湿原の牢獄~死神アルゼウス

作者:紫村雪乃

「釧路湿原で事件を起こしていた死神、テイネコロカムイの撃破に成功しました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が微笑んだ。
「結果、テイネコロカムイの目的が牢獄に幽閉されている仲間を脱獄させる事であったことが判明しました。更に、牢獄に幽閉されていたのは死者の泉を見つけ出したとも伝えられる古のヴァルキュリア・レギンレイヴと、その軍団である事も突き止められました」
 セリカはいった。
 悠久ともいえる時間、ひたすら幽閉されていたレギンレイヴは世界の全てに対する復讐を遂げる事を目的としている。彼女が解き放たれた場合、多数の一般人が殺害され、その魂からエインヘリアルが生み出されるような恐るべき事態に陥ってしまう可能性があった。
「テイネコロカムイが撃破された事で、レギンレイヴ達がすぐに地上に出てくる危険はなくなりました。しかしテイネコロカムイが脱獄していたように、この牢獄も完全ではありません。なんらかの理由で牢獄の壁が壊れ、彼女たちが解き放たれる可能性もあるでしょう」
 セリカの瞳に憂慮の光が揺らめいた。
 もし彼女達の存在に気づいた他のデウスエクスがいたらどうなるか。利用しようとする可能性があった。それがエインヘリアル勢力であった場合、彼らはその勢力を一気に拡大させてまうだろう。
「その危険を未然に防ぐためにも牢獄のヴァルキュリアと死神達を撃破しなければなりません」
 セリカは告げた。そして移動方法について説明を始めた。
「テイネコロカムイを撃破した際に手に入れた護符を利用すれば牢獄のある場所へと移動します。そこには四十以上の牢獄が『鳥篭』のように浮いているのですが、その一つ一つに一体のヴァルキュリア、または死神が幽閉されています」
 幽閉されている者は、この『鳥篭』の外に出る事はできない。が、牢獄の外から来たケルベロスならば外を自由に移動する事は可能であった。
「まずテイネコロカムイが幽閉されていた『鳥篭』に転移していただきます。その後、それぞれ攻撃目標とする『鳥篭』に移動して内部に潜入、幽閉されている死神を撃破していただくことになります。ただ注意することが」
 鳥篭の外から内部への攻撃は一切不可能。そのため内部に潜入するまでこちらから攻撃を行う事はできないのだった。
 そしてセリカは敵の名を告げた。死神、アルゼウス、と。
「不気味に笑う白と黒が入り混じった仮面をつけていて、真っ黒なタキシードと同じく真っ黒のシルクハットをかぶっています。そして、手には杖。これが武器です」
 杖から闇の光弾を撃ちだす、あるいは闇の壁をつくって防御。さらには杖で敵を叩きのめすというものだ。セリカは憐れむように目を伏せた。
「幽閉されていたヴァルキュリア達。可愛そうですが、撃破しなくてはなりません。そのためにもアルゼウスを斃してください」


参加者
ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)
寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
斎王・アンリ(ちみっこ・e22444)
天変・地異(ディザスタードラグーン・e30226)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
アドナ・カテルヴァ(ほんわかドラゴニアン・e34082)

■リプレイ


「本当に鳥籠が浮いてる」
 愕然たる声が流れた。
 赤い瞳が輝く三十歳ほどの男。タキシードの似合いそうな紳士然とした風情である。が、顔は詐欺師のようにニヤついていた。
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)。ケルベロスである。
 彼がいるのは巨大な牢獄の中であった。かつてテイネコロカムイが閉じ込められていたもので、外見は鳥籠ににている。
 そのピジョンの眼前、彼のいうとおり、幾つもの鳥籠が浮かんでいた。その全てが牢獄だ。
「どこだ? アルゼウスは」
 若者が辺りを見回し、ターゲットを探した。ちらりとピジョンが見やる。
 若者は端正な美貌の持ち主であった。が、二枚目にありがちな弱々しい印象はない。鋭い目のためか、狼のような精悍さをも若者はもっていた。
 龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)。竜種である。
 同じように紫の髪の少女が辺りを見回していた。隆也と同じ竜種の少女で、優しげな美貌の持ち主である。華奢な肢体はガラス細工のようであり、不釣合いに大きい胸は西瓜のようであった。
 と、少女――アドナ・カテルヴァ(ほんわかドラゴニアン・e34082)の夜色の瞳がある一点でとまった。
「あそこよ」
 アドナが指さした。
 比較的近くの鳥籠。中には異様な者が佇んでいた。
 真っ黒なタキシードをまとい、同色のシルクハットをかぶっている。顔には不気味に笑う白と黒が入り混じった仮面をつけていた。――アルゼウスだ。
「アルゼウスさん」
 アルゼウスを見つめる少女の目がきらりと光った。
 十歳ほど。黒髪黒瞳の可愛らしい少女だ。
 斎王・アンリ(ちみっこ・e22444)。この幼き少女こそアルゼウスの宿敵主であった。
「あなたを牢獄から解き放ったりはしない」
 小さく細い身体に大きな決意を秘め、アンリはいった。いかに幼き身であろうとも、宿敵主である彼女にはわかる。アルゼウスほどの死神が地上に現れた場合、どけほど多くの人々が犠牲になるかということが。
 さらにアンリは続けた。
「あなたの野望を打ち砕く! 私が――いえ、私たちが」
「そうだ」
 眼鏡をかけた青年がうなずいた。
 寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)という名のケルベロスで、二十八歳。が、童顔のためかもっと若く見える。どこといって特徴のない風貌だが、その鳶色の瞳のみ違った。灼熱色の光が煌めいている。
 蓮は左手の指輪を見下ろした。愛する者との誓いの証。結婚指輪だ。
「大事なものを守るためにもコイツ等を表に出すわけにはいかない。ここで仕留めるぞ!」
 告げると、蓮は鳥籠から飛び出した。


「おーい」
 アルゼウスにむかって叫んだ者がいる。すると鳥籠の中のアルゼウスの顔が動いた。声の主を見とめる。
 それは二十歳ほどの若者であった。豪放無頼という言葉が似合う若者で、きらきらと輝くボウリングのボールを掲げ、走っている。顔には一文字にはしる傷跡があった。
「オレは天変・地異(ディザスタードラグーン・e30226)。アルゼウス、お前、死神なんだろ? オレに考えがある」
 若者――地異はいった。するとアルゼウスの仮面をつけた顔がわずかに傾げられた。
「考え?」
「ああ。これはコギトエルゴスムだ。集めてるんだろ。だったらやるぜ」
 地異がボールをアルゼウスにむけて放った。砲弾と化して飛んだそれは、しかし空で粉砕された。微塵となったボールの破片がケルベロスたちに降りかかる。
「面白い冗談ですねえ」
 突き出すように杖をかまえ、ククク、とアルゼウスは笑った。すると地異もまたニヤリと笑み返し、
「ギャグのつもりなんだがな」
「すみません。お詫びに、今度は私が面白いものをお見せしましょう」
 アルゼウスの杖から漆黒の光が迸りでた。それは闇色の弾丸と化して空を疾った。さしもの地異も避けきれない。
 着弾。衝撃に、細い身体がゆれた。太陽の瞳をもつ少女の身体が。
 それは十七歳ほどの可憐な少女であった。その輝く瞳を見て、誰が想像し得ただろうか。燈家・陽葉(光響射て・e02459)という名のこの少女が虐殺の嵐の中をくぐり抜けてきたということを。
 地異の盾となった陽葉はこの場合、さすがに顔をしかめた。弱まっているとはいえ、さすがは死神の攻撃だ。威力は絶大であった。
 もしまともにくらっていたらどうなるか――。陽葉は戦慄した。が、顔には不敵な笑みがうかんでいる。
「コレクターだなんて、気取りすぎだよね。服装だって、格好つけてるつもりで、ついてないしね。そうだね、僕たちが勝ったら、お前のコレクションを壊すのもいいかもね。僕達ケルベロスなら壊せるし?」
「これは、これは」
 おどけた仕草でアルゼウスは身体をゆらせた。
「このタキシードとシルクハットは気に入っているのですがねえ」
 アルゼウスはまたもや漆黒の光弾を放った。今度は真紅の髪を翻らせて女が受けとめる。衝撃に女の豊満な肉体がよろけた。
「ほう」
 アルゼウスは唸った。女の見事な反射速度に。かなりの戦闘センスの持ち主のようであった。
「やりますねえ、貴方」
「ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)よ」
 こたえてから、ミリアムと名乗った女は嘲弄するように鼻で笑った。
「はぁーん、趣味ワリイ仮面だな? 何、かっこいいとか思ってんの? それともそれも収集品? 自己顕示欲の塊かよ。そういやアンタ、コギトエルゴスム欲しいんだろ? うちの仲間、持ってるわよ」
「それはありがたいですねえ」
 アルゼウスの声に軋るような笑い声が滲んだ。そして手をケルベロスにけて差し伸べた。
「では、こちらへ。ますさ招待を断るような無礼な真似はしませんよねえ」
「その招待、お受けするよ」
 アンリはこたえた。すると地異がアドナに顔をむけた。
「さぁ行くぞ、ピンク!」
「了解、ブラック!」
 アドナがこたえた。そして、まるで特撮ドラマのヒーローのように二人は鳥籠にむけて飛鳥のように跳んだ。


 一斉にケルベロスたちは鳥籠の中に降り立った。
 刹那だ。アルゼウスが襲いかかった。まだ戦闘態勢のととのっていないケルベロスたちを杖で叩きのめす。鉄棒の一撃をくらったようにケルベロスたちは吹き飛んだ。
「どうですか。皆さん。まずはご挨拶代わりの一撃。私の杖のお味の方はいかがでしたか?」
 余裕たっぷりの仕草でアルゼウスは倒れたケルベロスたちを見回した。
「楽しませていただいたよ。でも、まだまだだよね」
 アンリの身に半透明の超自然存在が降りた。御業だ。
 次の瞬間、御業が飛んだ。鎧へと形態を変化させ、今度は蓮の身に降り立った。
「レギンレイヴか」
 身を起こしたピジョンは口中にたまった血混じりの唾を吐き捨てた。
「ずっと幽閉されてれば性格も捻じ曲がるかもなー……。死神のおっさんみたいな高みの見物タイプは好きじゃないな。一泡吹かせてやるか!」
 ピジョンが手を振った。するとキラッと光が散った。反射的にアルゼウスは跳び退ろうとし、ぬっと呻いた。
 動けない。その足は銀色に光る糸によって地に縫い止められていた。
「お返しだよ。僕の糸も味わってくれ」
「その趣味の悪い仮面を壊して殺してやる」
 隆也が黄金に輝く聖なる左手を開いた。するとアルゼウスの身が綱で弾かれたに隆也の左手に吸い寄せられた。唸りをあげてアルゼウスに叩きつけられたのは隆也の闇の右手である。
「ぬっ」
 呻いたのは隆也であった。岩すら砕く彼の拳がとまっている。アルゼウスが展開した闇の障壁によって。
 闇のむこうでアルゼウスが可笑しそうに笑った。
「惜しかったですねえ」
 闇の障壁が消え、アルゼウスの杖が隆也の腹に突きこまれた。爆発が起こったような衝撃に、たまらず隆也が身を折り、血反吐をぶちまける。内蔵がミンチと化していた。
「離れなさい!」
 ミリアムは素早く竜語魔法を詠唱。その掌から竜の幻影を放った。
「ククク」
 笑いながらひらりと身を舞わせ、アルゼウスは竜の幻影を躱した。まるでダンスを楽しんでいるかのように。
「龍造寺さん」
 アンリが隆也に駆け寄った。いつの間にかその身は白のナース服に包まれている。
「いたいのいたいのとんでけー♪」
 アンリは笑顔で竜語を詠唱した。詠唱より、むしろその笑みこそが呪法式の秘密といってよい。隆也の自己治癒力を呪術的に向上させ、アンリは彼の傷を分子レベルで再生した。
 その様子をちらりと見やり、蓮は手を掲げた。
「遊んでいるつもりかい? 生憎、こちらにそのつもりはないんだ。来い、壱式!」
 蓮の手にマスケット銃が現出した。流れるような動きで弾丸をこめ、蓮はアルゼウスをポイント。
「まずは足をもらうよ」
 蓮はトリガーをひいた。マズルフラッシュが世界を白く灼く。高密度グラビティの込められた弾丸がライフル弾の初速を遥かに上回る毎秒二千メートルの速さで疾った。が――。
 哄笑をあげてアルゼウスは弾丸を躱した。のみならず闇を凝固させた弾丸を放った。こちらも超音速の一撃だ。
 しかし、弾丸は蓮には届かなかった。ピジョンのサーヴァント――テレビウムであるマギーが庇ったのである。
「力を貸してね、阿具仁弓」
 陽葉が弓をかまえた。妖精の加護をうけた弓を。放たれた矢は超常の力を秘めていた。
 流れる銀光は流星。が、アルゼウスは容易く躱した。
「何っ」
 アルゼウスは呻いた。その背に矢が突き立っている。確かに躱したはずなのに――。
 恐るべし。陽葉が放つ矢には敵を追尾する力があるのだった。
 一瞬のことだ。アルゼウスの足がとまった。アドナはその隙を見逃さない。
 アドナは巨大な砲をかまえた。砲撃形態に変形させたハンマーである。
 竜の咆哮にも似た轟音を発し、砲弾が吐き出された。対竜仕様に調整された砲弾である。くらえば死神でもただではすまない。
 爆発。
 衝撃と爆炎が辺りを席巻した。その彼方、アルゼウスの姿がおぼろに滲んでいる。彼の眼前には漆黒の障壁が展開されていた。
「ちいぃ」
 地異が跳んだ。アドナの前に立ちはだかる。
 直後、衝撃が来た。漆黒の呪弾が地異の身を撃ち抜く。さすがにたまらず地異はよろけた。
「ククク。――うん?」
 不気味な仮面から覗くアルゼウスの目が探るように細められた。
 彼の眼前。地異の身に異変が起こっている。その身に禍々しく明滅する呪紋が浮かびあがっているのだった。
 漆黒の瘴気につつまれ、地異はニヤリと笑った。
「本番はこれからだ」


 どれほど時が経ったか。
 ケルベロスと死神の戦いはまだ続いていた。
 それはケルベロスたちが止めを刺さなかったからで。また止めを刺せなかったからで。
 刺さなかった理由は機会を窺っていたからだ。彼らは殲滅の合図を待っていたのである。
 刺せなかった理由は単純である。アルゼウスの動きが速く、捉えきれなかったのだった。
「合図はまだなのかな?」
 アンリの黒瞳に焦りの色が滲んだ。すでにかなりの時間が経ってる。止めを刺さぬ戦いにも限度があった。このままではこちらが殺られかねない。
「おっ」
 ピジョンは目を見開いた。空間に光が閃いている。合図の照明弾だ。
「待ってたぜ」
 地異が叫んだ。滑るようにアルゼウスに接近。雷閃のごとき蹴りを放った。
「ククク」
 笑いながらアルゼウスはスウェーバック。地異の蹴りを躱した。刃の鋭さを秘めた地異の脚が彼の眼前を疾りぬける。ピキリッとアルゼウスの仮面に亀裂がはしった。
「惜しかったですねえ」
 アルゼウスの杖が閃いた。鉄槌のごとき重い一撃。鳥籠の床に叩きつけられた地異の背骨はへし折られていた。
「もう、チョロチョロ素早いなあ……止まってっ」
 アドナが跳んだ。蹴りを放つ。あまりの鋭さに彼女の脚は摩擦熱で赤熱化していた。
 咄嗟のことに障壁の展開は間に合わない。躱しもできない。仕方なくアルゼウスは腕を交差し、アドナの蹴りを受け止めた。
「ぐぬうっ」
 衝撃でアルゼウスの身が後方にすべった。
「絶対的な隙、逃しはしない」
 悽愴の殺気が込められた声はアルゼウスの背後でした。振り向いたアルゼウスの目とミリアムの目が空で向き合う。
 アルゼウスほどの死神が死角に入り込まれた。それはミリアムが練り上げた暗殺技術故である。
 黒塗りの弓をかまえたミリアムが矢を放った。反射的にアルゼウスが横に跳ぶ。が、その動きは精彩さを欠いていた。アドナの蹴りの仕業である。
「ぬっ」
 矢に貫かれたアルゼウスであるが、しかしさらに横に跳んだ。同時に魔弾を撃つ。魔弾に撃ち抜かれたミリアムが吹き飛んだ。
「逃しませんよ」
 さらに跳躍。一瞬にしてミリアムとの距離をつめたアルゼウスは杖をミリアムの頭蓋めがけて振り下ろした。
 戞然。
 アルゼウスの杖がとまった。超硬度戦闘用ガントレットを装備した隆也の手に受け止められて。
「この距離なら障壁もはれまい」
 隆也はニヤリとすると、
「悠久の時を狭い籠の中で過ごした果てに消滅させられる。憐れではあるが躊躇はせん」
 人差し指をアルゼウスの鳩尾に突き入れた。うっ、とアルゼウスは呻いた。それきり息も継げない。身動きもならない。
 その眼前、ひゅうと棒が迫った。ピジョンの如意棒だ。
「くはっ」
 腹に突き入れられ、アルゼウスは身を折った。息とともに血反吐をぶちまける。
「まだだよ」
 ピジョンの如意棒がさらに閃いた。が――。
 如意棒はとまった。アルゼウスの障壁によって。
「止めを刺せると思いましたか?」
 アルゼウスの杖が吼え、ピジョンの背がはじけた。血肉がしぶく。
「ククク。油断しましたねえ」
「いいや」
 ピジョンの腕がアルゼウスのそれを掴んだ。愕然してアルゼウスの目が見開く。いつの間にかピジョンの傷は塞がっていた。
「これしきのことで僕たちが倒れるこことはないよ」
 ピジョンがいった。その背後、アンリが佇んでいた。
「私がいる限り、誰も傷つけさせはしないよ」
「きさまぁ」
 アルゼウスの目に憤怒の炎が燃えあがった。かつて誰にも覚えたことのないほどの怒りだ。
 殺す。こいつだけは絶対に殺す。
「ならばお前が死ね」
 一瞬間にして全呪力を凝縮、アルゼウスは魔弾を放った。それは空を噛み砕きつつアンリへ――。
 文字通り風穴があいた。アンリの――いいや、アンリの前に立つアドナの腹に。
「アンリちゃんに手出しはさせないよ」
「もう終わりだよ」
 蓮のナイフが光をはねた。いかなる手練であろうか。稲妻のように疾ったナイフは惨たらしくアルゼウスの深く切り裂いている。
 たまらずアルゼウスは逃れた。ピジョンの手を振り払って。
 が、ここに逃さぬ矢がある。陽葉の放つ矢だ。
「なっ」
 アルゼウスの足がとまった。その額に矢が突き立っている。ピシリッと仮面が割れ、アルゼウスの魂も砕け散った。
「いくぜ」
 地異が鳥籠から飛び出した。帰還の時が迫っている。
「お母さん」
 万感の想いを込めて倒れた宿敵を一度見やり、そしてアンリは翔んだ。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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