ミッション破壊作戦～女を舐める目は触手の粘つき

■リプレイ

●
　奈良県上空。
「さてと、戦勝祈願にトンカツも喰った事だし、行くとするかね」
　鏑木・蒼一郎（ドラゴニアンの執事・e05085）は、落ち着いた声音の中にやる気を滲ませ、グラディウスを携えてヘリオンから飛び降りる。
　黒い服装を好むドラゴニアンで、額からまっすぐ生えた蒼い角が印象的な蒼一郎。
　その角を含めたドラゴニアンの特徴はどれも蒼い輝きを放ち、まるで氷のように美しい。
　古びたものに愛着を感じる性質で、気に入った懐中時計をいつも胸ポケットへ忍ばせているそうな。
「〜♪」
　ヘッドフォンを装着して本人曰く一番ノれる曲を聴いているのは、キサナ・ドゥ（アガーテの花冠・e01283）。
　当人曰くとっつきづらい性格という事だが、そのサバサバした雰囲気は場に爽やかな風を運んでくれる、いつも元気なガンスリンガーだ。
　予め小檻に訊いておいた神社上空への到着時刻に合わせて、曲がクライマックスへ差し掛かるよう再生していたキサナ。
「時間だ――！」
　曲の終盤、テンションも最高潮に達した彼女は、背中に何やらバックパックを背負い、勢い込んで飛び降りた。
「拙者の住んでいた森を焼いた奴等では無いとは言え、これを放置致せば拙者と同じ様に帰るべきホームを無くす者が尽きる事は無いでござる。ソレを許す訳には行かぬでござる」
　クリュティア・ドロウエント（シュヴァルツヴァルト・e02036）は、強い決意を固めて眼下に広がる景色を見据えた。
　流れるような銀髪と赤く煌めく瞳、褐色の肌が神秘性を醸し出す上に、蠱惑的なビキニアーマーもよく似合っている。
「バーニングソウル、クールブレイン。この手のグラディウスと共にいざ参るでござる」
　すぅーはぁーすぅーはぁー。
　懸命に呼吸を整えてから、いよいよ降下するクリュティア。
　尤も、グラディウスにグラビティ・チェインが溜まるか否かは、魂の叫びを口に出した瞬間に決まる為、いかにキサナやクリュティアが叫ぶ前に精神統一しようとも足しにはならなかったりする。
　一方。
「魔空回廊の破壊にはやっぱり勢いというか加速というか、そういったものが必要だと思うんですよ」
　ガラム・マサラ（弱虫くノ一・e08803）は、これも戦勝祈願や験担ぎだろうか、美味しそうなポークカレーを食べながら上機嫌に言う。
　ガラムと言えばカレー、カレーと言えばガラムと捉えられる程にこよなくカレーを愛する彼女だから、機内へ食材を持ち込んでポークカレーを調理する手際も見事であった。
「後押しというか、キックというか……ね、宴さん」
　と、ガラムは師団の仲間へ言いたいだけ言って、後はキック役へ丸投げとばかりに、ひらりと空へ躍り出た。
「キックですか……その為にはそれ相応のちょっかいを出さなければいけないんじゃ……」
　妹島・宴（彼岸の契り・e16219）は、蹴られるに至る行為を想像して頬を赤らめるも、
「かけらの仇、ぼくの手で討ち取れ無かったのは残念ですが、これでこれ以上の被害は……はっ。いったいぼくは何を」
　到着までの間、毎度の如く操縦席へ行き、グラディウス充填の為に短い逢瀬を掠めていた。
「……良かった。かけらの貞操は無事だったんですね。今度こそぼくが護りますから！　ではっ」
　ずっと引き摺っていた市川駅での自己暗示が解けたのか、無表情ながら爽やかな空気を纏い落ちていく宴。
　その妄想は彼が怒るに足る理由として大層解り易く安定していただけに、今回の新たな理由づけも期待を持てるが、果たして。
「ミッション破壊作戦というのは初めてだな。この光る小剣で魔空回廊を破壊できるもんなんだな」
　初めて使うグラディウスが珍しいのだろう、しげしげと眺めているのは、鈴木・犬太郎（超人・e05685）。
　復讐の怨念と決別すべく、覚醒のきっかけとなった内臓の他にも記憶を地獄化、闘う為過去を捨てた事で闘う理由を失ったブレイズキャリバー。
　今は何物にも囚われず、他人の悲しみを止める為に日々努力している熱血漢だ。
「グラディウスは思いの強さに呼応する。魔空回廊を破壊するため、グラビティを極限まで高めるだったな……」
　犬太郎は、グラディウスの使い方を今一度自分に言い聞かせてから、ばっとへリオンの外へ飛び出した。
（「オーク……豚どもの未だ残る支配領域。そいつらを野放しにしてはならない」）
　レナ・フォルトゥス（森羅万象爆裂魔人・e05306）は、グラディウスを握り締め、他を圧倒するぐらい気合いの入った怒声を張り上げる。
「この場所も、今回で開放してあげないとですわ。全ての女子の敵に、鉄槌を！！」
　自らを森羅万象爆裂魔人と名乗る、赤い髪とツリ目が色鮮やかなシャドウエルフの女性。
　偉大な魔法使いの研究を受け継いだ鹵獲術士でもあり、独自の術式魔法を好んで使うそうな。
　外見は、赤いタートルネックのセーターに浮かび上がるバストラインが実に豊かで、由緒正しい血筋故のお嬢様らしい振る舞いと共に、レナの魅力となっている。
「豚どもの今となっては唯一の支配地域、これから解放させてもらうわ！！」
　改めて気合いを入れ直し、レナは決然たる態度のまま落下していく。
　他方。
「前回、私の『叫び』で回廊を破壊しきれなかった事と、結果、現段階でのオークミッションの中で最後まで残ってしまった事は、かのオークの危険性をいち早く予見した者として忸怩たる思いで一杯です……」
　珍しく真剣な声を出して胸の内を洩らすのは、アウラ・シーノ（忘却の巫術士・e05207）。
　花咲く銀髪と円らな灰色の瞳が落ち着いた空気を漂わせ、その性格は穏やかで世話好き。
　師団でも毒と薬、飴と鞭、更にはネタとシリアスを器用に使い分ける、話術に長けて親しみ易いオラトリオの巫女さんだ。
「ですが、今日こそ、今度こそは……！」
　また、デウスエクスの横暴に心を痛め、人々の力になりたいと常々願うアウラ。
　今も日頃は滅多に見せない真面目な面持ちで覚悟を決め、宙空へと足を踏み出した。

●
　幾ら春めいてきたとはいえ、上空ならではの寒気を全身で感じながら、魔空回廊目がけて落下する８人。
（「要は『オレが重い一撃をブチ込めるかどうか』だからな。この際思い込みでもなんでも使ってやるさ」）
　キサナは、ドワーフ故の体格の小ささからくる体重の軽さを気にしてか、砂を詰めたバックパックによって勢いをつける作戦のようだ。
「地球の重力も喰らいやがれッ！」
　簡潔ではあるが威勢の良い大喝に、グラディウスも多少の反応を示してグラビティ・チェインを蓄える。
　そして、力一杯叩きつけた光る刀身が、バリアに確かなヒビを齎した。
「豚禰宜だって？　豚とネギで良い塩梅じゃないか。喰ってやる！　その魂までもなぁ！」
　蒼一郎も降魔拳士らしい言葉を叫んで、思い切りグラディウスを振り下ろす。
　豚禰宜様への剥き出しの闘争本能と魂を喰らって強くなりたい向上心の入り混じった大音声が、グラディウスに光を宿らせていく。
　彼の浴びせた斬撃が、バリアへ新たなヒビ割れを作った。
「ＨＡＡＡＡＡＡＡＡＡ、イヤァァァァァァァァァツ！！」
　裂帛の気合いを発して、グラディウスの刃を構えるのはクリュティア。
　自分のようにデウスエクスへ故郷を滅ぼされる被害者を出さない為に——彼女の揺るぎない信念がグラディウスにも伝わり、刀身へグラビティ・チェインがなみなみと注ぎ込まれる。
　クリュティアが万感たる思いで放った一閃は、バリアのヒビを更に大きくした。
「ああ、ポークカレー食べたい……終わったらお腹いっぱいポークカレー食べるんだ」
　そう呟くガラムの表情は大変幸せそうで、彼女のカレー愛の深さが伺える。
「魔空回廊の破壊作戦は初めてですが、グラディウス使用には思いの力が大事と聞きました」
　頷いてグラディウスを構える漆黒の瞳は、やる気に満ち溢れていた。
「世界中のカレーの力を、いまここに！　カーレー！！！」
　グラディウスもガラムの尋常でないカレー愛に圧倒されてかグラビティ・チェインをそこそこ多く溜めて、光る刀身がバリアを貫き、小さいながらも初めて穴を開けた。
（「オークは女を誘拐し、生まれたばかりの子どもを殺す外道である」）
　犬太郎はオークの悪行を思い浮かべて、抑えきれぬ義憤で意識が占められるのを自覚する。
「グラディウスよ世界で最も醜悪な者共を倒すため、俺に応えてくれ！」
　まさしく魂の籠もった絶叫へ応えて、グラディウスの刀身がピカッと光った。
　グラビティ・チェインが瞬時に充たされた刃を、渾身の力でバリアにぶち当てる犬太郎。
　先程の穴を縦へ引き伸ばしたような、長い亀裂が疾った。
「……あなたがたを倒さないと、かけらは」
　宴がグラディウスで斬りかかり様にぶつけるのは、極めてシンプルかつ、聞いた者が馬鹿馬鹿しくなるほど強い思い。
「かけらは安心して巫女さんのバイトが出来ないんですよ！！！」
　前の痴漢妄想に比べると怒りの度合いが弱く思えるが、宴の至極本気なこの叫びには、小檻に巫女服を着て欲しいという滾る煩悩が秘められている。
　それ故、横薙ぎに払ったグラディウスの白刃は多くのグラビティ・チェインを湛えて輝き、長い亀裂が十字に増えた。
（「このオークとか言う奇異なデウスエクス、こいつらだけでも防がないと、全ての女子に不安を残すことになる……こいつらだけは、決して逃してはならない」）
　レナは、オークへ対する女性らしい嫌悪感を胸に抱いて、猛然とグラディウスを振るう。
「奈良触手神社、今日でお前らを消去して差し上げますわ！！」
　彼女の憤怒がグラディウスへもしかと伝播して、みるみるうちにグラディウス・チェインを蓄積していく。
　ザンッ！
　バリアへ斜めに疾る亀裂は、一息に斬り裂いただろう鋭さで、レナの熱意を感じさせた。
「今回、私が信仰の冒涜者に向けるべき言葉は、ただ一言を除いて他はありません」
　最後にバリアへ降下突撃をぶちかますのはアウラ。
「豚禰宜死すべし慈悲はない！」
　神社の名を騙って働く狼藉を許すまじ——巫女として、また１人の人間として湧き上がる憤りを全てぶつけんとばかりに仕掛ける一撃は、グラビティ・チェインが満タンになったグラディウスによる力強い一刀。
　８人の思いが通じたのか、アウラの振り下ろした刃を中心に、亀裂の周りへ蜘蛛の巣状のヒビが一気に広がって。
　——バリィン！
　とうとう、強襲型魔空回廊は盛大に砕け散ったバリアと共に崩壊、その機能を完全に停止した。

●
　雷と炎が降り乱れて雑魚オークを薙ぎ倒すスモークの中、８人は晴れやかな心地でグラディウスを回収。
「各々方準備は良いでござるか？」
「グラディウス拾ったらすぐ走るしかないぞ」
　クリュティアや犬太郎が仲間へ声をかけつつ走り出す。
「宜しゅうございました、今回で破壊できて……」
　全速力を出して駆け抜けつつ、しみじみ安堵の息を吐くアウラ。
「後は豚禰宜を倒すだけですね！」
「張り切り過ぎて、例のあうらばーどになるんじゃねーぞ♪」
　そんな彼女をキサナがからかう。
「き、キサナさんこそ油断して触手の餌食とか、ダメですよ……！　男の方を喜ばせるだけですよ！」
　日頃の仲の良さが伺える冗談の応酬。
「たしか、この後には１匹強敵が出るのよね」
　和みつつレナが呟けば、前方に大きな人影もとい豚影が。
「またケルベロスブヒか！？　よくも清純な乙女を集める計画を台無しにしてくれたブヒな！！」
　豚禰宜様である。
「あれは」
　奴の穿いている袴の紫色を見るや、目を見開くアウラ。
（「ようやくこの時が……！」）
　己が懸念した個体と運良く遭遇する事ができたと悟り、俄然やる気を出した。
「かくなる上は、ケルベロスでも良いから清純乙女の代わりに頂くブヒ！！」
　やる気を出したのは豚禰宜様も同じで、妙に鼻息荒く興奮しながら、豚禰宜触手巻きを繰り出してきた。
「上等。い、今更『恥ずかしい』ごときでオレが止まるかよ！」
　叩いた大口とは裏腹に真っ赤な顔のキサナが、豚禰宜様のぶっとい触手から逃れんと必死にもがく。
「ひぁッ——！」
　だが、身体を捩る程にヌルヌル蠢く触手達はスクール水着の隙間から中へ入り込み、キサナの若い肌を直に味わい始めた。
「あらまぁー」
　キサナのあられもない姿を目の当たりにしてニヤニヤと嬉しそうに眺めるのは宴。
　笑いつつも振りかざしたライトニングロッドからは紫がかった電撃が迸り、豚禰宜様の全身へ命中、強い衝撃を残した。
「見切ってみな、デビルズファニングの妙技を！」
　それでもキサナは気丈に羞恥心へ抗いながら、『アビシニアの乙女はダルシマーをかき鳴らして』による神速の七連射を見舞う。
「オーク死すべし慈悲は無い。ポークカレーにしてやりましょう」
　ガラムは、反りのないＮＩＮＪＡ刀を閃かせ、緩やかな弧を描いて豚禰宜様の太い足を斬り裂くも、
「にしても、ぬめぬめした触手を喰らったら、きっとキュアとかしてもらえないんでしょうね、はずかしいいいい！」
　触手の粘液塗れなスク水キサナを見て、明日は我が身かと思わず頰を赤らめた。
「豚の丸焼きを始めさせてもらうわ」
　と、半透明の御業をけしかけるのはレナ。
　御業は狙い澄ました軌道で炎弾を放ち、豚禰宜様を焼き捨てる勢いで燃やし尽くした。
「天かける龍よ、猛る獣よ！　今こそ来たりて、我が敵を討払い給え！」
　全身に帯びた電流を額の角に集中させるのは蒼一郎。
　角の先から撃った電光は豚禰宜様の羽織に命中、青白い炎と化して燃え広がった。
「ドーモ。初めまして。豚禰宜＝サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
　クリュティアはニンジャらしい挨拶と共に一礼してから、
「お主はここで豚葱になる宿命でござる。もっとも食べる者はおらぬでござるがな」
　グラビティにて練成した大量のクナイ・ダートを、ゆっさゆっさと巨乳を揺らしながら、マシンガンの如き勢いで連続投擲。
　戦場を縦横無尽に駆け巡りながら豚禰宜様をどんどん突き刺していき、大きなダメージを与えた。
　全方向からクナイを投げられた豚禰宜様が、短刀を沢山刺した樽の玩具に見えるのは気のせいである。
　獄炎と降魔力を纏わせ、豚禰宜様の顔面を的確に全力で殴りつけるのは犬太郎。
　驚異的な洞察力、抜群の反射神経、天性の判断力が相まった鮮やかすぎる一撃は、凄まじい威力で奴の豚鼻をへし折った。
「地獄よ。我、我が身を門として汝を引寄（ドロー）せん！」
　アウラは、巫術を補う『地獄』を手の中でカードの形に凝縮、ケルベロスとしての全てを賭した一撃を繰り出す。
　豚禰宜様へ吸い込まれるように飛びながら、カードは徐々に崩壊、形を留めぬ地獄となって奴の体内へ入り、大爆発を起こした。
「おっかない巫女さんだブヒ……それはそれで、陥落させる愉しみが……ブヒッ」
　地面へ沈んだ豚禰宜様は、最期の言葉まで情欲全開なのだった。

作者：質種剰	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。