湿原の牢獄~水晶の戦乙女

作者:朱乃天

 釧路湿原で事件を起こしていた死神、テイネコロカムイ。
 彼女の撃破に向かったケルベロス達から、無事に成功を果たしたとの報せが入る。
「そして彼等は現地で、古のヴァルキュリアと死神を幽閉した牢獄を発見したみたいだね」
 ヘリポートに集まったケルベロス達に、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が詳細な説明を付け加える。
 テイネコロカムイはその牢獄から脱獄したらしく、グラビティ・チェインを略奪し、牢獄に幽閉されている仲間を脱獄させようと企んでいたようだ。
 更に牢獄に幽閉されていたのは、死者の泉を見つけ出したと伝えられる、古のヴァルキュリア・レギンレイヴとその軍団であることも突き止めた。
 悠久ともいえる時間を幽閉され続けた結果、レギンレイヴは世界の全てに対して復讐を果たそうと目論んでいる。
 もし彼女が解き放たれると、『多数の一般人が殺害され、その魂からエインヘリアルが生み出される』ような大事件が起きかねない。
 テイネコロカムイが撃破されたことにより、レギンレイヴ達がすぐに地上に出てくる危険はなくなった。しかし、テイネコロカムイが脱獄したように、この牢獄も完全ではない。
 何らかの理由で牢獄の壁が壊れるなどして、レギンレイヴ達が解放される可能性もある。
 更に、彼女達の存在を他のデウスエクスが発見し、利用しようとすることも考えられる。特にそれがエインヘリアルであったなら、その勢力を一気に拡大させることだろう。
「そうした危険を未然に防ぐ為、キミ達にはこの牢獄を制圧し、ヴァルキュリアと死神達を撃破してほしいんだ」

 シュリはこの任務の重要性を説きながら、今回の作戦の概要を伝える。
 牢獄のある場所への移動は、テイネコロカムイを撃破した時に入手した護符を利用する。
 移動先には40以上の牢獄が『鳥篭』のように浮いており、それぞれに1体のヴァルキュリアか死神が幽閉されている。
 牢獄に幽閉されている者は、この『鳥篭』の外には出られない。しかし牢獄の外から来たケルベロスなら、外を自由に移動することができる。
「キミ達は、最初にテイネコロカムイが幽閉されていた『鳥篭』に転移する。そこから攻撃目標とする『鳥篭』に移動して内部に潜入し、幽閉されている敵を撃破するんだ」
 篭の外から内部への攻撃は一切不可能であり、篭の中に入らなければ敵には攻撃できない仕様らしい。但し、鳥篭の中から外への攻撃は、威力はかなり弱まるが可能なようである。
 その為、鳥篭内への潜入に手間取ってしまうと、敵の攻撃を受け続けるかもしれない。
 しかも特定のチームが、40体のデウスエクスから集中攻撃を受けることになれば、例え弱い威力だろうと耐え抜くのは困難だ。
「そこでキミ達には、その内の1体の敵を担当してもらうよ。その相手を挑発しながら接近すれば、敵の意識を引き付けられるから、集中攻撃はそれで分散できると思うんだ」
 そして今回、このチームが戦う敵となるのが、古のヴァルキュリアの内の1体である。
「敵の名前は『水晶乙女エステリア』。名前の通り水晶みたいな存在で、透明感のある凛とした気高さを纏った雰囲気があるよ」
 エステリアは二振りの剣を武器として攻撃してくる。相手を十字に斬り裂き、広範囲を薙ぐ斬撃を飛ばし、高速移動による突撃で遠くの敵をも斬り刻む。
 また、素早い動作で相手を翻弄する等、高い敏捷性を活かした戦い方をしてくるようだ。
「更に彼女達は、牢獄から脱出するのに必要なグラビティ・チェインを得る為に、戦闘中でもグラビティ・チェインを奪い取る機会を狙ってくるよ」
 つまり、戦闘不能になったケルベロスであっても殺そうとする。そのような危機に陥った仲間に対しては、牢獄の外に撤退させるなどの工夫が必要になる。
 因みに彼女達は、定命化した存在を同族とは認識しないので、元ヴァルキュリアのケルベロスであっても、特別な対応には反応を示さないと思った方が良い。
「……死者の泉を発見したヴァルキュリアが、釧路湿原の牢獄に幽閉されていたとはね。遠い伝説の存在だとばかり思ってたけど」
 だがその存在が、こうして明らかになったのだ。彼女達は悠久ともいえる時間を幽閉されていたせいで、精神は狂気に蝕まれている状態だ。
 そのようなモノを外に解き放ってしまえば、大惨事となるのは目に見えている。
 だからこそ、その呪われた生に終止符を打ち、安らかな眠りを与えてほしいと。
 シュリは祈るような気持ちでケルベロス達の顔を見て、彼等に全てを託すのだった――。


参加者
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)
六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)
ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)
フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)

■リプレイ

●狂気の鳥篭
 この地に足を踏み入れたケルベロス達は、そこにある異様な光景に目を奪われる。
 薄暗く不気味な空気が漂う空間に、ゴシックな装飾があしらわれた巨大な『鳥篭』が、幾つも宙に浮いている。それは咎人達を幽閉する為の牢獄だ。
 この隔絶された世界に於いて、40体ものヴァルキュリアや死神達が、悠久ともいえる時の狭間の中に閉じ込められていた。
「うあー……。自宅警備員的にはさ……引き籠るのは慣れてるというか大歓迎だけど……」
 流石にデウスエクスが狂気に陥るのは血の気が引くと。六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)はそんな途方もない話を想像するだけで、意識が遠退き身震いしてしまう。
 無限の苦痛を味わう彼等の境遇に、引き籠り生活を送る深々見は多少なりとも同情すれど。戦いとなれば話は別だと、その点は確り割り切って警戒の目を光らせる。
「鳥篭……かぁ。ちょっと気を引き締めていかないとね……っ!」
 ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)は幻想世界の退廃的な景色を前にして、圧倒されるかのように深い溜め息を吐く。
 敵とはいえ囚われの存在を手に掛けるのを、躊躇いそうになる気持ちを払拭するように。ミルディアは武器を持つ手に力を込めて、討つべき敵のいる鳥篭の捜索をする。
「見つけたのです。あそこの鳥篭にいるのですよ」
 フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)が指したのは一つの鳥篭だ。その中に、薄青いオーラを纏った一体のヴァルキュリアの姿があった。
 古の戦乙女が発する気高い雰囲気に、フィアルリィンは思わず見惚れてその場に佇むが。気を取り直して、自身の胸元を見ながら密かな対抗心を燃やすのだった。
 ケルベロス達は注意を引き付ける為、ヴァルキュリアのいる鳥篭に向かって攻撃を放つ。鳥篭の外からは中にダメージを与えられないが、意識を向かせる為の効果は十分だ。
「エステリア! 君の相手は俺達だ! 今すぐそこに行く!」
 敵が反応したのを確認すると、鳥篭の中にいる戦乙女を挑発すべく、ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)が声を張り上げ雄々しく猛る。
 外から五月蠅く吠える番犬達を煩わしく思ったか。古の戦乙女は矛先を彼等の方に向け、檻の中から斬撃を飛ばしてケルベロス達を襲う。
「一方的に攻撃してくるなんて狡い! えらい卑怯なヴァルキュリアもおるんやね」
 純白の翼を翻し、香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)がヴィを抱きかかえて飛行しながら、更に戦乙女を焚き付ける。
「永い牢獄生活もこれで終わりにしてやろう。大人しくソコで待ってろ」
 エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)が煽るように言葉を吐き捨て、いち早く鳥篭へと急いで駆ける。
「何人たりとも決して侵してはならぬ禁忌の領域、『死』を冒涜した罪……。あなた自身の命で償ってもらいます。エステリア!」
 仲間を抱えて飛行しながら、チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)が語気を強めて対決姿勢を明確に示す。
 目標の鳥篭まではそれなりに距離があり、挑発行為に誘発された戦乙女が執拗に番犬達を狙う。しかし敵の攻撃にも怯まず突き進み、移動から4分経過後――彼等は鳥篭の前に辿り着く。
 鳥篭の入り口をエヴァンジェリンがこじ開けて、彼女の後に続いて全員が雪崩れ込むように突入を果たす。
 古のヴァルキュリアと遂に対峙したケルベロス達は、配置に付いて戦闘態勢に移行する。
「どうも、エステリアさん。シマツです。早速ですが――殺し合いましょうか」
 シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)が笑顔を浮かべ、短刀を抜いて宣戦布告を行うと。水晶の戦乙女はその言葉を遮るように、殺意を漲らせながら襲い掛かってきた。

●双剣の戦乙女
「そいつは丁度良い。ここから抜け出す手始めに、まずお前達を殺すとしよう」
 ケルベロス達の誰よりも先んじて、エステリアが剣を振り抜きシマツに迫る。しかし彼女を護るべく、チェレスタがすかさず前に立ちはだかった。
「大切な仲間の命、危険に晒すわけにはいきません。ですから、絶対に守ります!」
 チェレスタの全身に纏った金属体の装甲が、十字に斬り下ろされる二つの剣の衝撃を耐え凌ぎ。僅かに顔を顰めるものの、痛みを堪えながら光の粒子を散布させ、仲間の戦闘感覚を研ぎ澄まさせる。
「傷は早目の治療が肝心なのです」
 敵の攻撃を防いだとはいえ、チェレスタが受けた傷は決して浅くはない。これ以上大事に至らぬようにと、フィアルリィンが治癒術を用いた応急措置を施した。
「今更のこのこと出て来られても面倒だから、もうずっと永眠していなよ」
 深々見が大砲に変形させた大槌を、気怠そうに肩に担いで狙いを定め。撃ち込まれた砲撃は、敵を決して逃さず轟音を響かせながら大きく爆ぜる。
「まずはその自慢の足を、機動力を奪っていくよ!」
 敏捷力に優れた相手なら、その動きを封じるのが最善策だと。ミルディアが攻性植物の蔓を伸ばして、飛び退ろうとする戦乙女の足を絡め取る。
 空色と翡翠の瞳が重なり合う。ヴィと雪斗が目を合わせると、互いに無言で頷きながら行動に移る。
 雪斗が杖に魔力を込めると雷が発生し、電撃の矢が一直線に放たれて。エステリアは回避を試みようとするが、迸る雷霆が一瞬早く戦乙女の脇腹を貫いていく。その間にヴィはヒールドローンを周囲に展開させて、堅実に守りを固めるのであった。
「さあ、いこうか……。その命、ここで断たせてもらう」
 エヴァンジェリンが自らを鼓舞するように、剣を握り締めて立ち向かう。戦乙女の脇腹に滲む血の跡を狙い、空の霊力を注いだ刃で傷を重ねるように斬り付ける。
「その剣は、鳥篭から伸ばすだけのただの玩具ですか?」
 人を殺さぬ剣は飾りに過ぎず、剣術も単なる大道芸でしかないと。シマツがそんな戦乙女を嘲り笑い、投げ飛ばした氷の螺旋が彼女の身体を凍結させて熱を奪う。
「……ほざくがいい。戯言はこいつを喰らってから言うことだ」
 ケルベロス達の攻撃を浴びようと、エステリアの表情は凛として気高いまま変わることはない。とは言え発する言葉は、どこか苛立ちを感じさせるかのようであり。見境なしに振り払われた斬撃は、大気を裂いて番犬達を薙ぎ払う。
「そうはさせないのです。癒しの雨よ――仲間の傷を治すです」
 敵を抑えるまでは戦線を維持すべく、回復役に専念するフィアルリィン。彼女が掲げた杖から雲が頭上に生じて、癒しを齎す雨が降り注ぐ。
「早く倒れた方が楽になれるよ。今までずっと辛い思いをしてきたんだしさ」
 深々見が諭すように語りかけながら、思いを込めて唱える呪文は古代の秘術。深々見の手から放たれた閃光は、戦乙女を呪いの力で束縛して蝕んでいく。
「こんなのまともに直撃したら、きっと痛いんだろうね……」
 ミルディアはアームドフォートの主砲を向けながら、自分のこの攻撃がどれだけ傷を負わすのか、そのことを想像するだけで胸が苦しくなる一方で。そうした自分に酔って悦ぶ、もう一人の自分がいることに気付く。
 何だかおかしいね――この矛盾した行動に自嘲しながらも、ミルディアは燻る思いをぶつけるかのように、集束させた高出力のビーム砲を撃ち込んだ。
 今は大切な仲間となったヴァルキュリア達。しかしその裏では、歴史の闇に葬り去られた古の戦乙女達がいた。永きに渡る幽閉で心壊され、憎悪に呑まれた哀れな囚人。死の世界を侵した彼女達の罪と狂気を、世に解き放ってはならない。
「せめて私達の手で、永劫の苦しみに終止符を……!」
 チェレスタの強固な意思が、手にした槍に宿って雷気を纏う。裂帛の気合と共に繰り出す突きは、気圧され気味に躱す戦乙女の肩を捕らえて、刃が鋭く突き刺さる。
「――計画ヲ実行スル」
 機械的な口調で掌を突き出すヴィ。すると空間に歪みが生じて渦を巻き、回転する重力の塊が、エステリアの生命力を吸い込むように搾取する。
「こいつと遊んだって? ちょっと凶暴やけど、ね」
 直後に雪斗が攻撃を重ねて追い討ちを掛ける。足元の影が起き上がり、狼の形を成して顕れるや否や。血の臭いを嗅ぎ付けて、鋭利な牙を剥き出しながら戦乙女に飛び掛かる。獰猛で気紛れな『紅狼』は、じゃれつくように喰らい付き、捕らえた相手を決して離さない。
「しつこい連中め……ならばそこの癒し手から始末してくれる」
 どれだけ攻撃を仕掛けても、回復役が支えている以上ケルベロス達は倒れない。それなら補給を断つのが優先と、フィアルリィンに照準を絞ってエステリアが襲撃を掛ける。
 六枚の蒼い翼が光ると同時に、目にも止まらぬ速さで双剣の戦乙女が飛び込んでくる。敵の高速移動による突撃がフィアルリィンに迫り来る――だがそうはさせじとエヴァンジェリンが割り込んで、身を挺して突撃を受け止めようとする。
 ところが戦乙女の刃は防御を掻い潜り、エヴァンジェリンの身体を斬り裂いていく。
「……成る程流石の腕前だ。だが俺も、この程度で倒れるつもりはないのでな!」
 四肢を伝って流れる血を拭い、刻まれた傷の痛みも気力を奮い立たせて耐え抜いて。滾る闘志は光の盾となって具現化し、エヴァンジェリンの傷を瞬時に癒す。
「油断は禁物ですよ、エステリアさん」
 攻撃直後の隙を見逃さず、シマツが気配を殺して忍び寄る。稲妻状に変形させた刃を走らせて、流れるような動きで舞うように、戦乙女の傷を容赦なく抉る。
 遠い伝説の存在だと思われた古のヴァルキュリア。その彼女を相手に引けを取らない戦いぶりで、一進一退の攻防を繰り広げるケルベロス達。
 力と力が激突し、生と死を分かつ鳥篭が揺れ動く。流転し続ける両者の運命は、果たしてどちらに傾いていくのだろう――。

●憎悪の果てに
 癒し手以外にも回復を厚く備えて、万全の態勢で臨んだケルベロス達。その作戦が功を奏して、徐々に流れを引き寄せる。
「天より降り注ぐ光よ、地に満ちる恵みよ――」
 祈りを捧げるように瞑目し、チェレスタの唇から歌が紡がれる。歌姫の透き通るような歌声が、澱みに満ちた空気を掻き消していく。
「――今紡ぎしこの調に乗せて、我が同胞を護り給え」
 聖なる歌を奏でるチェレスタの身体から、神々しい光が溢れて仲間を包み込む。それは陽の当たらぬ絶望的な世界に灯された、一縷の希望を託す光であった。
「なかなかしぶといね……。固いんなら、とりあえずぶつかってみるっ!」
 ミルディアが勢いを付けて疾走し、エステリアに対して正面から挑む。小細工なしに勝負を仕掛ける彼女の行動は、本来なら軽くいなしてやり過ごしただろう。しかしケルベロス達の息もつかせぬ波状攻撃が、戦乙女の体力を削いで機動力をも奪っていった。
 猛突進するミルディアの体当たりをまともに食らい、エステリアは体勢を崩してよろめいた。その様子を見たケルベロス達はここが好機と判断し、火力を集中させて猛攻を掛ける。
「この手に携えるは魂の刃――そろそろ最後の仕上げといくか」
 エヴァンジェリンの剣から溢れんばかりの魔力が弾け飛ぶ。サファイアブルーの瞳に映る敵の姿を確り見据え、疾風の如き速度で駆け抜けながら、紫電を宿した刃がエステリアの腹部を深々と穿つ。
 深手を負って追い詰められた戦乙女とは対照的に、ケルベロス達は多少余力を残しているものの。他班と撃破のタイミングを合わせることを作戦に組み込んでいる為、戦いは長期戦となり、彼等の疲労も次第に蓄積されていく。
 そして更に戦闘が続いて数分後――漸くその時が訪れた。
「あれは……合図の照明弾。どうやらレギンレイヴは倒せたみたいです」
 打ち上げられた照明弾を確認し、フィアルリィンが声を弾ませながら報を知らせる。待ち望んでいた合図も送られて、後は目の前の戦乙女を逃さず仕留めるだけである。
「さて……残念ですが、おしまいの時間です」
 シマツの表情は変わらず微笑んだまま、しかし告げる言葉に抑揚はなく。冷たい殺意を孕ませながら秘めた力を解放し、全身を光の粒子に変えて超高速の一撃を叩き込む。
「……もう十分苦しんだんや。これ以上辛い思いをせんでもええように、楽にさせたるわ」
 雪斗が憐憫の眼差しを向けながら、バスターライフルを構えようとした瞬間――。手負いの戦乙女が最後の力を振り絞り、一矢だけでも報いようと雪斗に刃を振り下ろす。
「――雪斗!!」
 彼のことは必ず護り抜く――指輪に込めた誓いを胸に秘め。ヴィが敢然と立ち塞がって、鉄塊の如き巨剣を盾に鬩ぎ合い、迷わぬ心がエステリアの捨て身の一撃を弾き返した。
 ヴィが後ろに視線を送って笑顔を見せると、雪斗は大事に嵌めた指輪にそっと手を添え――気持ちを立て直して勇を鼓し、せめてひと思いにと、生命を凍て付かせる光線を放つ。
「あなたには、もう――未来なんて、ないよ」
 永劫の別れを宣告するかのように深々見が囁いて、瀕死の戦乙女を煙霧の中に包み込む。
 忘却の彼方に追いやられ、過去の存在でしかなくなった古の戦乙女達。未来で生きることはもう叶わぬと、身体を冒し皮膚から脳へと瞬く間に汚染して。
 希望も夢も誇りも愛も、全て纏めて亡くしてあげる――死へと至らしめる病に招かれて。
 水晶の戦乙女の魂は、霧の柩の中で眠るように堕ち――生を散らして消滅していった。

「……これで彼女も少しは救われたかな」
 深々見は消え逝く戦乙女をその双眸で見届けて。最後はせめて安らかに、と。祈るように心の中で小さく呟いた。
 遥か遠い昔の彼方より、囚われ続けた狂気の枷から、その魂が解き放たれる日が訪れた。
 フィアルリィンは同族として複雑な思いを抱きつつ。彼女の最期の姿を、戦乙女としての輝きを目に焼き付けて――お疲れ様です、と。静かに冥福を祈った。
「どうやら、余りのんびりしている時間はなさそうですね」
 落ち着いた口調ではあるが、シマツが急かせるように仲間を促す。
 レギンレイヴとその一派を討ち倒し、牢獄は役目を終えるかのように――空間全体が突如歪んで崩壊し始めたのだ。
 この地に留まり続ける理由はもはやない。
 戦いを終えて勝利の余韻に浸る間もなく、ケルベロス達は足早に撤退を開始した。
 惨劇を未然に防いだ多大な戦功を、それぞれの胸に刻んで――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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