湿原の牢獄~ロアンズ・イン・ジェイル

作者:鹿崎シーカー

「さてと……長らく続いたテイネコロカムイ事件も佳境みたい。準備は大丈夫?」
 ヘリポートのケルベロスを見回し、跳鹿・穫は緊張の面持ちで口を開いた。
 釧路湿原にて六十六体ものデウスエクスをサルベージした死神、テイネコロカムイ。彼女の撃破には無事成功。同時に、彼女の恐るべき目的もまた明かされた。
 テイネコロカムイは、かつて死者の泉を発見した古のヴァルキュリア、レギンレイヴこそが死神達の主となるべきとして仕えていたものの、仲間もろとも牢獄に幽閉されていたというのだ。
 そしてなんらかの原因で幽閉を脱したテイネコロカムイは、外でグラビティ・チェインを集めて仲間達を解放しようとしていた……ということであるらしい。
 今のところ、テイネコロカムイの目論見が外れてしまったことにより、レギンレイヴとその軍団はすぐ外に出ることはないだろう。しかし、他ならぬテイネコロカムイが脱出に成功したように、いつまでも幽閉が続くという保証もない。あるいは、この牢獄の存在を知った他の勢力が戦力として迎え入れる可能性すらあり、危険な状態だとすらいえるだろう。
 そうなる前に、彼女と彼女の軍団を撃破し、牢獄を制圧しなければならない。一筋縄でいかないだろうが、皆以外にできるものはいない。全霊を以って臨んでほしい。
 今回の作戦においては、その性質上死神達の牢獄に直接突撃することになる。侵入自体はテイネコロカムイの使った護符を用い、彼女がいた牢獄に転移する形だ。牢獄周囲には四十を超える牢が鳥籠めいて浮いており、ひとつにつき一体死神かヴァルキュリアが封じられている。
 幽閉されているものは出れないが、外から来たケルベロスは自由に牢を出入りできる。この性質を利用してターゲットの鳥籠に移動し、幽閉されている敵を各個撃破する、という作戦だ。
 ちなみに、鳥籠の外から中へは攻撃できないが、大幅に威力は弱まるものの中から外への攻撃はできる。侵入に手間取っていると外からの攻撃で敗北する可能性があり、また特定チームが集中攻撃を受ければ無事では済むまい。ターゲットの牢獄に素早く入り、他に気をむける前に戦うことが重要となる。
 そして皆の攻撃目標は、死神の一体である『無限の獣ロアン』なる個体だ。つぎはぎだらけのケルベロスコートを着た、黒猫の獣人ウェアライダーの姿をしており、おぼろげに光るランタンと小瓶を持っているのが特徴。配下を自分の姿に改造する能力を応用し、分身を大量に呼び出してくる。直接的な攻撃はせず、抱きついたり尻尾を揺らしたりと遊ぶような仕草での幻惑を得意としている。
 また、牢獄を脱するためのグラビティ・チェインを欲しがっており、戦闘中であってもケルベロスからグラビティ・チェイン奪取の機会をうかがっている。戦闘不能になったり危機に陥った仲間を撤退させるなど、殺されないような工夫が必要だ。
「牢屋の外でも安全とは言い切れないからね、戦いが長引くと不利になるかも。強力な相手だし、油断はしないで。頑張ってね!」


参加者
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)
ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・e03898)
神条・霞(魂を喰らう羅刹姫・e04188)
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
銀山・大輔(昼行灯な青牛おじさん・e14342)
猫夜敷・千舞輝(ネコモドキ・e25868)

■リプレイ

「おおー。もう始まっとんのか」
 周囲で巻き起こる光景に、猫夜敷・千舞輝(ネコモドキ・e25868)は呑気な声を上げた。
 テイネコロカムイの牢獄に転移し、牢の外。いくつもの鳥籠がエフェクトを放ち、ケルベロス達にちょっかいをかける光景を横目に、銀山・大輔(昼行灯な青牛おじさん・e14342)が金棒を持った腕を回す。
「おいら達も急いだ方がよさそうだぁね。っても、ディクロさんら頼みだけども」
「うん、ちょっと待って……責任重大でやや緊張気味なわたしディクロさん」
 双眼鏡とベラ紙を片手に、ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)は銀の猫目模様がついた拳銃を幾度か発砲。そして双眼鏡をのぞいて並走するロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・e03898)を見上げた。
「ロジオンさん、当たってる?」
「ケルベロスコートを身に纏った黒猫のウェアライダー……でしたね。……なんとも言えません。少なくとも、攻撃は来ていませんよ」
「そっか」
 様々な攻撃が飛び交う空間内、目指す鳥籠からはのんびりとした合唱が響く。攻撃らしい攻撃は、ない。
「……呑気なものだね」
「全くだ。やる気がそがれる」
 黒い影ひしめく檻を前に、叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)とマサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)が苦笑交じりにつぶやき合う。狐面の浪人を従えた神条・霞(魂を喰らう羅刹姫・e04188)は緊張した面持ちで刀をつかんだ。
「油断大敵です。今回は非常に危険な敵でもあると推定できます……みなさん、無理のないよう……そして無事に帰れるように頑張りましょう……!」
「他の人達も戦ってます。急ぎましょう!」
 ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)が言うと、大輔とマサヨシが前に突出。鳥籠の入り口めがけて突進、格子戸を蹴破る!
「テメッコラすッぞオラァァァァーッ! ドタマ取るぞォォォッ!」
 大輔の怒声と共に全員が踏み込む。闘気をみなぎらせ突撃した檻内部では、手を繋ぎ輪になって踊る、無数のロアン。
 一糸乱れぬスキップを決め、ロアンの輪が開かれる。その中央では星形ジャングルジムめいた、独特の形をしたランタンを持つ個体。長い尻尾が揺れるたび、鬼火めいた青い光がキラキラと散る。軽やかに踊り、無限の獣ロアンが振り向く。
「ふふん、ふんふん。いらっ、しゃぁーい!」
『わぁぁーお!』
 分身がポフポフと拍手を鳴らす。垂れた耳をなでながら、無限の獣は優しげに微笑んだ。
「ふふふふふ。待ってたよー。いつぶりかなぁ、外のロアンに会えたのって」
「……申し訳ありませんが」
 眼鏡を押し上げ、ロジオンは革張りの本を片手で開く。記された文字が赤光になり、手の平に収束。
「貴方の話にお付き合いする時間が惜しい。不意打ちのようではありますが、火蓋を切らせて頂きます。……罪薙ぐ言霊、燃やせや燃やせ!」
 プロミネンスめいた光線を本体ロアンにめがけて発射! 素早く四方八方に散る分身たちを走査し、ディクロはベルトの本を開いた。青い光が銃口に流れて冷気を放つ。
「分身が十七体! 先に全部片づける!」
「ほながんばってなー」
 鳥籠内を駆け抜けながらディクロが上空に発砲。放たれた白い弾が破裂し吹雪の矢となりロアン達に降り注ぐ! ブリザードの雨の中、宗嗣の黒コートを這う地獄の炎がトンボの翼をかたどった! 加速!
「行くぞほのか……篁流剣術!」
「あたた冷たい! わお!?」
 凍った毛をこするロアンが足払いされ宙に浮く。納刀した刀を握り、横薙ぎ一閃!
「『月虹』!」
「わぶーっ!」
 斬り裂かれた分身が青く焼失。奥から三体の分身が飛びかかる!
『わぁーい! ふふふ!』
 宗嗣は翼を広げたバックジャンプで緊急回避。入れ替わりで駆けこむ霞は軽い猫パンチを肩で受け刀を引き抜く。赤く染まる刃は槍に変化し、義嗣が居合いで飛ばしたロアンを見据えて紅雷まとう穂先を振るう!
「篁流長柄術……『旋雷』ッ!」
 真紅の電撃が三体まとめて吹き飛ばした! 疾る雷鳴は奥の二体を巻き添えに爆散。仲間だったヒトダマを突破する分身体にミスティは五芒星の手裏剣を投擲。一体が首切断殺、もう一体の猫パンチを割り込んだマサヨシがガード!
「クハハッ! 効かねぇぞクソ猫供がッ! もっと本気で殺しに来いよ!」
 哄笑しながら蒼炎の拳で頭部粉砕殺するマサヨシの隣を、ロアンはスキップしながら横切っていく。黒い肉球の足跡に尻尾の鬼火がふりかかり、風船のように膨張させる。
「ふふふふふふ。ロアンはまだまだいっぱいいるよ。はいっ」
 ボン! 破裂した足跡から新たな分身ロアンが出現。登場した一体に大輔はチャージをかける!
「ポンポン出てんじゃねえぞコラァッ! ド腐れッがァーッ! ダァーッ!」
「ぐぇーっ!」
『ふふふふふー!』
 分身体の鳩尾を射抜く斬馬刀。三体の分身が腰と両腕に抱きつくもフルスイングで投げ飛ばす。すっ飛ぶ分身の眉間を千舞輝とディクロの弾丸が撃ち抜く下を、大輔は金棒を振り回しながら突撃していく!
「オラァ! テメェらのドタマカチ割って永遠にオネンネさせてやらぁぁッ! すッぞオラーッ!」
「ふふふふ! 怖い!」
 本体が笑いながら高く跳躍。急降下姿勢を取る宗嗣に飛びかかった!
「きみはなにしてるのー! ぼくも混ぜてよ」
「っ! ほのか!」
 宗嗣は地獄の羽を震わせ方向転換! 直後、その背中に分身ロアンがひしと抱きつく。
「つかまえたー!」
「宗嗣さんっ!」
 ミスティが分身二体のハグを回避し鎖を飛ばす。輝きながら真っ直ぐ飛翔する先端を別の分身ロアンがキャッチ。
「きれいだねー。これなーに?」
「ぼくも気になるー」
 鎖に群がる分身の群れ。さらに黒スーツの足に二体がしがみつき、ミスティを組み伏せる。
「猫夜敷さん、マクローリンさんの援護を。次元の境界、光れや光れ!」
「はいな任しぃ。そぉいっ!」
 千舞輝が猫耳付きのコインを、ロジオンが輝くチャクラムを飛ばし分身体を弾いた! ついでに寄って来た分身を、千舞輝が肉球シール付きのキックで迎撃。ロアンのハグと猫パンチを振り払った宗嗣は回転斬撃を放ち分身の胴を斬り裂いた。
「『弧月』!」
「邪魔っ!」
 分身しつつミスティがロアンに手裏剣を投げるミスティ! 吹き飛ぶ一匹を数匹が受け止めて投げる。義嗣に抱きつく分身を、霞は血色の爪で細切れにした。肩で息をし、汗をぬぐう。外傷はないが、ロアンが触れるたび体力が削られるような感覚がある。
「多い……これじゃあキリが」
「おいおいもうバテたのか? フォローは任せろ。連携重視だ! ……オラァァァッ!」
 マサヨシが大剣を振るい、ロアン達を蒼炎の暴風で押し流す! 燃えながら転がる黒猫は大輔に潰され、ディクロのナイフで喉を裂かれる。時折かすめるタッチやハグを回避しながら爪を振るう霞の隣に宗嗣が着地! 散る脂汗が炎に燃える。
「神条!」
「……はい。篁流、二連撃!」
 羽の炎が注がれる黒刀、禍々しい巨爪を包む狼の闘気。抜け目なく襲いかかる数匹の分身をミスティが鎖で絡め、ロジオンの前に広がる鏡に投げ込む。燃える巨大な狼のオーラが、居合いと正拳突きに合わせて放たれた!
『牙刀・赫嵐ッ!』
 狼が吠え、直線状のロアン達を食い荒らす。本体ロアンは大ジャンプして避けるも、背後の分身はまとめてむさぼられ焼滅。激突の衝撃が鳥籠をシェイクする! 二人を飛び越えてスキップする本体ロアンに分身を倒し終えたディクロが迫った。
「ふんふんふん。ローアンーになーりたいっ。ローアン―にしーたいっ」
「させないよ」
「映るは黒影、霞めや霞め!」
 尻尾の霊魂かかる足跡を、黒い弾丸が塗りつぶす。ディクロは青いリボンが結ばれた銃を向けて連続発砲。急所狙いの白光をロアンは身を反らして回避するも、ロジオンの鏡から飛ぶロアン達に捕まれる。落下したディクロはナイフを引き抜き、猫目のついた銀の刃を肩口に突き刺した! 伸びた漆黒の尾が胴体を巻く。
「あいてててててて! ……もう、そんなに嫌がんなくてもいいじゃないか。きみもロアンなのにさ」
「僕は君じゃないよ、ロアン」
 小ジャンプして身をひねる。長く伸びた尾でロアンを虚空に連れていき、頂点に差しかかったところでディクロはスライムの尻尾を一気に収縮! 床にたたきつけんとす!
「誰も君にはならないし、ならせない。お前はここで黙らせる」
「ふふふふふー」
 ロアンは宙で拍手をし、下に手かざす。膨らむ黒い影は弾けて無数の分身ロアンとなり本体をキャッチ、胴上げのように投げ上げる。同時に引っ張られるディクロ!
「うわっ!」
「義嗣、ディクロさんを!」
 狐面の浪人が走りスライムの尻尾を切断。床を転がるディクロに突っ込む分身のパンチをマサヨシが防御する! だがロアンは黒ガントレットに連打を加えてガードを崩し腹に一撃。宙を舞い格子にぶつかるマサヨシに、モノクルにマントの子猫火詩羽が微風を送る。
「マサヨシさん!」
「平気だ。むしろ体がほぐれたぜ」
「ちょっ、ごめん、カバー頼める!」
 ミスティに獰猛な笑顔で応え、肩を回す。ディクロはローリングを繰り返し、殴りかかるロアンの拳を連続回避。分身体に組体操めいて持ち上げられた本体ロアンはランタンを揺らしくすくす笑った。
「きみはロアンで、ぼくもロアンだ。そこのもロアン。ほら、あっちもロアン! 毛並みおそろい! ふふふふふ!」
「おわああああ! ちょーちょーちょーちょお待ちぃや!?」
 ロアンが指さす方向で、千舞輝が慌ただしく逃げ回る。追いかけるのは分身ロアンズ。霞はかぎ爪を開き、手の平から光弾を放った。
「篁流射撃術、『天泣』っ!」
 巨大な赤い光が一体に吸い込まれ、内から爆発! 燃え移った炎が他のロアンを包み焼き滅ぼした。
「星よきらめけ……スターショットッ!」
 ディクロを襲うロアンに、ミスティは手裏剣を投げる。眉間に刺さり、ノックバックしたスキにディクロは体勢復帰し白光銃撃。胸を貫かれ、たたらを踏むロアンの腹にマサヨシは全力の蹴りを打ち込む!
「うぉらァァァッ!」
「ぐふぅっ!」
 吹っ飛び大の字に倒れるロアンを見据え、マサヨシは牙をむく。
「なんだかんだ言ってもよ、そんなんじゃあ脱獄まではイケぇねなぁ? 大人しく燃え潰れろッ…………ッ!?」
 直後、三人の顔が凍りついた。一方宗嗣は火の粉散らすトンボの羽を広げて特攻! 跳躍した本体には構わず、固まった分身たちの陣に肉迫する!
「行くぞほのか。惨禍、燎原……ッ!」
 真紅の刃が軌跡を放ち、あふれる炎が分身を焼く。だがその下から新たな分身が現れる。羽で制動をかけながら、宗嗣は背後を振り返った。
「ジュラフスキー、援護を……」
 出かけた言葉が途中で止まる。霞の槍で斬られた方はロジオンに、大の字に倒れた方は大輔に変化していた。ディクロは滞空するロアンを見上げ銃を構える!
「ロアン……!」
「どうしたの? ロアンは何もしてないよ。だって……」
 ロアンが小瓶をシェイクし栓を開くと、中身がシャンパンめいて噴きあがり、鳥籠上空にわだかまって暗雲となる。それらはうごめいたかと思った直後、無数のロアンが顔を出した。鳥籠を覆う雲全てが……ロアン!
「みんなみんな、ロアンだもん」
「伏せてっ!」
 弾かれたようにミスティが分身して走り出す。天のロアンは両手を突き上げ、振り下ろした!
「ふふふふふ! ロアンが、いーっぱい!」
 歓声を上げ降り注ぐ、大量の分身ロアン! 黒毛玉が一瞬で床を埋め尽くし、ケルベロスをも飲み込んでいく。積もっていく分身の上に立ち、ロアンはターン。
「ふふふ。これでみんなみんなロアン。次はお外のロアンに合いたいなー。ふふふふふふ」
 ぼふんと着地の衝撃が響く。辺り一面漆黒の毛で覆われた鳥籠は静まり返り、ロアンのもそもそ動く音が聞こえてくるのみ。満足げに微笑むロアンの倒れた耳は、しかし別の音を捉えた。振り向けば、ロアンの中から生える腕!
「……あれ?」
「……ネコマドウの十七、『猫がなければ虹はない』。なんかだるいわぁ。代わりにいったってやぁー」
 腕がだるそうに動き、握ったものを投げ上げる。宙を舞うそれらは五十円玉。九枚の硬貨は虚空に消え去り、まばゆい虹色の光を放った! 思わず目を覆うロアンの前で、虹色の子猫が九匹現れロアンの群れに吸い込まれていく。首を傾げる分身ロアン。その一か所が浮き上がるように隆起した!
「ウオオオオオオオオッ! ざッけンなコラァァァァァァアッ!」
「えっ?」
 分身ロアンズを持ち上げ、荒々しく叫ぶのは大輔! 黒毛玉の山をぶん投げると同時に別所のロアンズが消え、鏡を浮かせたロジオンが立つ。隣には霞、義嗣の肩を借りたミスティ。
「空なぞる指、満たせや満たせ!」
 ロジオンがぐっと手を握ると鏡は砕け、光の粒が降り注ぐ。ミスティはぐったりした千舞輝を引き寄せ、ロアンの海に鎖を投げる。輝く鎖をたぐりながら、強いて笑顔を作った。
「みんな、諦めないでくださいね……笑ってお家に帰りましょうっ……!」
「もちろんです。篁流格闘術……!」
 霞は答えて爪を握った。目前には迫るロアンの大群。振り絞られた闘気が爪の周囲に渦巻き、雄々しき狼の形を取った。大口を開けた!
「『雪狼』!」
 全力の正拳突きが吹雪の大狼を解き放つ! 牙が黒猫を食い千切っては噛み砕き、跳ね飛ばしていく。
「おい大輔ェ。へばってねえよな!?」
「ハァ、ハァ……当たり前ェだ。俺の力ァ、まだまだこんなもんじゃねェ……!」
「なら道を開くぞ! ディクロッ! お前がケリ付けろッ! オレ達がいくらでも手を貸してやるッ!」
 空を引き裂く咆哮とともに金棒と大剣が振り上げ、叩きつけた! 蒼炎と地震めいた衝撃が嵐となって牢獄を吹き荒れ、分身体を打ち上げたそばから焼き尽くす。その中を飛翔し、紅蓮の筋を引いて残党を斬り捨てる宗嗣! 消えていく自分達を呆然と見上げ、ロアンはつぶやく。
「……なんで? どうしてロアンにならないの? みんな一緒ならさみしくないのに。ロアンはどこでも……外にもいっぱい、ロアンがいるのに……」
「みんな一緒だからさ」
 爆炎を歩きながら、ディクロは猫目模様の銃を構える。結ばれるのは呪文の書かれた青いリボン。燃え散るレギンレイヴの顔が描かれたベラ紙を捨てた銀の瞳に閃光が映る。討滅の合図。
「誰を取り込んだって、居場所なんて出来ないさ。……じゃあね、ロアン。レギンレイヴによろしく」
 轟音に溶けるように、白い光が放たれる。音無しの魔弾に頭を貫かれたロアンは寂しげな表情で何事かつぶやき、断末魔もなく倒れ伏す。ただひとつ、おぼろげに光るランタンが、カランと小さく音を鳴らした。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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