●進軍の陰で
青森県青森市。
青森湾を臨む交通の要衝とされるこの都市に住まう人々は、今まさに恐怖の只中へいた。
突如この地へ姿を現したダモクレス、『スコルピオニ・リンヌンラータ 』の手によって。
ビルも住宅も悉く破壊され、住民達は瓦礫の下へ生き埋めになり、また別の住民達は出口を塞がれた建物の中に取り残された。
警察や消防が救助活動を行おうにも、ダモクレスの襲撃の最中故に限界がある。
「ああ、逃げないでください」
また、スコルピオニ・リンヌンラータは、逃げのびようともがく人々を許さなかった。
必死に駈け出さんとしていた男性の首根っこを易々と掴み、地面に引き摺り倒しては。
「……」
男性が何か言うのへも構わず、手にしたナイフを彼の身体へ深々と突き立てたのだ。
「逃げられては困ります。グラビティ・チェインを獲得できませんから……」
亡骸からナイフを引き抜くスコルピオニ・リンヌンラータの声音が、淡々と響く。
「ケルベロスは――まだ来ませんか。でも、来るんでしょうね。まぁ、対処はしてあるんですけれどね」
その声を聞くや、中途半端に沈んだビルの上から街を見下ろしていた少女が嗤う。
「ええ……それで良いのですよ、スコルピオニ。貴方はケルベロスなんて気にせず、どんどん地球人を殺していけば良いの……」
少女の名は『カトリーナ・ザ・アクセラレータ』、踏破王クビアラ軍に属するダモクレスである。
「もしも本当にケルベロスが来た時は……この私が確実に殺して差し上げますから……1人残らず、皆殺しにね……」
カトリーナ・ザ・アクセラレータは、スコルピオニ・リンヌンラータが建物へライフル銃を撃ち込むのを険しい眼つきで眺めたまま、低く呟いた。
●目には目を
「地球侵攻を続けていた指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したようであります」
集まったケルベロスへ向かって、小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が神妙な面持ちで口を開く。
「彼らは、地球に封印されていた強力なダモクレスである『弩級兵装』の発掘を行おうとしてるのであります」
更に、発掘した弩級兵装を利用する大作戦を行うのへ必要な大量のグラビティ・チェインを得る為、ディザスター・キング軍団のダモクレスによる襲撃事件も発生すると言う。
「それ故、皆さんには、このディザスター軍団へ襲撃される市街地の防衛をお願いしたいのであります」
ただ、敵ダモクレスも今までの戦闘経験から、市街地を襲撃すればケルベロスが迎撃に来ることを予測しているようだ。
「この襲撃には、踏破王クビアラ軍団のダモクレスも参加していて、迎撃に来たケルベロスとの戦闘をクビアラ軍団のダモクレスが担当、ディザスター軍団のダモクレスはそのまま都市の蹂躙を続けるという作戦を立てているのでありますよ」
そんな訳で、とにっこり笑顔になるかけら。
「敵がタッグを組む作戦ならば、こちらもタッグを組んで迎撃すれば宜しいのであります♪ 皆さんに撃破して頂くのはクビアラ軍団のダモクレス『カトリーナ・ザ・アクセラレータ』でありますが、襲撃開始後にまずはディザスター軍団のダモクレス『スコルピオニ・リンヌンラータ』へ戦闘を仕掛けてくださいませ」
その後、クビアラ軍団のダモクレスがディザスター軍団のダモクレスを守るべく攻撃してくるので、そのまま流れに任せてクビアラ軍団のダモクレスと戦い、確実な撃破を目指して欲しい。
「ディザスター軍団のダモクレスは別の班が撃退してくださいますから、皆さんの戦果と合わせて、敵の作戦を打ち砕ける心算であります♪」
こちらの討伐目標である『カトリーナ・ザ・アクセラレータ』は、蛍光イエローの髪が目立つメイド型ダモクレスだ。
「雷を操るカトリーナは、機械の指先から『怨嗟の雷』を撃って攻撃してきます。また、俊足を誇る機械の足で『憎悪の渦』を繰り出す事もあります」
怨嗟の雷はライトニングボルトに似た魔法。
憎悪の渦はレガリアスサイクロンに酷似した複数攻撃である。
さらには、帯電した足を使い、『ウカノミタマ』なる蹴り技を放ってくる。
「足で放つ雷刃突とでも申しましょうか……ただ射程が長く、威力もウカノミタマの方が上やもしれません、どうかお気をつけて……」
カトリーナのポジションはスナイパーである。
また、カトリーナよりも先に戦う事になる『スコルピオニ・リンヌンラータ』は、短い黒髪に真紅の鉢巻を巻いた少年の風貌。
「スコルピオニは、手にしたセラミックナイフと対物ライフル、また、背部大型キャノンも使って攻撃してくるであります」
セラミックナイフによる刺突は、ズタズタラッシュに似た斬撃。
対物ライフルの銃撃は、コアブラスター相当の破壊力を有している。
そして、背部大型キャノンの威力は、マルチプルミサイルと同等だという。
尚、スコルピオニのポジションはクラッシャーである。
「敵も作戦を考えてきたようでありますが、皆さんはその上を行く作戦で迎え撃ちましょう! どうか作戦を成功させて、人々を守ってくださいませね♪」
そう説明を締め括り、かけらは皆を激励したのだった。
参加者 | |
---|---|
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793) |
テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242) |
月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867) |
天音・迅(無銘の拳士・e11143) |
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468) |
橘・相(気怠い藍・e23255) |
黒岩・白(ジャッジメンターイム・e28474) |
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243) |
●
青森県青森市。
倒壊した建物や頽れて折り重なった瓦礫が、道路と視界を塞ぐ中、スコルピオニ・リンヌンラータの姿は、すぐに発見できた。
市民が突然の事態に狼狽し、這々の体で逃げ惑う中、奴1人だけは平然と地に足を踏み締め、背負った銃器を建物へ向けて乱射しているのだ。目立たない訳がない。
「今の所は順調ですね……」
奴らの作戦としてケルベロスに見つかるまで予定調和である為か、スコルピオニの破壊行為は実に堂々としていた。
(「向こうの連携よりも僕達の友情パワーの方が上ってのを見せてやるっスよ」)
そんな強い信念を胸にスコルピオニへ奇襲を仕掛け、ドラゴニックハンマーを振り上げるのは黒岩・白(ジャッジメンターイム・e28474)。
幼い頃から正義の味方に憧れ、念願叶えて警察官になったドワーフ。
それ故か、常々やる気なさそうに見えても根は熱血漢、人助けの為なら手段を選ばぬ程強い正義感と情愛を秘めている。
白がスコルピオニの背後から繰り出した超重の一撃は、奴の内に秘めた生命の『進化可能性』を奪い去り、ダメージのみならず全身を凍てつかせる程の寒気をも与えた。
「お仲間さんのそっくりさんです。知った顔だと躊躇っちゃいますよね。まあ私の引き金ってすっごい軽いんですが……バキューン! あ、撃っちゃった……的な」
次いで、橘・相(気怠い藍・e23255)が、抑揚のない声音に微かなやる気を滲ませ、バスターライフルの引き鉄へ指をかける。
『辿りつく真実は常に一つじゃなくてもいいや』を信条に生きているシャドウエルフの女性。
『桂』という名の妄想彼氏を持つ、ヤンデレなインテリ眼鏡である。
「いきなりラディカルなんとかかんとか砲!」
ばーんと盛大にスコルピオニの左肩を抉った射撃、本人は言えていないがラディカル・ライカンス・ライトニング・パルス砲という名がついていた。
「オニさんこちら、弾丸の来る方へ」
後方に位置取りながら奴の注意を引こうと挑発する相は、どことなく楽しそうだ。
一方。
「襲撃すればケルベロスが来る、そりゃそうだ。弩級兵装からも目を逸らす事ができる、両面攻撃ならチェインも稼げる」
心得顔で静かに頷くのは、月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867)。
年相応の落ち着きと貫禄を見せる大人で、師団の年若い仲間達を一歩引いた処から見守るのが夕の常だが、時にその頭の回転の速さを活かしてスマートにからかう事もあったりする。
(「まぁ良く考えた話だな……だが、その全部を食い破られるって可能性は考えてなかったのかい?」)
夕は不敵な笑みを浮かべて、ジグザグに変じた惨殺ナイフを手に斬りかかる。
振り向きざま、咄嗟に刃を受け止めんとしたスコルピオニの生身に見える右腕を容赦なく斬り刻み、凍傷の痛みを増大させた。
「やはり現れましたか……ですが、それも予測のうち。あなた達の行動は、無駄です」
スコルピオニは、涼しい顔で8人を見据えると、右手にセラミックナイフを構えて跳躍。
ザシュッ!
一気に距離を詰めて、夕の引き締まった腹を武装白衣ごと無慈悲に斬り破る。
ウイングキャットの銀が羽ばたいて邪気を祓い、主の出血をある程度抑えた。
(「今回の作戦はよく考えられてる……きっと策士が絡んでる」)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)は、己の立ち位置に気を配りつつ、バスターライフルの銃口を向ける。
善悪が立ち位置によって変わる事を忘れず、ただ仲間や地球の人々を護るべく戦っている迅。
(「全体図はまだ見えねえけど、まずは出鼻を挫かないとな。緻密な策ほど、綻べば脆いものさ」)
他の班を危険に晒すまいと強く決意した迅がぶっ放す凍結光線は、スコルピオニの白いベストごと脇腹を貫くや一気に体温を下げきって、容易に拭えぬ悪寒を身体の隅々に行き渡らせた。
「自分たちの目的のためなら戦えない人たちも容赦なく虐殺するっていうの!? レプリカントの人たちともとは同じ存在だなんて考えられない連中ね……」
スコルピオニの凄絶な所業を目の当たりにして、眉を顰めずに居られないのは愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)。
ある時、生来持っていた音楽の才を活かしてアイドルになり、快楽エネルギーの大量摂取を画策するも、デビューから5年を経ても未だ地下アイドルという女性。
ずっと芽が出ないまま生活苦に陥った事で、今度は生きる為にケルベロスへ覚醒した、打算的な腹黒ツンツンサキュバスである。
「一般人の虐殺なんてロックじゃないことそろそろ飽きてきたんじゃない?」
瑠璃は派手な装飾がされた対物銃を構えて、フロストレーザーを放射。
「て言うか、あたしの未来のファンたちになんてことしてくれたのよ! さあ、あたしの歌でサイコーにパンクな気分で逝かせてあげるから覚悟しなさいね!」
微妙に都合の良い妄想を交えつつも、一般市民の命を助けんと奮闘、スコルピオニの薄く見える胸板へ凍結光線をぶち当てて、僅かに残っていた熱すら消し去っていく。
ウイングキャットのプロデューサーさんも、緑のハーフパンツから伸びた機械の足に爪を立てて思い切り引っ掻いていた。
他方。
「作戦といっても、事件を起こしたデウスエクスを撃破する、何時だってただそれだけの話だ」
斬霊刀を引き抜くや否や、奴の懐へ飛び込むのは日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)。
「誰かが殺されるのを黙って見過ごせないなら戦うしかないのも何時もの事さ」
素早く白刃を閃かせた蒼眞は、達人の域に到った剣技を見せつけるかの如く派手に斬りつけ、その熟練の腕前によってスコルピオニを凍りつかせる。
しかし、今こそ涼しい顔で戦う彼だが、身につけた『風の団』専用ジャケットや真紅のバンダナは妙に汚れている。
何故ならヘリオンにて小檻へおっぱいダイブして蹴落とされていたからだ。これもまた『何時もの事』である。
「日柳くん……あの勢いの良さは頼もしいよ、うん」
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)は、仲間のセクハラを思い出して苦笑いしつつ、
「とにかく、斬ればなんとかなるよね。僕らのチームワーク、見せつけてやろう! 皆さんよろしくよ!」
自分も鬼門大通天を抜き払って、卓越した刀捌きによる斬撃をスコルピオニへ見舞う。
場の空気や他人の機微を読む感覚に優れ、自然と周囲を明るくできるムードメーカーな性質の燐。
今も命をやり取りする戦場に於いて勇猛果敢に振る舞い、赤い鉢巻を締めた頭部へ真っ直ぐ打ち込んだ一刀で寒気を味合わせた。
「――くっ!?」
受け止めんとしたスコルピオニの左腕が硬質な軋みを上げて、青白い外板から体液が噴き出す。
「では、皆さま、しまって行きましょう」
さて、テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)は、年に似合わぬ落ち着き払った態度で進み出る。
白い髪や灰色の瞳、雪白の肌など、色素も薄ければ幸まで薄いレプリカントのメイドさんだ。
無表情でアンニュイな雰囲気ながらも、眼鏡とメイド服に愛着を抱くテレサは、今日も面識のないメイド型ダモクレスのカトリーナと戦うべく決意を固めていた。
「私は、私のなすべきことをいたしましょう」
その為にも今はスコルピオニの体力を削らねばならない——冷静にジャイロフラフープ内の弾丸を撃ち出すテレサ。
幸いにも弾丸はスコルピオニの華奢な腹部へ命中、想像以上の激痛を齎した。
●
「スコルピオニ、後は私に任せて、貴方は地球人の虐殺を続けなさい!」
カトリーナ・ザ・アクセラレータが戦闘へ割り込んで来たのは、ケルベロス達がスコルピオニに奇襲を仕掛けてから2分後の事だ。
「……ありがとうございます、カトリーナさん。後はよろしくお願いします」
駆け去るスコルピオニを横目で見送り、右手を真っ直ぐ突き出すカトリーナ。
指先から放たれた雷が瑠璃目掛けて迸るのを、すんでのところで白が代わりに受け止める。
「なかなか痛いっスね」
言いながら惨殺ナイフの刃をぎらりと抜き払い、猛然たる勢いで斬りかかる白。
カトリーナの胸をばっさり斬り裂くと共に、噴き出した血煙を自ら浴びて、体力を回復した。
「逃がすかっ……!」
蒼眞は敢えてスコルピオニを追う振りをして——憎悪の渦を起こすカトリーナに阻まれるのも内心は承知の上で——悔しそうに歯噛みする。
そのまま、空の霊力帯びし斬霊刀を手に肉薄、エプロンに包まれた白い胸を的確に斬り裂いた。
「これ以上、あたしの未来のファンたちに酷いことはさせないわよ!」
瑠璃は、全身を覆う装甲から白銀に煌めくオウガ粒子を放出。
「大丈夫?」
自分を庇ってくれた白の怪我を癒すだけでなく、前衛陣の超感覚をも覚醒させた。
プロデューサーさんも、ぱたぱたと翼を羽ばたかせて清浄な風を送り、前衛陣の異常耐性を高めている。
「弩級兵装の回収も仲間を傷つけることもさせません。私が相手です」
と、見知らぬ相手な筈のカトリーナに対して言い知れぬ何かを直感したのか、テレサは毅然とした態度で断言。
大きなお尻を揺らしながら右足を振り抜き、電光石火の蹴りを炸裂、カトリーナのロングスカートを貫いて急所へ強打を喰らわせた。
「すべてを望むのは強欲だと、力を持つ者だけの特権だと知りなさい!」
苦痛に耐え、目を血走らせたカトリーナが吼える。
「うん、テレサは独りで抱え込まなくても良いからな? 少なくとも今はオレ達もいるからなー」
迅は彼なりに仲間を励まして、バスターライフルからゼログラビトンを射出。
眩いエネルギー光弾がカトリーナの機械化した脚部を焼き尽くしてグラビティを中和、自慢の俊足を弱体化させた。
「えぇー? 何か言った?? 全然聞こえないんですけど~」
相は、距離が開いているせいでカトリーナの言葉が届かない風を装いつつ、弾丸をばら撒くようにバスターライフルを乱射。
カトリーナへ他の仲間の攻撃を当てやすくなるよう狙って、奴の動きを封じた。
「またクビアラの配下か……確か、僕たちケルベロスの能力を値踏みしようとした、いやらしい連中!」
鬼門大通天の青い炎揺らめく白刃へ雷の霊力を宿して、燐が呟く。
神速の突きを幾度も浴びせ掛けて、カトリーナのメイド服をズタズタに引き裂いた。
「この痛みは予想していなかったかい?」
夕は、カトリーナの胸へ拳を打ち込んだ刹那、己の気を体内へ流し込む。
そうする事によってカトリーナ自身の気脈を崩し、鈍痛を与えるのみならず、生来の俊敏さをますます鈍らせたのだった。
銀も主の意志に忠実に清浄の翼を広げては、前衛陣へ異常耐性を齎している。
●
8人がカトリーナとの戦いに集中して数分が過ぎた。
「喰らいなさい!」
カトリーナは、帯電させた脚で鋭い蹴りを放とうとするも、
すかっ。
テレサの旋刃脚の効果だろう。気合いが空回りしたらしく、前衛の燐にぶち当てるつもりが空振りしていた。
「いっ……セーフ!」
明るく笑うも、内心では胸を撫で下ろす燐。
「一点突破こそ兵道の王道よ! でも簡単に逃げられるとは思わない事ね!」
瑠璃はカトリーナを挑発しながら、指に嵌めたマインドリングを翳して光の盾を具現化。
ふわりと浮遊するマインドシールドを前方に張り巡らせ、前衛陣を防護した。
プロデューサーさんは、回復の合間にキャットリングを飛ばして攻撃している。
一方。
「どうせ硬いだけ? 馬鹿な行為? そんな事は百も承知。だけど試してみなければ、やってみなければ何も始まらないし分からないのさ……」
何故か意気揚々と問わず語りを始めた蒼眞は、カトリーナ目掛けてまさかのおっぱいダイブを敢行。
ガツッ!
「邪魔よ!」
望み通りカトリーナの胸へ衝突したものの、すぐ突き飛ばされて頭を踏みつけられた。
「くっ……全てを斬れ……雷光烈斬牙……!」
それでも冒険者の能力を借り受けて夢想一閃、無心の一太刀にて衝撃を与えた蒼眞だ。
「ガルルルルルル!」
白はまるで獣のような唸り声を上げるや、黒豹の毛皮に風を孕んで豊かな胸が露出しそうになるのも構わず、カトリーナへ飛び掛かる。
自身の体を媒介に黒豹の精霊・ネロの憑依した憑依武装——シャーマンクロスが、白を豹にさせているらしい。カトリーナの太ももへスカートの上からガブリと噛みつき牙を立てる姿は、しなやかな筋肉を持つ肉食獣そのものであった。
「さあ、どう捌くんだい?」
隙の無い掌打を繰り出してから演舞の如き連撃へ繋げて、カトリーナの逃げ場を奪おうとするのは迅。
疾く突き抜ける衝撃波の嵐がカトリーナの体力を削った上、攻撃を避けるだけの反射神経を失わせていく。
「この上、僕らを出し抜いたつもりの作戦で、よくわからん兵装の発掘だって? そんな浅知恵で、僕らより上手に立てると思ったら大間違いだ。させるかよ!」
こちらも、カトリーナを逃がすまいとしてぴったり張り付いていた燐。
奴の金髪の頭を踏み蹴って宙へ高々と跳び上がり、鬼門大通天の霊力の一部を解放。
天にも通じるかと言うほど巨大な鬼火の刃を、カトリーナ目掛けて思い切り叩きつけた。
「できるだけ動かなくて済む感じで戦うつもりだったけど、これだけは動かないと無理か……」
相は、改造スマートフォンを握ってカトリーナへ接近。
影が過った風にしか見えない、まさに視認困難な斬撃を刹那の内に繰り出し、密やかに奴の下腹を掻き斬った。
「悪いね、お前らの作戦食い破らせてもらったよ」
ローラーダッシュの摩擦を利用して、エアシューズの靴底に炎を纏わせるのは夕。
カトリーナの胸元へ激しい蹴りを打ち込み、赤々と揺らぐ火もメイド服全体へ燃え移らせた。
その傍らでは、銀がカトリーナの腕を鋭い爪でバリバリと引っ掻いていた。
「行きます!」
旋刃脚と交互にジャイロフラフープの射撃を繰り返すのはテレサ。
その表情は険しい。面識のないカトリーナから並々ならぬ憎悪を向けられている気がしてならず、徐々に神経をすり減らしていた。
「地球人は皆、この私が殺してあげます……必ずや殺してやるんだから!」
ウカノミタマを放つカトリーナもまた、何かが彼女を奮起させ、強い殺意に駆り立てるのだろう。体力を消耗した身体で尚、膝をつかず踏ん張っていた。
「当たれっ!!」
テレサが——高威力ではあるものの、単発な上に反動も大きく命中にやや難があるというループバレッドを、何度目か撃ち込む。
上手く狙い澄ました弾丸はカトリーナの胸を貫き、遂にトドメを刺した。
「……皆、ごめんなさ……」
心身共に疲れ果てたテレサが、地面にへたり込みながら戦慄する。
カトリーナが最期に誰へ謝ったのか、もはや確かめる術も無いが、テレサへ与えた衝撃は大きい。
「おやすみ、お嬢さん……さて、これからまた忙しくなりそうだ」
夕は煙草に火をつけると、ゆっくり紫煙を吐き出した。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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