●ハイブリッド・アーミー「防盾X1980」
三重県四日市市――コンビナートと呼ばれるその工業地区は、ダモクレス『ハイブリット・アーミー』に襲撃され、4つもの区画が制圧された。
ズシィィィン――。
人型ながら、2mを越える威容だった。漆黒の全身甲冑にフルフェイスの兜。各部位に機構が覗くのは、ダモクレスならではだろう。巨大な剣と盾を具えるその巨漢は「防盾X1980」と呼称されている。
担当は『第三区画』だが、第一区画に坐す『ハイブリッド・アーミー』首領「鉄聖母メサイアン」に召喚されたのだ。
「……」
エレベーターホールで同胞と顔を合わせた。防盾とは対照的な白銀の全身甲冑。やはり対照的に女性的なフォルムだ。名称は「銀麗X552」と記憶している。
伝達事項など無かった為、無言のまま、エレベーターに乗り合わせる。暫時の浮遊感の後、エレベーターのドアが開いた瞬間。
「遅い。弩級兵装の発掘は地球侵略軍の最重要作戦だ。コマンダー・レジーナに出し抜かれてはジュモー・エレクトリシアン軍団の威信に関わるのだぞ。警備の首尾は。発掘はどの程度進んでいる」
居丈高に叱責を浴びせられた。悠然と振り返る鉄聖母の前で、苛立ちも露なダモクレスは「調整体X1」。『ハイブリッド・アーミー』試製第一号であり、鉄聖母の右腕と公言して憚らない――防盾にとっては瑣末事だ。
「……警備に関しては問題ない。発掘施設周辺は常に量産型ダモクレス、タイタンキャノン及びアパタイトソルジャーが哨戒している」
「ただ、発掘には細心の注意が必要だわ。それに、高度な技術も要求される仕事よ。焦って爆発してしまえば、喩え発掘できても完全な状態ではないのは明らかだし……」
淡々とした報告に、打てば響くような女性的な声音が続く。
「もう少し工数を頂きたいわ」
「問題ないようですね。引き続き作業に尽力してください。発掘したあとに弩級外燃機関エンジンを転送する準備はいかがですか?」
意に介さぬ素振りが不満だったか、半歩身を乗り出した調整体が口を開く前に、鉄聖母は首を巡らせ笑みを浮かべる。
「万端整いました。いつでも転送可能です」
一転、姿勢を正して自らの手腕を喧伝する調整体。鉄聖母は、慈愛溢れる冷えた笑顔で3体を見回す。
「それでは、皆さん。万一の場合は不完全でも転送させる事になりますが、それは最後の手段です……素早く、完璧に弩級兵装を発掘する為に、全力を尽くしましょう」
「ハッ!」
現状は問題なし――鉄聖母は満足したように金色の瞳を細めた。
――現状においてやるべきは、1つ。己が呼称に違わず、我が機身を盾と為し、発掘中の弩級兵装を護り抜く事。
心無き巨漢に、格下と侮られる屈辱もなければ、的確なるサポートに謝意以上もない。
唯、指令の遂行に、専念するのみ。
●弩級兵装回収作戦
「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう……地球侵攻を企ててきた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦に着手したようです」
眉間に皺を寄せ、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)はケルベロス達を見回した。
「地球に封印された強力なダモクレス、『弩級兵装』の発掘を行おうとしています」
弩級兵装は、その名の通り、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装。『弩級高機動飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つの兵装が現存しているという。
「全ての弩級兵装が完全な力を発揮すれば……ダモクレスの地球侵攻軍の戦力は、現状の数倍から数十倍までの増強が予測されています。到底、見過ごせません」
今回の作戦は――まず弩級兵装の発掘施設を警護する量産型ダモクレスに、別働チームが攻撃。その隙に、複数のチームが施設に潜入する。連携の上、弩級兵装の破壊を試みるのだ。
「皆さんに対応して頂く弩級兵装は『弩級外燃機関エンジン』です。この弩級兵装の発掘は、鉄聖母メサイアン率いる『ハイブリッド・アーミー』が担当しています」
恐らく、厳しい戦いとなるだろう。だが、完全な弩級兵装をダモクレスが入手する事態は、何としても阻止しなければならない。
引き続き、創は作戦の詳細を説明していく。
「『弩級外燃機関エンジン』の発掘場所は、三重県四日市市のコンビナート。隣接する4区画が、ハイブリッド・アーミーに制圧されています」
占拠区画はダモクレスによって改造され、『弩級外燃機関エンジン』の発掘と修復作業が急ピッチで進んでいる。
「4つの区画はそれぞれ100mくらい離れており、1チームずつ同時に制圧する事になるでしょう」
『弩級外燃機関エンジン』は非常に危険な弩級兵装だ。誤った方法で破壊してしまうと、爆発の余波で市街地を含む四日市コンビナート周辺を焦土と化してしまう。一般人の避難はコンビナート周辺は完了しているものの、市街地の方はまだなのだ。
「ちなみに……破壊による爆発はグラビティの攻撃ではありません。ですから、ケルベロスの皆さんにダメージはありません」
だが、大爆発が起きた場合、市民に被害が出る危険があるだろう。
「各区画を護るハイブリッド・アーミーを撃破すれば、弩級兵装への攻撃が可能になります」
そして、修復中の『弩級外燃機関エンジン』は、第一区画から第四区画まで、順番に破壊する事で、完全破壊に至るという。
「正しい順番で破壊した場合、『弩級外燃機関エンジン』の色が変化します。変化した回数を数えて、正しい順番で破壊して下さい。『弩級外燃機関エンジン』の各区画の破壊には、ケルベロス8名の全力攻撃を最大2回行う必要があります」
尚、第一区画の鉄聖母メサイアンを撃破後7分が経過すると、『弩級外燃機関エンジン』は転送されてしまう。完全破壊を目指すのならば、周到な準備と作戦が必要だろう。
「皆さんには、第三区画に向かって頂きます。対するハイブリッド・アーミーは『防盾X1980』。巨大な剣と盾を具えた全身甲冑の巨漢です」
その見た目に違わず、相当に頑丈だろうし、豪腕が繰り出す武威は強大だ。
「剛剣を振るって敵の生命力を奪い、巨盾の一撃は敵の体勢を崩します。又、その威圧感は文字通り、皆さんにとって重いプレッシャーとなるでしょう」
更に、施設周辺の警備に対応するチームが撤退すると、その量産型ダモクレスが増援となってしまう。時間を掛け過ぎると作戦失敗となる為、限られた時間を如何に有効利用するかが重要となる。
「弩級兵装の完全破壊がベストですが……少なくとも弩級兵装に損害を与え、その能力が十全に発揮出来ないようにしなければなりません。適時適切な対応をお願いします」
弩級兵装、それも4種……この地球に、途轍もないモノが眠っていたとは。
「大いなる脅威を除く為にも、皆さんの健闘をお祈り致します」
参加者 | |
---|---|
ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213) |
麻生・剣太郎(全鉄一致・e02365) |
鮫洲・蓮華(じゃすと・e09420) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
小鞠・景(冱てる霄・e15332) |
ゼルダ・ローゼマイン(陽凰・e23526) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083) |
●弩級兵装破壊作戦
四日市コンビナート第三区画――禍々しい機械群が稼動する光景を遠目に、ケルベロス達は時を待つ。
「ふははは、残念じゃったな、ハイブリッド・アーミーよ! そなたらの邪悪な企てなど、この愛と正義の告死天使がお見通しよ!」
仁王立ちで居丈高に言い放つアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)。
確かに、弩級兵装を破壊すれば、ダモクレスの作戦も遅らせられる筈。
「絶対成功して、皆で帰ろうね!」
ウイングキャットのぽかちゃん先生を抱く鮫洲・蓮華(じゃすと・e09420)の言葉に、否やは無い。
だが、四日市コンビナートに眠る弩級外燃機関エンジンは、対応を間違えれば大惨事を引き起こす。
(「……責任重大ですね」)
緊張仕切りの輝島・華(夢見花・e11960)。その細い肩を小鞠・景(冱てる霄・e15332)が叩く。
「景姉様……そうですね。いつも通り、私に出来る事を精一杯頑張りますの」
尊敬する彼女に優しく頷かれ、華は表情を和らげる。
「ありがとう。お婿さんが一緒だから、どこだって怖くないし、やるべき事をやるだけよ」
ゼルダ・ローゼマイン(陽凰・e23526)も、テレビウムのあるふれっどの応援動画に思わず笑顔。他のメンバーより実戦経験が少ない事は自覚しながら、改めて尽力を決意する。
「しっかし、連携が必要だっつーのに、連絡が取れねぇとは……」
一方で、唇を尖らせるミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213)。
デウスエクスの拠点に乗り込む作戦では、あらゆる通信機器が使えない。不便に思うのも仕方ないか。
(「符術でなんとかならねーかなぁ」)
埒も無い事を考えながら、巫女服の上にロングコートを羽織る。せめて、ウェアライダーが保有する動物の因子が嗅覚や聴覚を鋭敏にするなら、斥候にも活かせるだろうが……生憎と五感は人間と変わらぬのが残念だ。
果たして――哨戒していた量産型ダモクレスが慌しく動き出して、程なく。
ライドキャリバーの鉄騎を伴い、斥候に出た麻生・剣太郎(全鉄一致・e02365)はすぐ戻ってきた。
「近辺の量産型は、全て対策班が引きつけたようです」
「タイタンキャノンとアパタイトソルジャーだっけか? 量産型チームのお陰で、上手く潜れそうだな」
炎ちらつく左目は閉じたまま、不敵に唇を歪めるローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)。今なら、誘導の隙を突き発掘施設に侵入出来よう。
「……始まりましたね。急ぎましょう」
景の言う通り。いよいよ量産型ダモクレスとの戦闘が始まれば、ここからは時間との勝負。潜入の間も、時間は容赦なく過ぎていく。一路、エレベーターホールを目指した。
案の定、ホールにダモクレスの姿は無い。或いは鉢合わせすれば、量産型と即戦闘開始となっただろうが、幸い、籠型のリフトも空っぽだった。
急ぎ乗り込めば、中枢施設まで一直線。下降するエレベーターに緊張が充ちる。
ガシュン――。
エレベーターの扉が開いた瞬間。鉄騎と飛び出した剣太郎は、思わず目を見開く。
(「あれが……!」)
低い駆動音響く巨大な青い機械。その前に立ち尽くす偉容も又、優に2mを越えるだろう。
徐に、振り返る。
漆黒の全身甲冑に、フルフェイスの兜――防盾X1980は無言のまま、重厚に違わぬ巨大な剣と盾を構えた。
●防盾X1980
――――!!
空気の色が変わった。ダモクレスが更に大きくなったような、威圧感。
「っ!」
標的は後衛の3人+1体。威力の減衰を避けたのだろう。確かに、前衛4人+2体へのぽかちゃん先生の清浄の翼の加護は、不発に終っている。
スナイパーは敵を切崩す起点。後衛が圧されるのは拙い。早速、黄金の果実を掲げるゼルダ。剣太郎も後衛へオウガ粒子を放出する。同時に炎纏う鉄騎諸共突っ込む。
「ほらほら、わたしの目を見て♪ これでもう釘づけ♪」
蓮華はポーズを決めて、コスチュームチェンジ。可憐なる少女の妖艶なる魔眼が、敵の動きを鈍らせんと。
一方、華のスターゲイザーとローデッドのレゾナンスグリードは相次いでかわされた。あるふれっどの凶器攻撃も、大盾に阻まれる。敵は重厚だが鈍重に非ず。効率的な体捌きは、ダモクレスならではか。
だが、クラッシャーとて敵の動きが鈍るまで待つ気は無い。
(「あれが弩級兵装……こりゃまたやべぇモンが転がってたもんだ」)
弩級と呼ぶに相応しい威容を見やり、剣呑に金瞳を眇めるミツキ。
「キッチリ破壊しておかねぇとな!」
フルスイングにドラゴニック・パワーを上乗せした一撃が奔る。
「Slan」
景の業の名は、極点の皚――最果ての凍土を思わせる一面の霜柱は、敵意ある者に鋭利へと変貌する。
「ふははは、大人しくこの地を去るがよい! 大盾のダモクレスよ! 抗うならばこの大鎌で汝の罪ごと邪悪な企みを切り裂いてくれようぞ!」
哄笑するアデレードより雷撃が奔れば、その戒めも物ともせず、防盾は大盾を翳す。
「ぐっ!」
避ける暇も無かった。真正面からの衝撃に、ローデッドの息が詰まる。体勢を崩しながら応酬の獣撃拳を放つも、浅い。
「面白ぇじゃねぇか」
すぐさま、アデレードのエレキブーストに、ゼルダの祝福の矢が男に癒やしと力を齎す。
「その盾ごとへし折ってやるよ!」
強気を言い放つローデッド。だが、クラッシャー3名という前のめりの編成に在って、防盾の感触は『硬い』。
「ディフェンダー、だな」
溜息を吐くミツキ。敵は文字通り、己が身を盾として、弩級兵装の転送まで時間を稼ごうとしている。一刻も早く、厚き装甲を穿たねば!
「皆、援護するよ! 確実に当てていくから!」
「私も敵の力を削ぎます!」
蓮華のスターゲイザーが鋼の足を刈り、華のバリケードクラッシュが漆黒の甲冑を抉る。あるふれっどのテレビフラッシュは、流石に防盾の気を引くに至らなかったが、ゼルダと並んでまだまだやる気一杯だ。
「……」
爆破スイッチを押す剣太郎の表情は、別の理由で険しい。
そんな友人を気にしながら、ミツキの脳裏に浮かぶのは、やはり全身甲冑のレプリカント。
(「こいつ、どこか親友に似ているんだよな。元は人間だったんだろうか……?」)
淡々と突き立てんとする景の冷えた刃を真っ向から弾き、防盾が動く。
「景姉様!!」
生半可を許さぬ剛剣が唸りを上げる。後退して避けようとした景を圧し、袈裟懸けに閃いた。
「!!」
あれは、危険だ。生命力を奪う剣技は知らぬとも、あの『剣筋』を、剣太郎は知っている。
(「漸く会えましたね……」)
防盾は最初から声を発していない。その威容は人間離れして、素顔は全く見えぬ。それでも、剣太郎は確信する。
ただ、話が出来ぬ状況が、酷く残念だった。
大盾と剣の攻撃は、専らローデッドと景に浴びせられた。時に剣太郎達が庇い、アデレードとゼルダが全力で癒し続ける。
対するケルベロスの優位は圧倒的な手数の多さ。スナイパーたる蓮華が足止めの業を重ねれば、華の齎す厄が加速して敵の力を削ぐ。命中に専心したクラッシャー達のグラビティも、早々に一斉攻撃に至る布石となった。
それでも、圧倒的な硬さで、防盾は立ち続ける。
「殴り甲斐があって何より、って言いたいとこだが、急いでるとこにゃ迷惑極まりねェな」
両眼でしっかと睨み据えるローデッドは、弛まず打撃を畳み掛ける。
(「他の場所で戦っている方の為にも、失敗は出来ません」)
幾度その身に剣撃を受けようと、景の戦意は挫けない。その背中を守る事が、華は誇らしい。
剣戟の火花が散り、打撃に打撃が重ねられる――その時。大盾を掲げんとした防盾が刹那、その動きを止めた。
●鋼盾、潰える
――――!!
言葉にならぬ轟き。ミツキには何故か慟哭に聞こえた。
(「だからといって、手が緩む訳はねーんだが」)
容赦なくスクラップにせんと、防盾へ飛び掛る。
「ニャァ」
蓮華を庇ったぽかちゃん先生にアデレードがエレキブーストを施す間に、剣太郎より拡散するオウガ粒子。更にゼルダも黄金の果実を掲げる。
即座に威圧感を退け、ケルベロス達は次々とダモクレスを穿つ。
「……」
尚も猛攻を凌げば、今度は防盾の大剣が黙祷を捧げるように掲げられる。
「何を……?」
だが、その行動の意味を量る前に、流れるような重斬が景に叩き付けられた。
すかさずメディックがヒールを編む。ドレイン分を消し飛ばす勢いで、果敢なるサーヴァントの三連撃。景の達人も斯くやの応酬が奔るや、ローデッドのブレイジングバーストが炸裂した。蓮華の戦術超鋼拳が、華のバリケードクラッシュが、甲冑を穿ち砕いていく。
「……」
露となった防盾の関節機構部に、バチリと電流が走る。構わず寡黙を貫き、代わりに大盾が唸りを上げる。
ガツゥッ!
(「聞きたい事は山程あります。何故そうなったのか、何故そこにいるのか……けど」)
その軌道を遮った。大盾をバスターライフルで押し返せば、ミシリと剣太郎の背骨が悲鳴を上げる。それでも。退かない――ケルベロスは、人類の敵を打ち倒すものだから。
――――!!
剣太郎のスターゲイザーと鉄騎のキャリバースピンが、同時に鋼の両脚を払った瞬間。
渾身の攻撃が巨躯へ殺到した。
「先生、いつもの!」
蓮華のフロストレーザーの射線を追う、ぽかちゃん先生の爪の一撃。
過たず、翔けて翔けゆく、またたきのとき――あるふれっどのテレビフラッシュを貫き、ゼルダの白銀の矢が銀嶺を描く。
「綺麗な花吹雪、楽しんで下さいませ! さあ、景姉様、今です!」
「任されました――行ってきます」
華が振り撒く魔法の花ごと凍らせん勢いで、景の厄術は槍の如き氷棘と化して巨躯を抉る。
「我は告死天使! これぞ悪に終焉を齎す正義の一撃ぞ」
声高らかに、アデレードのブレイズクラッシュが突き刺さる。
「……」
膝立ちの防盾のフルフェイスの奥で、駆動音が聞こえる。バチバチと甲冑に火花を爆ぜて尚、剣と盾を構えんとするダモクレスに、獰猛に笑むローデッド。
「さァ――あの世までの道案内だ」
浄土巡りがお望みなら、手向けよう片道切符。一蹴で砕かれる地面に、薄氷色が揺らめき奔る。
「――その命、貰った」
ロングコートが翻る。飛び掛ったミツキは大口を開け、朔牙を突き立てる。
バキィッ!
恐るべきは、金毛狐に違う顎の力。獅子の如く、正確に鋼の咽喉笛を噛み砕いた。
ズシィィンッ!
地響きを立て、巨漢が倒れる。その向こうで、弩級外燃機関エンジンが青から緑へ変わった。
「間に合いましたか」
思わず安堵する剣太郎だが、エンジンの破壊は色がもう1度変わってから。
祈るような思いで、エンジンの周りに集うケルベロス達。いつでもグラビティを放たんと身構える――背後の気配に、ハッと振り返るゼルダ。
「そんな!?」
エレベーターのワイヤーを伝い、次々と降りて来る機体は1体や2体ではない。
――――!
ダモクレスは次々と大砲を構え、ぶっ放す。
エンジンの色は――未だ緑のまま。
●3度は、成らず
「っ!」
エレベーターのみならず、奥のダクトからも雪崩れ込む量産型ダモクレス。巨大大砲を具えた重量級ロボット、タイタンキャノンだ。
咄嗟に眼前の敵へ破鎧衝を叩き付けるミツキ。細身に違う景の重拳は、華のエクスカリバールの軌道を正確になぞる。狙い過たず、ゼルダの時空凍結弾が爆ぜれば、あるふれっどのテレビフラッシュが、視界を白く染めた。
だが、圧倒的に手数が足りない。
「くっ! おのれ!」
量産型の増援急増の只中で、弩級外燃機関エンジンが緑から黄色へと変わる。思わず歯噛みするアデレード。2回目の変色と同時に、増援構わずブレイズクラッシュを叩き付けた。だが、破壊に至る道程の何と遠い事よ。
「……潮時、か」
同じくエンジンへ一撃叩き込んだローデッドの左目から、薄氷色の炎が棚引く。灰燼の如き気だるさの底に滾るのは、昏い復讐の熾火。いざとなれば無茶も躊躇わぬ向こう見ずが、戦況を見極めるとは。内心で苦笑を禁じ得ない。
(「燃えて、尽きて、未だ――」)
だが、踏み止まったとして、兵装は間もなく転送される。元より、弩級外燃機関エンジンは完全撃破まで時間が掛かる機構。或いは、量産型の増援がもう少し遅ければ……雪崩れ込むダモクレスを相手にしながら、兵装へ「全力攻撃」は不可能だ。
「ここまで来て、諦めるのは!」
「蓮華も! 皆の想い、無駄にしたくないんだよね」
剣太郎と蓮華の脳裏に過る『二文字』。だが、それは絶体絶命の事態に陥った時の最終手段。作戦に利するという理性的な理由では、無意識下の生存本能が箍を外す事を許さない。
「剣太郎、早く!」
「……くっ!」
ミツキの叫びに悔しげに唇を噛み、眼前へ一撃くれる剣太郎。憤懣やる方無しの蓮華もドラゴニックハンマーを叩き付ける。2人のサーヴァントも攻撃したが、勿論、弩級兵装は壊れない。
後ろ髪引かれる思いで、エレベーターリフトに乗り込むケルベロス達。ゼルダが上昇ボタンを押すが――独特の浮遊感も束の間、量産型ダモクレスの一斉攻撃に緊急停止する。
「急げ! あの梯子に飛び移るのじゃ!」
アデレードの指差す先に、非常用の梯子が細々と。次々と梯子に取り付けば、殿のテレビウムが飛び移った瞬間、籠型リフトは轟音立てて落下する。
ガガガガッ!
襲い来る量産型ダモクレスには、既にガトリングガン構える黄緑のロボット、アパタイトソルジャーも混じっている。
「景姉様!」
「もう少しです、頑張りましょう」
敵をサイコフォースで蹴散らす景。華もエレキブーストによる回復で、最後まで景を支え続けた。
追い縋る量産型ダモクレスを相手に、必死の撤退戦の末――先頭の剣太郎がエレベーターホールまで上り切った時。
ズズゥゥンッ!
縦穴の遥か下で、崩落音が轟く。弩級外燃機関エンジンが転送され、残った空洞が自重で潰れたのだろう。
「ああ、もう! すっごく悔しい!」
「でも、エンジンの色は2回変わったわ。無傷で敵に渡す事だけは防げたかしら」
ぽかちゃん先生をむぎゅうと抱き締め叫ぶ蓮華。ゼルダ自身も良い報告がしたかったが、尽力の末の結果ならば。
「弩級だか何だか知らねェが……ダモクレスの計画通りってのも業腹だぜ」
忌々しげながら、ローデッドもこれ以上の悪態は堪える。
「剣太郎、大丈夫か?」
「あ……ええ」
押し黙ったままの友人に、ミツキが心配そうに声を掛ける。小さく頭を振り、ライドキャリバーに跨る剣太郎。
「ここはまだ危ない。急ぎましょう」
最後に肩越しに一瞥し、エンジン音を轟かせた。
(「さようなら……盾太郎兄さん」)
――斯くて、ケルベロス達は、四日市コンビナートから撤退する。弩級外燃機関エンジンはダモクレスの手に渡ったが、周辺に被害及ばぬ選択は誇って良いだろう。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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