ぶらり途中食べまくりの惨殺

作者:刑部

「もっと……もっと食わせろ……」
 村を襲った男は、脂でたるんだ腹をさすりながら冷蔵庫を荒し、手当たり次第食い物を口に放り込む。既にこの村の住人の8割方はこの男に殺され、残り2割の人々はほうほうのていで逃げ出していた。
「危ない危ない。痩せるとこだったよ……ゲフッ」
 バターの塊を咀嚼した巨躯の男はエインヘリアル。げっぷをするとまた腹をさすり、ぼりぼりと背中と頭を掻き毟った。
「こいつも焼いたら食えるかな? ゲフフフフフ」
 血塗れの幼子の骸の足を掴んで吊り上げ、そう嗤ったエインヘリアルは、その骸を投げ捨て、
「あー、美味いもん食いたいなぁ~ゲフッ!」
 とまた欠伸とげっぷをするのだった。

「エインヘリアルが町のみんなを虐殺する事件が予知されたで」
 口を開くのは杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044) 。
「このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者みたいで、放置したら多くの人らの命が奪われる上、人々に恐怖と憎悪をもたらしよるから、地球で活動するエインヘリアルらの定命化を遅らせる事になりよる。
 せやから急ぎ現場に向かうで。みんなで協力して、このエインヘリアルを撃破してや」
 と笑う千尋の口元に八重歯が光る。

「現場はここ、奈良県は宇陀郡の曽爾村っちゅー村や。
 現れるエインヘリアルは1体で、2m半程の身長と、横幅も2m程の体躯を誇っとる。
 ぶよぶよの脂肪の塊みたいなエインヘリアルで、村の人らを殺して食料を漁っとったわ」
「……それは本当にエインヘリアルなのよね? 異形化した豚とかじゃなく」
 千尋の説明を聞いた橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が問い質す。
「もしかしたら豚の英雄のエインヘリアルかもしれへんな。けど、その体格から似つかわしくない速さで、村人のほとんどを殺害しよったから、油断はでけへんで。
 捨て駒として送り込まれとるぐらいやから、不利になっても逃げはせーへんやろ……むしろ死ぬ間際まで、こっちを殺し喰らおうとしてくる筈や。十分気ぃつけなあかんで」
 芍薬の言葉に軽口で返しながら注意を促す千尋。

「凶悪犯を敵の領地に放つっちゅーんは策としてありかもしれへんけど、やられた方はたまったもんちゃうからな。このエインヘリアル絶対止めたってや!」
 千尋は芍薬達ケルベロスに、もう一度笑顔を見せるのだった。


参加者
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)
クリス・クレール(盾・e01180)
殻戮堂・三十六式(祓い屋は斯く語りき・e01219)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
リン・グレーム(銃鬼・e09131)
黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)

■リプレイ


「逃げ遅れている人も居なさそうだね。さて、美食家の方の口に合うかどうかわからないけど、もてなしの準備を始めようか」
 奈良県警の協力もあり、避難を終えた村を見回っていたシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)が戻って来た。
「村人の避難が出来た事は幸いです。これで敵の撃破に注力できるでしょう」
「オークの襲撃と思ったらエインヘリアルでした……何を言ってるか解らないと思うが……と言うところでしょうか?」
 閑散とした村を振り返り、満足そうにロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)が頷くと、朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)も軽口を叩いて、愛用の弓『天衣無縫』の具合を確かめる。
「何が相手でも構わない。俺は相手が誰であろうと人を護るだけだ」
「今からそんなに肩肘張っていると疲れてしまうよ」
 そのほのかの言葉に応じ、油断なく周囲を警戒するクリス・クレール(盾・e01180)が決意を語ると、そのクリスとは対照的に気だるげな顔を向けた殻戮堂・三十六式(祓い屋は斯く語りき・e01219)が、気張るクリスをやんわりと窘める。
「ボディへの拘りは共感するケド……パパも言っていたワ、どんな個性であれ有害ならば無意味であると」
 豊満なボディをしたパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)が、感慨深げに頷き、左右の腕に嵌めたガントレットを打ち鳴らす。
「あれ……だよね。違うとしたらオークしか考えられないし……」
 最初にそれをモノクル越しに『それ』見つけたのはリン・グレーム(銃鬼・e09131)。彼が指す方向を見ると、巨躯の男がせり出た腹を掻きながら近づいて来るのが見て取れる。
「間違いないね。じゃあ豚狩りを始めようか」
 黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)が腕に宿す攻性植物の『蔓』を撫でながら、目標をその緑目に捉える。
 『それ』……巨漢のエインヘリアルは腹を掻きながら、そのまま真っ直ぐに村に向って歩き、村の前に陣を張るケルベロス達に気付いた。
「……?」
 一瞬立ち止まって小首を傾げるも、そのまままた無防備に近づいて来る。
「キミの来訪目的は存じているよ、美味しいものが好きなのかな? ……君は煮ても焼いても美味しくは無さそうだけど」
 優雅に一礼したシェイが微笑み掛けると、
「おう、美味いもんは好きだな。……けど、武器を構えるって事は、俺の邪魔をしようってんだな? お前ら如きにとめられっかな? ゲフッ……」
 ニヤニヤと卑しく笑うエインヘリアルに、
「止められるに決まっているだろう……いざ、欺け。不屈の盾クリス・クレール、推して参る!」
 クリスが殺気のオーラを飛ばしたのを合図に、ほのかがガスマスクを被り、ケルベロス達が地面を蹴る。


「俺の食事の邪魔うぉするなぁぁー!」
「戦いを始めます。竜の吐息を」
 涎を垂らしながらその巨体に見合わぬ速度で吶喊してくるエインヘリアルに対し、目がキリっとなり表情が一変したほのかが掌を向け、ドラゴンの幻影を放って迎え撃つ。身を焦がすブレスを浴びながらも、拳を振るってドラゴンの幻影を霧散したエインヘリアルだったが、
「喰らい尽くすと言うのなら溢すなよ、勿体無い」
「向日葵畑の騎士 ロベリア見参」
 そのブレスに紛れて距離を詰めた三十六式が、護符から呼び出した光輝の刃を叩き込んで、横っ跳びに体を翻したところに、真正面から『太陽の大盾』を構えたロベリアが突っ込み、エインヘリアルの吶喊を押し留める。
 更にその止まった足を市邨の攻性植物が絡め、リンの冷凍光線が貫くが、
「……痩せるからあんまり動きたくないんだけどぉ……」
 それらの攻撃を受けながらも、エインヘリアルはロベリアの盾に思いっきり拳を叩きつけて押しまくる。
「力こそはパワーですね。ですが好き勝手にはさせません」
 畏れを武装化した指輪『月姫』から具現化させた光の剣の刃に、空の魔力を載せたほのかが横合いから斬り込むと、それとタイミングを合わせたクリスがハンマーの一撃を叩き込んだが、表情一つ変えずロベリアを押し捲るエインヘリアル。
「回復するよロベリア。勢い付かせないでよ」
 踵に土を盛り上げながら堪えるロベリアに、三十六式が溜めた気力を飛ばして回復を図ると、エインヘリアルの横から、シェイが酒と林檎をパトリアシアがお弁当をちらつかせる。
「よこせぇー!」
「隙あり、です!」
 途端に目標を2人に変え、目の間で方向転換するエインヘリアルに、ロベリアが戦鎚を叩き込んだ。

「そら、喰らうといい」
 血走った瞳を向け迫って来るエインヘリアルに対し、林檎と酒を投げ上げるシェイ。
 その動きを目で追い、両腕を上に伸ばすエインヘリアルに、
「卑しすぎデス。48 arts No.99!  Burnin' love!」
 リンの放った魔法光線と共に、パトリシアが燃える虹色のガスを吹き付けた。
 それは粘液の様にエインヘリアルの体に纏わり付いて燃えるが、更にクリスとロベリアの放つ攻撃にも気にした風も無く、シェイの投じた林檎と酒と見事にキャッチし口へと放り込む。
「まだまだ足りんぞー。俺を働かせるな、腹が減る!」
 それらを呑み込んだエインヘリアルが咆えるが、お構いなしに市邨とほのかが放つドラゴンの幻影が炎を浴びせ、その炎と共に踏み込んだシェイが、
「焼いても食えない豚なら、早く始末してしまわないとね」
 エインヘリアルのどてっ腹に、気合の籠った拳を叩き込んだ。
「ウップ……ゲフゥ!」
 その吐き出されるゲップを受けたシェイが鼻を押さえて跳び退く。
「大丈夫デスカ? うっ……」
 そのシェイを気遣い、蹴りを見舞おうとしたパトリシアだったが、漂う残り香に体が近寄るのを拒絶する。
「……あぁ、私としては失っても惜しくないと思っていたんだけど……。こうやって穢されると意外と頭にくるものだね」
 親しい友達との何気ない日常の記憶が薄れている事に気付いたシェイが、三十六式の回復を受けながら独白する。

 その巨体に似合わぬ動きで動き回るエインヘリアル。
 かなりのダメージを与えたものの、クリスのチョコとパトリシアの弁当も既に彼の胃の中で、リンがゲップの一撃を受けている。
「かなり燃えてると思うんだけど、全然平気そうだね。皮下脂肪で熱さとか感じてないんじゃない?」
 重ね掛けられた炎に些かも怯んだ様子を見せず、パトリシアと鍔迫り合いを演じるエインヘリアルに、攻性植物の『蔓』を飛ばした市邨がごちると、
「ならば、その皮下脂肪も斬り裂いてみるか……霊磁界形成完了、電導率120%……反転」
 そう言って付けられた臭いを払うかの如く駆けたリンが、エインヘリアルとすれ違う瞬間、鞘と刀に生じさせていた磁極を転じ、反発力を利用した高速の抜刀の一閃を見舞って斬り抜ける。
「グオ……もっと喰い物をよこせぇ!」
「これ以上、お前にくれてやるものはない!」
 その斬られた脇腹を押さえて咆えるエインヘリアルに言い返したのはクリス。
 殴り付けた腕から網状の霊力が放たれエインヘリアルを絡めると、シェイとそれに続いたほのかの攻撃が連続で炸裂する。
「ゲップが来るよ」
 エインヘリアルの頬が膨らんだのをみた市邨が声を上げ、ロベリアとパトリシアが跳び退くと、先程まで2人が居た空間に悪臭は放たれ、伸びていた市邨の『蔓』がするすると戻ってくる。
「やっぱり臭いのが嫌なの? そうか、お前一応女の子だもんな。空気ごと焼き払うか」
 戻って来た『蔓』を撫でた市邨は幻影のドラゴンを以ってその悪臭ごとエインヘリアルを焼いた。
「食わせろッ!」
「危ねぇっ!」
 悪臭が消え更に詰め寄ったケルベロスの内、ほのかに向って牙を剥くエインヘリアルを見て、クリスが反射的にほのかを突き飛ばす。丁度左肩に食い突かれ、苦悶の表情を見せるクリスに、三十六式から回復が飛ぶが、付き立てられる牙に、クリスの骨が悲鳴を上げる。
「その汚い口をクリスさんから離しやがれ!」
 リンの振るう直刀の刃が空の霊力を帯びて叩き込まれ、エインヘリアルを包む炎勢が増し、煙を上げたエインヘリアルの口からクリスが落ち、転がりながら距離をとる。


「うぅ……働き過ぎだ……腹減った……」
 臭い息を吐きながら愚痴るエインヘリアル。
 ピッチピチの星霊甲冑は既にボロボロでその身を焦がす激しい炎が煙を上げており、四肢は捕縛の影響で動き難くなっているが、彼の心配事は胃袋の事だけの様だ。
「そう言えばまだ食い物があったな。ほら」
「くらわせろー」
 クリスが銘菓ヤタガラスサブレを目の前に放り投げると、エインヘリアルが吶喊して来る。
「学習するという事はないのか?」
 蔑みの視線を向けた三十六式がボタンを押すと、皆を後押しする様にカラフルな煙を上げる爆発が起こり、
「餌につられて仕留められるのは獣と同じデスネ。獣は獣らしく狩ってあげまショウ」
「そんなおぼつかない足取りで、不屈の盾が砕けるものか!」
 バッドステータスの影響で勢いのない吶喊に、迎え撃ったパトリシアの鋭い蹴りが脛を蹴り、クリスの焔纏う蹴りが、パトリシアの攻撃でつんのめったエインヘリアルの頬に叩き込まれ、そのままヘッドスライディングする様に地面を滑るエインヘリアル。
「潮時……だね。――揺らめく焔の裏側に、君は一体何を視る」
「どうせ観るのは炎に焼かれた料理だろうよ」
 市邨の紡ぐ詠唱にそう返したリンが、構えたSFチックな対物ライフルはから放たれる魔法光線が、市邨の結んだ詠唱によって生じた陽炎を裂く様にエインヘリアルと貫いた。
「ぐお……やめろ腹がへる……」
「そのまま永遠に倒れているのです!」
 それでも起き上がるエインヘリアルにロベリアの吶喊。仰向けに倒れそうになるのをなんとか堪えるエインヘリアルだったが、横に跳び退いたロベリアと入れ代わる形でシェイ。
「おっと、もうゲップは勘弁だ。そのまま眠ってくれ」
 鼻先に叩き込まれた拳に仰向けに倒れるエンヘリアルに、
「たむけです。滅びという名の救済を……」
 ほのかの紡ぐ古代語の詠唱。流星にも似た光線が次々と倒れたエインヘリアルの体を貫き、まだ死んでいるかどうか解らないので皆が確認しようと近づくが、
「……これ開いた穴から中身ぶち撒けられたりしませんよね?」
 とリンが呟いた瞬間、倒れたエインヘリアルの体が膨張を始めた。
「に……」
「逃げろ!」
「退避っ!」
 目を見開き次々と避難を叫んで跳び退くケルベロス達を追う様に、暴発したエインヘリアルからガスが広がる。……リンの一言が無ければ危ない所だった。
 ともあれ、こうしてエインヘリアルを討伐した一行は、戻って来たもののいくらヒールをしても消えなかった臭いに、辟易とした顔をした曽爾村の人達に見送られ、行政に後事を託し村を去ったのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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