湿原の牢獄~わたしのお人形

作者:つじ

●囚われし者達
「聞いてください皆さん! 釧路湿原に向かったケルベロス達が、テイネコロカムイの撃破に成功しましたよ!!」
 集まったケルベロス達に向け、白鳥沢・慧斗(オラトリオのヘリオライダー・en0250)が良く通る声で話し始める。
「そこで分かった新事実です! テイネコロカムイの目的は、グラビティ・チェインを略奪し、牢獄に幽閉されている仲間を脱獄させる事だったみたいですね!」
 牢獄に幽閉されていたのは、死者の泉を見つけ出したとも伝えられる、古のヴァルキュリア・レギンレイヴと、その軍団だと言う。
 悠久ともいえる時間幽閉されていたレギンレイヴは、世界の全てに対する復讐を遂げる事を目的としているらしく、彼女が解き放たれれば『多数の一般人が殺害され、その魂からエインヘリアルが生み出される』ような、大変な事件が起こってしまうかもしれない。
「テイネコロカムイが撃破された事で、レギンレイヴ達が、すぐに地上に出てくる危険はなくなりました! ですが、そもそもテイネコロカムイという脱獄の成功例があるわけですからね! 放っておけば他の脱獄者が出るかもしれないわけです! やべーことですよ!!」
 懸念事項はそれだけではない。彼女たちの存在を、他のデウスエクスが発見し、利用しようとする可能性もあるだろう。特に、エインヘリアル勢力に組み入れられれば、勢力が一挙拡大される恐れもある。
「ということで、皆さんにはこのヴァルキュリア、そして死神達を撃破してほしいのです!」

 テイネコロカムイを撃破したときに手に入れた護符を利用すれば、牢獄のある場所へと移動する事が可能となる。その先に待ち受けるのは40以上の牢獄。鳥篭のように浮いたそれらの一つ一つに、一体のヴァルキュリアか死神が幽閉されている。
 牢獄に幽閉されている者は、この『鳥篭』の外に出る事はできないようだが、牢獄の外から来たケルベロスならば、外を自由に移動する事が可能らしい。
「全体の流れとしては、護符を使ってこの『鳥篭』地帯へ転移、それぞれ攻撃目標とする『鳥篭』に移動して内部に潜入、幽閉されている敵を撃破! やったね大勝利! という感じです!!」
 割とざっくりとした説明の後、慧斗がさらに付け加える。状況はそう簡単というわけでもないのだ。

 鳥篭の外から内部への攻撃は一切不可能。そのため、内部に潜入するまでは、こちらから攻撃を行う事はできない。
 ただし、鳥篭の中から外へは、威力は大分弱まるものの攻撃が可能なのだと言う。
 そのため、敵の鳥篭の中に潜入するのに手間取れば、その間攻撃を受け続けてしまう恐れがあるのだ。特に、特定のチームが40体のデウスエクスに集中攻撃を受けるような事があれば、威力が弱まっていたとしても――どうなるかは想像に難くない。
「そこで皆さんには、チームごとにそれぞれ1体の敵を担当してもらい、その相手を挑発するように近づいて、攻撃を自分達に向けさせるように工夫していただきます!」
 特に親玉であるレギンレイヴを攻撃するチームは、他の鳥篭で戦闘が始まった後に移動すれば、集中攻撃を受ける可能性を減らす事ができるだろう。全体の攻略としても、これは必要な措置なのだ。

●少女のかたち
「こちらのチームに担当していただく敵は、こちら! 『シュエスタ・マリー』という名の死神になります!!」
 提示された姿は、一見人形を抱いた少女のそれだ。
「……背中の翼は『死神』の尾鰭に似ていますね。可愛らしい見た目をしていますが、舐めてかかると危ないですよ!」
 慧斗が強調するように、敵もまた一介の死神。かき集めた怨念を弾丸にする、手にした人形を媒体に、ファミリアロッドのような攻撃を放つなどして抵抗してくるだろう。
「そしてもう一点、注意していただきたいのですが……」
 彼らは、この牢獄から脱出するための『グラビティ・チェイン』を求めており、戦闘中であってもケルベロスを殺してグラビティ・チェインを奪い取るチャンスを狙っている。
 戦闘不能になった仲間や、或いは、危機に陥った仲間については、牢獄の外に撤退させるなど、殺されない為の工夫が必要になるかも知れない。
「追加でさらに注意点です! デウスエクスも、少量ですがグラビティ・チェインを持っています。その蓄積が誰かの脱出要因になる可能性もあるわけです!」
 作戦が上手く進んでいても、倒されていく死神やヴァルキュリアを糧に、一部が逃げ出す事もあり得る、と慧斗が告げる。何かしら対策を取るに越したことは無いだろう。
「幸い、牢獄は外部から内部を確認できます! 上手く連携を取り、彼等を撃破してください! お願いしますね!!」
 元気の良い声でそう言って、慧斗は一同を送り出した。


参加者
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
羽乃森・響(夕羽織・e02207)
アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
英桃・亮(竜却・e26826)
リズ・ランフォリア(レミングスは旅の途中・e27281)

■リプレイ

●鳥篭の森
 テイネコロカムイの居た『檻』に立ち、アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311)が視線を上げる。見上げたそこには、奇妙な闇と、無数に浮かぶ『鳥篭』があった。その光景に想起されるものがあったか、彼女の細められた薄青の瞳に、僅かながら翳りが生じた。
「あの、一つ一つに――」
「ああ、獰猛な鳥……いや、猛獣が居ることになる」
 囚われた者に言及したアウィスに、英桃・亮(竜却・e26826)が頷きかける。中身が小鳥か何かであるのなら、話は簡単なのだが……現実として、あの中に居るのは死神やヴァルキュリアだ。
「私達も行きましょう」
 羽乃森・響(夕羽織・e02207)が二人を促す。それぞれの標的を倒すべく散っていく仲間達と共に、彼女等八名もまた、『鳥篭』から不可思議な牢獄へ足を踏み出した。

 上下左右の感覚も希薄な空間を、番犬達は進む。先程から通信不良を訴えてくる無線機を仕舞い、パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)は目的の『鳥篭』へと視線を向けた。
「陰気な場所だな……」
 こちらが檻の中を窺えるのと同様に、向こうからもこちらの姿が見えている。数々の『鳥篭』から、罵る声や笑い声がいくつも響いていた。厄介なのは声だけではなく、攻撃まで飛んできているところだろうか。
「あれか」
 ケルベロス達がそれぞれに標的を定める中、天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)もまたこの班の相手を視認する。
「牢獄に囚われた少女、ねぇ……」
「服の趣味は合いそうなんだけどなー」
 陽斗の言葉に、パトリックが服をひらひらさせて軽口で応じる。籠の中に映るのは、深海魚を思わせる、鮮やかな青の羽根。その死神は、人形を抱いた少女のような姿をしていた。
「ねえ、こっちに来て。一緒に遊びましょうよ」
「……!」
 笑顔で周りに呼び掛ける死神の姿に、リズ・ランフォリア(レミングスは旅の途中・e27281)が厳しい表情を浮かべる。過去の因縁から、彼女はある死神を追っていた。伝え聞くその死神の特徴と、『鳥篭』の中のその姿はほぼ一致していた。
 心を落ち着けるように、リズは傍らのボクスドラゴン、マリスに触れる。死神は、周りに攻撃するべく怨念の塊を浮かべている。他の班にそれが向けられないようにする事も、彼女等の役目だ。
「遊び相手が欲しいんでしょ? 私達が遊んであげる!」
 緊張を飲み込み、リズが声を張り上げる。少女の姿の死神、『シュエスタ・マリー』と、リズの視線が交わった。
「嬉しいわ、あなたみたいな妹が欲しかったの!」
 ケルベロス達の姿を認め、無邪気な笑みを浮かべた死神は、そちらに向けて弾丸を解き放つ。
「撃ってきたか……」
 ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)が小さく呟く。死神の言う『遊び』とはどうも危険なものらしい。檻を出る際に威力はずいぶんと削られているようだが、このままリズに攻撃が集中するのはまずいだろう。
「スタン、いけるかい?」
「任せるっスよ」
 恋人の呼び掛けに胸を張って応え、コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)が前に出る。
「おねーちゃん遊びましょっス」
「姉様、遊ぼ。よそ見しちゃ、や」
 アウィスもそれに合わせて敵に呼び掛け、一同は攻撃を引き付けながら、マリーの居る鳥篭に歩を進めた。

 境界線をもう一度超え、ケルベロス達が目的の檻の中に踏み込む。ここまで来れば、こちらの攻撃も敵に届く。戦いはこれからだ。
「いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ」
 とは言え、まずこの状況では待ち構えていた側が一手有利。体勢を整えるケルベロス達に、シュエスタ・マリーが歓迎の炎弾を放った。

●死神遊戯
「妹が一度に三人も……どうしようかしら」
 檻の境界を越えて減衰していたものとは違う、本来の威力の攻撃がケルベロス達に降り注ぐ。陽斗をはじめとするディフェンダーが身を以ってそれを阻むも、攻撃に伴う炎にまかれることになる。
「こんなところに封じられるのも理由が分かる気がするな、危険極まりないこって」
「見た目通りというわけにはいかないようね」
 陽斗の言葉に響が頷き、守護星座を描いてダメージを和らげる。これを連続で受けるのは少々厳しいが、今最も避けるべきは、この攻撃が移動中の他の班に向けられること、そうケルベロス達は判断した。
「姉様、なにして遊ぶ?」
「そうねぇ……お人形遊びが良いわ」
 誘うようなアウィスの言葉に、マリーが笑顔で応じる。
「あなた達、人形になってくれないかしら」
 空気が揺らめき、再度の炎弾が浮かぶ。彼女の言う所の『人形』がろくな意味ではないのは、誰にでも感じ取れた。だが、これはこれで狙い通り。
「そうっスね、鬼ごっこに勝ったら考えてあげるっスよ」
「ええ、捕まえて、お人形にすればいいと思うわ」
 これまでも、そうしてきたみたいに。コンスタンツァと、苦いものを含んだリズの言葉に、マリーは嬉しそうに頷いた。
「わかったわ。すぐに動けなくして、捕まえてあげる」
 それを合図に、炎が再度飛び交う。ボクスドラゴンのレーヴ、ティターニアが彼女等を狙った攻撃に、庇いに入った。
「もう、邪魔をしないでよ」
 不満げな声を上げるマリーに、ケルベロス達も反撃を開始。
「可愛い姿にはダマされねぇぜ!」
 グラビティの活性状況を鑑み、攻撃方針を定めたパトリックが鳥篭の中で高く舞う。上空からの一撃に、亮が稲妻の如き突きを合わせた。
「あなた達も、遊びたいの?」
「……遊びだと?」
 攻撃を受け、下がりながらのマリーの言葉に、亮が目を細める。
「あの子にとっては、そうなんだろうね」
 その鋭い視線の先で銃火が爆ぜる。ファルケのクイックドロウだ。格上を想定してのバッドステータスをメインに、前線を固めてケルベロス達は敵へと向かう。

「ほらほら、こっちっスよー」
「もう、やんちゃな娘ね」
 逃げ回りつつ、コンスタンツァが「殲剣の理」を歌い上げる。ケルベロス達が選んだのは、彼女をはじめとした『妹』候補が怒りを呼び、敵を惹きつけていく構え。全体としては前衛を厚くし、バランスを整えた陣形と言えるか。とはいえこの戦いは合同作戦、最後の敵を倒すタイミングまで合わせる必要もある。その中で、こう陣形が吉と出るかはまだ先の話だ。
 陽斗の視界の端に眩い輝きが映る。離れた鳥篭から、信号弾が上がったようだ。
「始まったか」
 最初の合図。ここでようやく、レギンレイヴを相手取る一団が戦闘を開始した。
「さあ、こっちにおいで。私と踊ろ、どちらかが倒れるまで!」
 マリスから回復を受けつつ、リズが手をのべてマリーを誘う。
「素敵ね、楽しみましょう?」
 笑顔で応じた死神は、攻撃の対象をそちらに移していった。
「消えない傷を沢山遺して、まだ笑うか」
「……そうね。私も、赦す事はできない」
 亮の刀が月光の如く煌めき、響がバトルオーラを駆使して味方を援護する。戦いは、徐々に激しさを増していく。

●兆しを待って
「こっちよ、姉様。捕まえて?」
 翼を広げてふわりと飛んで、アウィスが空中からマリーに仕掛ける。エアシューズによる一撃を与えて離脱、もう一度空を舞う。そして後を追おうとした敵に、続けてパトリックが飛びかかった。
 スターゲイザー。足止め効果もさることながら、前のめりに動く彼の攻撃は威力も十分だ。
「ちなみに、お兄ちゃんは要らないよな?」
「そうね、あなたは可愛いけれど、妹の後で考えるわ」
 応戦するべく放たれた炎の弾丸を、割り入ったティターニアが受け止めた。しかし燃え盛る炎はそれだけに留まらず、付近の者を巻き込みにかかる。だがその赤い舌がリズに届きそうになったその時、陽斗が立ち塞がった。
「邪魔しないでよ。妹が見えないわ」
「悪いな、俺とも遊んでもらうぜ『お嬢ちゃん』」
 森羅万象功で翠光を宿す強靭な身体。壁となった陽斗を避けるように、マリーが動く。
「今度はお父さん役が希望なの? 私は妹が欲しいって言ってるじゃない」
 そうして回り込んだそこには、しかしコンスタンツァの銃口が待っていた。
「ねーちゃんは妹を守るもんっス。アンタはただ玩具扱いしてるだけっスよ」
 連続で発射された銃弾が敵を穿つ。痛みに表情を歪ませ、敵も反撃を試みるが。
「そんなのは愛じゃねっス。本物の愛ってのは――」
 収束する複数の闇色の弾丸に、側方から飛び来た銃弾が食らいついた。
 ――こういうものだ、とコンスタンツァが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「信じてたっスよ、ファルケ!」
「無茶しないでね……」
 帽子の鍔で目元を隠し、銃撃の主、ファルケが一つ安堵の息を吐いた。

 戦いは続く。単体として優秀な戦闘能力を誇るシュエスタ・マリーだが、高い地力を持つケルベロス達はそれをじわじわと追い詰めていく。
 壁を務めるサーヴァントが限界を迎えつつあるものの、戦闘内容は概ね順調だ。
 しかしこの場合は、それが問題となる。
 鳥篭の周りの様子を探りつつ、響が仲間たちに声をかける。
「レギンレイヴの班は……まだみたい。守りを固めましょう」
 正確には分からないとはいえ、敵はずいぶんと弱っているように見えるが……。
「どうしたの? ようやく、覚悟が決まったのかしら」
 攻撃の手が緩んだのを察し、マリーが首を傾げる。
「何を言ってるんだ、そんなわけが……」
 ない、と否定するパトリックの目の前に再度無数の炎弾が浮かぶ。作戦上、時間を稼ぐ必要が出てきたケルベロス達だが、敵がそこを気遣ってくれるはずもない。
「大丈夫、崩させないわ」
 襲い来る炎に対抗し、響が鎖で守護の魔法陣を描き出した。

 敵の猛攻に耐えながら、ケルベロス達はその瞬間を待つ。先走ってこの敵に止めを刺してしまえば、その影響がどこの戦場に表れるかわからない。
「なんとかならないのかよ、これ!」
「焦るな、時機が実るその時まではな」
 回復に徹するパトリックの声に陽斗が答える。幸い、と言うよりは作戦通りと言うべきか。前衛の壁を強固に固めた布陣のケルベロス達は、かろうじてそれを堪えていた。
「……ッ、合図は」
 まだか、と。炎を受け止めつつ亮が呟く。沸き立つ心臓の火を、仲間への癒しの力に。
 彼やパトリックが焦るのはほかでもない、自分ではなく『仲間』が激しい攻撃にさらされているからだ。普段ならば攻撃に徹することで、壁役を務める仲間の負担を軽くすることができるのだが、現状はそれを封じられている。急速に、ディフェンダーに位置する者達の体力は削れていった。
 そんな中、アウィスに向けられた魔法の矢に対し、リズが割って入る。各々の戦闘経験の差もあり、一番追い詰められているのは彼女なのだが。
「まだ倒れないの? そんなに嫌がることないのに」
 せせら笑うような声と共に、マリーの魔法の矢がさらに数を増す。
「あなたもちゃんと、壊れるまで遊んであげるわ。ほかの娘達みたいに!」
「……ッ!」
 飛び来るそれらに貫かれながら、しかしリズは痛みを堪えつつマリーを睨んだ。
 ほかの娘達、と彼女は言った。その中には、リズの知る『彼女』も居るのだろうか。そしてマリーの語る『妹』の数だけ、同じ思いを抱いた者が居たのでは。
「そんなの、許せない」
 属性インストール。『マリス』がリズの背に回り、ぎりぎりで踏み止まった彼女を支える。
 駆け付けられなかった過去の戦いを、そしてこの死神を野放しにした際の悲劇を思い、まだ戦えると、リズは信じた。
「……どうしてそんな顔をするの? ちゃんとお人形みたいに、していなさいよっ!」
 限界を超えたはずの相手が立ち上がるのを目にし、マリーが声を荒げる。そこに浮かんだ怒りを、焦りを、彼方で弾けた信号弾の光が照らした。

「ここに、貴女の人形はいないわ」
 追撃を断つように、響がリズの傍らに歩を進める。夕焼けに似た色の髪が僅かに白み、代わりに死神の影が色濃く滲んだ。
「いや……」
 一歩下がったマリーを追って、影とその主が鋭く踏み出す。そして、二重の刃にもう一振り、白竜の牙が重なった。
「祈るには、もう遅い」
 響の赤鷹、そして亮の竜牙。二人の強襲が意味するところは一つだ。
 先程の信号弾は、つまりレギンレイヴの撃破の合図。ならば――。
「子供は寝る時間だ、シュエスタ・マリー。――河岸の果てへ逝け」
 亮が終わりの刻を宣告する。もはや待つ必要はない。畳みかけ、止めを刺すのみ。
「虐げられた妹の恨みを思い知れっス!」
「僕の分も一緒にどうぞ。彼女の意思とは言え、好き勝手してくれたね?」
 コンスタンツァとファルケの十字砲火がマリーを襲い、リズがさらに降魔真拳の一撃を打ち込む。
「終わりだよ、マリー」
 リズの言葉に、追い詰められたマリーが拒絶するように首を振った。
「いやよ、私は、ただ……!」
「そう、ひとりぼっちは寂しい」
 嘆きの声に、透き通るような歌声が重なる。マリーの境遇に共感するような言葉は、しかし。
「でも、だめ。あなたは、人を不幸にする」
 否定へと転じて奏鳴曲となる。緩やかに、軽やかに、饗震のソナタが敵を震わせ、打ち崩した。

●鳥篭は割れて
 とさり、と。軽い音と共に、シュエスタ・マリーの手にしていた人形が地面に落ちる。赤いドレスを着たそれを、リズがそっと拾い上げた。
「仇、討てたな」
 パトリックが、そんな彼女の肩を叩く。彼もまた、自身の宿敵を撃破した経験の持ち主だ。『その時』に生じる感覚には、共有できるものがあるのかもしれない。
「だいじょうぶ?」
「うん。終わったんだよね、これで」
 複雑な思いを胸に、リズは顔を覗き込んでくるアウィスと、パトリックに頷いて返した。
「お疲れ様、リズ、皆も」
 一同の様子を確認して、響が表情を緩める。長い戦いであった分、傷も多いが、それらはすぐに癒える範囲のものだろう。
「皆、無事で良かった」
「ああ、だが安心するのはまだ早そうだ」
 それに頷き返しつつ、陽斗が言う。戦闘中から状況把握に気を配っていた彼が、いち早く認識していた事実。レギンレイヴを倒した合図の、二度目の信号弾。あのタイミングから、牢獄の空間に歪みが生じ始めていた。
 入ってきたのと同様に、テイネコロカムイの檻から護符を使用すれば脱出できるだろう。
「帰ろう、鳥篭の外へ」
 静かになった牢獄を一瞥し、亮が仲間たちに声をかけた。
「姉と言えば、姉ちゃんたちにファルケを紹介したいっス」
「ああ、そうだねぇ……楽しみにしてるよ」
 帽子を軽く押さえつつ、フェルケとコンスタンツァが鳥篭の境界線を越えて、平穏な日々へと帰っていく。
「私達も行こう、マリスちゃん」
 古のヴァルキュリアと、死神達。その脅威は、こうしてケルベロス達の手によって排除された。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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