湿原の牢獄~絶対零度の名を持つ魔女

作者:ヒサ

 釧路湿原で事件を起こしていた死神『テイネコロカムイ』は、対応に向かったケルベロス達によって無事撃破された。
「彼女は、囚われている仲間の為にグラビティ・チェインを集めていたそうよ」
 牢獄に幽閉されているのは、古のヴァルキュリア『レギンレイヴ』とその配下達。かつて死者の泉を見つけたとも伝えられているそのヴァルキュリアは、今は、世界の全てを敵視しており、捨て置くには非常に危険な存在なのだとか。
「彼女達が自由になって、無差別にひとを殺し、エインヘリアルを量産でもされたら……と。そうした危険を避けるために、あなた達の力を借りたいの」
 そう告げて篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)は今一度、手にしたメモへ視線を落とした。
「テイネコロカムイが倒れたから、レギンレイヴ達が今すぐどうこう、という事は無いと見て良さそうではあるけれど……元々、テイネコロカムイも囚われていた所を脱獄して事件を起こしていたようだから、楽観は出来ない、という事のようよ。そうでなくても他の勢力……それこそエインヘリアル達が彼女達に目をつけたら厄介だから、そうなる前に彼女達を倒してしまうのが安全でしょう、という事ね」
 その為、一チームにつき一体の敵──一つの牢獄を担当して貰う事になる、と彼女は続けた。テイネコロカムイを倒した者達が、牢獄のある場所へ移動する為の護符を入手したそうだ。問題の空間には多数の牢獄が鳥篭のような形を取り浮かんでおり、一つの篭に一体の敵が納められているという。
「元から囚われているデウスエクス達は、基本的に外には出られないらしいのだけれど、あなた達ならば自由に出入りが出来るようよ。なので、ええと……一度全員が、護符の力でテイネコロカムイが居た篭へ行って、そこからチームごとに担当の篭まで移動して、中の敵……あなた達には死神『ゼロ・アブソリュート』を、倒して欲しい」
 標的の外見特徴をざっと伝えたのち彼女は、けれど、と未だある問題点を伝える。
「篭は、外から中の敵へ攻撃をする事が出来ないらしいの。だから、中に入るまではまともに戦えない。けれど逆……中から外へは、大分威力は弱まるそうだけれど、届くのですって。なので、出発地点の篭を出てから目的の篭に入るまでは危険、ということになるわ。誰か……や、そこまでは行かなくてもどこか一つのチームが敵全員から集中して狙われるような事があったら、無事では済まないかもしれない」
 対策としては。各チームが担当敵の注意を惹き、その個体からの敵意と攻撃を自分達に向けさせる事が出来れば、大事には至らず各所で戦闘に持ち込めるだろう。
「あとは……篭の一つにはレギンレイヴも居るから、彼女を担当するチームはなるべく消耗を抑えるのが良いだろう、という話よ。レギンレイヴ担当のチームが動き易いように、出来るだけ早くゼロ・アブソリュートとの戦闘を始めてあげてくれると助かるわ」
 ゼロ・アブソリュートは氷雪の扱いに長けた術士だという。無垢な少女を思わせる見目に反しその戦闘力は侮れない。
 また、テイネコロカムイがその為に動いていたように、彼女たちは、十分なグラビティ・チェインがあれば牢獄から脱出出来る。己が領域に踏み込んできたケルベロス達は、彼女達にとっては獲物でもあるという事だ。
「……もし、誰かが倒れて動けなくなったりしたら、とどめを刺される危険もある、という事。その時はなるべく、まだ動けるひと達で気をつけてあげて」
 全チームが篭内で戦闘に移れていれば、篭の外は初めとは逆に安全だろう。ゆえ、手間を掛ける事を厭わなければ最悪の事態は回避出来る筈である。
「勿論、デウスエクスが持つグラビティ・チェインも、集まれば危険でしょうね。他のチームの状況を確認しながら戦う事も、あなた達ならば出来るでしょうから、倒すタイミングをなるべく合わせて貰えれば良いと思う」
 そう仕向ける事は、決して容易くは無いけれど。ケルベロス達ならば不可能では無いと、ヘリオライダーは信頼を示した。


参加者
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
罪咎・憂女(捧げる者・e03355)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
鳴無・央(緋色ノ契・e04015)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)

■リプレイ


「成程……」
「壮観だねぇ」
 ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)の呟きは、宇宙を思わせるこの空間そのものを見。ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)の相槌はその実、浮かぶ鳥篭とその個性的な中身を指して。ケルベロス達はまず、己が目当てを探し周囲を見渡していた。
「これがほんとの『オリをさがせ!』ってやつ?」
「ああ、檻d……、……ですね?」
 スコープを覗きながらの二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の言に、しかし最初に返ったのは、戸惑いに臨戦態勢を失速させた罪咎・憂女(捧げる者・e03355)の疑問符だった。なお、直前には沈黙の時間も二秒ほどあった。他チームの面子には早々に理解して噴き出した者も居たようだが。
「──ああ。今回の標的には、杖と眼鏡は無いらしいな」
「うんごめん変な事言って」
 更に間を置いて察された。顔を覆いたくとも目が仕事中では無理だった。
 近くの他チームとも情報を遣り取りしながら、ほどなく目標を見つけた。同方向へ進む者達で固まってタイミングを見計らい、ケルベロス達は現在地の篭から飛び出した。

 先導はナディア、側方の警戒を担うのは憂女とミミック。各々初撃を凌ぎ、足しにとヒールを樹とヴィルベルが行使する。
 距離はやや遠いが、双方届く。弓を構えたラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が目的の篭目掛けて無数に矢を放った。生じた炎が篭を包んだが、ほどなく槍じみた氷塊が穴を穿ち飛来する。
「止めて、ボックスナイト!」
 アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)が声を上げ、鎚を変形させていた鳴無・央(緋色ノ契・e04015)の身が護られる。八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)がかざした白銀の杖から魔矢が溢れ、竜砲が轟音を伴い続く。いずれも篭表面で炸裂するだけではあったが、かの魔女の口の端をつり上げさせるには十分だった。不自由で在り続けた虜囚にはそれで足りたという事か──央がくつり、笑むに似て息を零した。
 標的の注意を惹いた以上は他チームを巻き込むわけにも行かない。各々が最短距離を行かんとする為もあり、彼らは既に八人と一体だけで動いていた。役割を分担しながら局地的な吹雪を抜けて。護りを固めたゆえに、要した時間の割に被害は軽く、彼らはゼロ・アブソリュートの篭へと辿り着く。
 中へ飛び込む。盾役の身に残った氷粒は、軽く払えば痛みも残さず落ちた。出入口付近を狙い敵の氷弾が雨と飛んだが、勢いのままに前へ出たナディアが受けきった。
「こちらには炎使いが揃っている。覚悟するんだな」
「なら、全部凍らせてあげるよ」
 屈託無く笑む魔女を見据え、同じく盾となるべく憂女が前へ。
「生憎此方も譲れない」
 白く凍てつくその膚の下にあるものを慮れど、きっと届かぬと彼女は首を振り。
「──だからせめて、今この時だけは。ただ貴女と向き合いたいと思う」
「……出来るものなら」
 応じて魔女が手をかざし、篭の中に氷雪が荒れた。


 冷気を浴びた前衛の身がずしりと重くなった。癒し手には細やかな対処が求められよう、と認識を共有したのはすぐの事。
「でもちょっと待ってね、放っておくのもヤだし」
「ではその間はこちらで。雪など散らしてみせますとも」
「冷やすしか能がないなら燃やしちゃえば良いだね! 熱エネルギーは飾りじゃないよ!」
 ヴィルベルがまずはと敵へ毒を撃つ。余裕の顕れめいた仕草で片掌を上向けたラーヴァに依り、水瓶を象る星陣が守護を成して行く。愛用のスマホを高速で操作するアストラが仲間を鼓舞する、あるいは敵を煽る。その声と電波は、憂女が力場を整えた事でより効果的に前線へ届いたようだ。
 とはいえ精度の低い攻撃を凌げぬ敵でも無いようで、ゼロは冷気の膜を張るようにして、続く衝撃から身を護った。それを崩したのは央の竜砲、彼女が術を継ぐ間に手を翻した僅かな隙を狙い炸裂した。ならばと敵は紡ぎ掛けていた術を攻撃のそれに切り替えたらしく、再度吹雪が場を取り巻いた。此度は後衛を狙ったそれが彼らを脅威と見てか様子見の範疇かまではケルベロス達には窺えない──そも、煽られれど虚を突かれようと、戦意を示した初めの時も、彼女が湛えていた笑みは殆ど崩れておらず、その心中を読む事は容易く無かった。彼女もまた既にまともでは無いのかもしれない、と、対峙する中で何名かが思い至る。
(「好きで引き篭もってたならともかく、幽閉だもんね」)
 敵の術発現を阻害するよう爆発を制御しながら樹が息を吐く。外に出たくても出られずにずっと、となれば、例えばゼロが此方をグラビティ・チェインを背負ってやって来た餌であるとだけ見なして喜んで迎えたのであっても納得出来た。
 遠くで一度目の報せが上がったと鎮紅が皆へ伝える。篭の外の安全は確保出来たと見て良いという事。此方の意図をどこまでゼロが察するかは判らないが、彼女が自棄でも起こさぬ限りは些末な問題だ。篭に入る間に一撃貰った為もあり、現状治癒は後手に回りがちではあったものの、それが響くほど不覚を取りもしていない。ケルベロス達は護りを固めつつ敵を牽制して行き。
「敵の動きは十分見えるよ! チャンスは最大限に活かすだね!」
(「──じゃあ、少しは本気で」)
 囚われてなお諦めていない敵達を捨て置けないし、自分達を殺してグラビティ・チェインを利用しようなんて、もっと看過出来ない。アストラの声に応じて切り込む鎮紅に続いた憂女が槍穂を帯電させるに合わせ、樹が爆発を起こす。敵の不意を突くような発破が連鎖し刹那に十六発。名人級の無茶な連打だが一応入力装置は無事らしい。爆風の中に深紅のナイフが踊り光を零し、それを標とした如く槍の菫色が閃き敵の肌を裂いた。
 冷えた血を零す敵は、それでも即座に術を返した。気付いた盾役が割り込むより先に鎮紅の眼前で氷が炸裂する。それまで敵の狙いが定まらずにいた為もあろう、相手が懐に飛び込むのを待っていたかのようなタイミングでの狭い範囲へ凝縮された冷気は、急ぎ身を退く少女の外套も足元も凍てつかせ身を苛む。頑丈なれど加護の淡い軽装では抗いきれない。その様に笑みを深める敵はあるいは、吹雪をばらまく中でそれを察したのだろうか。
 だが勿論やられるばかりでは無い。癒し手達の奮闘は凍傷を引き摺る事を許さず、たとえ不足があったとて星と雷の護りが補う。ゆえ攻撃役達は務めに専念し、憂いは無さそうだと改めて確認したラーヴァもまた、体格に比して随分と大きな弓をそれでも軽々と引いて攻めに転じた。放たれた矢により空気が逆巻いて、深く抉る傷を厭い敵が治癒を為し、身を冒す呪詛が邪魔をすると気付いたその時、初めて彼女の笑みが消えた。
「やってくれるね。流石、そっちから乗り込んで来ただけはある」
「それはどうも」
 敵の攻撃が緩んだ隙にとヴィルベルが花の術を織る。標的へと伸びる黒薔薇はしかし敵が掌を向けた事で温度を失くし硝子細工のように凍り付いた。二者の術力が束の間拮抗し、ならば次、と頭を切り換えたヴィルベルが退いて、澄んだ音を立てて茨が割れ落ちた。散らばる欠片と漂う冷気が昏い末路のようで、彼は小さく肩を竦める。
「怖いねえ」
 いとけなく目を細める娘は篭の鳥なれど、本性は全てを沈黙させ得る魔性。その在りようは明らかで──しかしそれでも本当は、彼らが臆するには値しない。
「呑気にしてないで真面目にやれ」
 とはいえ、とナディアが呆れて友人を見遣った。
「んー。凍っちゃったら溶かしてくれる?」
「黒焦げになっても良いならな」
「ワァ、頼もしー」
 冗談交じりに常温と低温が交差する。友と、仲間と、共に戦うケルベロスが、温もりを忘れた氷使いに怯える必要など、初めから無いのだ。
 傷は残れどそれでも敵が呪縛を祓うならば、再度試みれば良い。手に宿した雷槍を一度散らして央が再び鎚を砲へ。確実性は減じているけれど攻め時だと樹が再度連打を繰り出せば、応じて憂女が炎を放つ。開戦直後に経た手順を再度なぞるに似て、着実に攻撃を加えた。初めと違う事の一つは護りを固める必要性も減じている事で、ゆえにラーヴァの矢もまた鋭く敵を穿ち、早々に状況を調えに掛かる。
「援護はボク達に任せてだね!」
 いま一つは、此方の消耗も軽んじ得ぬ事。各々疲労も見え始めており、ふとした事が致命傷になりかねぬと癒し手達は治癒に専念して行った。


 敵もまた治癒を扱う為に、ケルベロス達が手を緩める暇はさほど無く、良くも悪くも安定した状況が続いた。レギンレイヴと対峙するチームからの合図を待つ必要はあったが、ゼロに此方の思惑を悟られる心配はせずとも良さそうだ──露見したとて最早状況はさほど変わらなかろうが。
 ケルベロス達は攻守バランス良く動き、時折鎮紅が攻めあぐねるかのように手を緩める程度。敵もまた疲労を隠せぬのか眉をひそめる事が増えていた。
 戦いを楽しむかのように微笑み続けるゼロではあったが、苦痛を苦痛として表現し得る程度には歪んでいなかった様子である事に、案じた者達は密かに安堵した。
(「レギンレイヴが居たから、だろうか?」)
 ヒトの身には想像し得ぬほどの苦痛が彼女達を苛んでいたのだとしても、拠り所はあったのかもしれない。篭の中に一人囚われていたとて、真実孤独では無かった為もあろう。
 そして、ゼロが幾らかはまともであるならば、限界を察する事も難しくは無かった。此方が未だ動けるうちは、と持久戦に持ち込んで暫し。粘るケルベロス達に焦れたように敵が術を撃ち、その狙いは時間を掛けた事で露見していた脆い箇所で、アストラの指示を受けたミミックがフォローに動き、その姿を保てなくなる。
「……素直に凍っていれば良かったのに」
 ゼロが憂いを帯びた様子で視線を彷徨わせた。その声は怨嗟の類では無く憐れみに近い色。それこそが救いであり己は善行を為しているに過ぎないと信じているかのような、無垢な残酷さ。
「生憎、私などは熱いくらいが快適でしてね」
「こっちだって拒否する自由はあるし」
 ふるり、ラーヴァが緩くかぶりを振る。兜の隙間から溢れる炎は激しく燃えていた。続いた樹の声は常と同じに静かに。そんなものは御免だと、否定する思いはこの場の誰もが同じであったろう。あしらう合間、他の篭の様子に目を向けた限りでは、もう暫くはこの魔女に付き合ってやらねばならないようだと判った。

 とはいえケルベロス達にも限界というものがある。攻め手と癒し手はどうあっても護らねばならぬと盾役達は駆け続け、しかしとうとう憂女が頽れた。ゼロの追撃を封じるべく樹が牽制に努め、その間に央が憂女の体を回収する。
「自分……で」
「この方が早い、少し我慢しろ」
 射手の手を煩わせるのはと彼女が呻いたが、今最も必要なのは攻撃力では無いゆえに彼は首を振る。その首元から提がるマフラーを空けた片手で避けたその逆側に彼女の体を抱えたのち彼は、篭の外へ彼女をぽんと投げた。後の事を考えた当人が比較的出入口に近い位置で倒れた為もあり手早く済んだ。
「向こうは?」
「まだ何も」
 鎮紅が篭外を窺い首を振る。
「まずいかな」
「いや、未だ保つ……保たせてみせる」
「……少しだけね」
 ナディアが未だ余裕はあると申告した。これ以上被害が出るようならば待たぬとヴィルベルが嘆息した。攻撃役達も補助と援護に回る準備はある。現状を維持し得るうちは粘るべく、ゼロの動きを妨げるよう各々が動く。
 敵の攻撃が十分な威力を発揮出来ぬように斬撃と衝撃を。此方の攻めを凌ぐ術を奪うべく砲撃と熱線を。護りに入らせぬよう刃を振るい、不測の事態を防ぐ為に刺突を浴びせる。その頃には敵も此方の思惑を察しつつあったが、阻まれるわけには行かない。癒し手達は穴を作らぬよう目を配り声と治癒を飛ばす。
「──来ました!」
 張り詰めた時間はその実ほんの一、二分。周囲の様子に目を配っていた鎮紅が遠くに報せを見つけた。
「有難う」
「ボクも行くね!」
 それを受け、片側に重心を寄せたナディアの逆足が鉄靴を纏う。樹が連打の為に息を吸い込む微かな音を掻き消したのは、スマホを握ったアストラが地を蹴る音。それを黒薔薇が追う。レギンレイヴはじき倒れる、あるいはつい先程倒れた。ゆえにこれより後は無い。一つでも収穫をと放たれた氷塊が冷気を撒きながら爆ぜるが、今ばかりは全ての護りを捨ててケルベロス達は最大火力を叩き込みに掛かる。鎧の音を伴い跳んだラーヴァが重さを活かし炎の尾を引く流星となり敵の身を格子へ叩き付け。
「お前の力を貰うぞ」
 黒雷槍を敵へ向ける央が告げた。
「へえ? 君は『私』になってくれるのかな」
 死の間際に在り、魔女はそれでも微笑んでいた。
「抜かせ」
「ふふっ」
 彼が鼻で笑うと、彼女の笑みが挑戦的な色を帯びた。
「あなたを……此処で、断ち切ります」
 彼女を見据えた鎮紅が振るうのは、災いを断ち充足を志向する為の手段たる刃。紅い華に似て、氷雪を呑み込むきらめきが舞う。
 己を殺し得る敵と対峙した氷の魔女は、最期まで楽しげに笑んで──消滅した。


 宇宙を思わせるこの空間は、ゼロが死に行くその時既に、震え歪み危うさを示していた。この場そのものが崩れようとしているのだと悟るには十分。彼らが篭から出た時には、他のチームの面々も同様に撤退の為に急ぎ動いていた。警告の声が飛ぶ中、入口であった篭を目指す。
「ごめん、ちょっと雑になるかも」
 救急隊員等がするものを真似て、樹が憂女の体を肩に担ぐ。了承にだろう、彼女が声を洩らしたが、応じたり案じたりする暇は今は無い。
「皆無理し過ぎなんだよ」
「もう忘れてるものは無いな? あっても多分回収出来ないが」
「ひとまず私共においては大事は無いかと存じます。人さえ洩れが無ければ良うございましょう」
 疲労が酷いナディアをヴィルベルが支え、傷が深い為にふらつくアストラを央が小脇に抱え、冷気の影響を受け続けた四肢の重さに参っている様子の鎮紅へラーヴァが肩を貸す。
 そうして彼らは帰還の為、件の護符を持つケルベロスが待つ篭へと急いだ。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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