ただ強き者

作者:雨乃香

「うん、ここで間違いなさそうだな」
 男は公園の隅にぽつんと立つ石碑にライトを当てながら、小さく頷く。
 辺りはすっかり暗くなっていて、点在する街灯の心ともない明かりが舗道を照らしている。
「普段は飲まないのに、お酒まで買ってしまったし……本物に出会えるといいんだが」
 片手に握る酒瓶を眺め、男は軽く笑いつつ、石碑に刻まれた文章をメモ帳へと写す。
 古くから桜の名所であるこの公園では、毎年桜の時期の直前ともなると、お酒好きの鬼達が我慢しきれずに一足早く花見を始める、と、そういった内容の昔話がそこには刻まれていた。
 それらを逐一書き留めた男はメモ帳をしまい、意気揚々と歩き出そうとして、ふと、背後から伸びる長い影に気づいた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
 その声に彼が反応するよりも早くその胸は大きな鍵の先端に貫かれ、酒瓶が音を立てて地面に落ちた。
 朦朧とする意識が落ちるその直前、男はその酒瓶を拾い上げる、華奢なしかし筋張った手を目にした気がした。

「早速で申し訳ありませんが、一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)さんの調査により、新たなドリームイーターの出現が確認されました」
 部屋に集めたケルベロス達に対し、ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はいつもの前置きもなく、そう切り出した。
「とある桜の名所に伝わるという、酒好きの鬼達の伝承、それに興味を持って、現地を直接訪れた男性が襲われ、その興味がドリームイーターとして実体化してしまったようです」
 つまりどういう敵さんか、わかりますよね? とニアはケルベロス達に視線を向ける。
「かの有名な鬼、ですよ。鬼には諸説ありますが、共通の認識としては、恐ろしく、そして強い者。この被害者さんがどの様な鬼の像を抱いていたのかは知りませんが、これだけは間違いなく的中しているでしょう」
「さて、この伝承の鬼についてですが、昔から酒と花見が、宴が好きで、我慢しきれずこんな時期から花見を始めてしまうほど、勿論、本格的なシーズンともなれば人に混じり、酒を飲み、共に騒いだそうで……」
 そこで一度言葉を区切ってから、ニアはさらに続ける。
「しかし、鬼というのは強き者、酒に酔って人と戯れるだけでも人が死にかねません。そうして正体を突き止められれば、今度は力に任せ人を脅し、酒を要求し、用意できなければ――」
 とニアは自らの首を絞めるような動作をし、舌を出してみせると、これ以上説明は不要とばかりに、次の話へと移る。
「戦闘方法も単純明快、鬼らしく力を振るい、そして姿をくらます。単純故に厄介なことこの上なく、単純な実力勝負になることが予想されます、気を引き締めていきましょう」
 出現が予想される公園と時間帯から、人が来ることも稀でしょうとニアは付け加え、もう説明することがないことを確認し、もう一度口を開く。
「節分が終わったばかりだというのに鬼退治とは忙しないものですが、放っておいて花見に大変なことになる、なんてことになっても困りますしね? しっかりと退治してきてください」


参加者
珠弥・久繁(病葉・e00614)
舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
泉宮・千里(孤月・e12987)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)
伽藍堂・いなせ(従騎士・e35000)

■リプレイ


 桜の名所として名を馳せるその公園に人だかりができるにはまだ早い三月の中旬。
 普段はあまり人も見かけない閑散としたその場所に、今日は気の早い花見の一団がちょっとした宴会を催していた。
「いやぁ、今日もお酒が美味しいですねっ!」
 満面の笑みを浮かべ一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)は手にした杯になみなみと注いだ酒を一気に呷り、ご機嫌な声を上げ勢いよく杯を置く。
「酒というのはそんなに美味いものなのか?」
 空になった歌彼方の杯に酒を注ぎながら、未成年である舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)は首を傾げながら興味深そうに聞いてみる。
「でなきゃこんなに飲まないです!」
 元気な答えを返し、注がれた酒をまた呷る歌彼方の様子に、沙葉が驚いているのをフォローするように、煙を上げるグリルの前、食材を焼きながらつまみのするめを噛む口を止め、伽藍堂・いなせ(従騎士・e35000)は口を開く。
「まあ、人それぞれだわなぁ、俺としてはこんな寒ィ外で飲むよりは、暖かいところでゆっくりしてェもんだけどな」
「いや、まだ蕾の桜を肴に一杯、これはこれで中々風流なもんだ」
 いなせの言葉に対し口を挟んだのは、黒漆の地に金蒔絵の描かれた酒器を手にゆっくりと舐める様にその中身を舐める泉宮・千里(孤月・e12987)であった。
「否定はしねェよ。これで暖かくてその上この後の予定がないってんなあ、文句のつけようもないってだけだ」
「だな、後の事を考えると、飲みすぎるのも考え物だ」
 そうはいいつつも、二人とも手にした盃とグラスを傾ける手を止めることはなく、その中身をすぐさま空にする。
「まったくだね、こういう飲み方は好きじゃないのだけど」
 二人に同意し軽くため息を吐く珠弥・久繁(病葉・e00614)の前には一抱えほどもある大きな杯に、今なおその手の一升瓶から注がれる酒。かるく五本分はあるそれを久繁はぐいぐいと飲み始める。
 なんだかんだと口にしつつ、酒の席を楽しむ彼らを、驚いたような表情を浮かべたり、微笑みながら見つめつつ蓮水・志苑(六出花・e14436)はお酒を飲めない沙葉と共に、お酌をして回ったり、料理を取り分けたりと、宴会の席を慌しく動き回る。
「悪いな雑用ばかりさせて、二人はジュースでいいか?」
 酒の注がれたグラスを置いて櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は二人を引き止めると、お返しとばかりに二人にグラスを手渡しジュースを注ぐ。
「いえ、お気遣いなく」
 そう遠慮しようとする志苑の肩に手を置き、沙葉は手渡されたグラスを千梨へと差し出す。
「真面目にやるのは主役が登場してからでいいだろう?」
 もとより表情とは裏腹に口数の多い千梨であるが、酒のせいかその態度は普段よりも幾許か柔らかい。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
 沙葉と千梨の二人に勧められ、志苑はようやく頷いてグラスを手に取って膝を折り、給仕の手を止め飲み物へと口をつける。
「飲みたければ自分で注いで、食べたければ自分で取ればいいだけだし。そう堅苦しくしなくていいの」
 いなせとともにグリルの前に立ち、肉を焼いていた空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)は焼きあがったそれらを二人の前に配りつつ、お猪口を手片手に軽く酒を煽る。
 花より団子とはよくいったもので、まだ咲かぬ桜の前でもケルベロス達はその会話に花を咲かせ、宴を心置きなく楽しんでいる。
「しかし、酒好きの鬼か……」
 箸をおきなんとなしに呟いた沙葉。
「鬼の伝承は数多あるが、酒好きの鬼といえば一番に思い浮かぶのは大江山の酒呑童子だろうな」
 それを拾った千梨に対し、沙葉もまた古くより伝わるその伝承について、知ることを語る。
「武将たちが毒入りの酒を飲ませた上で寝首を掻いてなお、首だけで動いたとされる鬼」
「そんなものが宴にまぎれて現れるのだというから、勘弁してほしいねまったく」
 大きな杯を置いてため息を吐く久繁の肩を同意するように軽く叩く手の感触。
 そんな彼らとは反対に、お酒を飲みご機嫌な歌彼方は、節をつけ、今しがた聞いた鬼の話を茶化すように口を開く。
「酒飲みたければ寄っといで、鬼でも蛇でいらっしゃいですよ、と。あははっ」
「ふふふ……歌ちゃーん、そんなこと言って本当に鬼が来たらどーすんのー?」
 冗談めかし、笑いながら酒を煽るモカ。空になったそのお猪口に注がれる新たな酒。
「おっと、悪いな」
 そう言ってふと彼女が視線を向けた先には、見知らぬ顔がスルメを齧りつつ彼女にお酌をしていた。


「いいっていいって、今日は無礼講」
 その見知らぬ顔は男とも女ともつかぬ美しい姿をしていた。瞳を細め豪快に笑い、酒瓶を直に煽り大きく酒臭い息を吐く。
 いつの間にやら紛れ込んでいたその珍客にケルベロス達は一様に、その動きをぴたりと止める。
「どうした? まだまだ朝まで時間はたっぷりあるんだ楽しくいこうじゃないか」
 人と見紛うその姿、ただ額からは人のものではない角が一対生えいる。
「驚きました、鬼といえばもっと大きく厳つく恐ろしい姿をした物だとばかり」
 言葉とは裏腹に落ち着いた態度の志苑、その反応に鬼は酒を飲む手を止め、ほんのりと上気した顔で口を開く。
「もともと鬼に決まった形はない。どころか、姿すらないこともままある。鬼とは人の恐れの現れ、よほど現代人は人型の何かが怖いと伺える」
 酒瓶を傾けそれが空になったことを悟ると、鬼はそれを放り投げ視線をケルベロス達へと移す。
「ま、ばれたならしょうがねぇ、このまま全部置いて逃げるか、それともこの場で玩具になるか、選ぶがいいさ」
 拳を握り指を鳴らす鬼、先ほどまでのへらへらとした緩んだ表情はそのままに、冷たい空気よりも肌を刺す、強い殺気がケルベロス達の肌を粟立たせる。
「――平和に飲比べ、とはいかんだろうな」
 呟きと共に、千里は腰を上げて武器を構える。
「偽者とはいえ伝承上の鬼に飲み比べで勝てる算段はあるのかい?」
「無粋な力比べとどっちがマシか」
 久繁の軽口に千里もまた冗談を返すころには、他のケルベロス達も既に戦いの準備を終えている。
 そんな仲間達から歌彼方は一歩踏み出すと、まだ封を切っていなかった酒を開封し、直接煽ったあとれを鬼に向けて笑いながら放った。
「景気づけの一杯にどうぞ。安酒一本じゃ、死んでも死にきれないでしょう?」
「鬼を敬うその気持ち、有難くいただこうじゃないか」
 危なげなくそれを受け取った鬼は一気にその中身を飲み干すと、それを地面に放り出す。
「さて、宴もたけなわ。ここいらでチョイと力比べとしゃれ込もう」
 額の角にかかる前髪を後方へと撫で付けるようにかきあげ、鬼は吼える。
「かかってこい」


「それじゃ、一騒ぎを楽しみましょうか――いきます、全身全霊で!」
 声を張り上げた歌彼方は大きく息を吸い込む。
「響き渡れ、熱狂の歌――!」
 荒々しく響く、聞くものの心を奮い立たせる彼女の歌が開戦を告げる。
「戯れだけならまだしも、殺すところまでいくのは看過できないんだよね」
 久繁の長く結われた髪が踊り、その体に走るラインが淡く光を発する。
 同じ色の光を闇を切り裂き鬼へと迫るが、鬼は、避けることも、防御もせず、その一撃を受け、平気な顔で立っている。
 その横合いから飛び出した千梨の動きにも鬼は気づいている。千梨の突き出す左の拳を受け止め、そのまま引き倒す。地に片手を付き、転倒を防いだ千梨は器用に懐の短刀を抜き放ち、その低い位置から鬼の足を切りつけ、足から着地、そのまま大きくステップを踏んで距離を離す。
 鬼の方はそれを追う事はせず、ざっくりと切り付けられた傷をみつめ、大きく溜息を吐く。
「奇術やら一発芸が見たいわけじゃないんだよなぁ……面白くはあるが」
 微かな苛立ちを含むその冷たい声と鋭い視線、その気配だけで、ケルベロス達は思わず息を呑む。
「生憎と体力には自身がないんだ。何かと神頼みで切り抜けてきた人生なもんでな」
 誤魔化すように護符を手にした千梨に鬼が気を取られている内に、沙葉の使役する攻性植物が成長を終え、味方に力をもたらす光を果実から放つ。
「さぁ、アゲていきましょう!」
 同時に、歌彼方の歌声がその声量を上げ、戦いの音に負けじと勢いを増す。
 その光と歌を背に、千里と志苑二人が同時に仕掛けた。
 千里の投げ放った手裏剣が鬼の右腕に突き立ち、上体が勢いに押されぶれる。すかさず地を蹴った志苑の蹴りが鬼の頭目掛け襲い掛かる。
 速さはあれど、重さの足りないその一撃を鬼は軽く片手で受け止め、乱暴に彼女の体を押し返そうとするものの、蹴りに宿る重力によって鬼は一時その自由を奪われる。
「しょせんはもどきだ、本物ならこの程度、わけもないだろう?」
 動きを止められた鬼を笑うようにモカの放つ氷の螺旋、それを千里の攻撃で負傷した腕で打ち払った鬼は、ふっと逆の手で受けていた志苑の体重を感じなくなっていたことに気付く。
 鬼が気付いたときにはいなせの放った砲撃が既にその眼前にある。
 轟音と共に揺れる地面、花をつけていれば周囲の木々から花びらが散る美しい風景を見ることができたであろう。
 しかし、彼らケルベロス達の目に映るのは、無傷の鬼の姿。
「鬼とは隠、姿なきもの」
 だがそれは本物の鬼ではない、人の興味から生まれたドリームイーターの紛い物。
「だったら当たるまで撃って、テメェが倒れるまで撃ち続ける。いつまでも消えてられるんならいちいち姿を見せる理由もねぇもんな?」
 いなせはそう指摘しながら、新たな砲弾を装填しその砲口を鬼へと向ける。
「試してみるか?」
「後で泣き言をいうんじゃねぇぞ」
 どちらともなく、口の端を上げ笑みを浮かべる。
 一時の静寂の後、再び音が戦場に引っ切り無しに響き始める。


 ケルベロスと鬼が互いに攻撃を繰り出すたび、冷たい夜の空気が震える。
 沙葉の振るう大鎌の一撃が鬼の角を掠め、地へと突き立つ。隙を晒した彼女に対し、鬼は拳を振り上げ迫る。その間に割って入った久繁がその攻撃を受け止めた瞬間、その体が軽々と吹き飛び、咳き込む彼の口からは血が溢れ、地面にどす黒いしみを広げる。
「まったく、俺の血で花が咲いてしまってるじゃないか」
 ふら付きながらも立ち上がる久繁はしかしその表情は崩さず、柔らかな表情を保ったまま自らの治療を始める。
「なかなかどうして頑丈な――」
 鬼は言葉をそこで止めると、死角から切りかかる千梨の攻撃をいなし、捌ききると、一歩踏み出そうとする鬼の行く手をさえぎる様に、千里が暗器を放る。
 それを払い落とそうとした鬼の前で、それらは唐突に姿を消し変わりにその身を冷たい焔が撫でていく。
「揃いも揃ってこそこそと」
「偶には単純な力勝負も悪かねぇが、そいつは俺の本分じゃねぇ」
「どうせやばくなったら姿眩まして逃げられるしな、こっちもこそこそやらせてもらうさ」
 千里と千梨大本とする部分は違えど、真正面から敵と向き合うことのない二人の戦い方は相性がいいのか二人で鬼を翻弄し続けている。
 その間にも戦場は目まぐるしく変転し、歌彼方は自身の回復だけでは追いつかない久繁の治療にあたり、千里に翻弄される鬼に対し志苑が攻撃を仕掛ける。
「少し早いですが、お花見と参りましょう」
 言葉と共に、散るのは無数の氷の花びらが舞い、鋭い刃となったそれらが鬼の体を四方より切り裂く。
 視界を埋め尽くすその桜吹雪から逃れることはできず、鬼は頭を守るように腕を組み、姿勢を下げる。モカにとってそれは振り上げた武器をフルスイングで叩きつけるのにはちょうどいい高さだった。
 あらん限りの力をこめて振るわれたバールのようなものの一撃が、鬼の頭部を強く殴打する。
 鬼はそれでも尚笑っていた、徐々に追い詰められていることを自覚しつつも、ケルベロス達との戦いを遊びのように純粋に楽しんでいた。
 地を這うように伸ばされたいなせの操る黒鎖に足を取られつつも鬼はお構いなしに沙葉へ向け強く踏み込む。
 振るわれる拳はもはや視認できる域ではなく、防御の為に持ち上げた彼女の武器を掻い潜り、その鳩尾に重い一撃が見舞われる。浮き上がりくの字に折れ曲がる体。
「っ、さすがに重い……!」
 思わず漏れた呟き、踏みとどまれずたたらを踏む足、さらにもう一発ともう一歩踏み込む鬼に対し、武器を握りなおした沙葉は真っ向から立ち向かう。
「まだ、終わりではない……!」
 歯を食いしばり、ありったけの力をこめ武器を振るう。鬼の繰り出す攻撃と切っ先が幾度となくかち合い、夜の闇に刃が踊る。
 その舞踏の幕切れは、唐突だった。
 待ち望んだ真正面からの沙葉とのぶつかり合いに夢中になった鬼の周囲に張り巡らされた無数の符。数え切れない交戦のうちにばら撒かれ配置されたそれらは結界をなし、術者の詠唱に応じて、その効果を発現する。
「借りるは千筋の蜘蛛の糸」
 千梨の詠唱と共に虚空より出でる無数の糸、それは鬼を捕らえ、雁字搦めに縛り上げる。
「この程度、引きちぎって……!」
 鬼が全力を持って引きちぎろうとするその糸は、びくともせず、さらにその本数を増やす。
「如何に馬鹿力でもこいつを引き千切るのは容易じゃないぞ」
「ならば消えて――」
 言葉と共に鬼がその姿をくらまそうとするよりも早く、
「さぁ、おとぎ話はおとぎ話の中に帰る時間だよ」
 それは魔法か呪いか、はたまた病か。久繁の体に走るラインが燐光を放つと同時に、鬼の体に変化が訪れる。強靭な筈のその肉体は自重すら支えきれず、巻きつく糸に骨を砕かれる。そのままひざを付いた衝撃に体は崩れ落ち、地面へと横たわる。
「地獄も鬼の住処だ、達者で暮らせ」
 その首に千里の振るう雷光を待とう刃が突き立ち、一際高く鬼の笑い声が上がったかと思うと、すぐにそれは収まり、鬼の体はモザイクへととけ、夜の闇に紛れて消えていった。


 散々に荒れた公園を癒し、再びケルベロス達の持ち寄った光源に明かりを灯せば程なくして、宴の席が再開される。
「さて、飲みなおしだ」
「まだ酒はあるんだろ?」
「少し買いすぎたみたいなんだよねぇ」
 モカにいなせ、久繁と次々に口が回り、手も回る。すぐにケルベロス達の前には酒か、あるいはジュースが手元に渡る。
「愉快に飲むだけで終われればよかったんだがな」
 呟きと共に千梨は鬼の消えたその場所に酒を撒き、敗者への手向けも程ほどに、仲間達の輪へと戻る。
「それでは勝利を祝し、この美酒を改めていただきましょう――乾杯」
 歌彼方の音頭と共に、打ち鳴らされるグラスが澄んだ音を立てる。
 残った料理と酒、それに飲み物を手に、彼らはまだ花をつけない桜を見上げ、枝に咲く星の花にもう間もなく花開くであろうそれらに期待を馳せる。
 憂いなく見上げる綺麗な夜桜はきっと何よりも美しいことだろう。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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