ソード・ハリブル・デンティネス

作者:鹿崎シーカー

「汚らわしいッ!」
 甲高い絶叫が上がり丸い物が宙を舞う。光の軌跡が高速で走り、空に丸い影が次々と飛ぶ。一拍遅れて噴き出す赤い間欠泉。
「汚らわしい汚らわしい汚らわしいッ! アアアアアアアアアァァァーッ!」
 金属質なシャウトとともに、砂ぼこりが巻き上がった。薄茶の煙幕に現れたのは、こけた頬とギラギラした目が特徴の青年である。象牙色の鎧をまとい、垂れ下がった長髪は病的な白。肩で息をする長身の手にはレイピアが握られている。
 彼の背後で、血の勢いを緩めた死体が倒れ伏し、放物線を描いた頭が着地した。広がる血だまりには見向きせず、彼は鎧の上から二の腕をこする。
「ハァーッ、ハァーッ……かゆい、かゆ過ぎる。なんなんだ一体……アスガルドより汚らわしいッ! 私がッ! 汚れるッ!」
 ヒステリックに叫んで息を吐き、レイピアを揺らす。左右に飢えた獣めいた目を走らせた後、彼はふらふらと歩き始めた。
「わかる、わかるぞ汚物共。その辺にいるんだな……」
 純白のレイピアが剣呑に輝く。その刃もまた、彼と同じく病的なまでに真っ白い。
「逃がさないぞ……私を汚す病毒はッ! 全部殺してやるゥゥゥゥッ!」
 悲鳴を残し、彼は白い風となった。


「エインヘリアル……また、斬れる……」
「うんまぁ要はそうなんだけど……ちょっと待って!? 怖いから!」
 正座した屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)から若干距離を取りつつ、跳鹿・穫は恐る恐る資料を出した。
 とある広場にて、『アイボリー』というエインヘリアルによる虐殺事件が予知された。
 自分以外の者を汚物と断じる彼は、かつてアスガルドにて大罪を犯した重犯罪者であり、永久コギトエルゴスム化の刑に処されていた。
 しかしながら犯罪者をコギトエルゴスムのまま保存するより、地球にけしかける方が得だと考えたエインヘリアル達は彼を解放。アイボリーが一般人を虐殺できればそれでよし、たとえケルベロスに敗れても、自分達には一切損害がないという卑劣な打算の上で為される計画である。
 相手の思惑に乗る形となってしまうが、放置すれば多くの人々が殺されてしまう。急ぎ現場に迎い、アイボリーの虐殺を阻止して欲しい。
 今回の戦場となるのは、芸術的アスレチックで有名なとある広場だ。近くに美術館がある関係で老若男女問わず多くの人々が集まり、家族連れも多数見られる場所の中央でアイボリーは復活する。
 だが、今回は彼が蘇る前に広場に辿り着けるため、待ち伏せてから戦闘することになる。ただ、コギトエルゴスムは小さく、人は多い。先に人払いをしてしまうと襲撃場所が変更されてしまう以上、避難はアイボリー蘇生後にするべきなのだが、彼はレイピアを武器に持つスピードファイター。気を抜けば次々と殺されていくだろう。
 また、アイボリーは息つく暇ない連撃と高速ステップを持ち味にしており、手強い。自分以外を汚物と見下し、殺し尽くすまで暴れ回る凶悪性とは裏腹に、精緻を極める剣術には注意が必要だ。
 ちなみにアイボリーは周囲にいる生物を嫌うが、攻撃しても死なない相手には憎悪を向ける傾向にある。上手く利用できれば、避難や戦闘を有利に進められるかもしれない。
「場所と相手がネックになるけど大丈夫。みんなで強力して事に当たれば……あの、あのー……?」
「エインヘリアル……今度はどんな切れ味かな……ふふっ」


参加者
ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)
夜殻・睡(氷葬・e14891)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)
西城・静馬(創象者・e31364)

■リプレイ

 午後。美術館近くの広場は、多くの人でにぎわっていた。
 妙に歪んだアスレチックに群がる子供を微笑ましく見守る親達。そんな平和かつにぎやかな広場の片隅で、ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)は、居並ぶ警備員にうなずいた。
「そういうわけで、デウスエクス出現の際に避難誘導をお願いしたい。デウスエクスは僕らが引きつける」
 広場の雰囲気に似つかわしくない、緊迫した表情で了解する警備員達。その中で、新入りらしき若手が口を挟む。
「ま、待った。間に合わなかったら危険でしょ。それなら事前に避難させた方が……」
「そしたら今度は違うところに行くってさ。だから、そういうわけにはいかない」
 陽光を手でさえぎり、夜殻・睡(氷葬・e14891)が気だるげに言う。若手は物言いたげだったが、先輩にたたかれ渋々動いた。その後ろ姿を見送り、ディクロは携帯を取り出した。
「もしもし? 準備できたよ」
「お疲れ様です。こちらは今のところ異常なし」
 通信を受け、イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)が周囲を見渡して報告。ふと目を合わせた屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)にふるふると首を振られて頬を硬くする。
 他方、きょろきょろする銀龍を乗せたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)はマイクにささやく。
「こっちもなんもなし……ちょっと、どこまで行くつもり?」
「だいじょーぶっすよーっ! わかってるっすー!」
 人波の中で大声を上げ、笑顔で跳ねる狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)。アビスは赤くなる顔をマフラーで隠し、そっぽを向いた。
「それで、あと二人はどうなの」
「こちらも、今のところ異常ありません」
 奇怪な滑り台の脇に立ち、西城・静馬(創象者・e31364)は注意深く目を走らせる。頭上では、滑り台壁面に直立するパーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)。今だない変化に、イピナが小さく息を吐く。
「……こちらから攻勢を仕掛けられればいいのですが。後手に回らざるを得ないのは苦しいですね……」
「人、多い……見つからない……」
 刀を抱いた桜花がぼやく。大小の人が行き交う光景を、上から注意深く眺めるパーカー。真下で指さす子供を無視して広場の右から左へ視線を移す。直後瞳がギラリと光り、何気なく滑りかけた視線が一点で止まった。
「狐村。今、何蹴った?」
「ふぁ? 蹴った? 楓さんがっすか?」
 突然呼ばれ、楓がきょろきょろと周囲を見回す。だが人の波もさっきと同じで、目に見えるような変化はない。パーカーは頭をかいて目を凝らした。
「蹴ったな。光る……なんか丸いモン。その辺にねえか」
「光ってて、丸い? まさか……」
 静馬がつぶやいた瞬間、広場中央で虹色の光が噴き出した。近くにいた中年や子供が驚いて飛び退く中、煌々と天突く光の塔から人影が踊り出る。
 現れたのは、三メートル近い長身の青年。やせた体に象牙色の鎧を着こんだ彼は沈黙する人々をにらみ、歯を軋らせた。
「汚らわしい……」
「え?」
 聞き返す少年の前で肩を震わせ、腰に手をやる。長い白髪を振り乱し、エインヘリアルは半狂乱で刀を抜いた!
「汚らわしいッ! 汚ないその目で私を見るなァァァッ!」
 剣閃! 空中が瞬き銀の軌跡が描かれる。横一文字に斬れたのは天使の氷像。アビスは肩越しに少年を見返り、冷たく言い放つ。
「……さっさと逃げて。邪魔だよ」
「デウスエクスだ! みんな逃げろーっ!」
 ディクロの声と一部でわき立つ殺気が、止まる人々を動かした。悲鳴を上げ、逃げ出す群衆を警備員達が慌てて誘導していく。胸を横切る傷を凍らせ、アビスは挑発。
「そんな攻撃、効かないよ。剣が得意らしいけど……腕が鈍ったんじゃない? 寝てたせい?」
 アイボリーがレイピアを振り切った姿勢で顔を歪める。憤怒と嫌悪に染まるその横顔に、虹色に燃える刀を抜いた楓が突っ込む!
「ひゃっほー! 楓さんと勝負っすよーっ!」
「……キィィィィィッ!」
 振り返ると同時にアイボリーが搔き消え、ぎょっとする楓の顔面に足裏がめり込んだ。
「へぶっ!」
「私に寄るな! この汚物がッ!」
 膝のバネが楓を軽々吹っ飛ばす。地面で足をこする間に楓は回転して着地、再突進! 犬歯をむき走りかけたアイボリーの両足に氷の鎖がからみつく。氷の枝めいた翼を大地に刺したアビスをにらみ、アイボリーは虹色炎の刺突をさばいた。斬れ飛ぶ氷の縛鎖。レイピアの刃が閃く!
「キェェェェェェッ!」
「うおおおうおうおう!」
 弾幕のごとき斬撃が防御を追い抜き赤いゴスロリドレスを斬り刻む。高速で振るわれ陽炎と化す刀で対抗しながら楓は満面の笑顔を浮かべた。
「おー! 楓さんより速い凄い! でぇーもっ!」
「ングッ!?」
 突如アイボリーふくらはぎの装甲に衝撃! 一般人を背に膝立つパーカーがボルトアクションで次弾装填、肩部を狙撃。足と肩に埋まった弾丸を信じられないと見下ろすアイボリーの懐に赤筋まみれの楓が飛び込み袈裟掛けに斬る!
「戦いなら楓さんも負けないっすよーっ!」
「皆さん早く安全な場所まで! 楓さん、チェンジ!」
 早口で叫びイピナが金の柄の刀を抜いて迫った。楓の髪をひっつかんで地に引き倒したアイボリーは彼女を踏みつけて加速。風めいて突きかかる剣をイピナは紙一重で回避し剣戟でのインファイトを挑む!
「よくもッ! よくもよくもよくも私の星霊甲冑をッ! 鎧に傷をぉぉぉッ!」
 五連刺突斬り上げ斬り下げ、くの字の軌跡二度の迎撃肩口めがけて斬り下ろし。
「頭の天辺から足の爪先まで見事に真っ白ですね。まあ、すぐにあなたの血で染めて差し上げますが!」
 チャイナ服めいた騎士礼装に走る無数の裂傷。足への刺突肩への二撃の直撃を辛うじて避けたイピナの脇腹を貫くレイピア! アイボリーは切っ先を振り肉を千切るように剣を抜き、血を噴き体勢を崩す首筋めがけて引き絞る!
「私の鎧を傷つけた報いだ! 死ねェ小娘ェェッ!」
「やれやれ。正に凶刃……といったところか」
 二刀で砕けたふくらはぎを斬り、静馬はがら空きの脇腹に黒手袋で包んだ手を叩きこむ! 掌底に収束した光が爆発、光の波が傷ついた鎧を食い破った。絶叫するアイボリーを追い抜き、静馬はイピナを連れてすぐさまアウェイ!
「夜殻、屍ッ!」
「おー」
 気の抜けた返事を返した睡が抜刀。淡く白い光をまき散らして赤銅の鞘を振りかぶる!
「っぁあああああ! 私の、私の鎧……鎧がァァァッ!」
「隙ありだッ、と」
 横面を鞘で殴られふらつくアイボリー。我に返った時には既に、桜花は零距離!
「ふふふふふ……うふふふふ!」
「……ッ!」
 目を限界まで見開きバックステップ。流れるような回転斬りが腹部を削る。散る鎧の欠片を浴びた桜花は歓喜にむせいで刃を走らす!
「雪みたい! あははははははははははははははっ!」
 縦横無尽に踊る剣先が刻まれた切り傷を押し広げ、えぐり、深くする。削りカスとなる鎧を見たアイボリーが狂乱して叫んだ。
「触るな! 私に触るなァァァッ!」
 連続斬を腕で払い反撃に八連続の突きを放つ! 涼やかな着物に赤い染み。しかしなおも狂気に笑う桜花を割るべく剣を振り上げた瞬間、アイボリーの白い首に真紅のリボンが巻き付いた。
「ぐぁッ……」
「ったくもー、ホントに煩い」
 鎧の背に取りついたディクロがリボンの巻かれた腕を引く。リボンが絡んだ銀目のナイフで長髪に隠れたうなじを突き刺す!
「いい加減その汚らわしい口を閉じろ。煩いんだよ!」
「…………ッ!」
 声なく絶叫しディクロを振りほどかんと暴れるアイボリー。滅茶苦茶に斬撃を繰り出す彼を取り囲むように冷気が噴き出し、氷の結晶が出現。羽織ったコートをはためかせ、パーカーはガンスピンして拳銃を構えた!
「地に沈み、風水に滅せ岩窟の墓。ディクロ、屍! うっかり当たるなよ!」
 引き金をしぼると同時に銃口からグレーの光がほとばしる! 血走った目で光線をにらんだアイボリーは一閃して魔光を断ち切り、レイピアを返して肩のディクロに突き込んだ。とっさに飛ぶ胸を打つ一撃。反撃が止んだ隙に睡と桜花が斬りかかった!
「いつまで寝てるの。早く行きなよ」
「ありがとうございます、アビスさん」
 マフラーめいて巻いたコキュートスから冷気を受け取り、イピナが戦線に飛び込んでいく。アイボリーと桜花の剣閃の嵐を避け、鞘でガードしながら睡は高速でサイドステップ。分身して膝を射抜かれた桜花を庇い、斜めの突きに鞘を当てて軌道を逸らす!
「残念だったな。こんな温い剣で壊れるほどヤワじゃねぇよ」
「このッ……汚物がッ……!」
 奥歯を砕けんばかりに噛みしめアイボリーは高速バックし地をなめるような姿勢で走った。鞘を持つ手を白刃が貫通! すぐに引き抜き分身ごと連撃刺突のラッシュを浴びせる。そこへ氷壁を蹴り横殴りの雨を飛び越えた楓が巨大なハンマーを振り下ろした。
「必殺! 楓さん特製すぺしゃるうるとらでらっくす……」
「鬱陶しいんだよォォォォォッ!」
 睡を切り払って落下するハンマーを真っ向から迎撃! 槌の頭を撃ち抜いて投げ、氷壁にぶつける。直後、背後に迫ったイピナの斬り下ろしが壊れた肩の装甲に直撃。破片がこぼれ弾丸が埋まった。肉が潰れ血がにじむ!
「クアアアアアッ!」
 振り向きざまの一閃を屈んで回避するイピナ。その顎を蹴り上げレイピアを逆手に変えるアイボリーの顔に黒い縄が巻き付き引っ張る。目口をふさがれたたらを踏む手に氷壁で跳ね返った銃弾が命中。稲妻めいて踏み込んだ静馬の回転拳が鳩尾をえぐった。くの字に折れる巨躯の長身!
「コキュートス!」
 アビスが相棒に指示を出し、両手を交叉。淡く光る氷壁から噴出したダイヤモンドダストが戦場を包む。アイボリーは顔に巻きつくディクロの尾をむしりとり、手に光を集める静馬を血走った目で見据える。
「自分以外を認めぬ故の暴力か。お前は何に怯えている?」
「黙れ汚物ッ! 気安く寄るなッ!」
 逆手レイピアの突き下ろしが黒いコートの肩を貫く! 静馬は光る掌底を両ももに当て爆破。吹雪に覆われかける真上をパーカーが跳んで銃撃を敢行。銃弾は爆発箇所に吸い込まれ血飛沫を散らした。
「ケッ。生ゴミに汚物言われちゃたまんねえよな。そうだろ!」
「悪いけど、お前にはここで死んでもらうよ。殺したいでしょ? ……かかって来なよ」 吹雪を操り、アビスは氷雪地帯を縦に割る。開けた視界、足に赤い氷を生やし憎々しげに口を歪めるアイボリーに、桜花が駆けた。黒い瞳が狂喜に輝く!
「あははははは! 斬れるとこ、見つけた!」
 切っ先を振り俊足で疾るアイボリー! 象牙色の風とすれ違いざま桜花は刀を一閃。直後、二人を刻む傷から血が噴き出した。髪に触れ、指先に着いた赤を見止め悲鳴を上げる!
「あ……アアアアアアアァァァァァッ! 血が……血がぁぁぁぁぁッ!」
 金切声を発する喉を赤いリボンが締め上げる。リボンを頼りに跳躍したディクロがナイフを引き抜き、呪文浮かぶ帯の上から首に突き刺した。
「何回言えばわかるかな! うるさいんだよ!」
 錯乱するアイボリーに乗ったまま星型のランタンを掲げ、おぼろげな光で睡の分身を照らし影を落とす。それらは一瞬にして全て消え、睡本人の影から黒い大玉を掲げた楓が飛び出した!
「そろそろ疲れてきたっすか? さっきまでの速さが嘘みたいっす! そんなあなたに楓さんの必殺その二!」
「なんでもいいから巻き添えはやめてくれ」
 ぼやく睡に構わず大玉を投げた! 飛び降りたディクロと桜花を分身がかばって吹雪に退避。影の玉は縮んで弾け、全方位に無数の針を放つ!
「月影彩花っ!」
 リボンを引き千切ったアイボリーに黒い雨が降り注ぐ! 電光石火の斬撃で迎撃するも弾幕に押され全身を穿たれていく。青年は怒りと屈辱に叫ぶ!
「この……草にも劣る劣等種族がァ! 私を汚してッ! 許さない……殺してやるッ! 絶ッッッ対に殺してやるゥゥゥッ!」
 十七連撃、そして最後の針を一刀両断! 敵意に燃やしレイピアを握る彼に、冷気を宿した刀を持ったイピナが特攻を仕掛けた!
「行きます。私の連撃、受けきれますか!」
 強いて切っ先を上げ、血を吐く青年。黒針が刺さった体を、横殴りの氷雨が打ち据える!
「せぇぇぇあっ!」
 激しい連撃が鎧を削り奥の肉体をズタズタにしていく。肉片となって崩れゆく我が身を血涙と共に見下ろし剣を振り上げた。掲げたその手を、静馬の手がつかむ。
「確かに、私達は劣等種族なのかもしれない。……だが、己が弱さに向き合えぬ者に真の強さは宿らぬ。曙光よ、心に潜みし恐怖を暴け」
「夕、立ッ!」
 踏み込みから繰り出される最後の一撃が肉塊と化した腹を貫いた。同時に、青年の首を包む蒼い光が暴発。滑り落ち、転がる剣に大量の血がぶちまけられる。喀血した青年は顔を上げ、ケルベロスをにらみつけた。
「この、汚物……風情がッ……」
 呪いめいた言葉を残し、アイボリーは事切れた。


「イピナ、ずるい」
「……え?」
 遊具をヒールしつつ、イピナがふと振り返る。一層芸術的になった遊具に腰かけ、刀を抱えた桜花がどこか不服そうにじっと見つめていた。
「ず、ずるいって……何がですか?」
「イピナ、私よりいっぱい、斬ってた……ずるい」
「え、え? あの……」
「ずるい」
 一言ごとに迫る桜花に冷や汗をかくイピナ。二人の間に、楓が割り込む。
「まーまー! ケンカはよくないっすよ! 勝ったんだしいいじゃないっすか!」
「よかねえよ」
 目の端をひくつかせたパーカーが楓の頭をぐりぐりなでる。
「あだだだあだだだ! なにするっすかーっ!」
「こっちの台詞だ。ド派手にぶっぱなしやがって……俺達までウニにする気か」
「あーうん。どっちかっていうと僕らの方が危なかったよね。アビスさんのアレがあったから助かったけど」
 共に避難所から戻ったディクロが遠い目でつぶやく。パーカーは一旦手を止め、その顔をまじまじと眺めた。
「お前はいいだろ。黒いしよ」
「……パーカーさんがそれ言う?」
 気の抜けたやりとりを離れたところで聞きながら、マフラーに表情をうずめるアビス。心配そうに鳴く相棒を抱くと少し凍った遊具から立ち上がった。
「全員無事っぽいね。ヒールも終わったし帰ろうか。にしても、犯罪者まで使ってくるなんて……人手足りないのかな、エインヘリアル」
「犯罪者まで、ですか」
 静馬が顎に手を当て思考する。
「自分の手に負えない仲間を手駒に……まるで、黙示録騎蝗です」
「ん、ローカスト? ……ああ、イェフーダーか」
 静馬を挟んでアビスの反対、気だるげに後ろ髪をかく睡にうなずき返す。
「ええ、よく似ています。となると、次の一手は……」
 三月の風が広場の中を吹き抜ける。春の兆しがない突風は冷たく、からからに乾いていた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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