湿原の牢獄～悠久の鳥篭で、黄金の戦乙女は虚ろに笑う

■リプレイ

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「なんですか、ここは……」
　護符を利用して辿り着いた先。そこで見た光景に、蒼樹・凛子（無敵のメイド長・e01227）は絶句した。
　宇宙を思わせるゴシック風な空間に、40の牢獄が浮遊する世界。話には聞いていたものの、凛子は驚きを隠せない。
「呆けてる暇はねぇぞ、俺らも急がねぇと」
「ええ、俺達の後には、レギンレイヴを担当するチームが控えていますからね」
　相馬・竜人（掟守・e01889）と、ブリキ・ゴゥ（いじめカッコ悪い・e03862）が声をかけると、凛子もそれに頷きを返す。
　そして、彼らの目標たるティエラ・ハーミットを探そうと、走りながら視線を巡らせた。
　その最中にも、すでに目当ての鳥籠を見つけたチームが挑発を行い、現場にはいくつものグラビティが飛び交い、轟音を打ち鳴らしている。
　その時――。
「ティエラッ！！」
　アニエス・エクセレス（エルフの女騎士・e01874）が、視界の先に黄金を捉え、鋭い声を発する。その声が届いたのか、別の方向に向けて攻撃を放とうとしていた黄金……ティエラ・ハーミットがこちらを向くと、懐かしい顔を見たといわんばかりに目を見開いた。
「（よし！　ご先祖様のモノマネは、上手くいったみたいですね！）」
　無論、アニエスが古代のヴァルキュリアであるティエラと面識があろうはずもない。しかし、彼女の先祖がティエラと親友であり、とある事情からアニエスはエインヘリアルと化した先祖と面識があったゆえ、彼女を真似る事ができたのだ。
「お前の相手はこっちだ！　少しでもヴァルキュリアとして誇りが残ってるなら、私達と戦え！」
　注意が向いたのをこれ幸いに、リルン・ブランエール（クライフェネクス・e24337）が声を張り上げる。
「な、なんですか、貴方達は！」
　自身の方に向かってくるケルベロス達に、戸惑い混じりにティエラが言う。
「ハーイこっち向いて、目線ください。あ、勝手に動かないで！　胸を張って顎引いて、得意なポーズ有ったらお願いします」
「え、え、ええ？　な、なんですか！？」
　次いで響くジューン・プラチナム（エーデルワイス・e01458）の、畳みかけるような大声とシャッター音に、ティエラの戸惑いは最高潮となった。
「で、アンタはどんな不始末を犯したの、哀れな小鳥さん？」
　リエンとジューンに続き、ローザマリア・クライツァール（双裁劒姫・e02948）は、ティエラに悪意剥き出しの視線を送った。
「わ、私は何も！　何もしていません！」
　ティエラは、苛立ちを露わにしながら首を振る。こんな永久とも呼べる時間、鳥籠に囚われるような事などしていないと！　だが、本当に何もしていないなら、捕らえられるはずもない訳で……。
「よく言うわね。でも、仕方ないんじゃないかしら？　だってアンタ、鈍そうなんだもの」
　ティエラの弁解になど耳をかさず、ローザマリアは彼女の主張をバッサリと切って捨ててしまう。
「はんッ……体が貧相だと、頭ん中もザンネンになるみてェだなァ！」
　さらに、カール・クラフト（ガスマスクマン・e10510）はティエラの身体を揶揄するように、下から上までを舐めるように見上げる。たとえガスマスクをつけていようとも、はっきりそうだと分かるように。
　そして、今までの積もりに積もった挑発が契機となったのか――。
「あ、貴方達に一体私の何が分かるんですか！！」
　ティエラが爆発したように怒声を上げ、刺突剣を高速で振るう。
「来るぜェ、気を付けろよ！」
　竜人の合図と同時、黄金の剣風がケルベロス達を襲うのであった。

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　鳥籠に辿り着くのに、どれだけの時間がかかっただろうか。恐らく、そう長い時間はかかっていないはずだ。
「くっ！　アニエスさんは先に！」
「はい、ありがとうございます！」
　再度襲い掛かる黄金の剣風を凛子が受け止めながら、アニエスが誰よりも早く鳥籠に入り込む。
「ティエラッ！！」
　そして、改めてティエラの名をアニエスが呼び、注意を引こうとする。
「アリシア……あなた太った？」
「うぐっ……！」
　その結果アニエスが喰らったのは、いきなりの致命傷。
「ハイ最後の一枚――！？」
　そして、二番目にジューンが鳥籠に進入しようとした時に、それは起こった。パシャッというシャッター音を聞く暇も無く、刺突剣を構えたティエラの突進によって、アニエスとジューンの身体は宙を舞っていたのだ。

「なるほど、鳥籠に入る瞬間は、格好の獲物という訳ですか」
　ブリキが、傷ついて血を流す肩口を押さえながら呟く。
　ブリキの言葉通り、体勢を立て直したアニエスの庇いと、ジューンのスターゲイザーによって被害は抑えられたものの、鳥籠に入ろうとするその瞬間を狙われていたらしい。鳥籠に辿り着くまでも含めて、全員が軽微ながら負傷を負っている。
「（同胞同士で戦うなんて！）」
　リルンが、目にも留まらぬ早さで光の弾丸を放ち、ティエラを牽制する。
「（それほど危険な存在でもない……そう思っていましたが……）」
「…………」
　凛子は、対峙して沈黙を守るティエラを一瞥した。表面上こそ少女であるが、長い年月によって蓄積した瞳の奥の淀みは隠せるはずもなく、凛子の友人であるアニエスに向ける視線もまた……。
「残念です」
　凛子は一言そう告げ、目を伏せる。そして、次に目を開けた時には、もう迷いはなかった。同時に、空の霊力を帯びた刀を凛子は振るう。
　ガキンッ！　という、甲高い音を立て、刀はティエラの刺突剣と交錯する。
「その目、気にくわねぇな。そのまま中で朽ちてりゃいいだろうによ！」
　表情を悟られないように、髑髏の仮面で顔を覆った竜人の敵意が爆発する。勝手に絶望し、勝手に憎悪する。そのとばっちりがこっちに向くのは、不快以外の何者でもない。
「だ、だから貴方達に何が分かるんですか！？」
「おっ、怒ったか？　いいぜ、挑んでこいよ、上等だ！　ひねり潰してやるからかかって来いよ、挑戦者！！」
「……よく言いました、私も古のヴァルキュリアの一人、それ以上の侮辱は許せませんッ！」
　凛子と鍔迫り合うティエラの脇腹に、一息で距離を詰めた竜人の豪腕が襲い掛かる。その黒き龍の腕を、ティエラは凛子を一旦弾き飛ばして迎撃する。
「――ッ！」
　衝撃に、二人が歯を噛みしめる。弱気だと聞いていたが、さすが剣の達人といった所か。
「さて、それじゃ戦ろうか？　鎧装天使エーデルワイス、いっきまーす！」
　騙し討ちは失敗したものの、気を取り直したジューンは、ティエラの弱点を見抜き痛烈な一撃を叩き込む。
「ええ、そうね殺りましょう！」
　続くローザマリアの浮かべる笑みは、鮮烈な殺意に彩られていた。
「（ああ、誰に感謝すればいいのかしら、ヴァルキュリアとまた刃を交えられる、この幸運を、ね……！）」
　ローザマリアの脳裏に浮かぶのは、ヴァルキュリアに殺された両親の姿。
「そう簡単に取らせはしません！」
　――鳥籠の他に、エーデルワイスやマリンブルーの瞳にまで捕らえられてなるものか！
　ティエラの黄金の剣風が、ローザマリアに襲い掛かる。
「お願いします！」
　そこに、アニエスの声が割り込んだ。すかさずシャーマンズゴーストが、壁となってローザマリアへの攻撃を阻む。
「（死んだふり作戦です！）」
　だが、アニエスの思惑は、ただ攻撃を庇うだけではないようだ。グッタリと、消耗して倒れたフリをするシャーマンズゴーストの脇へ、アニエスはバナナの皮を仕掛けている。
「そこです！　――て、え、きゃあ！」
　渇望するグラビティ・チェインを得るため、ティエラはシャーマンズゴーストに追撃を仕掛けようとして、バナナの皮を踏んで引っ繰り返る。
「今です！　――え、わわっ！」
　そして、その隙を狙って駆け寄ったアニエスまでもがひっくり返り……。
「「～～～～～ッ！！！」」
　頭を強打して悶えるアニエスとティエラ。
「爪が甘いですね、ティエラさん」
　追撃とはこうやるのだと、蹲るティエラへと、
「ＳＭＡＳＨ！！」
　ブリキが極端なアップライトに構えた体勢から、無数のパンチとキックを繰り出した。
「……うっ、あああ！」
　反撃のタイミングを与えない連撃に、ティエラは防戦一方となるが。
「よくも私に恥を掻かせてくれましたね！」
　顔を紅潮させたティエラの獅子奮迅の一撃に、前衛と中衛が一気に薙ぎ払われた。
「（あの鎧、引っぺがして売り捌いたりできねーかねェ……）」
　仲間がコントを繰り広げ、吹き飛ばされる中、カールの頭を埋め尽くしていたのは金、金、金！　もちろん、仲間を援護するために、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放つが、鎧を避けて攻撃している辺りに、本音も垣間見えていた。
「大丈夫か、お前達！　今回復する！」
　リルンが纏う翼状のオウガメタルから、光り輝くオウガ粒子が放出される。その光が、前衛の傷を癒やし、命中率の底上げを施す。
　その時！。
「見ろ、照明弾が上がったぞ！」
　周辺の鳥籠にも目を配っていたカールの指摘により、ケルベロス達はその存在に気付く。それは、レギンレイヴを担当するチームが、戦闘を開始したという合図。
「レギンレイヴ様！」
　それを感じ取ったのか、ティエラも表情を曇らせ、瞳の澱みを一層暗くした。
　そして――。
「……許しません！」
　ティエラに残っていた甘さが、完全に消えた。

●　
「っ、さすがにもう、脚を出しても引っかかりはしませんか！」
「舐めないでくださいッ！」
　何度も刀を交錯させながら、度々仕掛ける凛子の足払いをティエラは華麗な体裁きで避ける。
　小手先の技はもう通用しないと判断した凛子は、汚染破壊する斬撃を放った。
「（切った張ったの場面で、アニエスとドジをやらかした時は気にくわねぇと思ったが……）」
　今のティリアには、ドジをする様子は微塵も見られない。竜人は、ティエラが放つ獅子奮迅の突進からの斬撃に対し、半身をズラして回避する。
　ともかく、文句を言うタイミングを逃した竜人の残る懸念は一つ。
「まだかよ！」
　それは、竜人以外のケルベロス全員が抱く感情でもあっただろう。戦闘開始から、十数分は経過していた。敵の撃破タイミングを合わせるために戦闘を引き延ばすといっても、さすがに限度がある。
「燃えちゃいなよ！」
　ジューンが、炎を纏った激しい蹴りでティエラの動きを封じ込めている間に、竜人は付与された【足止め】を打ち消すために、薬液の雨で前衛を癒やす。
「……っ、ぐぁっ……あああああ！　負けません！！」
　防御に徹してきたアニエスも、ティエラの攻撃力に押され、裂帛の気合いを入れる頻度が多くなってきている。
「さすが、しぶといわね小鳥さん！」
　カール、凛子と同じく、ローザマリアも時空凍結弾で氷を重ねて、火力の底上げには余念がなかった。ゆえに、長期戦を想定しつつも、さすがのティエラも消耗しているはずなのだ。
「レギンレイヴ様のために！」
　だが、妄執に囚われたティエラの剣技は冴えていた。ローザマリアの放つ魔法の光線を物ともせず、
「これ以上、調子に乗らせはしませんよ！」
　そう言いながらブリキが投擲したデスブリンガーを、ティエラは刺突剣で捌いていく。
　さらに――。
「そこです！」
　返す刀で黄金の剣風が、耐性の低いブリキを狙って炸裂した。
「……ガァ！？」
　一瞬で意識を奪われ、倒れるブリキ。対してティエアは、シャーマンズゴーストの時と同様に、即座に追撃態勢に移った。
「させるかよ！」
　ブリキのみならず、前衛、中衛全体を襲う列攻撃を竜人が背中で受け止める。
「ッ……チィ！！」
　だが、すべては受け止めきれずに、余波がブリキを襲う。さらに、竜人の身体までもが崩れかかるが、なんとか堪えた。ここまで戦線を維持できたのも、彼が怒りを付与して、ティエアの猛攻を受け止め続けたゆえなのだ。
「戦闘不能者が出た以上仕方ねぇ！　とっととあの金ピカを仕留めるぞ！」
　ブリキを鳥篭の外へと連れ出す竜人をフォローするため、凍結光線を発射したカールが、仲間に方針変更の指示を出す。
「……ッ！」
　だが、方針変更に凄惨な笑みを浮かべるローザマリアの見立ては、どうやら間違ってはいなかったらしい。諦めずにブリキを狙っていたティエラが、刺突剣を掌から零してしまったのだ。
　それは、いつものドジではなく……。
「お前達、今だ！　加減はしない、全力で吹き飛ばす！」
　その事を誰よりも早く察したリルンの、虹色のエネルギーが一気に放出され、収束された光がティエラの身体を焼く。
「あああああっ！」
「この一撃を受けてみろ！」
　轟く少女の悲鳴。
　だが、ジューンは一切の躊躇なく、大仰な構えから必殺技――英雄の一撃を。
「ティエラ。その名前、忘れないわ――おやすみなさい」
　ローザマリアは、不可視の超高速多段斬撃を無慈悲に、舞い散る花吹雪の如く超高速で叩き込んだ。
「氷の華を手向けに送ります。あとはアニエスさんお願いしますわね」
「は、はい！　頑張ります！」
　凛子はアニエスのため、一族に伝わる龍の剣技を解放する。氷を宿した神速の斬撃は、ティエラの傷口を瞬く間に覆っていく。
「射殺す光……スタブライト！」
「アリ……シア……！」
　矢のように、煌めく光の様なアニエスの突撃に、ティエラは何かを見たのだろうか。ティエラの心臓を貫くアニエスの刺突に、彼女はやはりどこか懐かしげな表情のまま、息を引き取るのであった……。

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「あっちも終わったみたいだな」
　戦闘終了から数分後……戦闘開始から数えれば、ちょうど20分程度が経過した頃、リルンが二度目の照明弾が打ち上がっているのを発見する。
「（これが本当に……正しいことなのか……？）」
　リルンの胸中には、若干の迷いがあった。だが、すべては終わったのだ。……終わってしまったのだ。
「レギンレイヴの計画は、とりあえず阻めたって事でいいんだよね？　お疲れ様ー！」
　ジューンの顔に、自然と笑みが浮かぶ。
　――と。
「ね、ねぇ、あれ見てよ！」
　ふいに、ローザマリアが慌てた声を上げる。ケルベロス達が、ローザマリアの示す方向に視線を向けると……。
「やべェ……！　空間が歪んでるじゃねェかよ！」
「おい、お前等！　急いで逃げるぞ！」
　空間に歪みが生じ、崩壊を始めていたのだ。
　ブリキを背中に背負う竜人が飛び上がるようにして驚き、カールが慌てて駆け出す。
　ケルベロス達は、やって来た時と同じように、大急ぎでテイネコロカムイの牢獄から護符を利用して釧路湿原へと移動した。

「……どうやら、護符が使えなくなっているみたいですね」
　無事に釧路湿原へ帰還したケルベロス達であったが、試しに凛子が護符を使ってみようとした所、もう効力を失っている事に気付いた。
「あの世界は、消滅……しちゃったんでしょうか？」
　アニエスはそう推測を口にしながら、ティエラを思い、静かに目を伏せるのであった。

作者：ハル	重傷：ブリキ・ゴゥ（いじめカッコ悪い・e03862）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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