ミッション破壊作戦~魂は熱く燃えて

作者:木乃

●降下作戦
「前回の作戦で使われた『グラディウス』が再び使用できるようになりましたわ。引き続きミッション破壊作戦を実行して頂こうと思います……が、その前にグラディウスについて知らない方もいらっしゃるでしょう」
 そう前置きしてオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は『グラディウス』について説明を始めた。
「『グラディウス』は長さ70cmほどの光る小剣型の兵器ですが、通常の武器としては使用できませんわ。その代わり『強襲型魔空回廊』を破壊することが可能です。ご自身の武器とは別に持ち運べますので、武器はご自由に装備してくださいませ。使用するとグラディウスはグラビティ枯渇状態になりますが、数週間~数か月で再使用できるため、必ず回収するようお願いしますわよ」
 とはいえ、命はひとつしかない。命の危険があるような場合は『生き残ることを最優先して欲しい』と眉を下げる。
「今回は『攻性植物』の関わるミッション地域に向かいます。現状などを踏まえて、実行する地域は皆様で相談して決めてくださいませ」
 次に『グラディウスの使用方法』について概要が語られる。
「強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢、通常の方法で辿り着くことは非常に難しいですわ。場合によっては、敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もありますので、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行いますわよ。強襲型魔空回廊の周囲は『半径30m程度のドーム型バリア』に囲われており、このバリアにグラディウスを触れさせれば良いので高空からの降下であっても攻撃が可能です」
 8人のケルベロスがグラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊することすら可能になる。
「もし一度の降下作戦で破壊できなくても、ダメージは蓄積されます。最大でも10回程度の降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊することができると思われますの。強襲型魔空回廊の周囲には強力な護衛戦力が存在しますが、高高度からの降下攻撃を防ぐことは出来ませんわ」
 グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させ、グラディウス所持者以外に無差別に襲いかかる。そのため防衛を担っている精鋭部隊であっても防ぐ手段はない。
「皆様はこの雷光と爆炎によって発生するスモークを利用し、その場から撤退を行ってくださいませ。貴重なグラディウスを持ち帰ることも作戦の一環ですわ」
 魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波である程度無力化されるが、完全に無力化することは不可能――その理由は『強力な敵』の存在である。
「幸い、混乱する敵が連携をとって攻撃を行ってくることはありません。目前の強敵を素早く倒して撤退できるようにしてくださいませ。もし、時間がかかり過ぎて脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合は、降伏するか暴走して撤退するか手がなくなるかもしれませんわ……命あっての物種です、あまり無茶はなさらないでくださいね?」
 攻撃するミッション地域ごとに現れる敵の特色がある、攻撃する場所を選ぶ時の参考にするのもいいだろうとオリヴィアは付け加えた。
「皆様が無事に撤退すること、これがもっとも重要ですわ。強敵との戦闘は避けられないでしょうから、万全を期して臨んでくださいませ」


参加者
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
白咲・朝乃(キャストリンカー・e03561)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
エストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843)
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)
曽我・小町(天空魔少女・e35148)
カルマ・プレンダーガスト(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e35587)
八点鐘・あこ(ウェアライダーのミュージックファイター・e36004)

■リプレイ

●八本の刃
 深々と降り積もった雪によって奥飛騨温泉郷は白化粧を帯び、立ち昇る湯気も今や凍えた吐息のように映る。ヘリオンのハッチから身を乗り出せば、氷瀑と化した平湯大滝の姿が見えた。
 身を切るような冷たい風を頬に受けながら白咲・朝乃(キャストリンカー・e03561)は唇を嚙み締める。
(「前回は破壊できなかったけど、今度こそ!」)
 彼女の執念に応える形で決まった出撃地域、エストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843)も降下に向けてグラディウスを手にし、不思議そうに見つめていた。
「これがグラディウス……」
「見た目以上に重みを感じるのは、この作戦の重みかしら?」
 その傍ら、曽我・小町(天空魔少女・e35148)はシニカルな笑みを浮かべた。朝乃の内心を察してか、ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)が心情を吐露する。
「デウスエクスは必ず仕留める。ダモクレス、死神、ドリームイーター……そして攻性植物」
「ああ。いつまでも奴等の好きにさせてちゃ、ケルベロスの沽券にかかわるってモンだぜ」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)が力強く拳を握り締めれば小町も「そうね」と目を細める。
「やってみせるわよ、アタシ達一人で戦っている訳じゃないもの」
「そ、そうですっ! あこも、がが、頑張るです!!」
 八点鐘・あこ(ウェアライダーのミュージックファイター・e36004)は今回が初任務。緊張でグラディウスを握る手は震えていたが、緑の瞳は決意に充ち満ちている。
「いい頃合いだ、勝負と行こうじゃないか」
 時は来た、今こそ刃を振り降ろさん!
 いの一番にゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)が一歩踏み出す。
「さあ、さっさと砕け散ってしまえよ……!」
 俺達の想いの強さ、回廊のバリア――どっちが強いか。
 賭けるチップは全てグラディウスに投じた、伸るか反るかの大勝負!
「俺はもちろん、想いの勝利にすべてを懸ける……!」
 ケルベロス達は寒空に続々と身を投じる。カルマ・プレンダーガスト(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e35587)も、自由落下の中で眩い光を放つ小剣を握りしめていた。
「今まで随分やりたい放題やってくれたじゃないか、だが今度はこっちの番だ――」
 高所からの落下は緊張するし、叫ぶなんてガラじゃない――けれど、そうも言ってられない。輝く小剣の切っ先にカルマは全神経を集中させる。
「お前らにやられた奴等の分も、俺達がこの一撃に篭める! とっとと砕けちまえ!」
 ウイングキャットのベルと共に落下するあこも歯を食いしばり、目標を定めて刃を振り上げた。
「こんなのが居たら、お花を好きでいられなくなってしまうのです!」
 凍えるような寒さとは別に、震えだしてしまう自身を奮い立てようとさらに声を張り上げる。
「ぜーーんぶ、引っこ抜いて、切り刻んで、蒸し焼きにして、奥飛騨に埋めてっ! 罪のない普通の植物のご飯にしてやるつもりでぶっ枯らすのです!!」
 エストレイアもグラディウスに自身の決意を吹き込むように大きく息を吸いこんだ。
「私達はケルベロス、力なき人々の守護者!」
 人々に平和をもたらすためにも、必ず打倒して見せる――その為にも、まずは!
「この誓いを力と為し! 必殺の一撃を受けて頂きます!」
 高らかな宣言と共に刃を振り下ろせば甲高い音が帰ってくる。目に前に生じる白煙に飛び込みながら、ウタはグラディウスの刃を見つめ、
(「地球と、地球に息吹く命を!いいようにされて堪るか! ……誰かに脅かされることなく、皆がそれぞれの夢を目指して生きる未来を気づく為にも」)
「――俺達ケルベロスの牙があるんだよ……俺達の未来を!可能性を!!消させやしないぜッ!!」
 デウスエクスを倒して未来を切り開く! ――決意を込めた力強い雄叫びが平湯大滝周辺に響き渡る。ウイングキャットのグリと共に小町も地表めがけて直下し、大地を覆う防壁を睨みつけた。
(「大地に蔓延る絶望の根、それをもたらす魔空回廊……けどね」)
「この程度で、あたしの覚悟を折るには足りない……!」
 薄っぺらい壁の為に足を止めるつもりなんてない――小町は柄を両手で握り直し、
「この一撃は、この力は! この地に掲げる、希望の灯火よ!」
 気迫を込めた一撃が新たな爆風を生みだす。煙の先を見据えようとヴァーノンは目を細める。
(「朝乃さんとの因縁はここででおしまいにしてあげる。そしてボクの……いや、俺の力の糧となれ」)
 多くの言葉は要らない。ただひとつの願いを――この刃に!
「グラディウス、俺の力はまだまだだ……力を貸してくれ!」
 7つ目の閃光が爆ぜ、再び目にするその光に朝乃の忌まわしい記憶が微かに蘇る。
(「……私の宿敵は私が止める、諦める訳にはいかないの」)
 これ以上被害者を増やしたくない、1度で壊せなくたって。何度でも、何度だって! ――私は挑み続ける覚悟があるんだから!
 この先に待ち構えているであろう『宿敵』を狙い定めるが如く、両手でグラディウスを引き上げる。
「てやあああああああああああああああああああああああああああ!!」
 全身全霊、全体重すら乗せて貫こうと朝乃の渾身の一撃が突き立てられた。

●命に咲く花
「やったか!?」
 愛用のストローハットを被り直してゼフトは頭上を見つめる。
「……いや、バリアは健在だよ」
 ヴァーノンの手の平には硬い感触がまだ残っていた。
 バリアはまだ破られることなく、展開し続けていることに歯噛みする朝乃は緩衝材替わりになった雪の中から身を起こす。
「高山市のほうへ移動を――」
「ま、待っ……行か、ないで…………」
 雪と爆煙で白んだ視界の先から歩み寄る陰、震える声と共に近づく女性の頭部には攻性植物『フェイタルブーケ』が揺れていた。
「皆様、強敵ではありますが、全員で力を合わせれば勝てない敵ではありません!」
 敵の姿を見つけるやエストレイアが第二の星厄剣を引き抜く。
「星厄の刻、来たれり。 ――儚き者よ、朽ち果てろ!」
 踏み込みと共に放たれた黒い斬撃は、女性に纏わりつく蔦を斬り落とす。水のような液体を吹きこぼす攻性植物にウタも身の丈ほどの鉄槌に重力を込めた。
「ぶっ潰れろ!」
 真横から振り抜いた全力の一撃に女性はふらつくが、転倒する事を寄生体が許さない。
「あ、いや、あぁぁ、や、ぁ、あああああああああああああああああああああああ!?」
 恐怖と苦痛に満ちた悲鳴が響き渡る。女性の白い頬にフェイタルブーケの根が浮かび上がり、痛ましい姿をゼフト達に見せつけた。
「悪趣味な奴だな」
「……願いの力を俺に」
 ゼフトの放つ黄金の果実に照らされながら、ヴァーノンが苦悶する女性に向かって疾駆する。
(「綺麗な女性だ……ボクの心を掻き乱すほどに」)
 在りし日々、共に過ごした想い人によく似た姿。苦い記憶がちらつく中でヴァーノンは引き金を引く。弾丸は美しい鶴に姿を変えて胸に咲く花を射貫いてみせる。
 新たな苗床にせんとフェイタルブーケが放つ種をグリが受け止め、後方から小町が飛び上がり、
「攻撃役なんて滅多にしないんだけど――あんたを片づけて、さっさと帰らせてもらうわ!」
 縮こませた体を伸ばす勢いで頭上から飛び蹴りを放つ。朝乃がグラビティ・チェインのフルートを顕現させるとフェイタルブーケに殺気を込めた瞳を向ける。
「何度現れたって、何度でも倒すまで!」
 奏でる一節は音符の弾となり、不規則な軌道を描きながらフェイタルブーケにぶつかり弾ける。
「あ、は、ぁ、あぁああッ!」
「っ! ……ベ、ベル、行くですよ!」
 想像を遙かに超えた命のやりとりにあこは放心しかけたが、すぐに気を取り直してバイオレンスギターを手に歌いだす。
「ここにいないにゃ♪ そこにいないにゃ♪ そうだとすると、あそこかにゃ♪」
 和やかな童謡のようなメロディがウタ達の精神に獲物を狙う猫の鋭さを与える。カルマもバスターライフルを取り出すと、一般人とは思えぬ速さで動く女性に照準を合わせた。
「お、俺達を舐めると怪我するぞっ」
 虚勢を張ってまるで三下のようだ、内心で自嘲しながらバスタービームでプレッシャーを与えていく。光線をすり抜けたフェイタルブーケは根の蠢く種子を放ち、直撃して吹き飛ぶカルナの肩口に根を張り始める。
「~~~……っ!」
 フェイタルブーケの一撃の重さにカルマは肝を冷やすが、ボクスドラゴンのぷわぷわが気弾を放って根を張る種を浄化し事なきを得る。

 ケルベロスは自身の攻撃がどの程度の命中率が知覚出来る。それはデウスエクスも同じだが、全体的に安定していないために予想より時間がかかっていた。煙幕代わりのスモークも収まり始め、雪を踏む微かな音が複数近づいてきている。
 残り時間も僅かとなりグリとベルが霧散していく中、苗床の女性が朦朧とするのも構わずフェイタルブーケは攻撃を続け、小町は眉を顰めながら蜃気楼で叩き落す。
「さすがにしぶといわね!」
「さっさと解放しやがれってんだ!」
 早く決着をつけねば――ウタが熱い魂を込めて希望の歌を謳う。
「世界を紡ぐは想い、未来を創るは心――ならば燃える希望で突き進もうぜ!」
 猛る想いをこめた歌声は衝撃波となりフェイタルブーケの花弁を散らす。その最中、小町は両手を胸の前で交差させ、
「……こういうのは如何?」
 絡み合う白と黒の光線が食虫植物を模した左腕を貫く。光の粒子と化し突撃するヴァーノンをフェイタルブーケは飛び越し、着地する瞬間を狙ったカルマが痛む体をおして突貫する。
(「あと一発もらうとヤベ―、けど……!」)
 足を掬うように鋭い蹴りで膝元を蹴りつけると、すかさず後退しようと飛び退くカルマへの追撃を朝乃が間一髪で止める――ゼフトが至近距離まで迫るには充分な猶予があった。
「勝負だ、運命の引き金はどちらを選ぶかな」
 当たるも八卦、当たらぬも八卦――きわどい確率が彼の勝負師魂に火をつけた! 躊躇なく引き金を引くと直撃を避けたフェイタルブーケの白百合が弾け飛び、エストレイアが畳みかける。
「あこもお手伝い、するです!」
「はい! ――メイド騎士、エストレイア参ります!」
 ふらつきながらもあこは満月に似た光球を放ち、強化されたエストレイアのヴァルキュリアブラストが直撃して寄生する植物の一部が萎み始めた。
「朝乃さん、行って!」
 新たな寄生体を求めてか、あこに種を飛ばそうと構えるフェイタルブーケをヴァーノンは早撃ちで阻む。
(「助けるのが遅くなっちゃって、ごめんね……」)
「――溺れるほどの春を奏でてあげる!」
 その音色は雪を割り、芽が吹き、春の暖かさを思わせた――リズミカルに揺れる音符は左右に動き、しかし目標めがけて一直線に突き進む。音の弾が炸裂すると髪飾りのように咲き誇った花は勢いよく萎み、踏み荒らされた雪に落ちた。
「おねーさん! 大丈夫ですかぁっ!?」
 あこが慌てて倒れ込んだ女性に駆け寄る。蒼白な顔を見て、まさかと手を伸ばせば微かに脈打つ感覚が伝わってくる。
「生きてるか!? だったら俺が背負うぜ!」
 ウタが瀕死の女性を背負っている間にスモークは晴れ、いよいよ視界がクリアになっていく。
「全員グラディウスはあるな、全速力で離脱するぞ!」
 ゼフトの言葉に全員が手元を確かめる。戦闘中に落としていないことを確かめ、急ぎこの場を離れようと走りだす。
 敵の警戒範囲を脱したカルマ達は衰弱した女性を救うべく、急ぎ病院へ向かうのだった。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。