イケメンアイドルは邪道なり

作者:狐路ユッカ

●ぜつゆる!
「ちゃらちゃらしおってぇえぇ!」
 ビルシャナはチラシを握り潰し、叫んだ。そこに写っているのは、キラキラ輝くイケメン男性アイドル達。信者とみられる女が頷く。
「アイドルなど、邪道です! やはり硬派に歌い上げることこそ男の本髄!」
「そうですそうです! キラキラフリフリアイドルはおにゃのこの仕事ですぞ!」
 大きく頷いている男性はちょっと主張は違うものの、『イケメンアイドル』が許せぬというこころは同じ。
「イケメンアイドル! 邪道! ゆるさぬ!」
「おおう!」
 右手を高くつき上げる10名の信者達。非常に面倒くさそうな連中であった。

●イケメンアイドルとは
「んんー……? イケメンアイドルって何だ……?」
 ゼロアリエ・ハート(壊れかけのポンコツ・e00186)の調査のおかげでイケメンアイドル絶対許さない明王が現れることは解った。が、イケメンアイドルってなんだろう。秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は首を傾げる。そして、手元の端末で色々調べて何か納得したような顔をして説明を再開した。
「えーとね、イケメンアイドルが許せないビルシャナが現れるみたいなんだよ。今は郊外の 廃墟に集まってイケメンアイドル許さん集会を開いてるみたいだね。信者は10名」
 しかし……、と祈里はため息をつく。
「なんでイケメンアイドルが許せないんだろうね……。硬派なシンガーソングライターじゃなきゃいやだ、とか、アイドルは可愛い女の子の仕事だ! とか、なんかいろんな主張はあるみたいだけど……」
 放っておくと激化していつか一般人に迷惑をかけることは目に見えている。今のうちに働きかけて解散いただくしかない、と祈里は拳を握った。
「いろんな理由でイケメンアイドルを許せない人たちがいるから、いろんな角度から説得して撤退してもらおう!」
 頼んだよ、と続け、祈里は手元のメモに視線を落とす。
「ビルシャナはイケメンアイドル絶対ゆるさないビームを打ったり、イケメン焼殺炎を放ったり、鐘を鳴らして攻撃してくるみたいだね。油断しないでね」
 特にケルベロスの中にアイドルっぽい人がいるとヒートアップしちゃうかも、と付け足すと、祈里はぺこりと頭を下げた。
「気を付けていってらっしゃい。アイドルは男女問わず夢を与えるお仕事……だよね? ビルシャナの主張なんてひっくり返しちゃおう!」


参加者
ルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350)
日色・耶花(くちなし・e02245)
ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)
神寅・闇號虎(焔血を継ぐ黒鎧虎・e09010)
イーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412)
リーリア・メルファリア(イノセントメイプル・e22442)
柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)
カメリア・スノーベル(つぎはぎの狂花・e35071)

■リプレイ


(「イケメンはアイドルだろうとそうじゃなかろうと可愛い女の子と同じく、等しく素晴らしいものでしょうに」)
 日色・耶花(くちなし・e02245)はなにやらぎゃあぎゃあ騒いでいる信者達を見て小さくため息をついた。
(「何をディスってるのか分かんないわ……悔しかったらイケメンになってみろって言うのよ」)
 ケルベロス達の存在に気付いて振り向いた信者達がぎろりと睨みつけてきた。そこへ、リーリア・メルファリア(イノセントメイプル・e22442)が人類の宝であるイケメンを守るべく拳を握って立ち上がる!
「まず『アイドル』の定義から語らないと駄目だよね」
「な、なんだあんた!」
 信者が狼狽えるのも気にせずに、リーリアは語り始める。
「アイドル……それは『偶像』! すなわちそこにいるだけで癒やしを与える存在!」
「なーにが癒しだ! 大した技術もないくせに!」
 言いかけた信者の言葉を遮るように叫ぶ。
「歌が下手? 演技が下手? イケメンアイドルはそこにいるだけで癒やしだから無問題!」
 全ての法則や理が音を立てて崩れんばかりの主張である。
「ちやほやされるのが許せない? イケメンアイドルはイケメンという十字架を背負って生まれてきた存在! ちやほやの影にどれだけの悲しみを背負っているか……あなたたちは考えたことがあるの!?」
「えっ……!?」
 廃墟の周囲に殺界を形成してから侵入したイーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412)はやれやれと言ったように口を開いた。
「分かってないかな~。逆に、イケメンってだけで、貴方が想像したような事を周りから求められたりするものなんだよ♪」
 イケメンはそれだけで得をしていると思っていた層が言葉を失った。
「イケメンってだけで、自分のポテンシャル以上の事を求められたりして案外リスクだらけ♪ それに、もしイケメンアイドルがいなければ、色々なTV番組で、共演しているブサメンとのプラスマイナスの比率が悪くなってとても見れたものじゃなくなると思うよ♪」
 いるだけで良い、とする人間と、イケメンなんだからこのくらいできるよね! と無茶ぶりをする人間とがこの世には存在する。その事を突き付けられ、信者の男は唸った。
「そうか、イケメンも苦労してんだな……」
「は!?」
 ビルシャナが何を言おうと、もうその男には聞こえない。俺間違ってたよ、なんて言いながら、男は去って行った。
「確かに『アイドル』という存在は様々な分野で活躍の場があるわ。だって色々な姿を顔を見せるのが仕事なんだもの」
 耶花が語りだす。
「何々が出来てかつイケメン、みたいなオマケ的イケメンとは種類が違うのよ。そう……言うなればイケメンのプロ」
「イケメンの……プロ!?」
 ぶっちゃけ自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。耶花はとりあえず神妙な面持ちで頷く。
「そうか、プロ……イケメンもプロなんだ……」
 なんだか納得したような顔をして、女が去って行った。
「えっ、ちょ、イケメンのプロって何!?」
 ビルシャナはあたふたしている。


「イケメンアイドルは邪道……おかしいですね? アイドルである以上、容姿は一定レベルを超えているのが当然のはず」
 ルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350)は表情一つ変えぬまま、気付いてしまった、というように言葉を続ける。
「正確に、『男性アイドルは邪道』と言うべきではないでしょうか?」
 ぎくっ。何人かの男が肩を揺らす。
「まぁ、実際のところが、あなた方がイケメンを許せないというのは良いですが……それで本当に良いんですか?」
「な、何が言いたい!」
「イケメンアイドルを否定するのは……つまり、彼らのファン『おばさん』達を敵に回すことになるんですよ??」
 ファンはおばさんだけではないぞと言いたいところだが、おばさま方も確かに多い。信者達が息を飲んだ。詰め寄るようにルリナは静かに静かに続ける。
「あの、節操がなく、暴虐で、おぞましい、おばちゃん方の相手……できますか?」
 とんだおばちゃん風評被害だが、今はそれを気にしてはいけない。
「ひゃえぇ、俺おばちゃんには敵わねえわぁ~!」
 男が逃げて行った。
「とにかくねえ! 見かけ倒しのあいつらは許せないのよ!」
 信者の女が負けじと叫ぶ。おばちゃんにも多分負けない。
「まあ確かに見た目で上げ底されてるとこはあるかもだけど……でも、イケメンってだけでレッテル貼りするのは、頑張ってるアイドルたちに失礼だよ!」
 カメリア・スノーベル(つぎはぎの狂花・e35071)がピシャリと言い放ったその言葉に、女が怯んだ。
「それに、たとえ歌がヘタクソでも、これから上手くなるかもしれないじゃん。そういう、成長物語をリアルタイムで見られるかもしれないのってお得じゃない!?」
 彼らは彼らなりに頑張っているのだ。そこに気付かない奴が男を語る資格などない。女に衝撃が走った。そうか、そうだったのか。
「……だよね、あたしが応援してるバンドも、少しずつ上手くなったんだよね」
 アイドルはその『過程』をも見せているのだ。女はなるほど、なるほど、と言いながら何処かへ行ってしまった。ギャアギャア。再び信者達は騒ぎ出す。
「彼らはただイケメンなわけではない」
 神寅・闇號虎(焔血を継ぐ黒鎧虎・e09010)の声が凛と響き渡った。
「おう!? じゃあなんだってんだよ!」
 噛みついてくる信者へ答える。
「激しいアクションや動きをこなす為、日々の鍛錬をこなしたり、時には映画で役を演じるため方言や癖などを覚えなければならないのだ」
「そ、それがどうしたっていうんだ!」
 柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)も闇號虎の発言にこくりと頷き、声を上げる。
「イケメンアイドルがいなくなっちゃうのは困るのだわ! 若手のイケメンアイドルがいなくなっちゃうと、日曜日の朝のヒーロー戦隊もののメンバーがいなくなっちゃって、テレビが面白くなくなっちゃうかもしれないの!」
「アイドルがやるアクション一つでも子供達は真似をして遊び、その遊びの中で友達の輪が出来上がる」
 そんな尊い夢の担い手であるイケメンアイドルを何故否定するのか。二人は信者に問うた。ぽつり、少年が呟く。
「だよな……俺だってヒーロー、好きだったな」
 ふらり、姿を消す少年。
「私のクラスの男の子はみんな楽しみにしてるのよ! というか私も変身ヒーロー大好きなので困るのよ!」
 宇佐子はぎゅっと拳を握りしめて叫ぶ。つぶらな瞳がじぃっと信者を見つめていた。
「うっ……」
 純粋な視線に耐えきれず、信者は逃げ出す。
「服だってそうだ。彼らは常に身嗜みを気を付けるから良い服を着れば、その服の価値は飛躍的に上がるのだ! そして男達は自分もカッコ良くなりたいとアイドルのファッションを見るのだ」
 そうかな、そうかも。と、若い男が去って行った。
「そんな言葉にゃ騙されねーぞ!」
 それでも退かぬ頑固な信者が叫ぶ。負けじと闇號虎も返した。
「それをこなす自信があるか? あるのならば彼らと同じステージに立って勝負をしろ! 同じ人としてだ!!」
「ヒッ」
 いきなり矛先が自分の方を向いた。男はすごすごと去っていく。そんな様子をじっとみていたムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)。
(「アイドルを肯定するつもりはあまりないのだが……まあビルシャナを野放しにもできん。やむなしだな」)
 深いため息をつき、徐に口を開く。
「なるほど。イケメンのせいで推しがランキングに乗らないと」
「そうよ! あいつらのせいで!」
 いきり立つ女二人。ムスタファは片手で制止する。
「だがまてよ? イケメンアイドルが居なくなり、お前のその推しが上がるという事は、誰かの推しがランキングにのらないという事ではないのか? それともお前たちは全員同じ推しなのか?」
 顔を見合わせる女二人。そうだ、どちらかが上がればどちらかが落ちるのだ。
「ちゃらちゃらしていてけしからんというのはわかるが……俺からしたらお前らもチャラチャラしすぎだぞ。なんだその装飾・露出過多な服装は。女、肌を見せすぎだ隠せ。髪をそめるとはなにごとだ」
 びしりと突き付けられた人差し指。女は走り去る。もう一人の女はビルシャナの声と共に、こちらに躍りかかってきた。


「ちょっと寝てて頂戴ね」
 ガッ。耶花のピンヒールが女の腹に命中する。ずるずると引きずって退場頂けば、もうビルシャナはひとりぼっちだ。
「それでは」
 そんなビルシャナに、音もなくルリナは迫った。胸部からコアブラスターをいきなり放つ。
「んぎゃんっ」
「ブサメンの鏡はさっさと片付けちゃいましょうねぇ~♪」
 イーリスの熾炎業炎砲が、ビルシャナの羽毛をじゅう、と焦がした。
「く、くそうくそう!」
 ビルシャナはグッと腕を上げると、イケメン許さないビームを放つ。
「カジテツ」
 耶花の声に、シャーマンズゴーストは滑り出るようにそのビームを受けに行った。共に前に出た耶花もビームを受け、小さく呻く。
「ここは人の世だ。去れ」
 ムスタファは低い声と共に、ビルシャナへ不意打ちを見舞う。倒れ込んだビルシャナに容赦なく襲い掛かるのは、
「えいっ!」
 宇佐子が放つ回し蹴り。そのふわふわから想像もできないほどの打撃がビルシャナを打ちのめす。
「ふごぉっ」
「我らと同じステージに立つ資格があるビルシャナよ、ここで滅してくれる!」
 変身ヒーローさながらに、闇號虎はその拳を虎へと変えてビルシャナの顔面を思いっきりぶん殴る。ヒーローだが、悪を滅するためなら結構えぐいこともするぜ。
「大丈夫、このリーリアさんがいるからには回復、回復~♪」
 リーリアは耶花へと駆け寄ると、その傷をサキュバスミストでふわり、と癒した。
「ぬんおおおおお!」
 ビルシャナは顔面をやられてもめげずに鐘を鳴らす。ムスタファと、耶花がトラウマに眉を顰めた。
「もう遊びはおしまいかな!?」
 その耳障りな音を止ませるよう、カメリアは楽しげにエアシューズを走らせる。炎を纏った蹴りが、羽毛を焼き払った。
「あぢぢ!」
「――狙った獲物は、逃がさないかな♪」
 イーリスが放つのは、七色に輝く刃を纏った鳩。ビルシャナは切り裂かれて、悲鳴をあげるばかりだ。
「大丈夫か」
「ムスタファさんは?」
 耶花とムスタファは、その隙に互いの傷を気力溜めで癒す。悪あがきとばかりに、ビルシャナはその腕を振り回し、炎を飛ばした。
「焼き鳥になるのはあなたの方ですよっ♪」
 リーリアは炎を受けながら、ビルシャナへと迫る。そして、負けぬほどの火力で蹴り飛ばし、ビルシャナを焼くのだった。
「ああああああ!」
「花よ我に華を、鳥よ我に獣の力を、風よ我に流れを、月よ我に光を……今宵、虎が貴様を喰らおうぞ」
 祈りの言葉を唱えた後、闇號虎はビルシャナに躍りかかった。それは、猛攻、それは、少し荒削りな幼い獣の狩りが如く。
「ひぎゃああぁぁ!」
 じたじたと暴れまわるビルシャナに、ゆらぁり、ともふもふの影が落ちた。
「えいっ」
 がしっ。ぼかっ。
 びょういんおくりというか、あの世送りというか。ビルシャナはおほしさまになるのであった。


「悪は滅びたのよ!」
 宇佐子はビルシャナのいたところに立つと、びしりと右手を突き上げてかっこよいポーズを決める。
「しかし、何かと出てくるもんだなあいつらは」
 闇號虎は、ふうと短くため息をついた。耶花もなんとなく疲れてしまって、小さくため息をつく。
「イケメンアイドルも顔の好み次第だけど……まあ、一応イケメンの概念は守れた、わよね?」
 カメリアは辺りをヒールしながらうんうん、と頷いた。
「色々複雑なんだねぇ」
 そして、小さく笑う。
「でもまあ、アイドルもお人形といっしょで、綺麗な方が見てて楽しいのはあるよね。観賞用って感じ」
 リーリアはというと、さっきからイケメンというワードがガンガン飛び交うこの空間にちょっとラブフェロモンが出そうになっていた。そう、イケメンとはその響きだけで甘美なのだ。たぶん。
 かくして、イケメンアイドルは守られた。イケメンは夢を与えるのだから、尊い。……のかも、しれない。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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