弩級兵装回収作戦～空を夢見て

■リプレイ

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「ありがとう、助かります」
「誘導は無事に成功……みたいだね。本当に有り難いよ」
　敵拠点北側から進入を試みようと画策していたケルベロス達であったが、その前には一つの障害……があるはずであった。だが、その障害である量産型ダモクレス達は、他チームの活躍によって別地点に誘導されている。まんまと策に嵌まった量産型の後ろ姿を見やりながら、小鳥遊・優雨（優しい雨・e01598）と葛城・唯奈（銃弾と共に舞う・e02093）が誘導班へと感謝を告げた。

「いつも以上に気を引き締めないといけないわね……」
　無事に北側から潜入後、植田・碧（血塗れの魔女狩り・e27093）が呟いた。視線を周囲に這わせると、施設内部は陰鬱で陰惨な空気に満ちている。
「お出ましみたいだね。名前を聞いて、なーんか気になる奴だと思ったら、やっぱりソッチ側か」
　施設内を数分程探索した頃、星野・光（放浪のガンスリンガー・e01805）の言葉に、ケルベロス達の視線が前方を向く。
「……敵、ケルベロスを発見致しました」
　現れたのは、白峰・ユリと名乗る少女。一見おかっぱ頭に真面目そうな顔つきの少女だが、その手にするライフルだけを見ても、当然見た目通りの少女ではない。
　最早お馴染みとなったエクスガンナーの生き残りを前に、光が「やれやれ」と肩を竦める。
「え……？」
　――と。
　唐突に、ユリの表情が強張った。それはまるで、何か良からぬ知らせを受けたかのようで……。
　そして、視線はこちらに向けたまま、ユリが徐々に後退していく。
「逃げますか？　ギア・マスターの許まで追い掛けますけど」
　ギア・マスターの所にも、他チームが現れた事をユリの反応から察したメルカダンテ・ステンテレッロ（茨の王・e02283）が、口元を掌で覆いながらクスリと優雅に笑い、挨拶代わりに時空凍結弾を放つ。
「どうぞご自由に」
　対するユリは、内心の動揺を抑えながら、牽制のため、前衛へ弾丸を無作為にばらまいた。トリオを組む他ダモクレスと合流さえできれば、状況などいくらでもひっくり返せると思っているのだろう。
「攻めは任せたわよ！」
「ええ！」
「おう、任せとけ！」
　庇いに入った羽丘・結衣菜（魔法少女広め隊・e04954）とジョージ・スティーヴンス（偽歓の杯・e01183）の背後から、碧と唯奈が飛び出すと、
「援護は任せてください！」
　施設内を低空で飛行しつつ戦況を眺める優雨が、その背をカラフルな爆発で後押しする。
「いつまでも調子に……！」
「今やらないで、いつ身体張るってことさね！　それにお高い特殊弾だ……こいつは効くよ！」
　さらに、ユリへと突っこむ二人のクラッシャーに向けられた銃口。その射線を少しでも狂わそうと、光の特殊な火薬が重点された特注弾丸……「爆烈弾」が、ユリに炸裂し炎を発した。それによりユリの精密射撃は、唯奈の頰を掠めるだけに止められる。
　止まらぬ勢いのままに、碧の稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブの突きと、唯奈の四方からの跳弾がユリを襲った。
　カンッ！
　その時、施設内に甲高い音が一つ鳴り、攻撃を受けながらも、射撃しつつ後退していたユリの脚が止まる。
「よほど銃撃に自信があるらしいな。素晴らしき馬鹿の一つ覚えというやつだ」
　ユリの憎悪混じりの視線が向いたのは、転がっていた鉄屑を無造作にライフルへと放って嘲笑を浮かべるジョージの元。
「よくも、私の相棒を！」
　グラビティならば、まだ許せた。だが、ジョージのそれは、ただの嫌がらせだ。ユリがワナワナと肩を震わせるのは、人間だった頃の名残か、はたまたインプットされた感情か。
「そのライフル……無骨過ぎない？　年季物を改良を重ね使い続ける……と言えば聞こえは良いけど、裏返せば新しい技術に目をくれないということ。それともつまらぬ執着でもしてるのかしら？」
「まったくだ。どんな精鋭機が待っているのかと思いきや……その粗末な銃1本でエクスガンナー指揮官機を２機も倒した私と戦おうなんてね……」
　だが、そこで挑発をやめる道理などない。
　結衣菜と四方・千里（妖刀憑きの少女・e11129）の辛辣な言葉が、ユリの相棒を穢していく。
「最新型のエクスガンナー機であるクリムの『サテライトカノン』でも倒れなかった私をその汚い銃で倒せると思う……？」
「……ッ！　私のライフルを他の不良品と比べるような発言は許容できません！」
　そして、千里の続く言葉が、ユリに怒りの限界を超えさせた。
　ジョージがドローンを展開し、結衣菜が足止めがついた何人かの前衛を守護星座で守護すると、ユリはすかさず十字架を握って祈りを捧げ、阻害を試みる。
　千里は空間諸共ユリを切り捨てようと、妖刀”千鬼”と日本刀+1を振るった。だが、同時に――。
「避けられるものなら、どうぞ避けてみてくださいまし」
　ユリによって構えられたライフルが、一切のブレなく千里を狙い澄ましていた。

●
「イチイ、通気口の破壊を頼みます！」
　優雨の指示を受け、イチイがブレスを吐いて通気口周辺を破壊する。
「そんな事をしても、何の意味もありませんよ？」
「そうですか？　私にはそうは思えませんね」
　表向き表情を変えないユリに対し、優雨が前衛に薬液の雨を降らせて癒やす。
「……神よ」
「お前さんにゃ十字架は不釣り合い……せいぜい合うのは地獄だな、俺と同じで」
　アンチヒールをメデックである優雨へと施すユリに、ジョージは自嘲するような笑みを浮かべながら、気力溜めで自身の回復に努めた。
「（これでちっとは楽になるかねぇ？）」
　ジョージがそう思うのも束の間、再び前衛に弾丸の雨が降り注ぐ。
「相手の攻撃も勢いがすごいわね。でも、弩級兵装が向こうの手に渡れば、こんなものじゃないんでしょうね」
　結衣菜も身を張りながら、「真に自由なる者のオーラ」で後衛をカバーする。やはり、メディックに対するアンチヒールは捨て置くことができない。
「ああ、そうだね。わざわざ発掘する程の代物……ってこたぁだからね！」
　言いながら、光が「行きな！」そう視線で唯奈に合図を送る。頷きを返した唯奈は、光がユリの周囲を突如爆破させ、周囲に土煙が上がっている内に、
「変幻自在の”魔法の弾丸”……避けるのはちーっと骨だぜ？」
　見えざる手が操る弾丸で、ユリを打ち抜いた。
「ぐっ！？」
　弾丸が貫通した肩を押さえ、ユリが呻く。
　そこへ、碧のオーラの弾丸が追撃する。
「こんな時に、ビルシャナ・ビショップに久遠Ｘ３７８がいてくだされば……！」
　本来は、3体での連携を得意としている彼女達だ。生まれは違うも、プロフェッショナルな意識で結ばれている面もあった。だからこそ、こうして逆に各個撃破のような形になれば、弱みが出そうにもなるが――。
「神に恥ずかしい姿は見せられません！」
　そんな弱気をユリはねじ伏せ、ライフルを構える。彼女の『神』とは、心酔するただ一人のエクスガンナー！
　照準に捉えられたイチイが、音なき精密射撃で消失する。
　優雨の表情が悔しさに歪むが、今は気を取られている暇はない。
「（氷2つに、足止めが1つ……。他の者が付与したものを含めれば、5つは越えているはずです）」
　氷に、優雨が施した数度の壊アップも含めれば、火力としては相当なものは見込めるであろう。
「短期決着のため、そろそろ戦い方を変えましょうか」
　強かな瞳の奥に確固たる敵意を込めて、メルカダンテの炎を纏った蹴りがユリの白い肌を焼いていく。
　次いで、千里のオーラの弾丸が炸裂した。

「狙いは外さないわ――！」
「……それはこちらの台詞です」
　戦闘は、佳境に突入していた。銃口を向け合う碧のハンドガンとユリのライフル。ほぼ同時に火を噴いたそれらは、互いの弱点に狙いをつけていたが！
「攻めは任せるって言ったでしょ！　だから、癒やしと守りは……ね？」
「羽丘さん！」
　碧に迫る弾丸を結衣菜が引き受け、碧のグラビティ弾だけが狙い通りに着弾する。ふらふらと頼りない足取りの結衣菜に、慌ててまんごうちゃんが必至に祈りを捧げた。
「……やれやれ、仕方ねぇな。こっちで攻撃は引き受ける」
「いつまで続きますか……見物ですねッ」
「錆び付いた妄想の神様に祈るお前よりは、少しはマシさ」
　ジョージも精密射撃に身を晒しながら、結衣菜に対し気力を溜めて援護に徹した。まるで、自分にはこういった役回りがお似合いだとでも言うように、その様は愚直だ。
「……一先ず窮地は脱したようですね」
　優雨が、穏やかな表情を取り戻した結衣菜を一瞥して呟いた。だが、依然として前衛の疲労は色濃い。しかし、増援が訪れるまでの時間が分からない以上、選択は一つ。
　決断した優雨は、減衰もなくなった今、爆発を起こしてさらなる火力アップを。
　メルカダンテもまた、必中のBSを執拗にユリへと付与するため、「物質の時間を凍結する弾丸」でさらなる氷を。
「あ、脚が……！」
　度重なる足止めによって満足に回避行動をとれなくなったユリは、その弾丸を真面に受けてしまう。
「今ならこの一撃を喰らわせる事ができるぜ！」
　これまでの敵の挙動から、頑健ダメージが最も有効である事は唯奈も気付いていた。だが、避けられた際の事を考え、使用は控えていたのだ。
「おらー！！」
　アームドフォートによる一斉発射。それは、跳弾とも違い、思わずユリが虚を突かれたクイックドロウとも違う、力技。ユリの身体が、ボロボロと瓦解していく。
「光君、トドメは任せたよ！」
　千里が、妖刀”千鬼”を構える。
「死出に咲くるは死人花…その身体に刻んであげる――千鬼流……奥義」
　引力と斥力の反発を利用した技……死葬絶華が、超速でユリの身体を切り刻んでいく。
「負けま……せぇ……んんッッ！」
　ユリも乱舞に踊らされる中、必至に精密射撃を放つが、血の彼岸花を咲かせられる程の傷の前ではどうしようもない。
「ユリだっけ？　あんたが今までどこで何やってたか知らない……っいうか、想像しかできないけどさ……」
　――今日で全部終わりだよ。
　乱舞を喰らい、宙に浮くユリの身体。ミッション系学校の制服も、綺麗な白い肌も、おかっぱ頭も、見る影もない。
　光はそれらに終止符を打つため、ユリに向けた一斉発射で藻屑へと変えた。

●
　ユリを撃破したケルベロス達は、すぐにギア・マスターチームの援護の向かった。そして、その途中で彼らは、ビルシャナ・ビショップを担当していたチームと合流を果たす。
「（そちらも作戦の第一段階は無事に終えたようですね。……褒めて使わしましょう）」
　同行するチームに、メルカダンテが視線を送り、気付かれないように頰を緩める。
　そして、予想以上にユリが後退をしていたからか、二度目の戦場への到達までは、以外と早く……。
　そこでは、未だ激戦が繰り広げられていた。
「やれやれ……」
　ジョージが肩を竦めながら、大鎌でギア・マスターを抑える羊のウェアライダーの少女を援護するため、誰よりも先んじてギア・マスターに迫ると、無骨なナイフを力の限り突き立てた。
「ジョージ……！」
　馴染みの顔の無事に、ジョージは表情には出さずに安堵する。
「あ、ありがとうございます」
　さらにジョージの背に、目をパチクリとさせる羊のウェアライダーの少女の、丁寧な礼がかけられた。
「こっちも受け取ってや！」
　次いで、テレビウムを連れたホームレスの男性が構えたバスターライフルから、凍結光線を発射され、ギア・マスターの歯車部分を凍結させる。
　その後も容赦なく、千里の二振りの刀から放たれる空間を断絶する奥義に、優雨の炎を纏った激しい蹴り……ケルベロス達の一斉果敢なラッシュが、ギア・マスターを襲う。
「キヒッ……」
　その怒濤の一斉攻撃に、思わずギア・マスターが呻きを上げる。
　そして――。
「掬んで、開いて。てのひらで踊って」
　月白の髪をフワリと舞わせたの女性が、陽炎の如き魔力の糸で、ギア・マスターを絡め取る。
「てのひらで踊ってくるくると、さりとて疾くと鋭きて」
　さらに密やかな詠唱を紡ぐと同時、解かれた糸は無数の氷結の刃へと変貌を遂げ、ギア・マスターを刺し貫く！
「キ、キヒヒッ……」
　身体を崩壊させながらも響く、狂気の笑い。だがその笑いも、ギア・マスターの身体が完全なガラクタと化すと、虚しく消えるのであった。

　ギア・マスターは撃破できたが、大事なのはむしろここから。弩級高機動飛行ウィングを破壊するために、苦難の道を辿ってきたのだ。
「機械の翼とは、また面妖な……」
　メルカダンテが、時空凍結弾を無防備なウィングに向けて放つ。
「これさえ壊せばッ！」
　碧の肩にも力が込められており、稲妻を帯びた高速の突きでウィングを抉った。
「何も考えんな！　ひたすらに攻撃をぶち込め！」
　唯奈の、目にも止まらぬ弾丸が、嵐のようにウィングへと撃ち込まれていく。
　3チームでの、一斉攻撃！
　だが、あと一歩という所で――。
「おかわりがもうちょっとで来るようですよ！」
　少し遅れて合流した、久遠Ｘ３７８対応チームの一人、牧羊犬の顔をしたウェアライダーの叫びが耳に入る。どうやら、タイムリミットはもう近いようだ。
「増援は私達に任せて！　あなた達にはウィングの破壊をお願いするわ！」
「どでかい破壊音を聞かせてくれることを期待しておるぞ」
　判断は一瞬。結衣菜がギア・マスターチーム向けて言うと、同じ考えに至ったらしい鬚っ娘ドワーフと顔を見合わせ、増援の対処のために駆け出した。

　牧羊犬の顔をしたウェアライダーの後を追った先には、10を優に超える増援がひしめきあっていた。
「ここから先には行かせない……！」
　後退してなるのもか！　千里の放つオーラの弾丸が、弱っている敵を打ちのめす。
「あと少し、もう一踏ん張りです！」
「ええ、分かってるッ……わ！」
　増援の攻撃を抑える結衣菜に、優雨は絶えず声をかけながら薬品入りの試験管を投擲。まんごうちゃんと共に支援する。
　その時！
　ドガンッッ！　轟音が響き、まるで地震でも起きたかのように施設が揺れた。
「（来たねッ！）」
　その轟音を契機に、光が爆烈弾を惜しげも無く使用して、爆風と共に増援の侵攻を押し止める。そこに、白い鬣を生やした黒豹の男性が光の戦輪を飛ばして、複数の敵の体勢を一気に崩し、イリオモテヤマネコのウェアライダーの女性が、獣化した拳で敵の頭部に向かって追撃し、撃破！
「任務完了、撤収だ」
　次いで響いた声は、ケルベロス達が待ちに待った、ウィング破壊のこれ以上ない合図。
「（成功したのね！）」
　碧が振り返ると、そこにはウィング破壊を託した面々がおり、増援に対応してきた3チームと合流を果たす。
　ケルベロス達は、守ってきた退路から急いで脱出。
　全チーム合わせ誰一人欠ける事なく、『弩級高機動飛行ウィング』破壊という、最大の戦果を手にしたのである。

作者：ハル	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月24日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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