湿原の牢獄~獄中の死神農夫

作者:なちゅい

●牢獄への潜入作戦
 ヘリポートではすでに、集まったケルベロス達がこれから展開される作戦内容についての説明をリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)から受けていた。
「事件を起こしていた死神を討伐したことは、喜ばしいことだね」
 彼女はそう語るものの、やや唸りこむようにして話を続ける。
 なんでも、釧路湿原で事件を起こしていた死神、テイネコロカムイの撃破に向かったケルベロス達が、無事にその撃破に成功したのだという。
 その討伐の際、敵の目的がグラビティ・チェインの略奪、そして、牢獄に幽閉されている仲間を脱獄させる事であったことも判明している。
「あと、この牢獄に幽閉されているのは、死者の泉を見つけ出したとも伝えられている、古のヴァルキュリア、レギンレイヴと、その軍団であることも分かっているよ」
 悠久とも言える時間幽閉されていたレギンレイヴは、世界の全てに対する復讐を遂げる事を目的としているらしい。彼女が解き放たれれば『多数の一般人が殺害され、その魂からエインヘリアルが生み出される』ような、大変な事件が起こってしまうかもしれない。
「幸い、テイネコロカムイの撃破によって、レギンレイヴがすぐに地上へと出てくる心配はなくなったのだけれど……」
 だが、脱獄したテイネコロカムイのように、……例えば、牢獄の壁が壊れるなどして、別のヴァルキュリア、あるいは死神が牢獄から解き放たれる可能性もある。
 また、他のデウスエクスがレギンレイヴ達の存在に気づいて利用する可能性もあるだろう。特に、エインヘリアルがその力を手に入れてしまえば、その勢力を拡大させてしまう。
「だから、未然に危険を防いでおきたいと判断し、牢獄の制圧作戦を決行することになったんだ」
 牢獄に捕らえられているヴァルキュリア、そして、死神の撃破が今回の目的だ。
 牢獄のある場所には、テイネコロカムイを撃破した際に手に入れた護符を利用することで移動が出来る。
「移動する場所には、40以上の牢獄が『鳥篭』のように浮いていて、それぞれに1体のヴァルキュリアか死神が幽閉されているよ」
 牢獄に幽閉されている者は、この『鳥篭』の外に出る事はできないが、牢獄の外から来たケルベロスならば、外を自由に移動する事が可能だ。
「作戦としてはまず、テイネコロカムイが幽閉されていた『鳥篭』に転移し、それぞれ攻撃目標とする『鳥篭』へと移動してその内部に潜入、幽閉された敵を討伐という流れとなるよ」
 また、鳥篭の外から内部への攻撃は一切不可能と見られる。その為、内部に潜入するまでは、こちらから攻撃を行う事はできない。
「ただ、その逆……鳥篭の中から外へは、威力がかなり軽減されるけれど攻撃できてしまうようだね」
 この為、鳥篭の中に潜入するのに手間取れば、その間、レギンレイヴからの攻撃を受け続けてしまうかもしれない。特に、特定のチームが40体ものデウスエクスに集中攻撃を受けるような事があれば、威力が弱まっていたとしても耐え切れないかもしれない。
「だから、それぞれのチームごとに1体の敵を担当し、その相手を挑発するように近づいて、攻撃をそのチームに向けさせる……といった作戦を取ってほしいんだ」
 また、レギンレイヴを担当するチームに関しては、他の鳥篭で戦闘が始まった後にレギンレイヴの鳥篭に向かうようにし、集中攻撃を受ける可能性を減らすよう動くと思われる。
「皆に相手をして欲しいのは、死神『ゴンゾウ』だよ」
 一見農夫のような出で立ちをしているこの死神の性格は非常に残忍だ。足元に撒いた肥料を使った相手の足止めの後、手にするクワと怨霊弾での攻撃を行う。さらに、野菜を食べて自身の体力回復と戦意向上を図ることもあるようだ。
 また、ゴンゾウは普段から育てている野菜を気がけているという話もあるので、挑発にうまく使えるかもしれない。
「捕らえられたレギンレイヴ達は、この牢獄から脱出する為の『グラビティ・チェイン』を求めているようだね」
 ゴンゾウも例外ではなく、戦闘中であっても、ケルベロスを殺してグラビティ・チェインを奪い取るチャンスを狙っている。とりわけ、戦闘不能になったメンバーに危険が及ぶ可能性がある為、戦闘不能になった仲間、或いは、危機に陥った仲間については、牢獄の外に撤退させるなど、殺されない為の工夫が必要かもしれない。
 一通り説明を終えたリーゼリット。彼女はその間も何か考えていたようだ。
「こちらで相手にするのは死神だから、躊躇なく討伐できるとは思うけれど……、ヴァルキュリアを相手にしているチームの状況と合わせたいところだね」
 レギンレイヴ達は少量だが、グラビティ・チェインを所有している。安全に考えるならば、できるだけ同じタイミングでの撃破がベスト。『鳥篭』は外部から内部を確認することもできる為、他チームの戦闘状況もある程度確認することが出来るはずだ。
「それでは、行こう。皆の健闘を祈っているよ……!」


参加者
天津・千薙(天地薙・e00415)
東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)
内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
メーリス・サタリングデイ(希望の歌・e10499)

■リプレイ

●敵の気を引くべく……
 北海道釧路湿原。
 そこには、レギンレイヴ軍団……ヴァルキュリアや死神が捕らえられた牢獄がある。
 幾多のケルベロス達が、テイネコロカムイのような脱獄囚を懸念し、先んじて撃破をとそこに侵入していた。
 40余りある鳥篭。メンバー達はそれらを確認し、討伐対象へと近づく。比較的少年少女の多いこちらのチームはディフェンダー陣を先頭に隊列を組み、進軍する。
「なんとなーく、死神って美形が多い気がしてたけど、そんな事は無かったぜ!」
 チームで一番背の高い熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)が目的の敵を見つけ、にやつく。麦わら帽子を被ったその死神は、ごく普通の中年男性にも見紛う容姿をしている。
 あちらこちらにチームが点在している状況もあり、チームメンバーは自分達の強化を施すことが難しく、目的の死神、ゴンゾウの元へと急ぐことにする。
 その間にも、鳥篭に幽閉されたデウスエクスが、ケルベロスを狙ってグラビティを飛ばしてくる。
 ただ、1チームに負担が固まらぬようにと、全てのケルベロスチームが作戦を立てていた。
「珍しい野菜を奪いに来ました」
 まず、天津・千薙(天地薙・e00415)がゴンゾウに声をかける。こうして、それぞれの討伐対象の気を引き、攻撃を自チームに引きつける作戦だ。
「そっちの野菜より、地球の野菜の方が味も鮮度もバツグンだー」
 まりるが見せ付けたのは、彼女が早期収穫手伝いをしている取れたてのニンジン。健康的に輝かせた歯で、まりるはニンジンを生でかじって見せた。
「ゴンゾウさんって、野菜の作り方下手そうだよね!」
 メーリス・サタリングデイ(希望の歌・e10499)の言葉に苛立ったのか、ゴンゾウは鳥篭の中からこちらへと黒い弾丸を放つ。メーリスはそのまま身を張り、弾丸を受け止めた。
 近づくまでは数分を要する為、メンバーはさらに敵を煽ることとなる。
「ずいぶん貧相な家畜の餌を育ててますね」
 全身メカ風な小型レプリカントの流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)が呼びかける。
「……え? 野菜だったんですかっ。あまりにも貧相で、家畜の餌かとっ」
 清和の言葉に対し、ゴンゾウは表情を歪ませつつ足元へと肥料を撒く。
 そこから生えてきた怪しげ無数の手。それらは外にいるケルベロスにまで伸び、動きを拘束してくる。ダメージを受けた清和は本格的な戦いに備え、やや後方に下がっていく。
 突入から4分。チームはゴンゾウの鳥篭へと到着した。今度はこの中に入るのだが、ここでもしばしの時間を要することとなる。
 1人1人、メンバーが突入する間にも、アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)がゴンゾウを挑発していた。
「わざわざ檻の中で農作業って、余程暇人なんだな」
 皿の隅に添える程度の価値のものの為に良くやると、彼は告げるが……。
(「農家の皆さんごめんなさい」)
 挑発の言葉は本心からのものではない。アバンは小さく心の中で謝罪の言葉を口にした。
 しかしながら、聞き捨てならないと、ゴンゾウがまたも黒い弾丸を発してくる。それを、まりるがスマートフォンの面で防いでみせた。
 一方、鳥篭に入った東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)。鳥篭の中で耕された畑を見る。
 しかし、綿菓子はその所々に赤黒いものを目にしてしまい、顔を顰めてしまう。
「産み出すことも出来るのに、奪うことしか考えられない。……デウスエクスってのは、つくづく嫌になる相手よね」
「お野菜ボク大好きー! でも、悪い人は退治しないとなんだよね?」
 鳥篭へと飛び込んでくるメーリス。遠方を気に掛けている巫女服着用の内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)も続き、目の前の相手を改めて確認する。
「よくも、おれの野菜どご馬鹿にしてだスなァ……」
 そいつは鈍く光るクワを構え、目をギラギラ輝かせてケルベロスを睨みつけてきた。
「人を肥料……なんて怖すぎるよ! だから、僕達が止めないと、ね」
 山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)も気合を入れ、目の前の相手と対する。
 牢獄侵入から5分経過。一行は死神ゴンゾウの討伐を開始した。

●死神ゴンゾウ
 死神ゴンゾウは鳥篭の中に入ってきたケルベロスへ、手にするクワを持って襲い掛かってくる。
「野菜の恨みどご思い知れェ!」
 振り下ろされたクワは涼子を狙ったが、前に飛び出した千薙が身を挺して受け止めた。
 ゴンゾウに対し、千薙は情など抱かないと決めていた。放っておけば、こいつは自身の大切な人を手にかける可能性だってあるのだから。
「私だけを見ているようにしてあげます」
 千薙はカウンターとして、ゴンゾウの正面から拳を叩き込む。同時に彼女は魔力を流し込み、敵の精神を少しずつ蝕む。
 だが、ゴンゾウも千薙ばかりに気を取られてはいられない。元々狙われていた涼子が飛び掛ってきたのだ。
「その栽培収穫を止めるよ!」
 こんな場所ですら、畑を作るゴンゾウ。高く飛び上がる涼子は力の限り重力を宿した蹴りをゴンゾウの背に食らわせた。アバンもまた、流星のような煌きを伴って蹴りを叩きつける。
 捕らわれているとはいえ、相手はデウスエクス。綿菓子は攻撃に専念と考え、電光石火の蹴りを正面から浴びせかけた。
(「……っと、持久戦だったわね」)
 戦いに熱が入りかける綿菓子。出来るだけ、他チームとタイミングを合わせて撃破しないと、先に倒した敵のグラビティ・チェインを利用して脱獄される恐れすらあるのだ。
「愛がこもってなさそうだし、なんか不味そう! 勉強し直したほうがいいんじゃないのかな!」
 そこで、メーリスが敵を挑発しながら、紙兵を撒いていく。傍のテレビウムのホッピーは大斧「バーレスク」を携えてゴンゾウへと切りかかっていた。その斧は、元々メーリスが以前持っていた斧だ。
 その隣では清和がドローンを展開させつつ、ぴったりとゴンゾウに張り付いている。
(「相手の攻撃の邪魔できれば……」)
 清和は攻撃の優先度を落とし、敵が邪魔だと思える場所に位置取りながら、仲間の回復支援を行う。
「太陽の元、自宅内のソファでスマホをいじる平凡な日常維持の為、撃破させていただきますー」
 ここで死神を仕留めねば、自身の生活を侵されるという懸念を抱くまりるは、敵の足元から溶岩を噴き出す。その溶岩は、彼女のやる気を具現化させたものだ。
 仲間の回復をメインに請け負うのは、とてぷだ。
 古ぼけた宝箱のような外見をしたミミック、マミック自身の判断で攻撃を任せながらも、とてぷは懐から大量のお札を出す。先手を取れたならば攻撃とも思ったが、ここは手堅く回復、守りを固めるべく符を操る。
「さぁさぁ、お立会い! このヒトガタの紙をこう飛ばせば~……」
 人型に切った紙を仲間の周囲に飛ばす。それには治癒と幻覚の印が書かれており、傷を癒すと同時に相手を攪乱させる効力も持つ。是で暫くは持つはずだ。
 手堅く守りを固めるケルベロスを相手にするゴンゾウは、視線を畑の野菜に落とす。彼はその野菜にかぶり付いて力を得る。
「漲ってきたス!」
 だが、涼子がすぐさま、ジェットエンジンを急加速させたガントレットの拳を叩きこむ。アバンも続いてバトルオーラを纏って殴りかかる。
「人の死体を肥料にして作った野菜なんざ、死んでも食いたかないね」
 そんな挑発の言葉と共に、アバンは音速を超える拳をぶつけていく。吹き飛ぶゴンゾウが畑を転がるのを目にし、彼は思う。
(「いや、逆に食う事で、埋められた人達の供養になるのでは」)
 そんな迷いを抱くが、いずれにせよこの男は止めねばならぬ。アバンは距離を取りつつ、次なる攻撃に備える。
「野菜は火を通したほうが美味しいものね?」
 2本のチェーンソー剣を手にする綿菓子は、水平の構えから刃を薙ぎ払い、摩擦によって生じた炎を伴う斬撃をゴンゾウに見舞う。
 巫女服から御札を飛ばし、現れた御業に敵の体を掴ませようとしたとてぷ。だが、ゴンゾウは思った以上に速い動きでそれを躱す。
 そこで、とてぷは外で照明弾が発せられたことに気づく。レギンレイヴ担当班が交戦に入った合図だ。
 牢獄の鳥篭内では、幾多のケルベロスのチームがレギンレイヴ達との交戦を始まっている。戦いはまだまだ始まったばかりだ。

 ゴンゾウと交戦を続けるメンバー達。
 敵の攻撃を抑え、グラビティを放つのを繰り返し、徐々に長引く戦い。
 ゴンゾウは確かに強敵ではあるが、防御重視の布陣という事もあり、ケルベロス達は互角以上に戦うことは出来ていた。
「その野菜は、焚き火代わりによく燃やせそうです」
 前線では、グラビティと合わせ、挑発を行う千薙が最もゴンゾウの気を引いていた。
 チームは、ディフェンダーが半数を占めるほどに堅い布陣だ。
 うろちょろちょこまかと鳥篭内を動くメーリスは挑発の言葉を口にし、仲良しのホッピーと代わる代わるゴンゾウを抑える。
「外も内も、しっかりキレイに癒してあげるよっ!」
 合間にメーリスはシャウトしながら、掌底を傷つくメンバーに叩き込む。その打撃は、ゴンゾウが振りまく悪い物を取り払っていく。ホッピーも応援動画でその補佐を行っていたようだ。
 清和もずっと接敵した上で、自身や仲間の回復を繰り返す。仲間に飛ぶ黒い弾丸を受け止めた彼は、シャウトして自身の傷を気合で塞ぐ。
 その間にも、壁以外として立つメンバーが攻撃を繰り返す。
 蹴りを繰り出すアバンの手前で、綿菓子がゴンゾウの体に炎と痺れがある程度回ったと判断し、チェーンソー剣で敵を切り裂き、傷口を広げていく。
「まだまだいきますわよ!」
 彼女は徐々に戦いに熱が入り始め、戦い前のクールさはどこへやら。地が出て叫び始めていたようだ。
 前線では、ケルベロスと死神の攻防が繰り返される。
「刈り取っちゃうよー!」
 涼子も蹴りを食らわせながらも、時にその身に食らった魂を憑依させ、禍々しい呪紋に全身を包んでなお、死神へと攻め入る。
 その彼女へ飛ぶ怨霊弾を、まりるがスマートフォンを使って捌いていた。
「そちらさん達と我々の道は相容れないのですよ」
 デウスエクスは地球に住む者をグラビティ・チェインとしてしか見ておらず、あげく、この男は野菜の肥料として扱う死神だ。まりるはスマートフォンの角でゴンゾウを殴りつけていく。
 攻撃メインで戦うメンバーは、そうしてグラビティを繰り返しゴンゾウへと浴びせかけていくものの、チームの布陣が防御重視。狙い通り、持久戦の様相を呈してくる。
 こちらが徐々に敵を追い込む中、照明弾はなかなか上がらない。強敵だから当然ではあるが、いつまで続くとも分からぬ戦いを強いられることとなる。
 盾役が多いことで、ほとんど後方に攻撃は飛んでこないが、足元から生えてくる腕がアバンを苛むことがある。
 アバンは体力の減少を懸念して、霊魂から力をもらおうとした。目の前に転がるものへと彼がかじりつくと、自身に取り付いた霊魂が増えた気がして。
「一緒にアイツを、ぶちのめしてやろうぜ……!!」
 アバンはゴンゾウを撃破すべく、再び敵へと襲い掛かる。
 その横には、盾役を支えるとてぷがいた。彼女は桃色の霧を発して快楽エネルギーで仲間を癒し、紙兵を撒いてゴンゾウの攻撃に備えつつ、癒しも同時に与えていく。
 マミックがジャミングで動く間は安心だが……、盾となるメンバーがいつまで持つか分からない。とてぷは時折外を確認するものの、まだ、レギンレイヴ撃破の合図はない。
 こちらのチームメンバーに怒りを覚えるゴンゾウは、クワ、怨霊弾、そして、地面に撒く肥料と、ケルベロス達を苛んでくる。
 とりわけ、比較的攻撃の集まる千薙の疲弊状況が顕著だった。それでも、彼女がなんとか耐えていたのは、他メンバーからのカバーが間に合っていたこと、そして、一撃必殺とも言える一撃をゴンゾウが持たぬことが幸いだったと言える。
 そこで、上がる照明弾。つまり、レギンレイヴの撃破成功の合図だ。
「合図が来ました! 倒して大丈夫ですよ!」
 すかさず、とてぷが仲間達へと告げた。メンバー達は全力でゴンゾウを倒すべく攻勢に出る。
 メーリスが愛用のルーンアックスで強烈な一撃を叩き込むと、自身の目で照明弾を確認していた涼子も敵の前へと躍り込む。
「かわせるかな? 地摺り焔鮫!」
 素早い蹴撃。炎を纏う彼女の脚はまるで、獲物を食らう鮫のように地を張ってゴンゾウへと襲い掛かっていく。
 清和もやや攻撃が足りないと判断して攻撃に移り、振り上げたドラゴニックハンマーを叩きつけて行く。とてぷもまた、今度はと狙いを定め、投げ飛ばした札より呼び出す御業に炎弾を放たせる。
 炎を食らって怯むゴンゾウに、なおもケルベロスは攻め入った。
 アバンの流星蹴り、そして、千薙のチェーンソー剣がゴンゾウの体に叩き込まれる。
「空即是色!」
 それでも倒れぬゴンゾウへ、綿菓子が手にした青い短刀を滅茶苦茶に振り回す。ゴンゾウの体からどす黒い血が飛び散った。
「まだ……、終わってはいなァ……!」
 握りしめたクワを、ゴンゾウは千薙の体を殴りつけていく。
「ごめんなさい。後はお任せしますね」
 長引く戦いで、消耗していた千薙。彼女はどこか満足気な表情を浮かべて崩れ落ちていく。
 敵は周囲のグラビティ・チェインを集め、この場からの離脱を図ろうとしていた。それを見たまりるがグラビティを発する。
「誰にも 何処にも 何時かは 廻(もとお)れ」
 拳の力で上り坂すら逆転させてしまう技。天命すらも味方につけたまりるの一撃に、ゴンゾウは耐えられず……。
「ぐ、おおおおっ……」
 倒れ伏す死神はその身を保つことが出来ず、ゆっくりと消えていく。その跡に、彼が持っていたクワが転がっていた。
 戦いが終わり、クールダウンした綿菓子は思う。ゴンゾウの行為は許されざるものだったが、野菜に対する愛だけは本物だった。
「自給自足のお野菜、ゆっくりと流れる時間、悠々自適な生活……」
 これが現代人の憧れ、スローライフというものかもしれない。彼女ははゴンゾウに敬意を評しながらも、落ちていたクワを拾い上げたのだった。

●牢獄の崩壊
 死神ゴンゾウを撃破し、清和がマイペースに一息つく。
 他のチームが気になるところではあるが……、周囲から異音が聞こえる。
「何かやばそうだよ!」
 周囲を見回す涼子。牢獄内の空間が歪み、崩壊を始めていたのだ。
「撤収よ、急いで」
 綿菓子が仲間達へと呼びかける。テイネコロカムイの鳥篭からならば、ここから脱出できそうだ。
 メンバー達は重傷の千薙を抱え、急いで牢獄から撤退を始めるのだった。

作者:なちゅい 重傷:天津・千薙(天地薙・e00415) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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