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「集まってくれてありがとうな、早速なんやけど朗報がひとつや。釧路湿原で事件を起こしとった死神、テイネコロカムイの撃破に向かっとったケルベロス達が無事にテイネコロカムイの撃破に成功したんよ」
信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)の言葉に、ヘリポートに集まったケルベロス達から安堵と喜びの声が上がる。それに微笑んで、撫子が話を続けた。
「それと、テイネコロカムイの目的も判明したんよ。グラビティ・チェインを略奪して朗読に幽閉されとる仲間を脱獄させる事やったんや」
牢獄に幽閉されていたのは、死者の泉を見つけ出したとも伝えられている古のヴァルキュリア・レギンレイヴとその軍団である事も突き止められたのだという。
「こっからが本題や。この悠久にも近い時を幽閉されとったレギンレイヴの目的なんやけど、世界の全てに対する復讐……らしいんよ。もし解き放たれるような事があったら、多数の一般人が殺害されて、その魂からエインヘリアルが生み出されてしまう……そんな大変な事件が起こってしまうかもしれへん」
ただ、テイネコロカムイが撃破された事により、レギンレイヴ達がすぐに地上に出てくる危険はなくなっている。しかし、テイネコロカムイが脱獄していたように、レギンレイヴ達が閉じ込められている牢獄も完璧ではない。
「テイネコロカムイみたいに、なにかしらの理由で牢獄の壁が壊れてレギンレイヴ達が解き放たれる可能性がないとは言えへん。もっと言うてしもたら、彼女らの存在を他のデウスエクスが発見して利用しようとする可能性も否定できへん。特にエインヘリアルの勢力が彼女らの力を手に入れてしもたら、勢力を一気に拡大させる事になってしまうんよ」
この危険を未然に防ぐ為にも、この牢獄を制圧し牢獄にいるヴァルキュリアと死神達を撃破しなくてはならないと撫子が手帳を捲る。
「テイネコロカムイを撃破した時に手に入れた護符があるんよ。その護符を使えば牢獄のある場所に移動する事ができるんや」
移動した先には40以上の牢獄が、まるで『鳥籠』のように浮いていて、その一つ一つに1体のヴァルキュリアか死神が幽閉されているのだという。
「牢獄に幽閉されてるもんは、この『鳥籠』の外に出る事はできへんみたいや。せやけど、牢獄の外から来たケルベロスの皆やったら『鳥籠』の外へも中へも自由に移動する事が可能なんや」
テイネコロカムイが幽閉されていた『鳥籠』に転移した後、それぞれの攻撃目標が幽閉されている『鳥籠』に移動して内部に潜入、更には幽閉されている敵を撃破する……これが今回の作戦だと撫子が手帳から顔を上げる。
「ちょっとばかし厄介なんやけど、『鳥籠』の外から内部への攻撃は一切できへんみたいなんよ。せやけど、『鳥籠』の中から外へは威力は弱まるみたいやけど攻撃が可能なんや」
その為、特定のチームが40体のデウスエクスに集中攻撃を受けるような事があれば、例え威力が弱まっていたとしても耐え切れない可能性が高いのだ。
「せやよって、皆にはチームごとにそれぞれ一体の敵を担当してもろてな、その相手を挑発するように近付いて、攻撃を自分らに向けるようにして欲しいんよ」
また、レギンレイヴを攻撃するチームは他の『鳥籠』で戦闘が始まった後にレギンレイヴのいる『鳥籠』に向かうようにすれば集中攻撃を受ける可能性を減らせる可能性が高いと撫子が言う。
「皆に頼みたい敵は『白詰草の四葉』っちゅー名前の死神や。復讐を望む者に機会や力を与え、復讐が済んだあとに殺して使役する……そういう性質みたいやけど、悠久ともいえる長い時間幽閉されとったよってな、狂気に近い精神状態やと思うんよ。外見は20代後半の女性、長い銀髪で黒い和服姿、左手首に白詰草の腕輪をしとるよって、見たらわかると思うわ」
毒を付与する遠距離攻撃を得意とし、回復や近距離からのドレイン攻撃を行うので注意が必要だと撫子が説明を続ける。
「幽閉されとるデウスエクスは牢獄から脱出する為のグラビティ・チェインを求めとるよってな、戦闘中でもケルベロスの皆を殺してグラビティ・チェインを得るチャンスを狙っとるはずや。万が一戦闘不能になった仲間や危機に陥った仲間がおったら、牢獄の外に撤退させるとか、そういう殺されへん工夫が必要やよ」
真剣みを帯びた撫子の声がヘリポートに響いた。ひと息吐いた撫子が、手帳を閉じてケルベロス達に改めて向かい合う。
「説得はまず通じへんやろし、多数の敵を撃破してもそこで得られるグラビティ・チェインを利用して残りの一部の敵が牢獄から脱出する可能性も否定できへん」
デウスエクスも少量ではあるがグラビティ・チェインを持っているのだ、安全策を取るならばできるだけ他のチームと同じタイミングで敵を撃破する方がいいだろう。
「鳥籠型の牢獄は外部から内部を確認できるよってな、他のチームの戦闘状況も確認してタイミングを合わすんもできるはずや。皆で力を合わせて、頑張ってきてや!」
参加者 | |
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千年翠・美咲(十返りの花・e00964) |
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413) |
リサ・ギャラッハ(花見月・e18759) |
古牧・玉穂(残雪・e19990) |
メレアグリス・フリチラリア(聖餐台上の瓔珞百合・e21212) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
千代丸・ノンノ(聖杖のカボシュさん・e24665) |
ウバ・アマムル(風の随・e28366) |
●鳥籠への潜入
テイネコロカムイが倒された時に手に入れた護符により、数多のケルベロス達が鳥籠に幽閉されたヴァルキュリアや死神を倒すべく、牢獄のある地へと赴いていた。虚無であり、空間であり、閉じられた1つの世界であるレギンレイヴ達が閉じ込められたその場所には、浮遊する鳥籠が幾つも浮いている。
「ここが……レギンレイヴ達が閉じ込められている牢獄なのか」
不気味な空間だとウバ・アマムル(風の随・e28366)が思いながら注意深く他の鳥籠を眺める。
「私達が倒すべき死神はどちらでしょうか?」
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)も40個近くある鳥籠へと目を走らせた。その時、一点を見つめていた千年翠・美咲(十返りの花・e00964)が唇を開く。
「あれ、です」
すっと動いたその指の先に鳥籠の中で微笑み、突然現れたケルベロス達を見ている死神がいた。銀の長い髪、黒い瞳、黒い着物、そして片手首に白詰草で編まれた腕輪――。
「あいつか……!」
倒すべき相手を視認し、メレアグリス・フリチラリア(聖餐台上の瓔珞百合・e21212)が睨み付ける。
「行きましょう、倒す為に」
目が合った、とリサ・ギャラッハ(花見月・e18759)が感じた瞬間、静かにそう言った。それを合図としたように8人のケルベロステイネコロカムイの鳥籠から外に出て、目標のいる鳥籠へと走る。
「復讐介添人さん、貴女は結果を違えないのですか?」
見つけたその時から、ずっと視線を外さずにきた美咲が走りながら問い掛ける。他の班へ攻撃が集中しないようにと事前に決めてあった事だ。死神の唇が、何事か囁くように動いたけれど、その距離と他の鳥籠の死神が鳥籠を揺らす音に掻き消されて何を言ったのかはわからない。それでも、注意を引き付けられたのは間違いなかった。
「復讐の助力とは妄想も大概にしろ、囚われるようなヘマをする者の力、たかが知れるわ」
唇を軽く吊り上げ、千代丸・ノンノ(聖杖のカボシュさん・e24665)が挑発の言葉を投げ掛ければ、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)も声を張り上げる。
「そんなところで狂っていて、復讐の手助けなんてできるんですか? ……意外と大したことないんですね」
死神は答えない、ただ微笑んでこちらへと手を伸ばす。
「気を付けて、攻撃がきます!」
鳥籠の外からは攻撃できないけれど、中からは攻撃が出来る。威力は弱まるようだが、気を付けるに越した事はないと古牧・玉穂(残雪・e19990)が叫ぶと、目指す鳥籠から黒い炎のような、それでいてどろりとした怨嗟のような何かを感じる黒炎の玉が美咲を目掛けて飛んでくる。
「……っ!」
確かに威力は弱く、痛みも少ない。けれど身体を蝕むような感覚に、美咲が顔を顰めた。
「美咲、大丈夫!?」
「ありがとう、大丈夫。走れるよ」
隣を走るリサの声と共に放たれた桃色の霧を受け、美咲が真っ直ぐに死神を睨む。その先の笑顔は優しげなものに見えるけれど、どこか狂気を孕んで見える。それは自分も同じことなのだろうかと美咲が自嘲するように小さく口元を歪めれば、敵の元へ駆ける中、それを見た紫睡が気遣うように名を呼んだ。大丈夫だと、いつもの笑顔を見せ、走る。目指す死神の鳥籠まではもう少しだ。
「なあ、なあ! おねーさん、復讐を手伝ってくれるんだって? じゃあさ、あたしの復讐も手伝ってよ! 力、ちょうだい! 復讐相手の名前はさー……『白詰草の四葉』っていうんだぁ!」
「復讐の刃か、優雅な幽閉生活が長過ぎて、戦い方など遥か昔に忘れてしまったように見えるけれどね。その刃も錆付いてしまっているんじゃないのかい?」
メレアグリスの挑発に続き、ウバも気を引く為に言葉を投げ掛ける。その距離が縮まるに連れて、死神の笑顔が深まっているようにも思え、ノンノが顔を顰めた。死神から放たれる黒炎の玉はその後、環と玉穂を傷付けたけれどすべて軽傷で鳥籠に辿り着く前に癒される。
「あの黒い炎には、毒があるみたいですね。即死するようなものではないですけど」
「そのようですね、すぐに癒すのが1番でしょう。……美咲さん、お願いしますね」
環の言葉を受け、玉穂が今回の癒し手を引き受けている美咲に声を掛ける。彼女が強く頷いたのを見ると、リサが入りますと鳥籠に触れた。
●復讐を望むのは
「初めまして、ようこそいらっしゃいました。私は白詰草の四葉と申します。あなた方が望むのは復讐ですわね、私が力をお貸し致しますわ」
淀みなく喋りながらこちらに黒炎の玉を飛ばしてくる姿は狂っているようには見えなかったが、それでも警戒は怠るべきではない。そう、ケルベロス達が身構えた時、美咲が四葉へ話し掛けた。
「本当に? 復讐を果たしてくれるのですか? 私が連れ添う五刃の付喪の執念も、私が抱える父の無念も母の怨念も結果、果たす事さえ出来るなら――」
やぶさかではないのだと、美咲の瞳が揺れる。
「ええ、ええ、あなたが磨き上げてきたものも、抱え込んできたものも。私にとっては本当に素敵な宝物……後は私が大事に使いますから、安心してくださいね? ここで死んでいってくださいな、皆様の力も全て私の物として、私が使ってさしあげましょう!」
銀色の長い髪を乱して、四葉が笑う。徐々に狂気染みてくる笑い声に、確かに狂ってしまっているのだとケルベロス達が戦闘態勢を取った。
「美咲、私はあなたのそんな結末は許せないし、許さないよ。どうにかしたい相手がいるなら、あれを倒してから探して、ぶっ飛ばしてやればいいんです! その時は、私も付き合いますからね!」
リサの叫びに、美咲の身体がびくりと震える。それを目の端に映しながら、紫睡が四葉に向かって駆けた。
「これは私の我侭ですが、美咲さんのそんな結末は私も困ります、ですから――この紫の棘が幽鬼の死神なんて、拒んで、穿って、消してしまいますからね」
普段は気弱な紫睡がそう言い切ると、トパーズ製の鏃に探索魔法を掛ける。
「夜に淡く、柔らかく、月色の加護を受けし鏃を持って、霧中より我が穿つ者を探せ」
どこまでも敵を追尾する闇を切り裂く月光の如く、『黄玉小夜(トパーズドリズル)』は四葉を穿つ。
「ごきげんよう、復讐の連鎖が最後に貴方を討つ様ですね」
優雅にスカートの端を持ち上げて玉穂が四葉に向けて挨拶をすると、そこからの動きは速かった。軽やかに微笑み腰の刀『無味無来』に手を掛け、
「これが私の力です、介添なんていりませんよ? ――秘剣・霙切」
と、みぞれを雨と雪に分ける程の斬撃、『秘剣・霙切(ヒケン・ミゾレギリ)』が四葉の身体を走った。
「あの子を惑わすあなたはここで朽ちるべきです」
満月を模して作られたリモコン、『Lunar circuit』のスイッチをリサが押せば、紫睡と玉穂の背後にカラフルな爆煙が上がり、それと同時にテレビウムのフィオナが顔から閃光を放つ。
「ふふ、素敵な力ばかりですわね! どうぞ、私の力となってくださいませね」
乱れた髪を直しもせず、懐から抜いた懐剣を四葉が玉穂に向かって振るうと、ケルベロスチェインを手にした環がそれを受け止めた。
「……っ、させませんよっ!」
選び抜いた防具と環の持ちえる能力によって、受け止めた攻撃はその威力を殺がれている。そのまま押し返すと、環のケルベロスチェインが鳥籠の冷たい床に環とリサを守護する魔法陣を描き出す。
「美咲ちゃんに覚悟させちまったテメエは此処でくたばれ!!」
メレアグリスの怒りその物の様な雷がライトニングロッドから放たれ、その迸りに合わせる様にノンノのドラゴニックハンマーが形を変え竜砲弾を撃ち出した。四葉が体勢を立て直す前に美咲が環に向かって金色に光る五刃の刃を飛ばす。
「刃金の果てに、名を為す」
守る力となった『十返りの果実(ギヴ・ア・リーズン)』は環を癒し、力を貸して消えていく。
「全員でこの空間から早く帰還する為にも力は惜しまないよ」
ウバが四葉に向けて跳躍すると流れる星の煌めきと重力を秘めた飛び蹴りを放ち、バックステップを踏んで距離を取った。そこから2度の攻防を重ねた時、レギンレイヴの鳥籠から照明弾が上がるのが見えた。それはレギンレイヴとの戦いが始まった合図、短くも長い戦いは始まったばかりだった。
●解放
上がる息を整え、紫睡が『紫断ち』の刃を変形させると四つ葉の身体を切り刻むように振るう。その横を玉穂が駆け抜け、その傷跡をなぞるように正確に斬り広げていく。積み重なっていくダメージは、四つ葉を確実に追い詰めているが、ケルベロス達の体力も奪っていた。
それでも倒れるわけにはいかないと、リサが自分と環の背後に色鮮やかな爆発を起こして士気を高めると、フィオナも主の意思を受け、環へと回復を飛ばしていく。
「ふふふ、もう諦めて私に全てを委ねてしまえばよろしいのに」
四つ葉の左手首に飾られた、白詰草の腕輪が淡く光る。その光は四つ葉の傷を癒した。
「誰が諦めるかってんだよ、ふざけんじゃねーよ! 消えッちまえ馬鹿野郎!」
何度目の攻撃かはもうわからなかった、けれどメレアグリスの心に燃えるのはただ大事な友達を守りたいという気持ちだけだった。その思いを載せたチェーンソーの刃が四葉を切り裂き、ノンノが星の軌跡を残した蹴りを喰らわせる。美咲が傷を負ったリサと環に向け、紙兵を大量にばら撒き守護と癒しを与えていく。ウバがちらりとレギンレイヴの班を窺えば撃破まではもうすぐのように思えた。
「レギンレイヴの方もだいぶ弱ってるようだね」
仲間にそう伝えながら、ウバが手にした槍に稲妻の力を纏わせて四つ葉の横腹を貫く。
「本気を出してもよさそうですね」
「ここからが本番ですね」
『紫刺し』を手に紫睡が笑うと釘を生やしてフルスイングを決め、玉穂が愛刀で四葉の急所を切り裂いた。間髪入れずにリサが半透明の「御業」を宿し、四葉を鷲掴みにしてその動きを制限すると、フィオナがリサに応援動画を流す。
「ああ、ああ、素敵な力、素敵な力ですね!」
美しい黒い着物は切り刻まれ、傷口を晒しても四葉は笑ったまま黒炎の玉を美咲とノンノに放つ。
「させないって、いってるでしょう!」
リサが美咲を、フィオナがノンノを庇いに黒炎の玉をその身に受けると、環がすかさずリサに向けて守護の魔法陣を描いた。それは必ず皆で一緒に帰るという環の決意その物のようだった。その気持ちはメレアグリスも同じで迸る雷を四葉に放つと、合わせるようにノンノが怒りの込められた一撃、『貴様の権利なぞ知らん(クラス・バーサーカー)』を放つ。たたらを踏んだ四葉に向けてウバがゲシュタルトグレイブを振り被り、その狂った魂ごと喰らうような一撃を喰らわせた。
「合図はまだでしょうか?」
紫水晶を魔力で鍛えたナイフ『紫断ち』を構え、紫睡が四葉を切り裂く。
「そろそろ、だと思いますが……ハァッ!」
与えるダメージを抑える為、玉穂が剣ではなく螺旋を籠めた掌で敵を追い詰める。その時だった、レギンレイヴの鳥籠から眩い照明弾が上がったのは。
「今だよ!」
ウバの声が響くと、その声にリサが美咲を振り返らずに叫んだ。
「美咲! ここで、終わりにしましょう!」
「リサ……!」
頷いた美咲がリサの後に続く。
「あなたにシャムロックは、似合いませんよ」
白き虹と名付けられた白詰草の花冠にそっと手を触れ、リサがそう四つ葉へと言い放つ。
「ミァン、ミァン。暫しの間、手伝って。貴女の力を今此処に」
リサの祈りによって現れた真白な竜『Mian(ミァン)』が請われるままにその力を振るい、激しい雷に撃たれた四葉が動きを止める。それは好機、美咲の手にした『五刃』に空の霊力が宿ると、ありったけの想いを込めた突きが四葉を貫いた。
「私はこれを否定できないけれど! 貴女の力は必要ない!」
両親を殺した敵への復讐心は捨てる事はできないけれど、死神の手を借りるような事はないのだと美咲が叫んだ。自分の為に力を貸すと言ってくれた白詰草はもう自分の隣にいてくれたのだから。
その叫びは四葉に届いただろうか、鳥籠の中で果てた女はもう笑う事はなかった。
●その果てにあるもの
「おい、空間が歪んでるぜ! このままじゃここに閉じ込められちゃうんじゃねーの!?」
「急ぎ脱出しよう、もうこんな所に用はないだろう」
メレアグリスの慌てたような声にノンノが頷くと、急いで四つ葉の鳥籠を出たケルベロス達が来た道を戻る。テイネコロカムイの鳥籠に、他のケルベロス達も走っていくのが見えた。
「走って! 崩壊が始まっているみたいだよ!」
ウバの声に、皆の走る速度が上がる。8人はテイネコロカムイの鳥籠に飛び込むと、開いたままの穴へと身体を躍らせた。
「やっとひと息、ですね」
釧路湿原へ戻り、やれやれと笑った玉穂の言葉に美咲がおずおずと唇を開く。
「あの、ええと……ごめんなさい。それから、ありがとうございました」
「ほんっとさー、あー! もういいや! いいか、美咲! あたしだっていざとなったら結構頼れるんだからな?」
「自分もだ、いざと言うとき千年翠君の力になる事はやぶさかではないぞ」
「私も、いつか美咲さんの剣になるとお約束します」
メレアグリスとノンノ、そして紫睡が俯いた美咲の頭をそれぞれ撫でる。
「俺も縁があれば、必ず」
「私の秘剣の力でよければ、いつでも仰ってくださいね」
ウバと玉穂が柔らかな笑みを浮かべると、自分もと頷いて環が言う。
「……誰かがいなくなるのは、きっとさみしいですからね」
その言葉に頷いた美咲の手をリサがそっと握る。
「帰りましょう、私たちが戻るべき場所へ」
牢獄に囚われていた死神やヴァルキュリア達を倒した事により、起こりえた惨劇を未然に防ぐ事ができた事。誰かを失くさずに済んだ事を噛み締めるようにケルベロス達は釧路湿原の空を見上げたのだった。
作者:波多蜜花 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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