クズキャラのおもてなしカフェ!

作者:林雪

●クズキャラカフェへようこそウェッヘヘヘ
「テーマはブレてない……ブレてないはず……」
 がっくりと床に崩れるのは、顔にピエロっぽいメイクを施した30代くらいの女性。袖をワイルドにちぎり取ったレザーのベストには、とてもトゲトゲした鋲がたくさんついている。
 実はここはコンセプトカフェである。ピエロレザーの女性はこのカフェの店長・シオリである。
 店内は荒れていた。と言っても、これは実は演出。海外のダイナーをイメージした作りの店内はわざと壁を汚し床に酒瓶を転がし、窓ガラスは割ってある。犯罪者が集いそうな、荒んだ雰囲気を醸しているこの店は『クズヤローがおもてなし』というコンセプトで運営されていた。基本はこのピエロメイクでトゲトゲレザーベスト姿のシオリがオーダーを取りに来るのだが。
「さぁて姉ちゃん、一体何が飲みてぇんだい? 俺の(放送禁止音)はどうだヒャァッハッハ! ……ほら完璧! なんていいクズっぷりなんだろう! 私だったら絶対興奮するのに! このクズヤローがビールっつってんだろ! って気分よく言い返すのに!」
 シオリの個人的価値観で運営されていたこのカフェに、残念ながら客は殺到しなかった。シオリは今激しく後悔していた。
「やっぱり、やっぱり誰かマッチョい男の人を雇うべきだった! 私のこの貧弱さじゃあクズキャラの良さは伝わらないし、お客様だって気持ちよく罵れなかったんだー!」
 全体的に色んなことがズレている、そのシオリの背後にそっと忍び寄る影。
 グサリ、と鍵がシオリの胸を貫いた。血は出ない、ケガもしない。
『あなたの『後悔』は私が貰ってあげる。私のモザイクは晴れないけど、ね……』
 シオリは意識を失ってその場に倒れた。と同時に、隣に現れたのは、やはりトゲトゲのついた袖なしレザージャケットを着た、ピエロメイクのドリームイーター。ただし体は筋肉ムキムキマッチョ気味になっていて、胸元がモザイクで覆われている。
 マッチョドリームイーターは、倒れたシオリを店の奥に運び、自ら店長として振る舞い始めた。
 たまたま店の前を通りかかった一般人の腕を捕まえ、店に引きずり込む。
『おい、そこの青二才ヤロー、寄っていけやぁヒャアッハハハ!』
「や、やめろこんな汚い店、誰が入るもんか!」
『オラオラ、まずは水を飲め!』
 と、ドリームイーターは客の頭に水をぶっかける。
「わああ?! 何すんだよ! 警察に通報してやる」
『このサービスがわかんねえとは、てめーみてぇなクズヤローは生きてても意味はねぇ! 死ね、ヒャアッハハハ!』

●サービス……?
「うーん、ヴィランっていうの? 所謂悪役を贔屓にする人っていうのは結構きくけど、クズキャラ特化っていうのがねえ……」
 資料に目を通しながら、ヘリオライダーの安齋・光弦が首を捻る。
「正直、本物のクズと戦ったことあると、わざわざ金出してクズに会いに行こうなんて思わないけどな。まあ、一般人もあんま思わなかったから店が潰れたんだろうけど」
 事件を明るみにしたサイファ・クロード(零・e06460)もそう言って腕を組む。
 今回の被害者は、クズキャラが接客してくれるカフェの店長である。
「店長のシオリさんって女の人は、アクション映画のファンだったみたい。で、ああいう映画のクズキャラになりきって接客するカフェ作ったけど、潰れちゃったと」
 店を潰してしまい、後悔の気持ちでいっぱいだったシオリの元に、魔女ゲリュオンが現れた。シオリから奪った『後悔』の念から生まれたドリームイーターは、シオリに変わってクズ店長となり、一般人を無理矢理店に引き込もうとしているらしい。
「こいつは無理矢理サービスを押し付けて、それを喜ばないと客を殺してしまう。被害が出る前に撃破して欲しい。ドリームイーターを倒せばシオリさんも意識を取り戻すはずだ」
 そう説明し、光弦は店の場所を示した。店があるのは東京都内、駅からは徒歩で20分と立地はあまりよくないが、住宅街が近いのでそれなりの人通りのある場所である。古くなった民家を更にボロボロにし、スプレーで壁に落書きがしてある。
「敵はドリームイーター1体。お客さんとして店に行って戦いを仕掛ける、シンプルな作戦だね。でももうひとつ、この店の接客をきみたちが心から楽しんであげるとね、敵の戦闘意欲をそぐことが出来るんだ」
 敵はシオリの意思を元に生まれたため、クズキャラ接客を心から楽しんであげれば、意識を取り戻たシオリを前向きな気持ちにさせてあげられる、という効果も期待できる。
「シオリさん、せめてアクション映画の主人公になりきればよかったのにな……」
 サイファの意見ももっともだが、仕方ない。
「余裕があればシオリさんを助けた後、励ましてあげてね。クズキャラカフェもやりようによっては、楽しくなるかも?」


参加者
クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
クイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)
ココ・プラム(春告草・e03748)
白鵺・社(愛結・e12251)
ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)
ヴィオレッタ・スノーベル(ヤンデレッタと呼ばないで・e24276)
ダスティ・ルゥ(名乗れる二つ名が無い・e33661)

■リプレイ

●クズがお待ちかね!
 クズキャラカフェ。その名を聞いた瞬間、ダスティ・ルゥ(名乗れる二つ名が無い・e33661)の胸は熱くなったのだ。
「ここが……」
 是非行かなければとダスティが誓った『クズキャラカフェ』が目の前にある。
「ワシは嫌いじゃねェけどなァ、こういうン」
 なるほどドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)の言葉には説得力がある。というか、ドミニクの外見のガラの悪さがこの場所に似合っている。
「わかるぅ! なかなか楽しそうなとこだよね~」
「俺もー、ていうか、得意ジャンル?」
 明らかにはしゃいでいるのはクイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)と白鵺・社(愛結・e12251)だった。彼らは不穏なもの、不安定なものを愛してしまうクチなので当然の反応、といったところか。
 というのもこのカフェ、見るからに廃墟なのである。ボロボロのシャッターや壁にはスプレーの落書きの他、焼け焦げた跡なんかもつけてある。
「色んな趣向があるもんだ」
 疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)が感心したような、半ば呆れたような声で言ったが、彼もまたこちら向きの風情がある。服装も着流しの上に派手な羽織りを引っかけた、派手な渡世人の親分風だ。
「とか言いながら雰囲気バッチリじゃんヒコさんてば☆」
「クズ客シマスヨ!」
 意味がわかっているのかいないのか、だがクローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)も相当張り切っている。
「クズキャラさん……」
 ココ・プラム(春告草・e03748)にはあまり馴染みのない雰囲気。だがそこは生来の好奇心が勝つらしく、落ち着かないながらにちょっとワクワクしている自分をココは自覚する。同じく、知らない世界の扉を開くのに幾分緊張気味のヴィオレッタ・スノーベル(ヤンデレッタと呼ばないで・e24276)。
 基本的に今回のチーム、全員クズ接客を楽しもうという、大変柔軟な姿勢で盛り上がっている。
「おっけ、じゃあ最初っから雰囲気出してこーか☆ おらぁクズヤローちゃーん、オイラたちが来たよぉ」
 先陣を切ってクインが、続いてドミニクが咥えタバコに火をつけてクローチェを手招きし入店していく。
「よっしゃクロ吉、ついて来いやぁ! 」
「やってやりマスヨ! フハハハハ!」
 その後ろから楽し気に歩く社に、ココが人懐っこく駆け寄った。
「社ちゃん、ココでもすぐ使える簡単なクズ用語教えてー」
「そうだねー(放送禁止)とかどうかなー」
 そこへヴィオレッタも加わった。
「あ、わたしも、その(放送禁止)使っていいでしょうか?」
「いいよー」
 アウトである。幼女ふたりに放送禁止用語を教えるドМ男子アウトなのであるが、今回はそれで正解なのである。
「クズる、思い切りクズるぞ……!」
 何がダスティをここまでクズに駆り立てるのか、と殿をどっしり構えて歩きながらヒコが薄く笑う。
 ともあれ心をひとつに、8人のアウトなクズケルベロスどもが敵を斬る!
 入店すると、店内は荒れていた。もともとそういう装飾なのに加えて、来客がなくて寂れホコリをかぶっているのが余計それっぽい。席はカウンターとテーブル席、それにソファ席まであり、存外広い。
「すごーい、雰囲気出てるねぇ。このテーブルの汚し方とか拘りを感じるな……こういうの俺大好きなんだけど、ウケなかったのかな?」
 社が指でついとなぞりながらあちこち見回す。ヴィオレッタとココもキョロキョロと興味深く店内を見回している。反応はなかなか対照的。
「おそうじ、した方がよさそうですね……」
「よーっし、ココ、主人公さんになりきっちゃうねっ」
 そこへ、店の奥からヌウッと現れた大柄な影……。
『アァん? どこのネズミが入りこみやがったんだかなぁ……ヒェッへへ』
 水の入ったコップとおしぼりを乗せたトレイを持った、クズ店長の登場である。

●レッツ、クズ
『おんやぁ~? 随分ちっちゃい子ネズミちゃんもいるなぁ~?』
 さすがクズ、小さくて弱そうなものには真っ先に絡んでいくスタイルということでまず敵はココとヴィオレッタに目をつける。もっとも、ケルベロスに限っては女子だから子供だから弱い、という価値観は成立しないのだが、一般的クズ論が適用された感じである。
「うーんと、何だっけ。さっき社ちゃんに教えてもらった……」
「誰がちっちゃいだコラぁ! つかテメェココさんに何くだらねー事言ってんだこのクズが!」
 ココが(放送禁止)を一生懸命思い出す間に、ダスティがすかさず先制のいちゃもん!
『あぁ? いい度胸だなぁ兄ちゃん……』
 ニヤァと口元を歪め、トレイをダスティに叩きつけようとした店長の頭に、スコーンと灰皿が投げつけられた。
「ちっがーう! 水をかけるだけなんて生温い! そこは(放送禁止)とか(放送禁止)ぐらいぶっかけてこそのクズだろうが!」
 カウンター席に腰かけ、社が鬼監督よろしくツッコミを入れた。その隙に、ダスティはそそくさっと身を引く。
「えェから早ォビールと灰皿持ってきィや、ドクズが……」
 いつの間にかコの字型のソファ席の一番奥を陣取り、テーブルにガンッ! と足を乗せながらドミニクが低い声で脅しつけた。ジジッとタバコの灰が長くなる。
「ほら、クズ、早くしろってんデスヨ」
 その横のクローチェも同じくドガッ! と足を乗せる。
「オイラはブランデーね♪ なんかお腹も減ったから、軽く小腹埋めるものも」
 クインはソファで片膝を立て、己の膝頭にくたりと頭を乗せている。
「はぁー……まったく、どうしようもないクズデスネ。お客様が酒もってこいって言ってるんデスヨ? 3秒で準備しろってんデスヨ!」
 ダァン! とテーブルを激しく叩くクローチェ。
「そーじゃそーじゃ、3秒、3秒! 3秒で支度しな――ってなァ! 出来ンかったら、そのご自慢の(放送禁止音)ちょん切って、(放送禁止音)(自主規制)したらァな!」 ハハッ! と舌を出しつつ中指を立てるドミニクの様になり方がハンパない。
 ココはこのソファの端っこにちょんと腰かけ、芝居の成り行きをワクワク見守っている。荒くれどもが荒れる横でキラキラ瞳を輝かせる金髪碧眼少女、という時点で割とシュール極まりない。
「おい、こっちは放置か?」
 隣のテーブル席に座ったヒコが静かにドスを利かせると、その向かいに座っているヴィオレッタも、その口調を真似る。
「なるほど、これがクズなのね……勉強になるわ」
「俺には酒、コイツはジュースださっさとしろ」
 何だか妖艶さすら滲ませるヴィオレッタ、ヤクザの親分が幼女愛人連れてるといったこれまたアウトの構図だが、今回はこれで正解なのである!
『……ケケケ……少々お待ち下さいやし……』
 ケルベロスたちのクズ攻撃を受けてか、クズ店長が一回奥に引っ込む。すかさずダスティが普段のオドオドモードに戻ってしまう。
「へ、平気ですかね僕ちゃんと出来てますか? 皆さんの邪魔になってるんじゃ……」
 不安げに、持参した小さいパック牛乳取り出して飲み始めるダスティを、社が励ます。
「大丈夫大丈夫、すごくいいクズっぷりだからもっと楽しんじゃって」
 一方ソファ席も盛り上がっている。
「クロ吉、なかなか様んなっとるじゃーねェの」
「恐縮デス!」
「だんだんわかってきたかも! ココもクズするね(放送禁止)やろう! って言えばいいんだよね」
「いいねぇ~そういう感じ♪」
 そこへ、トレイにヒビだらけのグラスと、明らかに飲み物じゃないだろ薬品だろという瓶をいっぱい乗せた店長が戻ってきた。
『グェヘヘ、お待たせ致しましたぁ、ライターオイルに(禁止薬物)に(放送禁止)です……クズのお客様方には、これが丁度いいかと……』
「言ってくれるじゃねぇかクズヤロー、ご褒美に奢ってやるぜ、おらよ!」
 一瞬でクズゲスモードに戻ったダスティが飲みかけの牛乳パックを投げつける。
「ハ~ァ、これだからクズは……。オイラ達がお客サンだってちゃんとわかってる? 接客の基礎からお勉強し直したらどう?」
「そうデス。お客様は神様なんデスヨ? そんなこともわからないんデスカ?」
 クインとクローチェが言葉で罵る中、ドミニクが足を乗せていたテーブルをいきなりガシャアーン! と思い切り蹴り飛ばした。テーブルごと吹き飛び、床に倒れた店長を席に座ったままでヒコがグリグリと踏みつけた。
「そら、ゴホウビだ。汚い言葉を使いてぇだけのオコチャマにピッタリだろ?」
「接客ひとつもまともにできないの? ほんっとクズなのね。ほら、さっさと持ってきて頂戴な、喉が渇いてるのよ」
 ヒコに踏まれ、ヴィオレッタの菫色の瞳で見下されながら罵られる。シオリに意識があったなら、本当に泣きながら喜びのあまり吐いたのではないかというレベルの、ケルベロスたちによるクズ演出。この隙に何故かさっき投げた牛乳パックをちゃんと回収に行くダスティである。
「どうするクロ吉、処す? 処す?」
「どうしようもなく愚鈍なクズ店員デスネ。コイツは処すしかないデスネ」
「しょす! ココもしょす!」
 それを聞いて、しょす? と小首を傾げるヴィオレッタに、ヒコが意味を教えてやる。
「ぶっ殺す、ってことだよ」
『嗚呼……クズ万歳……!』
 感動に咽び泣き始めるクズ店長。もしかしたらシオリの魂もどっかに憑依してるかも知れない。結構なドМだねーと見守る社。
「頃合いかもね~♪ だいぶ満足したでしょ☆」
 クインが抜かりなく敵の様子を見てそう言った。ケルベロスたちはかなり全力でこのカフェを、正しい方向に楽しんだようである。
『この世界はクズで回っているんだ!』
「ナマ言いやがってテメェぶっ殺してやらァ!!……てなわけで兄さん姐さん方よろしくお願いします、ヘヘヘ」
 拳をかざして敵を怒鳴りつけてからの、ススス……と後衛まで一気に引いてのダスティの一言。
「すごいよダスティさん。あんた小者系クズ極めてるよ何の心配も要らなかったよ!」
 社がその完成度に心から感嘆してそう言い、逆に前に出る。監督役に甘んじていた社だが戦闘ではクラッシャーであるヒャッハー!
「本当の屑キャラって奴は、だ」
 ヒコがその隣に歩み出て、敵を睨む。
「地に伏せ敗北する姿が様になるところまでが様式美だ。さぁて」
 お前はどうだ? と床を蹴り、激しく敵の足元を払うヒコ。
 クズ退治、開始である。
「もうちょっと遊びたかったけど……いくよ松、よーく狙って!」
 ココが大鎌を振るうと同時、ミミックの松乃進が飛び出した。
『オラァこの(放送禁止)ども!』
 ヴィオレッタが暴れる敵を凍結弾で止めようとするも、敵はビール瓶を持って大暴れを始める。そのビール瓶の先が、近距離で攻撃していた松乃進を斬り裂いた。
「このクズヤローが……大人しゅうせンなら、喰い千切ってやらァ。ちぃと風通しを良くしてやるかのォ」
 ドミニクが神速でリボルバーを連射、四発を正確に叩きこむ。
『いっ、いでぇ!』
「モードメディカル。VP-9413射出シマス」
 先までのクズキャラモードから、常の戦闘モードへ早変わりしたクローチェが味方の防御を固めつつ、敵の位置取りを探った。どうやらクローチェと同じく中衛布陣のようだが、もはやケルベロスたちの接客で満足してしまった敵の戦意はそう高くないようだった。あとは、クズらしく葬ってやるだけである。
『オラオラァ! 燃えろ燃えろ汚物は消毒だヒャッハー! これからテメェの内臓をちょっとずつ火箸で(自主規制)』
 とんでもない拷問計画と共に飛んできたモザイクは、クインが間に入って受け止めた。庇われつつ、伝説的クズセリフに思わずガッツポーズの社。
「うわぁ、生消毒だやったぁ! ほんとに言ってる人初めて見た!」
「ザッフィー、いきマスヨ!」
 オウガ粒子を煌かせ、クローチェも攻撃に転ずる。フルボッコモードである。
「東風ふかば にほひをこせよ 梅の花――……忘れるな、この一撃」
 ヒコが狭い室内いっぱいに翼を広げ、風と共に蹴り込む。
「自分につよーい信念があるのは素敵だけど、迷惑かけちゃダメなんだよ!」
 巻き起こした爆発とともに、ココがそう告げる。手も足も出ずにボコられる店長を、クインが蹴りつけながら煽る。これはクズ演技とかではなく、彼の通常戦闘モードだ。
「あはは!さっきまでの威勢はどうしたの~? ホラ、もっと本気でおいで?」
 社が妖しく微笑みながら朱凜を抜き、佰捌式・濡羽女の幻の刃を食い込ませる頃には、敵はほぼ倒れる直前だった。
「さぁて、あんたはどっちかな? ……なんて、クズには惨殺がお似合いだよね」
 フフ、と微笑み交じりにヴィオレッタが歌う子守歌が、クズ店長の葬送曲となった。
「おやすみなさい、よい夢を……」
 黒い影が伸び、ドリームイーターのモザイクをバラバラに引きちぎっていく。
「やっぱりこういう直接的な方が、分かりやくクズって感じがします」
 今日は様々な面を見せたヴィオレッタだったが、〆は嬉しげに微笑むのだった。

●絶賛?
「ナカナカ、楽しかったデスよ」
 何だかとても晴れ晴れとした表情のクローチェがそう言った。
「ココもたのしかった! もっといろんなタイプの店員さんに会ってみたいなー…なんて」
 新鮮さとちょっとしたイケナイ事感が良かったのか、ココもニコニコしながらお片づけを手伝っている。
「結構楽しいし、ストレスも飛ぶのォ、これ」
 さっき蹴り飛ばしたテーブルをきちんと自分で元に戻しながらそう言うドミニクも、確かにスッキリした顔をしていた。
「まぁ、ドリームイーターは困るがな……ところでこれ、どこまでヒールしていいんだ?」
 とヒコが店内の様子を見ながら眉を寄せる。
 そこへ、店の奥から本物の店長であるシオリが社に付き添われて姿を現した。
「あっシオリサンおっはよー、オイラはわりとこのカフェキライじゃないよ~☆」
「ほらね言ったでしょ? 俺の仲間はみんな楽しんでたし俺も楽しかったよー」
「ほっ、本当ですか?」
 半信半疑のシオリに、ヴィオレッタがふんわり微笑みながら告げる。
「新たな世界が広がりました!」
「ネット宣伝とかしたら遠方からでもお客来そうだと思う。俺もまた来るからね」
「うん、みんなでまた来ようね!」
 まるで美味しいレストランに対する賛辞である。今までにない絶賛の嵐に、小さく震えるシオリ。そして真顔で歩み寄ったのは、ダスティだった。
「シオリさん僕わかりましたよ……あなたに似合うのは、ヒャッハー系クズキャラじゃない」
「えっ」
「小者系クズです」
「はぅぁあ!! それ! ほんそれ!」
 雷に打たれたようにシオリが固まる。天啓だったようだ。
 今後小者系クズキャラカフェの招待券が送られてくるかどうかはわからないが、ともあれ事件に懲りず個性は大事にして欲しい。そう願うケルベロス達だった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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