湿原の牢獄~道化少女は傀儡と躍る

作者:柊透胡

「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう……釧路湿原の事件の続報となります」
 都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、静かにケルベロス達を見回した。
「事件の元凶である死神、テイネコロカムイは、ケルベロスの皆さんの尽力で見事撃破されました。更に、テイネコロカムイの目的も判明しています」
 略奪したグラビティ・チェインによって、『牢獄』に幽閉されている仲間を脱獄させる目論見であったようだ。
「釧路湿原の牢獄に幽閉されているのは、死者の泉を見付け出したとも伝えられる古のヴァルキュリア、レギンレイヴとその軍団です」
 悠久とも言える長い間、幽閉されてきたレギンレイヴは、世界全てに対して復讐心を募らせている。彼女が脱獄を果たせば、『多数の一般人を虐殺し、その魂からエインヘリアルを生み出す』という、大事件に発展してしまうかもしれない。
「幸い、テイネコロカムイが撃破された事で、レギンレイヴ達がすぐ地上に出てくる危険はなくなりました」
 とは言え、テイネコロカムイが脱獄していたように、この牢獄も完全ではない。万が一にも牢獄の壁が壊れれば、レギンレイヴという危険が解き放たれてしまうのだ。
「又、他のデウスエクスが釧路湿原の牢獄を発見すれば……レギンレイヴ達を利用しようとするかもしれません」
 特に、エインヘリアルが彼女の力を手に入れてしまえば、その勢力が一気に拡大する厄介な事態となるだろう。
「危険を未然に防ぐ為にも……釧路湿原の牢獄を制圧し、レギンレイヴの軍団を撃破しなければなりません」
 『牢獄』へは、テイネコロカムイを撃破した際に入手した護符を利用すれば移動出来る。
「そこは40以上の牢獄が『鳥篭』のように浮いており、それぞれ、レギンレイヴの軍団のヴァルキュリアか死神が、1体ずつ幽閉されています。牢獄に幽閉されている者は、この『鳥篭』の外に出られませんが、牢獄の外から来たケルベロスの皆さんでしたら、出入りは自由です」
 ケルベロス達は、まずテイネコロカムイが幽閉されていた『鳥篭』に転移し、攻撃目標とする『鳥篭』に移動して内部に潜入、幽閉されている敵と戦う事となる。
「どうやら、鳥篭の外から内部への攻撃は一切不可能のようです。ですから、内部に潜入するまでは、こちらから攻撃を行う事は出来ません」
 逆に、鳥篭の中から外へは、威力は大分弱まるものの攻撃は可能であるらしい。
「つまり、敵の鳥篭に潜入するのに手間取れば、その間、攻撃を受け続けてしまう訳です」
 如何に威力が減じていようと、1つのチームが40体ものデウスエクスに集中攻撃を被れば、流石に耐え切れないかもしれない。
「そこで皆さんには、チーム毎にそれぞれ1体の敵を担当して貰う事になります。担当の敵を挑発するように近付き、攻撃を自分達に向けさせる工夫をして下さい」
 特に首魁たるレギンレイヴ担当のチームに先立って挑発行動を起こせば、それだけ、レギンレイヴのチームが集中攻撃を受ける可能性を減らせるだろう。
「皆さんには死神を1体、担当して戴きます。呼称は『降魔殺しのクラリッサ』。あどけない道化少女のような姿をしています」
 ジェスターハットを被った薄青の髪の死神は、幾つもの人形を従えている。
「どうやら、捕えた魂を人形に封じ込め、マリオネットのように操るようですね。その様子はコミカルですが、戦闘力は侮れません。くれぐれも、油断されないように」
 尚、二つ名に違わず、クラリッサは魂を喰らうとされる降魔拳士を忌み嫌っている。メイン・サブを問わず、ジョブが降魔拳士である事を示せば、気を引き易いかもしれない。
「他のチームにも降魔拳士の方はいるでしょうから、アピールのタイミングはお気を付け下さい」
 タブレットの画面に目を落とし、創は更に説明を続ける。
「永きに渡り幽閉されてきたレギンレイヴの軍団は、総じて尋常な精神状態ではありません。クラリッサも例外でなく、説得は通用しないでしょう」
 狂気に陥った死神に遠慮は不要。全力で挑み、全力で倒すのみ。
「又、彼らは脱獄に必要な『グラビティ・チェイン』を求めています」
 つまり、戦闘不能になったケルベロスをそのまま追い討ち、トドメを刺そうとする危険がある訳だ。
「戦闘不能、或いは、危機に陥った方は牢獄の外に撤退させるなど、殺されてグラビティ・チェインが奪われないよう、対策を講じる必要があるでしょうか」
 更に、デウスエクスも少量ながらグラビティ・チェインを保有している。
「鳥篭の数は40を越えます。敵を多く撃破した所で、そこで得られたグラビティ・チェインを利用して残りの一部が脱獄する可能性も否定出来ません」
 嫌な可能性に配慮するならば、同じタイミングの撃破が望ましい。幸い、鳥篭型の牢獄は外から中を確認出来る。他のチームの戦況を鑑み、撃破の足並みを揃える事も可能の筈だ。
「死者の泉を発見したヴァルキュリア……遠い伝説の存在と思っていましたが、まさか、この地球に幽閉されていたとは」
 何か思う所があるのか、暫し黙り込んでいた創だったが、すぐケルベロス達に向き直る。
「どうぞ御武運を。皆さん、宜しくお願い致します」


参加者
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)
浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)
永代・久遠(小さな先生・e04240)
ガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)

■リプレイ

●湿原の鳥篭牢獄
 そこは不可思議な空間だった。足を踏み入れたのが鳥篭の中ならば、周囲に浮かぶのも数多の鳥篭。その全てが、古の死神やヴァルキュリアを永きに渡って幽閉してきた牢獄という。
「長い時間か……想像は出来ねぇなぁ」
 物珍しげにキョロキョロする秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)の隣で、相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)は独りごちる。
「ま、俺にゃ関係ないしな」
 あっさり突き放した。今も数多の鳥篭から、殺気帯びた視線が突き刺さるよう。全力で倒さなければならない敵と実感する。
 尤も、連中の殺気の理由も肯けるというもの。
(「例の死神の目的が同胞を救う為とは驚きだわ。その結果がこれとは……囚人達も救われないわね」)
 小さく肩を竦める浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)。だからと言って、これから仕留める相手に同情はしない。殺し合いに躊躇うな。余計な優しさが死を招く――響花の恩師の言だ。
「まず、クラリッサの鳥篭に近付かないといけませんね」
 ウイングキャットのプリンを抱く東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)の言う通り、彼らの班の標的は「降魔殺しのクラリッサ」。道化少女のような死神であり、降魔拳士を忌み嫌っているという。
 故に、3人の降魔拳士が挑発して気を引く算段だ。
「何処にいるのかな……素早く見付けないとね」
 空間に浮かぶ幾つもの鳥篭。その1つに1体。天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)も小柄の背筋を伸ばして、鳥篭の外を透かし見る。
 別班で別の鳥篭に挑むという、大切な人の影を探すのも束の間。レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)は、傍らの信頼すべき飲み友に声を掛ける。
「頼むぞ、ガルフ。だが無理はするな。客が減って『あの店』が潰れると俺様も困るのでな!」
「わん! レッドがいるんだ、大丈夫に決まってる。あの世に行くより、あの店に行く方が何万倍も楽しみだしな」
 レッドレークに素直な笑みを浮かべるガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)。
(「レッドは俺が守る、思い切り暴れてほしい」)
 これ程沢山の死神やヴァルキュリアが、投獄された経緯も気になるが……地球の脅威となるならば、容赦はしない。
「フォローは任せて下さい」
 愛銃に治癒弾を装填し、永代・久遠(小さな先生・e04240)は鳥篭の入り口にスタンバイ。そうして、一気呵成、ケルベロス達は鳥篭の外へ飛び出す!
「そら、嫌いな降魔拳士はここにいるぜぇ!」
 少なくとも、テイネコロカムイの鳥篭の周辺に、道化少女の姿は認められなかった。早速、喰らった魂を己に憑依させる玄蔵。全身に禍々しい呪紋の浮かぶ「魔人」へと変貌する。
「っ!」
 轟く大声が目立ったか、複数の鳥篭から攻撃が浴びせられた。確かに、然したるダメージは無いが、外にいる時間が長い程、戦う前からダメージが積み上がるだろう。
 鳥篭から出るタイミングも量るべきだったか――早速、久遠のメディカルバレットでヒールされながら、老練のウィッチドクター(サブジョブ:降魔拳士)が内心で顔を顰めるも程なく。
 ブン――ッ!!
 風を切って振り下ろされた刃が、玄蔵を切り裂く。包丁構えるウサギの縫ぐるみがクルリと宙返り。溶けるように失せる。
「あそこだよ!」
 詩乃が指差す方向に果たして、鳥篭の中に道化少女の影。全身から発する殺気に煽られるように、周囲をマリオネットがクルクルと舞っていた。

●降魔殺しのクラリッサ
 鳥篭の間を駆け抜ける。後続もどんどん標的へと分散しているのか、無差別な流れ弾が早々に減じたのは幸いだった。
「ぐッ!?」
 二刀流のメイド人形が、弾丸のように跳ねて玄蔵に激突する。ダメージはさて置き、衝撃に息が詰まる。
「貴女の魂は私が頂くわ」
 道程半ばして選手交替。次に先頭に立ったのは響花。見得を切るようにマントを翻せば、露になる降魔道着。これ見よがしに、バトルガントレットを高々と掲げる。何れも降魔拳士特有の装備ならば、効果は覿面。
「漂うモノ達よ……我の元に集い生者を救え」
 市松人形の大鎌の斬撃は、恩師から教えられた謎の祝詞呪文で凌いだ。そろそろ、道化少女の表情が見える距離。
(「道化なら、相手を笑わせるのが仕事の筈なんだけど、ねー」)
 あどけない笑顔はいっそ作り物めいて明るい。だが、底光りする紅の双眸や隠しもしない殺気から、捩れた狂気が窺える。
(「マッドピエロは、物語の中だけにして欲しいかな」)
 バスターライフルを担いで殿を務める結乃は、思わず溜息を吐く。
「一体どんな罪を犯せば、こんな罰を受けさせられるのだ?」
「簡単に言えば、叛乱を起こそうとして終身刑、でしょうか。コギトエルゴスムに変えないで幽閉という辺りが、却って残酷ですね」
 走りながら器用に首を捻るレッドレークに、久遠は整然と説明する。
「尋常でなくなる程永い間、閉じ込められるなんて……想像したくもないです」
 ふと、愛銃握る手を見下ろす。ケルベロスは戦士だ。しかし、戦場の最中でも教師たらんとする矛盾――。
「降魔拳士ならここにもいるぞ!」
 気が付けば、目標の鳥篭は目前。3番手のガルフが魔人を降臨せんとする背中を眺め、久遠は小さく頭を振る。今は顧みる時ではない。
 キャハハッ!
 甲高い笑い声が響く。心傷抉るマリオネットの嘲笑がガルフを中心に爆ぜた。降魔拳士の3人のみならず、レッドレークまで巻添えを食ったが、列攻撃故に相当にダメージが軽減されたのが幸いだった。
(「ただのマリオネットの劇なら楽しめるのですけどね。こういうのはよくないのです」)
 人形に囚われた魂も助けられないだろうか。そんな事を思う菜々乃だが、死神と同じく永きに渡り囚われた魂も恐らくは……狂気に溢れる哄笑に、詩乃も哀しげに目を伏せる。
(「長い、長い間こんなに寂しい処にいたんだね。辛かったと思うし、苦しかったと思う」)
 だからといって、今を生きる沢山の人の命を奪わせる訳にはいかない。
「絶対に、止めてみせるよ」
「ああ、この程度で落とせるとでも思ってんのか? まだ足りねぇよ」
 ガルフと肩を並べ、不遜な挑発を投げる玄蔵。その間に、他のケルベロス達は鳥篭に取り付いた。
「っ!」
 逸早く鳥篭に入った瞬間、響花は祝詞呪文の効力が失せたと知る。それは、本格的な戦闘開始の証。同時に、魔法少女人形の斧が侵入したばかりの無防備を深々と抉る。
「響花さん!」
 鳥篭の外から中へグラビティは届かない。逸る気持ちを抑え、鳥篭の格子を握る菜々乃。プリンも翼を羽ばたかせる。
「まだ大丈夫。でも、BS耐性をお願い」
「出来るだけ急ぐよ!」
 声を張りながら入口を目指す詩乃を、翼を広げた久遠が追い抜く。
「……素敵。また、降魔拳士を殺せるなんて」
 次々と鳥篭に入るケルベロス達を前にしても、クラリッサは笑顔を張り付かせたまま。どんな仕掛けか、右手の手板1つを返せば、取巻きのマリオネット全てが一斉に動く。
「降魔拳士を殺して」
 キャハハッ!
「アタシは、魔を喰らう力で外に出るの」
 甲高い笑い声に謡うような声音が重なる。心抉る痛みを堪え、ガルフはレッドレークを庇う。
「わたしの手の届く範囲で殺させはしないのです……!」
 早速、響花にウィッチオペレーションを施す久遠。続いて、詩乃が前衛に紙兵を撒く。玄蔵も黄金の果実を掲げるが……眉を顰めている。
 攻撃を喰らって、確信する。元より範囲型の攻撃は分散する分、威力は低めだ。だが、詩乃と玄蔵の範囲型ヒールが続いても癒しきれぬとすれば。
「クラッシャー、か。厄介な」
 顔を顰めるレッドレーク。搦め手も無ければ、手加減も無し。まだレギンレイヴとの開戦を告げる照明弾も上がっていない現状で、高火力相手に何処まで粘れるか。
(「……捉えるっ」)
 銃声が轟く。超集中の末の研ぎ澄まされた結乃の狙撃、「six sense snipe」がクラリッサを確実に穿つ。
「一緒に頑張ろうね、プリン!」
 プリンが清浄の翼を羽ばたかせると同時に、菜々乃のスターゲイザーが翔けた。

●道化少女は傀儡と躍る
 まずケルベロス全員の攻撃が当る状況にせねば始まらない。結乃と菜々乃の攻撃に続き、ライジングダークを顕現する玄蔵。レッドレークもストラグルヴァインを奔らせる。
「……かたいものほど、脆いもの」
 ガルフの氷穿が、詩乃のA.A.code:SHAULAが、仲間の攻撃の軌跡をなぞる。
 動きを鈍らせんとする間も、クラリッサは気儘にマリオネットを躍らせる。その標的は専ら降魔拳士、特に武装からして明確な響花だ。
 暫くして、1回目の信号弾――レギンレイヴ戦が漸く始まった模様。
「治癒弾、ロード完了……ここからが、本番ですね」
 メディカルバレットを装填しながらの久遠の呟きに、ケルベロス達は気持ちを新たにする。
「~♪」
 クラリッサは酷く愉しそうだった。笑顔の仮面は、読ませないという意味でポーカーフェイスと同義だ。
 被ダメージの程は、眼力でも量れない。予想外の痛撃で倒してしまうような「事故」を避ける為にも――長期戦には長期戦のやり方がある。特に、追加ダメージのあるグラビティは、想定以上のダメージを与える事になりかねない。
「……む、持久戦も、中々難しいものだな」
 結果、クラッシャーであるレッドレークの使用グラビティは相当に絞られる事になり、ストラグルヴァインとヒールの交互となってしまったのは、幸か不幸か。
 単体と侮れば、高火力の餌食となる。早々に、久遠はヒール専念となった為、クラリッサの火力を削ぐのは、詩乃のゼログラビトン頼みとなっていた。又は、結乃のバスタービームで圧力を掛けるか、レッドレークの攻性植物で挙動を縛すか。
 響花やガルフは石化やパラライズによる行動阻害も考えたが、その類の発動率はかなり低い。仲間全体で意識して厄を重ねていかねば、実効性は低いだろうか。
 キャハハッ!
 鳥篭に満ちるのは、戦の音のみ。時折、マリオネットの嘲笑が騒々しく響く中、ケルベロス達は、黙々とグラビティを繰る。
 クラリッサも変わらず笑顔だ。殺気は途切れる事無く、表情との乖離が異様でさえある。
(「もっと、邪魔をしていかないと」)
 確かに、クラリッサは降魔拳士に拘っている。彼らが前衛に立ち続ける間は、菜々乃が標的となる事はないだろう、だが、隙だらけだとはまた違う。跳ねるマリオネットに戦術超鋼拳の軌道をそらされ、思わず顔を顰めれば、プリンが励ますようにニャァと鳴いた。
 菜々乃と肩を並べる詩乃も、倦まず弛まず、鳥篭を蹴って突撃する。真っ直ぐに、一生懸命に――小柄に秘める世界を、命を護りたいという意志が、先の見えぬ持久戦を耐える力となる。
 膠着状態は長く続く。或いは、戦闘不能の者が出れば、脱獄者を出すリスクを冒してでも決着しなければならなかった。特に降魔拳士の中でも、響花は相当に危うかった。斬撃の追撃技に防具耐性が合致していなかっただけに、誰かを『庇って』いれば当人が倒れていたかもしれない。幸運の上の綱渡りは、本人が1番実感している。
(「まだか……わん」)
 焦燥を堪え、フレイムグリードを放つガルフ。玄蔵も渋い表情で降魔真拳を振るう。
 その時――視界の端で、待ち望んだ『光』が見えた。

●引導を渡す
 ――――!
 漸く上がった2度目の照明弾。ハッとレギンレイヴの鳥篭を見やれば、首魁のヴァルキリーの命運も風前の灯か。
 やっと引導を渡せる。安堵と剣呑がない交ぜの心情が湧いた――久遠のクイックドロウが、正確にマリオネットの武装を撃ち抜く。
「おうおう、待たせやがってよ……俺の蹴り技、喰らいやがれ!」
 禿頭を反射する光が、クラリッサの眼を眩ませる。僅かな逡巡も逃さず、道化少女に蹴りを叩き込む玄蔵。同時に、響花の降魔真拳が死神の胴に抉り込まれる。ガハッと息を吐き、紅眼を見開くクラリッサ。
「やったの!?」
 マリオネットのみならず、クラリッサも惨憺たる有様。四肢があらぬ方に曲がり、或いは砕かれ蠢く人形達の只中で、膝から崩れ落ちた道化少女はカクリと項垂れる。
「……まだだ!」
 だが、次の瞬間。グリンと操られるように身を起こしたクラリッサの眼光が、響花を射抜く。
「死ね、死ね! 降魔拳士は皆死んでしまえ!」
「ぐっ!」
 そこまで降魔拳士を憎悪する所以は何か。反動で自壊するのも厭わぬマリオネットの一斉攻撃を、辛うじて玄蔵が遮った。
「何なら……俺が喰ってやろうか!」
 一点集中、マリオネットの間隙を縫い地獄の炎弾を放つガルフ。蒼い地獄に冒され、体勢を崩したクラリッサにケルベロスの攻撃が殺到する。
 ――――!
 息の合った菜々乃とプリンの連携攻撃。続いて、詩乃は腕の追加兵装の照準を合わせる。
「……火器管制システムに接続……照準セット、偏差射撃誤差修正完了。収束、収束……コード・シャウラ、穿て!」
 火器管制システムと接続し、詩乃自身のエネルギーを転用して放つ。照射範囲を限りなく収束させたその砲撃は、尽くが道化少女に浴びせられる。
「……あ……あぁ……降魔……は……」
 尚も手を伸べて怨嗟を吐くクラリッサを、レッドレークは痛々しく見詰める。
 超古代から延々と、恨みだけ募らせるなど……或いは死よりも悍ましいかもしれない。
「よし、俺様が終わらせてやるぞ!」
 レッドレークが握る赤熊手が地獄の炎で燃え上がるや、勢いよく叩き付けられる。
「次からは、ガンスリンガーも忌み嫌ってくれて構わないから、ね?」
 鋭い銃声が轟く。狙い過たず、結乃の狙撃がその小柄を撃ち抜いていた。

 ゆっくりと仰向けに倒れた道化少女は、まるで溶けるように消え失せた。数多のマリオネットも同様に。
「なんでぇ、俺の中でゆっくり休めばいいものを」
 降魔拳士として死神を喰らう心算でいた玄蔵は、拍子抜けの面持ち。
 長期戦とはなったが、レギンレイヴも撃破と成った模様。だが、息つく暇もなく、直後、牢獄の空間自体が歪み崩壊を始める。
「何だか、お約束の展開ね」
「もう、しかたないなぁ」
 苦笑を浮かべ、顔を見合わせる響花と結乃。もう、ここも長くはもたないだろう。
「さっさと脱出するとしよう!」
「わん!」
 レッドレークに肯き、鳥篭から飛び出すガルフ。
「えっと、テイネコロカムイの鳥篭は……」
「こっちです。急ぎましょう!」
 キョロキョロする詩乃の手を取り、久遠も駆け出す。
 テイネコロカムイの鳥篭から釧路湿原へ――ケルベロス全員が撤退して程なく。テイネコロカムイの護符は、用を為さなくなった。恐らく、役目を終えた牢獄は消滅したのだろう。
「お外に出て本当に自由にしていいと言われたら何をするか……聞きたかったですね」
 死神という種族の一端を知れたかもしれない――少し残念そうに呟いて。菜々乃はプリンを労うように抱き上げた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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