乱れることなく。
 反対側から、やはり同じ外見の3体が歩いてくる。
 3体と3体がすれ違うさまは、鏡に映したかのようだ。
 ガキンッガキンッガキンッガキンッ。
 歩を進めるたびに金属音が響く。
 そしてまた、別の3体が姿を見せた。
 それぞれが指定された別のルートで、周囲の警戒をしているのである。
 さらに、金属音はあちらこちらからも聞こえてくる。
 まだ他にもこの黒いダモクレスがいるのだという、何よりの証であった。

「指揮官型ダモクレスが動き始めたいうのを知ってる人もおると思いますが」
 河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)はそう前置きして。
「その指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したようです。地球に封印されていた強力なダモクレス『弩級兵装』の発掘を行おうとしてるんです」
 弩級兵装はその名の通り、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装だ。
 現存しているという兵装は『弩級高機動飛行ウィング』、『弩級絶対防衛シールド』、『弩級外燃機関エンジン』、『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つ。
「全ての弩級兵装が完全に力を発揮してしまうと、ダモクレスの地球侵攻軍の戦力が上がるのは間違いありません。それも倍増どころやなくて、数倍……もしかしたら数十倍になるのでは、と」
 数十倍という言葉に集まったケルベロスがどよめいた。
 見過ごすわけにはいかないと言わんばかりに、山河はこくりと頷いた。
「そこで、弩級兵装の発掘が行われている施設を警護する量産型ダモクレスを攻撃し、その隙に施設に潜入して連携し、弩級兵装の破壊を試みるという作戦をとります」
 くるり、山河は赤い唐傘を回した。
 傘に描かれた花枝が踊る。
「うちからは、茨城県つくば市で『弩級超頭脳神経伝達ユニット』発掘施設を警護してる『量産型ダモクレス』の迎撃をお願いしたいんです」
 いわば陽動だ。
 警護の量産型ダモクレスをひきつけ、外敵として闘い続けることで、施設内に潜入したチームの元に量産型ダモクレスの増援が向かわないようにするのが役割となる。
「せやけども、量産型ダモクレスは数え切れんほどおりますから、いつかは撤退せなあきません。撤退までの間、どれだけ時間を稼ぐかが、今回の作戦の成否を左右することになるでしょう」
 最初に10体以上の量産型ダモクレスを引き付けることが出来れば、潜入チームが警護の隙をついて内部へ潜り込めることが可能になると山河は言う。
 さらに、『3分毎』に増援がくる。数は最初に引き付けたダモクレスの半分ほど。
「最初に引き付ける数が少ないと、潜入チームの行動が難しくなってしまうんですけど……利点があります。その分、比較的長い時間戦うことが出来るということです」
 逆に、多くを引き付ければ、潜入チームの潜入はは容易となるが、代わりに戦える時間は短くなるだろう。
「潜入しやすくすることか、時間を稼ぐことか……どちらを優先するか選んで、作戦を練った方がええでしょう」
 相手となる量産型ダモクレス『量産型ジョルディ』は、アームドフォートとレプリカントのグラビティを使用する。
 1体が使えるグラビティは2つだが、全ての個体が同じグラビティを使う訳ではない。
 説明を終えると、山河はふぅと小さく息を吐いた。
「弩級兵装の発掘は阻止せなあきません。量産型全部を撃破するのは無理でも、潜入チームのサポートに繋がるならそれでええんです。どうか、出来る限りを」
 そう言うと、山河はぺこりと頭を下げたのであった。


参加者
生明・穣(月草之青・e00256)
望月・巌(茜色の空に浮かぶ満月・e00281)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)

■リプレイ

●進
「案の定といったところですね」
 スマートフォンの画面を見遣り、生明・穣(月草之青・e00256)は呟く。通信機器による連絡は出来ないようだ。
 望月・巌(茜色の空に浮かぶ満月・e00281)は呼び出した地図を頭に叩き込むと、スマホを懐にしまう。
 ダモクレスが施設を建ててからの地図と航空写真は入手できなかったが、それ以前のものでも施設と外部の位置関係は充分に把握できる。
 他の7人も地図を把握すると、タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)がこくりと頷いた。
「それではいってくるです」
「頼んだぜ。あんま気負うなよ?」
 八崎・伶(放浪酒人・e06365)の言葉を聞き終わる前に、タンザナイトは成犬ほどの大きさの動物へと姿を変えていた。
 先に纏っていた気流を目隠しに、するりと1人先行を始めた。
 そのタンザナイトを、都市型迷彩が施された外套を身に纏った7人が距離を置きながら追う。最後尾には穣。
 ダモクレスに見つからないように周囲を確認しながら進むタンザナイトの胸中は重い。
 先行は自分だけ。その事実が体を重くする。自分の失敗が作戦そのもの、ひいては地球上の人々の未来を害する可能性がのしかかっているのだ。
 小さな後ろ姿に向けられた伶の釣り目ぎみの眦が細められる。
 彼も全員無事で帰らせると気負ってはいる。が、同時に楽しもうという感情も持ち合わせている。
 後続の四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)も気流を纏っている。共に移動している6人がそのままなので気休め程度ではあるのだが。
 ケルベロス達の万全の注意により目星をつけた地点――巡回経路が重なる場所へと見つかることなく辿り着く。
 ガキンッガキンッと微かに聞こえてくる金属音がいかにも物々しい。
 一足先に到着していたタンザナイトは既に本来の姿へ戻っている。
「やれやれ、ダモクレスはやることが大掛かりだねえ」
 そう言うメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)の顔には笑み。英国紳士たる者、いかなる時でも泰然と。
 確認するように鋼・柳司(雷華戴天・e19340)は己の拳を開閉している。
「だが、分かりやすい」
「だな。こそこそ動き回られるよりゃ喰いやすいってもんよ」
 好戦的に唇を歪め、笑う伏見・万(万獣の檻・e02075)。
 定められた時間はもう間もなく。
「皆宜しく頼みます」
 穣は皆に向かって囁くと、巌へ手を差し出した。必ず帰ろうと視線で語っている。
 ニッと笑った巌は、音が鳴らないように穣の手と己の手を打ち合わせた。
 それを眺めていた玲斗は緩やかに目を伏せた。服越しでお守りに触れる。
 見知った顔がいるのは心強いが、難儀な囮役になりそうだ。しかし、潜入部隊の負担が楽になるのだというのならば――。
「期待に応えないといけないわね」
 ぽつり、小さな声は誰の返事も求めていない。ただ己へと向けたものだ。
 しかし、柳司は同意を示すようにぐっと拳を握りしめた。
「暴れるのも仕事のうちだ。派手に行くとしよう」

●誘
 3体と3体がまさにすれ違わんとする時だった。空が光った。照明弾のものだ。
 ダモクレス達は一様に光の発生源を探す。すると、そこにはケルベロスの姿。
「やあ、随分物々しいねえ」
 その声は他の音に邪魔されることなくはっきりと広がった。
「侵入者発見。迎撃戦仕様ヘ移行。対象ヲタダチニ排除スル」
『異常』を排除すべく、ダモクレス達は一斉に動き出した。
 応じるようにケルベロス達も走り出す。
「有象無象に用はないのでね、悪いけれど通らせてもらうよ!」
 メイザースの言葉が終わるよりも先に、敵の懐に潜り込んだ柳司が電光石火の蹴りを見舞う。
 直後、カラフルな爆発。
「黒一色じゃ花がないってもんよ」
 巌の指では紫水晶を嵌めた指輪が光る。続けてダイナマイト変身を行うつもりではあったが、時間がかかると思いなおした。
 消え行く煙の中に跳び込むように、柳司は跳び退った。
 いや、柳司だけではない。全員が移動している。
 戦闘ともなれば動き回るのは当然だが、ケルベロス達の移動には明確な意思があった。
 それは量産型ジョルディを『潜入班から遠ざける』というもの。
 仕掛けてからものの数十秒で敵数は倍へと膨れ上がる。すぐ近くにいた組が照明弾に釣られたのだ。
 カツリ、穣の上品な革靴の踵が音を立てた。打ち上げ終えた照明弾を懐に収めながら、溶岩を敵の足元に噴出させる。
「12体。丁度ですね」
「出だしは上々、かしら」
 言葉を交わす合間にも敵の攻撃が降りかかる。
 焼夷弾に焼かれた前衛へ伶が小型無人機を飛ばし、玲斗は電気ショックで柳司の生命力を賦活する。
「おや、先を越されてしまったね」
「はっ、一発目くらいぶちかましゃいいじゃねぇか」
「ではお言葉に甘えさせてもらおうかな」
 万が荒々しく槍を打ち出すのに合わせ、メイザースも薄青の時計草を纏わせた腕を振るい、石化光線を放つ。
 一体を中破まで追い込むも、庇うように前へ出てきた別の一体がミサイルの雨を降らせる。
 伶とウイングキャット『藍華』が、万と玲斗を押しのけて代わりにミサイルを浴びる。
「煌めきよ、ここに在れ」
 タンザイナイトが作り出した超小型の守護惑星が巌の周囲で公転を始める。
「っと!」
 敵との距離を詰めるべく駆けていた巌は唐突に体を捻った。
 途端、その真横を敵の主砲が走り抜けた。
 さらにギュルルルと回転するアームが繰り出される。
「させないです!」
 強引に割って入ったタンザナイトの肩が穿たれる。歯を噛みしめたものの、口の隙間から漏れる呻き声。
 それでも足は止めない。
 敵を撃ち、仲間を庇い、癒しながらもケルベロス達はじりじりと戦場を移していく。
「侵入者発見。迎撃戦仕様ヘ移行。対象ヲタダチニ排除スル」
 移動の最中に増援が来ても怯むことなく、目的の為に動き続ける。
「それでは一つ、根比べと行こうか」
 ここは癒し手としての腕の見せ所。
 そう簡単には退いてやらないと言わんばかりに、笑みを深くしたメイザースは杖を振るった。

●戦
 戦闘は激しさを増すばかり。
 柳司が放ったドラゴンの幻影が量産型に止めを刺す。
「倒して倒しても切りがないな。が、それで諦める可愛げは無いのでな」
「それが可愛げなら、私も持ち合わせてないわね」
 刃を仕込んだ杖で玲斗がトンッと地面を叩けば、薬剤の雨が最前に立つ仲間達に降り注ぐ。
 けれど、それによって癒えた傷と取り除けた異常は僅か。
「……前衛だけで見れば、一長一短ね」
 前衛は4人と、ボクスドラゴン『焔』と藍華の2体。
 ダモクレス側の複数を狙う攻撃が真価を発揮できなくなる人数であるが、それはケルベロス側にも同じことが言える。複数を対象とした回復がまさにそうだ。
 こちらの行動を阻害するも、取り除くためのエフェクトも発動しづらい。
「狙いをずらしてきてやがる」
 伶が呟いた。汗が目に落ちる前に、さっと拭う。
 集中攻撃を仕掛けてくる気配はないが、威力が衰えると分かっている4人と2体に複数攻撃をしかけて来ることは少ない。
 代わりに中衛の3人と後衛のメイザースが複数攻撃に晒されている。
 そのせいで『守』に重きを置く2人と2体は、特に戦場を激しく走り回っていた。呼吸が乱れている。
 攻撃を受けたせいでずれた眼鏡を穣は整える。
「……なかなかに厳しいですね」
「この感じなら」
 目標とする15分を稼ぐことは無理だろう。
 巌は口にしなかったが、誰もが感じ始めていることだ。
 回復に手を多く割いている為に、倒す敵よりも増える敵の数が上回ってしまい対応に遅れが出始めたのだ。
 しかし、各個撃破の方針であったからこそ、まだ限界まで余裕がある。ケルベロス側の攻撃が分散していたなら、戦線の瓦解は間近であったに違いない。
 ハッと鼻を鳴らして万が笑った。
「ヤれるだけヤりゃあいいんだよ。さァ、刻んでやるぜェ!」
 己の中に潜む獣の群れを幻影として放つ。獣達は敵の傷を見逃すことなく、外装やコードに容赦なく爪を立てていく。
 反撃とばかりに放たれたエネルギー光線を受け止めた焔に、タンザナイトは満月に似た光球を投げた。
 活力を得た焔はひび割れたアスファルトを蹴り、ぴょんと跳びあがる。
 そこに新たな金属音が6つ。
「侵入者発見。迎撃戦仕様ヘ移行。対象ヲタダチニ排除スル」
「その台詞は聞き飽きたぜ!」
 巌は拳を振るいオーラの弾丸を放つ。放たれたオーラは唸りを上げ、眼前の敵に食らいついて機械の体を停止させた。
 その合間にも、後方へ焼夷弾がばら撒かれた。
 庇うべく駆けた伶は僅かなところで間に合わず、男の名を叫んだ。
「メイザースさん!」
「私は大事ないよ。それよりもだ」
 視界を遮る前髪を払いながらメイザースはオウガメタルに魔力を分け与えた。生成された分体が流体盾となって伶の身を守る。
 盾はすぐに効果を発揮した。主砲で撃たれたものの、威力を軽減させたのだ。
「さて、こちらはいかがでしょう? 消えぬ炎は怨嗟の色。お見せしましょう」
 穣の青い衝撃波に晒された外装が、青い炎で燃え上がる。
 それは戦闘の苛烈さを表すかのような激しさであった。

●退
 1分、1秒がタンザナイトにはやけに長く感じる。3回目の敵の増援が、その感覚を助長させる。
 必死に戦場を駆け仲間を庇い、傷を癒しているが、叫びたい気持ちを必死で押し殺していた。
 まだなのか、一体いつまでなのか。
 その焦りを見透かしたかのようなタイミングで、伶の声が響いた。
「雲を掻き分け満ちろ、秋月」
 叢雲の隙間から覗く柔らかな月光がタンザナイトを癒す。
 苦しい時はいつか終わる。デウスエクスにも死があるように。その為のケルベロスであるならば、動き続けなくてはと白きウェアライダーは己を叱咤した。
 伶自身も傷だらけだ。
 2体のサーヴァントの姿はもう無い。懸命に仲間を守り抜き、倒れた。
 残った2人の『守』も、あとどれだけ耐えられるか。いや、他の前衛も限界が見えている。
 己の血で赤く染まった灰色の髪をなびかせる柳司も例外ではない。他からの回復は間に合わない。自分で癒しても、恐らく持たない。
 それならば。
「タダでは取らせん。雷華戴天流、絶招が一つ……紫電一閃!!」
 手刀が紫の雷刃を生み出し、1体を砕く。
 代わりに男は主砲を浴び、崩れ落ちた。
 玲斗が後方へその体を下げようとしたところに、無数のビームが降りかかる。
 歯を食いしばったものの、予想していた衝撃は伶が引き受けた。
「っ、悪い……あと、頼んだ……」
 形振り構わず割って入った伶は膝をついた。
 直後、立て続けに攻撃を受けたタンザナイトも地面へ倒れ込む。
 倒れた3人を引き寄せ、庇うように立ちながらも玲斗は言う。
「泣き言は言いたくないけど、これ以上は厳しいわね」
「癒し手としては悔しい限りだがね」
 表情こそ変わらぬものの、メイザースの紛れもない本音だ。
「限界だな。退くぞ」
 万の言葉に誰も反対はしなかった。
 巌は手の血を服で拭った。仲間を抱えるのに、手が濡れていては滑っていけない。
 自分達は見送り、敵を引き付けることしかできない。それが役目だった。
 潜入班が中で戦っているウチは負けてやるつもりなんて、巌には毛頭なかった。
 目標とした時間まで耐えることが出来なかったのは悔しくはあるが、それよりも。
「全員で帰ってこそ、成功ってもんよ」
 決めれば話は早い。
 囲まれないよう気を付けていた甲斐あって、準備さえ整えればすぐ撤退できる。その為の経路も頭にある。
 タンザナイトをメイザースが。柳司を穣、伶を万が支える。
 それを確認するや否や。
「光以て、影よ差せ」
「精々踊ってくれや」
 玲斗と巌が攻撃を打ち込む。
 その隙に、残りの3人は走り出した。すぐさま攻撃を仕掛けた2人も続く。
 撤退するケルベロスをビームが、焼夷弾が、ミサイルが追うものの、誰も足を止めない。
 1度だけ、穣は施設を振り返った。
 稼げた時間は11分。中がどうなっているかは分からない。今は彼らの成功を祈るのみだ。
 8人のケルベロスがその結果を知るのは、もう間もなく。

作者:こーや 重傷:八崎・伶(放浪酒人・e06365) 鋼・柳司(雷華戴天・e19340) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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