「既にご存知の方もおられるかと思いますが、釧路湿原に向かわれたケルベロスによってテイネコロカムイの撃破が成功しました」
集まったケルベロスたちに一礼すると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は顔をあげてファイルを開く。
幾度となく釧路湿原の周辺で暗躍していた死神『テイネコロカムイ』。
その調査に向かったケルベロス達によってテイネコロカムイを発見、撃破したと言う知らせがもたらされたのは、つい先程のことだった。
「テイネコロカムイが撃破されたことによって、釧路湿原で発生していた事件は一旦終息することになるでしょう。ですが、このままでは、いつか同じような……いえ、それ以上の事件が起きることになります」
ケルベロスによって判明したテイネコロカムイの目的。
それは、周囲の町を襲撃してグラビティ・チェインを獲得し、それを利用して仲間たちを開放することにあった。
死者の泉を見つけ出したとも伝えられる古のヴァルキュリア『レギンレイヴ』とその配下のヴァルキュリア、そして彼女こそ死神の支配者にふさわしいとして崇める死神たちによって構成される混成軍団。
釧路湿原地下の異空間に存在する牢獄に捕らわれているその軍団の一員であり、何らかの要因によって牢獄から出ることができたテイネコロカムイが牢獄の壁を破壊するためのグラビティ・チェインを集めようとして起こしたことが、釧路湿原で起こっていた事件だったのだ。
「現状では、牢獄から出ることができているのはテイネコロカムイだけでしたが、将来どうなるかはわかりません……テイネコロカムイが出られていたこと自体が、牢獄が完全ではないことの証なのですから」
テイネコロカムイと同じように、何らかの要因で軍団の誰かが外に出られるようになるかもしれない。
また、他のデウスエクスがレギンレイヴ達の存在を知れば、利用しようと策を巡らせる可能性も十分にある。
「悠久ともいえる時間を幽閉されていたレギンレイヴは、世界の全てに対する復讐を目的としています。そのため、万が一にでも彼女が解放されるようなことがあれば、多数の一般人が殺害された上でその魂からエインヘリアルが生み出されるような事件が起こる恐れすらあります」
彼女単体であっても看過することができない存在である上に、他のデウスエクス――特に、エインヘリアルが彼女の力を手に入れてしまえば、その勢力を急速に拡大させることになるだろう。
「ですので、一刻も早くこの牢獄を制圧してレギンレイヴを打ち倒す必要があります」
そこまで話すと、セリカは一度小さく息をつくと、ポケットから取り出した小さな護符を机の上に置く。
「こちらの、テイネコロカムイを撃破した際に手に入れた護符を使うことで牢獄のある場所へと移動する事ができます」
移動した先の空間には、40以上の『鳥篭』のような牢獄が浮いていて、その一つ一つに1体のヴァルキュリアか死神が幽閉されている。
そして、牢獄に幽閉されている者は『鳥篭』の外に出る事はできないが、牢獄の外から来たケルベロスであれば自由に『鳥篭』の外に出ることができるようだ。
だが、『鳥篭』の特性として『外から内への攻撃は一切通さず、中から外への攻撃は大幅に減衰しながら通す』というものがある。
そのため、レギンレイヴだけを狙って『鳥篭』へ向かおうとするならば、周囲の軍団からの集中砲火を受けることになる。
威力を大きく落としているといえども40以上のデウスエクスの攻撃にさらされれば、レギンレイヴと戦うどころではなくなってしまうだろう。
「ですから、今回の作戦はテイネコロカムイが幽閉されていた『鳥篭』に転移した後、レギンレイヴを攻略する部隊に先立って、それぞれのチームで担当する『鳥篭』に移動して内部に幽閉されている敵を撃破していく形になります」
そう言って、セリカは手元の紙に転移先とその周囲の『鳥篭』の配置を書き込む。
「皆さんに担当していただくのは、カラミティ・ジェーンと名乗る女性の姿をした銃を操る死神です」
西部劇から抜け出してきたかのような装いで、長短二丁の銃を操る金髪のガンスリンガー『カラミティ・ジェーン』。
その姿に違わず、攻撃手段は両手の銃による射撃が主なものとなる。
早撃ち、狙撃、乱れ撃ち。全てが必中の精度で以って撃ち出される射撃を避けることは、生半な技量では難しいだろう。
さらに、
「彼女に限らず、牢獄の中にいるデウスエクス達は牢獄から脱出するためのグラビティ・チェインを求めており、戦闘中であってもチャンスがあればケルベロスを殺してグラビティ・チェインを奪い取ろうとしてきます」
戦闘不能となったままで戦場に残ればそのまま止めを刺される危険もあるために、危険な状態となった仲間は牢獄の外に撤退させるなど、何らかの対策を取る必要があるかもしれない。
また、少量とはいえデウスエクスもグラビティ・チェインを持っている。
多数の敵を撃破した所で、そこで得られたグラビティ・チェインを利用して残りの一部の敵が牢獄から脱出する可能性は否定できない。
「幸い、鳥篭型の牢獄は外部から内部を確認できるので、安全を考えるならば、他のチームの戦闘状況なども確認してできるだけ同じタイミングで敵を撃破できるようにした方がよいかもしれませんが……」
眉を寄せてそう言いつつ、セリカは小さく首を振る。
相手は1人ではあるが、容易に勝てるほど甘い相手ではない。タイミングを見計らうあまりに手が緩めば敗走に追い込まれる可能性も十分にあるのだ。
「それと……詳細はわかりませんが、彼女は自身の『カラミティ』の名に強い誇りを持っているようですので、それを利用すれば行動を誘導することができるかもしれません」
誇りがあるから、ある程度の行動を誘導できる。
だが、誇りがあるから、それが逆鱗に触れることになるかもしれない。
「難しい戦いになりますが……それでも、レギンレイヴを地上に戻すわけにはいきません。ご武運を!」
参加者 | |
---|---|
ソネット・マディエンティ(青鬼は哭かない・e01532) |
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093) |
ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563) |
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683) |
月隠・三日月(咎負いの番犬・e03347) |
エレファ・トーン(メガトンレディ・e15392) |
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080) |
響命・司(霞蒼火・e23363) |
「ええと~」
鳥籠から外に出ると、エレファ・トーン(メガトンレディ・e15392)は周囲を見回す。
周囲に浮かんでいる無数の鳥籠。その中で、予め聞いていた方向にあるのは……。
「――ふっ!」
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)が剣を模したロッドを一閃し、飛んできた銃弾を切り払う。
「あれですね~」
エレファが銃弾の飛んできた方向に視線を向けて、のんびりした口調で鳥籠を指さす。
緊張感を緩めるのんびりした口調に月隠・三日月(咎負いの番犬・e03347)は小さく笑みを浮かべる。
(「トーン殿が一緒だと心強いな」)
同じ旅団のメンバーと共に戦えることに緊張がほぐれるのを感じつつ、三日月は鳥籠へ向かって走り出す。
飛んでくる銃弾を弾き、かわして走りながら三日月が視線を鋭くすると鳥籠の外壁で爆発が起こる。
続けて、ソネット・マディエンティ(青鬼は哭かない・e01532)が撃ち出す炎弾も鳥籠にあたって爆発を巻き起こす。
どちらも鳥籠の内部へ届くことはないけれど――。
それで十分。
相手の注意を引きつけること。他のチームに攻撃を向けさせないこと。それこそが目的なのだから。
だから、
「あー、カラミティ・ジェーン、だったか? 名前負けというか、小物感が出過ぎて直ぐに忘れられそうな感じの奴だな、お前」
走りながら響命・司(霞蒼火・e23363)は拡声器で挑発をする。
相手はその名に誇りを持っているという。
その名を絡めた挑発は……、
「おっと……ま、十分か」
相手の怒りを表すように中央を打ち抜かれた拡声器を放り捨て、司は軽く息をつく。
既に鳥籠は目と鼻の先まで来ているのだし。
「それにしても何故こいつ等は鳥篭に幽閉されとるんじゃろのう?」
ふと呟くガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)に、ノルンは小さく首を傾げて……そして横に振る。
相手の過去に何があったのか、十分にわかっているわけではない。
それでも確かなことは、ここで倒せなければ事件は繰り返されるということ。
そして、いつかは相手の目論見は達成されるだろうということ。
(「地道な活動はいずれは実を結ぶ。そうはさせないわ」)
一歩後ろに下がったノルンの前で、葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)が両手の銃を握りなおして。
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が鳥籠に手を触れると、外壁は音もなく開いて入り口を作り出す。
――同時に、奥から銃弾が撃ち出される。
壁に阻まれることなく、威力を保ったままの銃弾がアンクに迫り――届く寸前で、白の手袋に包まれた右掌が掴み取る。
そのまま拳を握れば、巻き起こる白炎が右腕の袖と手袋、そして銃弾を焼き払って地獄の姿を顕現させる。
右腕には白炎、左腕にはバトルオーラ。二つの力と共にアンクは鳥籠の奥へと身を躍らる。
「クリスティ流神拳術、参ります……!」
その目が捉えるのは、鳥籠の中央に立つ一つの人影。
長短二丁の銃を手にした金髪の女性の姿をしたそれは、レギンレイヴに仕える死神の一人『カラミティ・ジェーン』。
アンクの放つ左掌底を後ろへ飛んでかわし、右手の長銃をアンクの足元に撃って追撃を阻み。
着地するより早く左腕の短銃を連射して、跳弾を繰り返して死角から飛んできた唯奈の放った銃弾を目を向けることもなく迎撃する。
だが、着地の瞬間を狙ってエレファが胸の谷間から取り出して振るう植物が、その足を絡めとって。
続くガナッシュの竜砲弾の直撃を受けながらも、死神は両手の銃を乱射して追撃をかけようとするノルンのテレビウム『ディア』を退ける。
その乱射は止まることなく撃ち続けられ、前衛に立つケルベロス達を飲み込む弾幕となる。
だが、
司の呼び出す小型治療無人機の群れと三日月が張り巡らせる鎖の守護法陣、そしてノルンが作り出す雷の壁とソネットの戦槌。
いくつもの守りが銃弾を阻み、それでも抜けた弾丸によって受けた傷を司のウイングキャット『ゆずにゃん』が巻き起こす羽ばたきの風が癒してゆく。
一旦相手と距離をとって下がってきたアンクと肩を並べて、唯奈は死神をじっと見据える。
相手はガンスリンガースタイルの女性型の死神。
(「こりゃ負けられないねぇ」)
西部劇にあこがれて、銃が好きな身として、高揚する気持ちを感じながら唯奈は笑みを浮かべる。
「私の弾を受け止めるか……この『カラミティ・ジェーン』の前に立つ資格はあるようね」
「……これが出来ないと、素手で銃と戦うなんて出来ませんので……」
初めて口を開いた死神に、アンクはひょいと肩をすくめて返す。
一合だけの交錯だが、相手の実力は決して低くないことは読み取れた。
油断してかかれる相手ではない。
けれど、
「でも、カラミティ・ジェーンって……平原の女王を名乗る奴がこんな狭い牢獄にいるなんてお笑いだね!」
「本来その名は優れた指揮官故に与えられたもの。単独戦闘を行う貴女には向いていないと思いますよ」
「……なんですって?」
唯奈とアンクが口々に告げる言葉に、死神の目が細まり、声に隠しきれない怒りが混じる。
「この私を。『カラミティ』の名を、舐めるか」
「うむ『カラミティ』と言うのがどんなものか知らぬが、まぁわし等から見て大した事なさそうじゃのう」
その言葉に、ガナッシュは腕を組んで胸を張る。
「そう……なら、ころ――」
視線をさらに鋭くする死神。だが、ガナッシュは少し残念そうにしつつもう一度繰り返す。
「わし等『から見てぃ』大した事なさそうじゃのう」
『わし等から見て』→『わし等から見てぃ』→『わし等カラミティ』。
「………………殺すわ」
視線の温度を絶対零度にまで下げて銃撃してくる死神の攻撃を、ため息つきつつガナッシュはかわす。
そうして避けながら、彼女は視線を鳥籠の外へと一瞬走らせる。
今までの挑発は、相手の注意を自分たちへと引きつけて、レギンレイヴに向かう仲間達が消耗せずに戦いに臨めるようにするためのもの。
だから、相手が怒りを向けてくるのは目的通りではあるのだが……。
「やれやれ、ユーモアの通じん奴じゃのう」
それはそれとして、遊び心が通じなかったことには若干残念な気持ちもあるが。
そして、鳥籠の外が明るく光る。
それはレギンレイヴ攻撃班が戦闘に入ったことを知らせる合図であり、彼らが鳥籠につくまでの支援として行っていた挑発をやる必要がなくなった合図でもある。
「そう……見事にはめられた、ということね」
「では、どうしますか?」
気付いた死神にエレファが静かに問いかければ、死神は冷たく笑みを浮かべて銃を構える。
「問題ないわ。あのお方が負けるはずがないもの。それに――私もね」
直後、撃ち出された弾丸をソネットの炎弾が喰らいつくす。
「災厄が捕らわれの身とは笑わせる。私の知ってる『カラミティ』はこんな小物ではなかった気がするけど」
「――私以外のカラミティ、だと?」
視線を鋭して銃を向ける死神に、言葉の端々に不機嫌さを滲ませてソネットが戦槌を構える。
「ああ。その名にどんな意味があるかは知らないが……あんた如きには過ぎた名だと言うことを教えてやる……!」
「この名の重さと意味、じっくり教えてあげるわ!」
互いに『その名』に譲れない想いを抱く者。
どちらも視線を逸らすことはなく、撃ち出される銃弾がソネットの肩を射抜き、反撃とばかりに繰り出されるソネットの拳が死神に撃ち込まれて魂を喰らう。
「生命の泉よ。我が風の導きに応え、彼の者らに癒しの調べをっ!」
それでも回復しきれない傷を、ノルンが魔法陣から呼び出す風と霧が癒してゆく。
そして、譲れない存在を背負っているのは彼女たちだけではない。
「長いこと閉じ込められてお気の毒様だが、生憎と我々にはそんなことは関係ない。地球にとって脅威なら斃すまでだ」
ガナッシュの放つ金属光の中、三日月が神速で突き出す槍が死神に電撃を送り込み、唯奈のアームドフォートの主砲が死神を撃ち抜いて。
しかし、続く司が振るうナイフは短銃の銃身で受け止めてそらされて、アンクの蹴撃も交差した腕で受け止められる。
動きが多少鈍っても、死神としての実力は決して侮れるものではないのだ。
だが、
「ええ~い」
のんびりとした口調で、しかし正確に振るわれるエレファの拳が死神を捉え、網状の霊力が死神の体を縛る。
網状の霊力と蔓に絡めとられ、少しずつ、確実に死神の動きは精彩を欠いたものになってゆく。
そして、動きが鈍れば鈍るほどに、攻撃を回避することも難しくなってゆくのだ。
今はまだ捉えられなくても、決して届かないほど遠くはないのだから。
そして、戦いが始まってから数分の時間が過ぎ、積み重なった布石は死神を捉える。
エレファの蔓が死神の脚に絡みつき、幾度目かの捕縛を与えて――そして、大きくよろめかせる。
「いくぜ!」
「壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)!!」
その隙を逃すことなく放たれる、唯奈のアームドフォートの主砲、そしてアンクの炎の拳。
クラッシャーとして高い威力を誇る二人の攻撃が続けざまに命中して、死神は大きく体勢を崩して……。
「私を……『カラミティ』の名を、舐めるな!」
咆哮と共に、長銃の弾丸を撃ち放つ。
狙うのは回復の要であるノルン。
死神の気迫を込めた銃弾は、三日月の槍をすり抜けてノルンへと迫り――寸前で割って入ったソネットの腹を撃ち抜く。
「――くっ!」
血がしぶき、膝が折れ――そして、踏みとどまる。
ノルンからの回復を受けてなお、受けたダメージは甚大。
それでも倒れることなく立ち上がる。
道具によるものではない。技術でもない。
決して倒れぬ、意地でも戦い抜く。砕き得ぬ鋼鉄の魂が、傷ついてもなお立ち上がる力を肉体に与えているのだ。
「あいつならともかく……あんた如きが私を――止められると思うな!」
「――」
その気迫に、一瞬、死神の手が止まる。
時間にすればわずかでも、致命的な長さで。
「だからテメェは小者なんだよ!」
そうしてできた間隙に、司は死神に拳を振るう。
その右腕に纏うのは蒼き炎と烈しい風。
「ずっと寝てやがれ。塵すら残さねぇ――これがテメェ等の送り火だ」
拳と共に撃ち込まれた蒼炎と烈風が爆発を巻き起こし、蒼い鳳凰となって死神を飲み込んで。
鳳凰が飛び去った後には、体を焼かれ大きく肩で息をする死神が残るのみ。
「……ぐ、っ……」
よろめく死神に、ガナッシュが砲撃形態に変形させたハンマーを構えて、
「待った、まだ早いよ」
「おっと、そうじゃったな」
ノルンからかけられた声に、苦笑しつつ武器をおろす。
相手の体勢は崩れ、動きも鈍り、このまま勝負を決めに行くには絶好のチャンスだった。
だが――まだ早い。
デウスエクスもグラビティ・チェインを持っている以上、早くに相手を撃破してしまうと他の牢に閉じ込められているデウスエクスがグラビティ・チェインを得て逃走してしまう恐れがある。
故に、レギンレイヴの檻からの合図があるまでは、撃破寸前で攻撃を止めて待機する作戦になっているのだ。
とはいえ……。
(「戦闘中に倒すタイミングを合わせるとか、相変わらず無茶な任務だな、おい」)
頭部を掠めてゆく銃弾に、司は胸中でため息をつく。
撃破寸前で待機するということは、合図までの間は相手が自由に動ける状態になるということであり、その間は一方的に攻撃を受け続けるということでもある。
続けて放たれた銃弾を三日月の槍が阻み、ソネットが拳を振るって打ち落とし。
受けたダメージも、ノルンを中心として回復グラビティを使うことで、できる範囲内では回復を行うことは出来ている。
それでも、回復できない部分の体力は削られてゆき……。
――戦線が崩れるより早く、その時は訪れる。
「来たか!」
「まさか!?」
軽い音と共に鳥籠の外を照らす光。
その光にガナッシュは笑みを浮かべ、死神は絶望の声を上げる。
それは、レギンレイヴに向かったケルベロス達が勝利したという証であり、この戦いに決着をつける合図でもある。
「これで貴女も終わりだけど……その前に、カラミティが何なのか教えてもらおうかしら」
「誇る名の意味も知られぬままに消えていきたくは、無いでしょう?」
得物を構えて問いかけるノルンとトーンに、死神は静かに首を振る。
「生憎だけど、一人で私の前に立てない相手の問いに答えるつもりはないわ。それに――消えると決めるにはまだ早いわよ」
レギンレイヴは倒れ、今からの攻勢で死神の仲間も多数倒れるだろう。
――だからこそ、今を凌げばグラビティ・チェインを得て逃げることができる。
「さあ、カラミティ・ジェーンの首をとれるかどうか――試してみなさい!」
直後、死神の両手の銃が続けざまに火を噴き、弾幕を作り出す。
彼女にとっての勝利条件は、今を凌ぐこと。
誰か一人でも倒れれば、足を止めたならば、それだけで条件は達成されやすくなる。
だが、
「紅は炎。尽きることなき“ ”の色」
紅の軌跡が宙を薙ぐ。
それは三日月の生み出す炎刃、紅蓮一刀(クレナイモユルエンサノヤイバ)。
一振りの炎刃から数瞬のうちに放たれる連撃と、それに並走して放たれたソネットの炎弾が迫る銃弾を焼き払って弾幕に穴を穿ち、
「往生せい!」
「お断りよ!」
穿たれた穴からガナッシュが撃ち込む砲弾は直前で短銃に撃ち落とされ、同時に飛び込んだ司が放つ流星の如き飛び蹴りを大きく跳躍して回避して。
そのまま、空中で両手の銃を司に向けて――、
「残念だったな!」
引き金を引くより早く、飛来した銃弾が死神の銃を撃ち抜き跳ね飛ばす。
その銃弾はそのまま、見えざる何者かに操られるかのように不規則な軌道を描いて飛び去って、
「変幻自在の”魔法の弾丸”……避けるのはちーっと骨だぜ?」
ぱしっ、と戻ってきた銃弾をうけとめ、銃口から立ち上る煙にふっと息を吹きかけて唯奈は笑みを浮かべる。
唯奈が作り出した絶好の機会。
それを逃すことなく、
「決めます……!」
滑るように接近したアンクが放つ、冷気を纏った左足刀。
突き上げるように打ち出されたそれは、死神の胸元を捉えて宙に浮かせ、
「――外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!!」
続けて繰り出される白い炎を纏った右拳が、宙に浮いた死神を打ち抜き後方へと跳ね飛ばす。
「くっ……まだ、私は終わらない!」
吹き飛ばされながらも死神は立ち上がり……、
「いいえ」
「――もう、終わっているんだよ」
「……え?」
ノルンとソネットの言葉に疑問符を浮かべ……直後、
「さあ……ぺちゃんこにして、あげますよぉっ!」
「え――ちょっと――!?」
巨大化して頭上から降ってきた、エレファの巨大なお尻に敷き潰されたのだった。
作者:椎名遥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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