湿原の牢獄～ぴっちぴっちよーん

■リプレイ

●すぐそこの死神さん
　テイネコロカムイの籠に、ケルベロスは降り立った。
「……囚われの身の相手を倒しに行くってのは……、けど、そんな事言ってられる状況じゃないよな。気を引き締めないと」
　浮遊する数々の檻を見て、ロディ・マーシャル（ホットロッド・e09476）は困惑の表情を見せるも、敵は敵だと両頬を軽く叩く。
　なお、サヨリの檻は視認できる距離にあった。
「気を引き締めた矢先になんだありゃ！？」
　DTを殺す服を着ているバインバインの乳を揺らす女死神サヨリを目の当たりにしたロディは顎を落とす。
「迷っている暇はありません。迅速に行きましょう！」
　とまず籠から飛び出すのはロゼ・アウランジェ（時謡いの薔薇姫・e00275）と彼女のサーヴァント、ヘメラ。
「鉄火場にハッタリは必須ですしね。さぁ皆さん、鳥籠掃除と行きましょう！」
　続く維天・乃恵美（奉雅駆の戦巫女・e02168）は大きな声を張り上げる。
「サヨリは、淫魔ギャルらしさに自信があるみたいですけど、ご自慢の肉体は結局活用できなかった様で♪」
　黒い魔力弾がケルベロスを撃つ。浮かび上がるトラウマがケルベロスの足を鈍らせる。
「悪いけど、お前の芝居も攻撃も全然響いて来ないぜ！」
　だがロディは強がって叫び返す。
「相手もいないのに一人で媚び売ったって痛々しいだけなのにねー？」
　ロディの腕に抱きつき胸を押し付け、神宮・翼（聖翼光震・e15906）は本家サキュバスとして『正しい誘惑』を見せつけて対抗している。
　目的の檻はすぐそこだったので、早々にたどり着いたケルベロスは檻へと飛び込んでいく。
「やぁっと来たのね。私の体が見えるようになったらこっちのものよねぇ～」
　サヨリは、うふんと愛らしい仕草でウインクをして、誘惑する。
　檻に侵入する以外の行動が取れないケルベロスを容赦なく、魔力の籠もったテンプテーションが襲う。
「はっ、俺相手にお色気なんて十年はえーんだよ！」
　と返す如月・環（プライドバウト・e29408）や、涼しい顔の御船・瑠架（紫雨・e16186）、鼻で笑って見せるスライ・カナタ（彷徨う魔眼・e25682）だが、強がっていてもぐらりと脳髄を揺らされる感覚は本物だ。
　ようやく全員が檻に入り、一方的にやられる時間は終わりを告げる。
「こんな牢獄に狂うほどに長く囚われて……でも、出してあげることはできないの。ごめんなさいね。守るべき者達に被害が及ぶその前に……永遠に終止符を」
　ロゼが哀れみの目を向けると、愛らしい顔にはそぐわぬ敵意をむき出しにしてくるサヨリが怒鳴る。
「わかったような口をきくわね！　あんたらなんか全員私のグラビティ・チェインよ！」
　彼女の挑発に動じず、戦言葉にて体を硬化させている稚児笹・紗々（ドワーフの鎧装騎兵・e20344）は、反撃のためにルーンを詠唱した。
「uruz thurisaz wunjo hagalaz nauthiz」

●下種の死神さん
　金糸の髪をたなびかせながら七色の薔薇の香を漂わせ、ロゼはしたたかにサヨリを蹴り飛ばす。
「貴女は失礼ながらセクシーというより、少し下品に感じてしまいますね」
　ヘメラは画面に応援の動画を流して、サヨリが植え付けたトラウマを一人ずつ丁寧に祓っていく。
「ああもう、いい加減にしてくれっ。翼はそんなことしてる場合じゃないだろ！」
　ロディは翼とサヨリからの両方向の色仕掛けに、狼狽しながらもなんとか銃弾をばらまく。
「何言ってるの、ロディくん！　サキュバスの紛い物に本物のサキュバスってものを見せてあげてるの！　そういうことしてる場合なの！」
　翼は平然とロディに反駁、死神の心を貫くべく矢を放ちながらも、反動でバウンドする豊満な胸を彼にアピールするのは忘れない。
　瑠架が振るう刃は怨念を集めたように黒い。降魔の一撃を放つ黒刀だが、サヨリは華麗に避けてみせる。
「やだぁ～。あっぶなぁーい、こっわーい」
　と意地悪く笑うサヨリに、瑠架はあくまで涼しい顔を保つ。挑発に乗って冷静さを欠くわけにはいかない。
「無限の時間を囚われる……考えたくもありませんが、気持ちはわかります。ですが、世界に仇なすのであれば、その所業許すことなど出来ない」
　自由を奪われる身の気持ちを、瑠架はよく知っている。しかし同情してやる余地もない。
「話は簡単だ、殴って殺せば良い」
　刺突を繰り返し、スライは呟く。彼女がどのような心情だろうが、デウスエクスならば殺す。複雑な事情など慮る意味など無い。スライにはただ無心に戦闘するほうが似合いだ。
　乃恵美の御業がサヨリを握りしめる。
「あぁんっ、くるしいぃ～」
　と甘ったるい声で身悶えるサヨリを、乃恵美は嘲笑う。
「ふふん。ナイスバディなギャルならイケイケ？　ご冗談っ」
「気張ってくぞ、シハンッ！」
　という声とともに現れた光る猫の一群とウイングキャットの爪がサヨリをかすめる。
　環のシャーマンズカードと彼のサーヴァントたるシハンの攻撃だ。
　紗々のグレイブがサヨリを狙うのだが、サヨリは軽々とその穂先を蹴り飛ばした。
「はん、こんな攻撃が通ると思ってたら、ちゃんちゃらおかしいってぇの！」
　サヨリが紗々に破壊の力を秘めた手を伸ばす。
「俺が護んなきゃ、はじまんねーからな！」
　環が紗々を庇いに入る。みぞおちに軽く触れられた途端、中から強大な力が爆ぜた。
「臓物撒き散らして滅んじゃってぇ～！」
「が、っは」
　血反吐を吐く環だが、手の甲で血を拭うと、サヨリを睨み返し言う。
「まだまだ……死ぬ気で護るッスよ……」
「やだぁ～。またまた強がっちゃってー」
　サヨリはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。彼女の背が照明弾で照らされる。
　とうとうレギンレイヴとの交戦が始まったらしい――。

●だらだらと死神さん
　レギンレイヴ班どころか他のケルベロスたちよりも早くに戦闘を始めたはずの彼らだったが、進展は遅々としたものだった。
　どうにも当たらないのである。
　ロゼとロディが足止めをはかるも、ロディの制圧射撃すらもサヨリは避けてしまう。
　スナイパーであるロゼの足止めだけが頼りという状況であったが、ケルベロスらの命中も正直心許ない。
　なんとか当てて与えたダメージや足止めの力も、サヨリは笑顔で癒やしてしまう。図らずも長期戦を喫することになってしまった。
　ジリ貧になれば、不利なのはケルベロス側である。サヨリの一撃はそれなりに重い。ディフェンダーの層が厚いからなんとか保っているが、癒し手は乃恵美一人だ。ディフェンダーが個々にヒールの手段を持っているとは言っても、追いつかない。
　ディフェンダーを中心に疲弊していく戦線、一方サヨリは未だ元気そのもので。
「ほらほらぁ、頑張ってぇ～」
　と言いながら分身し、紗々や瑠架、翼の攻撃を軽々といなす。
「八百万の神は此処に在りて、遍く衆生には浄福の光を。そして凶星を祓う猛き兵には神風の護を……！　さぁ皆さん、御旗は用意しましたよっ！」
　ばさばさと光る奉旗をルーンアックスの柄に展開し、乃恵美は前線を必死に支える。
　だが彼女はメディックらしく戦況を冷静に判断もしていた。
（「あたしで支えきれないレベルになりつつありますね……。そろそろ退くように言うべき人も出てきそうです」）
「耐えれる範囲は耐えてやるが……そんな余裕はないぞ、恐らくな」
　スライがディフェンダー達に告げると、環は口端から血を流しながらも、強がる。
「言ったでしょ、俺が皆を護るって……こんなところで倒れてなんていられねーんスよッ！」
「ああ。大切な仲間を守る……。そいつがオレの最優先事項だからな」
　続いて肩で息をしながら言うロディに、スライは言葉では返答せず、急速回転するチェーンソーをサヨリに押し付けることで答えた。
　ディフェンダーが持ちこたえている間に、削りきるのがクラッシャーの仕事だ。
　ロゼは足止めに専念することにした。幸い、スターゲイザーを使い続けても、ロゼの技量ならば十分当て続けられる。
　他のケルベロス達の攻撃を通すための、肝心要となるならば……。ロゼは見切りを恐れず何度も跳躍を繰り返す。
　先程からヘメラは懸命に画面を光らせ、サヨリの標的を己へと強制的に変更させている。
「まぶしくってうっとーしーわね！」
　怒り狂ったサヨリが放った螺旋がテレビウムの画面に突き立ち、砕ける。
　ヒビの入った画面を、ゆっくり明滅させ、ヘメラは消えていく。
「ヘメラ！」
　ロゼの叫びに、悲しまないで……と画面の映像で訴え、ヘメラは完全に失せた。
「あははは、やったぁ！」
　と手を叩いて喜ぶサヨリを、ロゼはキッと睨みつけた。
　ロディが再び放った制圧射撃で、サヨリの動きが止まる。
　環が七色の爆炎で援護する中、
「チャンス！」
　翼がマインドリングを剣に変え、死神に躍りかかった。
「私の鬼火さん達と鬼事は如何ですか？　さぁ遊びましょう？」
　と、瑠架は黒い刃に鬼火を宿らせた。
　死神に向ける切っ先から、鬼火はサヨリに飛び移り、劫火と化す。
　劫火めがけて紗々の槍が突き刺さった。

●永久のお別れ死神さん
　サヨリの回復能力は高かった。ヒールには限界があり、いつかは癒せぬダメージで削り殺すことが出来るとは言うが、サヨリを削り殺す前に他の死神の死により生じたグラビティ・チェインで逃げられてしまいそうな状況だった。
　だがケルベロスがピンチかと言えば、ヒール能力が高いがためサヨリの攻撃はそこまでの決定打には成りづらい上に、サヨリが回復に一手とれば、ケルベロスにダメージは与えられないので、ヘメラ以外の戦線離脱者も出ていない。
　つまりは膠着状態。
「ああもう……埒が明かないったら」
　サヨリは永劫に続きそうな攻撃のやり取りに飽きたらしい。
「いい加減にグラビティ・チェインになってよね！」
　スライめがけてサヨリの手が伸びる。
「皆の命のために、受け止めてやらぁね！」
　今こそ生命の張りどころ、とばかりに環がスライを庇った。再び内部からの爆発に、環はまた血を吐くが、よろめきながらもなんとか立って、サキュバスミストで己を癒やす。
　シハンも主を支えようと清浄なる翼を羽ばたかせた。
　死神が賭けに出たな、と乃恵美は悟る。
「この賭けは頂きますよ。大切な人の為にもねっ！」
　乃恵美は光る御旗を大きく振って鼓舞する。
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌――あなたに終焉を」
　巨大な光る終焉の大鎌を、ロゼの詠唱が召喚する。
　ぐらりとまるで大きな振り子のように振るわれた鎌が、鎮魂歌を奏でながら死神を断つ。
「押し切りましょう。――鏤めろ」
　瑠架が鬼火を遊ばせ、よろめくサヨリを灼く。
　集中を極めるスライの瞳が、サヨリに黒点を見出した。
「……見えた。そこがお前の死だな」
　その点は『壊しきれる』点。スライのフランベルジュが点を突く。
　ぐげええと、可憐な容姿が台無しな悲鳴を上げるサヨリの前に、翼が立ちはだかる、笑顔で。
　彼女の胸に押し付けられているのはロディである。
「ほらほら見て、この照れ顔。誘惑っていうのはこ・う・や・る・の・よ♪」
　と見せつけながら、翼はマインドソードを崩壊しかけているサヨリに振り上げる。
　同時にロディは銃口をサヨリに向けた。
「持ってけ、ありったけ！」
　銃声は一発、しかし叩き込まれる弾丸は無数。
　同時に翼の剣もサヨリに突き立った。
「どう？　これが本物のサキュバスの力よ！」
　もはや呻き声しかあげられないサヨリだが、それでも必死に回復しようと藻掻く。
　だが、藻掻く体に紗々の奮った穂先が突き立った。
「終わりだ」
　檻に縫いとめられたサヨリはもう動けなかった。
　同時に照明弾がサヨリの遺骸を照らす。
　レギンレイヴも無事討ち取られたようだ。
「みんな、大丈夫か？　よし、急いで戻ろうぜ！」
　ロディが言い、ケルベロスはテイネコロカムイの檻へと走り出す。
　その直後、空間が崩壊し始めた――。

作者：あき缶	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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