弩級兵装回収作戦~ウィング防衛、飛行少女

作者:林雪

●グリムドヴァルキリーズ
 石川県、小松空港。目下、ダモクレスに制圧された空港内ではあるものの発掘作業が行われている。無残に掘り返された滑走路、戦力増強を目指し急ピッチで発掘され修復作業が進められているのは『弩級高機動飛行ウィング』である。
 見るからに陰鬱な空気を漂わせる施設周辺の空が、更に暗く覆われる。戦闘機を思わせる翼を広げた飛行タイプダモクレス『グリムドヴァルキリーズ』が5体ほどでひと塊になって飛び、周辺の警戒に当たっているのである。
『ウフフ、フフフ……』
 ロケットエンジンの低い響きに混じって響く、くすくす笑い声。黒いボディスーツ、顔には赤いゴーグルという皆同じ姿。量産型の少女ダモクレスたちは一斉に笑い出すが、声に抑揚はない。
 ふと、一体が地上の一点を見据えて、視線を固定した。すると。
『敵、発見!』
『敵、敵』
『敵、入れない!』
 無機質な抑揚のない、だが音としては少女の声である。重なり合い、不気味に調和するその声に、爆音が重なった。施設内に紛れ込んでいた野良犬は、哀れにもグリムドヴァルキリーズたちの集中砲火を浴びて消し炭と化したのだった。
 遠距離からの一斉射撃を終えた少女たちは、再びくすくす笑いを立てながら飛び去っていった……。

●ウィング防衛
「指揮官型ダモクレス達の新たな作戦が判明したよ。敵の狙いは戦力増強、地球に封印されていた超強力ダモクレス『弩級兵装』の発掘だ」
 ヘリオライダー、安齋・光弦の言葉には明らかな緊張感があった。モニターには、『弩級高機動飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』という4つの兵装が示された。
「弩級兵装っていうのは、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装。現存してるのはこの4つらしいってところまで確認してる……そしてこの4つ全てが完全な力を発揮したとき、ダモクレス地球侵攻軍の戦力は現在の数倍から……最悪数十倍まで引き上げられるっていう予測もね。指を咥えて見てる手はない」
 事態は逼迫しているのだと、光弦の表情が語っていた。
「奴らにとっても、今後の進退を決めかねない重要作戦だろうからね。失敗は出来ないと、手厚く警戒してるはずだ。発掘作業を行っている施設の周囲は勿論、量産型ダモクレスが防御を固めてる。君たちケルベロスは皆で連携して多方向から攻撃・誘引し施設に潜入、弩級兵装の破壊を試みる……とは言え、相手の懐に飛び込む危険な任務になる。心して挑んで欲しい」
 集まったケルベロスたちの目を見て、光弦が改めて作戦内容を説明し始める。
「君たちは、量産型の担当だ。まずは『弩級高機動飛行ウィング』破壊担当チームが施設に潜入する隙を作るために、警護の量産型ダモクレスを引きつけて欲しい。潜入と同時に戦闘を開始、なるべく戦い続けてそいつらが施設内に増援として行けないようにするのが君たちの仕事だ」
 しかし、何と言っても戦場は敵の拠点。量産型はいくらでも湧いてくる。
「いつかは必ず撤退しなくてはならないタイミングがくる。それを見誤れば君たちは勿論、潜入チームにまで危険が及ぶだろう。いかに戦いを長引かせてから撤退するか、これが鍵になるよ」
 敵となる量産型は、少女型ダモクレスである。
「『グリムドヴァルキリーズ』、感情はないがその分任務を忠実にこなす殺戮マシーンだ。翼で空を飛び、遠距離から侵入者を狙い撃ちしてくる。最初にこいつらを10体以上、引きつけることが出来れば隙が出来て、潜入のチャンスが生まれる」
 最低10体、この空飛ぶ殺戮マシーンたちと戦わなくてはならないハードな任務。加えて。
「その後君たちが戦闘を開始すると、3分ごとに同じグリムドヴァルキリーズが君たちの元へ増援に来る。その数は、仮に君たちが最初に12体を引き付ければその半分、つまり6体増えて18体と戦わなくてはならない。次の3分でまた6体……最初に引きつけた数が多いほど、増援も多く来るということだ」
 引き付けの数が少なかった場合、潜入チームの潜入は難しくなってしまう。だが、だからと言って多く引きつけ過ぎれば、戦っていられる時間はごく短くなってしまう。
「バランスが難しいだろうから、どちらを優先するかを考えて作戦を立てるべきだね。ここがキモになる」
 知らず表情を固くしていた光弦がふうと息を吐き、だが緊張を解かないまま付け足した。
「量産型の全滅はまず狙えない。今の君たちの力を十分見極めて、その上で作戦を決めて戦って欲しい。決して無茶はしないで」


参加者
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
奏真・一十(あくがれ百景・e03433)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
日帝・泰山(白鴉・e15428)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)

■リプレイ

●大群
「いざ目にすると数の暴力を感じるなあ……」
 スコープを覗きながらそう呟く奏真・一十(あくがれ百景・e03433)の口調は、普段と変わりないようでいて、それなりに緊張しているようだった。無理もない。ここは敵の本拠地、そして上空を旋回し周囲の警戒にあたる、グリムドヴァルキリーズの群れ。奴らをおびき寄せ、潜入班の潜入実行のための隙を作る。作戦成功のためにはできるだけ長く耐え続ける、つまり戦い続けること。
「……大丈夫、みんながいるから、必ず成功させてみせるんだよ」
 スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)も遠くの空を見据えて、己に言い聞かせる。気を抜けば数で圧し潰される危険な任務だが、絶対に誰も死なせない。その決意とともに。
 手分けして索敵し、10体で行動しているグループに当たりをつける。この一塊を誘き寄せれば丁度良さげだと全員同意し、遠距離からの狙撃にかかる。高い位置で構える一十、スノーエルに合わせてフォートレスキャノンを構えるのはソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)、バスターライフルでロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)も援護する。
「慣れぬ武器だが……さて、当たるかな?」
 一十のバスターライフルからレーザーが放たれ、先頭を飛んでいた1体の肩に命中した。
「ヒット。お見事、僕」
「自分で言っちゃうんだね」
 くすりとスノーエルが笑う。ソロとロージーが続けて撃ち込むと、敵は空を泳ぐ魚の群れの如く吸い寄せられてくる。同時、敵を待ち構えて身を潜めていた仲間たちも前に出た。
「自分の役目は皆の盾となる事……!この日帝、与えられた役目は必ず果たすであります!」
 日帝・泰山(白鴉・e15428)が力強くそう告げるのとは対照的に、淡々とした声を出すのはミカ・ミソギ(未祓・e24420)。
「油断せず行こう」
 緊張していない者など、誰もいなかった。それだけ皆この任務の責任を重く受け止めているし、必ず成功させるという高い士気の元に動いていた。
「限界まで……頑張りましょうねっ!」
 固まりかける空気をかき混ぜるべく、ロージーが明るく言った。
「……さて、潜入する方々の為にもちょっと頑張りましょうか。いちにい……」
 敵の数を確認し、大粟・還(クッキーの人・e02487)が手元のタイマーをセットする。戦場を長く保たねばならないが、仲間の体力にも気を配る必要がある。数多くの戦いを通じて還が強く意識するようになったのは、回復役としての矜持だ。出来ることなら、誰一人倒れさせたくない。
 引きつけた敵の数は、ちょうど10体。
「いいだろう、相手してやるぜ!」
 スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)がペイルウイングを開き、高速移動して敵に対峙する。
 黒い翼に覆われた空が崩れる。不気味な圧迫感の隙間から、少女達の笑う声が漏れ聞こえてきた。
 少女型ダモクレス。その姿にソロの心は一瞬だけ波打つ。思うのはかつての己、そして今もなおどこかで戦う妹の姿。だがその幻影を振り切って、ソロが敵を強く見据えた。
「心を持たない人形。お前達では蝶の羽ばたきを止めることはできない。私の翅とお前等の翼、どちらが上か勝負!」

●激戦
「全員、距離を取ってくる、か……」
 ミカが戦場に視線を走らせる。
 ケルベロスたちは互いに背を預けあい、左右に警戒の布陣を広げた。対してグリムドヴァルキリーズは、ほぼ横並びで宙を舞い、遠距離から仕掛ける隙を伺っている様子だった。切込み部隊や盾役などもいない。
「薄気味悪いが、それならこちらから飛び込むまでだ」
「賛成だ、行くぞ!」
 高度を比較的下げていた1体に、まず一十の拳とソロの蹴りがほぼ同時に襲いかかった。確実に、1体ずつ攻撃を集めて落としていく作戦である。着実だが、一手の失敗が後々に響いてくる状況には違いなかった。
『キャァッ』
 機械音と人間の少女の声を混ぜ合わせたような不快な悲鳴。
「燃やしちゃうんだよっ!」
 スノーエルがその声に惑わされることなく竜の幻影を放ったところへ、スミコが電光石火の突きを繰り出した。バチバチと火花を放ち、撃破寸前のグリムドヴァルキリーズにミカが駆け寄るも、近づいてきた別の1体へと標的を移した。
「そっちは任せた」
「はいっ!」
 ミカの意を汲んだロージーがとどめを引き受け、まずは1体を撃破。その間にミカは別の1体に叩き落とすような激しい蹴りを見舞った。だが安心する暇はない。残る9体が一斉に関節部分を露出させ、射撃の体勢に入る!
「来るぞ!」
「ソロ殿、ミカ殿は攻撃に集中を!」
 言うや泰山が前に出る。両手を広げ、体を大きく使って仲間の盾になろうとする。それぞれの役割を心得、全力でその務めを果たそうとするケルベロスたちに、容赦なく弾丸の雨が降り注ぐ!
『敵、敵、ここよ!』
 キャハハ、と 4体のグリムドヴァルキリーズが左右にユラユラ揺れて飛び、肘から露出させた銃口から放たれた弾丸が空を覆う。周辺で次々起こる爆音の凄まじさに、思わず息を飲みつつケルベロスたちは耐える。
「くぅっ……!」
 泰山とロージーが身を盾にすべく奮戦し、ボクスドラゴンのマシュも必死に翼を広げる。しかし残る5体が更なる火力で、広範囲に畳み掛けてきた。
「くっそ、こいつら!」
「……! 絶対、負けないよっ!」
 スミコが両腕で身を庇う。2発の特殊弾を身に受けてしまったスノーエルだが気持ちで負けていない。すかさず還がスマホを叩き、なんやかんやでスノーエルを癒す。還のウイングキャット、るーさんも戦場狭しと飛び回り、皆の傷を癒して回る。
「元同胞と言えども容赦はしないであります」
 多数の被弾を引き受けた泰山だが、意気盛んにナイフで斬りかかり、敵の力を削いでいく。狙撃は正確を極め、どうやら被弾は避けられない。それならば敵の頭数を確実に減らし、回復しつつ戦うしかない。
「サキミ、スノーエルくんのところへ」
 ツンとそっぽを向くだけの愛想なしのボクスドラゴンは、それでも真直ぐに傷ついた仲間の元へ向かう。一十のレーザーが2体目を撃破し、スミコはよし、と不敵に魔槍デモニックグレイブを構えた。先端から放たれたグラビティは中空で球形に留まり、そして今度は逆に、グリムドヴァルキリーズたちにエネルギーの矢が降り注ぐ。
「こういう戦い方もあるんだぜ」
 ふぁ? と何が起きたのか戸惑う敵群にミカの光粒子を纏った大鎌が斬り込む。グリムドヴァルキリーズが任務に忠実な機械人形であることはわかった。恐らく命令を遂行する、という意味では感情のある生身の者よりも上だろう。
「だが、目的の達成ならば……俺達の方がずっと上だ」
 ミカが低く呟いたその言葉に、スノーエルも改めて己に問う。今すべきことは何か、自分が果たさなくてはいけないことは何か。白き翼の書を繙き、自らを活性化して叫ぶ。
「……まだまだ、ここからなんだよっ!」
「第二波、きますっ。今度こそさせません!」
 ロージーの声に覆いかぶさるように、敵の空襲が始まった。スミコの撒いたエネルギーの矢がその射線を遮り、いくつかの弾丸を逸らしたものの、敵の数がとにかく多い。
 還は状況を見極め、オウガ粒子を撒いていく。何としても、誰も倒れさせたくない。その心意気に感じ入った様子の泰山も、ヒールドローンを飛ばして援護する。
 回復手が皆を支えれば、攻撃手がそれに答える。
「そのやすっちい装甲、剥いでくれるぞ」
 一十が近距離に詰めて拳を叩きこむタイミングに合わせ、ソロも反対側から装甲の隙間を狙う。衝撃に踊る敵のボディを、巨大なドラゴンが食いちぎっていく。
「みんなで成功させて、みんなで帰るんだよ……!」
 4体目のグリムドヴァルキリーズを破壊し、スノーエルが肩で息をする。
 次ぐ砲撃。敵は完全に狙いを散らしてきており、いかに泰山とロージーが奮闘しても、全弾を受け止めるというわけにはいかない。サーヴァントも含め、ほぼ全員が被弾していた。
 泰山がもう1体を倒し撃破数計5となったところで、還の手元でスマホが3分の経過を知らせる。5体の無傷のグリムドヴァルキリーズが、増援として飛来した。ち、とスミコが舌打ちをする。
「倒した分だけ、増援が来る……っていう感じですね」
 終わりの見えない戦い。自分自身との戦いでもある、と一度表情を緊張させたロージーだったが、すぐにぱっと明るい笑顔になって見せた。
「ですが皆さんっ! 私が守りますから、ギリギリまで頑張りましょー!」
 さすがの舞台度胸と言うべきか、戦場においてもロージーはアイドルであり続ける。その明るさは仲間たちを励ました。
「ま、数的不利は今に始まったことじゃない」
 スミコが口角をつり上げてそう言えば、一十もバスターライフルを構え直してしらりと応じる。
「なに、増援が来る分だけ倒していけばいい」
「前向きですねえ」
 還が警戒を崩さないまま、笑った。油断はしない、でも信頼出来る仲間のいる戦場はどこか心地が良かった。
 ギリギリのバランスで、攻撃と回復を繰り返す。数を減らした隙に全体の回復を、傷の深い者にはサキミとマシュが補佐に当たる。攻撃手たちは極力敵からダメージ分を吸い上げ回復を同時に行った。圧倒的多数による猛攻を受けながらも戦線が崩れないのは、それぞれの準備が的確であり、その上で高いモチベーションを保った故だろう。
「根比べだ、やれるだけやってやろう」
 ソロの背に蒼白い光が集約し、やがて蝶の翅が広げられた。
「code-F……解放!」
 そのまま彼女は超高速で敵群の只中へと突っ込んでいく。ソロを始め、切り札を出し惜しむ者は誰ひとりいなかった。

●最後の最後まで
 敵は動きそのものこそ読みにくいが、攻撃の波は単調と言ってよかった。弾丸のばら撒きと、特殊弾による集中砲火。
(「攻撃が、集まってきたか……」)
 スミコが攻撃を受けながら、冷静に戦況を、そして己の状態を分析した。
 6分、9分。経過する毎にケルベロスたちの身体には疲労と、回復しきれないダメージが溜まっていく。この頃にはマシュの姿は戦場からかき消えていた。
 次ぐ援軍が5体飛来し、戦場には11体のグリムドヴァルキリーズが飛び回る。
「まだまだ、落とす!」
 ミカはその強力な攻撃をまたしても新たな1体へと加える。スミコ、ロージーらがダメージの蓄積した個体を片付けていく。
 全員が、疲労していた。対して、敵は疲れを知らない機械人形。何度目とも知れぬ火薬弾の連続攻撃が止んだとき。
「……っ、……」
「日帝さん!」
 硝煙の晴れたそこには、意識を失って倒れた泰山の身体があった。ロージーが素早く駆け寄り、泰山を敵の射程外へと連れ出した。戦い始めて10分、ついにケルベロスに戦闘不能者が出てしまった。盾役として積極的に的になった結果である。
「私、……すみません! 絶対誰も……倒れさせないつもりだったのに……!」
 還の声が悔しさに歪む。だがそうしてもいられない。すぐに顔を上げ、必死に回復に務める還、だが、その次の砲火が狙ったのは、他ならぬ還だった。
「ああっ……!」
 スノーエルが悲痛な声を上げる。仲間の倒れていく姿は、何度見ても辛い。
 回復手を失い一気に崩壊するかと思った戦線だったが、辛うじて繋がれたのは攻撃手たちが自ら回復の手立てを持っていたことと、泰山と還の残したドローンや防御のおかげでもあった。
「……還さん、後は任せてくれていいぞ」
 その無念を引き取るように告げる一十の言葉は、呼吸こそ乱れているものの力を失ってはおらず、彼は果敢に敵の懐へ飛び込んでいく。が、先の砲撃でサキミも失い、るーさんの姿も見えなくなっていた。徐々に撤退も視野に入れ、あとは攻撃手たちの体の限界まで、数分を戦い抜く。
 スミコの体も疲労のピークを迎えている、だが彼女はそれでも黒い槍を力強く敵めがけて突き立て、それがちょうど20体目の獲物となった。
『ギャピ』
 機械音の悲鳴。痛みも何も伝えてはこないその音が、不吉にケルベロスたちの耳に響く。まるで底なし沼のように、グリムドヴァルキリーズの姿は絶えない。
 ミカの全身が、光粒子に包まれる。右に左にと風に舞い飛ぶようなグリムドヴァルキリーズ目がけて、爆発的なスピードで突撃するミカ。
「振り切る、光閃の先へ……!」
 その攻撃をサポートしながら、ロージーは歌う。次の敵砲撃に備え、ここまでの戦いで傷ついた体を奮い立たせる為に。
「ほら、僕らの生きる世界はこんなにも輝いている!」
 だが敵の砲火はスミコを飲み込み、戦場に残るケルベロスは5人となった。意識のない還に代わり、スマホのアラームが13分の経過を知らせた。
 回復に手を割いた分、戦場には敵の頭数が増えていた。遠くの空からまた5体、この援軍を加えれば12体のグリムドヴァルキリーズと対峙することになる。
 こうなれば、頭数を削ることよりも時間を稼ぐこと、つまり敵の砲火にギリギリまで耐えることである。1分、2分……3分が経過する直前、敵の攻撃がスノーエルを襲った。
「ごめん……なんだよ……あと1分、粘れたら、もう5体……こっちに……」
 そこまで言って、スノーエルががくりと膝を折る。その体を受け止めて、ミカが呟いた。
「これは命がけの任務だけど、命を捨てる任務じゃないよ」
 その言葉が合図であったかのように、倒れた仲間の体を支えてケルベロスたちは撤退準備に入る。
「30体まで引きつけました。あとは、潜入チームの皆さんの無事を祈りましょう」
 ロージーがスミコを運びながらそう言い、ソロが泰山を抱えて遠くの空を見た。
「急ごう。これ以上戦場にいればもう5体来てしまうだろう」
 還を抱き上げていた一十も頷き、まだ戦場に残っているグリムドヴァルキリーズをちらと見た。
「よし、これ以上奴らの集中砲火を浴びるのも癪だ。退散する」
 最後まで飄々とした様子を崩さなかった一十だが、己の変わり果てた姿を晒すことなく任務をやり遂げられたことに、心から安堵していた。
 心残りと言えば、『弩級高機動飛行ウィング』の破壊を見届けられないこと。だが、それは別班の仲間たちが必ず果たしてくれる。そう信じてケルベロスたちは硝煙の影に姿を消していく。15分の激戦を戦い抜き、積上げられた少女型ダモクレスの残骸は23体。大戦果と言えよう。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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