ミッション破壊作戦～死の大地の解放を

■リプレイ

●神奈川県相模原市
（「……今度は破壊できると良いなぁ」）
　ヘリオン降下口に吹き込む風に風を揺らしながら、風陽射・錆次郎（戦うロボメディックさん・e34376）は、ミッション地域と化した『神奈川県相模原市』を見降ろしつつ想う。
　眼下に見える街並みは……荒れ果て、倒壊したビル群が視界に映る。
（「オッサンには、デウスエクスだった頃のヴァルキュリアと死神の差ぁみたいなのは、よう分からん……」）
　自身がダモクレスだったからこそ、そう思うのか……佐々木・照彦（レプリカントの住所不定無職・e08003）は、心の中で呟く。
（「……けどな……死神に蘇生されたもんに、本人の意思はなかったように見えたんや。戦いたくて、戦っていた訳やない……少なくとも、オッサンが戦った事ある子のどれも……やっぱり、死神は気にいらんわ」）
　いつも穏やかな瞳が影を帯びているのを心配したのか、照彦の相棒のテレビウム『テレ坊』が滅多に映さない色をディスプレイに映している。
「……大丈夫や、テレ坊。ほな、行こか」
　テレ坊を一撫ですると、照彦はヘリオンの甲板を蹴り、宙に舞う。
　それに続く様に、他の仲間達も空へと飛び出し、下から吹き上げる風を全身に受ける。
　それぞれの手には、薄く光りを帯びた『グラディウス』が握られている。
「瞬き　煌き　耀けよ！/月を沈め今ここに！/今一度の導となりて　我らに途を示したまえ！」
　自身のグラビティ・チェインを月に狂う獣のそれを抑える煌めく星の様な輝きに変えながら、尾守・夜野（パラドックス・e02885）は空いっぱいに広げた。
　高空落下中と言う、狙いの定められない場所の為、その輝きはグラビティとしての力を発揮する事は無かったが、夜野自身は彗星の様に輝き、仲間達の周囲にも粉雪の様な光が降り注ぐ。
　その輝きを見つつ夜野は、父から貰ったぬいぐるみを抱きしめる。
「みんなの眠りを邪魔するやつは許せないの……！　ボクだって幽霊さん達に力を借りることあるけど……っ！　無理になんてしないの！　キミ達は、いつだって大切なモノや何かを壊したり奪ったりするんだ……キミらじゃないけど、ボクからも大切なモノを取り上げて……っ」
『絆』……奪われたそれを想うと、夜野の振りかざすグラディウスが輝きを増す。
「八つ当たりぐらい許されるよねぇ？　消えてよ！　消えろっ！　うわぁーーん！」
　父と別れた悲しみや自身に対する怒りで心をぐちゃぐちゃにしながらも、夜野は潤む瞳に意志の色を覗かせる。
（「……死神がやってることは許せない！」）
　光の翼を大きく開き、普段なら笑顔を絶やさない、フェニックス・ホーク（炎の戦乙女・e28191）は、死神への怒りを滾らせる。
「ボク達ヴァルキュリアは、尖兵としてとはいえ、使命を果たそうと戦い抜いた……これに眠るはコギトエルコっじゅむ……痛っ！　舌噛んだー！？　えと、えと、コギトに戻ること無く、ようやくヴァルハラへと旅立った同胞達。その誉れと安らぎを打ち砕き、また現世へと呼び出し目覚めさせるなど、死者への冒涜。冥府魔道の悪逆非道」
　普段は口にしない、難しい言葉を魂の叫びとし、必死にフェニックスは紡いでいく。
「勇者を導くは我等が使命！　それに殉るは軍乙女の誉れ！　死神如きに使役されるなど恥辱の極み！　断じて許し難し！　このグラディウスは、我等の手で解放の女神となる！　軍乙女の名の元 眠れる魂に安らぎを！」
（「ここもシャイターン襲撃があったんだよね。嫌なことを思い出すよ」）
　白き右翼、炎燃ゆる左翼を広げ荒廃した街並みを見ながら、風音・和奈（固定制圧砲台・e13744）は、過去の自身の戦いを思い出す。
　この場では無かった……だが自身が相手取った敵は、この地を同じく荒したシャイターンだった。
　苦い記憶……催眠状態にあったとはいえ、仲間では無く倒すべきシャイターンに力を分け与えてしまった自分。……シャイターンもだが、仲間の足を引っ張ってしまった自分自身を和奈は、許せなかった。
「アタシは、あれから強くなった……強くなったはずなんだ！　魔空回廊の１つや２つ、跡形も無く砕いてやる！！」
　魔空回廊への拒絶と、悲痛なまでの弱かった自身への憎悪を左手のグラディウスへと、和奈は込める。
（「このまま降下すれば、戦場はあの辺りになるでしょうか？」）
　眼下の地上の様子を窺いながら、ジェス・シーグラム（シャドウワーカー・e11559）は重力に身を任せている。
『ミッション破壊作戦』は、撤退までが1つの作戦だ。
　憂いを無くす為には、そこに至るまでの作戦も考えなければならない。
（「両親の仇である、死神達に好き勝手されるのは我慢できませんね。普段は、戦いに感情は持ち込まないようにしていますが……今回は別です」）
　ジェスが湧き上がる感情をそのままグラディウスに注ぎ込む様に柄を握りこむと、グラディウスが蒼く光を帯びる。
「死者を弄ぶ死神の回廊、ここで砕け散れ！！」
　ケルベロス達の叫びが木霊する度、グラディウスはそれぞれの魂の色をその刀身に宿していく……。

●意志込めし剣
「デウスエクスだった頃の私は、誤ちを犯しました――故に、私はその後始末をする為にケルベロスとなった。故に、もう迷いません！」
　サファイアの輝きを全身に纏い、ザフィリア・ランヴォイア（慄然たる蒼玉・e24400）が決意と共に叫ぶ。
「立ち塞がる、どの様な障壁でも貫き……この決意を貫いてみせる！　私が私であるという証を……っ！　 皆の力を結集し、この魔空回廊に今、一筋の光を！」
　ザフィリアのグラディウスは戦乙女が持つ聖なる槍の様に、刀身から輝く蒼の光を長く長く伸ばしていく。
「死神だっけ？　正直一番嫌いなデウスエクスだよ」
　普段と口調を変えず、だが明らかな嫌悪を込めて錆次郎が口にする。
「死んだ人の魂を弄ぶ、最低な奴ら……。そんな奴らの拠点！　ここで今！　完全に破壊してやる！　スパイラルアーム、起動！　一点集中で砕いてくれる！　死神共！　手に汗握りやがれぇぇ！」
　錆次郎は、肘から先を回転させ、グラビティを乗せたグラディウスをドリルの様に振りかざす。
「敵倒す度、勢力がでかなる死神は面倒やけど……ここで一つ道を潰せるかもしれへんのや。これ以上……死者を冒涜するような真似はさせへん。仏さんに悪い事する奴には罰を当てたらんと！　死者の泉に沈めたる！」
　テレ坊を背負った状態で、照彦は死神への制裁の意志をグラディウスに込める。
（「サルベージの邪魔だぁ？　何処で何を言ってんだテメエ等？）」
　桐屋・綾鷹（蕩我蓮空・e02883）は、胸に死神への怒りを溢れさせていた。
「地獄から零れ出て来た正体不明……しかも魂を駒としか考えてねぇ奴らが、人様の土地を我が物顔で勝手に使ってんじゃねぇよ！」
　綾鷹の怒りは、ケルベロス達全ての怒りと言っても良かった。
「シャイターンに望まねえ殺戮を命じられたヴァルキュリアを休ませる間もなく引っ張ってくるなんざ、血も涙もねぇな！　命をぞんざいに扱う自分勝手な奴等なんかに、俺達ケルベロスは……地球は！　負けはしねぇ、屈してなるものか！　てめえ等、いくぞォ！」
　怒りの言葉と共に、綾鷹が仲間達に叫ぶ。
「グラディウス！　お前の破壊力は、伊達なんかじゃねぇ！　俺達が、お前の力を全部引き出すんだ……お前も全力で回廊を、敵の魔の手を断ち斬る力を全部貸しやがれェ！！」
　綾鷹の力強い言葉に合わせる様に、ケルベロス達は魔空回廊のバリアへとグラディウスをある者は突き刺し、ある者は切り裂き、ある者は力の限り叩きつけた。
　瞬間……発生する、雷光と爆炎。
　雷と炎は、無差別にバリアの中のミッション地域に降り注ぎ、轟音と共に白煙と黒炎をあげる。
　時間にして、ほんの数十秒経った後……ジェスは、足先で着地すると身体を丸めて着地の衝撃を全身に分散させる。
　一方、過去に着地失敗を経験している照彦はと言うと、受け身をしっかり取る気満々だったが、岩にぶつかりそのまま転がると、瓦礫に当り動きを止めた……。
「みんな、居る？　グラディウスを失った人は居ない？」
　和奈がすぐに周囲に声をかけ、仲間達……そして、重要な武器である『グラディウス』が紛失していないかを確認する。
「ボクは居るよぉ。でも、グラビティの所為かなぁ……スピードが出過ぎて怖かったの。もう、しないのです……」
　瞳に涙を滲ませ、夜野が弱々しく言う。
「で！　魔空回廊はどうなったのかな！？」
　金の瞳で周囲を見ながら、フェニックスが仲間達に聞く。
「……駄目だな。……破壊には至ってねぇ」
　一度、魔空回廊の破壊の光景を見ている綾鷹が口惜しげに呟く。
　綾鷹の言葉に、ケルベロス達の胸を言い知れぬ落胆の想いが占めて行くが、錆次郎が気持ちを切り替える様に背負ったリュックにグラディウスをしまいつつ、仲間達に声をかける。
「破壊出来なかったのは仕方ないねぇ。けど、此処でゆっくりしている訳にもいかないよぉ。最短ルートは計算してあるから、すぐに撤退しよぉ」
　錆次郎の言葉に、ケルベロス達は頷くと、それぞれのグラディウスを確認し、この場から撤退する為に駆けだす。
　その時だった……。
「また、この場を壊しにいらしたの？　邪魔はしないで欲しいものね……」
「……夜葬華ノクス」
　ケルベロス達の前に立ちはだかった、死神の名をザフィリアは忌々しげに呟いた。

●夜葬華ノクス
「貴方が何故、ヴァルキュリアに執心するのかは知りませんが――これ以上、己が全てをかけて戦った果てに――志半ばで斃れた、同胞の魂を弄ぶことは私が許しません」
「……許さないとは、どう言うことかしら？」
　ザフィリアの強い意志を持った言葉にも、ノクスは頬笑みを浮かべ首を傾げる。
　オウガ粒子を仲間達に放ちながらも、ザフィリアはノクスから視線を外さない。
「終わりにしましょう、ノクス――願わくば、貴方にも善き終焉が訪れんことを」
　ザフィリアの言葉と共に、ケルベロス達は一斉に動いていた。
　錆次郎が手元のスイッチを押し、カラフルな爆発を起こせば、夜野が獣の魔力を籠めた咆哮を戦場に響かせた。
　綾鷹が御業で燃え盛る炎を打ち放った陰から、ジェスが『黒太陽』を具現化し、絶望の黒光を照射する。
　ウイングキャットの『まろーだー先輩』が清廉な翼を羽ばたかせたのを確認すると、フェニックスも色取り取りの爆発を起こす。
「Eins=Bahner_06」
　心を5%ダモクレスに傾ける事で照彦は、かつての記憶を開放し、武器内部に侵入後命中補正するプログラムを持ったナノマシンを生成し、仲間達の武装に力を与える。
（「もっと強く、言葉で表しきれない感情を全部溜め込んで……！」）
　一気にノクスとの距離を詰めた、和奈は自身の感情と魔力を1つにすると、衝撃波としてノクスの身体を押しつぶす様にぶつける。
　素晴らしい先手……息をつかせぬ連携、ケルベロス達の速攻は素晴らしいと言う他無い様な流れる様な攻撃と言ってよかっただろう。
　だが、立ちすくむノクスの口元は更に深い笑みを湛える。
「……素晴らしい力。称賛に値しますわ、ケルベロス。ですから、私もあなた方の葬送を美しくして差し上げます」
　ヴェールに隠れたノクスの唇が紡ぐのは夜想曲……いや、夜葬曲。
　凍てつくメロディに織り込まれた冷気のグラビティが、フェニックス、和奈、綾鷹を庇った照彦、まろーだー先輩の身体を氷結させていく。
「謳いましょう、ケルベロス。踊りなさい……ケルベロス」
　ノクスの言葉は、攻撃を受けていない筈の夜野の背筋すらも寒くした……。

●華は枯れず
「照彦！」
　目の前で切り裂かれ崩れ落ちる照彦に、和奈は思わず大きな声をあげてしまう。
「駄目だよぉ！　和奈さんは攻撃を止めないでぇ！」
　錆次郎の言葉で意識をノクスに戻すと、和奈は白銀の拳を力の限りノクスにぶつける。
「天に神々、地に勇者、そして横にはこのボクが！」
　フェニックスが宙に『勇者の再生と浄化』を祈願するルーン文字を描けば、神々しい光と共に顕現した戦乙女達が、傷ついた仲間達をを癒す。
「駄目！　みんなの冷気を浄化しきれないよ！」
「ジャマーだったのは誤算か……その瞳に映る全てを、壊し、殺し、消滅せよ」
　感情と言うものを全て抑え込んだジェスが、無感情に呟き……その後に口を開けば、暗殺者としての動きで、ノクスに瞬時に接敵する。
「《シーグラム》！！」
　ジェス自身の許容限界のグラビティを込めた、歪な形の一つ眼が付いた刀身の影の剣をノクスに叩きつける様に斬りつければ、ノクスの肌を傷つけると剣自体も砕け散る。
「フェニックスさん、これで何とか耐えてぇ！　さぁ、傷を見せてねぇ？　大丈夫、痛くしないからねぇ？」
　後衛から前衛に出るしかないが、錆次郎は自身の最大ヒールである機械手術をフェニックスに施す。
　ノクスとの戦闘が開始されてから、１０分以上が経過していたが、ケルベロス達は思わぬ苦戦を強いられていた。
　現れたノクスが予想以上に強かったと言うこともあるが、何より受けるダメージに対して回復力が足りなかったのだ。
　対峙するノクスの氷結の歌は高確率でケルベロス達を凍てつかせていたが、それを拭い去る事が出来る者が錆次郎とフェニックス、テレ坊、そして自身だけは可能な和奈だけだった。
　そして唯一のメディックである、錆次郎の回復力より、ノクスの攻撃力の方が高かったのだ。夜野が回復を補助すればその分、攻撃役が減ってしまう。
　ケルベロス達の攻撃も確実にノクスにダメージを与えている、だが……まず、まろーだー先輩とテレ坊がグラビティの枯渇で消え、照彦も意識を取り戻さない。
　そこから2分、ようやくノクスの足がよろめいた。
「今を逃す訳にはいかないよぉ！」
　右腕を獣化させると、夜野はノクスの鳩尾を獣の爪で裂く。
「ここまで苦戦するとは、思わなかったぜ。だからな……絶対強えやつには絶対治らねえ一撃……ってのは、当たり前だろ？」
　呟きだけを残し、自身の音、姿全てを消し、塞がることの無い一太刀を綾鷹はノクスに浴びせる。
「志半ばで斃れし想念よ、残影となりて今一度その力を此処に示せ。汝に代わりて潰えし想いを果たさん。今、我と共に！」
　死神にサルベージされた持ち主の武器から生前の主の記憶、残留思念を抽出して幻影化すると、ゼフィリアはその力の一端を引き出すと幻影と共にノクスを死へと誘う。
　華が舞い散る様に、艶やかに倒れ伏すノクス。……だがノクスは言う。
「…………夜葬華は一輪だけでは無くてよ……私達は咲き誇る華なのですから」
　その言葉を背に、倒れたままの照彦を錆次郎が背負い、晴れかけ始めたスモークを気流で操りケルベロス達は戦場を走り抜けた。
　次こそは、この地を開放してみせるとそれぞれ胸に誓いながら……。

作者：陸野蛍	重傷：佐々木・照彦（レプリカントの住所不定無職・e08003）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月10日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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