散り際こそ美しく

作者:天枷由良

●一際輝く
 降りしきる雨の中。太平洋に面する千葉の港町に、それは舞い降りた。
 あらゆる輝きを詰め込んだ鉱脈の如き身体。
 放出される光を受けた翼は、ステンドグラスを思わせる美しい七色を見せている。
 だが、それは繊細な工芸品でなく、恐怖と憎悪をもたらすために来た破壊の化身。
 竜十字島より飛来した、生命尽きる間際のドラゴン。
 煌めく一息で家々を薙ぎ払い、首飾りのような尾で人々を砕き。
 強固な爪を振るって、血と肉を掬い取っていく。
「――輝きを恐れなさい、光を憎みなさい」
 そうして絶望に塗りつぶされた魂が、同胞たちの生命を長らえさせるのだ。
 竜は竜として輝ける最後の時間を捧げ、街に破滅を振りまいていく。

●夜半、ヘリポートにて
「竜十字島より飛来するドラゴンの襲撃は、未だ止む気配を見せないわ」
 語るミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)の手帳には、 八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)より寄せられた情報に基づく予知が、記されている。
「新たなドラゴンの現れる先は、千葉県東部の港町よ」
 町の人々は指定された避難所へと移動を始めており、ケルベロスたちが到着するまでには収容も完了するだろう。
 だが、それ以上の動きはとれない。道中でドラゴンに襲撃される危険性があるからだ。
「ドラゴンが避難所に向かうのを防ぐため、皆には進路上にある畑で迎撃してもらいたいの。ここなら、周辺への被害もそれほど考えなくて済みそうだからね」
 飛来する敵は一匹。
 あらゆる鉱石を喰らって進化を果たした、いわば『鉱石竜』とでも呼ぶべきドラゴンだ。
「その輝きに目を奪われてはダメよ。息吹は身体を傷つけるだけでなく、毒気で侵していくわ。鋭い爪も必殺の威力、宝石を連ねたような尾は魔術的防御すら簡単に砕いてしまうの」
 定命化の影響で体力は下がっているが、攻撃力はむしろ、決死の覚悟から倍加している。
 備えを怠った者が苛烈な爪撃でも受ければ、重い傷を負うことは必至だろう。
「ドラゴンは、皆と戦い始めれば逃走することはないわ。避難所までも距離があるから大丈夫。皆は戦いに集中して、必ずドラゴンを撃破してちょうだいね」
 予知を語り終え、ミィルはケルベロスたちにヘリオン搭乗を促す。
「……そうだ、一つ言い忘れていたわ。現地は雨みたいなの。温かいものを準備して迎えにいくから、全員揃って無事に、戻ってくるのよ」


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
月霜・いづな(まっしぐら・e10015)
ジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)
祝部・桜(残花一輪・e26894)

■リプレイ


 雨が降る。
 ごうごうと、ざあざあと。
 迫る死を悟った竜が、嘆いているように。
「この襲撃ラッシュも、いつになったら終わるんだかな」
 空を見つめ、濡れる顔を拭い、久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は言った。
 誰に向けたものでもなかったが、そこへ些か緊張感の欠けた声が返ってくる。
「こういうタイプが一番厄介なんだよねぇ」
 のんびりと、世間話程度の雰囲気で答えたのは、藤・小梢丸(カレーの人・e02656)だ。
「後が無いから、なりふり構わない感じ。やーだーねー」
「……ま、考えてもしょうがないか」
 小梢丸の後に続ける言葉を探すより、今は寒さの方が気にかかる。
 航は小さく身体を震わせた。そして今度は耳でなく目で、仲間を捉えた。
 純白の外套。カラカルのウェアライダーだというジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)が、何かを突き出している。
 ただのお茶だった。受け取れば、ジャニルはポット片手に頷いて、他の仲間たちにも配り回っていく。
 当の本人は気候に適応しているのか、まるで寒さを感じていないらしい。そのきびきびとした動きを目で追いながら、掌に伝わる温かさを確かめていれば、時間を潰すには十分だと思えた。
 しかし何やら、この空気を案じる者が一人。
 シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)。戦いでなく歌と音楽を愛するヴァルキュリアはレインコートを翻して、にこやかに告げた。
「私の歌を聴けーっ! ってね♪」
 ラインストーンのあしらわれたマイクを手に、シルヴィアは歌う。
 雨音にも負けない声は、そのうち雲まで消し飛ばしてしまいそうだ。
 けれども空が晴れるより先に、それは来る。
「お出まし、か」
 持つものをバスターライフルに替えたジャニルの、地獄化した左目が望む彼方。
 或いは雨の中でも、呑気に好物のカレーを貪っていた小梢丸が持つ、匙に映るもの。
 きらびやかな光を纏う塊。それこそが戦う相手。
 ぐるりと仲間を眺め回して、ジャニルは態勢を確認する。
 さすがはケルベロス。茶を飲み、飯を食らい、歌っていても、ひとたび敵が来たならば、皆々戦士の風を纏う。
 最も幼く、言葉の拙い月霜・いづな(まっしぐら・e10015)ですら。
 ジャニルはまた頷き、そして砲口を空へと向けた。
 初めて扱う長銃だ。いつもの手慣れた弓ではない。それをしっかりと心に留め、泥濘む足元にも気を払いつつ、引き金を引く。
 エネルギー弾が一つ放たれ、風雨の中を突き抜けて消えた。
 此方の存在を示すには、それで十分だろう。
 予想通り、輝きは徐々に大きくなる。姿形がはっきりとするほどまで来て、ゆっくりと降りてくる。
「こりゃまた……」
「……きれい。星が形を作ったようです……」
 鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)と祝部・桜(残花一輪・e26894)、二人が揃って呆けたように溢すのも、仕方のないこと。
 たとえ邪なものであっても、その輝きを美しいと思う心までは偽れない。
 偽る必要もない。
「こりゃ見事なもんだわ……武器の素材にしたら結構なもんになりそうだな……なんて」
 航の呟きに、八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)が無言のまま口元を緩めた。
「こんなに美しいドラゴンがいるなんて……」
「確かに綺麗だけれど……あれは不吉な、凶星だねぇ」
 瞳を輝きで埋める桜へ、やんわりと奏が現実を寄せる。
 そこに意外や落ち着いた声で星は――竜は、囁いた。
「……どうあっても、我らの前に立ちはだかるのですね」
(「――ああ」)
 滾々と語られる挺身の決意を聞けば、今更ながらにデウスエクスが理不尽な怪物でなく、知性ある種なのだと思わされてしまう。
 得も言われぬ感覚に、桜の胸は絞めつけられる。
 だが、桜たちにも譲れないものはある。生命を賭しても退けぬ理由がある。
 背の向こうで、怯えながらも信じて待つ人々。想い人への誓い。己が信念。
 何より彼らは、ケルベロス。
 魂の一片まで使い果たしたとしても、デウスエクスに抗うのが役目。
 決して退かぬなどと、口にするまでもない。
 ……とはいえ、これも何かの縁。斬り結ぶ前に少しだけ、語らう時間を。
「お前、それだけの身体になるほど鉱石食ってたってことは――」
 爽が真一文字に戻っていた口を開く。
「地球の綺麗な石を沢山見て、その内に溜めたんだろうに……それでもお前は地球を、
 この美しい星を愛せなかったんだな」
「どれほど美しくとも、集る虫ごとは愛せぬでしょう」
 至極当然と言った答えは、やはり自らを最強種族と称する竜のものだ。
 ここで今更、分かり合うことは出来ない。
 それを互いにはっきりとさせたところで、竜は一つ、大きな声で鳴いた。
 遥か東へ、届けるように。
「さぁ、問答は無用です。同胞のため、この輝きにひれ伏しなさい、ケルベロスよ!」
「テメエの思い通りになんかさせるもんか! 俺らで砕いて、派手に散らしてやんよ!」
 爽が吠え、高く飛び上がり、語らいは言葉から力を用いたものへと変わる。


 硬化した両足に遠心力と重力を乗せ、一息に振り下ろす蹴技。
 その軌跡をして、爽が『黄金星の残影』と名付ける一撃が、竜を叩いて杭に仕立てる。
「恐怖も憎悪もあげないよ! 私たちの歌が、みんなを希望で照らすんだからっ!!」
 間髪入れず、伸びる閃光。声の調子を変えないまま、シルヴィアは槍に雷の霊力を込め、敵を穿つ。
 岩肌のような身体から、翼と同じ七色の輝きが一つ落ちる。
 やがて光を失い、黒く染まったそれは誰もに死を感じさせた。
 けれど竜は、もう鳴かない。散る運命なら、せめて美しく。
 覚悟が翼を広げて、雨空高く舞う。
「来るよ!」
「みなさま、うしろはおまかせを!
 ……大神さま、おおかみさま! 聞き届け給え! 我が友等に加護を!」
 奏が声を張り、煌めくオウガ粒子を前衛に放つ。いづなは紙兵を連ねて飛ばし、祈り、後衛の仲間たちを護ろうとする。
 尾か、爪か、息吹か。何が来ても耐えられるよう、構えるケルベロスたちに向かって虹色は墜ちる。
 紅玉と蒼玉を連ねたような輝きを、先端に置いて。
「こんなこともあろうかと、眼鏡の反射率はいつもより多め!」
 あくまで自分のペースを乱さず、しかし盾として仲間を護る決意は確かな小梢丸が、竜の前に立ちはだかった。
 その身体が一瞬で宙に浮く。旋風が木の葉を弄ぶように。
 ぐしゃりと音を立て、泥濘に顔から落ちる小梢丸。ケルベロスたちの意識は一時ばかり奪われて、竜は止めを刺さんと爪を伸ばす。
 だが、追撃の手は及ばない。
「これより先へは――!」
 言うが早いか、桜の行使する御業が竜の翼を掴む。
「貴様の絶望に付き合うつもりはないぞ」
 ジャニルの長銃から撃ち放たれたエネルギー弾が、片腕を撃つ。
 そして勢いの削がれた敵を、ふらりと立ち上がった小梢丸が蔓で縛り上げる。
「こいつがなければ即死だった……」
 そんな呟きと共に、欠けたカレールーが懐から零れて雨に溶けた。
(「……っ、しっかりなさい、わたくし!」)
 仲間たちの奮戦に心中で己を叱咤して、いづなは腕を一振り。和箪笥風のミミック・つづらを走らせれば、具現化した武装が叩きつけられるのに合わせて航も二刀を振るい、竜が立つ空間ごと斬って捨てる。
 しかし直後、蔦が緩んで、竜は再び空へと上がった。
 台詞はさておき、小梢丸は相当の深手を負ったのだ。駆けつけた奏のボクスドラゴン・モラが属性注入するのに合わせて、いづなも全力での治癒に転じる。
「天つ風、清ら風、吹き祓え、言祝げ、花を結べ――!」
 雨露払って吹雪くは白の切幣。生命の在ることを祝えば、爪で裂かれた傷は急速に塞がっていく。
 けれど竜も、そのままを許そうとはしない。爪が届かぬなら息吹。磨り潰した星を撒くように、大きく開かれた口から蒼い粒子が吹き付けられる。
 それは奏の放ち続けるオウガ粒子が超感覚を覚醒させるように、ケルベロスたちを傷つけて身体の奥底から痛みを呼び起こす。小梢丸のみならず、航が、桜が、奏が次々と膝を折り、つづらも金銀財宝の贋物を散らしながら泥中に倒れた。
 苦し紛れで航がサイコフォースを撃つも、意識の乱れが影響したか、爆発は竜を逸れる。
「つづら! みなさま! まけないで!」
「しっかりして! 私たちのステージは始まったばかりだよ!」
 まだ屈してはいけない。
 いづなが呼びかけ、シルヴィアは空の霊力を込めようとしていた槍から、バイオレンスギターに持ち替えて歌う。
 人々の死を願う竜に抗い、戦い続ける者たちの歌を歌う。
 傷を塞ぐには微々たる力だ。しかし歌は、身体でなく心に響かせるもの。
 その音色を噛み締めつつ、桜は瞼の裏に想い人を浮かべ、譲り受けた黒塗りの鎌を握る。
 必ず無事に帰ると誓ったのだ。それに優るものなどない。
 歌の力も借りて極限まで高められた集中は、痛みを忘れさせ、炎の華を今度こそ竜の喉元に咲かせた。
 蒼く美しい霧が途切れる。
 間隙を、冷たい光が切り裂く。
「絶望の名の元に死を振り撒くと言うなら、ジャニルはそれに抗おう……!」
 険しい顔で言い放つジャニルの指が僅かに動き、凍結光線が竜の片翼を貫いた。
 更には真逆から、黒い塊が襲いかかる。
「芳醇な香りに包まれて、インド洋に沈め!」
 小梢丸の操るブラックカレーのようなものが、全てを飲み干さんばかりに群がる。
 そうして動きの鈍ったところへ、爽が二度と飛ぶことの叶わぬよう、会心の一撃と呼ぶべき蹴りを叩き込んだ。
 冷えた翼が折れ、竜は流れる星のように墜ちてくる。
 ……しかし。
「――!」
 尾が微かに動いたのを、奏は見逃さなかった。
 未だ万全な態勢でない前衛が薙ぎ払われては、ひとたまりもない。
「散るのは貴様だけで良いよ。その魂、貰い受ける!」
 奏はヴァルキュリアの持つ力を昇華させた独自の技、『魂喰らい』を放ちながら、敵の元に飛び込む。
 けれども吸い上げた力など消し飛ばすほどの痛みが訪れ、そこで彼の意識は途切れた。


 奏によって崩壊を免れた前衛陣。だが、粒子の毒気がじわりと身体を蝕む。
 それを裂帛の叫びで吹き飛ばして、航は神速の突きを放った。
 深々と刺さった刀を追い撃ちとばかりに押し込めば、竜から堪えきれない呻きが漏れる。
 しかし程なく、振り上げられる赤青二つの光。
 仲間たちの呼び声を聞いて航は逃れようとするも、硬く鋭い爪は瞬く間に迫ってくる。
 彼を失えば、ケルベロスたちの攻撃力は大きく削がれてしまうだろう。
 身を投げ打つは、今だ。
「ドラゴンカレーにしてやろうか!」
 息巻く小梢丸が痛烈な一撃で鱗を砕き、航を押し飛ばす。
 すぐさま突き刺さる輝き。今度ばかりは、懐の友も守ってはくれない。
 緩んだ地面を何度も跳ねて、小梢丸の身体は泥の中に沈んだ。
「次ッ!」
 血と脂で曇った爪を払い、竜は哮る。
 だが声とは裏腹に、身体から光が失せていく。
 まるで残された時の少なさを示しているようだ。
 眼力で見られる命中率とは違い、正確な数値として表すことなど出来ないが、ケルベロスたちは確かに、そう感じた。
「一気に押し切れ!」
 気炎を上げる爽を傍らに、ジャニルが長銃で狙い定める。
「貴様はジャニルに『死』と言わせたのだ……容易く逝けると思うなよ」
 絞り出した言葉と共に、三度撃ち放たれるエネルギー弾。
 それが竜の力を薄めるために染みて間もなく、爽は魔龍の水晶体――眼から作り上げた虹銀の刃に、己の信ずる心を込めて殴りつけるように斬る。
 その一撃は輝く爪を刎ね、一睨みは悪夢を招く。
 滅びゆく竜が望んだそれは、もう決して訪れることない明日の景色。
 未来というものの存在が、これほど絶望に変わる機会もない。
 人であれば、心が壊れてしまうだろう。けれど竜は耐え忍び、蒼い息吹を放つ。
 前衛へ向けて、執拗に。攻めの両翼を担う航と桜を、とかく脅威と感じているのか。それさえ退ければ、まだ勝機はあると見ているのか。
 何れにせよ、盾となるのがつづら一つでは厳しい。再び全身を襲う痛みに、航も桜も意識を失いかける。
 けれども今一歩、二人を三途へ流すには足りなかった。ジャニルの重ねた砲撃が、息吹から本来の威力を奪っていた。
 現世に踏みとどまった二人は、二刀斬空閃と禁縄禁縛呪でもって苛烈な反撃を喰らわせる。竜の放つ光は一際萎んで、微かなものになっていく。
「確かに貴方の輝きは美しかった……でも、私達の希望の光は、それにも勝る輝きだよ!」
 叫び、シルヴィアは声の枯れ果てんばかりに聖なる歌を歌う。
 眼前には五芒の星を描くように光の剣が現れ、歌声に合わせて力を溜めていく。
「未来掴む為、さぁ、闇を祓おう……!
 見せてあげる! この星の輝き……地球の祝福をっ!」
 これが最終楽章。歌いきった瞬間、束ねられた力は魔力の砲撃となって竜を撃ち貫いた。
 欠けた光が弾けて飛び散り、巨体が揺れる。
 もはや風前の灯火。主が倒れた後も命じられた通りに、戦い続けたボクスドラゴンのモラがブレスを吐きつける。
 そして終わりを確かなものとするため、いづなも攻撃に加わり、御業から炎弾を放つ。
 しかし生命は――尽きる最後の瞬間に、一際輝く。
「っ! つづら!」
 避けるには遅すぎた。咄嗟に呼んだ主を庇って、つづらが露と消える。
 それでも奏から小梢丸を経て、つづらにまで連なった盾役たちの献身は、決して牙に折れることを許さなかった。
「これで仕留める!」
「はいっ、航さん!」
 護りに護られた牙たち。まずは航の刀が、再び神速に至る。
「貫け! 流星牙!」
 雨の一滴にすら躱してみせるような、鋭い突き。
 それが竜の懐を裂くならば、もう一つの牙は竜の首へ。
 桜が具現化する、数多の怨霊。その手は絡み合い、一つになって爪を伸ばし、縋るように喉笛を裂いた。
 蒼に代わって赤い飛沫が噴き出し、竜の羽ばたきが止まる。


「……同胞たちよ、私は、此処までのようです」
 風音に似た音の中に、微かに聞き取れるほどの声が混ざる。
「ああ、彼方の同胞たちよ……。私の血肉では、貴方たちを生き長らえさせられない。
 虚しくも散る時が来てしまうなら、せめてドラゴンの、誇りを忘るる、なか、れ」
 瞳から灯が消えた。
 岩と化した竜は雨粒で削られるように、形を失っていく。
 今際の際に放った光は、その身に備えたままで。
「おわりまでも、うつくしいかた……」
 ただただ立ち尽くして、見つめ、ふと思い至り、いづなは祈る。
「ながいあいだ――おつかれさまでした」
 今生の敵であれど、その魂が荒ぶることのないように。
 そんな彼女の優しさを、シルヴィアが歌に変えて響かせる。
 声音は伏した仲間たちを揺り起こす。
 二人とも備えが万全だったから、重い傷ではないようだ。
 胸を撫で下ろしながら、航と爽は竜の亡骸を――未だ輝くそれを、拾い上げた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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