悪は何時までも悪に傾く

作者:幾夜緋琉

●悪は何時までも悪に傾く
『……ぅ……ぅう……は、っ……!?』
 目覚めた時……周囲に広がるは、暗闇だった。
 そして手足を動かそうするが……その手足はベッドに据え付けられており、暴れても全くもって外れる気配は無い。
『くそ……なんだよ、これ、外せよっ……!!』
 と苛立ち叫ぶ彼の所に、仮面で素顔を隠したドラグナーがやってくる。
 そして……ベッドに据え付けられた者へ。
「喜びなさい、我が息子よ」
『息子ぉ? 俺はおめえなんて見た事ねえよ!!』
 当然、本当に血縁関係がある訳では無い……だが、ドラグナーは、彼の言葉には全く耳を貸すこと無く。
「お前は、ドラゴン因子を植え付けられた事で、ドラグナーの力を得たのだ。しかし、未だにドラグナーとしては不完全な状態……このままではいずれ死亡するだろう」
「しかしそれを回避し、完全なドラグナーになる手段があるのだ! それは、今与えられたドラグナーの力を振い、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取る必要があるのだ!」
「そうだ、今お前には強力な力が備わっているのだ! さあ、人々を殺し、その力を十二分に発揮してくるのだ!!」
 と、仮面のドラグナーの言葉に……ベッドに据え付けられた彼は。
『……面白ぇじゃねえか。どうせ、自分はこのままみじめに死ぬだけの筈だったんだ。今更この世に未練もねえ。自分を嘲笑った奴らに仕返し出来るなら、願っても無いぜ! その提案、受けてやらあ!!』
 すると、今迄自分を戒めていた拘束具は、ウソのように外れ……彼は立ち上がる。
 そして、がははは、と笑いながら男は、其の場を後にするのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まりましたね? それでは、早速ですが説明を始めさせて頂きます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに一礼しつつ。
「ドラグナーの『竜技師アウル』により、ドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった人が、事件を起こそうとしているのです」
「この新たなドラグナーは、まだ未完成というべき状態で、完全なドラグナーになる為、必要な大量のグラビティ・チェインを得る為に、又、ドラグナー化する前に惨めな思いをさせられた人達へ復讐と称して、人々を無差別に殺戮しようとしているのです」
「皆さんは急ぎ、現場に向かい、この未完成のドラグナーを撃破してきて頂きたいのです」
 そして、セリカは続けて。
「今回の未完成のドラグナーは、どうやら信頼していた知り合いから、大きな借金を背負わされた上で、知り合い自身はその借金を逃れる……という事をされた様です」
「その知り合いの男は、新宿は歌舞伎町の辺りで夜な夜な遊んでいるようで……恐らく彼が出てくるのも、その頃だと思われます」
「つまり周りに一般人は多くいる様な頃合いですので、周囲の方々を避難させる必要があるでしょう」
「又、この未完成のドラグナーの戦闘能力ですが、武器は簒奪者の鎌を装備している様で、その武器を大きく振り回し薙ぐことでの範囲攻撃がメインです」
「ただ、ドラゴンへと変身するような能力は持っておらず、その体力を削りきれば未完成のドラグナーを倒す事が出来ます。体力を削る事に集中して下さい」
 そして、セリカは。
「新たなるドラグナーがグラビティ・チェインを蓄えて、完全なドラグナーとなれば手が付けられなくなるかも知れません。その前に、撃破を宜しくお願いします」
 と、深く頭を下げて、皆を送り出すのであった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)
ギルバルド・ガイアグランデ(重機動鋼兵・e16638)
ヴォルフラム・アルトマイア(ラストスタンド・e20318)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)

■リプレイ

●狂われる力
 竜技師アウルにより、ドラゴン因子を移植され、新たなるドラグナーとなりし青年。
 信頼していた親友に裏切られ、借金を背負わされた彼は……ドラグナーの力を使い、復讐しようとしているという。
「……平気で借金を負わせるような相手を果たして親友と呼べるのだろうか……」
「うむ、そうじゃのう……友人から見れば、利用出来るカモ、と言う程度にしか思って居ないんじゃないかのう……?」
「そうね……まあ……理由はどうあれ……デウスエクスである以上……斬るだけなのだけれど……」
 四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)、藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)の会話。
 そんな二人の言葉に水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)とプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)も。
「……裏切り、か……」
「そうだね。信じてた親友に裏切られたのは可哀想だけど、無関係の人を襲わせる訳にはいかないね?」
「ああ……しかし、竜技師『アウル』はこの様な、何処かに弱い所を持った人を上手い事見つけては利用している様だな……」
「うむ。ドラゴン因子を移植されて新たなドラグナーを産むとは……これはまたネズミ算のような……完全なものになる前に撃破しておかねばららんのぉ」
 心が弱い事は、つけいる隙を与える事になる。そして竜技師アウルはその隙を突いて、ドラゴン因子を植え付けてしまう。
 リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)とギルバルド・ガイアグランデ(重機動鋼兵・e16638)、ヴォルフラム・アルトマイア(ラストスタンド・e20318)らも更に。
「一般人の弱みに付け込んでドラグナーにする『竜技師アウル』は、本当許せませんね!」
「うむ。元一般人が私怨を振りまき、それによって人々を虐殺とはのぅ……こちらとしても、見過ごす訳にはいかんのじゃ。龍の因子……何か起きそうな予感もするがのぅ」
「そうだな……確りとこの場で始末を付けることとしよう。唯でさえ人の多い所だからな」
 そう、ここは新宿歌舞伎町。
 それに夜ともなれば、酒に溺れた一般人達が出歩いている事だろう……そこで暴れれば、当然ながら大きな被害が生じてしまう事になる。
 そんな周りの人混みに辟易した表情を浮かべるのが暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)。
「うわぁ……久々に来たけど、相変わらず人多いなぁ……マジで違う国に来た気分だよ」
 と溜息。
 それにカノンが。
「うむ、確かにのぅ……しかし、ある意味活気に溢れているとも言えるかもしれんが」
「だなぁ……まぁ、被害を出さない様に全力を出しますかね」
 カノンに頬をぱんっ、と叩いて気合いを入れる守人。
 そしてケルベロス達は、早速周囲の一般人達の避難誘導を開始するのであった。

●夢を見せる場所
「皆さん! 早急に避難して下さい!! ここにドラグナーが来ます! ドラグナーは危険です!」
 と、リュセフィーが、声を上げて、周囲の一般人達に声を上げる。
 ドラグナーが来る、という言葉に、酒を飲んでおらず、まだ正気を保っている人達は、早々にその避難誘導に従い、其の場から逃げていく。
 が……酒を飲んだ者達は、そんな言葉に。
「あー、なんだよー。うるせーなー」
 と、その避難誘導に従わないのもいたりする。
 ……そんな避難誘導に従わない人達には。
「……邪魔……つべこべ言わずにさっさと消えて……」
「お主ら、命が惜しくないのか? 命が惜しくば、早々にこの場から立ち去るのじゃ」
「そうだ。死にたく無いなら……とっとと逃げろ!!」
 千里の剣気解放や、カノンのラブフェロモン、更にヴォルフラムが割り込みヴォイスと共に、バスターライフルを空に威嚇射撃をぶっ放し、守人が殺界形成を展開。
 ……悲鳴、恐怖の叫びが飛び交わされる中、次々と人々は恐怖に逃げていく……と、そこに。
『オラオラァ、てめぇら逃げんじゃねーよ!!』
 と簒奪者の鎌を振り回して、追いかけまわすドラグナー。
 そんなドラグナーの剣戟を、がしっと構え、受け止める鬼人。
「……ダチに裏切られて、やけになるのは判るが……関係無い奴まで巻き込むのは感心しないぜ? 憂さ晴らしなら、俺達が付き合ってやるよ」
 攻撃を受け止められ、ちっ、と舌打ちしながら一歩距離を取るドラグナー。
『うっせえ、ジャマすんじゃねーよ! 俺の気持ちなんて、わかんねーだろうが!!』
 と苛々した言葉を吐き捨てるが、ギルバルド、プラン、守人らも。
「お主、何しようと企んで折るのじゃ? 我々ケルベロスがこれ以上の貴様の悪行、見過ごすわけにはいかんのじゃ」
「そうだね。デウスエクスに言われるままに暴れるなんて単細胞だね。君の親友も酷いけど、君の人を見る目も酷いんじゃないかな?」
『あぁ、何だよ!! 俺が悪いって言うのかよ!! 裏切られたんだぞ! 俺は親友に裏切られたんだ!!』
「親友に裏切られた……って、親友とおもってたのは 君だけだよね。相手からはカモとしか思われてなかったんじゃないかな?」
「ああ。気持ちは解らないでも無いけど、関係無い人まで巻き込んでんじゃねぇよ」
「そうだね……取りあえず、縛ってあげる。縛られるのとか好きかな?」
 と言うと、早速プランは禁縄禁縛呪で縛り付け、彼の気を引き付ける。
 が……ドラグナーは、その捕縛を力尽くで解除。
『うっせえ!! てめぇらが相手になるって言うんなら、こっちも本気出してぶっ殺してやらぁ!』
 と簒奪者の鎌を空高く掲げ、全力で持って振り薙ぐ。
 風を切る音と共に、刃が襲いかかる、が……一歩後退、大ダメージを避ける。
「……お前は被害者で……救ってやりたいと思うよ。でも、今お前が野郎としていることは悪い事だ。真っ当に生きてたんだろう? こうなる前は復讐なんて行えない位真っ直ぐに」
 とヴォルフラムが問いかけるように。
『く、う、うるせえっていってんだろう!!』
「……解った。苛立ちや悲しみは、私達が受け止めよう。だから、お前を止める……安心しろ。負わされた借金は、ちゃんとアイツに支払わせておくから」
『っ……!』
 僅かに、その目の光が変わるドラグナー……対しヴォルフラムがゼログラビトンを仕掛け、武器封じ。
 更にヴォルフラムのビハインドは、彼女に付き従う様に続き、ポルターガイストを起こし足止めを行う。
『くそ……っ……!!』
 舌打ちし、足止めを振り払う。
 そして、仲間達にリュセフィーが。
「皆さん、頑張って下さい。後ろから、応援しますね!」
 と、エレキブーストで壊アップで補助する一方、プランは。
「護ってあげる」
 とマインドシールドでヴォルフラムを回復。
 更に続くギルバルドと千里、カノンのスナイパー陣は。
「さて、ここで決着付けるのみじゃ。覚悟せいやぁっ!」
 とギルバルドを先陣にして、ダブルディバイドを叩き込むと、カノンは一歩離れた位置からの気咬弾。
 そして千里も。
「絶望の果てに凶行と……同情の余地はもはやなし……と……さあ、お前も糧となれ……」
 旋刃脚の一閃をその足に打ち込み、腱を斬り付ける。
 足を抱え、苦しむドラグナー。
 そして、鬼人と守人が最後に、デストロイブレイドに絶空斬のジグザグで連携し、体力を削り取っていく。
「八つ当たりにしちゃ、随分と物騒な事だな。やけになってその姿を受け入れたのなら、もう、何も言わねえが……な」
 ……次の刻においても、ドラグナーの簒奪者の鎌による攻撃をディフェンダー陣がカバーリングし、決してスナイパー、メディックに通さない壁となる。
 無論、喰らったダメージはリュセフィーのオラトリオヴェールや、プランのサキュバスミストが確実に回復し、傷を残さない。
 そして、千里が。
「腱……筋……頚……ほら、動けない……」
 と、奇襲するかの様に、人の弱い部分を次々と月光斬や旋刃脚などで斬り付け、カノンも気咬弾、デスサイズシュートを交え、体力を削り、ギルバルドはスカルブレイカーで頭部を討ち貫く。
 そして、ヴォルフラムの破鎧衝、アレクの金縛りに、鬼人のデストロイブレイド、守人のシャドウリッパー。
 ……そんなケルベロス達の猛攻に、ドラグナーはどんどんと圧されていってしまう。
『ちくしょう……ちくしょう!!』
 舌打ち、悔しさの滲む叫びは、悲痛。
 しかし……ドラグナーとなった彼は、もう……人に戻る事は出来ない。
 そして、ドラグナーとの戦闘開始から十分程。
『が……くそっ……!!』
 其の場で体勢を崩したドラグナー。片膝をついたドラグナーに……静かに近付くプラン。
「辛かったよね、悲しかったよね。最後くらい、気持ちよくイかせてあげる」
 とその耳元に囁くと、『過剰な快楽の記憶』を、抱きしめるように抱擁しながら、一気に注ぎ込む。
 快楽と苦痛に、大きく顔が歪むドラグナー……そして。
「……気づいたときにはもう遅い……さよなら」
 と『千鬼流 伍ノ型』の刀撃を放ち……ドラグナーは、言葉にならない絶叫と共に、崩れ墜ちて行くのであった。

●夢潰えた先には
 そして……ドラグナーの姿が完全に消え失せた後。
「ふはー、疲れたぁーっ!!」
 と、コンクリートの上に大の字で倒れ込む守人。
「すまん、ヒールプリーズっ!!」
 と息を整えようと、大きく呼吸をする守人に対し、プランが。
「ここで寝ちゃダメだよ……ほら、回復してあげるから……」
 と苦笑しながら、守人をマインドシールドで回復してあげる。
 勿論、他の仲間達のケガも、順次回復していくプランとリュセフィー……その回復待ちの中、鬼人は、恋人から貰ったロザリオを手に当てて、死したドラグナーの冥福を祈る。
「……本当に悪いのは、裏切った奴とその心の隙に付け込んだドラグナーなんだからな。次に産まれてくる時には、本当に心から信じ合える友を見つけてくれ。俺は、俺達に任せてくれ……悪い様にはしないからよ……」
 と……悲しき復讐心に翻弄された彼の冥福を、心の底から祈る。
 ……そして、仲間達のヒールを終えた後は、壊れた街にも次々とヒールを掛けていくケルベロス達。
 避難していた人達に。
「もう大丈夫ですよ、安心して下さい」
 とリュセフィーが安全確保した旨を口にする。
 ……そんな避難した人達の中から、セリカから聞き出しておいた、裏切られた人の特徴を元に……その男を捜す。
 ……程なくして、その男を発見した鬼人。
「……ちょっといいか?」
 と、男を路地裏に呼び込む……そして、がしっ、とその肩を壁に押しつける。
『っ……!?』
 と、恐怖に顔を強ばらせる男……それに。
「……いいか。お前に恨みを持ってる奴、沢山いるんだろ? 今回は間に合ったが……次はどうかな?」
 敢て、恐怖を呼び起こさせるように。
 彼のしでかした裏切りは……それだけ酷い事であったのだ、と認識させるように。
 ……ある意味ドラグナーの彼は、彼によって貶められ、命を奪われた……と言えるのだから……。
 そして、恐怖にひいいい、と悲鳴を上げて逃げていく彼の後ろ姿を見送りながら。
「こんな弱者を利用する竜技師アウル……全く、気に入らないな……」
 そんなヴォルフラムの言葉に、ギルバルドも。
「うむぅ……確かにの。しかし力を求めるのは、何処にでも必ずいるものじゃ。じゃが、デウスエクスの力を受けるのは、破滅に近づくようなもんじゃしのぅ」
「そうだな……受けるのも、弱い心が創り出す、幻想のようなまやかしなのかもしれんな」
 そんな二人の言葉を噛みしめつつ……ケルベロス達は街を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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