湿原の牢獄~双太刀操る狐面

作者:刑部

「釧路湿原で事件を起こしとった死神『テイネコロカムイ』の討伐にいった人らが、奴の撃破に成功し、その拠点の事も掴んできたで。
 テイネコロカムイは牢獄から脱走しとって、その目的は『グラビティ・チェインを略奪して、牢獄に幽閉されている仲間を助け出す事』やったみたいや」
 ケルベロス達を前にそう口を開くのは、杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044)。
「その牢獄になんやけど、幽閉されとったのは、死神達の他に『死者の泉』を見つけ出したと伝えらとる、古のヴァルキュリア『レギンレイヴ』と、その軍団であるヴァルキュリアも含まれとるのが分かったんや。
 めっちゃ長い時間幽閉されとったレギンレイヴは、世界の全てに対する復讐を遂げる事を目的としとるらしく、彼女がこの牢獄から解き放たれたら『多数の一般人が殺害され、その魂からエインヘリアルが生み出される』様な、重大な事件が起こってまうかもしれへん」
 千尋の説明に神妙な顔で頷くケルベロス達。
「唯一牢獄から抜け出せとったテイネコロカムイを倒した事で、レギンレイヴ達が直ぐに地上に出てくる危険は無くなったんやけど、テイネコロカムイが脱獄しとった様に、この牢獄も完全っちゅー訳やない。なんらかの理由で、レギンレイヴらが解き放たれる可能性も0やあれへん。
 しかも、や。この牢獄の存在を他のデウスエクスが知ったら、その戦力を利用しようとする事が考えられるわな。特にエインヘリアルがレギンレイヴの力を手に入れてしまえば、その勢力を一気に拡大させる可能性が高い」
 千尋の言葉にケルベロス達の表情が暗くなる。
「そうさせへん為にも、今の内にこの牢獄に捕われとるヴァルキュリアと死神らを撃破して、制圧してまおーっちゅー訳や」
 その暗さを払う様に笑顔を見せる千尋。

「テイネコロカムイを撃破した時に手に入れた護符を使うと、牢獄のある場所へ行く事ができるんや。
 移動する場所には、40個以上の鳥篭みたいな牢獄が浮遊しとって、その鳥篭ごとに1体のヴァルキュリアか死神が幽閉されとる。この鳥篭に幽閉されとるんは、外に出られへんみたいなんやけど、牢獄の外から来た自分らやったら、外を自由に移動する事が出来るみたいやねん」
 牢獄の構造について説明する千尋。
「みんなは、まずテイネコロカムイが幽閉されとった鳥篭に転移するやろ? その鳥篭をでて、それぞれが攻撃目標とする鳥篭に移動して突入。幽閉されとる敵をそれぞれが撃破っちゅー流れや」
 と、千尋の説明が続く。
「テイネコロカムイと戦った人らの情報やと、鳥篭の外から鳥篭内への攻撃はまったくでけへんみたいや。せやから相手が幽閉されとる鳥篭に突入するまでは、こっちから攻撃する事がでけへん。
 反対に鳥篭の中から外へは、威力はだいぶ落ちるねんけど攻撃できよる。威力が落ちとるとは言え、目的の鳥篭の中に入んのに手間取ったら、その間色んな鳥篭から攻撃を受け続けてフルボッコになってまうかもしれへん」
 と一旦言葉を切る千尋。
「特に、1つのチームが威力が落ちとるとは言え、40体ものヴァルキュリアや死神から集中攻撃を受けたら耐えられへんかもしれへん。……せやから、チームごとにそれぞれ担当の鳥篭を最初から決めて、その相手を挑発しながら近づいていくんや。ちゃんと攻撃を自分らに向けさせるように工夫せなあかんで」
 と鳥篭に突入するまでの方針について説明する千尋。
「ほんで、レギンレイヴを攻撃するチームは、他の鳥篭で戦闘が始まった後にレギンレイヴの鳥篭に向かったら、集中攻撃を受ける可能性を減らせるやろ」
 と胸を張る千尋。

「自分らに担当してもらうんは、着物を着た女性の姿をした死神が捕えられてる鳥籠や。
 頭に狐の面を付けて、二本の太刀を佩いとる。螺旋忍軍の体を奪ったんやと思うな。トリッキーな動きをしてきそうやで。
 そうそう。こいついだけやのうて他のやつらもやねんけど、奴さんらは、この牢獄から脱出する為にグラビティ・チェインを渇望しとる。せやから戦闘中やっても、ケルベロスを殺してグラビティ・チェインを奪い取るチャンスがあったら、優先的にそれを狙いよる。
 戦闘不能になった仲間とか、危機に陥った仲間については、いつも以上に気を付けなあかん。そやな、牢獄の外に撤退させるとか、殺されない為の工夫も考えといた方がえぇかもしれへん」
 と、真面目な顔をした千尋が注意を促す。

「あ、そうそう、元々デウスエクスは定命化した存在を同族とは認識しよれへんから、ヴァルキュリアの人らでも特別な反応はないと思うで。
 それにしても死者の泉を発見したヴァルキュリアなんか遠い伝説の存在やと思とったけど、こんなとこにおったとはビックリやわな。さぁ、みんなで力を合わせてその存在を過去のものにしたってや!」
 と千尋は発破を掛けるのだった。


参加者
北郷・千鶴(刀花・e00564)
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
卯京・若雪(花雪・e01967)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
三廻部・螢(掃除屋・e24245)
アーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)

■リプレイ


 テイネコロカムイの鳥篭から次々と現れた者達が、別の鳥篭目掛けて駆けてゆく。
 どう見ても味方とは思えぬ者達に二つの刀を振るって衝撃波を飛ばしていたリ・ヴァルケスファルは、
「リ・ヴァルケスファル――その首、頂戴に参ります。御覚悟を」
 不意に呼ばれた自分の名を耳にし、そちらへと向き直る。
 袢纏を着た猫を連れたこの少女が自分の名を呼んだ様で、10名弱の一団が自分の捕えられている鳥篭目掛け、真直ぐに駆けて来る。
「何故、我が名を知る?」
 僅かに小首を傾げ抑揚のない声を発すると、問うた相手……ウイングキャットの『鈴』と共に駆ける北郷・千鶴(刀花・e00564)に衝撃波を飛ばす。その衝撃波は、
「…って、あぶな!? 熱烈大歓迎って感じなのかな?」
 彼女の前を走るアーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)の振るう刀の鞘でいなされ、あらぬところを穿つ。
「死者を弄ぶからバチが当たったんだよっ。お前なんかそのまま一生閉じ込められちゃえ! い~~っだ!」
「貴方がその籠を破るか――我らがその妙技の悉くを打ち破るか」
 アーシィはそのまま駆けつつ、口の両端を指で引っ張って挑発し、髪の白藤を揺らす卯京・若雪(花雪・e01967)も割り込みヴォイスでリ・ヴァルケスファルに声を届け挑発する。
「まったく、ここはいつから掃除されていないのでしょうか? これではせっかくの洒落た鳥篭が台無しですね」
 加えた煙草から紫煙を棚引かせた三廻部・螢(掃除屋・e24245)が、テレビウムの『るんば』と共に悪態をつく。掃除を生業とする彼にとって、放置され続けたこの空間は理解しがたいものであった。
「まぁまぁ三廻部さん、わたし達の想像もしていない所がまだまだあるという事よ。これもまた大昔のお片付け、お掃除の一つですね」
 周りの鳥篭に注意を払い、最後尾を掛ける氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が螢を慰める。
「あっ、左から攻撃が来るっすよ」
「守りますよ~庇いますよ~♪」
 中央で守られ、キョロキョロと辺りを見回し金髪を揺らしていた狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の声を肯定する様に、左側……目標としていない鳥篭から飛んで来た火球を、鼻歌交じりで意気揚揚にオーラを纏ったガントレットで受けた一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)が、爆ぜて生じた火の粉を払う。
「他種族の亡骸しか拾えない死神さん、生半可な技で私達を倒せると思う?」
 一行の右側を護るモモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)がピンク色の髪を弾ませ、チョコの欠片を口に放り込むと、またリ・ヴァルケスファルから衝撃波が飛んで来た。
「……成程。言ってた様に威力は大したことないね」
 それを受けたモモがそう評す間にも駆けたケルベロスと鳥篭の距離は一気に縮まり、くるっと回る形になると、かぐらを先頭に扉を開けて鳥篭に雪崩込む。
「……隙あり」
 その刹那、かぐらは実体が無いかの如く無音で距離を詰めたリの螺旋掌を喰らい、若雪と螢を巻き込んで押し戻され、るんばとアーシィに支えられる。その隙に、
「オラオラァ! 肉持って来いオラァ!」
「なかなかいい動きをするじゃない。あなたは私に『スリル』を与えてくれるのよね?」
 茜とモモが突入して後が続き、一気に戦端が開かれた。


「仲間は絶対に殺らせない。鎧竜騎兵をなめないでほしいわね」
「ライジングさん、合わせます」
 仲間達を背にモモとかぐらがヒールドローンを展開すると、鳥篭の中にドローン達の飛ぶ音が響き、
「ふむ。中から見てもなかなか洒落た牢獄ですね。……ついでに両手両足鎖で繋いでおいてくれれば、此方としては楽だったんですけど」
 螢もデッキブラシを横から蹴り上げ、くるくると回して肩に担いで跳躍する。
「わっはー! 楓さん参上っす!」
 その跳躍した螢の下、狐化した足で鳥篭の底を蹴った楓が、その足でリの脛を蹴り抜くが、手応えがなく空振りする蹴り。見ればいつの間にか3歩程下がった所に立つリの姿。そこにアーシィと千鶴が踊り掛ってゆく。
「みゅー、やりますね。避けられるなら、当たるまで降り注げ!」
 楓は印を結ぶと狐村流忍術、月影彩花を以って影弾で追撃を仕掛けた。
「面白き術……ならば我も、顕現、双身分身の術……」
 影から次々と放たれる弾を見たリも印を結ぶと、ホログラム映像の様な幻影のリ・ヴァルケスファルが現れ双太刀を抜いて衝撃波を飛ばし、幾つかのドローンが煙を上げて墜落する。
「いざ参る……」
 そのまま幻影が前に出てアーシィに斬り掛ると、本体はステップを踏む様に後ろに下がり、くるっと体を回転させ前衛陣に闇のブレスを吹き付ける。
「成程、そう言う訳ね。だから一人でもスナイパーか……なかなか楽しませてくれるじゃないのよ」
「毒と言うのは汚れと同じです。小さな内に対処しておかないと後々大変になりますからね」
 僅かに口角を上げたモモが『竜の牙』の銃口を向けて本体を狙い、螢が薬液の雨を降らせブレスを受けた者達を回復する。その回復しきれない者に、るんばが応援動画……何故か汚れた卵がみるみる綺麗になっていく動画……を流し、回復を後押しする。
「燃えますねー楓さんは強い敵だと嬉しいなーっす! まぼろしだって容赦しませんよー」
 幻影故の守りを無視した前のめりなリの双刃による攻撃を、楓は二つの太刀『紅蓮狼牙』『蒼星狐爪』で受け火花を散らす。リの幻影は更に体を左回転させ横合いから斬り掛るも、楓も同じ様に体を回転させ、再び刃がぶつかり火花を散らす。そこに若雪が弧を描く様に太刀を振るって助太刀し、剣戟の音が激しさを増す。
「狐村さん、避けて下さい」
 声と共にかぐらの撃ち放った大量の弾丸が幻影のリに当たって爆ぜ、幻影が掻き消えた。
「うん、そんなに耐久力はない様ですね」
 ガトリングガンを撃ち止めて頷くかぐらだったが、
「幻は幻よ……顕現、双身分身の術……」
 リが再び印を結ぶと、再び幻影のリが現れ、アーシィに斬り掛る。
「何度も出て来るとは厄介ですね。払いましょうか、隅から隅まで、塵芥も残さずに」
 回復をるんばに任せ、自身とデッキブラシの魔術回路をリンクさせた螢が幻影を清掃しに掛り、茜もそれに合わせて蹴りを叩き込む。
「ちっ……かぐらさん、きりが無いわ本体を狙って」
 この状況にモモが舌打ちする。
 千鶴と若雪、それに楓も茜もアーシィも射程の長いグラビティを持っていない。つまり幻影がディフェンダーに居る限り、本体に攻撃が届かないのだ。
 既に1発目の信号弾は上がっている。……ケルベロス達は異空間の鳥籠の中、思わぬ苦戦を強いられようとしていた。

「これは少々厄介だね」
「どうします、若雪様」
 撃破しても次々と生み出される幻影、若雪の困り顔を覗き込んだ千鶴が問う。
「そうだね……」
 幸いと言うか、本体は分身を作る事に注力しており、時折、鈴に引っ掻かれながらもあまり攻撃を繰り出しておらず、此方は最低でも5人が攻撃を集中する為、幻影の撃破は容易なのだが、このままだと悪戯に時間を浪費し、レギンレイヴとの撃破タイミングを合わせられない可能性が出て来る。
「直ぐに幻影を撃破せずに攻撃の手をゆるめて、本体が攻撃した瞬間、火力を集中して幻影を撃破、一気に詰めるのはどうですか?」
 幻影に拳を振るう茜の割り込みヴォイスが若雪の耳朶を打つ。
「良い作戦ですね。千鶴さん……」
 茜にそう返した若雪が作戦を千鶴に伝える。
 感付かれては意味がない。この3人が割り込みヴォイスを使え、派手に得物を振るって大きな音を立てながら、手分けして皆に作戦を伝えると、わざと攻撃の手を緩める。
「……疲れが見えて来た様ね」
 幻影の振るう双太刀に裂かれたモモが片膝をつくのを見たリが、追撃すべく双太刀を振るってモモに衝撃波を飛ばす。
「今だよ!」
 そのモモをかぐらが庇いに入り、声を上げたアーシィが空の魔力を帯びた刃で幻影を切り崩すと、螢の薬液の雨による後押しを受けた仲間達が一気に本体へと仕寄る。
「さぁ、ぶっ飛ばしてやる! です! 巨王ヒューゲル―――我が領域にて全てを圧し潰せ!」
 腕輪の封印を解いた茜が、赤いオーラを纏って雄叫びを上げて重力場を発生させリを圧し潰しに掛り、楓も狐手を見舞いプレッシャーを掛ける。
「なかなかの妙技でしたがここまでです。せめて今、その復讐の念から解放を……いざ咲き誇れ」
「静心なく――」
 続いて畳み掛けた若雪が舞う様な一閃をリの体に刻み込み、咲き誇ったのは千鶴の一閃。
 手向けの如く舞い散る桜花を払う様に、ブレスを吐きながら跳び退くリ。
「今日のわたしは鋼鉄のわたし! です!」
「くっ……とこしえの戒めの果てにこの様な仕打ちを受けるとは……」
 明らかな劣勢に愚痴るリに、仲間をブレスから庇った茜が胸を張り、
「解放を望むならば、叶えて差し上げましょう。但し行先は地上ではなく、冥府――」
「ニャウッ!」
 間髪入れず踏鳴を起した千鶴が、鈴と共に更に押すと、モモとかぐらも戦線に加わり、リを柵際へと追い立ててゆく。
「残念、簡単には通させないよ……っと!」
 衝撃波を放って横っ跳びに逃げようとする所へ、回り込んだアーシィが鋭く穂先を突き入れる。新たな分身を作る暇を与えぬケルベロス達の波状攻撃に、防戦一方となるリ。
「合図です」
 そこに若雪の声。少し向こうの鳥籠から信号弾が上がっていた。


 策に溺れた死神リ・ヴァルケスファルに傾いた勝利の天秤を覆す力は残っていなかった。
「いい線いってたけど、私にスリルを感じさせるには少し足りなかったね」
「ぐしゃっと一発岩をも潰す! 再び現れよ巨王ヒューゲル!」
 モモが突き付けた『白影』レイの手甲から飛び出した刃が、リの体を大きく裂き、茜の起した重力場が、モモの裂いた傷から流れる血を吸い取る様に引き寄せつつ圧し潰しに掛ると、
「みんな纏めて仲良くだから寂しくないんだよ。おやすみなさい」
 アーシィの愛刀『星河』の刃が満月を描くが如き弧を描いてリの体を裂く。
「我らがこの世界を支配する筈だったのに……」
 リは恨みごとと共にブレスを吐くが、吐いた直後に降り注ぐ薬液の雨。
「思うのは自由です。ですがその様な妄想は塵芥に等しい。俺が全て清掃してあげましょう」
 るんばと共に螢が微笑み、
「大昔のお片付け、これにて完了ね」
 かぐらのアームドフォートから放たれた弾丸が、リの体に更なる傷を穿ちゆく。
「死を以って、せめてその永き幽閉と苦悩の日々に終止符を」
「然り。囚われの日々は、今日でお終いです。何もかも忘れて、お休みなさい」
 若雪と千鶴が交差して左右に斬り抜けた処へ、
「わっはー! なかなか強かったっすよ、あの世でもお元気でー!」
 楓の繰り出した狐爪が、リ・ヴァルケスファルの胸板を貫いたのがトドメとなったのだった。

 周りの鳥篭からも剣戟の音が途絶え始め、レギンレイヴを討ち取ったという事が聞こえ、いくつかの鳥篭から上がる勝鬨が空間にこだました。
 だが、次の瞬間、空間が歪み崩壊が始まった。
「清掃し足りませんが仕方ありません。撤退しましょう」
 螢こ言葉に頷いた皆は、テイネコロカムイの鳥篭目指し駆け出したのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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