虚ろのダリア

作者:そらばる


 ……くだらない。
 安物のコートで分厚く全身を覆った『彼』は、ふんぞり返るように椅子に身を預けながら、ぼんやりと思う。
 目の前では仲間達がいつもの馬鹿騒ぎを繰り広げている。橙色を帯びた日差しが差し込むアジトの地面に這いつくばっていたぶられているのは、敵対グループの構成員だったか。
 抗争相手は規模、影響力ともにかなりの格上。しかし仲間達はこの男を宣戦布告に利用するつもりだ。『彼』のチカラをあてにして。
「よぉ、キヨ。お前も混ざれよ」
 仲間の一人が馴れ馴れしく『彼』を呼んだ。『彼』が本気で私刑に加わればどうなるか、理解していないわけでもあるまいに。
 『彼』は大儀そうに腰を上げ、仲間の元へ向かう。仲間達は下卑た愉悦に口元を歪めながら、道を開ける。
 くだらない。『彼』は頭の中で繰り返す。
 仲間達の輪の中心に至り、しかしなかなか動かない『彼』を仲間達がいぶかり始めた頃。
 『彼』は片腕を持ち上げ……仲間の一人に向けた。
「そういえばさぁ……実はオレ、その呼び方、嫌いだったんだわ」
 コートの隙間からあふれ咲いた花々は、毒々しいほどの真紅のダリアだった。


「年頃のヤローどもが悪ぶったり群れたりするのは一種の『はしか』みたいなもんっすけど、ここんとこのかすみがうらは、ちょいと浮足立ちすぎっすねぇ」
 予知を反芻しながら、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は頭をかいた。
「急激な発展の代償ってのか、近頃、茨城県かすみがうら市では若者のグループ同士の抗争が相次いでるっす。一般人同士の小競り合いなら、どんだけ悪質だろうとケルベロスが横槍入れる義理はないんすが……混じってんすわ、攻性植物の実を体内に入れて、異形化しちまった奴が」
 その若者はグループの中ではまずまず中堅といった立場で、仲間との関係も良好だったが、異形化したことで人が変わったらしい。些細な不満を口実に、仲間達を一方的に惨殺してしまうのだという。
 この異形化した若者を撃破してほしい、というのが、今回の依頼である。
「場所は霞ケ浦湖畔にある、放棄された大型倉庫っす。皆さんに突入してもらうのは、夕方直前ぐらいっすね。周辺は田畑ばっかりで、その時間にはほとんど人けはなくなってるはずっす」
 倉庫は放棄されて長いようで、内部はがらんどう。ここを根城にしている連中が持ち寄った私物やら適当な粗大ゴミやらが、隅のほうに散らばっているのみだ。
「敵は、
 腕をツルのように変化させての締め上げ。
 肩のあたりに巨大な花を咲かせて光線発射。
 接地した体の一部を戦場と融合させて対象を呑み込む列攻撃。
 以上の三種類を仕掛けてくるっす。後ろ二つは遠距離にも届くんで注意してくださいっす」
 なお、敵に融合・侵食された地面は、戦闘後にヒールでの回復が可能らしい。
「当日、現場には一般人が10人程度いるんすけど、所詮、実力もなくイキがってるだけの悪ガキどもなんで、『ケルベロスが異形化した人間を退治しにきた』ってわかると、蜘蛛の子散らしてさっさと現場から離脱してくれるっす。薄情なもんっすね。あと、一人だけ痛めつけられて地面に転がってるヤツもいるっすけど、コイツも実は逃げ出す程度の体力は残ってるんで、気にしないでいいっす。
 敵もケルベロスの排除を優先してくるはずっすから、今回の一般人は基本放置推奨っす!」
 ダンテは朗らかに請け負ってから、一転、生真面目に表情を引き締めた。
「今回の敵は、元人間っすけど……強すぎるチカラに酔って、人間的な価値観をほぼ失いつつあるんす。大局に影響のある存在ってわけじゃあないっすが、放置してろくなことになるわきゃねっす。ならば一思いに……よろしくお願いするっす!」


参加者
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
バーヴェン・ルース(復讐者の残滓・e00819)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
男女川・かえる(筑波山からやってきた・e08836)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)

■リプレイ


 霞ケ浦湖畔、廃倉庫。時刻は夕方にさしかかろうという頃合いである。
 入り口から差し込む、枯れた色を帯び始めた陽の光が、八つの人影に遮られた。
 真っ先に気づいたのは『彼』――件の『キヨ』だった。仲間の一人に向けて腕を差し向けた姿勢のまま、鋭く入り口を振り向く。
 遅れて、仲間達が声を荒げた。
「あァ……? んっだテメェら?」
「オレらに何の用だアァん!?」
「やれやれ、本当に……くだらないな」
 お定まりの脅し文句に、小さく嘆息を落としたのは緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)だった。軽く横に広げた片腕が、見る間に殺気に満ちた炎に包まれる。
「悪いが俺にとっては無益な争いを繰り返す存在なんて、一般人もデウスエクスも大差ないんだよ」
「ケルベロス……!?」
 若者達にざわめきが走る。この場にケルベロスが来た、その意味は理解できたようだ。『キヨ』とケルベロス達とを、いくつもの視線が忙しなく行き来する。
「今からこの倉庫は戦場になる。そこの一般人ども、全員こちらに来い! 転がってる奴もだ!」
 四辻・樒(黒の背反・e03880)が凛々しくどやしつけると、若者達は『キヨ』の顔色を伺いつつもじりじりと後退し、一人が走り出したのを合図に脱兎のごとく出口へと駆けだした。仁王立ちするケルベロス達の横をすり抜け、一路逃亡しようとするところを、七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)が回り込んで制止する。
「はい、ここで一旦ストップ! 横一列に並んでー。ちゃんと顔を見せてくださいねー」
 携帯のカメラを向けられ、若者達はあからさまに嫌そうな顔をしたが、間近で睨みを利かせる樒に威圧され、文句どころか顔をそむけることさえできない。
 女性陣が一般人に対応している一方、男性陣は件の攻性植物と対峙し続けている。
「かすみがうら市の攻性植物の事件、ひとつひとつ解決してるけどなかなかキリがないよねー」
 原因を根本から解決できればいいんだけど。男女川・かえる(筑波山からやってきた・e08836)は、一番最後に出口にたどりついた被害者の少年を、外にいる女性陣の方へ押しやってやりながらぼやく。
「そもそもヤンチャしてる連中が多すぎるのも原因のひとつだと思うけどなー。なぁ、『キヨ』ちゃん?」
 ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)はいかにも軽薄に、『キヨ』の部分を念入りに強調しながら、挑発的な笑みを敵へと浮かべた。
 それまで一切の動きを殺していた『キヨ』は、ようやく腕を下ろしてケルベロス達を見回した。冷えた眼差しに、逃げた仲間達への執着は感じられない。
「何。アンタら、正義の味方?」
「――ム。ケルベロスだ。広義ではそのように称されないこともない」
 バーヴェン・ルース(復讐者の残滓・e00819)が、斬霊刀を隙なく構えながら、妙に生真面目に回答した。
 返す『キヨ』のつぶやきは、無感動といえるほどに乾いている。
「へぇ、そう。ってことは――戦わなきゃ、ダメだよな?」
 ずさり。
 爆発とも崩落ともつかぬ重低音が響き、『キヨ』の姿が唐突にブレた。
 足元の床が大きくひび割れたのだ。うぞうぞと動く根のような器官が、ひび割れのかしこに垣間見える。
 目深にかぶったフードの隙間から、零れんばかりに溢れ咲く、幾輪もの真紅のダリアに囲われた口元は、歪んだ、しかしどこか空虚な笑みを浮かべていた。


「はてさて、それでは状況開始と行こうかね」
 セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)がカチリと手元の爆破スイッチを押し込むと、ケルベロス達の背後が色とりどりに爆発した。戦闘開始の合図である。
「どーも、キヨちゃん、はじめまして。そして、お別れの時!」
 木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)は一息に敵との距離を詰め、雷まとうシラヌイを神速で捌き、『キヨ』の安物のコートの一部を破り取る。露出した腕は、人間の素肌と遜色ないように見えた。
「……だっる」
 『キヨ』が心底どうでもよさそうにぼやく。途端、ケルベロス達の足元が不自然に波打ったかと思うと、倉庫の床がたちまち隆起し、土と瓦礫と植物の混ざり合った質量が、ルアとセルリアンを背後から一息に呑み込んだ。
「ヤレヤレ……。子供の火遊びというには、少し火が大きすぎるな……」
 バーヴェンはひとりごちつつ、強力な突きを放つ。着古したジーンズが膝下まで破り取られ、地面と融合する脚部の、忌まわしい脈動が急速に収束していく様が露わになった。
 炎を帯びた刃で斬り込んだ結衣を、体と床の融合を切り離した『キヨ』はすんででかわして大きく背後へ退いた。結衣は剣呑に眉をひそめる。無理とは知りつつ、願望が口をついて出る。
「今すぐ倉庫ごと焼き払ってしまいたい……」
「一般人がいなくて、今のボクらにそんだけの火力があれば、それもアリだったかもね。デウスエクス退治ももっと楽になるだろうし」
 かえるは同調するようにぼやきながら、掌にドラゴンの幻影を生み出すと、大量の炎で囲い込むように敵を苛んだ。
「鬼退治ならぬキヨちゃん退治しましょっか~♪」
 ルアは挑発していくスタイルを崩さず、ダメージを感じさせない身のこなしでしなやかに跳躍すると、煌めく飛び蹴りを打ち込む。
 『キヨ』はとっさに組んだ腕で蹴りを受け止める。反動を受けて足を擦過させつつ背後に後退しながらも、バツ型に掲げていた腕を下した瞬間、左肩にはすでに大輪のダリアが咲き誇っていた。幾何学的な配列の花弁の中央が、急速に光を集める。
「――危ないっ!」
 至近距離で破壊光線に晒されかけたルアを、横合いから突き飛ばしたのは七海だった。身代わりに直撃を受けながらも、即座に体勢を整え、気丈に顔を上げる。
「遅れました! 一般人の『処置』、完了です!」
「殺界形成を張っておいた。万一にも邪魔が入ることはないぞ!」
 同じく戦線に加わった樒は、すかさず禍々しい刃で敵に斬り込む。複雑な傷に腕を裂かれ、『キヨ』は若干不快そうに目を細めた。
「よっし、仕切り直しだっ」
 最後の紅二点を迎えた戦場を、セルリアンのブレイブマインがいっそう華やかに彩った。


「ポヨンさんポヨンさん、お前に119番だ。出番だぜ」
 ケイは念を入れて相棒にフォローを要請しつつ、自身は絶空斬を敵に叩き込んだ。ボクスドラゴンのポヨンは赤いスカートを翻すと、セルリアンの周囲を愛らしく飛び回り、癒しと耐性を付与する。
「――ム。思った以上に手応えが渋いな」
 的確に回避しようとする敵に、バーヴェンはからくもブレイズクラッシュを的中させると、こめかみを叩いて思案する。
「ちょこまかと……!」
 結衣も、惨劇の鏡像をぶつけようとしてうまくいかず、悪戦苦闘している。
「当てやすいのと当てにくいの、色々試してみるしかないよ!」
 かえるは自前の攻性植物を捕食形態に変化させ、敵の足にしっかりと毒を注入する。
「ところでキヨちゃんさ、その攻性植物の実は誰にもらったの? ちょ~っと興味あったりしちゃうかな~」
 ルアはスナイパーの本領を発揮して、魔法の光線をきっちり命中させる。
 『キヨ』は答えず、ずしりと重さを増した腕に冷めた一瞥をくれ、軽く握りしめると、唐突に前に突き出した。腕は瞬く間に絡み合うツルクサの束となって、結衣を捕らえて絡みつき、きつく締め上げる。
 突如、七海の咆哮が倉庫内に轟き渡った。魔力を籠めた波動に晒され、『キヨ』はわずかに顔をしかめる。感情の表出したその瞬間を、七海は好機と捉え、静かに問いかけた。
「良好だった関係を裏切ったのは、どちらからなのでしょうか」
「……あ?」
「力を得て振るい、それで得られる景色は破壊と、やはり力ばかり。だとすればさぞかし虚しいでしょうね」
 『キヨ』に向けて滔々と投げかけられる言葉はいくぶん詩的で、芯を捉えづらい。むしろ、だからこそだろうか、『キヨ』の内側の、漠然とした何かをざらりと逆なでしたようだった。
 隙を逃さず、樒はいつの間にか敵の懐に潜り込んでいた。
「力に飲まれ、何も残せず終わるか? それならば随分とくだらない一生だな」
 挑発的に輝く瞳で間近に『キヨ』の顔を覗き込みながら、掌をツルクサと腕の境界に押し当て、螺旋を籠めて内側から破壊する。腕の一部を抉り取られ、『キヨ』は初めてはっきりと顔を苦痛に歪めて、ツルクサを急速に納めながら退いた。
 ケルベロス達は猛追した。
「巻きつきのお返しっ」
 かえるのストラグルヴァインが敵の足元を絡めとり、
「畳みかける!」
 バーヴェンの雷刃突が、
「自分で選んだ事だ、覚悟はできているな」
 結衣のフレイムグリードが、的確にダメージを与えていく。
 かえるの攻性植物のツルを逃れた先にも、
「そんな化け物みたいになっちゃうより、人間でいた方がずっと幸せだったんじゃない? 仲間には恵まれてなかったみたいだけど、ね」
 ルアのルーンディバイド、
「おイタが過ぎたなキヨちゃん。おっと、こう呼ばれるのは嫌いなんだっけか? ゴメンしてね」
 ケイの烈風散華が、軽口とともに『キヨ』に殺到する。
「回復はこっちに任せなはれ。その代わり削りきるのは任せる」
 セルリアンはポヨンと手分けして、傷を受けた者から耐性や強化を籠めた癒しを施していく。
 『キヨ』は舌打ちを放つと、再び肩口に大輪を咲かせた。一直線に照射される光線を、しかし敵の動向を細かに観察していたケイは、間一髪で回避した。場数が違うとばかりにニヤリ、笑んで見せる。
 フードの影に半ば没した『キヨ』の表情は、怒りとも焦りともつかぬ……少なくとも感情のない者には浮かべ得ぬ複雑な色を帯びてきている。
 七海は常に思考を動かしていた。思いつくまま言葉を投げて、『キヨ』の反応を探り続ける。
「暴力こそが自分、そう思いたくなりましたか? おいでなさい。そんな力など制御してみせなさい。さもなくば捨てなさい。悔やむなら私が――」
「っせぇんだよ!!」
 ジグザグスラッシュをまともにわき腹にくらいながら、『キヨ』が初めて声を荒げた。


 動揺が動作を鈍らせるということはなかったが、心の動きが露わになれば、体の動きも読みやすくなってくる。
「地面と融合するつもりか……土砂攻撃の前後が狙い目だ!」
 露出している敵の片足が、見覚えのある脈動を始めたのを見取り、セルリアンが回復の傍ら皆に呼びかけた。仲間達はここぞとばかりに攻撃を畳みかける。
「みんな、いっくよー!」
 かえるが動物の形をした光弾をでたらめに撃ち込むと、
「お前が人を捨ててまで得たもの、もっと私に見せてみろッ!」
 樒は禍々しい刀身をより先鋭に振るい、
「ヤンチャの結末がこれじゃぁ、こんなつまんないこともないよね~」
 ルアの大斧が敵の頭上より重い一撃を打ち下ろし、
「お命頂戴つかまつる……成敗!」
 ケイの二刀より放たれた衝撃は正面から敵を打ち据え、
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」
 バーヴェンは波導の一撃を横薙ぎに払い、
「身の程はわきまえるべきだった。過ぎた行いが招いた報い、その身に刻め」
 結衣が地の底より呼び覚ました悲憤の魂が、獄炎となって敵を焼く。
 蓄積していく数多の炎に焼かれながら、『キヨ』は能面のようだった顔を、もはや凄絶というほどの凶相にまで歪め、大地と融合した片足をさらに強引に踏み込んだ。床が再び流動し、前衛の四人を大地に引きずり込まんと飲み込んでいく。
「此の地に眠る数多の意志よ。我が喚び声に応ずるならば、今再び魔弾として顕現し、立ち塞がりし障害の全てを無に帰せ――」
 決着間近と見たセルリアンが、前衛の隙をフォローするように敵へ肉薄し、多種多様な形状の魔弾を撃ち込む。
「因果応報代償無用踏み倒し御免――あなたにお薬あげましょう。殺菌効果抜群です。たんと――塩を塗ってさしあげましょう」
 もはや相手に『引き返す』意図はない。七海は呼びかけを重ねることをやめ、光の粒子を振り撒き、激痛を敵に塗りたくる。
 仕上げに、アームドフォートの全砲門を解放し、かえるが元気いっぱいに声を上げる。
「これで、最後ぉ!!」
 砲撃が一点集中し、『キヨ』の姿は白い爆発の中に消えた。

「あ~終わった終わった。ヒール持ってる人、倉庫の回復よろしくね~」
 ルアは仲間達に後始末を丸投げして、ネコ科らしく伸びをした。かえるはがまがえるフードを整えながら、ご機嫌に請け負う。
「そだね、出来るだけ綺麗にしておくよ。荒れてる建物とかがあると、またイバヤンが溜まり場にしちゃうからね」
「イバヤン?」
「茨城ヤンキー」
 そんな会話の横で、セルリアンは黙々と周囲にヒールを施している。頭の中は周辺植物の生息環境への好奇心でいっぱいだ。修繕が終われば、すぐにでも実地調査に向かうつもりでいる。
「さて、警察に通報だな。さすがにデウスエクスまで絡んでくるようではシャレにならんからな」
 バーヴェンの提案に、結衣はうなずき、あらかじめ話をつけておいた近隣の警察署へと、逃げた若者達の人相を納めた写真データを添えて連絡を取った。
 一介のチンピラ集団とはいえ、ここまで大した事件になれば、警察もむざむざ放置はしまい。ヒールを施して恩を売っておいた被害者少年が、実際に事情聴取に応じてくれるかは不明、そもそも連中を刑事罰に問えるかもわからないが、少なくとも彼等の周囲がしばらく騒がしくなることは間違いない。
「お前もほんの少し人に恵まれていれば、結末は違ったかもしれんのにな……」
 床に横たわる『キヨ』の残骸を見下ろし、自身の境遇を重ね、最愛の人を想いながら樒がつぶやく。その隣にケイが立った。
「死に花を咲かせるっていうが、なかなか見事なダリアじゃねえか。花言葉は……優雅、威厳、栄華とかだっけか。こりゃ皮肉かな」
「その他にも、移り気、不安定、そして『裏切り』」
 同じく横に並んだ七海が、『キヨ』を見つめながらぽつりと補足した。
「裏切ったのは誰なのでしょうね。白のダリアを染めたのは……」
 『キヨ』は二度と答えない。
 まだ人の形を残したまま仰向いた残骸の、ぽっかりと虚ろになった胸部の中央に静かに咲く一輪のダリアは、なぜかそれだけが、わずかの穢れもない純白だった。
 夕日の色に美しく染まるダリアの横に、シレネの花束がそっと添えられた。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。