●
セリカ・リュミエールは、ケルベロスらへ深く一礼すると、これまでの経緯とこれよりの作戦について説明を始めた。
「釧路湿原で事件を起こしていた死神、テイネコロカムイの撃破に向かったケルベロスの皆さんが、無事にテイネコロカムイの撃破に成功したようです。
更に、テイネコロカムイの目的が、グラビティ・チェインを略奪し、牢獄に幽閉されている仲間を脱獄させる事であったことも判明しました。
また、牢獄に幽閉されていたのは、死者の泉を見つけ出したとも伝えられる、古のヴァルキュリア・レギンレイヴと、その軍団である事も突き止められました。
悠久ともいえる時間幽閉されていたレギンレイヴは、世界の全てに対する復讐を遂げる事を目的としているらしく、彼女が解き放たれれば『多数の一般人が殺害され、その魂からエインヘリアルが生み出される』ような、大変な事件が起こってしまうかもしれません。
テイネコロカムイが撃破された事で、レギンレイヴ達が、すぐに地上に出てくる危険はなくなりました。
しかし、テイネコロカムイが脱獄していたように、この牢獄も完全ではありません。
なんらかの理由で牢獄の壁が壊れ、レギンレイヴ達が解き放たれる可能性もあるでしょう。
更に、彼女達の存在を、他のデウスエクスが発見して利用しようとする可能性も否定できません。
特に、エインヘリアル勢力が、彼女の力を手に入れてしまえば、その勢力を一気に拡大させる事でしょう。
その危険を未然に防ぐためにも、牢獄を制圧し、ヴァルキュリアと死神達を撃破しなければなりません。
●
セリカは、ひとつの護符を取り出して、皆に示した。
「これは、テイネコロカムイを撃破したときに入手した護符です。これを利用すれば、牢獄のある場所へと移動する事が可能なのです。
そこには、40以上の牢獄が『鳥篭』のように浮いており、その一つ一つに1体のヴァルキュリアか死神が幽閉されています。
牢獄に幽閉されている者は、この『鳥篭』の外に出る事はできないようですが、牢獄の外から来たケルベロスならば、外を自由に移動する事が可能です。
皆さんは、テイネコロカムイが幽閉されていた『鳥篭』に転移した後、それぞれ攻撃目標とする『鳥篭』に移動して内部に潜入していただき、幽閉されている敵を撃破してください。
『鳥籠』の外から内部への攻撃は一切不可能なようです。
そのため、内部に潜入するまでは、こちらから攻撃を行う事はできません。
ただし、『鳥篭』の中から外へは、威力は大分弱まりますが攻撃が可能なようです。
そのため、敵の『鳥篭』の中に潜入するのに手間取れば、その間攻撃を受け続けてしまうかもしれません。
特に、特定のチームが40体のデウスエクスに集中攻撃を受けるような事があれば、威力が弱まっていたとしても耐え切れないかもしれません。
そこで皆さんには、チームごとにそれぞれ1体の敵を担当してもらい、その相手を挑発するように近づいて、攻撃を自分達に向けさせるように工夫してください。
また、レギンレイヴを攻撃するチームは、他の鳥篭で戦闘が始まった後にレギンレイヴの鳥篭に向かうようにすれば、集中攻撃を受ける可能性を減らせると思われます」
●
「皆さんにお願いしたいのは、堕ちたドルイド『大地喰い』なる死神です。
ドルイドとは森と共に生きると言われる隠者ですが、これは死神。汚染し枯らし死の荒野に変えてしまう存在です。
禍々しい紫のオーラで、多数を毒に冒し、白骨化した鳥に生命力を吸い取らせます。
また、手にした杖は骨の鹿になり、鋭く尖った角で癒えない傷をつけるのです。
牢獄にいる者たちは、脱出するための『グラビティ・チェイン』を求めており、戦闘中であってもケルベロスを殺してグラビティ・チェインを奪い取るチャンスを狙います。
特にこの『大地喰い』は、死した魂の髄までも穢し奪いつくそうとします。
弱った者を優先的に狙い、もし戦闘不能になろうものなら、そちらへ攻撃を集中するでしょう。
戦闘不能、あるいは危機に陥った仲間がいる場合は、速やかに牢獄の外に撤退させるなど、殺されない為の工夫が必要かもしれません。
デウスエクスも、少量ですがグラビティ・チェインを持っています。
多数の敵を撃破した所で、そこで得られたグラビティ・チェインを利用して残りの一部が牢獄から脱出する可能性は否定できません。
安全を考えるならば、できるだけ同じタイミングで敵を撃破できるようにした方がよいかもしれませんね。
幸い、鳥篭型の牢獄は外部から内部を確認できるので、他のチームの戦闘状況なども確認して、敵を撃破するタイミングを合わせる事もできるはずです。
危険な任務ですが、皆さんならばきっと勝利することと信じています。
……どうか、ご武運を」
勝利を祈る言葉と共に、セリカは皆に向かって深く一礼したのだった。
参加者 | |
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幸・鳳琴(黄龍拳・e00039) |
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086) |
ティスプ・ウェイリン(リチュオルエンチャンター・e00209) |
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706) |
眞山・弘幸(業火拳乱・e03070) |
ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284) |
月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994) |
ティユ・キューブ(虹星・e21021) |
●鳥篭へ
「見つけたわ、っていうか見つかったわ。っていうか大地喰いね、間違いないわ」
ティスプ・ウェイリン(リチュオルエンチャンター・e00209)は、断じた。
釧路湿原にある、古のヴァルキュリア・レギンレイヴと、その軍団を捕らえた牢獄。数多の鳥篭に押し込められた虜囚の一人が、ティスプの宿敵である堕ちたドルイド『大地喰らい』なのだ。
「ティスプさんの知り合いの姿を奪った死神、ですか。及ばずながらお手伝いします、です」
「環、色々と任せたわよ?」
「任されました。頼りにしてくれていい、ですよ、ティスプさん」
月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)にとっては、日ごろ世話になっているティスプへ礼を返す機会でもあった。
ここには今、多くのケルベロスたちが同じように集っている。
一番の目的は、脱獄を図るレギンレイヴとその軍団を打倒し、この牢獄自体を制圧することだ。
死神やヴァルキュリアを押し込めた、40以上の『鳥篭』が浮かぶ中、目的の篭を目指す。
「クッソめんどくせえよなあ……」
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)がぼやくのは、その作戦の内容だ。
レギンレイヴが打倒されるまで、時間を稼がなくてはならない。
対峙した相手を全力で倒しては駄目だというのだ。
「レギンレイヴが倒されるまでの辛抱だ」
眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)が宥める。『大地喰い』を許せない気持ちは彼にもあるが、作戦を遂行するのが第一だろう。
それぞれの篭の中から、虜囚たちが相対するケルベロスらに攻撃を仕掛けている。少数が集中攻撃を受けないよう、お互いが虜の注意を惹きつけあっているため、他の篭から攻撃が飛んでくることは今のところない。
「『大地喰い』! ケルベロスが貴方を討ち果たしに来ました!」
その役割は幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)とティユ・キューブ(虹星・e21021)が果たしていた。
篭をすり抜けて、骨の鳥が鳳琴を襲いかかる。だが不可視の圧力に引き戻されるようで、その勢いは弱く、鳳琴らへのダメージは微々たるものだった。
ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)がオウガ粒子を放出すれば、すぐにでも癒えてしまう。蓄積しなければ何とかもなりそうだ。
目的の『鳥篭』にたどり着くまで、ティユは挑発を続けた。
弘幸を先頭に立って鳥篭の扉を開いた。意を決して中に飛び込めば、たちまち紫毒の微風が吹き付ける。
「くっ!」
風を振り払い、大地喰いへと走り、指天殺を突き入れる。
まったく表情を失くしたままで、大地喰いは滑るように後退し、その一撃を躱した。
弘幸に続いて鳥篭に入ったケルベロスたちは、改めて敵の姿を見た。
白い衣服に白い肌と髪のドルイド。純潔を示す色を纏いながら、赤く光る瞳はあまりに邪悪だった。
「アルタード! ウェイリンの娘が来てやったわよ!」
ティスプがかつての名を呼ぶが、大地喰いは、ちらりと視線をやっただけだった。興味がないのではなく、何を言ってるのか理解していないと言った風だ。
つまり、彼はやはり死神であり、自分が―正確には父親が―よく知るドルイドはもうとっくにいないという事なのだろう。
ティスプはそう理解した。
もとより、死人を起き上がらせてはならない。
「また眠ってもらうわよ」
ティスプは両手に、リボルバー銃を構える。
死蝋のような無表情の死神の代わりに、骨の鳥が五月蠅く飛び回っている。
彼らを包む紫のオーラが、じわりとその密度を濃くしていった。
●
死神は、杖を骨の鹿に変える。骨の角を突き出して突撃した。ティスプが躱すと、また杖となって死神の手に戻る。
感情のない白い顔。だけど、その瞳には昏い輝きが宿っているようにも思えた。
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)はゾディアックソードで星座を描き、その守護を環とジョーイへと送る。
「アルタード……鳥篭に1人でつまらなかっただろう? 遊び相手になってやるぜ、最期のな」
その名を呼んでも、大地喰いはやはり反応を示さない。弘幸が電光石火の蹴りを放てば、大地喰いはその杖で受け止める。
枯れ木のように細い体は、弘幸の鋭い蹴りを受け止める強さがあった。
「頼りにしてくれていい、ですよ、ティスプさん」
環は両手に巻き付けた攻性植物を伸ばし、大地喰いを絡めとる。
ティユが紙兵を散布する。ボクスドラゴンのペルルに命じて、属性をインストールさせた。
「チマチマとやるのは柄じゃあねーんだが……」
ジョーイはこぼしつつ、杖めがけて射撃する。着弾した弾が深くめり込んだが折るには至らない。
「ドルイドのルーンを直接使うならそっちが上でしょうけど、これならどうかしら!?」
ティスプはルーンを刻んだ弾丸をばらまく。景気よく、全弾。刻まれた呪いは発動し、死神を麻痺させる。
サーヴァントのトイボックスに命じて噛みつかせたが、死神はその牙を軽く弾いてしまった。
「オールドローズ、お前の仕事は、あいつを一歩もここから出さないことだ」
やりとげなさいとミゼットに言われて、彼女のサーヴァントは大地喰いに金縛りをかける。
ミゼット自身は紙兵を散布した。毒に対抗するために、いくつもの守護を重ねていく。
この死神は相手を弱らせ、どこまでも殺しに来るというのだから、油断ならない。
鳳琴は 踏み込みと共に幸家・醒龍を叩き込む。突き込んだ拳の先より放たれたグラビティが、死神を蹂躙し貫く。
毒には毒を。環のブラックスライムが槍上に伸びて、死神を刺し貫いた。
ティユは星座を投影し、その輝きで、精度を上げる。ペルルにも支援を命じた。
ミゼットがスイッチを押せば、大地喰いの足元から爆炎が吹きあげる。オールドローズも攻撃し、足止めする。
「背中を見せたらダメよ、お気を付けて?」
うるるの放つ熱エネルギーは燃え上がる大火となって、ドルイドを炎の渦に閉じ込めた。
「どこにも逃がさないわ。ほら、これであなたも袋の鼠、ってね?」
うるるに言わせれば、それは誠実な愛の行為なのだという。
骨の鳥が羽ばたく。ジョーイに纏わりついては、嘲るように死角へ入り込み肉を啄んだ。
「イテっ! この野郎!」
嘴に散々つつかれてジョーイはイラつき、力任せに得物を振り回した。それが思わぬ痛烈な一撃となった。
「落ち着け、ジョーイ。まだ倒してはだめだ」
弘幸が嗜める。
「分かってるよ! クソッ合図はまだかよ!」
その時、薄暗い空間に光が撃ちあがるのを環は見た。レギンレイヴとの戦闘に入った、ケルベロスらが打ち上げた照明弾だ。
「合図です! 照明弾が、上がりました!」
待っていた報告に、ケルベロスたちの士気が上がった。
しかし、ここからが正念場だ。
レギンレイヴが撃破されるまで、斃さず斃されず、持ちこたえなくてはならない。
●
殺意に満ちたものを相手に、それは容易なことではない。
ドルイドは、毒の風をたなびかせ、容赦なく攻めて来る。
ほぼ空間を包み込むように拡散した紫毒は、前後を問わず冒してくる。
その度に、うるるはオラトリオヴェールで包み込む。
「いたいの、とんでいけ」
まだ回復が足りないと見れば、ミゼットが魔女の黒糸を呪言とともに撃ち込み、直に癒した。
鳳琴はスターゲイザーで畳みかける。そこから一歩も動かさない構えだ。
うるるは、ハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾を撃った。
大地喰いは、骨の鳥を飛ばす。弘幸の肉を啄み、白い嘴に血が滲みこんでいく。それを大地喰いが啜り、自分を回復させた。
うっすらと昏い恍惚が浮かんでいる。
「旨いか? 今だけ笑わせてやるよ」
まだ、倒すわけにはいかない。不本意だが、わざと回復させるのも一つの手段だった。
皮肉すぎて笑えもしない。吸われた分は、ティユと、ペルルが回復してくれた。
ティスプはその足元に、弾丸を霰と撃ち込んだ。
ジョーイの銘刀が弧を描いてその急所を狙う。踏み込みが浅く、当たれば急所を切り裂く斬撃は、薄皮一枚を斬ったのみだ。
全力で暴れられない苛立ちに歯噛みする。
大地喰いが杖を振るった。
現れた骨の鹿は、紫線を引いて、前衛の隙間を駆け抜ける。
「あっ……!?」
まだ毒のダメージが残るミゼットへと、枝角を振り上げ、刺し貫いた。
ぐるりと頭を回し、深く抉る。
「か、は……っ」
目の前が真っ赤になる。回復を、自分を、癒さなくちゃと思うのに、身体が動かない。ずぶずぶと、沈み込んでいくようだ。
骨の鹿が、もっと抉ろうと頭を下げたそこへ、ビハインドが斬りかかる。
跳び退いた鹿は、杖に戻り、大地喰いの手に収まった。
倒れるミゼットを、弘幸が抱え上げて鳥篭の出口へと走る。射線へティスプとティユ立ちふさがり、追撃から護る。
ミゼットと一緒に撤退するビハインドが、最後に大地喰いへと金縛りを投げた。
「すみません……」
大地喰いは、弱った相手を見定めていた。浅いダメージの残っていた所に、角の一撃がより深く入ってしまったのだ。
「よく頑張った、後は任せろ」
弘幸の声が遠い。途切れそうな意識の中で、はい、と何とか返事を返した。
大地喰いが初めて表情を見せた。口を歪めて、声無く笑っている。
「お前は……っ!!」
それは、鳳琴の逆鱗に触れた。跳躍し、重力を乗せた蹴りを見舞う。そんな彼女を嘲り、骨の鳥は啄み血を啜る。
それでも、まだ倒す事は出来ない。
これ以上の犠牲は出すまいと、弘幸は前に立ち、身を挺して守る。
毒の風が蝕めば、ティユが紙兵を散布し、うるるのオラトリオヴェールが包み込む。
多くの傷を入れるよりも、その動きを止め阻害するのを目的に、ティスプは攻撃を使い分けた。
死神は、こちらの思惑を知らずに侮るのか、知って弄ぶのか。
鳥を飛ばすと見せかけて鹿を使う。毒を消すたびに風を吹かせて、じわじわと弱らせるのを楽しんでいるようだった。
それでもケルベロスたちはかばい合い、癒し、戦った。
途方もなく長い時間が経った気がする。誰しもが焦れ始めていた。
あちらの趨勢はどうなっているのか。無事なのだろうか。
「合図があるまで耐えるわよ!だから、もう少しだけがんばって!」
うるるの愛の炎が大地喰いを焼き焦がす。
「合図です!」
環が叫んだ。淀んだ空間を、照明弾の光が照らしている。
仲間が、レギンレイヴを撃破したのだ。
●
「ったくクッソ面倒臭ェことやらせやがって!」
今までの鬱屈全てを晴らさんと、ジョーイは鬼神が如きオーラを身に纏い、渾身の一撃を叩きつける。
それは、骨の鳥ごと巻き込んで砕き、大地喰いの肩から腹へと斬り下ろした。
だらりと力なく下がる腕から瘴気が噴き出した。
よろめく死神に、荊の棘を生やした蔓草が絡みついた。
「此処は月の庭、私の領域、です」
環の魔力を受けた蔓草が、ぎりぎりと大地喰いを締め上げる度、鋭い棘がその体に食い込んだ。
弘幸は、大地喰いに肉薄する。地獄の業火を纏った左脚で零距離から繰り出す渾身の蹴りが、大地喰いの胴にまともに入った。
防御する間もなくくの字に折れて、ふっとぶ。
「これで最後、全力で叩き込むわよ!」
「いけえっ!!」
うるるのとティユのドラゴニックハンマーが同時に唸りを上げた。うるるの竜砲弾が大地喰いに炸裂し、一拍遅れてティユの弾が追撃する。
大地喰いの肉体は壊れ、瘴気が溢れて止まらない。
鳳琴は深く息を吸い、その大地喰いに向けて、構えた。
「勝負だ『大地喰い』!――これが今の時代。地球を守るケルベロスの――」
その拳に、グラビティの輝きが収束する。
「――力だぁっ!」
限界まで圧縮されたその輝きは龍の形を取る。大地も割れよと強く踏み込み、力に満ちた拳の一突きを与える。
グラビティが欲しいなら、くれてやる。一気に解き放たれたグラビティは、死神の全身を駆け巡り、貫き、蹂躙した。
「……なんだ、顔があるんじゃない」
吹っ飛ぶ大地喰いを見て、ティスプはそうつぶやいていた。おかしな表現だと分かってはいるが、素直な感想でもあった。
あまりの衝撃でその顔が歪み、苦痛とも笑いともつかない、奇妙な表情が浮かんでいたのだ。
地に倒れ伏した大地喰いの手から杖が落ち、折れて、粉々に砕けてしまう。
「これで本当に最後です。決めてください、ティスプさん!」
環が荊の蔓草で束縛し、呼んだ時には、既にティスプはリボルバーを構えていた。
二丁拳銃が火を噴いた。
撃つ。撃つ。撃つ。
出し惜しみなど一切せずに、撃ち尽くす。
二度と起き上がることのないように。
死神、堕ちたドルイド『大地喰い』は消滅した。
「「やった……勝てた――!」」
ティユと鳳琴はハイタッチで健闘をたたえ合う。
「「はぁ~~~~」」
そして一緒に崩れ落ちる。それくらいには疲労困憊していたのだ。
「お疲れ様」
うるるが微笑む。
「二度とごめんだぜ」
心底うんざり顔のジョーイに、弘幸は笑ってその肩を叩くのだった。
●鳥籠から出でて
かつてのドルイド、大地喰いは今度こそ眠りについた。
レギンレイヴも倒され、釧路湿原の牢獄は、完全に制圧されたと言ってよさそうだ。
あちこちから、勝利の歓声が聞こえてくる。
ティユはこの空間の事を調べたかった。ミゼットの分も、何かを得たいと格子に手を伸ばしたその時。
空間が歪み、崩壊し始めた。
「ああ、やっぱり……」
そうかもしれないとは思ったけれど、やはりすぐに消えてしまうような場所だったらしい。
消失に巻き込まれて鳥篭がぐしゃぐしゃに潰れていく。
急ぎ護符を掲げ、ケルベロスたちは崩壊する牢獄を後にした。
釧路湿原が広がっている。
ティスプがどれだけ見渡しても、さっきまでの空間を思わせるものは何もない。
堕ちたドルイドは今度こそ眠れただろうか。
ヘリオンのプロペラ音に振り返る。環が手を振っているのは、多分急げと言ってるのだろう。
(「後でパパに電話しなくちゃ」)
全部終わったから、安心して頂戴、と。
もう一度だけ、広がる湿原を見渡して。
ティスプは背を向けると、仲間たちの元へと真っ直ぐ走るのだった。
作者:黄秦 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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