『筋肉道場アイアンマッスル』の破綻

作者:秋津透

「ぬぁーぜどぅあぁ! いったい、ぬぁーにが、いけなかったのどぅあぁ!」
 茨城県水戸市繁華街裏手の小さな店。そこには『筋肉道場アイアンマッスル』と太い筆文字で描かれた看板が掲げられ、店の中にはダンベルだのエキスパンダーだの、筋肉を鍛える用具が所狭しと置かれている。そして、何よりその店を狭苦しく感じさせているのは、店の真ん中、キャンバス張りのリングともステージともつかない空間で、臆面もなく泣き喚いているビキニパンツ姿の筋肉質な巨漢……この店のオーナー兼店長であった。
「私は間違っていたのくぁ? この店こそが筋肉好きの聖地、あらゆるマッスルマンが集うパラダイスになると信じて、トレーニング用具とプロテイン飲料を揃え、希望者には私が自ら指導するスペシャル筋肉トレーニング、マンツーマンマッスルコースを設定し、準備万端整えて待っていたのに! 誰も来ない! 誰も、店に入ろうともしない! ぬぁーぜどぅあぁ! いったい、ぬぁーにが、いけなかったのどぅあぁ!」
 ……普通は誰も入ろうとしないと思うぞ、そんな店。
 すると、いきなり巨漢の分厚い胸板を、大きな鍵が背中側から貫いた。
「ぐはっ!」
 一声呻いて巨漢は倒れ、鍵を手にした女、第十の魔女・ゲリュオンが姿を現す。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 平板な声でゲリュオンが言い放つと、そこに倒れている巨漢そっくりなマッスルマン……ただし顔と腰のあたりがモザイクに覆われている……が出現する。
「筋肉好きの聖地、あらゆるマッスルマンが集うパラダイス! 『筋肉道場アイアンマッスル』へ、よ・う・こ・そ!」
 変なポーズを取りながら、顔と腰をモザイクに覆われたマッスルマン……ドリームイーターが重低音で唸る。
 そして、ゲリュオンの姿は、既にどこにも見当たらなかった。

「えー、茨城県水戸市で『筋肉道場アイアンマッスル』という謎な店を潰してしまった人が、パッチワークのの魔女の一人、第十の魔女・ゲリュオンに襲われ、『後悔』を奪われて新たなドリームイーターを生み出されてしまう、という事件が予知されました」
 どうにも複雑な表情で、ヘリオライダーの高御倉・康が一同に告げる。
「例によって、新たなドリームイーターは、その店内に店長然として納まっているわけですが……この店、極端に狭い上に、置いてあるものもやたらに多く、ちょっとマトモに戦闘できないんじゃないかという気もします」
 まあ、いざとなったら店そのものをぶっ壊すつもりで闘えば、何とかなるとは思いますが、そうすると周囲にも被害を及ぼすことになるかもしれません、と言いながら、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。繁華街の裏手ですが、付近に飲食店はなく、衣料や工芸品の店が並んでいます。ドリームイーターが出現するのは深夜で、周囲の店舗は無人、人通りもほとんどありません」
 とはいえ、いくつか通りを隔てれば、住宅もあれば酔客が徘徊している地域もあるわけで、あんまり長時間、店をぶっ壊すような派手な戦闘をしていれば、通報されて警察が駆けつけてきたり、野次馬が集まってくる可能性もあります、と、康は告げる。
「ドリームイーターは、ビキニパンツ一丁身に付けただけの、筋肉質な男性の姿をしています。顔と腰にモザイクがかかっている以外は、店内で失神している本来のオーナー兼店長さんと生き写しです。客として店に入り、サービスを受け、そのサービスを心から楽しんであげると、ドリームイーターは満足して戦闘力が減少するようですが、同時に店に入れる人数は最大四人。サービスであるスペシャル筋肉トレーニング、マンツーマンマッスルコースを受けられるのは、一度に一人です。ちなみにトレーニングフルコースは、おおむね一時間かかるようです」
 いっそ、地元警察に連絡して、周囲を封鎖してもらった上で、時間をかけて対処する方がいいかもしれませんね、これ、と、康は溜息混じりに唸る。
「ドリームイーターのポジションはクラッシャー。モザイクを飛ばす時にいちいちマッスルポーズを取る以外は、特に変わった能力はないようですが、体力、攻撃力ともに、生まれたてのドリームイーターとしては高めです」
 そう言って、康は肩をすくめる。
「それから、後悔を奪われた被害者は、店の中で失神しています。戦闘が始まる前に移動させておかないと、間違いなく巻き添えになると思います。どうか、よろしくお願いします」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
坂口・獅郎(烈焔獅・e09062)
九十九屋・壬晴(迷い猫・e16066)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
山内・源三郎(姜子牙・e24606)
リシュティア・アーキュリア(サキュバスの螺旋忍者・e28786)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)

■リプレイ

●根本的に立地が間違ってる
 茨城県水戸市繁華街裏手の路地。現場に到着した獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)は、非常線を張って封鎖に当たっている警官に敬礼した。
「ケルベロスの獅子谷と申します。要請に迅速に応じていただき、感謝します」
「茨城県警の石岡です。まさか、こんな所にデウスエクスが出るとは……ケルベロスの皆様が頼りです。よろしくお願いします」
 警官は緊張した表情で応じたが、その横から、和服姿の女性が声を掛けてきた。
「あの、すみません。この奥に店を出している者ですが、置いてある品物を引き取りに入らせていただけないでしょうか?」
「いえ、既にデウスエクスは出現しています。大変危険ですので、立ち入りは一切認められません」
 銀子は即答したが、山内・源三郎(姜子牙・e24606)が口を挟む。
「立ち入りは認められんが、わしらが店の品物を持ち出すことはできるかもしれん。それも、状況次第じゃが」
「ああ、どうかお願いします。店の名は『小物 ことぶき』と申します。こちらが店の鍵です」
 女性は源三郎を拝むようにして、小さな鍵を渡す。
「皆様が見れば、つまらない小物ばかりと思いますが、店の者にとっては一つ一つ手造りした思い入れのある品なのです。どうか、お頼み申します」
「わかった。最善を尽くそうじゃないか。わしはケルベロスの山内じゃ」
 うなずいて源三郎は鍵を受け取り、引き換えにケルベロスカードを渡す。
 そして非常線を越えて進むと、九十九屋・壬晴(迷い猫・e16066)が小声で尋ねる。
「……ちいさな、しんせつ?」
「ま、妙齢の御婦人限定じゃがな」
 作戦通りに事が進めば、待機組は暇じゃろうし、と、源三郎は苦笑して応じる。
「しかし……それにしても、なんでこんなところに『筋肉道場』なんぞ構えたんじゃろな」
 路地の奥の現場は、一つの建物に四軒の店舗が入る、長屋のような構造になっていた。最も手前がリサイクル衣料品店。次に『小物 ことぶき』三軒目が現場『筋肉道場アイアンマッスル』四軒目が24時間無人営業コインシャワーで、その奥に共用トイレがある。
「……コインシャワーがあるのね。助かるわ」
 銀子が呟き、相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が唸る。
「しかし、こうして見ると本気で狭いな。カウンターバーとかなら四、五人並んで入れるかもしれんが……四人同時にトレーニングって、無理じゃね?」
「まあ、とにかく入ってみるさ」
 無造作に応じ、坂口・獅郎(烈焔獅・e09062)が入口ドアを押す。銀子、泰地、アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)の三人が続き、源三郎、壬晴、ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)リシュティア・アーキュリア(サキュバスの螺旋忍者・e28786)が待機する。
「作戦通りに進むかな? それとも……」
「さあな。それこそ、やってみねばわからん」
 独言のようなノチユの呟きに敢えて応じ、源三郎は受け取った鍵を手中で弄びながら、鋭い視線で『筋肉道場』を見据えた。

●意外にマジメにトレーニング?
「筋肉好きの聖地、あらゆるマッスルマンが集うパラダイス! 『筋肉道場アイアンマッスル』へ、よ・う・こ・そ!」
(「ううう……聞いただけでヤバイと思ったけど、目の前にするともっとヤバイわね……この直視しかねる暑苦しさは……」)
 顔と腰にモザイクのかかったビキニパンツ一丁の筋肉店長型ドリームイーターにマッスルポーズで迎えられた銀子は、思わず視線を斜め上へ逸らす。
 しかし泰地は気にも留めず、ごく平然と告げる。
「よう。俺たちは筋肉トレーニングに興味があってな。この店の、スペシャル筋肉トレーニング、マンツーマンマッスルコースって奴を試したいんだが、やってもらえるか?」
「もちろんですとも、よ・ろ・こ・ん・で!」
 ドリームイーターは心底嬉しそうに応じたが、ふと気づいたように付け加える。
「しかし、あの、四人様同時は無理なんです。マンツーマンというのは……」
「ああ、一対一ってのはわかってる。順番にやってもらうさ」
 そう言って、泰地は銀子を見やる。笑みが引き攣らないように注意しながら、銀子は前に出て告げる。
「実は格闘技やってて、しっかり鍛えたいのだけど」
「格闘技を! それは空手、ボクシングのような打撃系ですかな? それとも柔道、レスリングのようなグラップル系? それによって、鍛えるべき筋肉の部位も変わって参りますぞ」
 ドリームイーターは、意外なほど真摯に訊ねてくる。なるほど、個人用トレーニングプログラム作るの含めて一時間か、と泰地は唸る。
(「なかなか本格的だな。たぶんこいつは、本物の店長のやり方真似して……つーか、写してるんだろうが」)
 口には出さず呟くと、泰地は獅郎に目配せし、店の真ん中に倒れている筋肉男性……本物の店長に歩み寄る。
「順番が来るまで、俺たちは準備運動してるぜ。で、邪魔になるもの、外へ出していいか?」
「おお、それは気が付きませんで、申し訳ありません。どうぞ、店内の器具はご自由にお使いください。プロテインドリンクも、お好きなだけお取りいただいて結構です。器具もドリンクタンクも動かせますので、邪魔になるようなら、恐縮ですが適宜外へ出していただければ……お恥ずかしい話ですが、こんなに一度に大勢のお客様がいらっしゃったのは開店以来初めてなので、どうにも手際が悪くて……」
 詫びるドリームイーターに、獅郎が笑いながら応じる。
「いいってことよ。物動かすのも、けっこうトレーニングになるしな」
 そして泰地と獅郎は、失神している店長を二人がかりで慎重に抱え上げ、店の外へと出す。外では、待ち構えていたノチユが店長を受け取る。細身のノチユが筋肉巨漢の店長を単身軽々と抱え上げるのは、なかなか凄い光景だが、これは防具特性『怪力無双』の効果だ。
「じゃあ、この人のことは外の警官に頼めばいいのかな?」
「ああ、救急車を呼んでもらってくれ」
 泰地が応じ、ノチユは店長を抱えて路地を出ていく。そして源三郎が泰地に尋ねる。
「どうだ? 作戦通りに行っとるか?」
「ああ、バッチリだ」
 泰地の返答に、源三郎はうなずく。
「そうか。作戦通りに進んでおるなら、相当に時間がかかるな。隣の店の品物を運び出してくれと頼まれとるんだが……」
「そうだったな、やってくれ。何なら、俺たちも手伝う」
 『筋肉道場』の器具や備品を路地に出すだけなら、一時間もかからないだろうし、と、泰地は苦笑して応じた。

「ふう……この、のみもの、おいしいね」
 およそ二時間半後、『小物 ことぶき』の品物を運び出し終えた壬晴は、『筋肉道場』から路地に出されたドリンクタンクの一つからプロテインドリンクを取り、ごくごく飲んで呟いた。
「うむ、悪くはないが、わしはやはり、こちらの方がよい」
 源三郎が応じ、『小物 ことぶき』店主の女性から感謝を籠めて差し入れられた水筒を傾ける。中身は内緒とのことだが、未成年は飲んではいけない……成人だって本来は仕事中に飲むのは好ましくない飲料らしい。
「そーよねー、このドリンク売るだけでも、やり方次第じゃけっこういい商売になりそーなのに」
 なーんてか、いろいろと間違えてるわよねー、と、リシュティアが肩をすくめる。
 すると泰地が、苦笑混じりに告げた。
「今のままでもそれなり需要あると思うが、広報つーか、情報発信が致命的にダメだ。マンツーマンやりながら聞いた話じゃ、スマホもまともに使えない、今時珍しいくらい重症のメカ音痴で、ネットで情報広めるなんて考えもしなかったらしい」
「ふーん、じゃあ、逆に言えば、効果ありそうなところにネットで知らせてやれば、客が来るかもしれないわけね?」
 リシュティアの問いに泰地はうなずく。
「ああ、店舗維持する経費稼げるほど人が来るかは、正直厳しいと思うが、まずは日時限定で場所借りてイベントっぽくやるのがいいんじゃねぇかな。その時にゃ、及ばずながら俺も力になりたい」
「でも、それにはまず、ドリームイーター倒して本物の店長さん起こさないとね」
 少々複雑な表情で、銀子が呟く。
「自分が他人の後悔から生まれた仮初めの存在とも知らずに、一生懸命頑張ってるのを倒すのは、ちょっと可哀想な気もするけど……でも、モザイクはキモいし」
 最後のところは声には出さず、銀子は吐息をつく。
 すると、その時。『筋肉道場』から凄まじいばかりに大きな声が響いた。
「どうした?」
 即座に泰地と銀子が店に入って訊ねると、トレーニングを受けているはずの獅郎が複雑な表情で答える。
「いや、俺のトレーニング早仕舞になっちゃってさ……さっきからアンジェの番になってるんだが、なんか、内臓筋を鍛えるとかで……」
 そこまで獅郎が告げた時、店の中央、ちょうど本物の店長が気絶していたあたりで、向き合ったアンジェラとドリームイーターが、同時に凄い音量の声を出す。
「わっ!」
「……なるほど、内臓筋トレーニングか」
 反射的に両手で耳を塞ぎながらも、泰地は納得した表情になる。異種族オラトリオで、しかもケルベロスのアンジェラが該当するかわからないが、通常、成長期前の子供が成人と同様な筋肉トレーニングに励むと、身体の発育バランスが悪くなる危険性があり、最悪、骨格形成に異常を生じる怖れすらあるという。
 おそらく店長は、その危険性を知っており、彼の知識と記憶を写したドリームイーターは、どう見ても子供のアンジェラに、発声による内臓筋トレーニングを勧めたのだろう。
(「まあ、アンジェラはミュージックファイターだしなぁ……本気で声だしゃ凄いことになるよな」)
 とりあえず、まだトレーニングは続行中ってわけだ、と、呟いた泰地は、ふと気が付いて獅郎に訊ねる。
「ところで、何であんたのトレーニングは早仕舞になったんだ?」
「それがさ、獣人……ウェアライダーと地球人じゃ、筋肉の構造や付き方がかなり違うらしいんだ。勉強不足で申し訳ないとか謝られたけど、結局、無難に筋肉一通り動かして、それ以上はわからんってことで終わりになった」
 そりゃまあ確かに、鍛えなくてもライオンは強いけどよぉ、と、獅子獣人の獅郎は複雑な表情のまま唸った。

●さらば幻影の筋肉店長
「はーい、トレーニング終わりました、です」
 更に一時間後、アンジェラが『筋肉道場』のドアを開けて告げる。耳を塞がずには居られないほどの大音響発声トレーニングが延々続いたので、現在は泰地と銀子に加え獅郎も外へ出ている。
「喉が渇きました、です。お飲み物一杯ください、です……イチゴ味がいい、です」
「ほいよ」
 泰地がプロテインドリンク・イチゴ味を、タンクから紙コップに注いで渡す。アンジェラはごくごくと飲みほし、にっこり笑う。
「おいしい、です。では、皆さんで記念写真を撮りましょう、です。店長さんも、こっちきてください、です♪」
「ぼくがしゃしん……とるね」
 アンジェラ(105.8cm 七歳)を除けば最も小柄な壬晴(135.9cm 九歳)が、スマホを手にするりと道場内に入る。
 それからトレーニングをした四人とドリームイーターがドア際に並び、壬晴が店の奥側から写真を撮る。
 そして、泰地が素早くドリームイーターの正面に立って告げる。
「ありがとよ。トレーニングの成果を披露したいんだが、見てもらえるか?」
「成果、ですか?」
 怪訝そうな声を出したドリームイーターのモザイクに覆われた顔面を、泰地の必殺『顔面蹴り』が直撃する。
「わぷっ!」
「一生懸命トレーニングしてくれた返礼がこれってのは、正直、悪いと思う。だけどあんたは仮初めの存在、あんたが居るとあんたの実体が目覚めない」
 たぶん理解できないだろうけどな、と思いつつも、泰地は真摯に告げる。
「私の……実体?」
 ドリームイーターは、更に困惑した声を出す。
 すると、その背後のドアが強引に押し開けられ、程良くできあがった源三郎が、ドリームイーターの背に向けて必殺攻撃『外法幻禍陣(ゲホウゲンカジン)』を放つ。
「闇の深淵にて揺蕩う言霊達が呼び覚ませしは降魔の波動(ヒック)彼の者の前に驟雨の如く撃ち付けよ!」
「ぐわっ!」
 奇襲を受けてドリームイーターはよろめき、源三郎は御機嫌で言い放つ。
「冥界パワーを相手の体にシューッ! 超、エキサイティン!」
「くっ……」
 呻きながらドリームイーターはモザイクの一部を飛ばし、背中に貼りつける。
 そこへリシュティアのサーヴァント、ビハインドの『ネイロ』がポルターガイストを起こし、街路に出ているトレーニング器具を飛ばしてドリームイーターに打ち付ける。
 続いてリシュティアが紙兵を撒き、前衛にBS耐性を付与する。
 そしてアンジェラが、一瞬だけ巨大化させたオラトリオの天使羽で相手を包む。
「なっ!?」
「もう、逃しません、です♪」
 にっこり笑って、アンジェラはドリームイーターを引き寄せつつお腹に膝蹴りを叩き込む。必殺技『天使の繭(テンシノマユ)』だが、はっきり言って、えぐい。
「ぐ……な、なんと凄い蹴り……お嬢さん、あなたは、いったい……」
「アンジェはケルベロスなの、です」
 胸を張って、アンジェラは告げる。
「そしてあなたは、デウスエクス……ドリームイーターさんなの、です」
「デウスエクス……ドリームイーター……」
 混乱した様子で、ドリームイーターは唸る。
「まあ、そういうことね。……何はともあれ、これが私の全力! 爆ぜなさい!」
 銀子が新武器の如意棒を振るい、ドリームイーターを強打する。ほぼ同時に背後側から、ノチユが縛霊手で一撃、ドリームイーターの全身を網状のエネルギーで縛る。
「ぐ……」
「自分が何者か知らずに逝くのも……それほど悪くないと思うぞ」
 知ってどうなるものでもないしな、と、ノチユは熱のない口調で呟く。
 そして壬晴が、真正面から必殺『ぐーぱんち』を叩き込む。当初はいろいろ作戦を立てていたのだが、予想より一方的な展開になったので、とりあえず殴ることにしたらしい。
「えいっ!」
「ぎゃっ!」
 ドリームイーターは悲鳴をあげ、壬晴はちょっと得意そうな顔になる。
「ふふん」
「よっしゃ、俺もいくぜ!」
 獅郎が、全力で獅子の咆哮を放つ。続いて泰地が正面から拳を打ち込み、ドリームイーターが前のめりになったところで、ノチユが背後から狙い澄ました必殺技『冥府に消ゆ(イルラカムイ)』を放つ。
「あの人は、散々後悔した。お前は、それを知らない。知らずに逝くのは、お前の幸いだ……悔いを残さず消えろ。地獄が待ってる」
 それはお前の墓標。彼はお前を導く神。後悔の幻影にすぎない存在にとっては、過ぎた最期じゃないか、と、ノチユは淡々と呟く。
 そしてドリームイーターの全身が崩れ、一瞬、モザイクの山になったが、それもすぐに虚空に融けて消えた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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