湿原の牢獄~紫眼の死神

作者:沙羅衝

「釧路湿原の死神、テイネコロカムイ討伐に向かったケルベロス達が、その撃破に成功したって話は、もう聞いたかな?」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が集まったケルベロスに、依頼の説明を開始していた。絹はケルベロス達の表情を一通り確認した後、説明を続ける。
「んでや、それで分かったことなんやけど、テイネコロカムイの目的はグラビティ・チェインを略奪して、牢獄に幽閉されている仲間を脱獄させる事やったんや」
 牢獄という言葉に、ケルベロスが驚いた表情をする。絹は、自分の身体を通信媒体としたタブレットを確認しながら話す。
「更に分かったことが、そこに幽閉されているのが、死者の泉を見つけ出したって伝えられる、古のヴァルキュリア・レギンレイヴと、その軍団ちゅうこうとらしいわ。
 悠久って言うてもええ時間幽閉されてたレギンレイヴやねんけど、世界の全てに対する復讐を遂げる事が目的みたいでな、彼女が解き放たれてしもたら『多数の一般人が殺害され、その魂からエインヘリアルが生み出される』ような、大変な事件が起こってしまうかもしれない、っちゅう情報や」
 新たな敵の情報を理解できるように、自らの頭に落としこんでいくケルベロス達。何人かは、頷いた。
「まあ、テイネコロカムイが撃破されたことで、レギンレイヴ達が今から直ぐにでてくるってことはないんやけど、テイネコロカムイが脱獄してきたみたいに、この牢獄も完全やない。いつレギンレイヴ達が出てくるかもわからへんっちゅう状態や。そうなってしもたら、こいつらだけや無くて、その力を利用しようとするデウスエクスが出てくるっちゅう可能性も否定できへん。たぶん、今はエインヘリアルが、特に狙ってるんちゃうかと思ってる。せやから、未然にリスクを排除する必要がある。そこで、他のケルベロスと一緒に、一気になだれ込んで、制圧。これが今回の依頼や」
 成る程と頷くケルベロス達。いまだに状況が掴めないケルベロスもいるようだが、他のケルベロスがフォローする。
「んで、牢獄への潜入と戦闘についてなんやけど、テイネコロカムイを撃破したときに手に入れた護符を利用すれば、牢獄のある場所へと移動する事ができる。移動する場所には、40個以上の牢獄が『鳥篭』のように浮いててな、その一つ一つに1体のヴァルキュリアか死神が幽閉されとる。
 牢獄に幽閉されているモンは、この『鳥篭』の外に出る事はできへんようやねんけど、牢獄の外から来たケルベロスやったら、外を自由に移動する事が出来る。みんなにはテイネコロカムイが幽閉されていた『鳥篭』に転移した後に、それぞれの攻撃目標の『鳥篭』に移動して内部に潜入、幽閉されている敵を撃破して、一つの牢獄を制圧して欲しいんや」
 絹は、鳥篭の外から内部への攻撃は一切不可能であり、潜入するまでは、こちらから攻撃を行う事が出来ない事、鳥篭の中から外へは、威力は大分弱まるが攻撃が可能な事を付け加える。敵の鳥篭の中に潜入するのに手間取れば、その間攻撃を受け続けてしまう可能性もあるという事だ。
「特定のチームが、その40体ものデウスエクスに集中攻撃を受ける可能性もあるということやな。威力が弱まってても、そうなったらヤバイかもしれん。そんなわけで、うちらケルベロスは、チームごとにそれぞれ1体の敵を担当するで。どの敵を担当するかは、他のチームにもそれぞれで指示が行ってるから、混乱することはない。みんなは、目標の『鳥篭』に近づいて、自分たちに攻撃を向けるように、挑発なんかの工夫をして欲しい」
 というとことは、目標を挑発する為の相手の情報が不可欠だ。ケルベロスはその事を絹に尋ねる。
「うちらが担当するのは、『死告』ちゅう死神や。外見は女の子みたいな男の子でな、身長は150センチくらい。赤い髪で犬の耳付きのパーカーを着とる。腰に尻尾のキーホルダーをつけてて、眼が紫なんが特徴や。情報では、サルベージした犬とか猫とかの小動物を従えとるっちゅう情報や。子供とか動物をサルベージしてるみたいでな。恐らくこの小動物もそうやろ。 んで、友達にしてるみたいやねん。意識がどれくらいあるか分からんけど、挑発を狙うんやったら、そこかもしれんな。
 敵全体的にそうやねんけど、この牢獄から脱出するための『グラビティ・チェイン』を求めとる。戦闘中であってもケルベロスを殺してグラビティ・チェインを奪い取るチャンスを狙ってくるで。せやからもし、戦闘不能になったり、弱ってしもたら、すぐに『鳥篭』の外に撤退させるほうがええやろ。せやないと、グラビティ・チェインを吸い取られて、こっちが殺されてまうから、その辺はホンマに注意してな」
 絹の言葉に神妙な面持ちで頷くケルベロス達。
「まあ、ホンマに長い時間に幽閉されとったら、うちやったら精神的にあかんくなってると思うわ。そう思ったら、これは相手にとっても千載一遇のチャンスなわけやな。きっと死に物狂いでくるやろ。話も通じへんやろしな。ご飯作って待ってるから、皆ちゃんと帰ってくるんやで」


参加者
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
知識・狗雲(鈴霧・e02174)
斎藤・斎(修羅・e04127)
クロード・リガルディ(行雲流水・e13438)
ソル・ログナー(希望双星・e14612)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)
御幸・鏡花(は絶対に働かないぞ・e24888)

■リプレイ

●死を告げるもの
「強力なデウスエクス達を幽閉する何か、を想像すると気が重いけれど」
 ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)はそう呟きながら、自分達をここへ連れてきた護符を見る。そして、そのまま視線を前に移す。
「追い打ちでもなんでも、かけられる時にかけるべき、か」
 目の前には宙に浮いた幾つもの鳥籠のような牢獄が映っていた。
 ドドドッウン!
 突如としてグラビティの爆炎があがる。いち早く目的の牢獄を見つけたケルベロスが、その中にいる敵と交戦を開始していた。
 数百人のケルベロス達が一斉に動く。それは、時を経るごとに激しさを増していった。
 知識・狗雲(鈴霧・e02174)が、ボクスドラゴンの『アスナロ』と共に大きくジャンプする。狗雲は絹の話を聞いた時、まさかと感じていた。その情報は、義兄の姿と良く似ていたからだ。
「兎角、生き延びるを第一。ヤバくなったらケツ捲くって逃げろよ?」
 その横を勢い良くソル・ログナー(希望双星・e14612)が注意を呼びかけ、
「……ガキを嬲るのは趣味じゃあないが」
 と、ぼそりと付け加える。
 辺りから爆炎に加え、雷光や魔法の光が反射して、彼らの顔を照らす。
「ここで失敗すると大変なことになっちゃうみたいだね……! でも、絶対に負けなないぞっ!」
 御幸・鏡花(は絶対に働かないぞ・e24888)は、そう言いながら気を引き締め、クロード・リガルディ(行雲流水・e13438)が、
「あぁ…」
 と、言葉少なに相槌を打つ。
「永遠に等しい時を幽閉されるというのは、果たしてどういう感覚なのだろうな?」
 幾つもある鳥籠の中に、自分達の目標を探すが中々見つからない。その事を思いながらカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が呟いた。
「さあな、私も長く眠っていたが、ここは閉ざされた空間だ。分かるはずもないな」
 クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)はそう言って更に上空を見る。そして、上空の隅のほうにポツリと浮かんだ鳥籠を確認する。
「あれは……」
「怪しいですね」
 クオンの言葉に、斎藤・斎(修羅・e04127)が頷く。
 意を決したケルベロス達は、ゆっくりとその一つの鳥籠に近づいていった。
「あれだ!」
 ソルがその特徴を確認する。深く被った犬の耳付きのフードから見える赤い髪に、腰につけた尻尾のキーホルダー。その者『死告』は俯いてグラビティの猫を撫でていた。
「……噂にすら聞かなくなったと思ったら、こんな所にいたとはね」
 狗雲はそう呟く。

(『わかってる。兄さんな筈がないだろ』)

 そして、クオンが口を開いた。
「ふむ、貴様はその小動物を友と認識してるようだが……」
 その声に、死告が反応し、紫の瞳を向ける。
「その動物達は意思を持ち生きてる者では、無い。死んだ魂を貴様が勝手にサルベージして『自分用』に調整して創り上げたモノ……」
「……何だよ。君」
 死告は明らかな敵意を見せ、自分の周囲にグラビティで出来た鳥を飛来させた。

●友達
「『一人』で人形遊びを繰り返してただけ。この数千、数万年もの間、延々と、な」
 クオンは更に続け、
「滑稽だな」
 と笑い、全身を地獄の炎で満たす。
「バーカ!」
 その勢いに、鏡花が拍車をかける。
「ボクの友達を、馬鹿にするな!!」
 すると、その鳥籠の隙間から、鳥達が飛び出してきた。
 クオンとその鳥達を避けるが、ソルの攻撃をカジミェシュが『タイラントシールド』で庇い、ユスティーナの肩口から鮮血が吹き出る。しかし、彼女は怯まずに言葉を紡ぎ出す。
「お友達が沢山いるようで羨ましい限りね。そうやってそばに侍らせて、誰にも虐められないように? 守るわけね? お優しいこと」
 カジミェシュは盾に突き刺さった鳥を見ながら、ユスティーナに続けて言う。
「死体でお人形遊びとは、ご大層な趣味をしているな。どう言葉を繕った所で、それは『友達』ではなく奴隷だろう、違うかね?」
 そしてその盾を腰に携え、ゾディアックソード『Sloj』を抜き放つ。
『我が名はカジミェシュ、星月なるレリヴァの裔、タルノフスキーに連なる者なり! さあ、この首獲らんと欲する勇士や誰ぞ!』
 そのグラビティの力が、死告の瞳を引き付ける。
「背中は預けるぜ、カミル。ちょい稼いでくれ、カマしてやっから」
 隣にソルが並び、カジミェシュの盾に突き刺さった鳥をチェーンソー剣『ブラッディサージ・アサルト』で潰し斬る。
「お友達が死ぬのを黙って見ているとは、随分な頭の持ち主だ。何度も生き返らせる?  ハッ、お友達は玩具と同じか……馬鹿め」
「オマエに何が分かる!? 許さない! こっちに入って来いよ!」
 その言葉を聞き、斎が集中しながら出入り口を確認し、油断することなくその鳥籠の中へと進入する。クロードもその横に並びながら、前を行くメンバーへと、カラフルな爆発で鼓舞していく。その補助を受けながら、全員が鳥籠へと入っていく。
 斎はふと他の鳥籠を見た。どうやら全員が目的の鳥籠への侵入を果たした様であったが、その中では更に激しい戦闘が繰り広げられているのが分かった。
 クロードもそれに気が付いたのか、メンバーへと目配せをする。その合図は、もう挑発の必要が無い事を現していた。
『ただの飾りじゃないよ…!』
 狗雲が唐紅色の鎖を出現させ、前衛へと力を与えていく。

(『だってここは、何千年も前から閉ざされた空間だって言うんだから』)

「その姿は俺の大切な人のものなんだ。返してくれ」
 狗雲の言葉は、激しい戦闘の合図となっていった。

●赤い髪とキーホルダー
「ボハテル! ソルの毒を頼む!」
 カジミェシュがボクスドラゴンの『ボハテル』に回復を促し、自らは更に前に出る。
「攻撃するたびあなたの友達は撃ち落とされていきますが、悪いのは大事な友達を攻撃などに使役するあなたで、私ではありませんので恨まないでくださいね?」
 斎が鳥のグラビティを狙い定め、その力をリボルバー銃の銃弾で相殺する。銃弾が切れるとリボルバー銃のシリンダーをそのまま外し、新しいシリンダーをセットする。
「無理すんじゃねぇぞ。お前に何があったら、兄貴分が悲しいからなァ」
 ソルが斎にそう呼びかけながら、死告をブラッディサージ・アサルトで切り裂く。
「あなたと一緒にいるからこんなところに閉じ込められて、あなたにとらわれているのと同じよ。一番あなたの言うお友達を虐めているのはだれなのかしらね?」
 ユスティーナが、抑揚をつけて絶望しない魂を歌い上げる。
「うるさい……なああああ!」
 怒り狂ったように鳥を打ち放つ死告。既にその瞳からは憎悪しか見えない。だが、その攻撃も斎の精密な射撃と、鏡花のトラウマを思い起こさせる能力によって徐々に鈍り始めていた。
 更にクロードの紙兵が、死告の攻撃の効果を未然に塞いでいく。
 特に、鏡花の放ったトラウマは、死告の冷静さを完全に破壊していたのだ。
 そしてクオンの重い斬撃が、死告の肩を切り裂いた。
「ああ……。あああああああ!」
 だがそれでも攻撃を止めない死告。そしていよいよ、死告の横にずっと控えていた犬が、ケルベロスに突っ込んだ。
 怒りの瞳を向けているのはユスティーナとカジミェシュであったのだが、もう誰でも良かったのか、その怒りを攻撃の勢いで少し後ろを向いていたソルにぶちまけた。
「ソル! 後ろががら空きだ!」
 その直線状に、カジミェシュが滑り込み、身体をなげうって鋭い牙を受けた。
「カミル!」
 カジミェシュの腹部からぼたぼたと血が流れ落ちる。
「……なあ。その友達とやらも、何処で拾ってきたか知らないけど、大切な友達なんだろう? 俺達を倒すのに利用していいのか?」
 狗雲がそう言いながらも、カジミェシュに緊急手術を施していく。
「はあっ……はあっ……。ゆる……さない」
 もうケルベロス達の声は聞こえていない。目の前にいるのは、自らをも獣と化したデウスエクスだ。

(『だから、決着をつけるよ』)

 狗雲がその姿を見据える。
「アスナロ、皆を護って」
 そう指示すると、彼はライトニングロッドを話、拳を狼のものへと獣化させ握り締めた。
「……悪いけどその友達諸共、ここでサヨナラだ」

●時からの開放
『くるくる回ってきらきら光るの。ね、きれいでしょ?』
 鏡花が己を光の粒子に変えて突撃してそのまま切り裂き、カジミェシュがグラビティ・チェインをSlojに纏わせて突く。
『我が喚ぶ、『骸大蛇』。……標的を喰らえ…。』
 ユスティーナのドラゴニックハンマーが、死告の左手を吹き飛ばし、クロードが骸骨の大蛇を召喚して身体を締め上げる。
『受け取ってくださいませ』
 斎が、その大蛇の隙間に掌を滑り込ませ、圧縮したグラビティを打ち込むと、腰につけられた尻尾のキーホルダーがぽとりと落ちた。
「今だ!」
「日の光も届かぬ奈落の牢獄」
 ソルとクオンが同時に勝機を悟る。ソルから黒い槍が生み出されていく。
「ならば示そう、ならば見せよう。奈落の闇を全て切り裂き、この地でも燦然と輝く楽園の太陽が昇る事を!」
 クオンが背後に太陽の如き大火球を刀身に宿らせ、まばゆく光らせる。
『魂に刻まれし、破壊と復讐の鎖に彩られし叛逆の槍、今降臨せよ!』
『廻れ。廻れ廻れ、廻れ!楽園の太陽よ!その輝き、その焔、その灼熱を刃に変え、今我が敵を斬滅せしめん!』

(『そうだろ、アスナロ。成長を見せてやる』)

 激しいグラビティの奔流が死告を襲う。
「あ……」
 か細い声を出し、死告が膝を鳥籠の床につけた。
「知識……」
 最期だと悟ったクロードが、狗雲に頷く。
「……兄さんのような人を、増やさない為に学んだ技術」
 狗雲が、歩み寄る。アスナロがその後ろに控え、主の姿をじっと見つめる。
「あなたは、兄さんじゃない。でも……」
 狗雲の握りこんだ拳が、死告の胸を静かに貫いた。
「また、あの優しい顔を思い出せたよ」
 狗雲の声が聞こえたのか、それとも漸くこの牢獄から開放される事が分かったからなのか、それはわからない。だが消える間際の死告の表情は安らに見えた。

 狗雲が落ちていたキーホルダーを拾い、ふと息を吐くと周囲の状況が分かってきた。
 どうやら、自分達は相当早くに敵を撃破したようだった。
 それを見て、加勢に行こうかと言っていると、クロードが冷静にそれを止めた。
 良く見ると、どの鳥籠も必死の戦闘状況であった為に、入り込む隙がないのだ。下手に手を出すとこちらまで巻き込まれるどころか、悪い方向に事が運ぶ可能性があったからだ。
 鏡花が一人一人の傷を、ねぎらいの言葉をかけながら、ゆっくりと回復を行っていった。
 その他は誰も、喋らなかった。
 作戦とは言え、少々酷い挑発を行ったとユスティーナは少し後悔する。そして、正気でない姿にちょっと心が痛かった。
 全員の傷が癒えた頃、突如として照明弾が打ち上がった。
 その照明弾は、レギンレイヴは討伐された合図のようだった。続々と鳥籠から出てくるケルベロス達。それと同時に、牢獄の空間が歪み始めた。
「よし、退くぞ」
 ソルが全員に合図を送る。
 そして牢獄から出る直前に、狗雲が口を開いた。
「アスナロ、そしてみんな。……有難う」
 その声に、ケルベロス達は微笑み返した。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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